「ほぉう……なかなかに鋭い……」
「老害の相手をしているほど、私も暇ではないの――そこをどいて貰えるかしら?」
ほむらは臓硯に対して最終通告を行うと、一度だけ指を弾いた。
もはや、目の前の老人は人の皮を被った化物でしかない。第四次の時点で言峰が一度、滅しているだけにこの身体も仮初のモノと考えて間違いないだろう……。
だからこそ、ほむらも手加減するつもりは無かった。
不死身の化物というのであれば、大火力でもって肉体ごと粉砕する。
ほむらの空間が歪み、そこから巨大なミサイル発射台が現れた。
「あの……ほむらちゃん……それって、何するつもりなのかな……」
質量兵器――いや、大量破壊兵器を召喚した暁美ほむらに対し、ランサーは思わずそう尋ねてしまう。
この手の兵器は戦車や都市そのものを狙うものでどう間違っても対人に使用するものではない。
たった一人を殺す為にこんなものを発射すればこの山自体が吹き飛んでしまうだろう。
先程まで、この下に眠る大聖杯の心配をしていたのが嘘のような行動にランサーは戸惑いを隠せない。
「何発当てれば、貴方は焼け死ぬかしら?」
「ならば、試してみるか? そんなものでは膿を殺す事など出来んことを悟るだけだがな」
その挑発的な臓硯の態度に暁美ほむらは何の躊躇いもなく、もう一度指を弾いた。
それを合図にトマホークの火が点火される。
推進力を得たトマホークは亜音速へと加速すると、まっすぐに突き進んでいった。
なのははその行動に慌ててほむらを抱きかかえると、爆風と衝撃波に耐えるためにシールドを展開した。
「やれやれ……何の対策も無しに、このような行動を起こすと思っているのかのぉ」
臓硯は怪しげにニヤリと笑みを浮かべると持っていた杖で一度、地面を叩いた。
それと同時に臓硯の周りに一枚の仮面が現れる。
その仮面は臓硯を守るようにクルクルと回転すると、二枚へと変化した。
だが、そんな仮面程度でトマホークを止められる筈が無い。
何らかの手を打っている事を予想し、わざわざこれほどまでの兵器を投入したのだ。
そのほむらの見積もりも甘かったことを思い知る事となるのだが……
辺りはトマホークが爆発した暴風で全てがなぎ倒されていた。
爆発時の熱で辺りは燃え盛り、その熱風がほむら自身の肌をもチリチリと焼いていく。
そんな中で何事もなかったように傷一つ負う事なく、平然と臓硯は立っていた。
臓硯の周りは地面がめくれあがり、その威力のすさまじさを物語っている。
だが、臓硯が立っている場所だけはまるでトマホークの爆発が起こらなかったように無傷なのだ。
「ありえない……」
臓硯の魔術にこのような術は存在しなかった筈なのだ。
それに加えて、不気味な面が二枚から三枚へと増えて、今また、四枚になった。
どう考えてもあの面が宝具……それも、相当なモノと判断するしかない。
「ねぇ、ほむらちゃん……なんか、あの黒い繭が胎動してるように思えるんだけど気のせいかな……」
ランサーの言葉にほむらは臓硯を警戒しながら黒い繭の方へと目を向ける。
その光景に見覚えがあった。
これは魔法少女が魔女になる時の光景に酷似している。
それに加えて、ほむらの中の第六感があれをここから出しては不味いモノだと直感的に告げていた。
「急いで終わらせるわよ……これ以上、あの繭に羽化する時間を与えたら不味い事になるわ……」
だが、羽化を止めるにはどうすればいいかが判らない。
マスターを止めるにしろライダーが独立して動かない可能性は無い。
羽化したものが周りのモノを食い荒らして現界しないとは限らないからだ。
そんな心中を読んでか臓硯は悠長にほむらに語りかけて来る。
「お主は金毛九尾の狐を知っておるか?」
九尾の狐――
日本の三大妖怪にも数えられる大悪妖怪で日本各地に伝承が残っている。
江戸以降、歌舞伎や人形浄瑠璃の題材としてよく採り上げられている事から、知らない人間は少ないだろう。
その伝承の中では国や王朝を破壊する災害という見方も出来るだろう。
「時間稼ぎのつもりかしら? そんなもので私は止まらないわ」
「最後まで話を聞いた方がいいと思うがのぅ……あの生娘曰く、九尾は生と死を操る事が可能らしいんじゃが、言いたい事はもうわかるであろう?」
ほむらの構えていたRPGの照準は震えて定まらない。
臓硯は知っているのだ。自身が聖杯に賭ける願いを――それを逆手に取り、動揺を誘おうとしているのだ。
だが、この力が本当ならば、穢れた聖杯の力に頼る事無く、目的を完遂する事が出来る。
悪魔の囁きに等しい誘惑にほむらは引き金を弾けない。
「どうじゃ? お主の目的と膿の目的……実に似通っておるであろう? もしも、協力してくれるのであれば、主の目的にも力を貸してやらんでもないのだが……」
頭では目の前の化物が人との約束を守るような性格をしていないのは理解している。
第四次聖杯戦争のバーサーカーのマスターの末路を見れば一目瞭然だ。
この化物も言峰と同じ穴の狢だ。甘言で人を惑わせ、踊り狂う様を楽しむ畜生だ。
それが解っていても、一筋の希望がそこにある限り、その引き金を弾く事は出来ない。
「ほむらちゃん! 下がって!」
いつの間にかスターライトブレイカーを放つ為に魔力を充填していたランサーがほむらに向かって叫んだ。
だが、それは完全な交渉決裂を意味している。
そうなれば、臓硯はもうこの話を持ちかけて来ないだろう。
ほむらは令呪へと手を伸ばすとゆっくりと口を開こうとする。
「ほむら……ちゃん……」
「令呪をもって命―――――ずるとでも思ったの? ランサー! 宝具の開帳を許可するわ。あの化物達の目的を阻止しなさい」
「それは交渉決裂と考えていいのかのう?」
臓硯の言葉にほむらは今度は躊躇いなくRPG7の引き金を弾いた。
だが、トマホークが効かなかった以上、そのようなものが今の臓硯に効く筈が無い。
「これが答えよ。確かに貴方の提案は魅力的だけど、それでは何も解決しないわ。不老不死なんてモノでは私の願いは叶わないの。奴ら、インキュベーターの魔の手からまどかを守るには」
それがほむらの返答であり答えだった。
ここからは番外編みたいなもの……(決して文字数稼ぎではないんだから!)
「やれやれ、年とは取りたくないものだな。思うように体が動かん」
「ねぇ、愛って何?」
「こうも、言葉が通じんとはここまで不便とは……全くやり辛い」
まったく、言葉の通じる様子の無いバーサーカーにアサシンはゆっくりと背中の剣を抜き放つと腰を低くする。
その様子にバーサーカーは何かを理解するように目を輝かせた。
「そうなんだ! やっぱり、それが愛なんだね!」
この子供がバーサーカーの適性を持ったのはこの考えが原因に他ならない。
愛とはつまり、痛みと認識する。それにより、辺りに痛みを振りまいた……。
それが彼女がバーサーカーとして召喚された所以だった。
狂喜に支配された子供の印象を受けるバーサーカーにアサシンは真正面から走り出した。
「あのアサシン……ただのアサシンではないのか? バーサーカーに真正面から挑むなんて正気の沙汰ではないぞ」
『どうしましょう? なら、一度牽制を行いましょうか?』
舞弥の進言に切継は暗視スコープ越しに二人の戦う様子を確認する。
近くにマスターらしき気配もない。
ここはこの位置から様子を窺い、今後を策を練る方がいいだろう。
そう結論付けようとしたのだが、そうもいっていられない状況になる。
「ランサーだと!」
ここで戦いに乱入して来るなど正気の沙汰ではない。
ましては、起源弾を受けてボロボロになっているランサー陣営ならなおの事だ。
にもかかわらず、この場に現れた。
裏に何かあると考えて間違いないだろう。恐らく、キャスターが絡んでいるのだろうが……
現在わかっているだけでも精神支配と時間停止の二つの強大な能力を持っている。
恐らく、ここに現れたランサーのマスターはその能力によって支配されたと考えるのが妥当だろう。
今回の聖杯戦争で肉弾戦を好むライダーと並んで強敵に数えられるキャスターがほかのサーヴァントを支配下に置いたとなれば状況は厄介な事となってしまう。
ただ、唯一の救いはマスターがともに未熟という事だろう。
「厄介な事になったようだな」
「ランサーがキャスター側に着いたの――令呪による強制と考えるのが妥当なのかしら?」
アーチャーの言葉に時臣は静かに頷いた。
おそらく、キャスターの時間停止に対抗出来るのは同じ時間停止の宝具を持つアーチャーだけだろう。
しかし、問題がある。
アーチャーの宝具ではあの男を殺し切る事が出来ないという事だ。
一度逃がせば完全に復活してまた相手をすることになる。
「もう少し、情報が欲しい所だがこれ以上、奴らを野放しにしておく方が魔術が世界に露見する可能性があるか……」
キャスターのマスターは快楽殺人を好む異端者
それ故に、魔術師として隠匿するという当然の考えを持っていない人間なのだ。
この冬木の地を監督する時臣としてはそれを見過ごす事は出来ない。
大きく動こうとしている戦況の中でそれぞれの思惑が交差する。
物語は一気に佳境を迎えようとしていた。
オマケの部分はなろうにて少し考えていた第四次聖杯戦争について少し書いて見ただけです。
他に意味はありません。
セイバーが出ていないのは決まって無いからですwww
蟲爺のセリフ……難しいです。
では、感想待ってます。