「キリが無い……倒しても倒しても湧き続ける……」
バルティッシュの雷撃の刃を振りかざし、大型の化物を切り刻んでいくが、切り刻んだところから湧いてきているのだ。
魔力消費はまだ大したことは無いが、これが長時間に渡れば完全に追い詰められるだろう。
金色に輝く髪も妖魔の赤黒い血に染まり、乾ききっていた。
「やっぱり、根本を倒さない限りキリがありませんか……」
今すぐにでも、キャスターのマスターが言っていたライダーを倒しに行きたいが、背後にいるマスターがいる。
おそらく、私が行くと言えばマスターもついて来るだろう。
しかし、そんな危険な真似を侵させる事は出来ない。
そう決めると、まずはこの場所にいる妖魔を殲滅する事を念頭に置き、フェイトは金色に輝く魔方陣を展開する。
セイバーはザンバーフォームからハーケンフォームへと形態を変更すると、目の前の地獄を見つめる。
「これ以上、貴方達に好き勝手暴れさせて誰かを傷つけるマネはさせない!」
セイバーは鈍足な土蜘蛛の脚を掻い潜り、ハーケンセイバーという魔法によって作り出された金色の刃で全ての脚を切断していく。
少しずつではあるが大型の妖魔の発生速度が倒す速度に圧倒され始める。
だが、その下では多くの人間が魍魎により、動く死体へと変えられ続けていた。
「もう一度言いますが、本来ならば聖杯戦争に埋葬機関が参戦するのは時計台との協定違反なのですが、流石にこのような事態は見過ごせないので、そうここにいる監督役にお伝え下さい……それを否というのであれば、貴方方でこれを沈められるものと判断し、町外堀にて待機し、終了と同時に浄化作業に入る事となりますが?」
シエルは業務連絡のように背後にいるであろう監督役との連絡役にそう告げた。
しかし、何も返って来ない。
シエルはいつでもあの亡者の群れに仕掛けられるように柄だけになっている黒剣に両手に三本ずつ握る。
極めて異例の事態……イレギュラーすぎる悪霊がライダーに召喚されたとなればこの地だけで収まりきらない可能性がある。
そうなれば、監督役としても事態の隠蔽が困難になり魔術などの裏の世界の事がばれてしまう事態にもなりかねない。
難しい判断が求められる中で言峰は『サーヴァントとマスターに危害を加えないという制約の中でならば、悪霊を異端として排除するのを許可する』という結論を出した。
「サーヴァントとマスターに危害を加えない限り、我々は黙認するだそうです」
シエルにそう告げると同時に監視の気配が消えた。
その言葉にシエルは即座に聖書のページを刃へと変えて黒剣を亡者の群れへと次々と放っていく。
黒剣に刺された亡者のあるものは燃え盛る炎に焼かれ、あるものは背後に並んだ亡者と共に串刺しにされていく。
圧倒的までの実力差の前では数の暴力などさして意味は無かった。
しかし、それを補うかのように湧き続ける亡者の群れにここに釘付けにされている事には変わりない。
「それにしても、不自然ですね……先程から、霊脈にこの状況を引き起こしているものとは違うもっと別の禍々しい気配があるように感じますが…………さっさと終わらせて後輩にこの町で一番絶品のカレーを奢らせることにしましょう」
背後から迫ってきた鎌鼬を難なく串刺しにすると、黒鍵を構えて走り出した。
「ここなら、ライダーの呼び寄せた奴らの大半が一望できるんじゃない?」
とあるビルの屋上にコートを着た白銀の髪の少女が立っていた。
その少女の真下では執行者が死者の群れを屠っている。
だが、それは彼女の知るルールに違反している事の筈だ。
(教会側はこの聖杯戦争には手を出さない筈だったわよね……それを破っている事が他の組織にバレたら色々と厄介な事になりかねないじゃない……)
その少女は小さくため息を吐いた。
「もしかしたら、外部組織の介入まで考えないといけなくなるかもね……でも、一番は他の組織にこの事実が伝わる前に執行人を潰す事よね……やりなさい!バーサーカー!」
「いいの?そんな事をしたら教会も黙っていないと思うけど……」
背後に現れたフードを被った小柄な子供が心配げに呟くが、マスターである銀髪の少女は一言、振り返らずにこう告げる。
「戦いに介入した以上、事故は付き物だと思わない?あなたなら、ここからあの死霊の群れを一掃出来るわよね?」
その言葉にフードを被った小柄な子供は返答を渋った。
もしも、そのような事をしたならばマスターに危険が及ぶ可能性が高いからだ。
何よりも、自身の基本ステータスを鑑みても狂化して対等に渡り合えるか怪しい……
因果律を捻じ曲げる武器を使えば殺せない事は無いかも知れないが、心臓を潰しただけでは死なない可能性も高い……
「まさか……私に口答えするつもりじゃないでしょうね!アサシンに押されて逃げ延びた癖に!」
アサシンは基本的に忍んで背後から不意打ちをするのが常套手段となる絡めてを好むサーヴァントだ。
そのサーヴァントにバーサーカーでありながら力負けした事が二人の信頼関係に揺らぎを引き起こしていた。
「どうなの!バーサーカー!何か言ったらどうなの!」
『いやー!こりゃすごい光景ですね!まさに地獄絵図!こんなこと仕出かしたマスターとサーヴァントのコンビはそうとう頭の行かれた連中なんでしょうね!てか、マスターの頭も怒りでとうとうイカれ……
って、何私を死者の群れの中に投げ込もうとしてるんですか!た、助けて!マスター』
今にも死者の群れの中へと投げ入れられそうにしているそのお喋りな杖とマスターのコントのような様子に若干、苦笑いを浮かべるとその杖をマスターから奪い取った。
「何のつもりかしら?バーサーカー」
「一応、これが無いと宝具が使えないので流石にそれは困るから……」
杖を奪い取った小柄な少女は一枚のカードを取り出すとそれをその弓兵の絵が描かれたカードをその杖にかざした。
すると、そのフードの中が一瞬光る。
「マスターは下がっていて
『――投影、開始』
『----憑依経験、共感完了』
『----工程完了。全投影、待機』」
その詠唱と共に小柄な人影の背後に多くの名も無き剣が浮かび上がる。
それらは徐々に数を増やして行き、終いには万を超える量の剣を生み出す。
(本来のこの技を使う“英霊”だとこうはいかないだろうけど、私の“スペック”と本来の“役割”のお蔭かしら)
その剣群は徐々に角度を変えてビルの間に蠢く死霊の群れと執行人へと照準を合わせていく。
「宝具には至らないけどそれ相応な名剣の数々よ!これだけ撃ち込めば、少しは効果あるでしょう『っ――――停止凍結、全投影連続層写…………!!!』」
その言葉と共に、全ての剣が一斉にビルの合間に降り注ぐ。
名も名声も持たない剣の群れではあるのだが、死霊の群れ程度ならこれだけで十分に事が足りる。
大通りは血と呻き声で別の意味で地獄と変貌した。
『----同調、開始』
フードを被った小柄な子供は即座にこの英霊が好んで使っていた干将・莫耶を投影し、飛来してきたソレを弾き飛ばした。
即時、離脱も考えたのだが目の前の執行人にいつの間にか立っていた執行人はそう簡単には逃がして貰えそうにはない。
“サーヴァント”であるバーサーカーですら感じる相手の覇気に次の一手に何を選ぶことが最善かなかなか決める事が出来ない。
「いや、すいません。てっきり、彼らの同類かと思っちゃって咄嗟に手が出てしまいました」
笑いながらそう告げる目の前の執行人にバーサーカーのマスターは睨み返す。
「何のつもり?確かに前回は教会の人間がマスターに選ばれるイレギュラーはあった。けど、マスターでもない!しかも、埋葬機関の人間が聖杯戦争に関わる事を許した覚えは無いのだけれど?」
バーサーカーのマスターの言葉に執行人は答えにくそうに頭を掻いた。
ここで、キャスターのマスターである杏子に第八聖典を渡しに来たと答えれば事態はややこしくなる。
暗示をかけるにも相手は恐らく、御三家の一つであるアインツベルンの作製したホムンクルス……
無理矢理排除すれば時計台との衝突になる可能性も高く、難しい……
「此方が協力を要請したのでね」
その言葉に全員がビルの内部へと続く扉の方へと視線を向けた。
先程まで人の気配すらしなかった筈のその場所にはランサーとそのマスターらしき少女、監督役の言峰綺礼が立っていた。
「どういう事か、分かるように説明してくれるかしら?」
「流石にライダーはやり過ぎたという事だよ。魂喰いだけでなく、町一つが消え去りかねないこの事態――我々の情報処理をもってしても、少しばかり厳しいので偶然居合わせた彼女に協力をして貰ったのだよ。彼女は元より君たちより彼らのような手合いとの戦いに慣れた言わばプロだからな」
「そういう事です。私が許されているのは悪霊退治のみでライダーを滅する許可は下りていません」
その言葉に嘘をついていない以上はここは認めるしかない。
だが、ライダーの扱いについては話が別だ。
「それなら、ライダーについてはどうするつもりなのかしら?」
バーサーカーのマスターの問いに言峰は少し考えたフリをするとこう答えた。
「此度のこの行為は看過する訳にはいかないからな。前回の聖杯戦争の際に使われたルールを使おうと思っている。ライダーを倒したマスターに令呪を与えるというな。もちろん、協力して倒したのなら全員に与えるつもりだ」
言峰はそう言い切ると右腕の令呪をバーサーカーのマスターに見せる。
それを見たバーサーカーのマスターは少しだけ驚きのような表情を見せた。
「これまでに使われなかった令呪は代々監督役が管理してね……」
「なら、さっきの言葉に嘘はなさそうね……けど、それはいつから適応されるのかしら?まだ、全てのマスターにその追加ルールが伝わってないと思うのだけど?」
「それもそうね……私としても“既に”一画使ってしまっているからその提案は美味しいのだけど、それが問題ね」
まるで、右腕に刻まれた一角失われている令呪を見せつけているかのようなランサーのマスターにすこしだけバーサーカーのマスターは疑いの目を向けるが、それが何かは今は分からなかった。
「一応、日付が変わり次第のろしを上げて召集をかけるつもりだ。――そうそう、もう一つ言い忘れていた。どのような形であっても、その召集に応じたモノのみがランサーを倒した際に令呪が一画貰える権利を得る事が出来るという事を……」
それだけ連絡事項を告げると執行人と言峰は何かを話し始める。
バーサーカーのマスターはランサーのマスターをの方に目を向けるが気が付いた時にはランサー共々消え去っていた。
「バーサーカー……ここは、一端引いて様子を見ましょう」
そう告げると、バーサーカーのマスターも町の闇の中へと姿を消した。
「なんなんだよ……これ……」
衛宮士郎の目の前に広がるのは鉄の臭いが広がる地獄だった。
もしかしたら、そこに転がる肉片だったモノを助けられたかもしれない……
「俺は……十を救う正義の味方にならないといけないのに……」
覆っていた結界はいつのまにか消えており、士郎は血の中へと座り込んだ。
「クソ……クソ……何か手はあった筈だ!」
「士郎……あまり、自分を責めてはダメだよ。一度、家に帰って休もう?っね?」
「違う!全力を尽くしたとかそんなのは関係ないんだ!
俺は!
俺はみんなを助けなくっちゃいけないんだ!」
そんな士郎の悲痛な叫びにセイバーは初めて士郎の歪みを理解した。
自分の持っていた歪みよりも尚も深く、根深い歪み……
きっと、その歪みは士郎を……マスターを殺す事になるだろう。そんな風に思えてしまうような……
「何か手はあった筈だ!俺がもっとちゃんとしていればこんな事にはならなかった筈だ。こんなザマで正義の味方なんて笑わせるなっ!」
誰かを救わなければならないという強迫観念に近い思いに支配された士郎にセイバーの言葉は届かない。
正義の味方……セイバーはどんなに最善を尽くした所で悲しい結末を迎える事もある事を知っているからこそ、その思いを否定し、士郎を正さねばならない。
しかし、それは恐らくこの主従関係を壊すキッカケにもなりかねない。
「士郎……まだ、ライダーは倒れていない。だから、こんな所で泣いてる暇があったらする事があると思うの。それに、その痛みは一人で背負う必要はないから……私も救えなかったのは同じだから」
それがセイバーが今、士郎にかけられる最大の言葉だった。
全てを否定すれば昔の自分のように壊れてしまうかもしれない……
そんな思いがセイバーの思いを食い止めていた。
そう告げると、セイバーはどこか心配げな眼差しで士郎に手を差し伸べるのだった。
第八聖典試作型の設定を少し弄りましたので使用時に説明します。
概念武装としては特殊なモノに変更しました。
概念武装としての考えが温いと判断しましたのでおいおい、説明を入れさせていただきます。
神を殺した槍という設定ではないのであしからず。
次回の予告みたいなのをここで少々
眼を誤魔化すための策としてランサーのマスターが登場……
そして、セイバーと士郎の間に少しすれ違いが生まれました。
大きな事態の動きとしては第四次の狐狩りが今回も行われるという事
以前として、動きを見せないアサシン
突如、現れたランサーのマスター……
そして、ライダーVSまどか、さくらの決着は着くのか?
感想とか質問とか頂けると幸いです。