「帰還すべきだ」
「帰還するべきじゃ」
「帰還推奨」
ガラムは頭を悩ませていた。
シュウ、ラジー、エナ。今回の討伐に参加している自分以外のG級ハンター全員が一致して、撤退を主張していたからだ。
その気持ちはガラムにもよく分かる。
物凄くよく分かる。
あんなリオレウス、どう相手しろというのだ……。
というか、あれをリオレウスと呼ぶ事自体おこがましい。
幸いなのは、食事場所と思われる場所を突き止められた事だ。
元々は住処を、と思ったのだが、どうやら食事場所と寝る場所は異なるらしく、奴が舞い降りた場所は開けた石舞台でも言うべき場所。バリバリという音に耐えて、飛び去った後確認に言ってみれば、あるわあるわ。
希少な竜の素材とでも言うべきものがあちこちに転がっていた。
正直、この食い残しの素材だけで、四人で分けても一財産出来るのではないだろうか?
丸々残っている轟竜の頭殻を見ながら、ガラムは真剣に思ったし、他の面々も呆れていた。それこそ頭殻や鱗、堅殻、尻尾のような竜の素材だけで今回のティガレックス以外のものまで混じっていたからだ。
普通は食事場所のような重要な場所を突き止めた、となれば喜ぶべき話なのだが……こんな開けた場所である事が問題だ。
普通の動物なら、食事に夢中になっている間に忍び寄って、という事も出来るだろうが、あの頭の良い飛竜がこれだけ視界の良い場所でこそこそ忍び寄る人間を見逃すとも思えない。というより、明らかに周囲を焼き払った形跡があり、草などが僅かしか生えていない。こっそり姿を隠して忍び寄るような相手対策を考えての事だとしたら……。
「……だが、帰ってどうなる」
その言葉に全員が沈黙する。
全員がきちんとその意味を理解出来る頭があるのは幸いだ。
別に殺される、とかじゃない。自分にはどうにもならない、そう判断した場合、帰還して増援を求めるなり、より腕利きのハンターの派遣を求めるのはむしろハンターにとっては義務だ。それが出来ないような奴ならば、見得を優先して、無謀な突撃しか出来ないなら後に残るのは死体だけ。もしかしたら、ひょっとしたら極々稀にG級になれる強さがあって、何とかなってしまう事がある、かもしれない。
そうして、幸運が重なってG級ハンターに登り詰める者がいる、かもしれない。
だが、そんなものは物凄い幸運の果ての話だ。
で、ここにいる彼らは、といえば初期も含めて撤退した経験がある。そして、今回の討伐においても撤退は認められているからこそ、こんな意見が出る。
だが、撤退した場合どうなるだろうか?
「今のハンターズギルド上層部は焦っている」
だからこそ、下手に撤退が出来ない。
もし、ここで撤退したらどうなるだろうか?ハンター上層部は諦めるだろうか?
……下手をしたら焦りからもっとバカな事を仕出かしかねない。
「いっそ、ここのハンターズギルドを制圧して、本部に状況説明した方がいいんじゃないか?」
シュウが苛立ったような声で言うが、ラジーもエナも反応しなかった。
内心では賛成なのか、拙い兆候だとガラムは思う。
実を言えば、今回ガラムが他と比べて、比較的多少、という訳ではあるが熱心なのには裏の事情があった。
彼らはリーダーに任じられたのがガラムだから、と思っているだろう、実際それは間違っていない。
だが、同時に彼は今回の討伐が終わればギルド上層部の席の末端に入れる約束を得ていた。
G級ハンターだ。まだ他の者に比べて若い事もある、経験さえ積めばガラムはギルドのトップに登り詰める事も出来るだろう。自分もハンターとしてはもう年だ。そんな思いが、今回の熱意にも繋がっていた。
「さすがにそれは拙いだろう……G級ハンターが不満を持ったら反乱まがいの事を起こす、という前例という事にされかねない」
分かってるからこそ、だろう。
シュウもつまらなそうに鼻を鳴らしただけだった。
歴然とした知性はあの鼻唄が物語っていた。
したがって、彼らの中からは「話し合いをしてもいいんじゃないか?」という意見もあった。
こちらの言葉を理解しているのならば、そういう方法もあるんじゃないか、という訳だ。
だが……。
「話をして、何をやるというんだ?」
所詮、彼らは権力を持っていない、個人的な武力を持っているだけのハンターである。
彼らが何かしらの約束をした所で、権力者がそれを認めるかどうかは別問題だ。
もっとも、実際に話し合いをしたとしても、リオレウス側から条件の提示が出来ない以上現実には難しい話ではあったのだが……。
「けど、どうするってんだ。それなら」
シュウが不満げにガラムに言う。
彼からすれば、挑んでも死ぬだけだと判断していたからだ。
確かに彼の武器はガードを行う事が出来る。
だが、ティガレックスに一撃で穴を開けるようなブレスを放ってくる相手だ。僅かでも受け流し損ねたら、その時彼に待っているのは間違いなく死、だろう。
いや、直撃でも喰らおうものなら、死体が残るかさえ怪しい。
そして、彼より防御において劣るラジーやエナの場合、どうなるかなど考えるまでもない。
「方法はある」
住処はまだ確定出来ていない。
山岳地帯は霧の発生も多く、視界も山々が連なっているせいで利きづらい。
一旦飛ばれると、追うのが難しいのだ。
けれど、一つだけ。残骸があったが故に、食事場所は分かった。
それなら……。
ガラムはそう考え、彼の作戦案を提示した。……気付かぬ内に、自分自身が焦っている事を意識せず。
【あとがき】
何人かの方が疑問に思われているようなのでこちらにて
・チートリオはリオレイアとかをどう見るのか
感性は人間のままです
すなわち、リオレイアとかも人間が見た場合と同じようにしかあっち方向では感じられませんw
ただし、相手の見分けはつきます
なので、妹とかが飛来した場合には、ちゃんとお互い兄妹だと見分けられます
・アイルーとかは?
アイルーとの会話は出来ないものとしています
アイルーに出来るのは、あくまで怒ってるとか機嫌よさそうといった感覚的なもの、としています
一応モンスターに分類されるので悩む所じゃあるんですが……
あくまで「人と会話は出来ない」という点は維持したいと考えています