夜になり、新都へと杏子と凛、まどかは来ていた。
そんな中で杏子はポツリとこんな事を呟く。
「もしかしたら、アイツも私と同類なのかもな……」
「何か言った?」
凛は杏子の言葉が聞き取れず、尋ね返すが杏子は何でもないと誤魔化すだけだった。
すでに見回りを初めて数時間が経過しているが一向にライダーの気配はない。
これまでの魂食いの頻度からすれば、まるで嵐の前の静けさとでもいうような不気味な静けさを思わせる空気が新都を覆っていた。
「おかしいな……これまでの頻度とやり方を考えるとそろそろ引っかかってもいい筈なのに……」
ライダーのマスターの下僕と思われる無能の行動を考えれば明らかに異常だ。
これまでの露見を鑑みない行動が明らかに一変している。
その時、杏子の鼻に嗅ぎ慣れたあの嫌な臭いが漂って来た。
他の二人は気が付いていないようだが、この臭いは確かに血の臭いだ。
しかも、ちょっとやそっとのレベルじゃない……何十人もの人間から抜き去り、それをばら撒いて作られた血の池が放つ異臭だ。
杏子はその事に槍をいつでも使えるように手を添えながら、その悪臭の方へと走り出す。
「杏子!一体、どうしたの?」
「この先に何か嫌がる……お前らも覚悟しとけ!」
凛達も杏子の後と追い、角を曲がろうとするが、杏子はそれを制止しようとする。
しかし、凛たちはその制止を聞かず角を曲がってしまった……
そして、目に入ってきた光景に言葉を失う
いや、失わずにはいられなかった
「慎二……アンタ、何してるの……」
それがやっと凛の口方漏れた言葉だった。
血の池で人間だった肉片を蹂躙し、踏み付けている慎二の行動など凛に理解出来る筈が無い。
頭の中にはソレに対する拒絶感とその光景の気持ち悪さに今にも吐き気を催す……だが、ここで、その流れに乗ってしまえば戦う事が出来ないと凛はなんとかそれを飲み込んだ。
そんな中で槍を握りしめて黙っていた杏子が、慎二を睨みながらゆっくりと近付いていく。
槍は怒りによって震え、凛や英霊である筈のまどかすらも冷や汗を掻いてしまう程の殺意を発していた。
「テメェ、やってる事の意味をわかってるのかよ!」
「意味?これまで、僕の事をバカにしてきた奴らを皆殺しにしてやっただけさ!僕は選ばれたモノなんだからね!」
その言葉に杏子は何も言わず、慎二の身体を槍で振り抜いた。
手加減すらしない、本気の一撃……
サーヴァントですら、並みのモノでは吹き飛ばされる一撃である。
しかし、その一撃を人間としては考えられない筋力で慎二は耐えきったのだ。
その事に、杏子は目を疑うが、瞬時にライダーが何かをしたと結論に至る。
あの女の策略だとするならば、他にも何かしら手を打ってくる……そうならば、ここで全員が留まるのは愚策だ。
相手の戦力が見えない中での力の分散は危険だが、杏子にとっては一人の方が戦い易い。
さくらがいても本気の杏子にとってみれば足手まといにしかならない。
杏子がそう分析していると、何とか持ち直した凛が目の前の光景について尋ねてきた。
「どういう事よ!佐倉杏子!こいつは人間の筈よ!魔術師としての才能すらない!」
「分からねェ……ただ、これじゃあまるで吸血種って感じだな……こうなっちまったらもう助からねぇ……一思いに殺してやる方がこいつの為ってもんだろ……ライダーが何かしたようだがな……」
そう杏子は言い終わると、慎二から距離を置く。
そして、空いた片手で槍を持つ右肩を掴むと目を閉じ、誓言を唱え始めた。
「私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。
我が手を逃れうる者は一人もいない。
我が目の届かぬ者は一人もいない」
「打ち砕かれよ。
敗れた者、老いた者を私が招く。私に委ね、私に学び、私に従え。
休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる」
「装うなかれ。
許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を」
「休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。
永遠の命は、死の中でこそ与えられる。
――――許しはここに。受肉した私が誓う」
「――――|“この魂に憐れみを”≪キ リ エ ・ エ レ イ ソ ン≫」
その言葉を言い終えると同時に杏子は瞼を開けると慎二へ向かって走りだし、跳躍すると同時に心臓めがけて槍を振り下ろした。
心臓を穿たれた人間は死ぬ。
絶対的な法則の中でその場にいる誰もが慎二が死んだと思った。
だが、それで話が終わる事は無かった。
心臓を貫かれて死んだ筈の慎二が刺した槍を掴んだのだ。
そして、ゆっくりとその槍を引き抜くと槍ごと杏子を近くのビルへと叩き付けて瓦礫の中へと沈める。
慎二はそれを自らの目で確認すると高らかに笑った。
「そうさ!これが選ばれたモノである僕が得た力だ!これなら、もう誰にも負ける事は無い!今ならこれまでの事を許してやってもいいぞ?遠坂?」
「誰があんたなんかに謝るのよ!」
みるみる傷が繋ぎ合わされていく慎二の心臓の穴に凛は恐怖を感じながらもそう言い放つ。
凛はまどかが配置につく為の時間稼ぎをする為に人差し指を慎二へと向け、魔術回路に魔力を流し込む。
前回戦ったアサシンとは違い、ダメージは通る……ならば、宝石を使う事もないと考えての判断だったが、それは誤算だった。
大量に放たれるガンドの嵐に後退する事無く、徐々に凛の方へと近付いて来るからだ。
そして、凛の目の前に来ると慎二は高く腕を振り上げた。
「愚かだったな!遠坂!」
「馬鹿はアンタよ!」
その言葉と共に、射撃位置に移動したまどかが弓を振り絞り、小さく呟いた。
「ごめん!でも、もうこれ以上罪を重ねるのはよくない事だと思うから!」
弓の前には小さな円形の魔方陣が現れる。
そして、まどかが弓を射ると同時にその魔方陣に魔力が流れ、ピンク色に発光すると大量に生成された矢が慎二に襲い掛かる。
だが、それらが突如現れた轟音により跳ね返されると同時に、慎二の前に黒い影が現れる。
「どうした!遠坂のサーヴァントはこんなものなのか?雑魚じゃないか!あれだけ、僕の事をバカにしてた癖に哀れだな!」
「おいおい……私は眼中に無しかよ?ど素人の糞餓鬼が!いきがってるんじゃねェよ!」
いつの間にか瓦礫から抜け出していた杏子は今にも凛へと襲い掛かろうとしていた鵺を素手で掴むとそのまま隣のビルへと叩き付ける。
そして、すぐさま杏子はライダー本体を探すように指示していたさくらにこの場を離れるように指示を追加する。
「さくら!あんたは凛の指示に従ってライダーを見つけ次第、対処しろ!あの女はこの近くにいる筈だ!このバカはあたしが潰す!」
「ちょっと待ちなさいよ!そいつを殺すつもり!」
凛の動揺に杏子は溜息を吐くと髪を掻き毟る。
魔術師としてはまだまだ未熟な凛にとってこの男は現実の一つなのだろう。
杏子が失った掛買の無い時間……
だが、この状況でそんな優しい事は言っていられない
手を抜けば逆に喰われる
弱肉強食……弱者は蹂躙され、強者の食い物にされるだけだ
しかし、それは凛の生きる世界とは別の世界の話だ
「助けるにしても、なんでこうなったのかわからないなら助けようがないだろ?だから、私がここで足止めしといてやる!だから、急いでライダーから情報を聞き出せ!そう長い時間、私も持ちこたえられないぞ!」
だが、その言葉が嘘である事にさくらはすぐに気が付いた。
杏子は分かっているのだ。
もう、目の前にいる人外は戻れない事を……
身内にそれを出し、殺してしまったという責を凛に負わせない為の優し嘘だった。
「わかった!急いでライダーを探し出す!行くわよ!まどか!さくら、ライダーの居場所まで案内して!」
「えっ!はい!こっちです!」
さくらは突然、凛に話しかけられた事により、現実へと引き戻される。
そして、さくらは凛とまどかの元へと現れると高みの見物をしているであろうライダーの元へと案内を始める。
しかし、そう簡単に辿り着かせる筈が無く、鵺はそれを阻むために三人の後を追い始めた。
「いいのかい?あんたの護衛を手放して?」
杏子は軽く首を回しながら慎二に向けて殺気を放つ。
普段の慎二なら耐えられないであろう殺気を軽く受け流すと嫌らしく嗤いは始めた。
「無限の魔力を手に入れた僕に怖いモノなんてないのさ!だって、僕は天才だからね!以前の逃げ回るだけの僕とは違うって所を見せてあげようじゃないか!」
「そうかい、そうかい……こんな事なら、例のアレを携帯しておくべきだったな……」
杏子の持つ最大兵器……
神代の宝具のレプリカだが、吸血種や封印指定を殺す槍としては十分すぎる兵器
だが、まだ試作段階でもあるため、いつでも持ち歩ける品ではなかった
その為、一応先輩であるいけ好かない野郎から槍を一本拝借していたりして、戦場を駆けていたりするのだが……
こんな事なら、今持ち合わせている武器を全て持って来ておくべきだったと反省するとやれやれと言いながら、槍に魔力を通していく。
「言っておくけどさ……私は手加減しないぞ?アンタを殺す気で行く」
杏子の目は槍に魔力が通されるにつれて見る見るうちに朱く輝き始めた。
それだけではない。
爪も伸び始めて、十の刃となる。
そして、変化が終わると同時に音も立てず、空気に溶けてしまった。
「おいおい、あれだけ言っておいて逃げ……なんだよ、これ!なんで僕に傷が付いてるんだよ!」
叫んでいる間にも慎二の身体には傷が増え続ける。
姿が見えず、どこから攻撃しているのかも判らない。
激しい猛攻に反撃の隙すら与えない。
杏子の“人間”を相手に戦う際の常套手段である魔眼による感覚支配だ。
その激しい猛攻は体の傷の再生させる余裕など与えず、新たな傷を生み出していく。
息をつく暇すら与えず、反撃の隙を見せない。
これがプロと素人の実力差だった。
気が付くと、辺りには慎二の血が大量に飛び散っていた。
慎二は身体中をずたずたに引き裂かれ、穿たれた慎二は恐怖のあまり逃げ出そうとするがその首を杏子は槍を空いた片腕で掴み高らかに持ち上げる。
そして、今は輝く事を止めた目で慎二を睨みつけた。
「ふざけるな!僕が負ける筈が無い!こんな奴に!」
この状況になっても負けを認めないその神経に杏子は呆れ果ててしまう。
だが、こうなった以上はこの雑魚も滅する対象だ。
せめてもの救いとして痛みの感ずる暇もないくらいにあっさりと……
杏子はそう誓うと槍を慎二の首へと向ける。
「チカラの使い方すら知らないヒヨッコなんて所詮はこんなもんさ……アンタには背負う覚悟もその代償も足りなかったんだよ!いくら不死っていってもさ……頭を潰せば死ぬだろ」
そう呟くと杏子は槍の穂先を慎二の頭に狙いを定める。
そして、一気に頭めがけて槍を突き立てた。
しかし、寸前の所で何かに突き飛ばされた。
「おい……お前が通り魔の正体か!」
その聞き覚えがある声に、杏子は思わず舌打ちをする。
こんな事なら、さくらをこちらに残しておくべきだったと後悔するが、こんな事で令呪を使う必要が無い……
令呪を使う必要が無い……
杏子はそこである事に気が付いた。
ここまでボロボロにされてもライダーを令呪で呼ばないのは不自然すぎる。
確か、慎二は本を使ってライダーを操っていた。
しかし、今はその本が無い……
まさか、別にマスターがいる?
その疑惑が浮かんだ時、全てが杏子の中で繋がろうとしていた。
もしも、真のマスターがいたとするならこいつは“私”をここに足止めさせておく為の布石だとしたら……
ここにセイバーが現れたのも全てあの女の策略だったとするなら……
そう考えると、この場に長居する必要はない。
必要な武器を持ち込み、早急に対処せねばならない
仕事として……
「糞……めんどいのが出てきやがったか」
サーヴァントの中で最優と謳われ近接戦に秀でたセイバーと真正面から渡り合うのは本気になった杏子でも部があるか分からない。
しかし、ここでアレを見逃すわけにもいかない。
かといって、セイバーと戦い消耗するのはもっての外だ。
どう動くか杏子が悩んでいると、セイバーが戦闘の構えを示しながら告げる。
「答えなさい!返答次第では貴方を倒します!」
「倒すね……やっぱり、殺し合わないと話は進まないか……私としてはそいつを引き渡しって逃げられたか」
気が付いた時には慎二の姿は消えていた。
ならば、もう杏子にセイバーと戦う理由は無い。
しかし、どうやら、向こう側のマスターにはあるらしい。
「もう、魂喰いなんて止めろ!」
「はぁ? 何言ってんだ? 私はあの糞餓鬼に用があるんだよ……テメェになんざ用は無い」
「慎二に何の用があるんだよ!」
「奴を殺す。アレはこの世界には居てはいけないものだ。存在自体が悪だ。早めに処分しなければ大変な事になるぞ」
その言葉は衛宮士郎にとって許せるモノではなかった。
全てを救う事を望む衛宮士郎にとって、誰かを切り捨てる事は絶対にあってはならない。
だから、目の前にいる杏子が慎二を殺そうとするのを許すわけにはいかなかった。
杏子が向こう側が仕掛けようとしている事に気が付き、距離を取ろうとするが、足が固定されて動かない。
そして、気が付いた時にはフェイトの金色に輝く鎌が杏子へと迫っていた。
「何!?」
鎌がふれる瞬間、杏子の姿が消滅したのだ。
それと同時に背後から槍が振り下ろされる。
いくら対魔力の高いセイバーとは言え、物理でならダメージを与えられると考えての事だったが固い壁へと阻まれてしまう。
「ったく、バリアなんてありかよ……」
「それはお互い様です。幻術が得意なようですね……」
互いにとって戦いにくい相手……
フェイトの魔法は非殺傷設定とは言え、魔力変化による雷撃で一時的に行動を制限する位ならば容易いだろう。
しかし、杏子の幻術の前には攻撃を当てる事すら難しい
睨み合いが続く中で、杏子はフェイトから目を逸らすと辺りを見回した。
そして、乾いた笑みを浮かべる。
「おい、こりゃマジか……ここは停戦といかないか?さすがの私もこいつら相手には骨が折れるし、アンタらが居たら邪魔だ」
「なんだよこれ……」
目の前に現れたのはビルの高さもある蜥蜴と死者の軍団だった。
フェイトVS杏子は少し先送りになりました
ただ、二日目~三日目のライダー編の中ではもう一度戦う予定です
さて、ここまで話が多きくなれば日本在中のあの方も動きます
流石に埋葬機関も待ち一つが死の街になるのは見過ごさないでしょう
次回は死の軍団です!
固有結界案
Self will cover thou crime.
Truth is reversed to falsehood.
A lie is wandered to truth.
No intentions are repainted here.
The truth of and falsehood is a dream carried out in which one time is transitory.
The dream is osamu which awakes some day.
Just if it becomes, disappear as a phantom of a transitory dream.
我は汝の罪を覆い隠そう
真実を偽りへと反転し
虚言を真実へと流転し
全ての意思をここに塗り替えん
されど、偽りの真実は一時の儚き夢なり
その夢はいつかは醒めねばならぬ理
なればこそ、儚き夢の幻として消えよ
ハッキリ言ってライダーが少し面倒な存在にwww
杏子の判定とかもwww
一応、今のまま行くつもりですが