「これより会議を始めます」
首脳国会議、そう呼ばれる世界的にも重要な会議だ。
見晴らしの良いここは、ドンドルマの郊外にある綺麗なホテルだった。
この『庭園』で唯一開かれた都市周辺にはこうした瀟洒な建物が幾つかある。
中にはかなり大規模な会議場まであるが、それらは全てこうした首脳会談や会議に用いられる為のものだ。
理由は単純。
この周辺で、暗殺だのテロだのといった物騒な手段はおろか、盗聴まで行われる心配がないからだ。
もっとも、『庭園』内部には空港までは設置出来ない。だが、この地は利用したい。そんな結果として作成されたのがわざわざ各国共同で【竜王】に許可を得て建設された、ドンドルマ沖合いに浮かぶメガフロートを用いた空港だ。ドンドルマ沖合いには嘗て沈んだ大艦隊などで航行不能な領域があるが、そうした領域を利用して作られている。
ちなみにかつて盗聴を図った国があったのだが、そのメンバー全員が盗聴の為にヘッドホンをつけるなり、吼え声を耳にして卒倒する羽目に陥った。
それどころか、彼らが潜んでいた建物の屋根に突如舞い降りた【竜王】に街の住人がパニックを起こすと共に、誰かが問題を起こしたのだと血相を変えた。
もちろん、逃げ出そうとした連中もいたのだが、悉くが捕まった挙句、彼らを掴んでその国へと飛来した。
しかも、その国のトップはそんな事を命じておらず、下が勝手に動いての事だったのだが……その命じた当人のいる場所へ正確に飛来。
出てきた責任者がそらとぼけようとした所、地上から跡形も無く消滅するに至った。
ちなみにその建物の玄関は以後移築された。理由はそれまでの玄関の前に特大のとんでもない深さの大穴が開いてしまったからだったりする。
これ一度で凝りる連中な訳もなく、複数の国が企み、その全部が失敗に終わった。
こうなると、首脳らも何しろ自分の国の最高クラスの人材と技術を注ぎ込んで失敗した訳だから、安心して使えるようになる。
今では誰もが最高クラスの会議だけでなく秘密会談でも用いられていた。
あくまで会談や会議に使うだけなら文句を言われる心配もないからだ。
なお、ここで騒いで排除されるのは、過激な自然保護論者も同じだったりする。
中には「我々は貴方の為に働いているのです!」などと喚いた狂信者連中もいたのだが……結局知る事が出来たのは【竜王】は『庭園』で騒がれる事を絶対的に好んでいない、という事を悟っただけだった。
「さて、では今回も【竜王】に立会いをお願いする」
会議の立会い、というよりも滅茶苦茶な事を言い出す者が出ない為の抑えをお願いしている、と言ってもいいかもしれない。
誰だって【竜王】相手に嘘をつく気にはなれない。
自国の利益を主張するのは当然だが、決めた事は守らねばならない。
実際、国際条約もまた、【竜王】の存在が大きな役割を果たしている。
ある研究者はこう語っている。
「【竜王】の存在があるからこそ、世界の各国は条約を守るし、国際法を自国に都合よく解釈して動く事もないのだ」
歴史一つにしても、何しろ【竜王】は数百年の歴史を知る生き字引だ。
言葉は喋れずとも、本当にあった事なのか嘘の話なのかで頷いてもらう事は出来る。
実はこの分野でも、どこにでも馬鹿はいるもので、【竜王】に取材をした上で自分達に都合の良いように編集して放送したTV局があった。
怒った【竜王】に襲撃されて、上層部が土下座してTVに謝罪を幾度も流した上、きちんと本来のものを放送し、それに関わったプロデューサーらは軒並み業界から追放された。……尚、後にこっそり業界に復帰しようとした結果、それを企んだオーナー(その裏には色々と諸事情があったらしいが)が屋敷ごと消し飛ばされるに至った事もある。
【竜王】は怒らせると極めて恐ろしいのだ。
逆に言えば、【竜王】立会いとされた会議での決定に従わないという事はありえず、それは会議の信頼性を高める事になる。
だからこそ、こうした重要な会議はこの地で積極的に行われる。
そう、正に神に対して誓いを立てるかのように……。
「此度の会議では【竜王】の名に誓って、以下の決定が為されました」
そんな声明と共に各国首脳が報道陣に発表を行っていた……。
「ふむ……良き哉良き哉」
満足げに神は頷いた。
その視界には巨大な竜の姿がある。
神の力は衰えた。
何故か。
地上の民の信仰心が衰えたから?そんな訳がない。
要は後継作りに失敗しているのだ。
神とて後継を作れば良い。
だが、自らの力で生み出した後継は向上心がない。
「……生まれつき力を与えた者は奢りやすい」
生まれつき力を与えてみた者はその世界で満足してしまっている。外部の世界へと突き抜ける力を求めようとしない。……当然か、彼らは自分と会った記憶などない。世界の外に更に上の世界があるなど、本気で信じず、その世界の範囲で強くなり、それで満足してしまう。
神として生まれた者はもっと駄目だ。
生まれた時点で上に立つ者など既にごく僅かしかおらず、下の者が圧倒的に多いせいだろう。
その時点で満足してしまう。
下手をすれば、傲慢に陥ってしまう。
だが、あの竜は違う。
人として生まれ、転生する際に自分と会った事で神の存在も世界の更に上も知り、その上で成長を続けている。そして、神の後継としての資質が与えられた彼の竜に成長の上限はない。
当人は意識していないだろうが、その力は順調に新たな神への階を昇っている。
そして、神を崇める者もまた……。
そう、それで良い。やがて奴が神の領域に至った時、自分は更なる上への階梯を昇り、彼の竜が新たな神として自らの後を継ぐ。だから……。
「昇ってくるがええ、神の座まで、のう?」
【あとがき】
今回、神様の思惑とか書いてみました
あ、竜王の行動とか今回でてなかった