幾多の世界を超えた。
幾多の次元を超えた。
どれだけの時が流れただろうか?気付いた時、【竜王】の前には一人の老人がいた。
遥かな時の向こう、かつてこの老人に出会った、そんな記憶が【竜王】にはあった。
「久方ぶりじゃのう」
老人はにこやかに微笑んだ。
『……貴方には何時であったか出会った記憶がある』
【竜王】の言葉に老人はどこか嬉しそうに頷いた。
「その通りじゃ。お主とはかつて、ここで出会った」
その言葉と共に【竜王】の脳裏に原初の記憶が蘇った。
そうだ、かつて前世において果てた後、自分は……。
『そうか、自分をこの姿にして送り出した神か』
転生した最初は神に文句を言いたくもなった。
自分はモンスターハンター側になりたかったのであって、モンスターになりたかったのではないと。
だが、その後、彼は人の心を持ちながら、モンスターの立場を経験した。
そして、その過程で人の欲も、野生にただ生きて、けれども狩られる動物達もまた見てきた。
次元を超えるようになってからは幾多の世界の欲望を、希望を、美しさを見てきた。
「その通りじゃ。そして、よう来てくれた……」
感慨深げに思い返す【竜王】に神は告げた。
自身の後継を求めて送り出し続けてきた、と……。
神自身にとってもそれは長い長い時を経ての事だった。
何十人どころではない。
何万でも足りない。
無限とも思える数の人々を或いは人の姿で、或いは獣で、或いは精霊として数多の世界に送り出し、或いは力を与え、或いはそのままで、或いは最初から下位の神に準じる程の力を与えて送り出してきた。
ある者は途中で果てた。
ある者は欲に溺れた。
ある者は力に溺れた。
そして、またある者は力に翻弄され、原初に帰した。
「【竜王】よ、お主がはじめてじゃ。この神の座へと辿り着いた者は……」
幾多の次元を超えてきた彼には新たな神の座へと就く力が備わった、いや、神とならねばならぬという。
「最早、お主の生まれ故郷の世界に直接干渉する事はお主には出来ぬ」
『……だろうな』
それは【竜王】にも分かっていた。
嘗てはまだ自身が介入する事も出来た。
だが、何時しか世界の脆さを【竜王】は感じるようになっていった。
彼が全力を揮うには世界は余りに小さく、そして儚いものになっていたのだ。
「今のお主には世界を創造し、また消し去る事も容易い。それが神の座の端へと辿り着いたという事じゃ。無論拒絶する事も出来るが……その時、お主が他の世界を消さずにいられる程の許容量を持つ世界は最早あるまい」
それは、一つの世界の可能性を摘む事なく、最早彼が存在し続ける事は出来なくなったという事。
彼がただあるだけで、世界が耐えられなくなり滅ぼしてしまう事を意味する。
『端、か』
どこか苦笑したような【竜王】の声に神は頷いた。
「そう、端じゃ。どのような世界も上には上がいる。お主が新たに神の座に就く事で、わしもまた上の階梯を目指す事になろう」
『初めて会った時は、破壊の神様だの祝いだの言われたものだったがな』
今では怒りが湧く訳ではないが、思い返して問いかけた。
「嘘は言うてはおらんよ。破壊の後には創造が、創造を行えば何時かは破壊が来る。創造と終焉は紙一重、始まりなきものもなければ、終わりなきものもおらん。わしら神とて、それは同じ事じゃ」
例え、無限に等しい時間を生き続けようとも、果てには終焉がある。
いや、進化の果ては滅びがあるというべきか。
神もまた、何時かは余りに広がりすぎた自我故に世界との境界線があいまいとなり、やがては全ての世界の始まりたる混沌と一体化し、自我は溶け去る。
『神、か……』
思えば遠くまで来たものだ。
ふと背後を振り返る。
そこには可能性があった。
数多の世界があり、そこに生きる生命があった。
そして、最早自分が共にある事の出来なくなった世界でもあった。
『分かった、新たな神の座、引き受けよう』
「感謝する」
その言葉と共に老人の姿は溶け崩れた。
おそらく、更なる上の次元へと登っていったのだろう。
何時かは自分もああして登る道を選ぶのだろう。
進化し続けてきたからこそ、世界を知るからこそ、ただ見続ける事に何時かは耐え切れず、心をすり減らし、更に上へ上へと目指す事でこうして世界を見守り続ける事から……幾多の滅びを迎える世界を、ただ見守り続ける事になるのだろう。
きっと、その時自分に出来る事はささやかなものだ。
かつてのように直接手助けしたくとも、まるでシャボン玉に手を出したような結末がきっとその時は待っているだろう。
だが、とりあえずは……。
『しばらくは見守るとするか』
自身の神の御使いはどのような姿にするか、と考えつつ【竜王】は世界を優しく見詰めていた。
【あとがき】
これにて本当に完結です
「小説家になろう」に投稿している異伝はまだ投稿予定ですが、本編系列のお話はこれにて終わりとなります
最初の神様は物凄くたくさんの奴を送り出しましたけど、物凄い時間が経って、やっと一人(一体?)辿り着きました
力がなまじ強くなって、敵う奴がいなくなった時、それは抑える事が出来る奴が周囲にいなくなったという事でもあります
その時、力に溺れて、つい堕落してしまった奴も一杯います
現実の人にだって、最初は理想を持っていても、権力や財力を手にした時、同じ理想を抱き続ける事は本当に大変だと思います