私の神殿は、加護の拙さで有名になりつつある。第一は装備、第二は商人ネットワークからさほど加護が良くなかったと広まってしまった事だ。基本的に作った物は信者向けだし、薬草は普通の傷にも効いたけど、他の宗派のポーションの方が威力が高いのである。唯一宿屋からは、他の店より元気になると言われたと喜ばれているが、宿屋の数など知れている。
早く熟練度を上げたいが、中々難しい。
あ、私、ホイミ覚えたよー! えっへん!
どうやら、転職できない代わりに、私個人でも色々と呪文を覚えられるらしい。
俄然、やる気が出るというものである。最も、一日の決まった時間は神殿にいる事にしてるから、泊まりがけで迷宮に行く事は出来ない。浅い層で弱い敵を倒すしかないから、正直レベル10が打ち止めなんだけどね。
迷宮から戻り、ご飯を作っていた時だった。
リュリュが、怪我人を背負って走ってきた。
「ルイ! いるか! 怪我人だ。お前も司祭なんだろう。頼む、何とかしてくれ……!」
獣人のおにーさんが担ぎ込まれて来て、私は急いで指示を出した。
「アト! ベッドを祝福して! レベルは二十想定! それと薬草ありったけ持って来て!」
そして、ホイミを唱える。怖いよ、血がいっぱい出ていて気持ち悪い。ホイミもあんまり効いていない気がする。当然だ。ホイミもまた、HPを癒す為の物なのだから。
どうしよう、どうしよう……!
焦るな、何度言い聞かせても涙が出てくる。
「ホイミ、ホイミ……! 駄目だ、MPぎれ。薬草は飲める? 全部飲みなさい!」
そしてアトが祝福したベッドへと運びこんだ。
「ルビス様、お願い。お願い。お願い。今度からちゃんと信仰します。だからお願い。奇跡を起こして……!」
私はベッドの前で跪いて祈る。
疲れて眠った時、ルビス様が微笑む姿が見えた気がした。
翌朝、目が覚めると、獣人のおにーさんは安らかな寝息を立てていた。
傷跡は残っちゃったけど、大丈夫。生きてる。生きてる! 怪我もちゃんと治っているし、一安心だ。ありがとうルビス様。ありがとう……!
私が立ち上がると、その気配でおにーさんが目を覚ます。
「ここは……」
「ここはダーマ神殿だよ。もう傷は大丈夫。今、ご飯を作るから」
「ああ……リュリュが信仰している……。たけやりの……」
「い、いずれは、いずれは鉄の槍も装備できるようになるもん! そ、それより! 貴方の治療で、いっぱい薬草や祝福を使っちゃったんだからね。ちゃんと返して貰うから」
「それを換金すれば足りるか?」
獣人のおにーさんがGの入った小袋を投げ渡したので、私はせっせとそれを数えた。
ふふん、ちゃんと計算していたのだ。地獄の沙汰も金次第なのだ。Dが貰えないとは思わなかったけど。
えーと、Gのレートは……。薬草の値段が8Gと5Dだから……。
血で汚れたシーツも洗わないといけないから、ついでに追加料金貰っちゃえ。お金持ちっぽいし。
「はい、確かに貰ったわ」
そして私はホクホク顔で袋を返す。
「……それだけでいいのか?」
「ちゃんとシーツを汚した追加料金まで貰ったわよ」
「……そっか。ありがとう。俺はカイラ」
「私はルイよ。じゃあ、食事を作りに行くわ。リュリュにも礼を言うのね」
そして、私は食事を作る。カイラには病人食で、他の人は普通の食事を用意したのだが、カイラは普通の食事を用意した席にさっさとついてしまった。私が病人食か―。
「美味いな。宝石をぼったくるだけはある」
カイラが美味しそうに肉を頬張る。ああ、私のお肉。
「なによう! じゃないとHPが回復しないんだから仕方ないじゃない!」
「HP?」
「お前もルビスの祝福を受ければわかるさ。ルイの祝福は驚くほど安い。一緒にたけやり仲間になろう」
笑ってリュリュが言うのに、カイラも笑って頷いた。
「ま、一度死んだようなもんだしな」
「本当に!? ありがとう、カイラ!」
私は嬉しくて仕方がない。食事後、さっそくカイラを祝福する。次はちゃんと適正価格を取った。18レベルだから170Gである。
強いなー、カイラさん。
それと、装備一式を売る。
「高いな! どこが安いだよ、たけやりなんかで、なんでこんなに宝石が持っていかれるんだ」
「これは宝石を煮溶かしてルビス様の加護で作ったんだ。ルイの取り分はほとんどないぞ」
「マジか。おなべの蓋がねぇ……」
「HPが0にならない様に気をつけてね。でも、危ない時は絶対に冒険者モードをオンにして」
「わかったわかった。じゃあ、行ってくる」
私は手を振って見送る。
アトと一緒に食事の片づけをしたら、買い物。カイラに使った分の道具を補充しなくてはならないので、今日の迷宮探索はお休みだ。
結局、リュリュとカイラさんは三日も戻らなかった。病み上がりなのに深くまで潜って大丈夫かな。
……そして、戻って来た時、また獣人の怪我人が運び込まれてきた。しかも今度は複数だ。またか、またなのか。
私はあわあわと傷の治療をした。
翌朝、彼らはもめにもめた。
「誰がそんな恥ずかしい装備をするか!」
「お前達の戦い方はあぶなっかしすぎる。このままだとお前、死ぬぞ」
カイラの言葉に激昂するリーダーっぽい人。
「大きなお世話だ!」
「別に、無理にルビス様を信仰してなんて言わないわ。ルビス様だって、嫌々信仰されたくないと思う。けど、治療費は払って」
私が手を差し出すと、リーダーっぽい人が私の手にGの入った袋を叩きつけた。
「今、数えてお釣り渡すから待っててね」
袋を返すと、彼らはずかずかと行ってしまう。
けれど、二回目に治療をしにやって来た時には、渋々と祝福を受けてくれた。
そして、私は熟練度★2、みならいになった。やった!
呪文 ホイミ バギ ルカニ
特技 ルビスの祝福 戦士への転職の儀式 ルイーダへの転職の儀式 銀行への転職の儀式 宿屋への転職の儀式★2 武器屋への転職の儀式★2 防具屋への転職の儀式★2 道具屋への転職の儀式★2 復活アイテムの作成
技術 結界術
結界術は、スライムが防げる程度の弱い結界を、大人が大の字に寝転んだ程度の大きさに張る力だ。これで休憩が可能になる。いずれは街に張れるようになるだろう。他の宗派にもあるかもしれないが、10年後、かなり役に立つんじゃないか?
テンションアップである。
私は、早速祝賀会の手配をした。
信者さんに来てもらい、早速祝福の儀式を掛け直した。来てくれなかった人もいるけど、ご馳走目当てで関係のない人も来てるけど、気にしない! お祝い事だもの。
その後、新たな装備や毒消し草を作りだして貰い、買い取る。
ついに銅の剣が! 高いけど! 私装備出来ないけど!
これには皆、大喜びだった。そうだよね、18レベルでたけやりは嫌だよね。
装備を新調した後は、皆で食べて、飲んだ。
しかもその後、獣人さんが複数祝福を受けに来てくれた。
国教になる日も近いかもと思うと、嬉しくてしょうがない。
商人さんも、異様なほど喜んで、初心者の冒険者にはまずここをお勧めします! と言ってくれた。
ダーマ神殿に二人程人員が欲しいというと、獣人の孤児が紹介してもらえた。
早速転職してもらう。ちなみにルイーダの酒場がルピちゃんで、銀行員がキュットくん。
ルピちゃんだが、リアルタイムで仲間登録している人のレベル変動がわかり、連絡と呼び出しが出来るらしい。元いる所に送る事は出来ないけど。それと、パーティの結成と友達登録が出来る。これをすると、強くイメージしてロックオンしなくても仲間への全体呪文が掛かりやすくなり、復活するか、仲間の首に棺桶のアクセサリーとしてぶら下がるか選べるようだ。友達登録は、銀行の物を共有するかどうかが選べる。
早速、何故か道具屋さんと宿屋さんがそれぞれの息子さんと友達登録をしていった。後、銀行への転職希望が二人の使用人から二人ずつ。
一週間後、迷宮の一階の階段前に宿屋と道具屋が出来たと大騒ぎになった。
パーティ登録で、迷宮外から迷宮内へ物資を送っているのだ。手紙も銀行に預ければ、連絡できるしね。考えたなぁ。
ちなみに、お店★2なら、スライム程度は防げる結界を張れるみたい。ルイーダと銀行は★がついてないって事は、結界張れないのね。
ちなみに、銀行に物を預けた人がそのまま死ぬと、権利は私に来ます。おお、悪徳教祖っぽい。他の宗派でも復活あるし、事前にお金払うから財産返す契約結んでって話も来てるんだけどね。もちろん高値で契約するつもり。
銀行登録もルイーダの酒場もなんらかの形でルビスの祝福を受けないと使えないって言ったら商人の信者がぽつぽつと来るようになった。
獣人さんの信者も来るようになったし。
ふっふっふ、国教となる日は近い!