新都まで実体化したまどかを連れて偵察兼買物に来ていた。
目的の一つが霊体化出来ないまどかと街を出歩く為の服を買う事なのだが、何やら箱入り娘のように眼を輝かせて辺りを見回すまどかに凛は溜息を吐いてしまう。
だが、同時にいくら英霊とはいえ年相応の普通の少女のようで少しだけ安心していた。
だが、そんなに辺りに気を回していたら目の前が悪露底になってしまい、やはり前から歩いてきた黒髪の少女にぶつかってしまう。
ゴン
「あっ⁉ごめんなさい!」
「いいえ、こちらこそごめんなさい――まど……いえ、そんな訳が無いわね……気にしなくていいわ」
ぶつかった少女はまどかに対して何やら驚いた様子を一瞬だけ見せるが、気のせいだったのか次の瞬間にはにこりと微笑みまどかの身を案じ始める。
「それより、名前……聞いてもいいかしら?」
「えっ?かな……佐倉 仁美だよ!」
一瞬、まどかは本来の名前を告げそうになってしまう。
しかし、凛の真名はなるべく避けるようにと言う言葉を思い出し、咄嗟に頭に浮かんだ二人の名前を合わせて口にしてしまう。
それを聞いた黒髪の少女はどこか安心した様子で小さく「良かった……」と、呟いた。
「それじゃあ、ごめんなさい。私、急いでるから……」
それだけ告げると黒髪の少女は言峰教会のある丘へと続く道へと姿を消した。
その後ろ姿を何故かまどかは見えなくなってもじっと見つめていたのだが、急に頭に振り下ろされたチョップがまどかを現実へと引き戻す。
「あんたね……少しは気をつけなさいよ……」
「あはは、ごめんね?凛ちゃん」
「まぁ、それよりさっきの子が気になってたみたいだけどどうかしたの?」
その凛の言葉にまどか自身もよく分からなかった。
分からないけど、どこか懐かしく大切なモノをあの少女に感じていたのかも知れない。
ただ、それを断言出来る根拠は無かった。
けれど、その何かわからないものが確実にあの少女とあるような気がして何故かまたどこかでであるそんな気がまどかにはしていた。
「分からないけど、そんなに気にしてた……かな?」
「気にしてたわよ……姿が見えなくなっても見続けてたし……」
まるで箱入り娘のようだったりするまどかに対して凛はどのような逸話を持つ英雄なのか考えてしまう。
魔法少女……
しかし、それを除けばどこにいてもおかしくない普通の少女……
彼女もまた魔術師のように現実の何かを犠牲にした結果に立つ場所が英霊の座なのだろうかと、少し考えてしまうがその考えを振り切ると頭を切り替える。
そして、まどかの頭を撫で始めた。
「さっさと服買うわよ!なるべくお金はかけたく無いから、色んな店を回らないといけないし、その後は街の狙撃ポイントになりそうな場所を見て回らないといけないんだからね!」
「服を買うのに服屋を回るの⁉一件でいいよ!それに、なんだか頭を撫でられるのは恥ずかしいよ」
一応、財布の中の諭吉を確認するもこの出費はなるべく抑えたいのが凛の気持ちだった。
魔術師が皆、お金を気にする訳ではない。
遠坂に代々伝わる魔術の特性故のモノだ。
宝石魔法……つまり、宝石に魔力を溜めて使うのだが一回使うと二度は使えない。
故に、一発は大きいが出費が嵩む魔術なのである。
何せ一発使うと五十万といった単位で飛んでいくのだ。
確かに特許などで自然とお金は入って来るがそれでも、なるべく抑えておかなければ金喰い虫である宝石魔法はやっていけない。
「他の店の方が安かったら嫌じゃない……」
「えっ?他の店にもっと良いのがあったらじゃ無くて?」
まどかは最初に気にする所がそこなの!と驚いてしまう。
普通はまどかの答えが正解なのだが、金銭面を気にする凛からすれば着れればいいのである。
そして、五件もハシゴさせられ寝巻きを含め三着購入すると自宅に荷物をコインロッカーへと預けると狙撃ポイントを見て回る為に夜の街を歩き始める。
最後のポイントである深山町にある自身の通う学校に到着する頃には空には星が輝き始めていた。
「だいたいこんな所かしら?あなたのアーチャーとしての腕が活かせるだろう場所は」
「うん……多分、大丈夫かな? それよりも綺麗だね……この街は……」
凛の話を全く聞かずに夜景を眺めているまどかになぜか怒りは湧いてこなかった。
逆にそのどこか遠い場所を見るような眼差しに言葉に出来ない感情が押し寄せてしまう。
まるで、そこに居るのにも関わらずまるで違う世界からモノを見ているようで、絶対に届かないモノを見つめ続けるようなまどかに凛は何故か年齢以上の何かを感じた。
サーヴァント……英霊……
過去に偉業を成したであろうこの少女は何を得て、何を失ったのだろうか?
だが、そんな感情に浸る時間など存在しない。
ここは既に戦場なのだから……
「ゴメンね、悪いけど私と戦ってもらうよ!これも、マスターの命令だから!」
その声に凛とまどかが振り向くと、そこには何やら機械らしき杖を構えた純白の衣装を纏う少女が宙に浮かんでいた。
どこからどう見ても小学生の女の子なのだが、感じる魔力の量は一般人にはあり得ない量でありそれの膨大な魔力がソレをサーヴァントであると告げていた。
その魔力量と容姿のギャップに凛は唖然とするも相手が何のサーヴァントか分からない状態でアーチャーが近接戦を挑むのは分が悪いと判断し、舞台を変える為に屋上から飛び降りようとする。
しかし、凛は何やら理解出来ない魔術でいつの間にやら拘束されてしまう。
その足にハメられた光のリングは空間に固定されているようでどんなに動いてもビクともしない。
必死に逃げる算段を立てようとするが、相手のサーヴァントがそれを待つ筈が無い。
「残念だけど、逃がさないよ」
そう告げるとその魔法少女はまどかと凛い向けて機械の杖を向けるとその杖を中心にピンク色に輝く中遠が現れる。
そして、次の瞬間ピンク色の光がまどかを包み込んだ。
時間は少し戻り、言峰教会
黒髪の少女は言峰教会に辿り着くと先程の少女に関して思い返していた。
鹿目まどかと同じ容姿をした少女――
確かにここが“あの世界”とは根本が違う異常は起こり得る事である。
ただ、その少女の近くに今回の聖杯戦争に参加を表明している御三家の一人、遠坂凛がいた事にが酷く気になって仕方が無かった。
「確か、言峰の情報だとアーチャーよね? 遠坂凛のサーヴァントは? まどかは魔法少女の時は弓を装備していた……十分、可能性はある……」
聖杯を手に入れるためには、護りたいモノを傷つけねばならないかもしれない。
その可能性に黒髪の魔法少女は深くため息を吐いた。
だが、ここである事を思い出す。
英霊は所詮、本体は時間軸からは外されて英霊の「座」におり、こちら側の世界で活動しているのはその触覚たる分身のような物である。
通常、用が済んだらそのまま消滅する。
つまり、ここにいるまどかは本来の世界によって捕らわれているまどかではないとも割り切る事が出来る。
しかし、それは何をもってまどかをまどかとするのかという哲学的な問題にも発展し、そのような答えを容易に出せる筈が無かった。
どうであろうが、英霊として召喚されたまどかはどの時間軸のまどかであろうともほむらの事を知っているまどかに他ならない……
答えの出ない袋小路に迷い込んでしまったほむらは小さくため息を吐くが、ほむらはまどかを救う為ならどんな事でもすると誓った事を思い出す。
だが、どちらにせよまどかがアーチャーであるかは全て憶測に過ぎなかった。
「少しいいかしら、ランサー」
そして、出た結論がランサーにアーチャーを調査させるという事だ。
彼女を使えば、自らが出向かなくても確かめる事が出来る。
最悪、まどかを自らの手で殺すという場面を回避できる。
自分でもそれは卑怯だとは分かっているがそれ以外に今は方法が見つからなかった。
「あの……なにか用ですか?」
「確か、あなたは言峰に全サーヴァントとの交戦を令呪で命じられていたわよね?
なら、アーチャーとはもう交戦したのかしら?」
黒髪の少女の問いにランサーは首を横に振り否定する。
既にしている事を前提に問いに来たのだが、していないという結果に黒髪の少女は答えを先送りできたことに少しだけ安心するもそれは結局何も解決していない事に気が付くとランサーにこうお願いをする。
「なら、アーチャーに関する情報を出来るだけ多く集めてくれるかしら?特徴、目的……なんでもいいわ!言峰には内密にお願いできないかしら!」
冷静な印象しかなかった黒髪の少女の変わりように、ランサーは驚いてしまう。
だが、その願いを否定する理由も無かったランサーはその願いを聞き入れる事にした。
あの神父は信じていたマスターを裏切るような信用ならない人間だったが、目の前にいる黒髪の少女はどこかあの大切な友人と重なってしまい放っておけなかったからだ。
だから、ランサーは決意を胸に黒髪の少女にこう告げた。
「わかりました。そのかわり、こっちからも一つだけ教えて貰ってもいいかな? 別に大したことじゃないんだけど、名前……聞いてないから」
「暁美ほむらよ……ほむらでいいわ」
言峰への復讐の手助けをお願いされると思っていたほむらは予想外過ぎるお願いに一瞬、耳を疑った。
確かに真名を教える事は危険だ。
ほむらが求める情報との価値を比べればそんなモノには大した価値は存在していないが、それでもこちらの願いに膨大なモノをふっかけて来る程度の事は覚悟していただけにどこか呆れてしまう。
「よろしくね?ほむらちゃん。私は高町なのは!なのはでいいよ!」
そう笑って手を差し伸べるなのはの顔がほむらの目にはどこか|大切な友達≪まどか≫にダブって見えた。
そして、高町が名前を尋ねた本当の“意味”にその時、初めて気付いた。
「これで、私達友達だね?」
その高町の笑顔にどこか昔の自分を思い出してしまいクスリと久しぶりに笑ってしまった。
マミさん道場
さやか「はぁ……マミさん、こんな道場に呼び出しって何かあったのかな?しかも、体操服にブルマ指定されたし……」
マミ「早かったわね?美樹さん」
その言葉に振り向くと目の前に広がる光景にさやかは固まってしまう。
マミさんの頭はどう見てもお菓子の魔女シャルロッテにマミマミされているのだ。
ただ、突っ込むとマミさんの心の傷を抉る事にもなりかねないので、笑ってスルーする。
さやか「そういえば、今日は何の用でsか?こんな道場にしかもブルマ指定で?」
マミ「あぁ、その事ね!つまり、原作のタイガー道場的な事をするためよ!それにしても、どこから声がするのかしら?なんだか暗いし生暖かいのだけど、美樹さんはどうかしら?」
さやか「えっ?そうですかね?」
それはシャルロッテの口内だからですとは口が裂けても言えないさやかはこの状況にどう対応していいのか分からず右往左往してしまう。
だが、そこへ現れた暁美ほむらがさっそうと現れた。
ほむら「その必要はないわ」
そう呟くとどこから取り出したのかRPGをマミさんの頭に食らいついたシャルロッテに向けて発射する。
その光景を見てしまったさやかは現状が理解できずに呆然と立ち尽くしてしまう。
ほむら「私は忙しいの。早くして貰えると助かるわ」
マミ「そうね?じゃあ、今回の聖杯戦争に対する意気込みをどうぞ!」
ほむら「まどかのありがたみを全世界、全宇宙の人間に知らしめることよ!」
そう強く断言したほむらと瞬時に復活したマミさんがもう次元が違い過ぎて着いて行けていないさやかはそれを完全に観客として見つめていた。
マミ「確か、まどかさんのリボンが聖凱衣として受け継がれているのよね?」
ほむら「ええ、そうよ!女神であるまどかから頂いた大切なものだから」
唯一の常識人である筈のさやかもこの異次元的な会話に自らの常識を疑ってしまう。
ほむら「それにしても、貴方達は大変ね。」
さやか「何がよ?」
ほむら「不幸が似合いそうだからってだけでこんな場所を任されて」
その言葉にさやかは一瞬固まってしまうが、次の瞬間、叫び始める。
さやか「ちょっと待て―――!それは、私らが不幸って事かーーーーー!」
ほむら「そっちは頭からパクリとマミるという新しい言語まで生み出した中二病、あなたはひぐらしの時報男ならぬ、時報女じゃない。結構な確率で魔女になるから」
さやか「時報女……そんな二つ名いやだーーー」
ほむら「あら、もうこんな時間ね……そろそろお暇させてもらうわ。私も忙しいから」
マミ「私はチーズじゃない……チーズじゃない……友達いない寂しい中二病女じゃない」
ほむらの言葉に二人とも撃沈していた。
追伸
マミさん道場は一発ネタです。
まどか教はアンサイクロペディア参照