「それで、取り敢えず私は今は戦う意思はないんだけどそっちはどうなのかしら?」
遠坂は戦闘の意志が無い事を示す為に両手を上げる。
先程の瞬時にマスターの前に移動したことから判断して、セイバーはスピードに特化したタイプである。
戦略的にアーチャーがこの場で戦うのは勝率が低いという思いもあるが、それ以上に衛宮士郎を巻き込んでしまったという責任感というモノが大きかった。
「マスター、ここは彼女を信じていいと思います。今のマスターはこの戦いについて知らない事が多すぎるから、そこを知らないとこれからの戦いに立ち向かう上で迷いが生まれると思うから」
「それは……なぁ、遠坂……なんなんだよ?これは?」
その予想の斜め上を行く士郎の質問に遠坂は思わず呆れ返ってしまう。
「あなた、まさかとは思うけど“令呪”のシステムはおろか、聖杯戦争の事すらろくに知らないの?」
「令呪?聖杯戦争?確か、さっきの奴らがそんな事を言っていたが、何なんだそれ?」
遠坂は一から説明しなければならないことに溜息を吐くと、衛宮邸の方へと目を向ける。
聖杯戦争についてなど立ち話で済ませられるレベルでは無い。
アイツに説明を押し付けることも可能だが、後々で貸しにという事にされては堪ったものではない。
「まぁ、中で話しましょう? 長い話になるし」
遠坂のその言葉で居間へと移ると、士郎は遠坂とまどか、フェイトにお茶を出した。
「まず、最初に言っておくけれど私は正式に聖杯戦争に参加しているマスターよ」
その言葉に士郎は驚きを隠せなかった。
遠坂と言えば、学校では誰から見ても優等生、学校の男子からはアイドル視されている存在だ。
そんな人間にこんな裏があれば誰だって驚いてしまうだろう。
「そして、あなたと同じ魔術師……あの、衛宮君? 魔術師についての説明はいいわよね? そこから始めるとすごく長くなるんだけど?」
「そこは分かってるから安心してくれ」
「そう、なら魔術師についての説明は省かせて貰うけど、この聖杯戦争のマスターには魔術師しかなれないのよ。まぁ……それでも、衛宮君の場合は何らかの事故によるものなんだろうけどね。それにしても、驚きだわ。まさか、衛宮君がマスターに選ばれたなんて……」
「そ、そうか、遠坂も魔術師でマスターだったんだな」
士郎の言葉に小さく頷き、一呼吸空けた。
「ようするに、七つのクラスが存在していて、そのマスターは自らのサーヴァントにどんなことでも従わせることのできる三回の絶対命令権を所持しているって考えればいいわ」
「長い話だったが、えらく簡潔にまとまったな……」
「そして、それぞれが万能の窯である聖杯を賭けて殺し合いをする」
遠坂の口から出た言葉に士郎は思わず、声を荒げた。
「そんなのおかしいだろ!人の命をまるでゲームみたいにやり取りするなんて……」
「そうね……だけど、言葉としてはその喩が適切よ……七人の選ばれた魔術師たちがサーヴァントと令呪を手駒として聖杯を賭けて戦う儀式……貴方はそのゲームに巻き込まれたのよ……それじゃあ、場所を移しましょうか?案内しなければならない場所があるの」
遠坂は淡々と士郎に告げると立ち上がり、玄関から外へ出る。そして、新都へと士郎とまどかを連れて向った。
「なぁ、なんでお前はわざわざせつめいまでしてくれたんだ?」
士郎の口からこぼれた言葉に対して、遠坂は振り向かずおう告げる。
「私は変に貸し借りを作りたくなかっただけ。戦うか戦わないか貴方の自由だけど、もし貴方が次に遭った時にマスターとして私の前に立つなら……
迷わず、あなたを殺すわ」
遠坂はそれだけ告げると士郎に簡単にこれから向かう先の話をすると、それ以上は何も語る事はなかった。
言峰教会につくと七人目のマスターとして言峰に士郎を預ける。
付き添いとして霊体化したセイバーも一緒に教会へと入った中で遠坂とまどかは話が終わるのを教会の外で待っていた。
そんな中で、此方を観察するような視線に遠坂は気が付き、近くの草むらに目を向けるとその草むらの方へと気付かれないように視線を向ける。
(やっぱり、誰かに見られてるわね……)
そこで凛は除きの相手に対してカマをかけた。
「出てきたらどうなの? 確か、杏子だっけ?」
相手があのキャスターのマスターという確信は無かった。
たが、その読みはどうやら正解だったらしく、ランサーのマスターが潔く凛の前に姿を現す。
そして、持っていたうまい棒を齧りながら、凛に探りを入れ始める。
「これは光栄だね……この土地を守護する遠坂の人間に名前を憶えて貰えるなんて……そんなに、身構えなくていいよ。別に戦う意思はないさ」
そういうと、杏子は持っていた紙袋から新たにうまい棒と書かれたお菓子を遠坂に投げ渡してきた。
凛はそれを一応は相手の機嫌を損ねない為に受け取るが、何かしらの魔術的な仕掛けがあるのではないかと疑いの目をその菓子に向ける。
だが、どこからどう見ても十円で買える駄菓子である事に思わず凛は首を傾げた。
杏子はそんな凛の様子に溜息を吐くとこう告げる。
「お近づきの印だよ。それよりも、一つ聞きたい事があるんだよね……アンタにさ。その為のお近づきの印のつまらないモノって奴さ」
凛は杏子の言葉にお近づきの印のつまらないモノならもう少しマシなモノを持って来て欲しいと言い返しそうになる。
しかし、杏子の周りに溢れる魔力の荒れに遠坂の頬には冷や汗が流れ、その言葉を飲み込んだ。
いくら戦う意思はないとはいえ、この魔力の荒れは完全な臨界態勢という事である。
それに加えて、キャスターとアーチャーでは相性的な問題も考えるとどう考えても分が悪い。
そのような結論に至った凛はここは相手の話に乗って機会を窺う方がいいと判断すると受け取ったうまい棒をまどかへと渡した。
そして、杏子へと笑いかけると念のために持って来ておいたポケットの中の宝石をいつでも使えるように握りしめる。
「内容によっては答えられないかもしれないけど、何かしら?」
「言峰って前回の聖杯戦争からここまで不穏な動きをしたりしなかったか?」
遠坂は杏子の言葉に耳を疑った。
聖杯戦争を公平に行う上で設置された監督役を疑うなど聖杯戦争を行う上での規則を疑うに等しいからだ。
ただ、前回の聖杯戦争にアサシンとして参戦している上、その経歴の不自然さから考えるのならば疑いの目をかけられても仕方が無いのかもしれない。
しかし、全く持って杏子の欲しているような情報を凛は有していない。
その為、答えに迷っていると杏子は溜息混じりにこう告げた。
「その顔だと、何も知らないのか……いや、少し昔に親の関係で知ってるから挨拶に来たんだが、これまでの経験が言峰を信じるなって訴えるんだよね……まぁ、元々私は誰も信じちゃいないからいいんだけどさ」
「なら、こっちからも一つ聞かせて貰って宜しいでしょうか? シスター?」
どこからともなく聞こえてきた言葉に杏子はすぐさま槍を構え、凛は握りしめていた宝石を更に強く握り締め声のする方向へと目を凝らす。
そこに居たのは小さな少年だった。
しかし、人としての機能を切除し、最低限動くようにしたガラクタというべきなのだろうか?
凛がそんな事を呟く中で杏子はその人形に対して忌々しげにこう呟く。
「おいおい……人形師って奴か?」
人形師……
文字通り、人形を創る者の総称だが完全に魂の器を模倣売る事が出来るのは一人を除いていない……
何故なら、人間を超えた人型は創れても、人間と同じモノは創れない。
おそらく、目の前の人形も人間と同じモノを創ろうとして出来たモノなのだろうが余りに出来そこない過ぎる。
動くのが奇跡的なくらいに……
「あぁ、この身体ですか……かの蒼崎にすら無能の烙印を押されてしまいましたから……貴様は何と戦争するつもりかとね……」
「何が言いたい?」
「いや、だから人形師って呼ばれ方は好きじゃないんですよね。それはほかの人形師に失礼じゃないですか……所詮は未熟者で落第している私と彼らと一緒にするのはね? 私は人形遣いです」
杏子はその言葉に舌打ちするとさくらの霊体化を解除する。
それと同時にその少年に対して突きを放つ。
杏子が行動を焦ったのは他でもない裏の世界では名の知れた封印指定や吸血種を狩る魔術師『人形遣い』を名乗る相手が目の前に現れたからだ。
人型でありながらヒトを超えたモノを創る事に関しては飛び抜けた才能を有しており、常に最前線で戦い勝利してきた狩人。
裏の世界では知れ過ぎている二つ名に先手を取ろうとした結果だった。
だが、それを容易く許す筈が無い。
霊体化していたのか、突如現れたアサシンが目の前に現れたのだ。
杏子は掴まれそうになる寸前で、背後へと跳躍し何とか掴まれることは躱すいきなり体が重くなるのを感じた。
「マスター大丈夫ですか!」
「キャスター! あんたは手を出すな!」
キャスターの言葉にすぐさま立ち上がると現れたアサシンに対して槍を構える。
そんな中で、今は協力する方が妥当だと考えると杏子にこう提案した。
「ねぇ? ここはお互いに協力して乗り切らない? 悪い取引ではないと思うのだけど?」
だが、杏子からすればいくらこの聖杯戦争の御三家とは言ってもまだまだ未熟者にしか見えていなかった。
その為、その提案を鼻で笑って蹴り飛ばす。
「足手まといは引っ込んでろ! テメェの御守りをしている余裕なんてないんだよ!」
「言ってくれるじゃない! これを見てもまだ言えるかしら?」
遠坂はそう叫ぶと懐から宝石を取り出す。
そして、長年ため込んできた魔力を開放する。
それにより、作成された無数の氷塊を作成しアサシンとそのマスターへと降り注いだ。
降り注いだ氷塊は辺りに冷気を振りまき、みるみる内に着弾点に氷塊のオブジェを生成し、その氷塊のオブジェは辺りを侵食するようにあらに巨大化していく。
まるでコキュートスを現代に復元したような惨状に凛は確かな手応えを感じた。
だが、隣にいた杏子は違うらしくそれに対して小さく舌打ちをした。
「あんたの実力は分かった……だが、あっちはさらに上らしいぞ……」
杏子の言葉にアサシンの方へと目を向けるとアサシンとマスターの周りだけ全く無傷だった。
しかも、アサシンもそのマスターも微動たりしていない。
まるで、そこだけ攻撃が降り注が無かったかのような光景に凛は驚愕の声を上げる。
「どうして!あれだけの氷塊が降って一か所だけ無傷なんてありえない!」
「あぁ……私でもあれだけのもの使われたら、掠る位するが奴はそれすらしてねぇ……こうなったら仕方ないな、私の足だけは引っ張らないでくれよ? 行くぞ! キャスター!」
マスターの言葉を合図に、キャスターは一枚のカードを放り投げ、杖で叩いた。
それを見た杏子は再び真正面から突っ込んでいく。
「へぇ、面白い魔法だね? 私の使う魔法とは根本の理論が違うけど、大体は理解できた。闇を用いて視界を封じるか……確かに戦略としては悪くないが、相手が悪かったね……」
アサシンはそう呟くと目が見えないとは思えない速度で杏子に迫った。
そして、アサシンの手が杏子に触れる瞬間、杏子の姿が飛散していく。
いきなりの現象にアサシンだったのだが、アサシンは驚く事はせず、楽しげに笑うと背後に手を向けた。
そして、そのまま空を切るように手を動かすと何かを掴むように地面に叩き付ける。
「残念だったけど、私の前ではいくら五感を支配しようが無駄だよ? 私の口が近くにあるものを無差別に食べようとするからね」
凛はどうやって杏子を助けるか考えるが考えるが、全く持って案が浮かばない。
そんな中で、まどかは弓を取り出すと三本の矢を生成し、アサシンに向けて放った。
「無駄ね!」
そう告げるとアサシンの肌が裂け、口となりその矢を食べ始める。
凛はその光景に魔法が効かないと判断するが、こんどは弓の前に自分の背丈ほどの魔方陣を展開する事で大量の矢を同時生産し、アサシンへと放った。
すると、先程まで完全に口を使い分解をしていたアサシンが初めて回避行動を取る。
「助かった……アーチャー!」
解放された杏子は随分と魔力を食われたらしく、消耗していた。
だが、まだ戦闘が終わっているわけではなく休む暇などない。
けれども、此方には向こう側に通用する魔力攻撃以外の攻撃手段を要しているわけではない。
その事から凛はここは戦略的な撤退をする事を決めるとキャスターにこう指示を飛ばす。
「キャスター! 私とまどかで奴の動きを止めるからその隙に奴をどこかへ閉じ込める事は出来ない?」
その言葉にさくらは小さく頷くと、凛はアサシンへ人差し指を向ける。
そして、自らの魔術回路にありったけの魔力を流し込んで大量のガンドをアサシンに対して放つ。
「ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!」
大量の魔力の塊にアサシンは左に転がり込み回避しようとするが、そこにはどかの大量の矢が待ち構えていた。
先程の回避の様子から同時に大量の魔力を消費する事が不可能と踏んだ上での作戦だったがどうやら効果があったらしく足止めに成功する。
「アーチャーさん! そのマスターさん! ありがとうございます!」
キャスターはそ小さく二人に対してお礼を言うと、アサシンが立ち上がる隙を与えず星の杖で一枚のカードを公使する。
そして、星のモチーフが回転し、アサシンの周りの台地が盛り上がり次第に形が変化していき、迷宮が形作られた。
この迷宮は上を飛び超える事が不可能な迷宮なのだが、ある裏技を持ちいられれば簡単に脱出出来てしまう為にアサシン程度なら逃げる時間を稼ぐ程度にしか用いる事が出来ればいい方だろう。
アサシンとそのマスターが迷宮に閉じ込められるのを確認すると士郎の事が少し気がかりではあるが、凛は衰弱している杏子を背負い急いでその場を後にする。
まどかも念の為にアサシンを警戒しながらも、凛の後に続いた。
「酷いやられ方ですね?アサシン」
「マスターが適当に戦えって“令呪”で命令したんじゃない? それを私の所為にされても困るわね……本来の10%も力を出せないんじゃあやり難いったらありゃしない」
さくらの作り出した迷宮に空いた虫喰いのような穴から現われたアサシンは皮肉混じりに背後にいるマスターにそう答えた。
その様子にマスターも苦笑いを浮かべると近場に転がる失敗作の人形を蹴り飛ばす。
「ですが、我々としては上出来ではありませんか? 彼らには我々が勝利するための楔を打ち込む事に成功した。後は我々は例のモノが届くのをゆっくりと待つことにしましょう」
「はいはい……しかし、よかったのかい?わざわざ、私の宝具の弱点を露見させて?」
弱点……それは、彼女の食べられる量には限界が存在する事だ。
つまり、それ以上の魔力を食べさせれば自滅してしまう。
だが、そのアサシンの疑問にマスターは不敵な笑みを浮かべた。
「大丈夫です……それも既に策があります……今回の戦いはその為の布石です。次の戦いのときの為にね……その時は、誰の手のひらで回ってるのでしょうね?言峰綺礼……」
マスターはそう呟くと丘の上の教会を一睨みし、アサシンと共に杏子たちが降りて行った方向とは違う方向へと足を進めて行った。
ほむら「ようやくアサシン戦……って前回よりも凶悪になってるわね……」
杏子「てか、こいつ……どう倒せっていうんだよってレベルだよな……魔法利かないし魔力喰ってやがるし近接戦とか無理ゲーなキャラ?」
ほむら「安心していいわ。こいつよりも頭が痛く成るキャラがいるから……」
杏子「はっ?おい、それ本気で言ってんのか?これ以上、化物出たら街なんて消滅すっぞ!」
ほむら「そうなったら言峰が頑張るでしょう」
杏子「いや、それでいいのか?」
ほむら「深く考えたら負けよ」