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No.28146の一覧
[0] 【改訂】トトトトトリップ!~錬金釜で萌知魔エ!~(オリ世界多重クロス)[ミケ](2011/12/10 15:08)
[1] エルーシュ・ディガー1[ミケ](2011/06/02 00:22)
[2] フーデル・フォン・デルフィン1[ミケ](2011/06/02 15:45)
[3] カリュート1[ミケ](2011/06/03 20:57)
[4] 櫻崎萌子1[ミケ](2011/06/05 08:32)
[5] それぞれの原作[ミケ](2011/06/06 20:52)
[6] 閑話 1[ミケ](2011/06/06 08:22)
[7] エルーシュ・ディガー2[ミケ](2011/06/06 20:49)
[8] フーデル・フォン・デルフィン2[ミケ](2011/06/07 17:32)
[9] カリュート2[ミケ](2011/06/12 12:24)
[10] 櫻崎萌子2[ミケ](2011/06/13 01:18)
[11] 閑話 2[ミケ](2011/06/14 08:32)
[12] フーデル&エルーシュ&雅[ミケ](2011/07/06 00:12)
[13] カリュート&萌子&浩太[ミケ](2011/07/18 23:53)
[14] 閑話3[ミケ](2011/07/19 23:56)
[15] 【エピローグは】最終回【頑張ります】[ミケ](2011/07/20 20:11)
[16] 俺達の冒険はこれからだ![ミケ](2011/07/20 21:38)
[17] 設定[ミケ](2011/07/20 22:13)
[18] 改訂予告 2[ミケ](2011/12/10 13:59)
[19] 改訂版 プロローグ[ミケ](2011/11/29 13:01)
[20] 改訂版 エルーシュ1章[ミケ](2011/12/07 21:23)
[21] 改訂版 暫定最終話 プロローグ[ミケ](2011/12/10 13:37)
[22] 改訂版 暫定最終話 1話[ミケ](2011/12/10 13:37)
[23] 改訂版 暫定最終話 2話[ミケ](2011/12/10 16:59)
[24] 改訂版 暫定最終話 3話[ミケ](2011/12/10 22:20)
[25] 改訂版 フーデル・フォン・デルフィン 一章[ミケ](2011/12/17 21:59)
[26] 改訂版 フーデル・フォン・デルフィン 二章ー1[ミケ](2011/12/18 10:59)
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[28146] 改訂版 エルーシュ1章
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/07 21:23

エルーシュ・ディガー

「鋼の帝王」

 月刊雑誌「多段キック」の一作品。
宇宙事故で奇跡の石、フレアストーンが地球にばら撒かれてしまった。焦ったシェランゼ星人達は、急いで回収に兵を差し向ける。
 たまらないのは、エイリアンの大群に押し寄せられて暴れられた地球だ。
 人型兵器スペースガーディアンロボット、通称SGRを使って防衛を始める。
 エイリアンの目的もわからず、苦戦を強いられる地球。
 そこに、天才科学者リアラが現れる。リアラのSGRはスペック上最強の筈だったが、新システムを使いこなせる人間がどうしても見つからなかった。しかし、そのシステムを盗んだ者が日本にいた。天才ハッカー、硬峰高校の神崎麗華だ。ハッカーを捕えに、また、自らのセキュリティを突破した者を自分の目で確かめに行ったリアラは、遠坂聖也がそのシステムで遊んでいるのを発見する。
 そして、パイロットに抜擢し、シュランゼ星人と戦い、和解にまで持ち込んでいく。
 フレアストーンは人類にはまだ使い道が無く、最終的にシェランゼ聖人に提供する事となる。
 エルーシュ・ディガーは噛ませ犬として位置づけられる科学者である。
 遺伝子をいじって、天才たれと作られた人間。
 ロボットの事しか知らない人物。リアラに敗れた後、命を絶つ。






 目を開ける。定期的に心臓が動いていることを知らせる機械音。
 目覚めを探知してブザーが鳴る。しばし、そのままじっと天井を見る。……戻ってきた。戻ってこれた、のか? 今までの事が夢だったのかもしれないなどと、有り得ないことを考える。しかし、私の影の中に蠢くものを感じ取り、それが現実だと教えてくれる。電子音と薬品の匂いにつかの間身を任せ、そのあと周囲に目を動かした。
 機械とベッド以外は何もない部屋だ。ゆっくりと起き上がる。体はかなり硬くなっていて、節々が痛んだ。
 ゆったりとした病院着をなんとなく撫でていると、扉が開いて看護婦が現れた。
 ショートカットのまだ若い女性が、驚愕に顔を染めている。
「奇跡だわ……。ご自分の名前がわかりますか? ここは病院で、私は担当のセーラといいます」
「エルーシュ・ディガーだ」
「どうしてここに来たのかは、わかりますか?」
「研究中に急に意識がなくなったんだ」
 看護婦は頷いた。
「エルーシュさんはもう一年も眠っていたんですよ。原因不明で、健康なはずなのに意識だけがなかったんです。栄養も摂取しなくていいみたいで……まるで時間が止まったみたい。これから先生を呼んで精密検査しますので、待っていてくださいね。食事は食べれそうですか?」
「ああ。それと、喉が乾いています」
「わかりました」
 看護婦が出ていくのを見送ると、手のひらを何度も握ったり開いたりする。体を徐々に慣らしていくと、医師が現れて私を窘めた。まだ起き上がるには早いそうだ。
「そうだ、エルーシュさんが目覚めたのをタイフーン社に報せましたら、メッセージが送られてきたんですよ。どうぞ」
 言われて、渡された端末を開く。
『エルーシュ・ディガー。お前は失敗作と判断された。死んでいれば財源回収が出来たものを。まあいい。いつ止まるかわからない欠陥品は我が社には必要ない。どこへなりとも行くがいい。所有財産の変換をするならば、重要でない部署に引き続き雇っても構わない。手続きは明日までに済ませるように』
 医者は絶句し、私はパタンと端末を閉じた。
 私は造られた人間、ニュークローンである。会社から追い出されれば、私有物は銀行の口座、それのみだ。ちなみに、会計装置に指を乗せて支払いする旨を音声認識させればそれで支払いは出来る。文字通り一からの出発。私は、ベッドから起きた。
「検査は必要ありません。退院しますので、医療費の支払いを」
「しかし、起きたばかりで……」
「大丈夫です、ご心配なく。問題なく体も動きそうです」
 私は立ち上がり、困った顔をした。
「その前に、着替えないと。服だけ通販してもいいですか?」
 その願いは、快く叶えられた。
 

 新しく真っ白な白衣に袖を通す。
 戻ったらやると決めていた事が、たくさんあった。
 会計を済ませると病院を出て、病院の外に並んでいる黒色のオートカーのドアに指を乗せる。
「エルーシュ・ディガー。最も大きなデパートに移動」
 ドアが開き、私は身を滑り込ませた。ドアがしまり、私は柔らかな椅子に腰掛ける。シートベルトが自動で胸の上でバツ印を描き、オートカーは出発した。
 オートカーが動く。瞬く間に景色が流れていく。背の高いビルが並び、空を高級エアカーが走りまわる。窓から見た、二十年ぶりの現代は、果てしなく美しいように感じられた。何もかもが懐かしく、暖かさと決別した異世界への寂しさが溢れでてくる。
 ……そうか。私は造り主に捨てられたのだ。その事実が胸に染み渡る。覚悟は出来ていた。萌子に「原作」の話を聞いていたから。SGRの為に作られ、SGRの為に生きてきた。以前の私だったら、社に縋っていただろう。けれど、今は違う。別に、SGRは会社に所属していなくとも作ることは出来る。今の私には、一人になれる環境が必要だ。正直に言って、未だ現実感はない。過去も現在も夢のようだ。いずれ、落ち着いたら私は泣くのだろうか?
 オートカーが止まり、私は思考を中断させてデパートの中へと入る。
デパートの入口にある緑色の端末を持って中に入る。まずはトランクを物色した。
大きな自走式のトランクのタグに付いているバーコードを読み取る。
ついで、三人への贈り物と、当座の生活用品を考える。食料品なら、必ず喜んでもらえる。だが、それだけではいかにも寂しい。萌子には可愛らしい服などどうだろうか? ぬいぐるみも喜ぶ。カリュートは植物の種だろうか。フーデルには、やはり宝玉の材料となる宝飾品の類だろう。本は三人とも好きだな。端末は私と萌子の二人に必要だ。カリュートとフーデルには恐らく扱えない。いや、ごく簡単な端末なら扱えるか。あるかな?
つかの間、買い物に夢中になる。途中、端末を操作して何度も商品を消したり付け加えたりした。トランクに入る範囲でないと駄目なのだ。
ようやく納得がいって、デパートの出入り口の横にあるレジに端末を押し付ける。
ついでに、トランクに詰めてもらうようAIの有料サービスを利用する。
 ピッと音がして総額が表示され、名前を言って指を押し付け、会計を済ませた。
 受け取り口でしばし待っていると、荷物が出てきた。大きなトランクを担いで、白銀のエアカーに乗り込む。遠いので、エアカーの方がいい。
「エチュリアートの山の麓へ移動」
 遠くも遠く、ど田舎の山奥である。エアカーはするりと動き出し、私は久々に体を動かした為、意識を手放した。
 大体、半日ほど眠っていただろうか。目を覚ますと、山の麓についていた。
 やれやれ、これを登るのか。
 私はトランクの自走装置を作動させ、誰の目も届かない山奥へと入っていった。
 生い茂る草と枝をかき分け、奥へと向かう。
 大分奥まで進んだ所で、息を整えてエルを呼んだ。
「はい、転移石だよっ」
 髪が短く、五歳ほどの年齢であることを除けば私そっくりの使い魔、エル。彼が影から半身だけ表し、差し出した薄い透明な石を両手のひらで包む。白光が辺りを覆い、白衣がはためき、髪が風に舞った。
 気がつけば、私は異世界、名付けるならば錬金術世界の一室に転移していた。
 転移石は既に消滅している。アレは消耗品なのだ。
 床には、四人の人間が投げ出されている。私達の宿っていた体である。二十年世話になったが、元の体を得た以上は必要がなかった。だから、錬金術の材料とする。
 黒いローブの男、カリュートが既に準備を終えていた。
 大きな錬金釜の下に魔方陣が描かれており、手を伸ばせば届く場所に薬品が置いてある。
「ああ、来たか、エルーシュ」
「他の二人は?」
「今来たわ。ごめん、ちょっとトラブルがあって服を用意出来なかったわ。だから、カラオケボックスで接待がせいぜいだと思う」
 とん、と音がして、萌子が降り立ち、手を合わせる。
「構いません。萌子の歌が聞ければそれで」
 ほぼ同時にフーデルが降りてきて微笑む。
「そうですね。ゴタゴタしていることですし、初めての祝賀会は控えめにしましょう」
「ごめんね」
 萌子はなおも謝り、そして錬金釜を見つめた。
「とうとう、この日が来たのかぁ」
 私達は、だれからともなく錬金釜の周囲に並び、調合を始めた。
 カリュートが火をつけ、湛えられた霊水は次第にグツグツしだした。
 四人で魔力を込めながら、調合をしていく。素材を入れる度、それを手に入れる苦労が思い出された。
 最後に、四つの体……各々が使っていた、錬金術世界での体を入れる。
 当然、禁呪だ。
 四体の体は鍋の液体に溶けていき、四人は全力で魔力を放出する。
 次第に次第に発光する粘性のある液体は少なくなっていき、最後に四つの指輪へと収束した。
 どれが誰の指輪か、自然とわかった。
 鍋を火から下ろし、カリュートが魔術で一気に指輪を冷ます。
 取り出した指輪を、それぞれ指に嵌める。
 世界移動の為の指輪。そして、共犯者の証。
 四つの世界から錬金術世界の胎児にある日唐突に憑依し、出会い、共に元の世界に戻る為に支えあってきた仲間。
 誰を裏切っても、何を捨てても、この仲間だけは裏切らない。
 それだけの絆を結んできた。
 私達は、同時に、思い思いに泣き崩れていた。張り詰めていたものから解放された瞬間だった。泣きながら、萌子が言う。
「じゃあ、私の世界に行こう。皆に、聞いて欲しい。皆の歌を」
 萌子の世界では、私、カリュート、フーデルは創作の物語の脇役だったという。
 自然、期待と不安に胸が高まるのだった。
 引き払った先で行ったのは、随分とレトロな街だった。
 空気がとても汚く、解毒の効果を持ったイヤリングを使う。
 行き交う人々の視線が集中する。
「ようこそ、ここは秋葉原。多少変わっていてもコスプレでも通用する街だよ」
 萌子は歩きながら、色々説明して回る。
 フーデルとカリュートの世界の科学は進んでいないため、興味深そうにしていた。
 カラオケ店に入ると、食べ物を注文し、萌子主催で宴会が始まった。
 萌子の歌った「鋼の帝王」の歌は、明るい歌だったのに何故かしんみりとしてしまった。


 私は、宴会が終わった後、元の世界に戻っていた。空には月が輝いており、つかの間星に目を奪われた。これが、私の世界の星空。見分けもつかないくせに、感慨深く感じた。
各々の土産は魔法のカバンに押し込めている。
 魔法のカバンは、重さと容積を軽減できるアイテムで、今使っているのは最高級品の倉庫用と呼んでいるものだ。
私はそれをエルに渡し、影へと仕舞った。指輪も、石を押すと指の中にめり込んでいく。仲間との絆の証を隠すのは辛いが、買っていない指輪を持っている事に不審に思われると困るのだ。
 この山には、もう少し用がある。
 宴会の際に萌子からもらったこの世界の物語、「鋼の帝王」を見ながら、それらしき場所を探す。
 自走式トランクを従え、生い茂る草を掻き分けていくと、見上げるような大きな岩のその頂上にに垂直に突き刺さった、円錐の形をした赤い石。原作でエイリアンのシュランゼ星人が探している、フレアストーンである。夜でも美しく輝くその石に、私は一瞬意識を奪われる。
 私はカリュートに教わった飛空の呪文を唱え、ふわりと浮かぶ。初めてこの浮遊感を味わった時は不安だったものだが、もう慣れた。
 突き刺さった石を眺める。赤く、透き通った石。目を凝らすと、その輝きは炎のように揺らめいている。ほのかに感じる温かみはまるで日向にいるようだった。これを解析、使用したSGRを作る事が、当面の目的である。
 エアカーの所に戻り、ホテルに向かう。
 腹は満ちているが、とても疲れている。当たり前だろう。この体は一年も眠っていた。
 それが起きた翌日に、一度もした事のない強行軍だ。もちろん、私は異世界で荒事に慣れている。悪魔として恐れられていたといってもいい。殺されかけた事は数知れず、殺した事はその遙か上を行く。けれど、鍛えた体は指輪となって輝いていて、今使っている体は貧弱な科学者のそれである。
 ホテルマンが、泥で汚れた白衣姿に僅かに動揺する。良いホテルは、今でも人が務めているのだ。
「予約していないのですが、部屋は空いていますか?」
 ホテルマンは服が汚れるのも構わず、私の体を支えてきたのでびっくりした。
「空いておりますが、大丈夫ですか? 医師を呼びましょうか?」
 顔色でも悪かったのだろうか。私はチップを多めに渡す事を決めた。
「いえ、疲れているだけで問題はありません。二、三日泊まります」
 正直立っているのも辛いほどに疲れていたのも事実なので、言葉に甘える。
 ソファーに座ると汚れてしまうので、風呂に直行したほうがいいだろう。
 ホテルの門を潜ると、黒髪の大柄な男、上司のアルベルトが手を降った。無論、ここに来た事を知らせたりはしていない。確かにアルベルトの権力を使えば私の口座の使用状況は確認できるだろうが。まずい。
「大丈夫か? 顔色が悪い」
「……話があるのなら、明日にしてもらえませんか? 少々疲れているので」
 問答無用で話を先延ばしする。風呂に入りながら対策を考えよう。
 私はアルベルトが頷くのを確認すると、ホテルマンに部屋に案内してもらい、風呂に入った。
 疲れていたためか、ついうたた寝をしてしまう。起きた時に体がふやけきっていたが、とにかく風呂から上がって体や頭を洗い、パジャマを着て髪を乾かし、浴室の外に出た。無言で着替えをする。朝だった。問答無用に朝だった。早く着替えていかないと朝食に遅れる。その上、体が熱っぽい。魔法の薬を飲めば一発なのだが、監視カメラは公共の場であるホテルの中にもあり、AIが非常事態に備えて常に監視している。私がのぼせなかったのも、AIが調整していた為だ。とにかく、AIをちょちょっとハックすれば簡単に部屋の映像が取得出来るため、魔法のカバンは出せない。
 せっかく二十年間鍛えた体が指輪と化していることに、自分でやった事とはいえ涙が浮かぶ。この程度で熱が出るとは、この体はなんとポンコツなのか。時間がない為、アルベルトの目的を予測し、対策を考えるのは食堂に行く間にしなければならないだろう。
 会社は私にはもう用がないはずだ。となると、資金の回収か。少し多いとは感じていたが、私が死ぬ事を想定して手当の名目で資金移動をさせていたのではないだろうか。私が死ぬと資金は造り主である会社へと戻るし。とはいえ、私にはこれから資金が必要となるので、少なくとも全ては返すつもりはない。問題は、取り返す為にどの程度の手段を講じてくるかだ。
 できるかぎり誤魔化して、不干渉を勝ち取りたい。
 決意だけ固めて食堂に行くと、ホテルマンに個室に案内される。
 思った通り、アルベルトが手を降っていた。
「少し顔が赤い。大丈夫かね?」
「風邪気味でして」
 その言葉に、アルベルトは眉を顰める。
「食事の後で医師を呼ぼう」
「必要ありません」
 魔法の薬の一つでも飲めばそれで完治である。ドーピングもぜひとも必要だ。この体、薬漬けにしてやるわ!
 しかし、その為に毎回誰もいない山奥に行くのは手間が掛かりすぎるため、山奥を除けば唯一監視カメラに悩まされない聖域、自宅を手に入れるまで我慢である。
 話している間に、食事が運ばれてくる。
 アルベルトが黙って端末を操作しているから、多分医師が来るだろう。そのまま薬を盛られてさようならする未来は避けたい。そういえば、この食事は安全だろうか。
『エル。解析を頼みます』
『影から解析するって、結構難しいんだよ? 全く……』
 エルに頼み、解析してもらった料理から食べていく。
 毒は入っていないようだ。一口食べて、しばし感慨に浸る。故郷の世界の料理を食べるのは実に二十年ぶりだ。
 噛み締め噛み締め、食べる。アルベルトは、何故かその間、話しかけて来なかった。
 食後の珈琲が運ばれてきて、ようやくアルベルトが口を開いた。
「これからどうするつもりだ?」
「田舎で家でも立てて趣味に生きます。それと、旅行もしたい」
 ぽろりと言葉が漏れた。
「そう……この世界を、知りたい。いろんな事を知りたい」
 私は、この世界に帰ることを何よりも望みながら、この世界の事を何も知らなかった。世界は広い。研究室の中だけではないのだ。各地に散らばったフレアストーンを探すことも必要である。
「知らなくていい世界もあるんじゃないかね?」
 脅しか? 私はしばし考える。一人で戦うにはこの体は貧弱すぎ、社会は面倒臭い。目的が金ならば、ある程度は譲ったほうがいいかもしれない。
「いくら払えば黙っていてくれますか?」
「……脅しと取られるとは心外だ。女装癖の事は誰にも言わないとも」
「女装癖?」
 私は首を傾げる。アルベルトが、少し動揺した様子を見せる。
 ……ああ! 買い物歴を見たのか!
「あ、あれは違います!」
「では何故?」
「あ……れは、脳内彼女にプレゼントを……」
 思わず目を逸らす。上手い言い訳が思いつかなかった。しかし、それにしても脳内彼女にプレゼントはない。
 しばし、互いに珈琲を飲む。落ち着く時間が欲しかった。
「とにかく。アルベルトが来たのは、私の口座の預金を回収するためではないのですか?」
 アルベルトは顔色を変える。
「馬鹿な……っ侮辱にもほどがあるぞ」
「そう言われても、死んでいたほうが資金回収できたのにってメールに書いてありましたし。それと、無理して失敗作を雇う必要はないですよ。しばらく一人で生きていける程度の資金はありますし、仕事を探すくらい出来ます。ただ、資金を寄越せというのは困るんですよね。命を狙われるぐらいなら返納もしますが、全部は困ります。ニュークローンの人権は法令でも認められていることですし……」
「……。連絡はしたと聞いていたが……そんな事を?」
 しばし絶句していたアルベルトは、震える声で問うた。
「知らなかったんですか。では何故ここへ?」
「部下が一年ぶりに目覚めて女装グッズを買いあさったり、山奥へ走ったと聞けば誰でも探しに来る」
 私はしばし考える。心配される、ということだろうか。凄く意外だ。
 追手が来る可能性が潰えたわけではないが、少し体から力が抜けた。
「私は失敗作なのですから、放って置いていただけると幸いです。監視もしないで欲しいですね。思えば、私は休暇というのを貰った覚えがありません。じっくり療養したいんですよ」
「そうか。家を建てたいといったな。不動産にはいつ頃行く予定だ?」
「今日にでも」
「私も行こう。家の事など知らないだろう」
「結構です」
 即答するが、アルベルトは医師を呼んで診察を受けさせた後、私を部屋のベッドに寝かせて不動産屋を直に呼んだ。私のプライバシーが……っと思うが、よく考えたら家の間取り等は即ハックで奪えるだろうから、同じ事だ。
 私はため息を付いて、アルベルトの助言を受けながら、家の設計をするのだった。



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