――私の祈りは、みんなが一緒に頑張ること。一人じゃないって、みんなに教えてあげること。 過去、現在、未来、平行世界、全てに存在する魔法少女達に、私の思いを、心を、希望を届けてあげること。 絶望している子達に、落ちかかっている子達に、あなたは一人じゃないって、私が、ううん、私だけじゃない、みんながついているって教えてあげたい。 一度きりの奇跡なんかじゃない。まだまだ頑張れるって、諦める必要なんて全然無いって、悲しんでいる魔法少女達全てに教えてあげたい。 これが私の願い。私の祈り。私の希望。 お願い、かなえてくれる? キュゥべえ―― キュゥべえは危うくまた感情疾患を起こすところだった。 それは一見何気ないように見えて、その実とてつもないことを願っていたから。 確かに不可能ではない。彼女の因果は、それを覆すだけのものがある。 だがそれが意味することは…… 「君は、神を越える気かい。その祈りが果たされたならば、おそらく君は」 「どうなろうと気になんかしない。これが私の願いだから」 そしてまどかがそう言いきった瞬間、絶大な……そう、かつての神に至る願いをした時を遙かに上回る、巨大な光が周囲一体を埋め尽くしていた。 光の中、桃色の魔法少女は、その手にした弓を引き絞る。傍らには3本の矢。そのうちの1本が番えられ、天に向けて放たれる。 天を貫いた矢は、無数の光に分裂して全宇宙へと散っていった。 今とある場所に、力尽き、魔女になる寸前の魔法少女がいた。 そこに下りてくる光。そこに現れるまどかの姿。 それは前世においてまどかが神に至った時のそれとよく似た光景であった。 だが、似てはいたがそれはまるで違う行為だった。 前世においてまどかは、彼女のため込んだ穢れを吸収し、ソウルジェムを解放した。 だが今回のまどかは、倒れ伏す彼女のソウルジェムを優しく包むように持つと、そっとささやきかけた。 ――大丈夫。まだ諦めないで。私は鹿目まどか。あなたと同じ魔法少女。そしてね、頑張ったあなたを見てくれている人は、応援してくれる人は、いっぱい、いっぱいいるんだよ。 少女が天空を見上げれば、そこに映るのは彼女たちと同じように戦う無数の少女達。 優勢なものも、劣勢なものもいる。今の彼女には、その少女達の名前が見ただけで判った。 そんな中、1人の魔法少女がやられそうになる。彼女は自分もまた力尽きそうになっていることを忘れて、頑張れ! と声援を送る。 その瞬間、彼女の心の中に何かが灯った。それは希望の炎。絶望を燃やし尽くす、永遠の焔。 ――ね。大丈夫。あなたは一人じゃないの。まだまだみんなが応援してくれるの。そしてあなたも、みんなを応援してあげられるの。諦めちゃ駄目。一人で無理をしちゃ駄目。頑張っているあなたを助けてくれる人は、そう思ってくれる人は、いっぱい、いっぱい、いっぱいいるんだから。 「ま・ど・か……あなた、は……」 意識がはっきりした時、彼女の姿はなく、自分は一人で立ち上がっていた。 闇に染まったはずのソウルジェムには、今炎が灯り、その濁りを燃やし尽くしている。 そして今でも感じられるのだ。彼女を励ましてくれた、あの少女のぬくもりを。そして自分以外の、あまねく世界に広がっている、同士達の希望を。 その瞳からは、先ほどまでの絶望は、きれいに消えていた。 大丈夫。私は一人ではないのだから。 それは、あらゆる時代、あらゆる場所、あらゆる次元において、 傷つき、絶望し、今魔女にならんとしていた、あらゆる魔法少女の元に届いたメッセージ。 絶望なんかしなくていい。私が見ている。あなたには応援してくれる味方がいる。 そして光が収まった時、そこにはあの魔法少女の姿に姿を変えたまどかが、2本目の矢を番えてワルプルギスの夜に正対していた。 「まどか!」 「鹿目さん!」 「おめえ……今何したんだ」 さやかが、マミが、杏子が声を掛ける。消えかけていた魂の炎が、先の光を浴びて激しく燃えさかっている。 「何故かな……私は今、恩人を見ると心の震えが止まらない」 「おねえちゃん、なんかすごい」 キリカとゆまは謎の感動に打ち震える。 そして織莉子は。 「……今、記憶の封印が解けました。掴んだのですね、正しい答えを。インキュベーターの思惑を越える祈りを。彼らに絶対に理解出来ない境地を。我々人類の持つ絶対の強みを。 正しき祈り、それは、孤独の否定。 どうしても孤立しがちになる私たち魔法少女に、繋がりの大切さを知らしめる祈り。 あの奇跡が示すように、人は繋がりあってこそ力を発揮する存在。 個を捨てるのでもなく。個を競うのでもなく。個を合わせること、それこそが我々人類の持つ最大の武器。 そしてその奇跡が知らしめしものこそ……」 「受け取って、ほむらちゃん! これが、私の答えだよっ!」 2本目の矢が、まさに直立しようとしていたワルプルギスの夜に、深々と突き刺さった。 さしものほむらの心も擦り切れる直前、今まで以上に強い光が、ほむらの心に突き刺さった。 それはまどかの祈り。まどかの心。 伝わってくる心を受けて、ほむらは瞬時にそれを理解した。 ああ、そうだったのか。これが賢者の贈り物にならない答え。 簡単なことだった。たった一言でよかった。 一緒に、戦おう。ただ、それだけ。 どちらかがどちらかを守るのではなく、共に手を携え、二人で互いを守り合うこと。 たったそれだけのことだった。 たとえどちらかが先に倒れるのが宿命だったとしても、共に戦っていたのならばそれを受け入れられる。 ほむらは今、真に満たされていた。 そして、今ならわかる。今なら言える。自分を責めさいなんでいる、この切り捨てた未来という絶望が、なんであるのか。 自分を責める絶望に、ほむらは今、傲慢なまでに高圧的に言い放つ。 「……今、理解したわ。私はなんのために未来を切り捨てたのか。未来を絶望に捨て、過去に戻り、際限のないやり直しの果てにここまで絶望を積み上げたのか。 それは今の一瞬のため。ただ一度の成功を掴むためよ。そのためにあなたたちは……我が踏み台、捨て石になりなさい」 巻き起こるのは膨大な怨嗟と怨念。なんだその物言いは、なんだその思い上がりは。 ただの一度のために、無数の可能性を切り捨てるというのか。 捨てられたものの気持ちなど、どうでもいいというのか。 「それは肯定であり、否定ね。でもね、あなたたちは、切り捨てられた未来は、失敗でしかないのよ。そう、失敗。打ち捨てられる不要物であるという事実は曲げられない。 そんなものに何を同情すればいいというの? 同情して、何かが救えるというの? 違うでしょう。失敗したものである以上、その存在は無意味でしかない。そんなものはただのあがきでしかなく、どんなに文句をいおうと、あなたたちの元には一切の救いがないのよ、失敗という事実の前では」 それはおまえの無能のせいだ! おまえが誤らなければ、我々は苦しまなかったはずなのだ! だがその声を、ほむらは軽々と無視する。 「無意味ね。成功か失敗かは、実行しなければわからない。事前にわかるのなら、それは失敗とはいわないわ。実行して、検証して、初めてそれが失敗だと判る。失敗だとわかった時点で、あなたたちは切り捨てられる。それが揺るぎない事実。そこには救いなど無いわ」 ならば何故貴様は報われる! 無能なるものに、永遠の苦しみを! 「その怨嗟は正当なものね。いくらかましになったじゃない」 不当な八つ当たりを、ほむらは肯定する。 「さっきまでは、私はそれを否定出来なかったわ。成功無き失敗は、無能の証ですものね。 でもね、まどかが届いたことで、私は遂に成功に至ったと確信したわ。その瞬間、その怨嗟は不当なものになるのよ」 何故だ、何故だ、何故だ! 「わからないの? 成功した時点で、それまでの失敗は、無能の証から必然の道へとその意味を変える。こうも言えるわ。 『無数の失敗の果てに、我は成功に至った』 そう、成功にたどり着いた時点で、あなたたちの存在は踏み台になるのよ。それが失敗の定め。 だから理解しなさい。私が成功に至ったのは、あなたたちという犠牲があったからだと。 この成功のために、自分たちは滅びの定めに至ったのだと。 だから私はあなた方を救わない。あなた方を踏みつけ、贄とするわ。 でもね、それはこういうことよ。 我が成功は、あなたたち、贄となった無数の失敗あってのこと。故に私は、あなたたち、切り捨てた未来を、絶望を」 ――肯定、するわ。 舞台装置の魔女 フェウラ・アインナル その性質は無力。同じ道を回り続ける愚者の象徴。 切り捨てられた未来は積もり重なって舞台を築き、道化達はその上で、失敗した戯曲を愚直なまでに繰り返し演じ続ける。 かの魔女を倒すためには、己が切り捨てた未来を肯定せねばならない。 そして今、暁美ほむらは、己の切り捨てた絶望の未来を、『肯定』した。 完全に直立した魔女は、何故か一切の動きを見せずに硬直したままだった。 「やった、のか?」 思わずそう呟く杏子。 「ちょ、それフラグフラグ!」 慌てるさやか。 「ねえキョーコ、ふらぐってなに?」 「ん? ああ、こういう時にな、やったかとかいうと、しっかり相手が無傷だったりするっていう、物語のお約束さ」 「むきず、なの?」 そんなやり取りを杏子とゆまがしている前で。 ワルプルギスの全身が、紫紺の炎に包まれた。 それは紛れもない、暁美ほむらのソウルジェムの色。 その燃えさかる様は、始まりの奇跡の時の杏子とゆまによく似ていて。 そして、その炎に焼き尽くされるかのように、魔女の舞台は、崩れ落ちた。 そしてその中から現れたのは。 「あれ、ほむら、よね……」 「なんだ、あの格好」 「なんかひらひらしてて、魔法少女というより……」 さやかが、杏子が、マミが呆然としつつもいう。 それもそのはず。中から現れたほむらは、いつもの魔法少女ルックではなく、白一色のドレス姿だったのだから。 そんなほむらが、ゆっくりと降下してくるのを、物怖じしせずに迎えるまどか。 「お帰りなさい、やったね、ほむらちゃん!」 「まど……か?」 声を掛けられて、初めて気がついたらしいほむら。 「ほむらちゃん、ワルプルギスの夜は、倒れたよ」 「まどか……あなたが?」 「ううん、ほむらちゃんが、自分で。だからこそ、ワルプルギスの夜は、『真に』倒れたの」 そう言われてほむらは、まどかにすがりつく。 「まどか? なんでそんな事がわかるの?」 「ほむらちゃんがワルプルギスの夜に勝った時、神様の私が教えてくれたから。でもね、これからが本番だよ」 「え?」 未だ自分を把握していないほむらがそう問いかけた時、「それ」は起こった。 「え」「これっ!」「なんだっ!」 突然展開される魔女の結界。だがその規模、強さは、今までのどんな魔女のそれより強力で、広大だった。 当然だ。その広さは全宇宙、その強度は無限大。 そして立ち竦む魔法少女の前に現れたのは。 ほむらが、そしてまどかがかつて一度目にした魔女。 名無き魔女、その性質は絶望。世界の希望が一点に集まる時、その対偶として生まれる全宇宙の絶望の化身。 この魔女が倒れた時、世界は新生の時を迎える。 かつて女神となったまどかに打ち破られた、絶望の魔女だった。 『どうするのかな、鹿目まどか』 呆然とする魔法少女達に、理性の使徒は問い掛ける。 『かつての君は、全ての魔女を倒す力を持って絶対の絶望たるあの魔女を倒した。だけど、今の君にはその力はない。つまり、純粋な実力を持って、あの魔女を倒さなければ、もはや君たちの未来はない。だけど相手の強さは全宇宙の絶望だ。君たちはそれを越えることが出来るのかな?』 だが、鹿目まどかは動じない。 「私たち8人じゃ、どうあがいたって勝てっこないよ。でもね」 まどかは再び弓を掲げた。そして矢は番えず、その弦を楽器を奏でるかのように、びいいんと打ち鳴らした。 その音が、結界内にあまねく響き渡る。 すると。 まるでその音に導かれたかのように。 天を埋め尽くすかの如き、無数とも言えそうな魔法少女達がこの場に現れていた。 そしてまどかは言う。 「かつて存在した、全ての魔法少女達……絶望の淵から救われ、希望の炎を灯した、みんなの力を持ってしても、あれは倒せないかな?」 さしものインキュベーターも、無言を貫くしかなかった。 そしてまどかは号令を発する。それと同時に、その姿が、魔法少女から、今のほむらと同じ、女神のそれに変わる。 「みんな……あれが最後の敵。私たちの負の心、絶望の権化。あれに打ち勝って、初めて私たちの、魔法少女の未来は開けるわ。 行きましょう。合い言葉は、絶対に……」 「あきらめてなんか、やるものか!」 語尾が「せんわ」とか「かよ」とか、「ですか」とか、微妙に不揃いだったようだが、全宇宙全ての魔法少女が、いや、正確にはただ一人を除く全ての魔法少女が、その全てが心に希望の炎を灯したまま、絶望の魔女に襲いかかった。 「喰らえ、ギガント・ストライク!」 「後ろがお留守よっ!」 「絶望の名の下に人を貶めるものを、私は許さないっ!」 「希望はいつだって、この胸にあるのよっ!」 「おーっほほほほほっ、絶望したあなたは、我が元に這いつくばって許しを乞うのよっ!」 「魔女は……倒す」 剣が、槍が、槌が、鞭が、矛が、鉞が、銃が。 ありとあらゆる武器が、絶望の魔女に降り注ぐ。 一撃では届かなくても、幾千、幾万の打撃を。 そんな猛攻の前には、 ――さしもの絶望の魔女も、抗うことは出来なかった。 戦いが終わったその時、魔法少女達は、まるで寿命が尽きたかのように、一人、また一人と、光となって昇天していく。 その様は、まるで天へと落ちる流星のようで。 そして、ほむらとまどかの目の前で、マミも、杏子も、さやかも、ゆまも、キリカも、織莉子も、その身を光に包まれていた。 彼女たちは皆理解していた。自分たちはともかく、まどかとほむらとは、これでお別れなのだと。 彼女たち二人は、自分たちとは別の何か、そう、神になってしまったのだと。 ――お別れ、なのね。 マミの言葉に、まどかは答える。 「別の形では、まだ会えると思いますけど」 ――なんでまた好きこのんで神様なんかになるのかね。 そんな杏子の問いには。 「これが私の逃れられない定めなんです。一度やらかしてますから」 ――忘れないよ、まどか。 さやかの誓いには。 「はい。今度はみんな憶えていてくれる筈なんですよ」 ――達者でな、恩人。 キリカの挨拶には。 「もちろん。病気なんかしたくても出来ません」 ――またあおうね。 ゆまの約束には。 「うん」 ――それでは、また『3人』と出会える日を。 織莉子の意味深な言葉には。 「うわ~、見切られてる」 そして、まどかの前には、ほむらだけが残った。 「まどか、これって、いったい……」 一連の流れの中、ほむらだけは訳が判らなかった。 そんなほむらに、まどかは言う。 「ほむらちゃんもね、私と同じになっちゃったんだよ。存在の次元を越えた、神様に、ね」 「それって……」 絶句するほむらに、まどかは言う。 「でもその話は後。最後の1人を迎えに行かないと」 そして女神まどかは、残る最後の矢を番える。 そしてそれは、放たれた後虚空の一点を貫いて消滅した。 「いこ、ほむらちゃん。彼女を迎えに」 そういうまどかに手を引かれ、虚空を飛ぶほむら。 矢が消えたその点には、一つの紋章が浮かんでいた。 全知の魔女、図書の魔女グリムマギーの、あの忘れえぬ紋章が。 難なく結界を開き、まどかはほむらの手を引いて、無窮の結界の中を飛ぶ。 やがてその眼前に、先ほどまどかが放った矢が見えた。 そしてほむらの目にも入る。矢が目指すのは、結界の主、少女の影、図書の魔女グリムマギーその人。 そしてその矢は、過たず魔女に命中し……その瞬間、結界は光に満たされた。 眩んだ目が戻った時、そこにいたのは。 「お疲れ様。やり遂げたんですね、先輩、まどかさん」 自分たちと同じ、女神の装束に身を包んだ、在りし日のちえみであった。 どこにあったのか、織莉子の家を思わせる謎の庭園で、3人の女神はテーブルを囲んでお茶をしていた。 「まどか、これ一体、どういうことなの?」 「その説明は私がしますよ」 そう言ったのはちえみであった。 「解説キャラとしてはこういうおいしい場面は逃せませんし」 「戯れ言はいいの。さっさと説明しなさい」 とぼけたことを言うちえみを小突くほむら。まどかはただ笑っている。 そしてちえみが、どこからともなくモノクルを装着しつつ説明を開始した。 「端的に言えば、私たちは3人とも、存在の輪を壊しちゃったんです。 まどかさんは前世でやったのと同じ、世界の法則そのものを書き換えるような願いを掛けたことによって、現在の自分自身を否定してしまいました。 先輩は確定した未来を打ち砕くことで、未来の自分を。 そして私は、まどかさんの祈りの余波を受けて、確定していた過去の自分を否定してしまったんです。 それゆえに今回はまどかさんだけでなく、私と先輩もまた、存在の次元を上げた、神様みたいなある種の概念になっちゃったんです。 私は過去を否定したが故に過去の、 まどかさんは今を否定したが故に現在の、 そして先輩は未来を否定したが故に未来の女神になっちゃったんですよね~」 「私はスクルドと名乗るつもりはないわよ」 そんなツッコミにちえみも笑って答える。 「そうすると私がウルドでまどかさんがヴェルダンディーですか。まあぴったりですけどね。それはそれ、これはこれで。 で、かつてと同じように、世界は新生して、新しく書き換えられちゃいました。 ただ、前にやらかしたまどかさんの世界があるんで、そこに少しだけ上書きした世界になりましたけど」 「どう違うの?」 その答えは、ほむらに起こりえない頭痛を起こすのに充分なものだった。 「まず、魔法少女になった人は、全員私たち3人の名前を知ることになります。全ての魔法少女が、女神まどかの名の下にその存在を変えることになるのが新しい律ですから。 そして魔法少女としてのあり方も、少し変わります。 まず、形は違いますが『魔女』が存在します。これはまどかさんが、魔女の存在を否定しなかったからです。 但し円環の理は生きているので、望まず魔女に落ちることはありません。力尽きただけなら、その存在を円環の理に委ねて消えるだけです。ですが……」 「魔法少女が敢えてそれを望んだ時は、その限りではないのね」 「そうです」 ほむらの問いを、ちえみは肯定した。 「意図的に望まずとも、ある意味恨みや憎しみ、憤りを残して魔法少女が堕ちると、円環の理ですくい上げることが出来なくなるんです。また、それと似た現象で、単なる歪みというか現象に近かった魔獣も、人の心と反応してより強大な存在……魔人に進化します。 まあ、魔法少女の方も、初めて変身する時に女神まどかの加護を受けて、イグニッション認識済みの状態になるので、心から結びついたパートナーを得られればそう簡単にやられたりはしませんけど。そしてたとえ魔女化しても、思いが届けば元に戻ることは不可能ではありません。難しいですけどね」 「となると大分様変わりするわね。新世界が」 「はい。まどかさん主観の世界から、私3人で俯瞰する世界に変わりますから、世界としての安定度もぐっと増しますよ。まあその分どっかで見たような笑える世界になっちゃいましたけど」 「……不安だわ」 「あ、それと私と先輩が司る権能ですけど……」 女神の会話は、まだまだ続いていた。