ハンター達も一応ギルドに提案はした。
少なくとも、国の方針が定まるまでは様子を見たらどうか、と。G級ハンター達としては、このまま国が不干渉を決め込む事を内心祈っていたのだが、彼らの立場上、「無理です、出来ません」とは言えない。故にそういう対応になったのだが、ここで彼らが見誤っていたのは、ハンターズギルドとて人の集まりだという事であり、上層部もまた権力にしがみつく人間がいる、という事だった。
要は、潰れたハンターの面子回復の為、そして自分達の立場の為にG級ハンターらは出発する事になってしまったのだった。
「……結局、こうなったか」
アプトノスの引く竜車に乗って、シュウが溜息をついた。
現在の彼らの服装はごく普通のキャラバンが使用するような服装だ。
見るからにハンターな武器と防具をまとっていては、周辺の村人を刺激すると判断しての事だ。
「今回は最初からケチがついてる……正直、引き返した方がいいとは思うんだが、な」
同乗するガラムが溜息をついた。
今回は各種の装備品、所謂大タル爆弾から痺れ罠など。回復薬Gや秘薬、毒消しといったものを搭載した竜車と、食料などを積んだ竜車の二台で赴いた。
その上で、事前にキャラバンなどから可能な限り聞いた情報から使えそうな場所に見当をつけて、そこに装備品や食料を移しておいてから戻ってくる事にしたのだった。
今回、大きな問題となったのはどうやって各種装備や食料などを運び込むか、という事だった。
村人らの手を借りるのは危険すぎる。
竜の目がある所で下手に運び込んだら、真っ先に焼き払われかねない。
なら、通過は安全という事だから、普通に通る振りをして運び込もう、という訳だ。
「お気をつけて」
今回、その為だけについてきた御者役のギルドの人間が真剣な表情で告げる。
食料に関しては、今後定期的にギルドの人間がキャラバンを装って運び込む予定だ。
「しかし、夜にしか動けんのがなあ……」
「やむをえない」
とにかく、見つからないように動くとなれば竜が基本的には動かない夜を狙うしかない。
幸い、基本的には奴は昼動いている。こちらが身を潜めて、その間に奴の戦力分析と住処の特定を……。
などとその晩は思っていた。まさか、その翌朝に悪夢を見る事になるとは思わなかった。
「なあ」
「「「………」」」
「これってどう判断したらいいと思う?」
俺達の視界にはティガレックスがいた。
俺達は夜の内に山岳地帯へと移動した。
これまでの話を総合すると、住処が山岳地帯にあるのは間違いなかったからだし、隠れるならそちらの方が楽だったからだ。
だが……。
拠点と定めた洞窟。
その下にあるちょっとした平野部。そこにティガレックスが降り立ち、そこへ更にリオレウスがやって来るというのは想定外だった。
「……おそらく、縄張りにティガレックスが入り込んだ、という事だろう。だが、好都合だ。これでリオレウスの戦闘力を間近に見れる」
などとガラムが真面目腐っていられたのは僅かな時間だった。
まず双方が吼えた。
互いに空気を吸い込んで全力で至近距離から、だ。ティガレックスの咆哮は通常の飛竜とは異なり、その衝撃波すら伴う咆哮を浴びれば、人間など吹き飛ばされる……。
「……おい、ティガの方がバランス崩しておるんじゃが……」
ふらふらとよろけたティガレックスは幾度か頭を振ると、リオレウスを睨みつける。
だが、悠然とリオレウスは佇んでいる。
怒ったように、ティガレックスは突進を行う。幾度も繰り返される我武者羅な突進はティガレックスを相手どる際には動き回るという面倒な……。
「……ティガレックスって裏返しでも飛べるんだね」
エナが無表情で感情を感じさせない口調で言った。
リオレウスが突進してきたティガレックスに回転尻尾アタックを一撃。
まともに頭部に喰らったティガレックスはそれで腹を空に向けて、裏返しで空を舞った。
見事なまでのカウンター。そして、パワーだった。
そうして、ふらふらと挙動が定まらぬまま必死に起き上がるティガレックスが敵わぬと悟って逃げる前に。
リオレウスは大きく息を吸い込みビームを放った。後に【ブラスターブレス】と呼ばれるその一撃はただの一撃でティガレックスの胸部に大穴を空けて、絶命させてしまった。
崩れ落ちたティガレックスをリオレウスは両脚でしっかりと掴むと、上機嫌な様子で空へと軽々と舞い上がった。……何故上機嫌なのが分かったかって?……鼻唄歌ってやがったんだよ!リオレウスが!!
なんなんだ、あいつは!!ガラムが余りにもあっさりとティガレックスが片付けられた事に落ち込んでいるが(あいつが倒したのはティガレックスだ、幾度も死ぬかと思った死闘だったらしい)、そんなものは全員が似たり寄ったりだ。
……なんで、俺達、こんな仕事引き受けてるんだろうなあ……。
【あとがき】
リオレウスさんのまともな戦闘シーンの描写ってのが人を蹂躙するぐらいだったので一度書いてみました
この地は豊かな上に広いので、リオレウス以外の竜種が迷いこんで来る事があるのですが、人が殆ど立ち入ってない為に、竜同士の戦闘をろくに見た者はいません