私は目を覚ます。そこは病院だった。
隣にいたお父さんが、目を丸くする。心なしか、げっそりとしていた。
「萌子! 萌子!!」
「お父さん……おはよ。あれ、お母さんと旅行に行ったんじゃ? ここ、病院? どうしたの?」
お父さんの目からは涙が零れ、そしてお父さんは急いでお医者さんを呼んできた。
お医者さんは、奇跡だって言ってた。
そこで私は、一年もの間眠っていた事を知った。
「うっそ最悪! じゃあ私、留年じゃない! も、もしかして退学?」
「いや、籍は残してある。父さんは絶対萌子が元気になると信じていたからな」
「良かったぁ。ありがとう、お父さん。お母さんは?」
そう聞いたら、お父さんは困った顔をした。
とにかく、私はいくつかの検査を終えて退院する事となった。
退院の時、お母さんが弟の浩太を連れて来てくれた。
「あっお母さん! 心配させちゃったみたいで、ごめんなさい。浩太、いい子にしてた?」
「わあああああん! おねえちゃあああああん! ばかああああああ」
浩太が私に抱きついて泣く。
お母さんは、しゃがみ込んで泣く。
お父さんとお母さんは、離婚していた。
私の治療費の為に、家は売られていた。
私の物はお父さんが頑なに捨てないでいてくれたらしいが、ショックだ。
「我儘、一つだけいいかな。退院祝いにさ。私、眠ってる間、外の事はわからなくても、ずっと夢の中で意識あったんだよね。ここは夢だってわかってるんだけど、中々起きられなくてさ。お母さんの手料理、ずっと食べたかった。お願い、今日だけ!」
お母さんはこくこくと頷く。向かったアパートはぼろかった。私の荷物が大半を占めてしまっている。
こんな状態でも、私の貯金に手をつけないでくれた事に深く感謝した。
お母さんの手料理を食べた時は、不覚にも泣いてしまった。
「帰って来たんだ、私」
ご飯を食べている時に、緊張の糸が切れたお父さんが倒れた。
過労だった。
私は病院でこっそり、あらゆる回復の効果を秘めた食べ物を出す。
「じゃじゃーん! 私の手料理なのです! 食べて食べて、お父さん!」
「萌子……。何か、妙な色合いをしているんだが……」
「味見はしてある。だいじょぶ!」
あえて明るくふるまっているが、家の壊れっぷりに私は激しく動揺していた。
このまま、お父さんが私のせいで死ぬなんてありえない。
お父さんは食事を食べた後、全快してくれた。
「お父さん、家事ならまーかせて!」
私は胸を叩く。今度から、お父さんの食事は全部錬金術にしよう。
家に戻り、お父さんを職場に送りだす。仕事先も変わっていた。
そして、家事をしているとマスコミが押し寄せて来た。
一年眠り続けた少女、奇跡の生還とかいう特集をやるらしい。
私は困りますと言い続け、なんとかマスコミの人が帰ると、私は買い物に出かけた。
本当はお父さん達の為に使うべきなんだろうけど、私には三人の仲間も大切だ。
それに、一度錬金術の世界に帰って、荷物を取ってきて、元の体も錬金術の原料にする予定だし。
ああそうだ、錬金術のテストをする為に、こっちの世界の様々な物も買わなきゃ。
あらかた欲しい物を買い終わると、私は指にはめられた指輪にキスをして、呪文を唱えた。指輪は、ボロボロと壊れて行く。
「萌子、遅かったな」
「ごめんね、皆。なんかお父さんが過労で入院しちゃってさ。じゃ、錬金しよっか」
錬金釜に二十年間使った私達の体を入れて行く。
そして、世界移動の為の、ちゃんとした指輪が出来あがる。
「これで、いつでも行き来可能だね」
エルーシュが指輪を満足げに撫でる。
「次は宴会ですか。最初は、萌子の世界ですね。服は……」
「ごめん、服、買えなかったんだ。大丈夫! 秋葉原ならコスプレしている人がいても!」
そして私はカラオケボックスへと案内する。
たのしい時間はあっという間に過ぎる。
けれど、それが終わると私の前に立ちふさがったのは、厳しいまでの現実だった。
家に帰ると、私に人生や、私の友達へのインタビューが流れていた。
重度のオタクである事もしっかり報道されている。
何か、ショックだ。
心臓が壊れる程ドキドキしながら行った学校。
当然、オタクなの? とか、インタビューの時の事を聞かれてくる。
パンダのような扱い。正直、馴染める気がしない。元から友達は多い方じゃなかった。ううん、凄く少ない。
……バイトしないと。私は現実逃避し、その日のうちにバイト先を見つけた。
学校で猛勉強して、帰ったらバイト。それが終わったら家事と錬金術の研究。
忙しい日々が続く。
けれど、洗濯機と言う文明の利器のあるこの時代。前の世界より断然家事は楽だ。
問題は、お金が稼ぎ難いという事。
エルーシュの、お金儲けを手伝うという話を思い出し、そして急いで首を振る。
駄目だよ、大騒ぎになっちゃう。
教えてもらった知識なんて、すぐに馬脚を現してしまう物だ。
未来の発明品を出したとして、それについて質問されたらどうするというのだ?
良い職業に就こう。
その為に、今、一生懸命勉強しよう。幸い、勉強漬けの毎日には慣れている。
ああ、使い魔の白閃に会いたい。でも駄目だ、なんで竜の形なの。
カリュートの黒影みたいな黒猫ならば楽だったのに。
そんなこんなで二カ月たった、見事に私は孤立し、いじめが始まっていた。
あああああ。こんなの魂具を使えば一発なのに、それが出来ない。
ストレスがたまる。
疲労は食事で吹っ飛ぶけどさ。休みが無いから、その分鬱鬱とした物が溜まっていくのだ。
けれどその日は、バイトの帰りに浩太が会いに来てくれた。
お母さんに電話し、黙って出て来た事を叱りながら、手を引いて帰り途を行く。
地面に横たわるそれを見て、私は戦慄した。
「お姉ちゃん! 何か倒れてるよ!」
小さくて可愛い、羽の生えた子犬。
「浩太。後ろに下がってなさい。危険かもしれないわ」
『助けて……』
喋った。それに私は目を細くする。どうやら、この世界も創作物の世界だったようだ。普通、こんな異常は存在しないのである。皆に……いや、エルーシュに聞いてみなくては。この時代を舞台にした二次創作なんぞ、フーデルやカリュートの世界にあるわけない。
「お姉ちゃん!」
浩太を押しとどめる。何かあったらすぐ反応できる距離まで近づき、私は観察した。
「貴方は何故ここにいるの? 侵略しに来たエイリアンじゃないでしょうね」
『そんな、僕は……げほっ 悪い奴らに追われているんだ』
僅かに血を吐く子犬。浩太が走っていこうとするのを止める。
制服、錬金しておくべきだった。アパートでも使えるような小さな道具だと服を錬金するのは少しきついけど、背に腹は代えられない。
私は更に近づき、抱き上げた。
「包帯巻いて、食事を上げるだけだからね。事情は聞かせてもらうから。浩太、ミルクとタオル、パン買って来て。私はあの公園にいるから」
鞄から包帯を取り出して、手早く巻く。
浩太が走っていくと、私は公園へと向かった。
風が、吹く。悪寒がする。悪い事が起きると。
「さあ、事情を手早く話してくれるかしら? 嘘は出来るだけつかない方が良いわね。あんたにとって悪い奴らが警察って可能性がある事も考えて、怪しいと思ったらすぐ突き出すわ。こっちの警察でも何でもね」
『ダークネスって一族がいるんだ。彼らは、僕らの能力を狙っている。僕らの能力は、夢の武器を現実に呼びだす力、夢想石を生みだす事。お願いだ。夢想石を使ってダークネスと戦い、僕を守って。君と、特に君と一緒にいた男の子から、強い夢の力を感じたんだ』
「他人に血を流せって、正気? それで、私にメリットは? 夢想石を使うデメリットは?」
『ダークネスがやってきたら、地球人も危ないよ! 夢想石を使えば疲労するけど、デメリットはないよ』
「ねぇ、宇宙を移動できるエイリアンが、地球人なんかの科学力に屈するの?」
『……お願いだ。奴隷は嫌だよ。助けて』
「貴方達って、複数なの?」
『そうだよ。逃げる時にバラバラに散らばっちゃって……。この国にはいると思うけど』
ここで問題なのは、浩太が私の預かり知らぬ所で抗争に巻き込まれる事である。
断っても、夢の匂いとやらで別口が現れる可能性も高い。
それに、私は他の三人に与えられる物が原作知識以外に何もないのをすまなく思っていた。
デメリットがある可能性もあるけど、エルーシュの使い魔のエルに調べてもらえば済む事だ。
それに、問題が一つ。エイリアンの技術がどの程度かわからないけど、小娘一人で対応できる事ではなさそうだという点だ。少なくとも私は、エルーシュがレーザー銃持ち出したら、勝てる気しない。
相手エイリアンを武装解除して警察に突き出せれば、一番良いのではないだろうか。
「夢想石、いくつか私に預けてくれないかしら。動物実験してみたいし。それと弟を巻き込まない事、巻き込まれない様にする事が、貴方を匿う条件よ」
『……わかった。僕の名はホスラギ』
「櫻崎 萌子。弟の名前は八住浩太よ」
「お姉ちゃん、持ってきた!」
浩太がパンと牛乳を持って来て、私はホスラギに食べられるかどうか聞きながら食事を与えた。
「浩太。私、ホスラギと約束したの。ホスラギはある種族と喧嘩してるんですって。事情を聞いて、お姉ちゃん個人はホスラギを庇う事にはしたけど、浩太は絶対にどっちにも加担しちゃ駄目よ。何かあったら、お姉ちゃんに携帯で電話して。……家族に何かあったらどれだけ辛い思いをするか、浩太はわかるでしょう?」
この時、明るくヒーローになるんだと告げて誤魔化すという選択肢もあったけど、やめた。ヒーローになるかどうかは、まだわからないんだし、良く考えたらそんな嘘では浩太はヒーローに憧れてしまう。それに、人の死を良く理解しなかった浩太も、今では誰かが傷つけばその家族がどんな事になるか、良く知ってくれている。きちんと受け止めてくれるはずだ。
私の言葉に、浩太は不安げな声を上げた。
「お姉ちゃんは? かたんすると、危ないの? またお姉ちゃん、病院で眠るの?」
「そうね、最悪、もう会えなくなるかもしれないわ」
「駄目だよ! お、お母さんだって、お父さんだって、喧嘩したり、毎日泣いたり……!」
「そうね。お姉ちゃんも、出来るだけそうならない様に気をつける。でも、喧嘩に加担するってそう言う事なの。ホスラギさん達は、必死で仲間を引きいれようとするわ。その時、その中に浩太を入れないでくださいってお願いするには、必要な事なの」
「駄目だよ! ずるいよ、そんなの!」
『お願い、助けて』
優しい浩太は、私とホスラギを見比べ、涙を目に溜めた。
「もう、巻き込まれるのは確定みたいなの。浩太が戦うより、私が戦った方が生き残る目はあるわ。大丈夫。お姉ちゃんを信じなさい。あ、この事を大人に話したら、お姉ちゃん、研究所ってところに連れていかれちゃうから、黙っててね。さて、ホスラギ。貴方、偽装できる?」
言いながら、こっそりと浩太の影に私の使い魔、白閃を移す。
『出来るよ』
ホスラギがストラップへと化けて、私はそれを鞄につけた。
「話は済んだようだな」
私はとっさに浩太を庇う。
一言で言えば、ダークエルフに蝙蝠の羽をはやしたような男が私を見ていた。
……ちっ気付かなかった。学者野郎なら、戦闘なんて出来そうもな……駄目だ。エルーシュもカリュートも全然武道派だったじゃない。
ダークエルフ野郎は、こんな状況じゃなければ見とれている程の美形だった。エルーシュ並みに美しい。
「浩太、逃げて。ねぇ、ホスラギの言っていた事は事実なの?」
「事実だ。それに、この星の者がホーピアスの力でどんな武器を作るか……興味がある。さあ、戦おう。行け」
トカゲの化け物見たいのが追いかけてくる。エイリアンっつーより、魔物じゃない!
期待されてるけど、まだ夢想石は使う気はないっつーの!
私は、人通りの多い方向に浩太を連れて走った。
『夢想石を使うんだ、萌子!』
「動物実験も終えてないような物、使えるわけないでしょ!」
『動物なんかにあれは使えないよ!』
私はホスラギの言葉を無視して、声を上げる。
「助けて! コスプレした変質者に襲われる! 警察呼んで!」
ざわざわと人々がざわめき、携帯のフラッシュがたかれた。
もういいか。十分に人目は引いたし、他の人を巻き込んでも寝覚めが悪い。
「こ、殺される……!」
わざと相手の爪を受けて怪我をする。浩太がお姉ちゃんと叫んだ。
折りたたみナイフと、手の中にこっそり雷の球を取り出す。
そして私は折り畳みナイフを足元に投げた。
幸い、今日は曇り空なんだよねー。遠くで雷鳴もなっている。
ナイフめがけて雷が直撃しても、仕方ない、よねぇ?
特大の雷がトカゲを直撃して、私は悲鳴をあげて丸くなった。
カリュート特性の、ボスクラスにも通じる雷玉。これを食らってまだ生きていたら、諦めて魂具を出そう。
「今のは、偶然か……? まあ、いい。今はひとまず撤退しよう」
警察が駆けよってきて、トカゲ人間の死体の為に救急車を呼ぶ。
私は、事情聴取をされて、またマスコミの餌食となった。
「弟がいるから、助けなくちゃって……とにかく、必死で……。ナイフは、テレビに憧れて、持つだけ持っておくつもりで……。まさか、雷が落ちて来てエイリアンに直撃するなんて……。で、でも! いきなり追いかけて来たんだから、悪いエイリアンだと思います! この星の奴らの強さを見せてみろって言ってました! なんで、浩太みたいな小さな子や、私みたいな女の子を……。私、病弱で、お父さんにも凄く心配されていて……」
私は泣きじゃくって見せる。
一応、ナイフは持ち歩いても法的問題のない小さなものですよっと。
私をいじめている人達も、私がナイフを持っているとなったら引くだろう。
その日、ぐっすりと眠る。
夢の中、私は草原で、巨大な化け物に追われていた。
嘘、しかも真っ裸!?
私は武器を求める。
とりあえず、雷玉が欲しいっ
私が思うと、手の中が熱くなって、私は目覚めた。
手の平がバチバチ言っていて、ホスラギがそれを眺めていた。
起き上ると、手の中に夢想石。
「ホスラギ……あんた、本当に目的は逃げるってだけ? 私は方法はどうあれ、貴方を庇ったわよね? 言ったはずよ、怪しければ突き出すって」
『だ、だって! 君は僕を庇ってくれるって言ったじゃないか! なのに夢想石を使わないなんていうし……しかも、他の夢想石も取りあげるし。雷、本当に偶然かも確かめないと』
「私が約束したのは貴方を助けることで、夢想石を使う事じゃないわ。それとも、その夢想石を使う事で何かあるわけ?」
『……』
「警察に連れて行くわ」
私が着替え始めると、急いでホスラギは言った。
『わかった、言うよ! 見つけた人間に一番手柄を立てさせた人が、族長になれるんだ』
「……本当にあいつらが悪い戦争なわけ? 殺し合わせて最後に残った者を選んだのが、族長だーとかやったんじゃない?」
『……ギブアンドテイクは出来ていたはずだった。なのにあいつらは、それ以上を求めて来たんだ』
私は呆れた。
「自業自得じゃない。やっぱり警察に突き出しちゃ駄目? まさか夢想石が命を掛けて助けるに値する者だと思っちゃいないわよね?」
『浩太がいる限り、君は僕に協力するよ。望むなら、データを操作して君の口座に大金を振りこんでもいいけど』
私は腕を組む。
「……まあ、そうなんだけどね。データ改ざんはやめて頂戴。その代り、そうね、勉強を教えてよ。それと、のりかえられたら困るから、夢想石はこのまま貰っておくわ。安心してよ。方法はどうあれ、守るからさ。あんたの言う通り、浩太がいる限りね」
私は夢想石を放る。一度使ってしまったらもう同じだろう。特に変化はないし。
呪いかなんかがあったらカリュートに泣きつこう。
翌日、私の家に柊健太がやってきた。
健太は、私が昔、密かな憧れを抱いていたイケメンだ。
最も、私には不似合いだってわかっていたから、見ていただけだったけど。
「柊くん、どうしたの? あ、もう先輩か」
「櫻崎さん、久しぶり。ちょっと、良いかな。喫茶店で話したいんだ」
柊君の言葉に、私は心臓を跳ねさせた。それと同時に、何故か三人の仲間の顔も浮かんだ。
喫茶店に行くと、がっかりする。
他にも女の子達がいたからだ。男の子もいたけど、女の子の方が断然多い。何期待してるんだろ、私。
「君が、これを持っていたのがテレビに映っていた」
そうして取り出されたのは、可愛らしい羽の生えた子犬のストラップ。
『初めまして。あたしはホシータよ』
『ホスラギだ』
「ふぅん。それで?」
「僕達は、仲間だ。一緒に戦おう」
「いいの? 協力し合うなんて。ホシータは族長になりたくないの?」
『私は、一族の存続の方が重要なの。一般兵だったとはいえ、貴方みたいに一撃でリザードマンを倒せる人は戦力として貴重よ。あの雷、いくらなんでも偶然過ぎる。貴方の力なんでしょ?』
「……悪いけど、暇、ないから。私、バイトで一週間予定が埋まっているのよね。今日もこれからバイトだし。自分の身くらい、自分で守れるわ。相手のエイリアンも、警察が何とかしてくれるんじゃない?」
「お金がありませんの? ならば私、雇いますわ」
お金持ちで有名な石動雅の言葉に、私は考えた。群れた方が危険性は少なくなるだろう。バイトの日々は膿んでいた所だ。毎日バイトするよりは楽かもしれない。
「……わかったわ。条件を確認しましょう」
いくつか条件を確認していると、柊君が問うてきた。
「テレビのあれ、演技だったの?」
「ま、ね。警察に任せちゃった方が良いと思って」
「……櫻崎さんて、以前とイメージちょっと違うね。なんか、クールだ」
むっとした女の子達。特殊能力を持っている女の子達を敵に回すのはないわー。柊君てやっぱりもてるのね。
「恋人が良いのかなぁ。誰にも内緒ね」
「恋人、いるんですの? どんな方?」
「コスプレ仲間。遠距離恋愛だけど、ね。次会えるのは半年後かな」
「まあ。浮気が心配ではありませんの?」
私はカリュートを思い浮かべる。
「すっごく素敵な人なんだけどね。世の中、わからず屋が多いから。実はあんまり、心配してない」
そして心の中で、カリュートに手を合わせた。
「どんな方?」
「言って惚れられたら困るじゃない」
「まあ」
私の言葉で、空気は少し和やかになった。柊君は少し不機嫌になったけど。
バイトは一か月ほどでやめる事なり、携帯番号を交換した。
浩太にも忘れず連絡する。仲間が出来たから、心配しないでと。
バイト帰りの夜、公園で夢想石を使う。
ぶわっと夢想石が光り、その光を纏うかのように私の服が変わっていく。
手には杖が現れていた。
「こんなもんか」
杖に力を込めると、帯電した。
あえて、雷玉の効果に似せてある。
一応、力の事は黙っていた方が良いだろうと思ったからだ。
しようと思えばもっと色々出来ると思うのだが、どこまでやっていいかわからない。
魔術の知識や錬金術の知識、魂具の能力を前提とした物も多いからだ。無意識にでも、他の力を持っている事を示唆してしまうのはどうなのだろうか?
「やはり、夢想石の力か」
ダークエルフっぽい男に声を掛けられて、私は呆れて見せる。
「気配を消していきなり話しかけるの、やめてくれない? ねぇ、敵対はどうしようもない事なの?」
「我が一族は戦いを好む。こんな楽しい宴を終わらせるなんて、冗談だろう?」
今度は犬人間みたいのを連れて、ダークエルフっぽい男は言った。
「私はダークだ。櫻崎萌子」
「覚えたわ。ねぇ、ダーク。私がワンちゃんに勝ったら、ご褒美に手を引いてよ」
「それはないな。少なくとも、もう少し遊んでからだ」
へぇ、手を引く可能性はあるわけか。ある程度したら、ダークを倒そう。
私の力全部を使えば、なんとかなるでしょ。
考えている間に、犬人間が私に襲いかかって来る。
帯電させた杖で、私は犬人間と戦う。
しばらく時間は掛かったが、何とか倒せた。ああ、もう!
こういうのはフーデルの役目だよ。肩で息をしながら、怪我した部分を包帯で縛る。
「……ほう。櫻崎萌子、多少は武術が出来るようだな」
「ま、ね。貴方には及ばないけど」
「……私にはわかる。お前はもっと大きな才を秘めている。花開け、櫻崎萌子。そうすれば、私が直々に手折ってやる」
「あら、ナンパ? やだ、人生初めての経験ね。しかもイケメン。でもごめん、恋人いるの」
イケメンなので一瞬喜んだが、何かやばい空気を感じたので一応けん制しておく。ダークは失礼な事に僅かに驚く。そして、笑った。
「奪い取るのも嫌いではない」
まあ。ここまで言うなら、考えておこう。
そこで別れて一ヶ月後、私達は互いの能力を見せあった。
うん、力を小出しにしすぎたみたい。私が一番弱いや。あの雷の一撃は偶然って事に落ち着いた。皆のを参考に、後でパワーアップイベントを用意しよう。どこまで出来るか試してみたいけど、ホスラギが邪魔なのよね。
浩太も力の披露会に呼んでやると、目を輝かせた。そして、私の怪我に気付き、心配そうな顔をする。
「心配しないで、浩太。私、強くなるから、さ」
『萌子。しばらく、ホシータと行動したいんだけど、いいかな』
「構わないわ」
「櫻崎さん。ならば、私達の戦いを少し見て下さらない? 能力は弱いけど、何か手慣れているんですもの」
「オタクを甘く見ちゃーいかんよ。私って結構危ない奴ですから」
まあ、これぐらいはいいか。雅の言葉に笑って承諾して、指導をしてやる。
しかし、まあ。これは警察にエイリアン情報を渡したのは失敗だったかな。
何か、私達で解決できるし、解決した方が良い雰囲気だ。
そんなこんなで、小競り合いをしつつ、一年が過ぎようとしてきた。
なんか、良くわからないけど空気が桃色になってきたんですけど!
柊君、片っ端から女の子に手を出してるみたいだ。
ダークも私以外の女の子にもガンガン粉を掛けてくる。私が助けなきゃ、女の子が一、二回、浚われてたかもしれない。
そして、待望の宴会の日。都合良く、夏休み。
魔法の鞄にプレゼントも贈り、周りに私は用事があって場合によっては一週間は留守にする! と告げ、雅達に応援され、カモフラージュ用のプレゼントの箱も持ち、皆に見送られて駅へと向かっていた時。
ダークが攻めてきやがった。
しかも、悪い事に結構大勢で!
必死で戦うが、結構不味い。そんな時、通信が来た。
『萌子。皆もう集まっているぞ』
「ごめん、今ちょっと変質者な戦闘狂に襲われててっ」
冗談めかして言った言葉に返された反応は顕著だった。
三人が心配してすぐに次元移動の術を使って来てくれたのである。
連れていかれそうになった雅を、フーデルが助ける。
「ご婦人。大丈夫か?」
「は、はい……」
雅はぽおっとした顔でフーデルを見た。
「さっさと片付けて、デートに行くとしようか、萌子」
エルーシュの言葉に、私は頷く。
「うん! あ、こ、この人達にはね、夢想石を分けてあるんだ。だって、想像した武器や技が何でも使えるって素敵でしょ?」
私はとっさにごまかしの言葉を吐く。
「夢想石の力、受けて見よ!」
カリュートがそれに乗ってくれて、敵を一掃できた。ああ、またダークを逃がしちゃったよ。
「では、デートに行こうか」
「待って下さい! お礼と、後、お話を聞かせて下さいませ……!」
雅が言うが、フーデルは首を振った。
「悪いが、こちらが先約だ。行くぞ、萌子」
「うん」
後始末が大変そうだと思いつつ、私達は移動した。