あの日から、一週間が立った。
とある公園に、様々な人間が集まっていた。
学者風の男、凛々しい顔に緊張を走らせた男、どうみてもオタ。
その正体は学者、科学者、警察官、自衛官、オタである。
統一性が全くない彼らは、規律正しく並んでいた。
そこに、広場の中心に闇がわだかまった。
それは黒衣のローブの男と黒猫を創りだす。
男が、何事か喋る。全く理解できなかった。
闇が、整列した人間を包む。慌てる人々。その瞬間、人々は近未来的な教室に移動していた。
黒衣のローブの男が、両手を下に下げる。
それで、座れと言う事だろうと判断して、各々は席についた。
席にはスクリーンがあり、タッチペンがあった。
スクリーンには、採用試験と書いてある。
画面の文字が変わった。
スキャナに健康診断書の読み込みを、という事なので健康診断書を読みこませる。
全員の画面に丸が表示され、次に色々な質問が書かれた紙が表示された。
幸い、言語はほとんど日本語だった。
使える言語として、日本語と英語以外見たことのない言語がいくつも並んでいる。
次に、アピールポイント・所有資格を書く欄が出る。
次に出たのは、数々の問題だった。
これは、人によって違う。
画面に×が出たもの、勝手に席を立った者から、消えていった。彼らが戻されたという保証はない。
全員、緊張した顔で、質問に答えていく。
その間に黒衣の男は教室から消えていた。
テストが終わると、休憩時間とスクリーンに表示され、60と言う数字がゆっくりとカウントダウンされた。恐らく一時間ということだろう。トイレの場所が示され、スクリーンの横から軽食が出てきた。
警戒しつつも、体が栄養を必要としていた。それを食べ、飲み、教室の後ろ側に開いたトイレへと通じるドアに並ぶ。窓を覆うカバーも開いており、美しい星空と地球を見ることが出来た。
「貴方もここへ?」
「好きだったんですよ、鋼の帝王。シューティングスターに憧れたものです」
「駄目ですよ、そんな事を言っているとエルーシュ……とと、エルーシュ様に睨まれますよ」
「おっと、そうでした」
にこやかに話す。任務ですか? とは問わない。そんな事は当然のことだし、何より敵の監視下にあるからだ。
残りの数字が1になり、全員が席に座る。
0になった瞬間、ドアが開き、女の子……仮称萌子が現れた。
「はーい、ご苦労さまです。貴方達は合格です。後は次の集合場所に荷物を持ってくれば正式採用になります。これから、配属を決める為にいくつかテストを行います。念の為、砂漠地帯に行きます。つまり、貴方達は今から密入国で犯罪者になりに行きます。それだけでなく、戦闘訓練の事故で死ぬかもしれません。現地の軍に殺されるかもしれません。少なくとも魂は確実に裂きます。それでも良ければ丸を、悪ければバツを押してね」
少し迷った様子を見せ、それでも彼らは丸を押した。
「生体認証を済ませたわ。じゃ、行くわよ」
そういった次の瞬間、光に体が包まれ、砂漠のど真ん中にいた。
「じゃあ、この石を順番に握って、厨二魂を燃やしてみて。考えるの。最強の自分を。魔物を一体倒せたら合格ね」
そう言って、萌子は手近な男に虹色に光る石を持たせた。
「これってもしかして、夢想石ですか!?」
「私語禁止。ああ、テンションをあげる言葉なら言ってもいいわ」
喜ぶオタク達。警官や学者は戸惑っている。
「えっと……燃え上がれ、俺のオタク魂!」
石が強く発光し、そこにあったのは剣士の姿だった。
ぱらぱらと拍手が起こる。
「おおー!」
「すげー!」
思わず、そんな言葉が漏れる。剣士は剣を振ったりして目を輝かせている。
「私語は禁止。準備が出来たようね。エルーシュ」
萌子が言うと、光りに包まれた異形の怪物が現れる。
「!??」
声も出せない様子で、剣士は腰を抜かす。
元警官達は身構え、オタク達は逃げ出す。
「ここで逃げても死ぬだけよ? 臆病者は私の組織にいらないわ。心配いらないわ。その石の力を引き出せれば、死ぬことはないわよ。引き出せれば、だけどね」
「ひっ……う……うわぁぁぁぁぁ!!」
剣士が剣を振り、魔物の上半身と下半身がスパンとわかたれた。
吹き出す血に、失禁する剣士。
「よく出来ました。じゃ、石を次の人に渡して。このナイフで、使えそうな素材を採集して。一番簡単なのは毛皮ね」
更なる残虐なる命令と、間近に突き刺さるナイフ。
カクカクと頷いて石を次の人に渡す。その後、嘔吐した。
萌子はそんな様子を淡々とレポートにしていく。
次の人物は警察官だった。
夢想石はその人物に警察の制服を着せる。警察官は、一瞬うろたえた。
「んー。貴方に適正はないかもしれないわね。実在のものを具現化して、実際の銃より強い威力を引き出せるものかしら? 警官なのは問題ないわ。問題は現在の忠誠心ですものね?」
萌子が人差し指を顎に当て、微笑えみながら首を傾げる。
警官は、真剣な眼差しで現れた魔物に銃を向ける。
――祈り。彼が安らかに眠らんことを。
銃が巨大化して、コミカルな弾丸を吐き出し魔物を貫く。
弾丸はコミカルでアニメのようでも、魔物の死体は、穴が開く様はちっともコミカルではない。
そしてすぐに毛皮を剥ぎに掛かる。
そんなこんなで、戦闘訓練は続いていった。
「やっぱり陛下クラスの使い手はなかなかいないわね。夢が無いわねぇ。手に入った素材は、とっておきなさいな。あげるわ」
宇宙船に戻る。教室ではなかった。広い部屋で、黒衣の魔術師がペコリと頭を下げた。
「じゃあ、次はカリュートね。頼んだわよ、カリュート」
萌子はレポートを仮称カリュートに渡して去っていってしまう。
カリュートが何事か唱え、宙に光が現れた。
カリュートは手を振ってそれを消し、再度繰り返す。その後、促すような動作をした。
「まさか、やってみろってか?」
顔を引きつらせ、それでもカリュートの動作を、声を真似る。
延々と同じ動作を三時間。
47人中、5人ほど出来るようになったがそれだけだった。
カリュートがドアを開けると、先ほどの教室があった。違うのは、頭にかぶる装置が置いてあることだ。
その前には、仮称エルーシュが佇んでいてカリュートからレポート用紙を受け取った。
頭にかぶる装置は、ホームページを見たものなら知っている。バーチャルリアリティ装置、VRだ。
ゲームの中にも入れる装置といえば聞こえはいいが、頭を直接弄って情報を送る装置である。
それを被ると、膨大な操縦の為の知識が流れ、その衝撃が去るとパイロット席にいた。
眼の前、幸いな事にかなり離れたところにロボットが一体。
英語が堪能でないものも、バトルスタートというスクリーンいっぱいに広がった文字はわかる。
「マジかよ……! え、えと、どうすれば動く!? さ、さっき頭に走ったのが操縦法だよな!? 落ち着いて思い出せ!」
戸惑って何度も転ぶものもいれば……。
「本物のSGR! 燃える! やった! エルーシュ様感謝です!」
喜んで飛び回るものや……。
「発進します。前方に敵発見。周囲を把握」
淡々と役目を果たす者もいる。
テストが終わった時、共通しているのは、全員が体力を使い果たし、衰弱しているという事だ。
エルーシュが金髪碧眼の男にレポート用紙を渡す。
その際、フーデルという名前が判明した。
フーデルは先程の部屋に彼らを呼ぶ。部屋には魔方陣が描かれたシートが引いてあった。
フーデルは何事か唱え、様々な武器が彼らの前に転がった。
フーデルはレポートに何事か書き込んでいく。
「ま、また戦闘か……?」
フーデルが武器を出し、影に入れて手振りする。
どうにかこうにか真似をすると、更に隣の部屋に移動した。そこはキッチンで、萌子が待っていた。
「これが最後のテストよ。お腹すいたでしょ。自分で創ったスープを食べて、テストは終わりです。終わったらここにある紙を持って、転送装置に入って戻ってね。手順が書いてある紙は鍋の横にあるから。調合に失敗したら死ぬかもねー。まあ、無事だったとしても、紙に書いてあることを一つでも守れなかったら評価はガタ落ちよ」
各々、紙を見る。やる事は、鍋を火にかけ、切ってある材料を順番に入れてかき混ぜるだけだ。溶けるように念じながら、とか、順番や細かい分量、入れる速度などが書かれている事をのそけば普通の料理である。
とにかく、これが終わったら帰れる。ただし、失敗したら死。
慎重に調合をして、スープを盛り付ける。
その全てを萌子は味見して、紙に書いてあるとおりにしていなかった事を逐一言い当てながら、レポートに書きこんでいった。
そして、そのスープを全て飲み干させられる。
死の恐怖はあったが萌子が味見していたし、喉が乾いていたので、それは簡単な命令だった。
その後、紙を一枚取って、転送装置に入った。
来た時の公園だった。
生還したことを喜びつつ、彼らは行動を開始する。
ある者は元上司に、ある者は友人に、ある者は某巨大掲示板に起こった事を報告するために。