有意義な一か月を終え、部屋の片づけをした私の元に学会からの誘いがきた。
ぜひ来てほしいという事で参加する。
すると、ディガー博士の新鉱石を解析する会が設立されていた。
何か、話が巡り巡ってこの金属を作れるか! という私からの全世界への挑戦状的な企画と懸賞金が掛けられているらしい。
新技術に科学者達は燃えに燃えており、そんな科学者達を抱えた企業は私自身に答えを教えろと言うに言えなくなっている。そんな状況らしかった。
「では、新金属ミスリルについて私が発見した事を述べたいと思います。私は、全く新しい粒子を観測する事に成功しました! これと鉄やアルミなどの金属とがミスリルを構成しているのです」
「マナが発見された!?」
私は思わず立ち上がる。まさか科学的方法で発見されるとは思わなかった。
「マナですか。ファンタジーにちなんだ名付けとは、ロマンチックですな」
「さすがはディガー博士。と言う事はこの粒子が新金属を作るにあたって重要となるのですな」
そんな話し声がする。
壇上に上がっていた研究者が、挑戦的に私を見つめる。
「それで、マナとやらの特許を博士は取りますか?」
私は座って腕を組む。
「いや。それでも、私以外にミスリルを作れる人間はいない。特許を取る必要はない」
ざわめきが走る。
「後悔しますよ。私は必ずミスリルの秘密を暴いて見せます」
「不可能だ。だが、一つ約束しよう。ありえない事だが、貴方が製法を発見した時、だからと言って私は製法を人に教えたりしない。金属を作って売る事はするが」
ざわめきが最高潮に達する。
科学者達の新金属に対する研究は、面白く聞く事が出来た。
私とした事が、科学という側面から、そんな風に解析した事はなかったのだ。
これは面白い研究テーマが出来た。
学界から帰ると、錬金術で金属を作ったり研究をする日々が続く。
テレビでは、新金属についての特集が組まれていて、アルベルトが盛大に新金属を称え、開発を煽っていた。
そして、私の新作のSGRのおおよその部分が完成したと連絡が来る。
カリュートに教わった魔術の文様を全身に刻印した、新SGR。思った以上の出来の良さに、私はため息をついた。
そして研究員を全員追い出し、監視カメラを停止して私はSGRに魔術を掛け、一部錬金術を掛け、一部自ら工具を使って手を加える。
「さて、と。こんな物でいいかな」
整備員とパイロットを呼び、動作テスト開始。
色々と思った以上に上手く働く点や、思わぬ失敗が出て来た。でもまあ、許容範囲内だ。
「個人だとそれほど試行錯誤は出来ないからな。こんなもの、か。ロボットの大会には出せる範囲だろう」
フレアストーンを乗せた機体に関しては、失敗だった。予想以上の出力に、機体がついていっていない。
まあ、これに関しても要研究だな。
準備が出来たので、国際ロボット競技会に出品する。
パイロットは適当な者を雇った。それほど有名ではない方が、パイロットの補助具による底上げが聞いているのかどうかわかっていい。
リアラは遠坂星凪と出るようだ。
ふむ、万全の体制ではないが、それは向こうも同じ事。
勝負と行こうではないか。
私はアルベルトに誘われ、リアラと共に特等席で戦いを見る。
「なんて優雅で滑らかなの……! 金属とは思えないしなやかさだわ。丈夫なのに柔らかいなんて……! それに、攻撃しても攻撃しても全然効いた様子が無い!」
「……早い、な。力も強い」
拮抗しているのは、魔術面による強化があるからだ。それが無くては負けていただろう。私は唇をかむ。翻ってリアラはキラキラした瞳で戦いを見つめていた。
追う者と追われる者。リアラが負けても、失うものはないのだ。
今戦っている機体のほかに、数体の機体を用意しているが、怪しいものだ。
『うおおおおおおおおおおお!』
遠坂星凪が一点集中で攻撃して、偶然にもSGRに描かれた最も重要な呪言を傷つけた。
「……私の負けか」
「え、何何? 今の一撃は、かすり傷をつけただけじゃない」
「張ったバリアを破られた。後はやられる一方だ。例えここから勝っても、後が続かない」
「バリアですって!?」
私のSGR、ブラックキャットの動きが目に見えて悪くなる。
呪言は傷つけられれば当然、その力を減じ、酷い時には力を失ってしまう。
一撃を通されれば、それまでなのだ。ただでさえ、実戦用の武器は使用禁止となっている。そんな攻撃が通った時点で問題外だ。
今回は、負けてしまった。けれど、改良の余地は多大にある。
私がこのまま終わると思うなよ?
ゆったりと私は歩く。この胸に溢れ出る怒りを悟られぬように。
私は、戸惑っていた。自分にこんな感情があるとは、思いもよらなかった。
噛ませ犬など、ごめんだ。
新たな案を考える為、帰る準備をしていると、大騒ぎになった。
某動画サイトにアップロードした音楽を流しながら、エイリアンの群れがやってきたのだ。
ああ、フレアストーンを狙ってきたか。音楽を流しているという事は、音楽ジャンキーのシャルジーア将軍か? あいつはいつも音楽を流しながら登場するから。最も、人類からは演説だと思われているが。
私はパイロット達に指示を出す。
「こんな事もあろうかと、即時戦闘準備が整うようになっている。目の前の赤いボタンを押してくれたまえ。それで飛び道具と隠しナイフが使えるようになる。他のSGR達が戦闘準備を整えるまで耐えてくれ。ああ、レッドバズーカに乗った君は、ボタンを押した後、すぐに脱出してくれ」
ブラックキャット達が手の平から雷玉を射出する。
放りあげられたちっぽけな球は、特大の雷を落とした。
ああ、貴重な雷玉をよくもほいほい使ってくれる。
その間に各国のSGR達が戦闘準備を整え、迎撃した。
フレアストーンを乗せたレッドバズーカからは、フレアストーンが射出された。
私はそれを受け取る。
戦闘データを取れるだけ取って、ちょうどいい所でフレアストーンを投げ渡そう。奴らはそれさえ手に入れたらすぐに逃げて行くはずだ。
まあ、死人は出ないようにするさ。
SGRとエイリアンの操るロボットがぶつかり合う様は爽快だ。
後で記録映像を貰って、萌子に渡せば喜ぶだろう。
戦闘を眺めていると、白兵が出て来た。出てくるのが早いな。まあいい、潮時か。
私はフレアストーンを持って、白兵と対峙する。そして、私は驚いた。白兵の中に将軍がいたからだ。
「シャルジーア・ピスガス?」
ピスガスとは、将軍の意らしい。萌子がくれた本から、ごく僅かな単語はわかる。シャルジーアは、かなり驚いた顔をしていた。
まあいい。
『目的はコレだろう。持って行け』
そういって、私はフレアストーンを投げた。それを受け取ったシャルジーア将軍が兵を差し向けてくる。
「桜動画。作者。神! キャッチ」
うん、凄く悪い予感がするね。
私は魂具を出した。マントを出して羽織る。
戦いが始まった。
「桜動画! シャルジーア! 忠誠! 音楽!」
「拒否! 否定! 駄目! ありえない! ドン引き!」
「選択、忠誠、死!」
戦いながら、片言で交渉をしてくる将軍。そこまでして私の忠誠が欲しいか!
私は、もう少ししたらカリュートとフーデルに渡そうと思っていたIDとPASSの書かれていたストラップを投げつけた。
「投稿、仕事、忠誠、雇用条件、報酬、お礼! 返答、トップ」
戦いながら言うと、シャルジーアはようやく矛を収めて帰って行った。
何か、どっと疲れたので、私は一足先に会場を抜け出して帰る事にした。
私の機体は、競売でかなりの高額で売れた。
その後、テレビの解説ではリアラの機体、シューティングスターと私の作った機体を特に念入りにされた。
『信じ難い事に、ディガー博士が今回作ったSGRはかなり華美ですね。見て下さい、一面の彫刻。元から若干奇抜なデザインを使っていましたが、これは凄い。独特の感性と言っていいでしょう。しかし、それを補ってあまりあるのが、この機体の柔らかさ! ロボットが柔らかいと表現される異常、お分かりになりますでしょうか。ほら、この着地で僅かに足が伸縮しているのがわかりますね。これで衝撃を吸収しています。そして次に、バリアシステム。あれだけ攻撃を食らっても、全く傷ついていなかったSGRが、一度かすり傷を食らっただけで急に傷がつくようになりましたね。伸縮性、運動性、頑丈さ、全てのパラメータがすとんと落ちています。バリアシステムと新金属に頼りに頼った機体と言う事です。次に、リアラ博士の機体ですが……』
痛い所を突かれて、私はため息をつく。
その後、エイリアン襲撃のニュースなどが続いた。
そして桜動画を立ち上げて、IDで検索する。
あった。
絵と片言の言葉と文字が書かれている。エイリアンが映っているが為に、わりと動画は盛況のようだ。作り物と言う意見が大半を占めているが。
ええと、毎日新曲を進呈する事。無理だな。報酬は。向こうの音楽か。ふざけるな。
一日一曲探してくるとかなら、まだわかるが。いや、それも研究する時間が無くなるから嫌だな。
一か月くらい押し問答して、フレアストーンと曲譲渡の代わりにエイリアンの技術ゲットという所まで話が詰める事が出来、雷玉や魂具の知識を渡すまいと頑張っていた頃。政府から怖い人達がやってきた。
「なにかな?」
「桜動画の作者、エルーシュ・ディガーさんですね」
「……個人情報保護法は……」
「そんな物はエイリアンとコミュニケーションを取ることのできる人間にはない」
あまりといえばあまりだが、当然と言えば当然と言える返答に私は押し黙る。
「まず、エイリアンとの交渉には我々も絡ませてもらう。知っている事を全て話してくれたまえ」
「……別に、職業柄エイリアンとは因縁深くてね。いくつかの単語と、目的らしき物をおぼろげに発見した、それだけだ」
「目的だと!? それに単語!? そ、それは一体……」
「フレアストーンの収集です。それを何に使うのかはわかりませんがね。単語帳見ますか? 少ししか書いてありませんが」
一緒に来ていた白髪の学者が奪い取るようにそれを読んだ。
その日を境に、フレアストーンの捜索が始まった。フレアストーンを投げ渡せば、エイリアンは引くのである。
それと、動画を媒体に必死の交流が始まった。
私は桜動画を政府に譲る事にした。向こうの要求する物は政府にも出来るし、まだ契約はしていなかった。それに、まだあげていない動画データも渡したからいいだろう。フレアストーンは国に接収されてしまった。
フレアストーンの調査が求められたため、有償でデータを渡したら科学者達が目の色を変えた。
どうやら、フレアストーンは出来るだけ渡さない方向で行くらしい。何故だ? 史実では使い道が無いからとそのまま渡していたはずだが。
あー。使い方は私が発見して説明したな。そのせいか。そういえばレッドバズーカも射撃でかなりの好成績を残していた。
……さて、次のSGRでも作るか。
二、三ヶ月研究しつつ錬金していると、マスコミがやってきた。
「著名なディガー博士の特集を、ぜひ組みたいのです! それにぜひ、全国の科学者にミスリルのヒントを!」
「断る。クイズ番組ではないのだ。製法がばれたら特許を奪われるのだぞ。自力で見つける分には構わないが、私が教える義理はない」
「施設だけでも見せて下さい」
「駄目だ」
そんな押し問答からさらに三ヶ月後。
エイリアンと共にエルーシュ・ディガーの秘密に迫る! というテレビ番組があったから見てみた。というか、いつのまにそこまで仲良くなった。
それを見て、私はお茶を拭いた。上空から、屋根を透過して私の事を見ているではないか。
無駄に高いエイリアンの技術に舌打ちする。
鍋に色々放りこみ、錬金術を使っている私。鍋が発光する。
エルが虚空から現れて、食事の手伝い。
食事の後は、設計。
薬草と金属を手でこねて混ぜて溶鉱炉で焼き上げ。
小さな魔法の鞄から、出すわ出すわ様々な道具を。
音声も取られている。
『雷玉がカリュートに比べると弱いねぇ』
『まあ、カリュートは凄腕の魔術師だからな。私のような駆けだし魔術師とは違うだろう』
VTRが終わると、ゲストの文化研究者が涙を流していた。
『まさか、魔女狩りで滅んだと言われた魔女が本当にいたとは……しかも、本物の魔女だったとは……この目で見るまで信じられませんでした。これはぜひとも箒で飛ぶ姿を見せてもらわなくては』
『魔女が科学者をする時代、ですか……。だから金属は自分以外に作れないと言っていたわけですね』
『しかし、マナは観測する事が出来ました。魔術も、科学的に解明できるはずです』
『ぜひ弟子入りさせてほしい』
『エルーシュは、確かに怪しい魅力を持っています』
『我が社に魔女がいた! 素晴らしい事だ。ぜひ彼には我が社に戻ってきて欲しい』
……逃げるか。私は、せっせと旅支度を始めた。フーデルの辺りが統治がおおらかで良さそうだ。