ちょっと仕入れをしてくると言って一か月ほど出て言ったらかなり怒られた。
最短一日、最長一週間と言っていたから仕方がない。
一応、いない間の教育プログラムとかは用意していたし、カリュートからいい物を貰って来たから嘘ではないのだが。
ちゃんとカモフラージュ用の食材積んだ馬車も用意してある。
「心配したんだぞ、フーデル! しかも俺の事勝手に王宮に売りやがって。隠し味のあの粉、切れたから寄こせよ!」
パジーがぽかぽかと私を殴って来る。
「まあまあ、待って下さい。ほら、食堂で待っていなさい。今、お土産を温めますから」
「俺も手伝う」
「待っていなさい」
さすがに異世界のパッケージを見られるとまずいから、全てかまどで焼却処分である。
私は料理を食堂に並べる。異世界の料理は美味しいし興味もあるが、錬金術の込めた食材と混ざってしまって紛らわしい。前回の宴会で貰った食事もまだ残ってしまっていたし、こういうのは皆で楽しんでさっさと消費してしまうに限る。
料理を並べると、子供達は歓声を上げた。
何故か陛下と弟、お付きの者達もいた。
「へ、陛下!?」
「元気そうだな、心配を掛けるなと言ったはずだが。安心したら腹が減った。フーデル、毒見しろ」
陛下も食べるという事である。
「どれをお食べになりますか?」
「全部」
……私は既にお腹がいっぱいなのだが。陛下を見ると笑っていた。絶対に嫌がらせだ。
私は一つ一つ味見をして、陛下の分を取り分けていく。
「見たことも無い食事だな」
「友人に無理を言って色々もらいました。いや、実は大分前から約束していたのです」
パジーは真剣な顔をして一つ一つ味を確かめながら食べている。
他の子供達はがつがつと食べている。訓練でお腹がすいているらしい。
結構な量があった食事は、綺麗に平らげられた。
私はその間、魔術で作った冷蔵庫を設置して、そこに入れてあったアイスクリームを取り出した。卵や牛乳、砂糖に似た素材はこちらにもあるので、これからはこちらでもアイスクリームが作れる。
「陛下、ぜひこちらをお食べ下さい」
まず陛下に持っていき、毒見をし、他の者達に配る。
異世界の料理は賛否両論だったが、アイスは全員に好評だった。
「冷たい! どうやったんだ!?」
「氷の宝玉を作る技術を使ってごにょごにょ、と言うわけですよ。一応、私の友人の秘伝です」
「すっげー! 料理の幅が広がるな!」
「小さい冷蔵庫なので、店に出す料理を作る事は出来ませんがね。アイスの作り方も聞いて来たので、期待していて下さい」
パジーはこくこくと頷き、アイスを頬張った。
陛下達を見送り、開店の準備をする。
馬車の食材を移動させ、種を農民を雇って栽培する。
翌日には、店に商品を並べ、買出しに行って食料品を買い込んだ。
子供達の鍛錬を見ながら、メニューを作り、商品作りをする。
夜は訓練から戻ってきたパジーが下ごしらえを手伝ってくれた。何でも、毎日帰ってから皆の分の食事を作っていたので問題はないという。
翌朝、開店の札を扉に下げて、客が来ないか見ながら子供達の相手をした。
「じゃあ、私はエンチャントするから、エンチャント無しで私に勝ってみなさい」
何気なく言った言葉に、子供達は驚きの声を上げる。
「どうしましたか。パジー達は全員揃ってなら私から一本取れますよ、やってやれない事はありません。私は強い方ではないのですから」
子供達が遠慮がちに飛びかかって来る。もちろん、雷のエンチャントで返り討ちにした。
あ、少しやり過ぎた。やはり主人公クラスは違うな。カラーレン達はこれくらいならぴんぴんしていたのに。
カリュート特性の薬を飲ませて、さてもう一度、と言う所で、客が来た。
「エンチャントだけに頼る戦い方はしてはなりません。エンチャント発動前に襲われる事や、宝玉を敵に奪われる事もあります。基礎は鍛えておいて悪い事はないです。私は客が来たから行きますが、エンチャントありと無しで戦ってみてください。ああ、怪我には気をつけて。薬はそこに置いてあるから、好きなだけ使いなさい」
そして私は客の応対に向かう。
「あ、これはフーデル元将軍! フーデル元将軍の店が開いたと言うので、ぜひ伺わねばと……」
騎士が直立不動で言ってくる。
「ええ、ぜひ見て行って下さい」
「カラーレン達ですが、優秀ですね。パジーなど、魂具の形から見ても明らかに戦闘向きでないのに、強い。料理上手の宝玉装備の大釜で殴られて昏倒すると、さすがにへこみます。本来はもう少し大きくなってからなのですが、特例で魔物の討伐に参加すると聞きました。エンチャントは、もう少し活用した方が良いとは思いますが……」
「そうですか……。それでは、精一杯の準備をしてあげなくてはね」
これは、史実で宝玉手に入れる神殿とか名家に手紙を送らなくては。そろそろ装備品を整えてやってもいい頃だ。
エンチャントを使わなくても勝てるようにとは言ったが、かといってエンチャントを使えないのも困る。
休日にその辺の事も教えよう。
考えながら、商品の説明をしていく。
「この服って、フーデル元将軍が縫ったんですか?」
「ええ。仕立てる事も出来ますが」
「じゃあ、お願いします。これは……短剣?」
「溶鉱炉の扱いも完璧です」
「フーデル元将軍……何者なんですか……じゃあ、短剣も一つ」
簡単にサイズを調べる。ふふふ、ジャストフィットの服を作って差し上げますよ!
戻って来て子供達と戦っていると、また客が来た。なんか、ここだとお客の来るペースが速いな。
店番を立てた方がいいのかもしれない。
そして昼。カラーレンとパジーが一足先に戻ってきて、仕込みを手伝ってくれる。
何か、いっぱい来るらしい。
料理上手のエンチャントのお陰もあって、パジーの手際が凄まじく良くなっている。
しかし、そんなに大量に来るのか?
魂具の大釜まで使って料理している。
私も錬金術の大釜でスープを作る事としたが、そんなに沢山来るのか?
昼。来た。どっと来た。ルークス、またお前か!
「お前、店の許容量を考えろ!」
「フーデル! お昼休み中に全員に行きわたらせないと!」
「何ですって!?」
パジーに言われて、今朝大量に作り置きしたパンがどんどん運ばれていく。大釜に作られたスープの盛り付けを子供達に任せ、三人で肉を切って焼く。
「いつかは、メニューを聞ける位、余裕を持ちたいもんだよなっ」
客は店の外にまで溢れる。
それを捌き終わると、二人は笑った。
「あー、フーデルがいるから、人数はいつもより多かったけど楽だったな」
「ほんとだな。さて、洗いものするか! 午後の訓練もあるから急がないと。フーデル、食料これじゃ足りないから買出しと仕込みお願い。夜も来るよ」
え。毎日これをしていたのか、二人とも。
というか、これから仕込みをしなくては間にあわないではないか!
急いで買出しをして、仕込みの最中にお客がちらほら。
私は早々に、明日休みますという看板を掛けて、カラーレン達にも休むように伝えた。
作戦会議が必要だ!
夜。
「冷温スープをお願いします」
「肉! 肉が食べたい!」
「フルーツジュースだ」
「酒が飲みたい」
今度は、メニューを聞く余裕があった。しかし、大変なことには変わりない。
酒は錬金に時間が掛かるんだぞ、がぼがぼ飲むな。
「フーデル将軍。勝手に私の部下に休むように取り計らっては困ります」
ルークスが文句を言っているが、私は相手にしなかった。
「五月蠅いですね。作戦会議ですよ、作戦会議。あれだと忙しすぎて子供達の面倒を見る暇がありません」
「食堂と店と孤児院ですからね」
「孤児院をやめるのは本末転倒です。私は、陛下の駒を作る為に野に下ったのだから。しかし、収入源の問題もあるし、店をやめるわけにはいきません。何とか両立の道を探らなくては」
「陛下に援助をお願いすればいいのでは。カラーレンと言う成果も出しているのだし」
「陛下の手を煩わせるなど。やはり、元陛下の教育係たるもの、自らの足で立たねば陛下の顔に泥を塗る」
「もう充分煩わせていると思うのですが……。そういえば、食事に何か薬を混ぜているとか」
「ああ、パジーから聞いたのですか。調合によって効果が千差万別になるから、なんの薬だ、とは言えないのですが」
「安全なのですか? 副作用は?」
「さっき言いました。千差万別です。ちなみにルークスが飲んでいるワインは精神高揚。副作用は若干酔ってしまう事です。……まさか、私が陛下に食べさせた物を疑うのですか?」
「いや。そう言われればそうですね。それでも、少し調べても?」
「だから、調合方法によって効能が毒にも薬にも変わるんです。子供達には、薬になる方法しか教えてませんし、絶対に他の調合を試すなと厳命してあります。調合方法は部外秘です」
その後も適当にあしらい、ルークスが帰る。
次の日、私は問題を提議した。
「このままではカラーレンやパジーの魔王退治の訓練や私の子育ての時間が無くなってしまう。どうしたらいいと思う?」
パジーが手を上げる。
「俺達が魔王を倒せるとも思えんが。実は料理上手の宝玉を欲しがっているコックや弟子入り希望のコックがいるんだけど……いいかな?」
「低レベルエンチャントであれば10個ほどありますが。ふむ、しかし……私の弟子はパジーにしようかと思っていたのですが」
「お、俺が一番弟子に決まっているだろ! まさか、今更外すなんて言わないよな!」
「魔王を退治するまで奥義は教えないという話も忘れてませんよね」
パジーはぐっと黙る。
とりあえず、店には商人を置き、コックの弟子に錬金術の初歩の初歩を教える事になった。
そこに、ひょっこりと王宮付きのコックが顔を出す。
「フーデル将軍、アイスを陛下が御所望なのです。それで、作り方と冷蔵庫をお借りしたいのですが……」
私はレシピブックを取り出して、アイスの項目を探しだす。
「ここです。書き写して行ってください」
それにパジーがかみついた。
「な、何だよそれ!?」
「レシピブックですよ。様々なレシピが載っている物です。異国の食べ物が多いので、適当な物で代用して下さい。一応、欲しい食材があれば差し上げますが」
「丸ごとお借りして行ってもいいですか?」
「だ、駄目に決まってるだろ! レシピは料理人の命だぞ」
料理人の言葉に、パジーがかみつく。
「そこにあるレシピは大したものではないので構いません。陛下の為になるならどうぞ、書き写して行って下さい。なんだったらその後、パジーに譲りましょうか」
「い、いいのか!?」
「必要な時に見せてもらえばいいだけですし」
「お、俺も欲しい!」
「仲良く使って下さいね」
カラーレンとパジーがはしゃぐ。
「それと、一回手合わせした後、騎士組の装備を新調します。魔物の討伐の準備です。エンチャントもちゃんと出来ているか見たいですし。エンチャント使わないでも勝てるようになれといいましたが、それは訓練の話です。実戦では、持てる力をあらゆる方法で使いつくして、確実に息の根を止めなさい。子供達は戦い方をよく見てなさい。まずは、私がエンチャントあり、貴方達が無しから」
カラーレン達と激突する。さすが主役級の子達だ。その伸びは目覚ましい。
しかし、私も負けはしない。雷、炎、吹雪、斬撃など様々なエンチャントを使う。
子供達はそれを上手く避け、石や砂つぶてを使ったり、普通の武器で応戦したりする。
パジーが剣を喉元に突き付けて、勝敗はついた。
「大勢で掛かれば、強い奴も倒せんだ……」
「エンチャント無しで、倒せるんだ……」
子供達は呆然とそれを見る。
「次は、双方エンチャントありですよ」
「大丈夫かよ、もう年なのに」
パジーは勝てた事に少し驚いた後、意地悪な笑みを浮かべて言う。
「ふふふ、貴方達がエンチャントありなら。私は裏技ありです」
「裏技?」
ていっ雷玉投擲!
「ほ、宝玉!? うわー! 凄くもったいねー! み、皆、さっさと倒して散在回避だ!」
カラーレンの言葉に子供達が頷き、戦いが始まる。
結果は、勝ったと思った所をカラーレンの死んだふりに騙されて負けた。
卑怯な方法ありだったので何も言えない。
子供達は目をキラキラさせて見ているから、無駄ではなかったらしい。
「いいか、これでもフーデルは俺達に怪我させない様に手加減してる。敵は人質とったり、躊躇なく急所を狙ったりしてくるから、この戦いを参考にしすぎるなよ?」
「はいっ」
カラーレンの言葉に頷く子供達。
「どうしてこんなに強くなったんですか?」
「フーデルと戦い続けて、フーデルの料理を食べ続けたから、かな。俺達が田舎にいた頃は、食堂と店と俺達の教育が両立できたんだよ」
そう言われるとくすぐったい。
「さて、戦いで一通り見させてもらいましたし、宝玉のバランスを考えますよ」
子供達のサイズを測り、やや余裕を持って仕立てる事にする。
異世界の道具も使い、全ての装備を一から作ってやろう。
手紙も書いたし、魔物退治の準備は万端だ。
早くもコックの子達や商人が訪れ、私は彼らの教育をカラーレン達に任せた。
翌朝からは奔走するコックたちで騒がしくなる。
私は、子供達の料理を作るだけで良かった。
「だーかーらー! 錬金術を使う食事は、絶対にレシピを変えちゃ駄目なんだって! 分量を守れ、余計な物を入れんな!」
カラーレン達は忙しそうだが。
午前は子供達を見てやり、午後は食事を作った後は受けた注文の品の錬金に集中した。
たまに商人から仕立てに呼ばれて、サイズを測定する以外は穏やかに時が過ぎる。
夕飯を作った後は勉強の時間。
陛下の元教育係として、ここはいい所を見せなくてはならない。
貴族の子だけあって、カラーレン達に教えるよりは楽だった。
子供の一人が手を上げる。
「なんですか?」
「錬金術ってなんですか?」
「物を作る時の、ある人に習ったスペシャルな技です」
「僕達も学べますか? 裏技とか。どうやったら宝玉を爆発させられるんですか?」
「カラーレン達にも言いましたが、魔王を倒せたら極意をお教えします」
「それじゃあべこべです! 僕は魔王を倒す為に錬金術を知りたいのに」
私はその言葉に、考えた。
「では、私に一体一で勝てたら考えましょう」
「絶対ですからね!」
私はそれに頷き、勉強の続きをした。
二週間ほどで、カラーレン達の出立の時がやってきた。
「なんだよ、フーデル。この服……鎧? すっげえデザイン」
「フーデル様。私、これ恥ずかしい。ミニスカートじゃない」
「カラーレン、文句を言うのではありません。ルークスには話を通してるので、制服ではなくてこれで行きなさい。フィリア、下にはくズボンを用意してあります。それと、困った時の為にこのポーチに色々と詰めておきました。ちょっとでも困った事があったら、鞄を漁ってみなさい。どんなに困って荷物を捨てる事になっても、これだけは捨てない様に」
「そんな小さなポーチに何が入るんだよ……宝玉とか?」
「隠し味の粉を溶かす時の要領で、力を込めて熱くなったら投げるのですよ。他にも、おやつが入っています。困っている時以外は使ってはだめですよ」
「へー……有難くもらってく」
可愛い子供達の初陣だ。頑張れ頑張れ。
私は精一杯手を振って子供達を見送った。
「初陣に手作りの服に手作りの剣に手作りのおやつか」
陛下が怖い。何故こんな所にいるのか。
「陛下の時は、私が共に行ったではありませんか」
陛下のじと目が怖い。
「……陛下にも一式プレゼントいたします! お望みとあらばいつでも手料理を!」
「格好良い物を用意しろよ」
そうして陛下はサイズだけ測って帰って行った。……はっこれが二番目の子供が出来た時に起こるという幼児返りか!
そんな事を考えていると遠くから石が飛んできた。痛いです、陛下。
初陣は、時間が掛かった。五ヶ月も掛かれば、心配になって当然だと思う。
主人公達だから、心配はないと思うが……。
四ヶ月目から、カラーレン達の分の食事を作って、魔法の鞄に貯蔵する日が続いた。
どんどん精度の上がって行く料理。疲労回復、傷回復、状態異常とつけられていく効力。
悶々と日々を過ごしていると、ようやく子供達が帰って来た。
ぼろぼろだった。あれだけ強力に作った装備が破れているとか、ありえない。
「カラーレン! パジー! カルドン! フィリア! ミリー! ケイリア!」
私が走って子供達の所に行くと、子供達は私に縋りついて言った。
「お腹減った……寝たい」
「料理は出来てる。お前達も、少し食べていけ。報告は心配いらない。子供達に人を呼ばせる」
兵を率いていたルークスは疲れた顔で頷き、食事を食べた後に全員眠ってしまった。傷が酷い証拠だ。カルドンの傷が特に酷い。食事を食べたら治るだろうが、全部食べきれるかが問題だ。はらはらして見守る。
ルークスが眠る前に報告書を預かったので、やってきた伝令に渡す。
一番に目覚めたのは、ルークスで、それでも一日掛かった。
「私は!」
「一応、伝令に報告書は渡した。早く報告に行くんだな。引きとめて悪かった」
「体が、軽い……。こうしてはいられない、陛下に報告をしなくては」
逸るルークスに身支度をさせ、朝食を食べさせる。ルークスは走って向かっていた。
次々と目覚める兵士達の為に身支度を手伝い、食べさせる。
何故か王宮に呼ばれたので、参内する。
「来たか。ルークス、もう一度説明してやれ」
ルークスは深々と頷き、語った。
「私達が向かった所に行ったのは、魔王の側近でした」
「初陣で!?」
「予想もできない事だった。そいつは更に、魂具を取り出せなくした」
いたな、そういえば。
「我々は敗走しました。逃げる際に荷物を投げ捨てて、飢えかけた。その時、パジーが言ったのです。おやつを少し貰って来たから、分け与えると。そして、ポーチに手を突っ込むと、出てくるわ出てくるわ、全員に行きわたる分の傷薬やら飲み水やら食べ物やら武器やら服やらが。残らず物を出させると、フーデル様の字で書かれた戦いの書まで出て来たのです」
「えっ必要な分だけ出せばよかったのに」
「そして、それを読んだカラーレンが言ったのです。なんとしても、自分達が奴の魂具封印の宝玉を壊して見せると。食事を食べると、不思議と元気が湧いてきました。不自然なほどに。そして、我らは舞い戻り、カラーレン達は宝玉のような物を投げまくり、それは雷や爆発を呼び込み、さらに果敢に剣や大鎌で応戦しました。そして、ついに宝玉を壊す事だが出来たのです。後は、我らも加わって大激突でした。所が、不思議なのです。酷いけがをしても、フーデル様の字で全快と書かれた小瓶の薬を飲むと、たちどころに元気になったのです。フーデル様の手作りの服は、魔物の一撃を受けても決して破れないどころか、薄い膜を張ってそれを防いでくれるのです。戦闘中に着替えを敢行するなど、それらをふんだんに使い、魔王の側近とそれを助けに来た魔王の軍団と激しい戦いを繰り広げ、ようやく掃討し、食べ物を荒らされた街の住人に分け与え、帰って参りました。ポーチの品物は、全て活用させてもらいました」
「あんな高級な薬をがぶがぶ飲んだのですか! 魔王退治用が……っていうか、ポーチの中身を全部使ったって、ええ? あれだけの物を全部消費って……け、経費が……貴重な薬が……」
「必要だったのです、フーデル様」
「待って下さい。考えを整理させて下さい」
もったいなさ過ぎる。あれだけ詰め込んだ物を全部って……。
「まさか、魔王退治にはもっと経費が!? た、大変だ。今のままでは貯金が尽きてしまいます。もっと稼がなくては……! 大体、たかが側近程度にこれだけ苦戦するとは完全に計算外です。訓練を見なおさなくては!」
「フーデル、違うのだ。余が言いたいのはそんな事ではない。余が言いたいのは、魂具を使えなくする敵がいる事も予期していたかのようなフーデルの特訓と、いくらでも物が出てくる不思議なポーチと、そこに入っていた不思議な道具の数々と戦いの書に入っていた魔物の分析と戦闘の仕方の事を言っているのだ! 名家や神殿にも、子供達に宝玉を貸せと手紙を送っているそうだな。なにより、たかが側近? たった五ヶ月で魔王の側近を死者なく退治したルークスに掛ける言葉が、たかが側近か!?」
「ああ! いやしかし、きちんと訓練を積んでいればカラーレン、カルドン、ミリー、フィリアの四人で倒せたはずです。あの子達は本来、それほどまでに強い。それに、正直あれだけ物資があれば……」
だって正史だもの。なんでこれほど弱体化が著しいのかわからない。こんなに鍛えて、色々与えているのに。
「馬鹿な。そんな事。できるはずがない」
「このフーデル、陛下の為なら不可能も可能にする所存です! 魔王を退治し、陛下の御代を平和に溢れた物にする為ならば、私は手段を選びません」
「……フーデル、お前に何があった。何がお前をそうさせる。錬金術を、どこで手に入れた」
「一年の間に、私の魂はある場所に囚われていました。そこで仲間達と、元の世界に戻る為、それこそ陛下には決して言えないような、どんなにあくどい事にも手を染めました。そして、戻る際に櫻崎萌子と言う者からこの世界の未来を聞きました。カラーレンが九人の仲間と共に、世界を救う物語を。だから、私はその仲間の一部を集め、鍛えようと思ったのです。放置は出来ませんでした。パジーは孤児として一時魔王軍に身を落とす事になるし、私は命を落とす命運だったから。私は運命を変えたかった。そして運命を変えた以上、私はカラーレン達に絶対に魔王を倒させねばならないのです」
「ほう、お前を導いた神はサクラザキモエコと言うのか」
「え!?」
「未来を見通し、技術をもたらすなら、神であろう。魂具の知識を与えしシースティーアも神となった。ああ、お前も神として祭らねばな」
「え、あの……」
何か神になった。
「ふむ、しかし、魔王が倒せるか……倒せるのならば、倒してやる。フーデル、いや、フーデル神よ、我らに装備を与えたまえ。とりあえず騎士団の制服作れ。費用は出す。それともう王宮から出るな」
「ええええええええええ!?」
苛めですか、素材集めとかどうしろと!? うう、仕方ない。新たな、強い調合を探しだすしか……。
神として祭られるのは断固拒否したい。拒否したいが、慣例なので逆らえない。
陛下のいい笑顔が恨めしい。
しかも、後でパジーが大鎌から大釜にクラスチェンジしたと聞いて苛められた。
陛下に神殿が完成するまでは孤児院にいてもいいというお許しを貰ったが、人が押し寄せて大変だった。
「フーデル、神だったのか!?」
「駄目よ、カラーレン! フーデル神様って言わなきゃ!」
「うう……子供達よ、これから陛下に奴隷の如く装備作りに走らされる予定なので、それまではみっちり訓練つけますよ。それと、錬金術、ちょっと本腰入れて教えます」
「俺、鍛冶やりたい!」
「私、縫い物やりたい!」
「料理人!」
騎士団付きの子供達から、瞬殺された。
成長著しくて、私は少し泣きたい。
そんなこんなで、一年がたつ頃に渋る陛下から休暇を貰った。
カリュート達とダンジョン探索するのである。
ひさびさに四人でダンジョン探索をすると思うと心が躍る。素材を沢山融通してもらおうと、心に決めた。