それは全ての終わりであり、始まり
私はその時の自分の行いを後悔している
好奇心は猫をも殺す
私は子供だった……餓鬼だった
好奇心に任せて深い森の中へと入っていき、ソレに出会ってしまった
「あら? ここまで誰にも出会う事なくたどり着いたの?」
本来なら情人では辿り着く事の出来ない場所
運が良かったのか……
それとも悪かったのか……
私はソコへと辿り着いてしまった
「貴方は運がいいわね?」
私は目の前の存在に言葉を失った
子供から見てもわかる
絶対的な壁……そして、自らがいかに虫けら以下の存在であるかを
「本当に面白い子ね……貴方がここまで辿り着いたのも何かの縁……貴方の願いを一つだけ叶えてあげましょうか?」
「わ、私は…………お父さんの言葉をみんなに聞、聞いて、欲しい……」
それがすべての悪夢の始まり
終わる事のない……生きながらにして地獄……
そう、それこそが彼女の死だった
そして、彼女が産声を上げた瞬間だった
凛に肩を抱えられて逃げ出す中で杏子は夢を見ていた。
遠い過去の夢……もう思い出す事もないだろうと思っていたすべての始まり……
まだ十代とは言え、前線で吸血鬼を狩り続けてきた
この聖杯戦争すらも、そんな戦いの一つにしか本来は過ぎなかった
しかし、自分の過去の幻影を他のマスターや自らのサーヴァントに視てしまう
きっと、今更になりあの悪夢を思い出したのもそれが原因なのだろう……
「もういい……私は大丈夫だ。それより、毎回あんな化物が召喚されるのかい? 聖杯戦争ってのは……私はソッチの方の部署には顔が利かないから分からないけどさ」
新都と深山町を隔てる川原のベンチに杏子は腰を下ろしながら凛にそう尋ねた。
ライダーの悪霊、異常なアサシン……アサシンはまだマトモかもしれないが、ライダーに関しては反英霊どころか、英雄であるかどうかすら怪しく思えてしまう。
それにあの女は確実に何かを隠していた。
もしも、杏子のこれまでの吸血種や封印指定どもとの戦いから培われた経験に基づいた直感が正しければ、あの女は今後、何かしらの仕掛けを施し最大の敵になるだろう。
杏子としてはその確認の意味もその質問には含まれていた。
「そんな事、私に聞かれてもわからないわよ! ただ、何かがおかしい事だけは確かね……何かがあるのかもしれないわ」
凛が何か思い出そうと必死に頭を動かす中で杏子はある事を思い出した。
第四次聖杯戦争の聖杯によって引き起こされたであろう大火災……
大量の死者をだしたが、何を聖杯に願ったのだろうか?
第八秘蹟会に問い合わせれば当時の資料が手に入る可能性があるが、今の監督役がその戦いに参戦していた言峰だ。
そうなると、他に手を考えるとするならば他の参戦したマスターから情報を聞くしかないのだが、当時の戦いにおいて生き残ったのは三人であり、そのうちの一人の衛宮切継は既に死亡、ウェイバーベルベットは此方の立場上、接触は難しい……。
杏子はその事に完全にお手上げであると結論付けると小さくため息を吐いた。
「あの! 杏子ちゃん、聞いて見たい事があるんだけどいいかな?」
突然、まどかは杏子にそう切り出す。
知っている杏子とは違うが、失われている記憶の手掛かりがつかめるかもしれない……そう考えての問いだった。
まどかの中には、今も戦う事を迷っている自分がいた。
相手が自分と同じかそれ以下の少女であり、なんでお互いに傷付け合わなければならないのか頭では理解出来ても心が納得できずにいる。
そんなまどかの真意に気が付いたのか、杏子は呆れながらこうまどかに告げた。
「あんたが聞きたいのは、私が何で戦うのかだろ――そんなに怖いのかい? 人に武器を向けるのが」
「と、当然だよ! 私はそんな事の為に魔法少女になったんじゃないよ!」
思わず感情の漏れたまどかに杏子は溜息を吐くと、頭を掻き毟る。
その様子にさくらは思わず笑みを漏らした。
「なら、それが理由でいいんじゃないか? あんたはその何かを守り通す為に魔法少女になったんだろ? なら、それを最後まで守り通せばいい。簡単な話じゃないか」
「それは、そうかもしれないけど……なら、杏子ちゃんはなんでそんな風に戦うの?」
その言葉に何かを言おうとするが、杏子はそれを寸前で思いとどまると顔を俯かせ顔の表情が分からないようにする。
さくらはそんな杏子の様子に何かを言いかけるが、さきに杏子に止められてしまった。
「別にいいよ……キャスター……どこにでも、ありふれた不幸だからさ。そんな不幸から逃れたくてこうなったってとこだよ」
そんなのはデタラメだった。
ありふれた不幸……私は自分で全てを壊してしまった。
私が戦うのは全て自分の為だ。誰の為にも力を使わない……自分の為だけに力を使う。
本来ならば既に死んでいたであろう自身がまだ生き続けているのは単にあの女の御眼鏡に適ったからである。
けれど、居場所などない……なってしまった以上はこの世に居場所などどこにも存在しない。
だから、戦い続けている。生きる為に……そんな事、まどかに言える筈が無かった。
そんな杏子の返答に凛はすこしだけ勘違いをしていた。
魔術師であろうとすればする程に今ある現実から離れてしまう。
それが魔術師としての性なのだ。
凛は杏子の使っている認識齟齬らしき魔術……それをサーヴァントに対して行使してる実力は全魔術師の中でもトップクラスの人間であるという事でもある。
それに加えて、英霊と対等に渡り合っている槍の技術……
普通に生きていないのは明らかだった
――実際は、凛が思っているよりも更に深い闇にいるのだが……
「ごめんね……変なこと聞いちゃって……そうだよね、杏子ちゃんのしている事は遊びじゃないもんね……命を危険に晒す仕事……気まぐれなんかでやってるわけじゃないもんね……でも、何か思い出せた気がする。私は大切な何かを守り通したくて魔法少女になったんだと思う。だから、その時の自分の誓いを嘘にしたくない! これじゃあ、戦う理由にならないかな?」
まどかの言葉に杏子は深く頷く。
「いいんじゃないのかい? 私にはあんたが何を思って英雄の座にまで上り詰めたのかは分からない。だけど、アンタが生半可な思いで英雄になったとは思わないからさ――なら、その思いを貫けばいい」
杏子はそう告げるとそっとまどかの頭を撫でた。
はるか昔のように遠く感じてしまうほどの数年前……
姉思いだった妹に対して頭を撫でてやったように……
そう思うと自責の念が込み上げて来るが、涙が出るのを堪えるとまどかの頭から手を放した。
まどかはいきなりの行動に顔を真っ赤に染めて頭から湯気が出始める。
その様子を凛とさくらは楽しげに微笑んだ。
「それで、これからどうするつもりだい? 確実に私らは協力関係だと思われちまったし、私とキャスターだけではアサシンは倒せない――同じく、アンタとアーチャーだけでもアサシンは倒せない」
少し間をおいて、まどかが復活すると杏子はそう切り出してきた。
アサシンのキャパシティは不明だが、能力的に言えば魔力を用いる攻撃は無意味だと考えた方がいい。
そうなると、キャスターの能力では不利になると考えての事なのだろうがそこで何かが引っ掛かってしまった。
キャスターの宝具は未だにわからないが、あの時使用したカードと考えていいだろう。
そうなると、魔力で何かを動かし戦うという方法を選べば十分に勝機はあるのではないか?
その答えに行きつくと、凛はこう尋ね返した。
「そうかしら? キャスターの宝具は応用性の利くモノな気がするし、それ以上にアンタが何も切り札を隠してないようには思えないのよね」
「こりゃ、鋭いね……確かにそうなんだが、私が危惧してるのはアサシンじゃないんだよ」
杏子の言葉に思わず、凛は首を傾げる。
杏子の戦闘技術とキャスターの能力を考えると、ランサーとセイバー、ライダーとなるがそこまで彼女たちの強敵として立ちはだかるとは思えなかった。
それに加えて、バーサーカーはまだ表立っては動いていないが、前例から判断するに力押しで来るタイプだという統計を踏まえるのなら十分、杏子達だけでも対応しきれる筈だ。
そこで、先程の言葉を思い出す。
悪霊……つまり、杏子はこれまでの話から推測するにライダーを警戒しているのだ。
しかし、凛にはそこまで弱っているライダーを危惧する理由が分からなかった。
「ライダーのことかしら? でも、貴方の言ってる事が正しいのならライダーはすでに相当弱っているはずよ? ここまでの情報をまとめれば、一番魂喰いをしなければならないほどに追い詰めれれてる……それなのに、どうして、そこまで危険視するの?」
「はぁ? アレが弱ってるって? あいつは無限の再生能力を持つバケモンだよ? ――私とキャスターで撃退するのが精一杯だったさ」
撃退――凛はその言葉に驚きを隠せなかった。
キャスターの近接戦闘の能力はどう見積もっても低いが、それを補う形で杏子の近接戦闘技術は高い為に逃げられる事はあっても押し切れないというのは耳を疑ってしまう。
これまで見た杏子の戦いから、相当な熟練者である筈だ。
しかも、魂食いをするまで追い詰められているという状況と喰い違う。
ライダーをこの目で見るまでは分からない事が多すぎる……
杏子の言葉に凛は驚きを隠せないが、それ以上に動揺していたのがまどかだった。
「ソウルジェム……」
その言葉に杏子は左右に振り、こう答えた。
「ソウルジェム? ライダーはそれを殺生石と言ってやがったぞ? あとは解るだろ――殺生石っていやぁ九尾の狐の欠片……宝具に何か隠していると考えるのが妥当だ……しかも、鵺らしき霊獣を操ってやがったしな」
まどかはその言葉に何故かほっと一安心する。
そんな中で凛はランサーと戦った際の事を思い出していた。
アレが何によって引き起こされた現象かは全く判断が付かないがこれから戦い激化していく中で確実に目の前に現れる。
一人ではどうにもないであろう事は十分承知しているだけに今の杏子の提案は素直にありがたいモノだった。
「わかったわ。でも、私から明かせる情報は無いわよ? ランサーとも殺り合ってるみたいだし――あるとすれば、まどかが霊脈の中に何かが蠢いているのを感じた事くらいかしら? ただ、すぐにその気配は移動したらしくて証拠はないんだけどね」
「それは初耳だね……良い情報をどうもありがとう。これで、交渉成立って事でいいのかな?」
杏子は凛に対して手を差し伸べると、凛もその手を握り返す。
こうして、凛と杏子の協力体制が出来上がり第五次聖杯戦争に大きな勢力図が出来始めようとしていた。
「先程は助けて頂きありがとうございました」
言峰教会の裏にある墓地は何もない荒野と化していた。
アサシンとバーサーカーの戦闘……
そして、マスターとマスターの戦いによるものだ。
実際にアサシンはバーサーカーをマスターから引き剥がしたに過ぎず、この荒野はアサシンのマスターによるものだった。
その上、凛と杏子が先程戦った姿である少年の姿とは違い、二十代後半の若い優男の姿だった。
「いえいえ、私はただ割り込んだだけですし、それに肩慣らし相手には本家本元であるアインツベルンの戦闘用のホムンクルスを見て見たかったですから……ですがどうやら、今回は出て来なかったようですね……」
「なんで、マスターを殺そうとしたんだ……あんな小さな子だぞ!」
助けられた筈の士郎はそう告げると、アサシンのマスターへと食ってかかる。
アサシンのマスターはそんな士郎の様子を一笑すると、士郎に人形を向ける。
「これは戦争ですよ?血で血を洗う戦い……その事を本当に理解していますか? 貴方のような偽善者が勝ち残ることなど出来ません……衛宮切継の息子というので少しは期待していましたが期待外れもいいところですね……つまらない、本当に時間の無駄でした……」
「あんたが親父の何をしてるのかは知らない” だけどな、あんな小さい子を殺そうとするなんて見過ごせるかよ!女の子だぞ!」
「女の子……なら、貴方は目の前の小さい女の子に銃を向けられたのならば自らの命を差し出すのですか?」
「話し合えば、分かり合えるかもしれないだろう! そんな事もせずにただ一方的に殺そうとするならそれは悪だ!」
その士郎の言葉に深くため息を吐く。
そして、人形を片付けると近くで退屈そうにしているアサシンに何やら合図を送る。
「悪ですか――あまり、ふざけた事を言っていると早死にしますよ? 誰もが幸せになる理想郷なんて存在しない。人間の欲深さから考えれば、貴方の言う誰もが幸福になる世界などお時話です。そんなモノを追い求めても決して叶いませんよ? 所詮は自己満足がいいところです。行きますよアサシン……時間を無駄にしてしまいました」
「なぁ、いいのかい? わざわざ、手を貸したってのは知り合いだったんじゃない?」
そうして、衛宮士郎と別れ坂を下っていく中でアサシンはマスターにこう尋ねた。
「なぁ、いいのかい? わざわざ、手を貸したってのは知り合いだったんじゃない?」
アサシンの言葉に表情を失ったマスターは首を左右に振り、淡々とした口調でこう呟いた。
「衛宮切継は何度か会ってはいますし、彼のご子息ならあの件でこの戦いに全てを賭けて参戦していると思ったのですが、どうやら思い違いだたらしいですからね……あのような餓鬼に用はありません……いきますよ? アサシン」
アサシンとアサシンのマスターはこうして再び闇に紛れて消えていく。
その足取りを追うのは教会の力を持っても不可能なモノだった。
こうして、聖杯戦争が開始して一日目の夜が終わった。
感想の返信
黒桜難しすぎる……堕ちた英霊とか書けないが故の断念ですwww
ツナギの自滅について
これも実は出す際に一つ案を考えています。
それを用いてなのはさんと真正面からツナギさんにはぶつかって貰おうかなと……
因みにツナギのマスターは人形師ですが、青崎のような人間と瓜二つのものを目指したのではなく、魔術師や吸血種を狩る為に作り上げた兵器としての人形を作り上げるといったイメージです。まぁ、青崎に関してはどうしようか迷い中……
一応、青崎製の人形は出すつもりですけどね……
き
アサシンのマスターは蟲爺じゃないのかについて
黒桜難しすぎる……堕ちた英霊とか書けないが故の断念ですwww
それに、慎二君がいますからね……あの人は途中から話に割り込むKY老人だと思います。まぁ、出ませんが……つか、まずは桜が影薄いですしwww
その代わりなのか、黒ワカメが出ます。
この小説ではワカメは地雷を踏みまくります。
士郎君も地雷を踏みまくります。
英霊エミヤポジの杏子様から見れば衛宮の在り方は虫唾が走りますからwww
感想待ってます