なんとなく沈んだ気持ちを復活させる為に、迷宮へ出かける事にした。
寄付をしたり、差し入れをしたりしてから、迷宮に行く準備を整える。
その後、張り紙をして、一週間ほど留守にするのだ。
他の教祖様も来てくれる事になり、私達はのんびりと出かけた。護衛にはリュリュが来てくれる。
ま、パプワさんに勝てる人はいないでしょ。
ちなみに、リュリュは早速僧侶となっていた。獣人って、なんていうか……うん、即物的だと思う。
反面、ベテランの人達は凄く悩んでいた。
そう、ダーマ神殿に帰依するなら、早い方が……いや、弱いうちの方がいい。そして、出来るだけ目的の職業を早く学んだ方がいいのだ。何故なら、熟練度が上がる為には強敵と戦わなくてはならず、強くなればなるほど難易度が上がるからである。
結局、とにかく強くなる事を主眼に入れるなら、武道家で便利な特技を覚えつつ、本当に大事な旅の時は戦士の方がいいですよ、ただ、僧侶は本当に役立つ呪文が多いので、パーティを組めるなら一人くらい入れておくといいです。適性は、パラメーターのMPと賢さを見て下さい。MPが多いなら、一回護衛を雇ってでも僧侶になってキアリーまで覚えておいた方が絶対にいいです、と説明しておいた。
キアリーが解毒と知ると、皆さんは大きく頷いた。
「ルビス様の加護は、一つだけ欠点がある。毒に弱いという事だ。毒消し草を切らせば、どうにもならない」
「HP制だからな。少しずつ削って来る敵も怖い」
「持ち回りで僧侶に転職してみるか」
そんな会話を思い出す。
商人さんは、もっと私の能力の探索に余念がない。武器防具、道具をGに戻す方法も見つけたし、どうやら品ぞろえの数に限度があって、一定以上の種類の物は作れなく、商人によって装備を作る時間も変わる。それぞれ早く作れる装備、なかなか作れない装備が存在するらしい。
商人達がスロットと呼ぶ、作れる物の枠は、リセットには一か月ほどの休養が必要だそうだ。私は商人ではないから、試行錯誤する事もステータスもわからないから、良く理解は出来なかったのだが。
だがしかし、商人達はこの事を逆に喜んでいた。装備は費用も効能も変わらないから、他の店との差をつけるのに困っていたらしい。これなら、売り物の住み分けが出来る。
隣町との銀行とルイーダの酒場を使った交流も始まったし、商人さんは本当に凄いと思う。
迷宮内で考え事ばかりは命取りだ。私は首を振って、他の宗派の教祖様達と共にダンジョンに入った。
久々のダンジョンだ。足を引っ張らないよう、一生懸命戦う。
どろにんぎょうやスライムナイトなど、私には強い敵ばかりだったが、MPを駆使して頑張って戦った。そして、遅くまで戦ったら迷宮内の宿屋で一休み。
キタキタ親父さんは、防御力と攻撃のかわし方が凄くうまい。
パプワさんは凄い力だし、他の教祖さん達は……うん、個性豊かです、としか言いようがない。最初に私が挨拶をした教祖様以外の教祖様も来ていて、その人は普通っぽくて安心してしまう。
あ、なんかモンスターに変身した。
うん、やっぱり普通なのは私だけなのか。孤独だ……。
「しかしルイ殿。ルイ殿は今回、色々な呪文を覚えましたな!」
キタキタ親父さんに褒められ、私は頭を掻いた。
「うん、皆のお陰だよ。ありがとう」
「いえいえ、いいのですよ。ルイ殿には日ごろから差し入れでお世話になっていますからな。先日は寄付も頂いて」
「ルイの作る飯は美味いぞ」
パプワさんの言葉に、私はますますにやけてしまう。褒められるのは、凄く嬉しい。
「えへへ。ありがとう。喜んでもらえて私も嬉しい」
「そういえば、気付いておりましたかな? 私の神聖なるキタキタ踊りを学びつつ、ルイ殿のルビス様の加護を得ている者がいる事に」
「え、そうなの?」
キタキタ親父さんはこっくりと頷く。
「そうですぞ。神の中には、複数の神を崇める事を許す寛大な神がおります。組み合わせにもよるかと思いますが……。まあ、これは信者が探索すべき事ですな」
「じゃあ、同盟作ろうよ! 皆仲良しの、ゆるゆる同盟! 冒険者ギルドって、有料で本も置かせてもらえるでしょ? 私達の宗教の紹介書、作ろうよ!」
「いいですな!」
「ゆるゆる同盟とは、いかにも頭の悪い女の子の考えたっぽい名前だな……。もちろん我も入れるのだろうな。へっくしょん、まもの」
「スモラバさん……。だって私、馬鹿な女の子だもん。悪い? ねえ、皆、どう? 他宗教を容認できるなら、誰でも歓迎! 複数の神を信仰、どんと来い! ね、そうしよ!」
でもごめん、ゆるゆる同盟ってとりあえずなの。ゆるーく仲良くするだけの同盟なの。それで様子見して、後で立派な同盟を別に作ろうと思うの。だって、スモラバさんてバラモスさん? って疑っちゃうんだもん。狡猾な私を許してね。
話は盛り上がり、言い出しっぺの私が紹介書を作ってお金を出す事になった。
もちろん、構わない。この中ではダーマ神殿が多分一番余裕のある神殿だとわかるからだ。
実は私、絵も結構得意なのだ。わくわくして来て、堪らなく嬉しい。
今の私、無敵だよ!
そして、楽しすぎる一週間は終わった。
帰った私達は、まずそれぞれの信者の用事を済ませ、紙に色々原案を書く。
「おお、何やらいい感じですな! いかにもゆるゆる同盟といった感じで、楽しげですぞ!」
「ありがとう、キタキタ親父さん!」
「ついでに、我が宗派の説明会をしたいので、それも載せてもらえますか」
「おーけーおーけー。まっかせて! 説明会のページも別に用意するから!」
そうやってわいわいしていると、商人さん達が興味を持って聞いてきた。
「なるほど、早速パンチをかますつもりですな。我らにお任せ下さい。一週間程お待ちを」
そう言って、商人さんは出ていった。
その後、次々とゆるゆる同盟の協賛者がやって来てくれた! 新興宗教がほとんどだが、他の宗派を容認するって決まりさえ守られれば良し!
話を聞くと、お金が無いという宗派も多いらしいので、ゆるゆる同盟の冊子にページを提供してくれて、お告げを受けている教祖様には100Dを提供する事にした。
うちにも大きな出費だけど、商人さん達の言う助けあいってこういう事だと思うよ!
ついでに、ゆるゆる評議会のルールも決める事にする。
一か月に一回、持ち回りで司会をやって、話し合いをするのだ。
順番はくじで決めた。ゆるゆる同盟は、平等なのだ!
それからさらに二週間かけて書きあがったゆるゆる同盟の冊子を、冒険者ギルドに置きに行った。
凄く立派な装丁の、いくつもの神殿について説明する冊子がいくつか置いてあった。
「へえ、こんなのあったんだ」
前に来た時は気付かなかった。パラパラと見る。あれ? 同じ構成で、こっちの方が格段にいいような……。
……。
……。
考える事は皆同じね!
「よしっ」
受付の人に許可を得て、本を設置する。紙に穴を開けて紐で綴っただけのそれは、立派な装丁の本よりも質も内容も中身の文も絵柄も全て大分見劣りしていたが、私達、新興宗教だもん。これで十分。
「皆! 本が出来たお祝いしよ!」
何故か心配そうに見ていた教祖様達が、笑った。
「そうですね。今日はぱーっとやりましょう」
「飲みましょう、飲みましょう! 説明会には、ルイ殿も応援に来てくれるのでしょうな」
「一緒に踊ってあげるよ!」
「それは有難い!」
「いや、ルイ、それは辞めた方が……」
リュリュの言葉に、私はにっこりと首を振る。
「キタキタ親父さんは、一番大切なお友達だもん。ね?」
「はっはっは。照れますな!」
最初はめちゃくちゃ引いたけど、あの時、庇ってもらえて嬉しかったよ。ゆるゆる同盟、一番に賛同してくれてありがと。