目の前でシュウが倒れた。
最初はただ倒れただけかと思った。
だが、G級ハンターならばすぐに立ち上がっておかしくないというのに、彼は動かなかった。
駆け寄ったラジーが既にシュウが息を引き取っているのを確認したのはその直後だ。
グラビドメイル、頑丈極まりないグラビモスの堅殻を用いて作られたその鎧をも砕き、リオレウスの毒が入り込み、そして彼の命を奪った。
間違いなく、一撃を受ければ、他の者も同じ運命を辿るはずだ。
「……おかしい」
エナがぼそりと呟いた。
荒い呼吸を整え、態勢を整えようとする中、その声は静かに響いた。
「どうした?」
「……何故飛ばない?」
飛ばない?それは有難い話では……そう考えて、自分の間違いに気がついた。
奴はこれまで飛来しつつの攻撃を加え続けてきた。
だが、今回はこうして間を取った、取ってしまったのに追撃をかける気配も飛ぶ気配もない。
「……その必要を感じていないのかもしれない」
確かにそうだ。
情けない話だが、現状相手に脅威と思わせる事すら出来ていない。
と、突如としてリオレウスが突進してきた。
急ぎ、エナは大剣を盾とし、自分の背後に隠れるよう言ってきた。確かにこの状況では下手に回避を取ればシュウの二の舞に……そう思ったが、直後、自分達の前に突入してきたリオレウスは手前の地面にブレスを叩きつけると共に、ふわりと宙を舞って後方に退いた。
「「!!!」」
だが、それで高熱に晒された地面が爆発した。正確にはこの辺りの大地がたっぷりと吸い込んでいる水分が一瞬にして蒸発して、爆発と同じような現象を引き起こした。
それでも懸命にエナと二人耐えたが、それまでだった。
一歩踏み込み、超信地旋回をかけて叩き付けられた尻尾がガラムとエナの二人を吹き飛ばしたからだ。
それでもなまじ態勢が崩れて踏ん張れなかったのは幸いだっただろう。お陰で、二人とも吹き飛ばされ、地面に叩きつけられはしたものの、衝撃による骨折程度で鎧が砕かれず、毒に犯される事は避けられたのだから……。
「がっ……は……」
ガラムは血を吐いた。
エナはガラムよりは軽傷のようだが、矢張り転がって呻いている。耳栓も弾かれた際に外れてしまった。ここで咆哮が来れば、大変な事になる。
そう考えつつ、リオレウスを見たガラムは戦慄した。大きく吸い込まれる呼気。
耳がやられるだろうが、それでも咆哮ならまだ良い。だが……拙い、おそらく来るのはあのブレス。ティガレックスをも一撃で葬るあの一撃が来れば、死体すら残らない。
そう考え、必死にもがくが、体は何とか起き上がれただけ。これまで、なのか……。
すまん。
そう考えた時、だった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
吼え声と共に自分の体に何かが激突してきた。
直後に、一瞬遅れて吐き出されたブレスがほんの僅か前までいた場所を薙ぎ払った。
【SIDE:転生者】
うわあああ、やっちゃったよ。
事故なんだけどさ、ミスった!
ハンターの一人がお亡くなりになってしまった。
純粋な事故なんだけど……うん、殺しに来た以上仕方ないよね……。
そう思って、トドメを刺す事にした。
せめて苦しまないようにしてやろうとしたんだが……そこで大声を上げながら、こっちの股間を抜けてった奴がいたんだよね。
え?って思って、こっちもタイミングがずれてしまった。
まさか、そんな所通って行く奴がいるとは思わないじゃないか!
な、お陰で慌ててブレス使ったんだけど、ギリギリの所で逃げられてしまった。
で、そうしたらね……。
【SIDE:人間ズ】
「逃げい!!」
そう叫び、立ちはだかった男がいた。
ガンナーたるラジーだ。
その手に拾い上げた轟刀【虎徹】を携え、彼らの前に立っていた。
どうやら、ガラムとエナに体当りするようにして抱え込み、射線上から逃げしてくれたようだったが、その彼がガラムとエナの前に立ちはだかっていた。
「勝ち目はあるまい。もう、我々でもどうにもならぬよ」
ラジーはどこか澄んだ声でそう告げた。
確かにそうだろう、シュウは死に、自分とエナは骨をまとめて叩き折られ、戦闘不能に近い。大人しく療養すればまだ助かるだろうが、戦闘はまず無理だろう。
「だからこそ逃げるんじゃ。……申し訳ないが、こいつは借りるぞい。わしの武器は走るのに邪魔じゃったからリオレウスの向こうに転がっとるでなあ」
かか、と大笑する。
まさか……ラジーの奴死ぬ気か!?
そんな思いを読み取ったのか笑って言った。
「なに、どのみちこの足では逃げられぬでなあ」
見せ付けるように持ち上げた右足を見て、息を呑んだ。
……足首から先がなかった。
どうやら、先程の一撃で消し飛ばされたらしい。
確かにこれでは走れない。
逃げ切れぬから、囮になるつもりなのか……。
「そんな顔はせんでええ。……ガラム、お前さん娘さんの為に帰らにゃならんだろう?エナは、まだ今回の中では一番若い。先に年寄りから死ぬのが筋ってもんじゃ」
「……知っていたのか」
思わず呻き声が洩れた。
「……でも、それなら私の武器を使って。その方が……」
「そりゃあ、無理じゃ。ほれ」
示された先を見て、息を呑んだ。
……エナの武器、あの大剣ブリュンヒルデが破壊されていた。あのブレスの一撃で……確かに素材が竜とはいえ鱗や尻尾などである以上は幾ら強化されているとはいえ、ティガレックスのあの惨状を考えれば可能性がないとは言えなかっただろうが……。
だが、同時にこれで諦めもついた。
最早、我々ハンターの手元にある武器自体が、今ラジーが手にしている轟刀【虎徹】だけなのだ。
「ほれ、さっさと行けい。行って、こやつと戦う無謀さはきっちり伝えてくれよ。まあ、見逃してもらう代金代わりじゃと思ってもらうんじゃな」
その方が余程大変じゃからなあ。そっちはお前さん達に任せるわい。
そんなラジーの笑顔が澄んだように見えたのは、きっと覚悟を決めたから……命を捨てたから……。
自分があの時、撤退に同意していれば……そう思うと悔しさが募る。そんな自分の体をエナが抱え上げた。
「上手く動かないなら、私が運ぶ。……大剣もなくなったから、大丈夫」
情けない。
盾となるだけの動きさえ出来ないとは……。
涙を情けなく流しながら、ガラムはそのまま運ばれていった。
………
「ふむ、待ってもらえたのかな?こちらから荒らしておいて申し訳ない」
ガラムらが去ってから、ラジーはリオレウスに向き直った。
不思議とこの間、リオレウスは攻撃を仕掛けるでもなく、ただ黙って、こちらの話が終わるまで待ち続けてくれた。
いや、待ってくれたのだろう。
「すまんなあ。手出しをしたのはこちらじゃというのに、半分を見逃してもらう形になってもうて……。わしとシュウの命で何とか勘弁してくれると有難いわい。ああ、無論彼らには何がなんでも、もうここには襲撃かけないよう努力してもらうでな?」
その言葉に、リオレウスは分かってる、と言いたげに軽く吼え、頷いてみせた。
「さて、ではもうしばらくだけお付き合い頂こうかの」
そう言って、ラジーは刀を構えた。
そして、この時を最後に以後彼の姿が目撃される事は終になかったのである。
【あとがき】
という訳で、これにてハンター達との戦いは終了です
あともう少しだけ続きます
尚、死んだ奴に与えられたのがこれなら、生まれた奴にはどんなのがと思われるかもしれません
ただ、基本戦いの神様ですから、当然与えられたのも戦闘とかそういう方向です
まあ、世界によりますが、世紀末世界ならラ○ウみたいになってるかな?