まずは情報収集である。私と同じ境遇の人がいるかもしれない。
「こんにちは。この近くに引っ越す事になったルイです」
そう言って、私は近くの神殿を覗いてまわった。
「んばばんばんば、メラッサメラッサ」
「あついわっあついわっ」
踊る子供。火あぶりにされる鯛に足のついた半漁人のオカマ。
……ここはパス。
次!
ずんどこどこどこ、ずんどこどこどこ。
インディアンっぽい人がなんか儀式中だった。
次!
ぴーひゃらーらー。ぴーひゃらーらー。
半裸の親父が舞っている。
次!
なんかシカの頭の剥製を被った人が儀式中。
次!
その扉を開けると、神官らしき人が掃除をしていた。
お、ここはまともっぽい……。
「へっくしょん、まもの」
パス。魔物の侵攻の噂がぐっと真実味を増したわー。
触らぬ神に祟りなし。
教会が開けるまでの後一週間、何をしたらいいのかしら。
当座の食料とかは運びこんでくれるみたいだし。無駄遣いしないように気をつけながら、街を見て回ろう。
そういえば、役所に行くまでに随分神官たちの勧誘があった。神官服を着ていけば、面倒事は減るかな。
私は着替えて、街へ出た。
アトに案内してもらいながら、あちこち見て回る。
街の中央には役所と並んで大きな冒険者ギルドがあり、そこでは魔物との戦いの訓練講座をやっていた。しかも、持っていくのは武器と鎧だけでいいそうだ。
これはぜひともお願いしたい。
二日後の予約を入れ、色々と見て回る。早速、私の神殿の情報も張り出されていた。
一人で迷宮に行く時は護衛依頼もお願いしたいが、値段がなぁ……。
その日は一日街を見て回って、二日目は復活アイテムの作成に挑む。
やり方は自然と頭に浮かんできた。
*自分の復活アイテムは作成できません。
……うえーん。
仕方なく、掃除をして過ごした。
三日目。私は張り切って出かけた。
人数が多いなぁ……。どうやら、ひのきのぼうを装備した人は私だけみたいだ。皆が見てる……。
ちなみに、皆の武器は、普通に金属製の剣とか槍とか。いいなぁ。
とにかく、私は配られたリュックを担ぎ、皆に一生懸命ついていった。
わわ、スライム!
私はぎゅっと目を瞑って、思い切りひのきのぼうを振る!
ひのきのぼうはぼよんと跳ね返されたが、私は何度も殴った。
すると、スライムが小さな宝石になる。
私は急いでそれを腰に下げた袋の中に入れる。そうしている間に、私に蝙蝠が襲いかかってくる。
危ない! 思った時には、蝙蝠は真っ二つになって宝石となった。
「気をつけろ。……神官か」
獣人としかいえない女の子。私は、ドキドキしながらお礼を言う。
「精霊ルビスを信仰する、ダーマ神殿の神官のルイです。あの、ありがとうございます」
「悪いが、聞いた事が無いな。……私はリュリュ。剣士だ」
そうして、私とリュリュさんは握手した。リュリュさんは凄いなぁ。蝙蝠を一撃なんて。なんでこんな人が、初心者コースなんだろう。
そうして、私は辺りを見回す。
皆、当たり前のように一撃でスライムや蝙蝠を黙らせていた。
うん、私が弱いだけだね。超弱いだけだね。がんばろっと。
訓練は、三日ほど続き、そこで迷宮の中での野宿の仕方など、様々な事を学んだ。
野宿の仕事とかも大事だけど、一番の収穫は自分の能力についてだった。
攻撃は痛いけど、怪我をしない。
その代り、HPがぐっと減る。
眠っても、回復はしない。きっと、その為の宿屋なんだろうな。信者を早く、見つけないといけない。
ようやく講習が終わった時には、HPは3だった。
もう迷宮、来れないよ……。信者が現れない限り。
重くなった足を引きずって神殿に帰り、倒れるように眠る。
人間、ゆっくり眠ったらいい方法も見つかる物だ。
私は名案を思いついていた。
「アトちゃん! 祝福をさせて!」
「困ります、ルイ様。私は神殿には……」
「宿屋に転職してくれるだけでいいから!」
お願い! と私は手を合わせる。
アトは、渋々ながら了解してくれた。
「じゃあアトちゃん、宿屋さんの気持ちになって祈って」
「はい」
私の体を通って、大いなる力がアトへと注がれる。
アトは、きょとんとした顔でこちらを見ていた。
「アト、何か変わった?」
「えーと、素敵なベッドメイキングの仕方がわかります……。でも、レベルによって必要なGの量が変わります。……レベルってなんですか?」
「教会制と同じ!? 世知辛い世の中……! あ、とりあえずベットメイキングして。これGね。レベル3はいくら?」
私は宝石を投げ渡す。
「え、えと、5Gです」
オーケーオーケー。迷宮入りは欠かせません、と。
ちなみに今持っているGは約100位。安心した所で、神殿を整えなくては。
明日開店日?だよ!
私はアトと共にせっせと神殿を整えた。簡易ベッドも追加で買って、夜は広いスペースで眠れるようにする。良し来い、信者共―!
そして翌朝、なんと人が来てくれた! それもいっぱい!
「これが今日オープンの神殿か。へー」
「おお、ここの神官はめんこいのう。じゃあ、次々」
旗を振った人が、大勢の人を引き連れ去っていく。
え、それだけ……?
残ってくれた人がいた。リュリュだった。リュリュは、何かショックを受けているようだった。
「ルビスは……ルビスは、獣人でも祝福してくれるだろうか?」
「え!? そんなの、もちろんだよ! 本当に、いいの!?」
私はリュリュの様子がおかしいと思いながらも駆け寄る。
そして、リュリュの気持ちが変わらない内に、急いで祝福を与えた。
「精霊ルビスよ、どうか我が友リュリュに祝福を……」
ルイは、小首を傾げる。
「冒険者モード? なんだ、頭に浮かぶこれは」
「危ない時は、必ずオンにして。後、続きの儀式をします。代金10Gと100D頂きます!」
Dはこの町の通貨だ。親しき仲にも礼儀あり。世知辛い世の中なのだ。こちらも稼がなくてはならない。
「100Dはわかるが、ゴールドとはなんだ? 金貨など持っていないぞ」
「魔物を倒した後に出てくる宝石の価値の事だよ。一番小さい宝石で10個、中くらいで1個。もう祝福の儀式は始まってるんだから、早く」
「わ、わかった」
まんまとお金を巻き上げた私は、復活のアイテム作成の儀式をした。
冒険の書が光り、リュリュのステータスが書き加えられていく。
うわ、いきなり10レベル!? 凄いなぁ。凄いなぁ。っていうか、G足りない。もう10Gって言っちゃったから、こっちでつけたそう。とほほ。
「冒険の書に記録しました。これで儀式終わり! HPは0にならないようにね。0になったら、ダーマ神殿か精霊ルビスに仕える宿屋に泊まりに来て。まだそんなのないけどね! レベルが高ければ高い程、必要なGは高くなるわ。Dの方は宿屋次第。神殿では一括10Dでいいけどね」
「そ、そうか……。ならば、毎日泊まりに来ても、いいか? どうせ迷宮には毎日入るのだし」
私は破顔した。
「もちろんよ! あ、でも、一週間だけ一緒にいて! 私もレベルを上げたいの」
宿屋に祝福を与える神様はいないらしく、その後宿屋の経営者が何人か祝福を受けに来た。うちの神殿の紋章も飾ってくれるらしい。
武器屋、道具屋、防具屋も来てくれたが、お金になる宝石を注ぎ込んでまでひのきのぼうや布の服を作るのは嫌がった。正直、物凄くがっかりされた。けれど、私は粘って交渉し、神殿で創造した装備を買い取ることで落ち着いた。
後日、リュリュが悩んだ末に、旅人の服とたけのやり、お鍋のふた、皮の帽子に装備を変えた。ルビスの祝福で宝石から創造した装備以外は、どうもしっくりこないのだという。
冒険者モードをオフにすればいいのだが、そうすると怪我をするようになってしまう。
迷宮では一生物の怪我をする人が多くて、「捨てる神あれば拾う神ありだな。精霊の微笑ましい加護が獣人の身にはお似合いらしい」と苦笑いしていた。私の成長に期待してて! いずれ、リュリュにまた、鉄の鎧と鉄の剣を装備させてあげる!
リュリュに鍛えてもらった一週間後、私もまたレベル10になっていた。でも熟練度は★1。どうやら、これは信者の数に影響されるらしい。道は長い。