【ネタ・十二国記】仁?何それ美味しいの?
違和感
子供の頃から、そればかりを感じていた。
物心ついた頃には既に感じていたそれは時と共にゆっくりとだが確かに大きくなっていった。
おかげで常にいらいらしており、まともな人間関係も作れなかった。
それどころか近所の悪ガキどもとは常に喧嘩三昧で、小学校初期の時点で既に要注意人物扱いだった。
でも、心配してくれる両親と祖父母、兄弟を裏切る事はできなかったので、勉強だけは必死にやった。
14年、オレはずっと勉強と喧嘩を続けていた。
そんなだから、オレの趣味は静かに読書する事。
誰とも話さずに知識を貯め込んでいく事は、オレにとって非常に心地よいものだった。
だが、そんな生活は唐突に終わった。
祖父母の農業の手伝いを終わり、帰宅すべく通り慣れた街角を曲がった時
突然、大地が揺れた。
地震。
そう判断した途端、咄嗟に電柱や塀から距離を取り、両手をついて回りを警戒する。
地震大国日本でもそう簡単に体験できない程の揺れ。
家は大丈夫だろうか?農作業で疲れた祖父母は?
そう考えた途端、ガツン!といきなり頭に衝撃が走った。
近くの家の屋根から落ちら瓦だ。
そして、オレは自身の血の海に倒れ込んだ。
気付けば、何処か鬱蒼とした森の中にいた。
「何処だここ?」
全く見覚えが無い。
植物なんかはテレビで見た南米の密林に似ている感じがするが、専門家でもないのであまり詳しくは解らない。
そのままボーっとしていると、唐突に近くの茂みがガサコソ。
「っひ!?」
出てきたのは、図鑑でも視た事の無いような猿の化け物だった。
全身が白の体毛に覆われ、丸太の様な太い腕に3m近い体躯。
そして、何より重要ななのは…
明らかにこっちを見て涎を垂らしている事だ。
逃げた。必死になって逃げた。
無我夢中、とはこういう事を言うのだろうと、そう思える程に走った。
何時の間にか大猿は追わなくっていたが、それに気付かずに走り続けた。
「何、とかっ、まいた、かっ?」
ぜぇぜぇと息を荒げて周囲を警戒する。
…どうやら、もう周囲には何もいないらしい。
「水、水~。」
近くに流れている川に近づく。
一見して澄んでいるようだが、山水は鳥の糞等で腹を下しやすい。
だが構うものかと顔を突っ込んで思う存分水を飲んだ。
そして、漸く一心地ついた時、オレは漸く感じ続けていた違和感が消えている事に気付いた。
「は…何だこりゃ?」
そして、自分の身体に目をやって、オレは漸く異変に気付いた。
服を着ていない。
いや、それどころか人の身体ですらない。
銅色の鹿か馬の様な哺乳類の身体に、視界の隅に見える赤い鬣(たてがみ)。
水面を鏡代わりにすると、更に額から一本の角が突き出ている事が解る。
「なんだよ、これ…。」
自分の正体が解らない。
自分は人間だった、その筈だ。
だが、今の事の姿は、なんだ?
「なんだよ、これ!!」
オレは、狂った様に叫び続けた。
小一時間ほど経過して、オレは漸く叫ぶのをやめた。
「絶対に生き延びてやる…!」
こんな訳のわからない状況で死んでやるものか。
ジャングルの中、赤い獣が宣言する様に吠えた。
ジャングル生活二日目
川を中心に活動。狩りや住居を作ろうにも、蹄では不可能。
仕方無いのでそこらの草を適当に食べてみた。苦い。
変な実のついた木の下で寝る事にする。
木の実は高さがあって取れないが、何故かここにいる獣は襲ってこない。
ジャングル生活三日目
ウサギ等の小動物を標的として狩りをする。
爪も牙も無いので額の角を用いての突進を試すが、成果はゼロ。
今日も草を食んで飢えを誤魔化す。
ジャングル生活四日目
遂に狩りに成功、角でウサギを打撃し気絶させた。
漸く肉!と思ったら、羽の生えた犬が掻っ攫っていった。畜生め。
今日も今日とて草を食み、水を飲む。
木の根元に枯れ草や落ち葉を集めてベッド代わりにして眠る。
ジャングル生活五日目
今日はプレーリードッグ?を角で仕留めた。
火は無いからそのまま食べた。毒や寄生虫を避けるため、内臓は避ける。
血の匂いが濃い上に肉が硬かくて不味かった。
魚の捌き方とか教えてくれた祖父母に感謝する今日この日。
血の匂いを川で水浴びして消してから眠る。
ジャングル生活六日目
鹿?を仕留めた。足が速かったが、こちらよりは遅かったので簡単だった。
やはり食事は生、でも段々慣れてきた。
内臓や骨を残したが、先日のネズミ(角あり)やプレーリードッグ?が来て残りを食べた。
川で水浴びの後、草を食んで眠る。
枯れ草や落ち葉は順当に増えて、今や全身ゆったりと眠れる。
ジャングル生活七日目
狼?の群れに出会う。
幸いにも足はこちらよりかなり遅いため、逃走に成功。
その後気付かれない様に大周りして突進、離脱のヒットアンドアウェイを繰り返し、群れの半数を刺し殺し、群れは散り散りになって逃げた。
今日の飯は狼?の肉。大きな一頭だけ食べると直ぐに離脱。
血の匂いで大型の肉食獣を呼んでしまったらしい。
集まっていた角ネズミやプレーリードッグが耳の長い肉食動物に蹴散らされていた。
ジャングル生活八日目
人間を見かけた。
しかし、その恰好はぼろい着物に鎧や剣を装備。明らかに堅気では無い。
それに今の自分は如何にも貴重そうな獣。狩られるのは御免である。
ジャングル生活九日目
巨大な鳥から逃走。
空から滑空してくるので気付けば回避しやすいが、延々と狙われるのは神経をすり減らす。
相手が降りて来る瞬間を狙って何度も足に角での斬撃を当てた所、漸く撤退してくれた。
今日も水浴びして草を食んで寝る。
ジャングル生活十日目
以前会った大猿に遭遇。逃げ続けるも、森の中では加速しきれない。
そして走り回った所、崖に気付かず飛び出てしまった。猿も一緒に。
このままDeadendかと思いきや、もがいた所、空中を走った……背中に猿を載せて。
そのまま着地すると、猿はこちらを襲わなかった。
???は大猿(仮)を仲間にした!
ジャングル生活十一日目
今日から大猿と共に狩りをする。同時に飛行訓練を開始。
以前狩った鹿?を日中に三頭も狩った。やはり戦争は数だよ兄貴。
猿と共に鹿を食い、変な木の下で寝た。
ジャングル生活二十日目
すっかり狩りにも慣れて日に日に食生活が豊かになっていく。
大猿は食べられる木の実や茸が解るので、肉以外も充実している。
木の下のベッドも拡張してすっかりマイホーム化。
正直、野生動物としての生き方が馴染んできている気がする。
ジャングル生活二十二日目
大猿が宝石を食べてトリップしていた。
慌てて鼻先で頭を叩いて正気に戻す。隙を見せたらここでは生きていけない。
その後は大猿に宝石喰うなら寝床でしろときつく言う。
一応人語は理解するらしく、それからは寝床以外でトリップする事は無くなった。
ジャングル生活二十五日目
大型肉食動物と遭遇してしまった。
何時もの狩りの最中、大猿にいきなり飛びかかっていった。
空かさず後ろ足で蹴り上げて援護。その後、一時間?程の睨み合いの末に撤退させる事に成功した。
ジャングル生活三十日目
最近襲ってくる獣の数が増えた。
その度にマブダチの大猿と共に撃退していくのだが、どうにも多過ぎる。
このままでは狩りに専念できない。
ジャングル生活三十二日目
遂に襲撃増加の原因が判明。
以前の大型肉食獣が周辺の獣をけしかけていたらしい。
その日の内に猿と襲撃、長時間の戦闘に及ぶが辛うじて勝利。
???は大型肉食獣を手下にした!
その日、男達は黄海に潜っていた。
男達黄朱の民の中でも妖獣を捕獲する事を生業とする者達であり、今まで数多くの妖獣や妖魔と戦った経験を持っていた。
今回もまた騎乗用の妖獣を捕獲しようと黄海に来たのだが……その時見た光景は、そんな彼らをして想像の範疇を超えていた。
あんぐりと口を開いた彼らの視線の先には、百以上の様々な妖獣・妖魔が列を成して行進する姿があった。
小型の妖魔から比較的大人しい妖獣、何十人もの軍隊を軽く蹴散らす大型の妖魔達。
それらが群れを成して行進していくのだ。その堂々たる姿に、男達は隠れる事も忘れて棒立ちとなっていた。
そして、その群れの先頭を行く者を見て、更に衝撃を受ける。
赤い鬣(たてがみ)、赤銅の毛並み、そして額から延びる宝剣の様に鋭い角。
赤い麒麟、赤麒の姿がそこにあった。
だが、それを見て麒麟と断言する事が男達にはできなかった。
並の軍馬など足元にも及ばない鍛え上げられた筋肉と、通常の麒麟の二倍はある体躯、潜り抜けた修羅場を物語るかのような多くの傷痕。
争いを好まぬ仁の獣?あれ明らかに歴戦の軍馬か何かだよね?もしくは黒○号。
男達はただ呆然とその威容を遠巻きに眺める事しかできなかった。
???は、当初の目的である生存が満たされると、続いてそれも持続を願った。
しかし、彼は本人?は知らぬとは言え麒麟である。彼が狩りや戦いの際に流す血とその匂いは、力ある妖獣や妖魔を引き寄せる原因となった。
対し、???は実力を持って外敵を排除するか、その傘下に加えていった。
既に蝕により黄海に降り立って三年の月日が経つ。
人の知能を持つ???が生存競争に慣れれば、食物連鎖の階段を駆け上がるのは当然の事だった。
勿論、麒麟としての本能があるため、???は本来肉や魚、血に暴力は苦手だ。苦手だが、生きたいという生物としての欲求が、仁の獣としての在り方を否定してしまったのだ。
そして、???はこの三年間黄海中を駆け抜け、その配下を徐々に増やしていった。
だが、それは使令としてではない。あくまで実力でその傘下に加えていったのだ。
元々麒麟とは天の力を受け取る事ができる神獣。全力を出した際の神通力は妖魔如き比では無い。
それは史実において高里が自身の王を背後において饕餮を使令に下した事からも解る。
ましてや、更に希少とされる赤麒麟なら言わずもがな。
その結果が、この百鬼夜行な光景であった。
後日、正気に戻った男達は急ぎ蓬山の女仙達に事の次第を話すのだが、余りの内容に信じられるのに2日掛かる事となった。