「こんばんわ、お兄ちゃん」
教会での神父と話が終わり遠坂と歩いてきた道をセイバーと二人で歩いていた。
神父の話
切継の事
知らなかった事を色々と知る事なった。
ただ、一つ誓ったのは十年前の悲劇を繰り返させないという事だった。
「士郎?あの子、貴方に話しかけているように見えたんだけど知り合い?」
「えっ……」
士郎はセイバーの言葉に顔を上げるとそこには雪のように白い髪をした少女がほほ笑んでいた。
そして、その隣には雨も降っていないのに雨合羽を深くかぶり顔を隠していて、となりにいる少女と同じくらいの背格好の子供が士郎の方をその深くかぶったフードの中からじっと見つめていた。
「やあっと出てきと思ったら無視は酷いんじゃないかな?はじめまして、私の名前はイリヤ――イリヤスフィール・アインツベルンと言えば分るかな?お兄ちゃん」
「君みたいな子供が俺に何の用だ」
その言葉にイリヤは士郎を睨み付けるとこう告げた。
「人を姿で判断するのはよくないと思うな……じゃぁ、始めましょうか……ずっと、この日を待ちわびてたのよ!やっちゃって!バーサーカー」
その言葉を合図にフードを被った子供は走りこむと士郎へとどこからか取り出した長い刀を向ける。
セイバーはその刀に何か嫌な予感を憶えて急いでソニックブームで士郎を抱えて距離を取った。
「士郎は離れていてください!このサーヴァント危険です!」
「あら、逃げるの?お兄ちゃん?逃がしてはダメよバーサーカー」
イリヤの言葉にフードを被った子供は立ち止まると自らの体格以上の刀を構えた。
その様子にソニックブームで一気に勝負を賭けようとするが、刀が動いた瞬間、急いで背後へと跳ぶ。
まるで三つの斬線が迫ってくる中でセイバーは一太刀目を躱し、二太刀目を受ける。だが、三太刀目を受け切れず僅かに服を切り裂かれた。
「噂以上に厄介な相手ね……セイバーの癖に最速のサーヴァントと言った所かしら?」
「そういう貴方の刀の腕はどれほどの鍛錬を重ねたものなんですか?その体格で出せるような技ではありませんね」
セイバーの言葉にバーサーカーは持っていた刀を消滅させると一気にセイバーへと斬りかかる。
その状況に冷静に受け流そうとするが荒れ狂う暴風で押し潰される。
“風王鉄槌”
荒れ狂う暴風にセイバーは押し負け、吹き飛ばされるがその先から黄色に輝く魔力の球が放出される。
それを撃ち落とす為にセイバーから目を離してしまう。
「バーサーカー後ろ!」
その言葉に気付くと急いでバーサーカーは背後にいたセイバーの鎌を受けようとするがスピードでは敵う筈がなく合羽を大きく切り裂かれてしまった。
「何!」
「おい!どういう事だよ!」
セイバーも士郎も目の前に現れた光景に思わずそう呟いてしまう。
目の前にいるのはどこからどう見てもイリヤなのだ。
その状況にバーサーカーは溜息を吐くと士郎に向けてこう声を投げかける。
「久しぶりね!お兄ちゃんって、この世界じゃお兄ちゃんじゃないのか」
「どういう意味だ!」
「黙りなさい!バーサーカー!それ以上はの発言は許さないわよ!」
何かを言いかけたバーサーカーの言葉をイリヤは遮る。
そして、バーサーカーに指示を下す。
「あの魔槍を使いなさい!それを使えばセイバー如きに後れを取ら無い筈よ!」
「わかりました……マスター……ごめんね、お姉さん」
バーサーカーはそう呟くと見えない武器が紅い槍へと変貌していく。
それに合わせて、来ていた鎧から青い服へと変化した。
「何を!」
槍先に集中していく禍々しい殺気にセイバーは鎌から魔力の刃をバーサーカーへと飛ばす。
「無駄よ!その心臓を貰い受ける!」
低く放たれた槍を上から押さえつけて軌道を逸らそうとするが、鎌が槍に触れる瞬間に槍の周りの空間が螺旋曲がる。
『刺し穿つ死棘の槍!』
その瞬間、槍の軌道は捻じり曲りセイバーを貫こうとする。
イリヤもその瞬間、セイバーを倒したと確信した。
だが、その槍は突如として軌道を変えて別の心臓を破壊する。
「嘘!なんで!狙ったのはセイバーの心臓よ!」
あり得ない状況に宝具を使用したバーサーカーですら言葉を失った。
「やれやれ、ゲイボルグ……クランの猛犬の持つ心臓を狙う魔槍とは聞いていたがこうなると自信が湧くな。つまり、用意しておいた心臓をセイバーの心臓と勘違いしたんだからな……」
「セイバーの心臓を誤認させた!貴方何者よ!」
イリヤはバーサーカーに指示を飛ばし、その乱入者を消すように指示を飛ばす。
だが、その間に影が乱入する。
「マスターはやらせないよ」
「アサシン……ってことは貴方がアサシンのマスターってわけ」
「ご名答……アサシンのマスターの若輩者の人形師であります。人形師としては落第点の失敗作故にホムンクルスの令嬢と比べるのはおこがましいかも知れませんが、ここはお相手願いましょう」
そう告げるとアサシンは士郎を抱えて言峰教会の裏手の墓場目指して急いだ。
そして、墓場につくと立ち止まりアサシンは士郎をセイバーに投げ渡すと追ってきたバーサーカーではなく、マスターへと走り出す。
「させないわ!」
バーサーカーが急いでアサシンとマスターの間に入るが第六感がバーサーカーにアサシンから距離を取らせた。
だが、それが正解だったとすぐに理解する。
何かは解らないが、先程までバーサーカーが場所は何かに抉り取られていた。
「おい……ホムンクルスの代名詞なら戦闘用ホムンクルスとか出さないのか?それとも、わざわざ先手を譲ってくれるってか?」
イリヤは本来ならば背後からの謀殺を警戒しなければならないアサシンの異常な能力に驚いてしまい、マスターから目を逸らしてしまう。
そして、それを余裕と受け取ったアサシンのマスターは近くにあったアタッシュケースに一滴の血を落とす。
「これが人形師失敗作である私が出した結論です。まぁ、貴方方ホムンクルスを創る名人から見れば塵以下の代物かも知れませんが……」
アタッシュケースから現れたのは一人の女性だった。
だが、それは見た目だけで内部はすでに別次元に昇華されているのは明らかでさながら人間の皮を被った悪魔と言った所だろう。
その様子にイリヤもバーサーカーも驚くがそんな驚いている余裕は与えられない。
その女性が一歩歩き出すと何やら口を動かし唱え始えめる。
その様子に何かが起ころうとしているのか理解すると咄嗟にバーサーカーに指示を飛ばす。
「バーサーカー!逃げて!」
その指示が届いたのと同じタイミングで詠唱が終了するとバーサーカーに対して殴りかかる。
「無駄よ!しょ……嘘でしょ!まさか、対吸血種用に仕上げてるの!」
有り得ない怪力と聖堂教会が用いる洗礼詠唱の組み合わせにバーサーカーは驚きを隠せない。
本来、相容れないはずの聖堂教会の術式を用いるだけではなく、聖人の持ち物の一部を埋め込む事により能力の強化と補強に加えて悪しきモノを払うという浄化の概念武装として完成させているのだ。
「貴方が失敗作?天才の間違いじゃないかしら?」
イリヤは忌々しげにアサシンのマスターを眺めるが、マスターは首を横に振りそれを否定する。
「何をおっしゃってるのですか?私は人形師としては出来そこないですよ?かの青崎にすら貴様は人形を創るつもりがあるのかと言われたぐらいでして、私が作る人形は欠陥品ばかりで人間を創る事は出来ないのです。機能の一部を再現程度が関の山でね」
「つまり、異端ってわけ……あいつと同じ魔術師殺しってところかしら?でも、そんなこうげきじゃぁ、私に傷つける事なんて……」
そう言いかけた所でイリヤは言葉を止める。
なぜなら、首筋にナイフが突きつけられていたからだ。
気が付かないうちに背後から……
「誰も私が一体しか人形を操れないとは言っていませんよ?」
イリヤはバーサーカーの方に視線を送るが、バーサーカーもアサシンと人形相手に苦戦を強いられているらしくこちらの手助けを出来るような状況ではなかった。
完全に敗北しかないこの状況にイリヤはアサシンのマスターを睨み付けると令呪を使用する。
「令呪をもって命ずる!私を安全にここから離脱させなさい!バーサーカー!」
その言葉にバーサーカーは頷くと二人の攻撃を聖杯からのバックアップで強化された脚力で躱し、マスターに迫る。
その様子につまらなげにイリヤの背後にいた人形を下がらせるとそのままバーサーカーを追おうとせず見逃s。
「おいおい、いいのか?アイツなら私らだけでも潰せただろ?」
「いえ、何やらキャスターが協定を結び勢力図が出来つつある状況でのバーサーカー敗北は今後の戦局に多大な影響を及ぼしかねません。まぁ、彼女の宝具を大体は把握したという所で今回は元々引くつもりでしたし、彼女の能力は期待外れでしたから……」
そうアサシンに返すと、マスターは士郎へと近付いて行った。
前回の話の途中にあった出来事です。
これで、バーサーカーが確定しました。
後悔はしていません。
因みに、アサシンのマスターの人形に埋め込まれている聖遺物は封印指定を潰した際に奪ったものだったりします。