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No.27882の一覧
[0] 【一気に逝ったよ~ッ!】永遠のほむら(魔法少女まどか☆マギカ)【本編アフター再ループ】【完結】[ゴールドアーム](2012/01/07 01:52)
[1] プロローグ[ゴールドアーム](2011/06/20 04:38)
[2] プロローグ・裏[ゴールドアーム](2011/06/20 04:28)
[3] 真・第1話 「私はなにも知らなかった」[ゴールドアーム](2011/07/13 00:05)
[4] 真・第2話 「次は、絶対助けてあげる」[ゴールドアーム](2011/07/13 00:05)
[5] 真・第3話 「先輩、よろしくおねがいします!」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:40)
[6] 裏・第3話 『契約は成立したよ』[ゴールドアーム](2011/07/13 00:06)
[7] 真・第4話 「これからよろしく」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:41)
[8] 真・第5話 「ケーキ、おいしいです」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:41)
[9] 真・第6話 「行くわよ」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:41)
[10] 真・第7話 「あなたを知りたい」[ゴールドアーム](2011/07/05 03:05)
[11] 真・第8話 「とっても恐い。だけど」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[12] 真・第9話 「魔法少女の、真実よ」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[13] 真・第10話 「私のあこがれでしたから」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[14] 真・第11話 「聞かせて。あなたの、お話を」[ゴールドアーム](2011/07/05 03:04)
[15] 裏・第11話 「それ、どういう意味なの」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[16] 真・第12話 「なんで、ここに」[ゴールドアーム](2011/08/29 20:52)
[17] 裏・第12話 「ごめんなさい……先輩」[ゴールドアーム](2011/06/23 02:26)
[18] 真・第13話 「だから信じるわ」[ゴールドアーム](2011/06/24 15:32)
[19] 真・第14話 「どうしてこんなことに」[ゴールドアーム](2011/06/25 15:49)
[20] 真・第15話 「お姉さんになって貰います」[ゴールドアーム](2011/06/28 05:00)
[21] 真・第16話 「私が迷惑なんです」[ゴールドアーム](2011/06/28 05:00)
[22] 裏・第16話 「ただ一人彼女だけが」[ゴールドアーム](2011/06/28 05:00)
[23] 真・第17話 「全てが冗談ではないのですよ」[ゴールドアーム](2011/07/05 03:11)
[24] 真・第18話 「それが私の名前」[ゴールドアーム](2011/07/12 01:27)
[25] 真・第19話 「なんであなたが魔法少女なんですか」[ゴールドアーム](2011/07/17 16:20)
[26] 真・第20話 「もう引き返せない」[ゴールドアーム](2011/07/24 05:14)
[27] 真・第21話 「人違いですね」[ゴールドアーム](2011/10/30 14:36)
[28] 真・第22話 「私は……知りたい」[ゴールドアーム](2011/07/31 19:24)
[29] 真・第23話 「甘い事は考えない事ね」[ゴールドアーム](2011/07/31 23:33)
[30] 裏・第23話 「それじゃ、駄目なんだよ」[ゴールドアーム](2011/08/07 19:46)
[31] 真・第24話 「ここは、私の望んだ世界ではない」[ゴールドアーム](2011/08/17 19:42)
[32] 裏・第24話 「早く気がついてね」[ゴールドアーム](2011/08/17 19:42)
[33] 真・第25話 「変な夢って言うだけじゃない」[ゴールドアーム](2011/08/28 17:52)
[34] 真・第26話 「もう私は、決して……ならないわ」[ゴールドアーム](2011/09/19 10:33)
[35] 真・第27話 「とっても恐くて、悲しくて……でも」[ゴールドアーム](2011/09/14 10:02)
[36] 裏・第27話 「これで潰してあげる」[ゴールドアーム](2011/09/19 10:47)
[37] 真・第28話 「ひとりに、しないで」[ゴールドアーム](2011/09/27 12:33)
[38] 真・第29話 「絶対、これ、夢じゃないよね」[ゴールドアーム](2011/10/11 13:54)
[39] 真・第30話 「そんな他人行儀な態度だけは、とらないで」[ゴールドアーム](2011/10/23 19:09)
[40] 真・第31話 「あたし……恭介が好き」[ゴールドアーム](2011/10/30 14:37)
[41] 真・第32話 「これが、あたしの、力」[ゴールドアーム](2011/11/06 22:49)
[42] 真・第33話 「その性質は飢餓」[ゴールドアーム](2011/11/28 00:24)
[43] 真・第34話 「ゆえにその攻撃は届かない」[ゴールドアーム](2011/11/28 00:25)
[44] 真・第35話 「「あきらめてなんてやるものか!」」[ゴールドアーム](2011/12/04 21:45)
[45] 裏・第35話 「全てを知るというのも、つらいものよね」[ゴールドアーム](2011/12/04 21:45)
[46] 真・第36話 「希望は、どこから生まれると思いますか?」[ゴールドアーム](2011/12/11 20:04)
[47] 真・第37話 「それはきっと、素敵な世界なのでしょうね」[ゴールドアーム](2011/12/18 23:54)
[48] 真・第38話 「悪いけど、その願いは通せないのよ」[ゴールドアーム](2011/12/18 23:55)
[49] 裏・第38話 「わたしを見ていてくれたんでしょ」[ゴールドアーム](2011/12/18 23:55)
[50] 真・第39話 「私も考える」[ゴールドアーム](2012/01/04 20:39)
[51] 裏・第39話 「僕たちに出来るのは、信じることだけですからね」[ゴールドアーム](2012/01/04 20:39)
[52] 真・第40話 「お願い、します」[ゴールドアーム](2012/01/06 00:13)
[53] 真・第41話 (……わかんないよ、ほむらちゃん)[ゴールドアーム](2012/01/07 01:48)
[54] 真・第42話 「契約しよう、キュゥべえ。私の祈りは――  new![ゴールドアーム](2012/01/07 01:30)
[55] 真・第43話 「これが、私の答えだよっ!」 +new![ゴールドアーム](2012/01/07 01:39)
[56] 神・第0話 おまけ的なエピローグ Last![ゴールドアーム](2012/01/07 01:48)
[57] 謎予告[ゴールドアーム](2014/07/18 17:39)
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[27882] 真・第38話 「悪いけど、その願いは通せないのよ」
Name: ゴールドアーム◆63deb57b ID:d6be9c18 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/18 23:55
 その日の空は、今にも雨が降りそうなほどに曇っていた。
 ねずみ色の空の下、まだ昼下がりなのに人気が消えた見滝原の町中に、七人の侍ならぬ、七人の魔法少女が佇んでいた。
 
 巴マミ。
 佐倉杏子。
 ゆま。
 美樹さやか。
 呉キリカ。
 添田ちえみ。
 
 そして……暁美ほむら。
 
 常人の目には見えないものが、彼女たちにはしっかりと見えていた。
 遙か天空から、けたたましい笑い声を上げながら接近してくる、逆しまの魔女。
 ただの人には竜巻に感じられる、災害の魔女。
 
 そして決戦の火蓋は切られた。
 
 
 
 「アレッセ・アナリーゼ!」
 
 開闢の一撃は、ちえみの看破。魔法少女の念話を通じて、より詳細に見抜かれたワルプルギスの夜の情報が伝えられる。
 
 「やはり基本的には弱点なんかありません。強いて言うなら、起こさないうちに撃破してください! 起こしてしまうと、倒せない訳ではないですけど、被害が尋常じゃなくなる恐れがあります!」
 「要は早めに片付ければいいんだろ!」
 「がんばってたおそうね!」
 
 答えるのは奇跡の二人、杏子とゆま。
 あれからこの時のために何度も練習した、奇跡を引き寄せる呼び水。
 あくまでも一時的だが、二人の心を合わせ、祈れば、まわりのみんなも巻き込むように、ソウルジェムの真の力が解放される。
 さらに。
 
 ――佐倉杏子。あなたの祈りは、『話を聞いてもらうこと』。そのシンボルは『言霊』、その力の本質は『幻惑』。その武器は『意を貫き通すもの』。故にあなたは、惑わす事、貫く事、結びつく事に力を発揮するわ。
 
 ジークリンデの助言。祈りと性格より導き出される、もっとも力を発揮しやすい方法論。
 杏子の場合は、それは言霊。その手段は、『目的を明確な言葉にすること』。
 だから杏子は、かつては否定した言葉を掲げる。マミがとどめの一撃に名をつけることに反発していた彼女が、今は敢えてそれを肯定する。
 
 「やるぞ、ゆま。合わせろ!」
 「うん、キョーコ!」
 「いくぞ」
 「おーっ」
 
 
 
 「「イグニッション!」」
 
 
 
 ソウルジェムに燃える炎を点火する、そのイメージとして選んだのがこの言葉。
 杏子とゆま、二人が心と声を合わせることで、二人の心は同期をはじめる。
 共鳴する心と魔力が、ちぃぃんという音と共に周囲に拡散し、他の魔法少女の心にも、その炎を灯す。
 それは未来への希望、絶望を打ち払う聖火。
 そしてその炎を受け、まずはとばかりに、さやかとキリカが前へ出る。
 
 ――美樹さやか。あなたの祈りは『他者を救う事』、そのシンボルは『円環なす曲(しらべ)』、その力の本質は『再生』、その武器は『切り開くもの』。故にあなたは、耐える事、奏する事、開く事に力を発揮するわ。
 
 ――呉キリカ。あなたの祈りは『変わること』。そのシンボルは『意思』。その力の本質は『抑圧』。その武器は『束縛を引きちぎるもの』。故にあなたは、変化させる事、押さえつける事、解き放つ事に力を発揮するわ。
 
 キリカの魔力が周辺空間に迸り、その行動を『抑圧』する。
 ワルプルギスの夜から、たくさんの使い魔――魔法少女を模した影が現れるが、その動きは明らかに鈍い。
 速度低下魔法を維持したまま戦えるようになったキリカは、その使い魔達を三対六本の爪刀で次々と切り裂いていく。
 そしてさやかは、そのキリカとコンビを組みながら、近づいてくる相手は剣で切り裂き、遠方の敵には、
 
 「いっけええっ!」
 
 召喚した銀の円環――CDのディスクをイメージしたチャクラムが、さやかの号令一下飛来する使い魔に襲いかかる。
 銀盤に切り刻まれ、使い魔達はあえなく引き裂かれ、消えていく。
 
 だが、ワルプルギスの夜も強い。信じられないがビルが引っこ抜かれ、逆落としに襲ってくる。
 だが、その攻撃は届かない。
 
 「無駄よ」
 
 ビルの大きさからすれば木の葉一枚にも満たない、紫色に発光する六角形。それが張り付いた瞬間、巨大なビルが静止してしまう。さらに、
 
 「居場所が間違っているわよ」
 
 大規模に展開された黄色の帯が、落下するビルを元の場所に植え直していく。
 
 ――暁美ほむら。あなたの祈りは『やり直す事』。そのシンボルは『砂時計』。その力の本質は『遡行』。その武器は『守護するもの』。故にあなたは繰り返す事、やり直す事、そして守る事に力を発揮するわ。
 
 ――巴マミ。あなたの祈りは『命を繋ぐこと』。そのシンボルは『リボン』、その力の本質は『拘束』。その武器は『終わりを示すもの』。故にあなたは、繋ぐ事、結ぶ事、縛る事に力を発揮するわ。
 
 さらに巻き付いたリボンは傷ついたビルを『再生』し、元通りにしてしまう。
 それにゆまが治癒の魔力を上乗せする。
 
 ――千歳ゆま。あなたの祈りは『共にあること』。そのシンボルは『猫』。その力の本質は『絆』。その武器は『叩きつぶすもの』。故にあなたは、保つこと、癒すこと、近づくことに力を発揮するわ。
 
 「ありがとうゆまちゃん、ついでに大技行くわ。呉さん、同調よろしく!」
 「よし、あれか!」
 
 マミが両の手にリボンを持ち、それをワルプルギスの夜に向かって一斉に投擲する。
 さらにキリカが、それに合わせて何かを投げた。
 そこに加えて、ゆまの魔法が上乗せされる。
 
 3つの魔法は融合し、ワルプルギスに襲いかかる。リボンと爪が融合し、アンカーとなって地面に食いつき、縛り上げられたワルプルギスの夜を地面に縫い付ける。
 本体の一大事とばかりに使い魔達がそれを剥がそうとするが、
 
 「それはやらせないよ!」
 
 さやかが激しく剣を振り回す。一見乱暴に振り回されているだけに見えたが、巻き起こる『風』にさやかの魔力が乗り、空間を渡る『音楽』になって使い魔達に襲いかかる。
 それはマミが張り巡らせたリボンに対してはただ揺らすだけに留まり、それにたかっていた使い魔達に対してはそれを吹き飛ばす烈風となった。
 さらにそこにほむらが展開した盾が襲いかかり、飛翔する使い魔達を静止させ、地に叩き落とす。
 そしてそこに。
 マミによって召喚された無数の銃が、使い魔達に照準を合わせていた。
 
 「アッラ・フィーネ」
 
 その言葉と共に、使い魔達は殲滅された。
 
 
 
 そして身動き出来ない状態のワルプルギスに、魔法少女達の全力の攻撃が殺到する。
 マミのティロ・フィナーレが。
 キリカの爪刀乱舞が。
 さやかの撃剣が。
 ゆまの極大ねこモールが。
 そして、杏子の、
 
 
 
 「とどめだあっ! ロッソ・ファンタズマ・インフィニッテ!」
 
 
 
 無数に分身した杏子より放たれる無数の槍。それが次々とワルプルギスの夜に突き刺さる。
 そして突き刺さった槍は、次の瞬間、一斉に巨大化する。
 内外より膨れあがる槍の威力に、さすがのワルプルギスの夜も耐えかねたのか、遂にその身をはじけさせた。
 
 「やった……」
 
 杏子が小さくつぶやき、
 
 「やったあー」
 
 ゆまがのんきに叫び、
 
 「やったの?」
 
 マミが信じられなさそうに言い、
 
 「やったな」
 
 キリカが天然ニヒルに語り、
 
 「いよっしゃあっ!」
 
 さやかが勝ちどきを上げ、
 
 「本当に、勝ったの……」
 
 ほむらが呆然となる。
 
 そう、間違いなくワルプルギスの夜は撃破された。
 あまりにもあっけなく。
 これまでのほむらの苦戦は何だったかと言うほどにたやすく。
 
 「これが、全力の、きちんと力を解放した魔法少女の、力だというの……」
 
 だが。
 
 「……皆さん、やはりそんな甘い相手じゃないみたいです」
 
 ちえみだけは、一人悲観的な言葉を述べた。
 
 「え」「なんで?」「それって」「いったい」「どういう」「ことなの?」
 
 何故か皆の言葉がきれいに繋がった時、それは起きた。
 
 彼女たちの目の前で。
 倒したワルプルギスの夜は。
 まるで今までの光景が夢だったかのように、そこに存在していた。
 
 
 
 
 
 
 
 まどかと仁美は、外の様子が心配であった。
 他の人には、そして仁美にも今の外は嵐が荒れ狂うようにしか感じられないし、見えない。
 だが、まどかにだけは感じられた。莫大な魔力が荒れ狂っているのを。友達が戦っているのを。
 そして先ほどから膨れあがる、いやな予感。
 元々まどかは、この戦い、それほど長期戦にはならないと聞いていた。長期戦になれば、負けるのはこちらだからと。
 なのにけっこうな時間が経つのに、まだ誰も戻ってこない。
 そしてまどかは、意を決して起ち上がった。
 そんなまどかの様子に気がつく、父と母。
 かつてと違い、二人はまどかを止めなかった。
 判っていたのだ。話を、事情を聞いていた両親には、この期に及んで止まる娘ではないということが。
 だから言う言葉は一つずつ。
 
 「しっかりおやりなさい」
 「帰ってくるんだぞ」
 「……はい」
 
 娘は小さく頷き、そして外へと駆け出していく。
 
 
 
 
 
 
 
 重い扉を開け、外に出たまどかが見たのは、倒れ伏すみんなの姿だった。
 見える範囲でも、マミとゆま、そしてほむらが倒れている。
 まどかは慌ててみんなの所へ駆け寄った。
 
 「みんな、だいじょうぶ! どうしたの?」
 「鹿目さん……あなたは逃げて」
 「なんでたおれないのよう、ちゃんとたおしたのに」
 「えっ?」
 
 ゆまの言葉に、まどかは思考が止まる。倒したのに、倒れない?
 
 「何故か判らない……私たちは勝ったはずなの。なのに、まるでそれがなかったことになるかのように、あいつは蘇ってくるの。もう、7回も倒したのに」
 「他のみんなは?」
 「杏子とさやかとキリカは、まだ前で戦っているけど……たぶんもう、時間の問題かも」
 
 それは、まどかが初めて……いや、よく憶えていないが一度だけ聞いた気もする、ほむらの弱音であった。
 
 「私に出来ることは全部やったはず。そして現に、あっけないほど簡単に、今まで苦戦していたワルプルギスの夜は倒せたはず。なのに、なんで、何でっ……」
 ほむらの顔が、涙で濡れていた。
 よく見ると、マミも、ほむらも、ソウルジェムが危険なほどに真っ黒になっている。ゆまのソウルジェムは見えないが、たぶん同じだろう。
 そしてそれは、今前でワルプルギスの夜を押さえているという、さやか達もおそらくは同じ。
 もう、駄目だった。もう、自分を抑えられなかった。
 そう思うと同時に、どうやらまた大きな戦況の変化があったようだった。
 まるで計ったように、人が降ってきた。
 杏子と、さやかと、キリカが。
 
 「あれ?……わりぃ、やられた」
 「反則だよ……倒してもすぐ復活するなんて」
 「恩人、すまない。守りきれなかった」
 
 そして視界に映るのは、悠然とこちらに近づいてくる、逆しまの魔女。
 そしてまどかは決断する。
 
 「ほむらちゃん、そして、みんな……」
 「まどか、あなた……」
 「ごめん、もう止まらない」
 
 判ってはいる。ただあれを倒すことを願っても、その後で自分が代わりになるように魔女と化すだけなのは。
 
 「ほむらちゃんは知っているんでしょう。一度だけ、私が魔法少女になっても、死にも魔女にもならなかったことがあったって」
 「! でも、あれは」
 「ほむらちゃん、私、もういやなの。ただほむらちゃんやみんなに守られているのは」
 
 言葉が止まるほむら。
 
 「ね、ほむらちゃん。私に出来ること、無いの? 私だって、みんなと一緒に戦いたいよ。みんなだけ痛い思いをするなんて、やだよ……」
 
 泣き顔になるまどか。その涙をぬぐい、まどかは問い掛ける。
 
 「教えて、ほむらちゃん。私に何が出来るの。私はどうしたらいいの」
 「まどか……」
 
 ほむらの胸に混乱が宿る。言いたい事が溢れてきて、なにを言えばいいのかが判らない。
 そして混乱したほむらは、胸を貫く一言を口にする。
 
 「まどかがそういう気持ちなのはうれしいの。でも、まどかを魔女にすることだけは絶対に出来ない……だって、まどかが魔女になったら、あれよりひどい最悪の魔女になるんだもの。全宇宙を瞬時に滅ぼしてしまう、救済の魔女に。私はまどかを、そんなものにしたくなんかないの!」
 「そう、そうなの、ほむらちゃん。私が魔女にならなければ、魔女になんかならなければいいんだよね。
 ――魔法少女が魔女になる、そんな定め、壊しちゃえばいいんだよね」
 
 それはどこに向かう一歩だったのか。その言葉が、まどかを封じていた、最後の封印を打ち砕く。打ち砕いてしまう。
 
 「キュゥべえ」
 
 それは宣誓の言葉。
 
 それを聞きつけたかのように、どこからともなくキュゥべえが現れる。
 
 「キュゥべえ、契約を。私の願いは……
 
 
 
 ――全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい。
 
   全ての宇宙、過去と未来、そして平行世界、全ての魔女を。
   
   そうなるまで戦ってきた、全ての魔法少女の笑顔を、私は守りたい。
   
   そのためなら、魔法少女のルールなんか、全部壊して変えてみせる。
   
   それが、私の、祈り――さあ、かなえてよ、キュゥべえ!!」
 
 
 
 キュゥべえは、ただ無言でそこにいた。
 そしてまどかの、心からの、命と引き替えにしても悔いのない、不可能と思われる願いに、契約は反応する。
 まどかの全身が光り、やがてそれが、胸の一点に集まり始まる。
 
 「まどか……ばかっ」
 
 ほむらは嘆くが、その身はもう動かない。
 まどかは、この優しい娘は、またあの願いにたどり着いてしまうというのか。
 そして、その光が胸から浮き上がり、それをまどかが手を伸ばして掴む。
 
 
 
 
 
 
 その瞬間。
 
 
 
 
 
 
 
 どこからともなく飛来した何かが、その光を打ち砕いた。
 
 
 
 「悪いけど、その願いは通せないのよ」
 
 同時に響く、声。
 その瞬間、ほむらのソウルジェムは最後の力を振り絞る。それほどの衝撃だった。
 何とかそれによって立ち上がったほむらが見たものは、
 
 
 
 宙に浮かぶ九つの魔法球と、
 
 その中心に立つ、
 
 
 
 添田ちえみの姿だった。
 
 
 
 
 
 
 
 それは一種異様な姿だった。
 そこにいるのは、間違いなく、ソウルジェムをモノクルからゴーグルに変えたちえみだった。だが、そのシルエットは今までとは大きく違っていた。
 その手に握られているのは本ではなく槍。
 左の手に装着されているのは盾。
 その背に銃と剣、そしてねこモールを交差させて背負い、
 さらにその手首からは、三本六対の爪刀が生えていた。
 そう、仲間全ての武装を装着したちえみがそこにいた。
 
 
 
 「ちえみ……その姿は。それに、なんで、今のはあなたがやったの!!」
 「はい、先輩。まどかさんは、私が今殺しました」
 「どうしてっ!」
 
 もはや魔力などかけらもないはずなのに、ほむらは全身が引きちぎらせそうな声で叫ぶ。
 他の仲間達も、それに引きずられるかのように、最後の力を振り絞って立ち上がりはじめた。
 
 「どういうことだっ!」
 
 皆の気持ちを代弁するかのように、杏子が叫ぶ。
 
 「なんでまどかを殺したのよっ!」
 
 さやかの叫びがちえみを糾弾する。
 だが、ちえみは全く揺らがずに、こう答えた。
 
 「最後の決断を、間違えたからです」
 「間違えた……? あなたは正解を知っているとでも?」
 
 マミの詰問に、ちえみは頷く。
 
 「あの場でまどかさんには、3つの選択がありました。
 一つは正しい答え。全てをよき方向に向ける、正しい選択。
 一つは間違い。今回の結果を無にし、先輩を再び時の輪に戻す間違い。
 そして残る一つ、それは正しい間違い。この上もない正解でありながら、全てをご破算にする最悪の間違い。
 そしてまどかさんは、最後の一つを選んでしまいました」
 
 「何だ、それは……」
 
 キリカが必死に上体を起こしながらも弾劾の言葉を向ける。
 
 「ちえみっ! あんた、知ってたのか、その正解を!」
 「はい。でもそれは、杏子さんの奇跡と同じ……知っていたらすべては無に帰す答えなのです」
 「あれと、同じ……」
 
 杏子が力無くつぶやく。
 
 「今回は、賭でした。説明しきれないことも多いんですけど、今回たぶん、まどかさんは正解か、正しい間違い、どちらかを選ぶと思っていました。
 正解なら問題はありません。先輩も、それで救われていたはずでした。
 でももし正しく間違えたら……その時は、私は後始末をしないといけないんです。
 それが、私の、なすべきことですから」
 「何よ、それ……」
 
 マミがやはり力無くいう。
 
 「先輩。私、前にジークリンデさんから、助言は何も無いっていわれましたよね。まともに強くなることは出来ないって。でも、あれ、こういうことなんです。
 正攻法では駄目でも、裏技なら強くなれるって。
 そして私の裏技は、魔女の力の再現。そう、ジークリンデさんのそれとよく似た力です。
 それで今私は、ジークリンデさんの再現能力をコピーして、再現の対象を、魔女のそれから、私の知るあらゆることに格上げしたんです。この姿は、まあそれを証明するお茶目ですね」
 
 そしてちえみは、迫り来るワルプルギスの夜に向き直る。
 
 「先輩達があれを倒しても倒せなかったのは、ほむら先輩の矛盾が残っているせいです。
 奇跡の魔力があれば確かに倒すことは出来ます。でも忘れていませんか? あの魔女は先輩なんです。
 そう、先輩が時を遡ってやり直せる。同じ事を、あの魔女が出来ないと思っていたんですか?」
 
 衝撃で絶句する、ゆま以外の全員。
 その間にちえみは、無数の銃撃と槍衾、そして剣の檻でワルプルギスの夜を足止めする。
 
 「矛盾を解消するか、まどかさんの一撃、それ以外ではワルプルギスの夜は倒せません」
 
 先ほど魔女を拘束した、リボンと爪刀のコンボがワルプルギスの夜を拘束する。
 
 「でも、まどかさんが正しく間違えたおかげで、私がどうしても欲しかったものも手に入りました」
 「……何が……欲しかったの」
 「それは、情報です。とある場所の」
 
 ちえみは左手の盾を掲げ、ギミックを展開する。ほむらがやるのとそっくりな光の壁が、ワルプルギスの夜を取り囲む。
 
 「あ、先輩。これからやろうとすることは、真似しないでくださいね。私が今やるのには意味がありますけど、先輩が真似てしても、時空移動能力を持つワルプルギスの夜には無意味ですし」
 「何を……する気なの、ちえみっ!」
 
 ほむらの魂魄からの言葉が発せられる。その答えは。
 
 「ワルプルギスの夜を、別の時間へ飛ばします。そう……先輩が、初めて帰ってきた、あの時間に。
 今の先輩は知っていますよね。もし最初のあの時、ワルプルギスの夜が現れなかったら、自分がそのまま魔女になっていただろうって。
 そのワルプルギスの夜は、どこから来たと思いますか?」
 「……まさか」
 「そのまさかです。始まりのワルプルギスの夜は、私がこれからこうして送り込むんです。
 私が知りたかったのは、その時空座標。
 まさか、全ての因果を束ね持ち、全時空全てを知る、あの瞬間のまどかさんからじゃないと知ることが出来なかったのは、ちょっと痛かったですけど」
 
 そしてちえみがそう言うと同時に、光の壁は収縮を開始し、そしてそのまま、潰れるかのように目の前から消失してしまった。
 
 「転送、完了……さすがに、もう、限界かな」
 「限界?」
 
 そう言うちえみを見て、ほむらは恐ろしいことに気がついた。
 確かにちえみの魔力量はまどかほどではないにしろ多い方である。
 だがここまで常識外れの力を振るって、それが尽きない訳がない。
 
 「先輩」
 
 そう言うちえみの姿が、不意に陰って見えた。
 いや、影になったのではない。影になっているのだ。
 ちえみの姿が、塗りつぶされるように黒く染まっていく。
 そしてその姿が完全に黒一色に染まった時、ほむらは気がついた。
 
 「全宇宙全ての知識を得るためには、どうしたらいいと思いますか? それこそ、全知全能、宇宙全てを束ねる、そんな存在からでもないと無理ですよね」
 
 その言葉と同時に、ゴーグルに変わっていたちえみのソウルジェムは、遂にはじけ飛んだ。
 後に残るのは普通のものより二回りは巨大な、グリーフシードの殻。
 そして同時に、辺りを埋め尽くすように結界が展開された。
 天まで続く本棚。
 無限に広がる本棚。
 そして一切の音を封じる、静寂の空間。
 
 
 
 それは全知の魔女。図書の魔女グリムマギーのいた、あの無限の図書館であった。
 だが違う点が一つ。
 初めて見た時は無力だった使い魔――手足の生えた本の群れが、ほむら以外の魔法少女に襲いかかっていた。
 普段なら鎧袖一触だっただろうが、今の彼女たちはほぼ力を使い果たしている。
 その上、使い魔の攻撃は、接触だけでその力を発揮した。
 使い魔に接触された瞬間、まるで魂が抜けたかのように目から光が消え、その場に倒れ伏す仲間達。
 
 『何を、したの……』
 
 声が出ないため、念話で話しかけるほむら。
 意外な事に、魔女は答えを返してきた。
 
 『まだ答えられますね。使い魔はそのつとめを果たしたんですよ。私の使い魔の能力は、記憶の蒐集です』
 『記憶の蒐集?』
 『はい。今そこにいる皆さんは、あらゆる記憶を抜かれて、赤ん坊同然に戻っていますよ。身体制御記憶に至るまで抜き取りましたから』
 『ちえみ……いいえ、図書の魔女。私はあなたを、許さない……』
 
 だが魔女は、揺らぎもせずに答えた。
 
 『怒られるのはまだ早いですね~。先輩、いいえ、暁美ほむら』
 
 その瞬間、何故かほむらは、影の魔女がにやりと笑ったのが理解出来た。
 
 『此処であなたに倒れられる訳には行きません。だから』
 『だから?』
 『ラストチャンスです』
 
 次の瞬間、この結界全てを覆い尽くすほどの『門』が出現した。それはほむらが時を戻る時にくぐる、あの『門』。
 
 『あなたの力ではなく、私の力で時を戻します。
 そこはあなたではなく、私が観測者となる世界。
 そしてあなたは、もう二度とやり直す事は出来ません、まさに文字通りのラストチャンス。
 その機会、見事に生かし切って、ちゃんとハッピーエンドに至ってください。
 そのための手段も、情報も、全てはもう、あなたの手の中にあります。
 後は決断だけ。正しい決断だけ。
 今度間違えたら、まどかさんじゃないですけど、完全な終わりになりますよ。
 今回まどかさんを殺してまで止めたのも、あの祈り、2度目の世界再生をやられたら、あなたの努力が全て無意味になるからですし。
 ま、少しだけおまけはしておきますから、頑張ってくださいね。
 このあと私は、初めて先輩があった時の、時の流れから外れた、引きこもり魔女になりますから』
 
 抵抗する術など、何も無かった。
 全てが門の中に崩れ落ち、そして
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ほむらは、目を覚ました。
 そこは明るい病室。
 枕元には、見滝原中学の学校案内。
 壁のカレンダーには、15の所まで斜線が入り、25の所に丸がしてある。
 それはまさに始まりの時。
 
 ここまでは、いつもの目覚めであった。
 
 だが、違ったのは、退院手続きをして、病院の外に出た時。
 
 
 
 そこには、みんながいた。
 
 マミが。
 さやかが。
 キリカが。
 杏子が。
 ゆまが。
 そして……まどかが。
 
 「どうして、みんなが……」
 
 呆然とつぶやくほむらに、まどかが告げた。
 
 「みんな、おぼえてるんだよ。ううん、前だけじゃない。その前も、その前の前も、全部。
 私だけじゃなくて、マミさんもさやかちゃんも、みんな。
 ……びっくりした? ほむらちゃん。私の、最高の、お友達……」
 
 そこから後は涙声になって、まどかはほむらに抱きついた。
 まわりのみんなも、涙ぐんでいる。
 だが、そこでほむらは気がついた。
 ちえみが、ちえみだけがいない。
 
 「なんでちえみはいないの?」
 
 皆一瞬、お互いの顔を見合わせる。
 そしてそこにかかる声。
 
 「その答えは、私が預かっているわ」
 
 そこにいたのは、白い女性。但し、その姿は魔法少女のそれではない。
 白滝女学院の制服に身を包んだ女性がそこにいた。
 
 「ジークリンデ、さん?」
 「いいえ」
 
 思わずそう問いかけたまどかに、その女性は答えた。
 
 
 
 「ご存じの方も多いでしょうね。私は、美国織莉子と申します。そして、同時に魔女ヴァイスと、使い魔ジークリンデの記憶を継ぐものでもあります」
 
 
 
 こうして、ついに真の終わりが幕を開けた。


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