「君は殺生石に何を望む?」
悪魔の囁きに黄泉は答えてしまった
「私の本当の望み、本当の願い……それは神楽……あの子を守りたい。あの子を全ての不幸から守りたい。あの子を全ての災いから守りたい。あの子を傷つけるもの、あの子を危険に晒すもの、あの子を災いを齎すもの……その全てを消し去りたい。お願い、あの子を守って……不幸を消して、災いを消して……例え、それが私自身であったとしても!」
それが、諌山黄泉が死んだ瞬間だった。
大切な妹の手によって……
自慢の妹の手によって……
大好きな妹の手によって……
「そう簡単にはライダーの元へは行かせてもらえないようね」
なんとか、悪霊の群れを掻い潜りライダーの居る街を見下ろせるビルの屋上へと辿り着いた凛だったが目の前に立ちはだかる鎧武者に苦戦していた。
ライダーはまどかとさくらが苦戦する様子を愉しげに観戦するばかりで手を出してくる様子は無い。
完全に舐めきった態度に漬け込む隙はあると凛は考えるが、目の前の障害が予想以上に大きかった。
「まだまだ!」
まどかは幾度も矢を大量に放つが、その度に完全に撃ち落とされてしまう。
さくらも目の前の鎧武者にどう攻めるか思い悩んでいるようでなかなか斬りかかれずにいた。
「あら? その程度なのかしら――前回までの威勢の良さはどこへ行ったのやら」
ライダーの小馬鹿にした嗤いに凛はガンドを撃ち込もうとするが、魔術回路に魔力を流し込んだところで思いとどまる。
ただでさえ、二対一で苦戦しているのだ。
ここで、ライダーが入って来たのなら完全に劣勢の流れになってしまう。
それだけは避けなければ無いのだが、戦闘は悪い方へと転がっていく。
上空を黒い影が通り過ぎたかと思うと、それはさくらとまどかの前に降り立ち吠えた。
「まどかさん! 危ない!」
目の前の化物が吠えた事により発生した衝撃波がまどかの矢を吹き飛ばし、衝撃波と共にまどかへと降り注ぐ。
本来の咆哮だけでも人を殺すには十分すぎる威力がある。
それに、まどかの宝具である矢が加わるのだから、当たったら幾らサーヴァントとは言え致命傷になる可能性がある。
そんな中で、さくらは一枚のカードを素早く取り出すと、それを使役する。
さくらと最も共にあり続けたカード「|風≪ウィンディ≫」
風邪を生み出し操る事の出来る四代元素のカード
そのカードにより生み出された風が、乱紅蓮の咆哮とぶつかりあい、乱紅蓮の咆哮を相殺する。
だが、行き場を失った矢は上空へと打ち上げられ、その場にいる全員へと襲い掛かった。
「大丈夫? まどか! さくら!」
辺りはビルが破壊されたことによる塵が蔓延しており、視界を遮っている。
ラインから魔力を吸い上げられる感覚から令呪を確かめる事なくまだまどかが存命している事は解るのだが、どこにいるかまではつかむ事が出来ない。
視界を遮られた凛は思わず叫んでしまうが、それが命取りとなる。
叫ぶという事は、まどか達に位置を知らせると同時に敵にも位置を知らせてしまう。
ここに来て、遠坂家に伝わる呪いである『うっかり』を発動させてしまった。
そんな中で、遠坂の背後に大きな黒い影が現れる。
遠坂はソレに気付くと咄嗟に、振り返りガンドを放つ。
放たれた黒い弾丸は刀を僅かに逸らせ、なんとか鎧武者から距離を取ることに成功する。
だが、危険である事には変わりない。
まどかが此方の位置を把握するまでは一人で相手をせねばならない。
そんな中である事に凛は気が付いた。
(まさか、こいつ……対魔力は無いの?)
鎧武者の頬にガンドが跳弾した際に出来たのか、傷が出来ていた。
それを考えれば、まどかの矢を全て弾き飛ばした事にも納得がいく。
あれは魔力の塊だ――対魔力が無いのなら一発が致命傷に成りかねない程の高純度の魔力を秘めた……
つまり、この相手はまどかやさくらが戦うよりもマスターである凛本人が戦った方が有利に戦える。
そう判断すると、頭から逃げるという選択肢を消し去り、目の前の鎧武者へと目を向ける。
敵の武器は刀が両手に一本ずつの二刀流……
まだ、何かを隠しているかもしれない。
凛は細心の注意を払いつつ、宝石をいつでも使用できるように左手に持つと右手で鎧武者の足もとにガンドを放つ。
鎧武者の足場を崩し、足を殺す事が目的だがそのような事が鎧武者に気付かれない筈が無い。
ガンドが当たる直前に跳躍すると、凛へと迫る。
凛は軽く舌打ちをすると、持っていた宝石を使用して自分の身体機能を即座に強化する。
だが、そんな強化如きでは完全に躱す事は叶わず、身体には徐々に切り傷が出来始めた。
そんな中で、凛は左手に持っていた宝石の一つを回避する際に落としてしまう。
(あぁ、やっぱり一筋縄には行かないようね……けど、杏子も頑張ってくれているんだし、私もこんな所で時間をかける訳にはいかないのよ!)
そう思い立つと、一気に鎧武者へと走り込む。
そして、体中に刀による切り傷を作りながらも懐へと入り込むと、もう一度肉体強化の重ね掛けを行う。
本来ならば、身体の負担が大き過ぎる為、するべきではないが今は手段を選ぶ余裕は無い。
倒せなければ、そこに待つのは死だけだからだ。
(綺礼い教わった中国拳法がここに来て役に立つとは思わなかったわ……礼を言うのは癪だけどね)
トラックが衝突するような衝撃に鎧武者は後退するが、僅か三歩で踏み止まる。
しかし、凛にとってはその三歩こそが重要だった。
先程、宝石を落とした場所……
その宝石を発動させた際に最大限に威力を発揮できる場所……
凛の攻撃により、膝をついている鎧武者は今度は回避することは出来ない。
「これで、終わりよ!」
その言葉と共に、宝石から魔力は解放され辺りが白い稲光に包まれる。
近くにいた凛もその衝撃に吹き飛ばされるが、確実に鎧武者に攻撃を与える事が出来たという確信が凛にはあった。
雷が幾つも落ちたような轟音と発光……
その衝撃は同時に辺りの粉塵を吹き飛ばす。
「あらあら……人間にしてはやるようね」
そのあまりの威力にライダーは笑う事を止めた。
(やったかしら?あれだけの威力を叩き込んだんだから……)
吹き飛ばされて地面に倒れ伏していた凛は身体を起こすと鎧武者のいた方へと目を向ける。
そこには片膝を地面に付き、黒こげになっている鎧武者がいた。
満身創痍の状態の鎧武者に凛は一瞬、気を抜いてしまう。
だが、まだかすかに息があり、完全に消滅した訳では無い。
鎧武者の身体から棘が映え始めたかと思うと、次の瞬間にはその棘が凛に襲い掛かっていた。
気が付いた時には既に遅い。
身体強化の重ね掛けによる身体疲労と気の緩みから即座に身体を動かし回避する事は叶わない。
目の前に迫る棘の嵐に凛は必死にあがこうとするが、奮闘敵わず幾つもの棘が凛へと襲来する。
「凛さんをもう傷付けさせない」
いつの間にかまどかが凛の前で弓を弾いていた。
そして、全ての棘を撃ち落としていく。
それだけでは無い。
幾つかの矢は当たると同時に、棘を消滅させているのだ。
矢と棘の競い合い……
先に根を挙げたのは鎧武者だった。
棘が止まると同時に鎧武者は刀でその矢を弾き落そうとしていく。
しかし、矢が当たった瞬間、刀はみるみるうちに消滅していきそれは身体へと拡がって行く。
その状況に鎧武者も動揺し、驚愕の顔を浮かべるがそれが何なのか理解するには至らなかった。
「何よ……あの矢は……あの鬼道丸を浄化したっていうの……」
ライダーですら驚きを隠せない。
もしも、倒されたというのなら納得がいっただろう。
しかし、浄化されたというのなら話は別だ。
あのサーヴァントは自分にとっては天敵である。
先程から攻撃は矢を放つだけに留まっているから大した事が無いと鷹を括っていたのだが、それがここに来て大いに覆される。
それは凛も同じだった。
凛の目に見えていたスキル表が一瞬だが、書き換わったのだ。
しかし、それは目の前の鎧武者を倒すと同時に消滅した。
(なんなの……まどかって……)
マスターである凛も戦闘中に能力値が書き換わるという現象は聞いた事が無い。
確かに、狂化スキルを使う事が出来ればそれは可能だがまどかにそのようなスキルは備わっていない。
「あれ? 私……凜ちゃん大丈夫!」
その上、自分が何をやったのか覚えていないような言い回しで凜の無事を確認しようとしてくる。
まるで、無意識の内に何かしらの能力が発動したのか……
もしくは、別の誰かがまどかに憑依したかのように……
しかし、そのような事を考えている暇は無い。
後は残る障害である乱紅蓮を倒し、ライダーを倒して慎二に何をしたのか聞きださなければならない。
凜は先ほどのまどかの異常を頭の隅に記憶し、今は目の前のライダーへと集中するとまどかとともに乱紅蓮へと向き直った。
「ここだな……」
煙草を咥えた女性と礼園女学院の制服を着たどこか気弱そうな少女があるビルの一室の扉を叩こうとしていた。
二人はノックをしても返事が無い……
そんな家主の態度に痺れを切らした煙草を咥えた女性は部屋の扉を返事を待たずに明けた。
扉の向こうにはまるで蝋人形館のように多数の人形が並んでいる。
それは全てが人を模して創られたのだろうが、全てがどこかかけており伽藍堂としていた。
「あのバカはまだ私のよう人形を創る事に固執していたのか……才能が無いとさっさと断言してやったんだがな」
此方をじっと眺めている作品の数々を面白げに眺めながら煙草を咥えた女性は奥へと進んでいく。
そんな中、その女性の後ろを付いて来ていた気弱そうな女性が恐る恐るその女性へと尋ねる。
「あの……なぜ、私がここに……?」
歪曲の魔眼をこれ以上使うなと忠告されたかと思えば、いきなり連れ出されてこんな片田舎の街に連れられて来られたのだ。
数か月前の事件の事を考えると何があってもおかしくは無い。
自分はそれだけの事をしているのだ。
だが、そんな心配を他所に煙草を咥えた女性は近くにあった人形を掴むとその人形を睨み付ける。
「まぁ、あれさ。今回は作品の納品と同時に不出来の弟子が久しぶりに顔を見せるっていうんでわざわざ出向いた訳さ。奴にはきっちりと金を払ってもらわねばならないからな」
まったく、話が通じていないのだがそんな事をしていると大きな広間に出る。
そこには小学生くらいの少年がいくつものテレビの前に座り、じっとテレビを見ていた。
「貴様は相変わらずのようだな」
「そちらこそ、おかわりないようで……すいませんが、今いいところなんです。まさか、ここまでやるとは私も念の為に師匠に連絡しておいて正解でした。料金はそこのアタッシュケースの中にあります。ざっと、一千万円程ですが足りますよね?」
「足りるが、いいのか?人形一体で五百万と電話では言ったんだが?」
料金を多くもらう分には悪い話ではないが、これからこちらからも面倒事を押し付ける身からすれば流石に受け取り辛い。
だが、そんな師匠の言葉にその子供は振り返るとこう答えた。
「師匠の作品にはそれだけの価値がありますから――いや、そんな価値すらつけられないかもしれません。中世の錬金術師の推測を踏みにじるその人形に一千万など安いくらいですよ」
作品の出来を絶賛するその子供に対して師匠と呼ばれた煙草を咥える女性は大きく紫煙を吐きだす。
本人は本当に絶賛しているつもりなのだろう。
しかし、しれは褒められている本人からしてみても目の前にいる子供の創る作品は異質だ。
それ故に『人形師』として名高い青崎燈子が目の前の少年を才能が欠片もないと言い切った。
それは、自身のような人形を創る才能が無いからに他ならない。
部品一つ一つの代替えパーツなら完璧に再現するのだが、それが全体となると途端に作成できなくなる。
しかし、それは単に青崎燈子が異端であるに過ぎない。
ただ、それだけであり少年が人形を創る上で才能が無いわけではない。
むしろ、有り過ぎるというべきだろう。
死徒の身体の一部や、封印指定の魔術師の魔術回路を用いて生前の持ち主の力を再現する。
それだけならばまだいいが、魔眼の複製や固有結界の再現まで行う異常っぷりなのだ。
「私からすればお前も十分異端なんだがな……」
燈子さんの呟きにその子供は楽しげに笑うと本題を切り出すように促す。
「それで? こちらからの要件は終わりました。そちらの要件を聞きましょうか?」
「こいつに魔眼の使い方を教えてやって欲しい。そういうのはお前の方が詳しいだろ?」
その言葉に思わず、子供は呆れ返る。
何せ今は戦争中なのだ。いつ殺されてもおかしくは無い。
確かに、今手駒が増えるのがうれしいがそれを死なせたとなっては後々禍根が残ってしまう。
当然の如く、その女性も燈子さんに何を考えているのかと言おうとするが、真剣な眼差しでこう告げる。
「アレはああ見えて一応、私の弟子だからな。面倒事の一つくらい押し付けても問題なかろう。それに、奴の方がそういうモノの扱い方は詳しいからな」
「おい、本人の前でアレって言い方は無いんじゃないか? 確かに魔眼関連の扱い方は師匠よりは詳しいが……んで、系統は?」
「歪曲に透視のおまけつきだったな」
つまりは、物陰に隠れてもねじ切られてしまう事を意味する言葉に唖然とした様子でその女性を見つめる。
「それで、代替えの眼を創ればいいのか? それなら、あんたが……」
「違う……コントロールの仕方を教えてやってくれ……それが無いと、無痛症が治療出来んようでな」
「無痛症って、人工的に痛みを消す事によって長年封じ込めたのかー――考えた奴の顔が知りたいね。そんなエグイ方法で封じ込めるなんてさ」
少年は楽しそうに笑うと、少女を頭から足元まで値踏みするように眺める。
どう考えても戦闘向きではないうえに、その話を聞いた限りは頭脳戦も難しいだろう。
戦争が終わればいくらでも付き合っていいのだが今は何分、時間が無い。
それ故に断ろうとするのだが、燈子さんはこう条件を付け足した。
「依頼人からは出来んのなら殺せと言われていてな……また、暴走するかもしれない爆弾を抱えるのは御免だそうだ」
「ったく、わかったよ……ただし、死んでも文句は言わないならって条件があるがな」
「あぁ、問題ない。肉弾戦を仕込もうが何をしようが構わんが襲うなよ?」
そう言い終わると、入ってきた方のドアに顔を向ける。
少女もそちらの方を振り向くとそこには小学生くらいの少女と三十代くらいの青年が立っていた。
マミ「さて、アサシンサイドにも動きがあったわね!」
さやか「なんか、あそこってどんどん強くなって行ってないですか? まさか、家のまどかがあんなことやこんな事に……」
マミ「大丈夫よ!まどかさんがそう簡単に誰かに負けるとは思えないわ!」
さやか「それはそうですけど、歪曲の魔眼で透視付きとか厄介過ぎませんかね?」
マミ「それはそうだけど、魔術師ではなく退魔の方の一族だし戦闘経験は殆んどないっていうキャラだから少し危うい印象を受けるわね」
さやか「確かに……死んでも責任は取らない発言してましたしね」
マミ「まぁ、それはおいておいて、まどかさんのマスターは今回大活躍ね」
さやか「たしかに、二人が苦戦した相手を追い詰めましたからね……最後はまどかに仕留められましたけど」
マミ「さぁ、次回はどうなるのかしらね」
さやか「えっと、次回は……未定だそうです。って、作者考えておけよ!」
全ての編集が終了しました。
まあ、実は次回も書き終えているのですが間を置いて更新を予定しています。
多分、その次を書くのに時間がかかりそうなのでwww
感想も待ちしております。
因みに、杏子の現在の槍は普通の槍ですよ。