一体俺の時間軸はどうなってるんだ。
ふとそう思った。
理由は単純だ。目の前にどこか生気の抜けた様子で立ちすくむ一人の少女の為だ。
彼女自身とは会話は為しえなかったが、彼女の抱くまだ幼い竜とは意志を通じる事が出来た。それによると幼竜の名はフリード、少女の名はキャロ・ル・ルシエ。
もうお分かりだと思うが、リリカルなのは第三期で登場した彼女である。
あの後はちょこちょことこの世界にゲートを設置して入り込んでいる。
ゲートなんて言ってるが、要は目印をつける事で、こちらの世界を見失わないようにしている、というのが正しい。
さすがにあの時点で、あの状態の彼女を放置するのは忍びなく、とはいえ俺には接点のある管理局の人間なんておらん。
で、まあ、信頼出来そうな奴を探してあちらこちらの次元世界を回ってみたのだが……。
「……本気で酷い世界だよなあ」
表立っては確かに平和を享受している世界なのかもしれない。
だが、裏では酷いものだった。
ちなみにエリオも実は既に回収済みだ。
言っておくが狙って回収した訳ではない。ある次元世界に入り込んだらジャストタイミングで連れ去られる所に介入してしまったのだ。このタイミングの良さに苦笑してしまった。……最近では本気で因果に干渉してるんじゃないかと思う。
「やあ、元気かね?」
にこやかにやって来た男に頷きを返す。
当初は真っ当な人間のやっている孤児院を探してキャロを預けた。……いや、だって俺のこの図体じゃ子育てなんて出来ないし……もちろん、あれからも接点を持つ事で竜の暴走は完璧に抑えてあげてます。今では、キャロの竜制御は完璧、といっていい。
……管理局もなあ、保護するならきちんと制御方法教えてやれよ。教えもせずに役立たず扱いとか何考えてるんだ、と言いたい。
ちなみにこの世界は一応管理世界ではあるが、殆ど人がいない穏やかな世界、だった。
だった、というのは俺が仮の住処としてるのが広まってしまったせいだ。主に裏で。
管理局はオーバーS級ロストロギア【竜王】と呼称してるのも知った。
お陰で回収なんぞと抜かしてやって来た奴らがいたんだが……うむ、【説得】してお帰り頂いた。
だって高圧的なんだもん。
或いは問答無用か。
次元航行中では魔導師は役立たずだ。だからこっちと巡航艦との戦闘になる。
で、もって……この連中ってはっきり言って弱いんだよな。とにかく射程が短すぎる。
完璧に魔導師偏重の弊害だな。余りに射程が長すぎたら、魔導師が役立たずになるって恐れてるんだろう。まあ、アルカンシェル搭載の空母と見ればまだいいのかもしれないが……。
さて、そんなこんなで不可侵領域と化しつつあるこっちでの俺の住処。そうなると、そこに逃げ込んでくるような連中、入り込んでくる連中もいる。……迫害されてるような奴らとか、犯罪者だ。
もちろん、犯罪者連中でこの世界でも支配をしようとした連中は悉く殲滅してきたけどな!
昨今ではキャロが俺の巫女みたいになってる……フリードに意志を伝え、フリードからキャロへ、って流れだ。
最近ではヴォルテールまで移住してきたお陰で、余計意志を伝えやすくなったのは有難い。
え?キャロのいた世界の守護竜的なヴォルテールが移住してきて大丈夫なのかって?さあ?
当人曰く、自分の愛し子を迫害するような連中なんぞ知らん、だそうだが。
さて、話を戻そう。
移住してきた連中の中で、一際大物がいた。それが目の前の男ジェイル・スカリエッティだ。
こいつだけは物怖じしなかった、とにかく。
なんだが、最近は随分と吹っ切れた様子だった。
とはいえ、言葉が通じないのは未だ同じなので、黙って頷いておく。
「そうか、とりあえず念話を改良してるんだがねえ。なかなか上手くいかんものだ!」
どことなく嬉しそうなのは、こいつの場合難易度が高い程やる気になるからだろう。
いや、本当に簡単な事と不可能と思える程難易度が高い事とじゃ、やる気が全然違うんだ。今は、俺が念話を使えるようになれば、と色々と改良を繰り返している。
「まあ、そう遠くない内に完成するだろう!期待していてくれたまえ!」
笑いながら帰っていくジェイル・スカリエッティ。
……ここに来てから、フリーダムになったよなあ、とつくづく思う。
実はスカリエッティ、ここに来てからは研究内容が大幅に変わった。
戦闘機人はいるんだが、俺には通じない。
最初の頃は色々とちょっかいをかけてきたんだが……最近では手を出してくるのは純粋にバトルマニアとして勝負を挑んでくるトーレ、意地で一度ぐらいは勝ってやるというか誤魔化してやると幻術を試すクアットロぐらいか……。ちなみにシルバーカーテンが俺に通用した事は未だ一度もない。
で、意外だったのは俺との話の後、さっさと遺体保存していた連中を復活させる事に専念、解放した事だ。
お陰でルーテシアとメガーヌは今ではここで暮らしている。……いや、初期は色々わだかまりがあったようだが、最近では大分関係修復が進んだようだ。
……スカリエッティに関しては、この世界にやって来た時、俺に問答を仕掛けてきた、というか答えを知りたかった、というべきか。
人を超えた何かなら、自分に対する答えを返してくれるんじゃないか、そう思ったらしい。
キャロという通訳を介して返した答えは単純だ。
『無限の欲望、とは何か』
『人間』
うん、人間程、色んな欲が尽きないものはないと思う。
そもそも生きる事自体が三大欲求として認められている、すなわち食欲、睡眠欲に性欲だ。
それ以外にも金が欲しい、あれが欲しい、これが欲しい……マニアだのオタクだの呼ばれている人間の特殊なものも含めればもうきりがないし、それに終わりはない。
だから、アルハザードの『無限の欲望』ってのは他ならぬ『人間』を生み出す技術だったんじゃないか、そう思ってたんだよねえ。スパロボRのデュミナス(あれ、PSに移植されたデュミナスより一番最初の方が良かった……)も、創造主は人を作り出そうとしたんじゃないかと思う。
まあ、その辺を言ってやったら、きょとんとした後、大笑いして問いかけてきた。
『じゃあ、今からでも変われるかな?』
『その気があればな。お前の場合、才能には苦労してないみたいだし』
いや、本当に。
結局、こいつの場合、人造という事となまじっか才能があった事が災いしたんだろう。おまけに傍にいたのがあの脳みそ三兄弟(兄弟じゃないけど)だし。
何と言うか、あれから本気で反転したんじゃないか、ってぐらいに人の役に立つ技術開発に燃え出した。
いやさ、『非人道的なものなしで開発成功する方が難しいだろうが……』なんて言ったせいで、却って燃えたらしい。
……困難が目の前にあれば、余計に燃えるタイプだったみたいだ。
今では別名で特許もアレコレ取ってる上、かつての悪名を知らない人達からは変わってるけど腕のいいお医者さんとして、この世界では知られている。犯罪者連中にしても、本当の悪党というよりはやむをえず裏の世界に入って、それに疲れた、って奴らが多いからこの世界でのんびりと畑やったりしてる人が多いからなあ……スカリエッティの事も黙ってるみたいだ。
え?本当の悪党連中?一時的には隠せても、すぐにボロ出して悪事を始めようとするから潰してるに決まってるじゃないかね。
けど、ようやっと意志を通じさせる事が出来て、念話が出来るよう改良されたらもっと住みやすくなるなあ、こっちの世界……。
ちなみに、この世界が管理局から第01管理不可世界『竜王の庭園』なんぞと呼ばれている事を全く知らない【竜王】であった。