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No.27882の一覧
[0] 【一気に逝ったよ~ッ!】永遠のほむら(魔法少女まどか☆マギカ)【本編アフター再ループ】【完結】[ゴールドアーム](2012/01/07 01:52)
[1] プロローグ[ゴールドアーム](2011/06/20 04:38)
[2] プロローグ・裏[ゴールドアーム](2011/06/20 04:28)
[3] 真・第1話 「私はなにも知らなかった」[ゴールドアーム](2011/07/13 00:05)
[4] 真・第2話 「次は、絶対助けてあげる」[ゴールドアーム](2011/07/13 00:05)
[5] 真・第3話 「先輩、よろしくおねがいします!」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:40)
[6] 裏・第3話 『契約は成立したよ』[ゴールドアーム](2011/07/13 00:06)
[7] 真・第4話 「これからよろしく」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:41)
[8] 真・第5話 「ケーキ、おいしいです」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:41)
[9] 真・第6話 「行くわよ」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:41)
[10] 真・第7話 「あなたを知りたい」[ゴールドアーム](2011/07/05 03:05)
[11] 真・第8話 「とっても恐い。だけど」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[12] 真・第9話 「魔法少女の、真実よ」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[13] 真・第10話 「私のあこがれでしたから」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[14] 真・第11話 「聞かせて。あなたの、お話を」[ゴールドアーム](2011/07/05 03:04)
[15] 裏・第11話 「それ、どういう意味なの」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[16] 真・第12話 「なんで、ここに」[ゴールドアーム](2011/08/29 20:52)
[17] 裏・第12話 「ごめんなさい……先輩」[ゴールドアーム](2011/06/23 02:26)
[18] 真・第13話 「だから信じるわ」[ゴールドアーム](2011/06/24 15:32)
[19] 真・第14話 「どうしてこんなことに」[ゴールドアーム](2011/06/25 15:49)
[20] 真・第15話 「お姉さんになって貰います」[ゴールドアーム](2011/06/28 05:00)
[21] 真・第16話 「私が迷惑なんです」[ゴールドアーム](2011/06/28 05:00)
[22] 裏・第16話 「ただ一人彼女だけが」[ゴールドアーム](2011/06/28 05:00)
[23] 真・第17話 「全てが冗談ではないのですよ」[ゴールドアーム](2011/07/05 03:11)
[24] 真・第18話 「それが私の名前」[ゴールドアーム](2011/07/12 01:27)
[25] 真・第19話 「なんであなたが魔法少女なんですか」[ゴールドアーム](2011/07/17 16:20)
[26] 真・第20話 「もう引き返せない」[ゴールドアーム](2011/07/24 05:14)
[27] 真・第21話 「人違いですね」[ゴールドアーム](2011/10/30 14:36)
[28] 真・第22話 「私は……知りたい」[ゴールドアーム](2011/07/31 19:24)
[29] 真・第23話 「甘い事は考えない事ね」[ゴールドアーム](2011/07/31 23:33)
[30] 裏・第23話 「それじゃ、駄目なんだよ」[ゴールドアーム](2011/08/07 19:46)
[31] 真・第24話 「ここは、私の望んだ世界ではない」[ゴールドアーム](2011/08/17 19:42)
[32] 裏・第24話 「早く気がついてね」[ゴールドアーム](2011/08/17 19:42)
[33] 真・第25話 「変な夢って言うだけじゃない」[ゴールドアーム](2011/08/28 17:52)
[34] 真・第26話 「もう私は、決して……ならないわ」[ゴールドアーム](2011/09/19 10:33)
[35] 真・第27話 「とっても恐くて、悲しくて……でも」[ゴールドアーム](2011/09/14 10:02)
[36] 裏・第27話 「これで潰してあげる」[ゴールドアーム](2011/09/19 10:47)
[37] 真・第28話 「ひとりに、しないで」[ゴールドアーム](2011/09/27 12:33)
[38] 真・第29話 「絶対、これ、夢じゃないよね」[ゴールドアーム](2011/10/11 13:54)
[39] 真・第30話 「そんな他人行儀な態度だけは、とらないで」[ゴールドアーム](2011/10/23 19:09)
[40] 真・第31話 「あたし……恭介が好き」[ゴールドアーム](2011/10/30 14:37)
[41] 真・第32話 「これが、あたしの、力」[ゴールドアーム](2011/11/06 22:49)
[42] 真・第33話 「その性質は飢餓」[ゴールドアーム](2011/11/28 00:24)
[43] 真・第34話 「ゆえにその攻撃は届かない」[ゴールドアーム](2011/11/28 00:25)
[44] 真・第35話 「「あきらめてなんてやるものか!」」[ゴールドアーム](2011/12/04 21:45)
[45] 裏・第35話 「全てを知るというのも、つらいものよね」[ゴールドアーム](2011/12/04 21:45)
[46] 真・第36話 「希望は、どこから生まれると思いますか?」[ゴールドアーム](2011/12/11 20:04)
[47] 真・第37話 「それはきっと、素敵な世界なのでしょうね」[ゴールドアーム](2011/12/18 23:54)
[48] 真・第38話 「悪いけど、その願いは通せないのよ」[ゴールドアーム](2011/12/18 23:55)
[49] 裏・第38話 「わたしを見ていてくれたんでしょ」[ゴールドアーム](2011/12/18 23:55)
[50] 真・第39話 「私も考える」[ゴールドアーム](2012/01/04 20:39)
[51] 裏・第39話 「僕たちに出来るのは、信じることだけですからね」[ゴールドアーム](2012/01/04 20:39)
[52] 真・第40話 「お願い、します」[ゴールドアーム](2012/01/06 00:13)
[53] 真・第41話 (……わかんないよ、ほむらちゃん)[ゴールドアーム](2012/01/07 01:48)
[54] 真・第42話 「契約しよう、キュゥべえ。私の祈りは――  new![ゴールドアーム](2012/01/07 01:30)
[55] 真・第43話 「これが、私の答えだよっ!」 +new![ゴールドアーム](2012/01/07 01:39)
[56] 神・第0話 おまけ的なエピローグ Last![ゴールドアーム](2012/01/07 01:48)
[57] 謎予告[ゴールドアーム](2014/07/18 17:39)
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[27882] 真・第36話 「希望は、どこから生まれると思いますか?」
Name: ゴールドアーム◆63deb57b ID:d6be9c18 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/11 20:04
 戦争の後には平和が来るという。その平和も、戦争の準備期間だったりする。
 そんな夢のない話はともかく、魔法少女達は、一時の平穏を味わっていた。
 というのも、見滝原周辺は遠征に備えて未来知識バリバリのほむらとちえみが先導して魔女の出現スポットをしらみつぶしに捜索したため、現時点で過去出現していた魔女はあらかた刈り取られていた。もちろんまどか達が襲われたズライカのような見落としがないという訳ではないが、現時点では明らかに魔女の出現は激減している。
 というかむしろ道を歩けば魔女に当たるという事態の方が恐い。
 マミに言わせれば平均よりやや楽なくらいだとか。
 
 そして滝の上は、トウテツの出現によって、いわば周辺一帯の魔女をまとめて討伐したような形になったため、今は見滝原以上に平穏である。一度くまなく探査したが、全くといっていいほど気配を感じない、一種の真空スポットになってしまっている。
 無駄に七人もいる魔法少女は、見河田町などの周辺地域にも足を伸ばしたが、ほとんど魔女の気配は感じられなかった。
 何しろ周辺一帯全て合計して、一週間の間に遭遇したのが魔女未満の使い魔一体という有様である。
 しかもマミや杏子の経験則から言えば、こうなると一月くらいは極端に魔女の出現が減るという。
 なおほむらの経験則は見滝原の一ヶ月に特化しているためこういう場合役に立たない。
 
 おそらくはこうなるとワルプルギスの夜の出現が近づくまで、魔女が大量発生したりはしないだろうというのが先達組の結論であった。
 
 
 
 
 
 
 
 「この機会に行きたいところがあるんですけど、明日皆さん大丈夫ですか?」
 
 ちえみがみんなにそう誘いをかけた。
 
 
 
 時はトウテツ戦から二週間後、所はマミの家。
 集まっているのは魔法少女フルメンバーにまどかと仁美という、文字通りの全員であった。
 ちなみに今のマミは一人暮らしではなかったりする。滝の上の落ち着きもあり、杏子がゆまと共に転がり込んできたのだ。
 杏子もゆまがいなければそんな事はしなかっただろうが、ちえみからお金をもらったことでかえってまずいと感じたらしい。
 もちろんマミは喜んで受け入れた。今ではゆまもマミを警戒したりはしない。おいしいケーキを作ってくれるお姉さんだと思っている。
 
 
 
 「明日なら私も大丈夫ですけど」
 
 一番問題のありそうだった仁美がOKすると、残りの全員も頷いた。
 明日は日曜だし、今のところ予定もない。
 
 「なら一度、皆さんをジークリンデさんに引き合わせたいんです。たぶん、『揃った』と思うんで」
 
 その言葉に、微妙に表情が硬くなるほむら。それに気がついたマミがほむらに聞く。
 
 「ジークリンデさんというと、前に言っていた助言が当てになるという人のこと?」
 「はい、そうです。その時も言いましたけど、先輩とは『前』でいろいろありまして」
 
 にこやかに言うちえみを少し恨めしそうな目線で見ながら、ほむらが言葉を続ける。
 
 「ちなみに人間じゃないわ。れっきとした魔女の使い魔。ついでに私はその魔女の生前の姿をよ~~~~~く知っているわ」
 
 「よ~」の部分に、不自然なまでに力を込めて言うほむら。錯覚なのだろうが、その瞬間、ほむらの髪が逆立っていたようにまわりの全員には見えた。
 
 「ん? そもそも使い魔に『会える』のか? 話っぷりからすると、そこいらの人に会いに行くみたいな感じだけど」
 
 そう口を挟んだ杏子に、ほむらは返す。
 
 「『白の巫女姫』って聞いたことある?」
 「ん、あるぜ。滝の上に新入りが来た頃、そいつらが噂してたし」
 「私もありますわ。よく当たる占い師の方だとか」
 「あたしもある。ていうか、行ってみようかと思った」
 
 返事は上から杏子、仁美、キリカである。まどかとさやかは知らなかった。
 さすがにゆまは年齢的にも環境的にも知るはずがなかった。
 
 「私も噂程度は聞いたことがあるけど、その言い方からすると、『白の巫女姫』が添田さんが会いたいという人なのね?」
 
 まとめるように聞くマミの問いに、ちえみは返答する。
 
 「はいそうです。白の巫女姫ことジークリンデさんは、使い魔ではありますが、見た目も行動も基本的には普通の人と別段代わりはないです。そういう使い魔なので」
 「そんな魔女もいるのかよ」
 
 杏子のツッコミにも、ちえみは真面目に答える。
 
 「『前』の縁もあるので一応なんでそんなトンデモ魔女がいるのかは判っています。
 ジークリンデさんの本体は霧の魔女ヴァイス。その性質は奇跡。
 絶望に至っても未来の救済を捨てられなくて、そのための『手助け』をすると言う妄執が魔女化の律になってしまったため、むしろ人には危害を加えられなくなっちゃったっていう変わった魔女なんです。
 但しもし戦ったら、普通の魔法少女では『絶対』勝てない強敵でもありますよ」
 「絶対……そう言いきれるのかな?」
 
 キリカが疑問を挟む。ちえみはそれに対して、
 
 「『絶対』です。例外はこの間のあれをやった杏子さんとゆまちゃんだけです」
 
 あっさりとそう返した。
 
 「わたし?」
 
 自分の名前が出たせいか、ゆまはぱくついていたマミお手製ケーキから目を離して顔を上げる。
 
 「そうなの。霧の魔女は杏子さんとゆまちゃんがやっちゃったあの『奇跡』の力を持ってでしか倒せません。あの力を使えない魔法少女では、最善で全魔力を使い果たして魔女化ギリギリで持ちこたえるのが精一杯。そこで耐えられなければいかなる魔法少女でも魔女と化してしまいます」
 「霧の魔女はね、とある方法でいわば魔法少女を魔女化する力を持つのよ。対抗手段は無し。強いて言うなら、絶対に絶望する状況で自分を保ち続けるしかないわ」
 
 さすがにゆま以外の全員の顔がしょっぱくなった。思いは一つ、なんだその反則は、であろう。
 
 「そんな恐ろしい魔女が……でも何故噂を……ああ、『人』には危害を加えないからですね」
 「それに加えて、結界は自然に周辺に溶け込む上瘴気を感じさせず、使い魔は見た目ただの人間そっくりですし。何しろ使い魔であるジークリンデさんの役割は『再現』、魔法少女だった頃の魔女本来の姿をまんま再現するというのがそのあり方ですから。
 私くらいの看破能力がなかったら、絶対使い魔だなんて気がつきません」
 「ちえみの看破能力でやっとかよ、そりゃあたしらじゃ気がつかないかもな」
 
 マミの疑問に答えたちえみに、杏子も同意する。
 
 「そういえばちえみちゃんの看破能力ってそんなにすごいの?」
 
 ここで話の内容がよく判っていなかったさやかが疑問を挟んできた。
 
 「私が知る限りでもたぶん空前絶後ね」
 「おまけに例のあれで蓄積もあるんだろ? 情報が取れてると間違いなく魔女退治の難易度がぐっと下がる」
 「はまった時は、ですけど。トウテツみたいに弱点を特に持たない魔女には役に立ちませんし」
 
 マミと杏子というこの場の二大ベテランに保証され、ちえみが謙遜する。
 
 「逆にいうと、弱点を突かないと倒せない魔女には圧倒的さ。実際、ギロチンの魔女はちえみがいなかったら間違いなく犠牲者が出てる」
 「あれはちょっと特別ですよ」
 
 例を挙げたつもりだったが、何故かそう言った杏子がちえみに横目で見られている。
 さやかは訳が判らないので、ほむらに聞いてみた。
 
 「ねえ、どういうこと、ほむほむ」
 「ほむらよ。まあ簡単にいうとね、ギロチンの魔女は『断罪』という性質で、特殊な力として『犯罪者には屈しない』っていう能力を持っていたの。特に万引き犯は最悪で、訳あって万引き常習者だった杏子とは相性最悪だったのよ」
 
 自分の事は棚に上げて説明するほむら。案の定杏子から「おまえもだろ!」という抗議が上がるが、ほむらはさらりとそれを無視する。
 
 「他にもチーズを見ると食いつかずにはいられないとか、そういう弱点を持つ魔女って意外と多いのよ。あなた達が襲われた魔女もそうだったのでしょう?」
 「うん、明るいのが駄目だった」
 
 まどかがそう答える。この二週間の間にその時の話は聞いていたが、ほむらは内心冷や汗ものだった。ちえみと一緒に検討してみて、まどか達を襲ったのが、たいていの歴史ではマミツァーで倒されていた使い魔の進化形であることは判明していた。
 内心次があったら絶対に見逃さないとほむらは誓っている。
 そんな内心はかけらも見せずに、ほむらは言葉を続けた。
 
 「ちえみは初見の魔女に対して、その弱点を見抜く力があるのよ。その意味は戦闘力のなさと引き替えだとしても絶大よ」
 「もっとも先輩がそれを知って私をこうやって引き上げてくれるまで、どの歴史でも私は魔法少女になってすぐやられちゃって魔女化していたらしいんですけどね」
 「とある回でちえみが魔女化した直後の現場に遭遇して、次があったら助けようって思ったのよ」
 「そうしたらなんか私も先輩の繰り返しにつきあうことになっちゃいましたけど」
 
 補足しておくと、現時点でさやか達もほむら達の事情は知っている。
 まどかの夢のことや、来るワルプルギスとの戦いのこともあり、またさやか達の様子からしても、隠しておく必要は全くないとほむらも結論したからだ。
 なのでトウテツ戦の後、まどかがらみのヤバいネタとワルプルギス関連の話以外は全てぶっちゃけた。
 ワルプルギス関連を話していないのは、単に情報過多で混乱するのを防ぐためで、もはや隠す気はほむらには全くない。
 変われば変わるものだ、と、ほむらも自覚していたりする。
 もう誰も信じないといっていた自分は、一体誰なのだ、と。
 こういうのをキャラ崩壊っていうのかしらね、と、自分を客観的に見る余裕すら有ったりするのだ。
 なお、ほむらは自覚していなかったが、それを世間では普通『成長』という。
 
 
 
 「とりあえずちえみの話はおいておくけど」
 
 ずれた話を戻すようにほむらは言う。
 
 「ジークリンデはね、魔女から託された権能の代行者でもあるわ。その力は基本的には『予知』。本体が魔女化した今では、その力を魔法少女だった頃より遙かに強く使えるのもほぼ間違いない。たぶん、加えて『過去感知』も出来ると思うわ。
 そしてかつての本体の持っていた優れた知性と分析能力もあって、情報を得た魔法少女の力を、おそらく本人以上に熟知している。それを元に、魔法少女に対してその力を引き出すための的確なアドバイスを与えるのが、使い魔としての役目なのよ。
 人型なのも、その能力が『再現』なのも、おそらくは全てこの『助言を相手に聞かせる』ためのもの」
 「ちなみに先輩は前回の歴史で、彼女の助言の邪魔してあっさり負けました」
 
 余計なことを言ったちえみを、ほむらは無言でぽかりと小突く。その有様がよく出来たコントみたいで、他のみんなは必死に笑うのをこらえていた。
 気を取り直してほむらは続ける。
 
 「……霧の魔女はさっきも言ったとおり『人を襲わない魔女』だけど、それだけは例外になるわ。『助言を邪魔する人でないもの』に対しては無敵の力を誇るから。会いに行った時、どんなに不快でも助言の邪魔だけはしちゃ駄目よ」
 「経験者は語る、ってか?」
 「杏子っ!」
 
 ……コント時空は、もうしばらく続きそうだ。
 
 
 
 
 
 
 
 そんなこんなで翌日。
 総勢9人の少女がぞろぞろと見滝原の外れ、開発途上地区を歩いていた。
 道案内は勝手知ったるちえみである。
 
 「もう少しすると霧が出てきますので、それが合図みたいなものです。あ、言い忘れていましたけど、ジークリンデさん、別に今回のことだけじゃなくて、恋愛ごととかの相談にも乗ってくれますよ。ちなみに的中率ほぼ100%。但しあくまでも助言を求められたことに関してだけで、その先のことまでは保証しないって本人も言っていますけど。
 あと、頼りすぎると自分を見失うっていう事で、ある程度というか必要充分なだけしかアドバイスはしてくれません。そっから先は自力でどうにかなるって言うメッセージでもあるんですけど」
 「あら、そうなのですか?」
 「……仁美ちゃん、なんか恐い」
 
 それを聞いた仁美の目が輝いた気がして、まどかが少し引いていた。よく見るとさやかも引いている。
 
 「あれは獲物を狙う肉食獣の目だな」
 
 キリカの一言が、実に的確だった。
 他の魔法少女達は、ゆまを除いて興味半分、引き半分という感じか。
 少女にとって恋バナは気を引くものであっても、生々しすぎるとまだ引いてしまうお年頃といったところであろう。
 
 「でもさ、基本的には言うなれば自分の代わりに事を成し遂げてもらいたい、っていう前のめりの絶望から魔女になったんだろ? なんで関係のない恋愛相談まで受け付けるんだ?」
 
 話題を変えようと思ったのか、そう言ってきた杏子に、ちえみは少し表情を暗くして答える。
 
 「だからこそ『魔女』なんですよ、杏子さん。私も直接聞いた訳じゃないですけど、当初のジークリンデさんが生まれた方向性は、たぶん杏子さんがこの間見せたあのあり得ないような『奇跡』をこの世に生み出すためなんだと思います。
 でも、魔女化するとそういう『目的意識』とか、『核となる思い』みたいな魔女の中核が、だんだんとまともに維持できなくなってくるらしいんです。
 抽象化、っていうんですか? 本質だけを残して、付帯条件とか、具体的目的とか、そういうものがだんだんと風化というかそぎ落とされちゃって、概念だけが残る、みたいな所があるみたいです。
 たとえば杏子さんも知っているヘラなんかは、『犯罪者を断罪する』が魔女化の際に残った妄執ですけど、だんだんと『断罪』だけが残って、『犯罪者』に当たる部分の定義が、時間と共に曖昧になってくるんだと思います。
 魔女になった彼女にとって、何を以て犯罪者と定義するかは、彼女の持つ魔女としての歪んだ主観でしかないのですから」
 「ああ……そういう事なのか」
 
 杏子は、別人のように真面目な顔でそう答えた。
 ちえみはそれに気がつかないかのように、言葉を続ける。
 
 「ジークリンデさんというか、霧の魔女もそれは一緒なんです。『自分には出来ないことを誰かが成し遂げて欲しい』って言うのが、彼女が魔女化する時に残った妄念らしいですから。それが残るが故に、手助けを望む人に自分の能力でそれを与える、というのが霧の魔女の魔女としてのあり方です。
 その辺の制約がうまい具合に魔女としての彼女が暴走するのを抑える形にはまったらしいんですけど。もし少しでもずれていたら、結界内の人を将棋の駒みたいに自分の奴隷にしかねなかったって、彼女から聞いたことあります。
 『魔女の支配下の幸福』って言うそうですけど、霧の魔女にはそれを絶対的に否定する核が同時にあったそうです」
 「魔女の支配下の幸福?」
 
 その言葉に反応するマミ。
 
 「簡単に言うと、身も心も魔女に屈服する代わりに、本人は絶対的な幸福を得るという事です。客観的に見ればそれは麻薬中毒の人とたいして差はありません。永遠に麻薬の切れない麻薬中毒は、まわりになんの悪さもしませんから無害ですが。
 でも、もし仮に全世界の人が同じ症状になって、その状態が永続するとなったら、不幸な人が存在すると思いますか?」
 
 ちえみの問いをマミだけでなくまわりの少女達も考える。
 もっともほむらだけはちえみの問いの裏を理解していたが故に考える振りをしていただけだが。
 
 「それって言い換えると、魔女の力で理想の夢を見させられてるようなもんか――永遠に」
 「はい。永遠に、です。魔女が存在する限り永遠で、あらゆる事に不満を感じることはありません。極端に言うと『不幸になる権利』すら保証されています。自分が望むのなら。
 悲劇のヒロイン願望って、結構ありますしね」
 「むう、そうなると悩むなあ」
 
 杏子は悩む。ロジックに穴がない。
 
 「確かにそれは理想郷だな。魔女の力で維持されるものとはいえ、その中にいたらたぶんそれを自覚できるものは誰もいない」
 
 キリカも真面目な意見を述べる。
 
 「『外部がない』というのがポイントだな。この手のものが破綻するのは、その外に別の世界があるのが原則だ。映画なんかでもあるけど、仮想世界に取り込まれた人が不安を感じるのは、『外部』が存在することを知っているからだ。もしそれを知らなければ、人は現状に不満を憶えたりはしないし、憶えても世界を否定したりはしない。
 その手の破綻は、外の存在を確信するがゆえのものだ」
 「う~、なんで杏子もキリカ先輩もそういう難しい議論が出来るのよ。あたし、ひょっとしてちえみちゃんにも負けてる?」
 「さやかちゃん、私もよく判んないから一緒だよ」
 
 さやかとまどかはついて行けていない。そんな二人に、ほむらはいった。
 
 「それだけあなた達は幸せだっていう事よ」
 「へ? なんで?」
 「こういう幸福論を語れるのは、不幸な目を見た人間だけよ。幸福な人間は、そもそも現状を疑わないし否定しない。満たされている人間は反逆しないのよ」
 「あれ、でもよく大金持ちのわがままお嬢様が不満を言ってたりしない?」
 「そう、何を以て満たされているとするかはあくまでも個人の実感であり、また相対的なものだっていう事よ。これ以上は証明できない哲学の領域に突入するから、あまりハマらないことをおすすめするわ」
 
 これに対するさやかの答えは。
 
 「うわ、なんかものすごい勉強になった。なにより」
 「なにより?」
 
 そう思わず合いの手を入れたまどかに、さやかは言い切った。
 
 「哲学って、そういうもんだったんだ。社会の時間に出てきたけど、なんのことだかさっぱり判んなかったのよね、哲学って」
 「あ、そういえば」
 
 まどかも含む無邪気なその言動に、年長組が揃ってこけていた。
 まあ、魔法少女なんぞになる少女は、そういう哲学的な命題を抱えていることが多いのだが。
 はからずしも皆が、自分がまだ『子供』であることを意識した一幕であった。
 
 
 
 
 
 
 
 そんな会話をしている内に、いつしか一行は濃い霧に包まれていた。もっともその霧はすぐに晴れ、行く手に白亜の建物が見えるようになる。
 
 「あそこが、ジークリンデさんのいる館、『救世の希望』です」
 
 そう言うちえみの言葉に従い、遠慮無くその建物の敷地内に全員が入る。
 その建物は、一言で言うと、立派なのに異様、であった。
 高級そうな作りの住宅なのだが、色が真っ白だった。
 何もかもが真っ白。ただそれだけで、これだけ異常に感じるのもまた不思議な話だった。
 ただ一人ちえみはそれに臆さず、玄関脇の呼び鈴を押す……までもなかった。
 まさにそのタイミングで、玄関の扉が開いたからだ。
 
 
 
 「いらっしゃい。待っていたわ、奇跡の魔法少女の皆さん」
 
 
 
 現れたのは、白の衣装に身を包んだ一見魔法少女。
 自分たちよりやや年長……おそらく高校高学年くらいの年齢の少女。
 少女と言うにはやや年かさな気がするが、大人の女性と言うには何かが明らかに足りない、そんな微妙な年頃。
 そして暁美ほむらにとっては、脳裏に焼き付いたまどかの仇。
 あの魔法少女のいないループでは友人となった事もある人物であるが、それが故に『魔法少女である』この人物の恐ろしさはその魂に刻み込まれている。
 友人となった時の彼女……美国織莉子は、父親のために一度全てを失った少女であった。
 有力政治家の娘として何不自由ない生活をし、理想に燃えていた少女は、父親の汚職疑惑とそれが解明されないままの父親の自殺によって、あらゆる人の対応が反転するという理不尽を体験した。
 自分を見失い、自殺も考えていた。
 キュゥべえのいた世界ではそこから魔法少女になり、ある時間軸ではまどかを抹殺するためにマミ達と対立し、別の時間軸ではこうして魔女となった。
 だが、あの時間軸ではそのような救いは現れず、織莉子は落ち込んだ自殺願望の強い少女のままであった。
 その時は織莉子の調査をしていたほむらがそれを知り、結果として彼女を引き上げる役目をしてしまった。対立から始まり、理解を経て親友へ。その過程であの時はキリカもほむらの親友になっていた。
 だからこそほむらは誰よりも理解している。
 目的のためには手段を選ばず。
 美国織莉子は、その言葉の体現者であることを。
 たとえば人類を存続させるという目的のために、わずかな組み合わせのカップルを残してその他全ての人類を抹殺することが平然と出来る人物であることを。
 そしてその際に自分が犠牲者の側に入ることを当然と思える人物であることも。
 
 それゆえ、油断は出来ない。
 必要ならば、彼女はいつでもまどかを切り捨てられるのだから。
 
 
 
 今回は人数が多いせいか、応接室ではなく、リビングのような部屋に通された。
 マミの家のように茶とお菓子が振る舞われる。
 
 「楽にしていてくださいね。お菓子も遠慮無くどうぞ」
 
 そう告げられると、杏子とゆまは遠慮無く目の前の菓子に手を伸ばした。
 
 「ずいぶん用意がいいわね」
 
 そう皮肉るほむらであったが、
 
 「当たり前でしよう。私を誰だと思っているのですか?」
 
 あっさりとジークリンデに撃墜されてしまった。
 
 「それはそうと」
 
 彼女はほむらいじりをやめ、皆の目を見る。
 
 「よくぞあの『奇跡』に至っていただけました。我が主、私のオリジナルでもある、一人の魔法少女の望みは、あなたたちによって果たされました」
 
 そう告げるジークリンデ。魔法少女も、それ以外の人物も、何人かの目が、その言葉を聞いて鋭くなった。
 
 「あなたは、知っていたのですか?」
 「あたしがあんな状態になるって」
 「私は魔法のことは判りませんけど、あなたは『知って』いたのですね。あの現象がなんなのかを」
 
 マミが、杏子が、そして仁美がジークリンデに視線で迫った。
 そして彼女は。
 
 「はい。存じております。あなた方の起こした奇跡が、どういうものなのかを」
 
 それを肯定した。
 
 
 
 「……なあ、聞いていいか?」
 
 一瞬訪れた沈黙。それを破ったのは杏子だった。
 
 「あんた、判ってたんだよな。あんたの言う『奇跡』。あの無茶苦茶力がわいてくるあの現象。なのになんで黙ってたんだ?
 ほむらが言うには、あんたはそういう事を助言するのが役目なんだろ? ならもっと広まっててもいいんじゃないのか? 何せあたしに出来る位なんだからさ」
 
 だが、その問いにジークリンデは首を横に振った。
 
 「出来ないのです。その助言は」
 「? なんで?」
 「それにお答えするには、あなたの成し遂げたことがなんであるのかを説明するのが一番早いでしょう。
 あなた方の起こした奇跡。キュゥべえの言う『第一魔法』。
 それは一番端的に言ってしまえば、ソウルジェムの共鳴による、希望のハウリングです。
 ハウリングというのは、スピーカーにマイクを近づけると「ピー」というものすごい音が鳴り響きますよね。あの現象のことです」
 「ああ、あのうるさいやつ」
 
 さやかがあいづちを打つ。
 
 「あれはスピーカーから出た小さな音をマイクが拾い、それを増幅してまたスピーカーから音が出、それをまたマイクが拾って……という繰り返しが大音量を生むことによるものです。そしてあの第一魔法も、それと似た現象から生じます。厳密にはかなり違うのですけど。
 ただ、それを理解するには、一つ皆さんに改めて考えてもらわないといけないことがあります。
 皆さん、希望とは……漠然としたものではなく、理想の推進力となるような、強い希望とは、どこから生まれるものだと思いますか? 魔法少女を生み出すに値する、エントロピーを凌駕する願いは、どこから生まれると」
 
 その言葉を聞いて、魔法少女達は己の掛けた願いを思い起こし、そうでないまどかは掛けたい願いを、仁美は叶わぬ思いのことを考えた。
 思いつくことはいくらでもある。
 マミは生きたいと願った。助けてと願った。
 杏子は無視される父親の話を人に聞いてもらいたいと思った。
 ほむらはまどかを救いたいと、そのために出会いをやり直したいと思った。
 さやかは恭介を、恭介の手を再び動かしたいと願った。
 ちえみはものを憶えられない自分の頭を何とかしたいと思った。
 キリカは一歩を踏み出せない自分を変えたいと思った。
 ゆまは杏子を助けたいと思った。
 仁美もまた、恭介の怪我を、動かない手を動かしたいと思っていた。
 まどかはまだはっきりとはしていない。
 
 「判りにくければもう少し別の見方を。仁美さんは、何故魔法少女になれないのですか? さやかさんと同じくらい強い願いはあっても、何故さやかさんは魔法少女となれ、何故仁美さんはなれないのですか?」
 
 仁美とさやかがはっとしたようにお互いの顔を見合わせた。
 
 「それは、生まれついての才能のようなものの差ではないのですね?」
 「ええ。私のオリジナルもかつてはキュゥべえが見えませんでした」
 
 ジークリンデは明言する。
 
 「私の姿を見ていただけると判ると思いますけれど、私は魔法少女としては年長の部類です。魔法少女になるのに必要なのが純粋な才能であるのならば、私のような力ある存在をキュゥべえが見逃すと思いますか?」
 「キュゥべえも万能ではないけど、たぶん見逃さないわね。まどかがその証明よ」
 
 ジークリンデの提示に、ほむらが答える。
 
 「まどかはあずかり知らないことだけど、私のループによって、まどかは莫大な魔法少女としての資質を得るわ。そして私の帰還と同時に、キュゥべえのまどかへの接触はその頻度を増すのも確か。元々まどかには素の状態でもそれなりの資質があるけど、私との接触でそれは劇的に変わる。
 そしてそれは、私か織莉子――あなたのオリジナルの介入がなければ確実に発見される」
 「そう。満ち足りていた私は資質があってもたぶんキュゥべえは見えなかった。父親の事があって初めて私はキュゥべえのことを知った」
 「そういえばキュゥべえちゃんが言っていました。私も身内に何かがあったら見えるようになるかもって」
 
 仁美がそう言った時、ちえみの肩がぴくりと震えた。
 
 「あれ? そんな事言ってたっけ」
 「言っていたと思うのですが……」
 「うーん、私は覚えがないなあ」
 
 まどかとさやかのツッコミが入って、仁美も少し不安げだ。
 
 「まあ、どっちでもいいじゃないですか。ジークリンデさん、仁美さんの話、あってるんですよね」
 「ええ。少なくとも今の仁美さんには、魔法少女にはなれない、それなりの理由があります」
 
 ちえみの言葉で、ジークリンデは話を戻す。
 
 「もう少し説明いたしましょう。さやかさん、仁美さん、あなたたちは、上条恭介君の腕を治すことの困難さについて、どのくらい知っていますか? どのくらい努力できますか? そして、どのくらい希望があると思いますか?」
 
 その問いに、さやかと仁美はこう答えた。
 
 「あたしは詳しい事は全然判んない。お医者様に任せるしかないって思う」
 「私は父のコネがありましたので、いろいろと自分で調べてみましたけど……かなり難しいのではないかと思います。少なくとも国内のお医者様ではもう難しいかと。何か切っ掛けがない限りは治らないのではないかとも思います」
 「仁美さんはずいぶんと勉強しているのですね」
 
 そう言われて、仁美は真っ赤になる。さやかも、
 
 「ちょっと意外。そこまで調べてたんだ。こりゃマジで負けるかも」
 
 心底から仁美の思いに感動していた。
 
 「仁美さんが真面目に努力していたことが、関係あるのかしら」
 
 その一方で、ほむらが話題をジークリンデの問いに戻す。
 
 「ええ。間接的にだけど関係があるのよ。それは願いを楽天的に捉え、絶望なんかしたこともないようなお気楽な人は魔法少女になれないのと一緒」
 「それ、私があの時考えていたこと……」
 
 心を読むようなジークリンデの返答に少し憤るほむら。だが、その答え自身はまわりの人に刺激を与えていた。
 
 「そういえば、そういう軽いノリで魔法少女になったやつって、あんまりいないよな」
 「そうですね。私が見たことのある魔法少女も、もう少し真面目な願いを掛けていたわ」
 「私は新参者だから判らないけど、そういうものなのか?」
 
 話し合う魔法少女達に、ジークリンデは告げる。
 
 「まあ、実際、あなた方に答えが出せるとは私も思っていません。情報が足りない、答えられない問題ですので。
 私がこんな質問をしたのは、皆さんにかつての願いを掛けた時のことを思い出していただきたかったからなのです」
 「ああ、そういう事だったのか。確かに思い出したよ。まだガキだった自分を」
 
 そういう杏子に、少し頭を下げると、ジークリンデは続けた。
 
 「魔法少女に至る願い、それは原則、『叶わぬ願い』でないといけないのです。少なくとも、『自分なら努力すれば出来る』と心から思っている事では、キュゥべえの言う、『エントロピーを凌駕する』事が出来ないのです」
 
 それを聞いてはっとする仁美。
 
 「私が至らなかったのは、上条君の、恭介君の怪我を治すことを、私が諦めていなかったから、なのですか?」
 「正解よ、志筑仁美さん」
 「でも、なんで? なんでそう言う願いだと叶わないの? 真摯に願っているっていう事では、そっちの方が上なのに」
 
 そういうさやかの言葉に、ジークリンデはさらに告げる。
 
 「その答えは、キュゥべえの活動を思い出していただけると判りますわ。
 キュゥべえが私たちを魔法少女にし、そして魔女に至らせる過程で、彼が収得しているもの、それが何かを冷静に突き詰めてみなさい」
 「キュゥべえが収得しているもの?」
 「グリーフシード?」
 「後、私たちが魔女に落ちる時のエネルギーって言っていたこともあるわ」
 
 マミ、杏子、ほむらが、それぞれ過去を振り返って考える。
 そんな彼女たちの言葉を聞いていたまどかは、あることに気がついた。
 
 「あれ? それって……全部『絶望』ですよね」
 
 そのとたん、一斉にまどかを見つめる古参魔法少女。そしてその瞬間を狙ったかのように、ジークリンデは最後の言葉を告げた。
 
 「そう。希望と絶望という言葉に惑わされやすいけど、キュゥべえが求めているのは、人々の『絶望』よ。そして彼らはその『絶望』をエネルギー源として求めている。
 そう、キュゥべえの持っている技術は、『絶望』をエネルギー源に出来るもの。
 そしてそれこそが、魔法少女システムの根幹の一つなのよ。
 何故真摯な願いでは駄目で、叶わぬ願いは叶うのか……その答えは一つ。
 
 『絶望している願いでなければ、キュゥべえは叶えることが出来ない』。
 
 いつか叶う願いではなく、少なくとも本人が、自分で叶えることは出来ないと、叶うこと、叶えることを絶望している願いでなければ、キュゥべえは叶えることが出来ないのよ」
 
 その瞬間、魔法少女達の間に沈黙が走る。
 
 「願いの力、少女を魔法少女にするための力の原点は、彼女たちが願ったことに対する絶望、叶うことを諦めている絶望にあるのよ。
 そして諦めていた願いが叶う時、少女の中でその絶望は希望に反転する。その希望こそが魔法少女達の力の源になる。少女達は希望の力を得、彼らは得た絶望の力を前払いして、後に彼女たちから絶望を回収する。
 それがキュゥべえの運営している魔法少女システムなの」
 
 それを聞かされた魔法少女達の顔は、実に見物だった。
 だが、彼女たちを襲う驚愕は、それに留まらない。
 
 「さらに考えてご覧なさい。ここで最初の問いに戻りますが、希望……そういう、強い希望は、どこから生まれると思いますか? 子供の語る夢ではなく、人の生き方を変えるほどの強い希望。そういう希望が、どうやって生み出されるのか。
 そこにこそ、キュゥべえが感情エネルギーを求めること、人間を魔法少女に変えることの秘密がありますわ」
 「その希望というのは、明日が幸せならいいなというような漠然としてものではなく、雪山で遭難した人が助けを信じるような強いものですね」
 
 マミの疑問に、ジークリンデは頷く。
 
 「そうですわ」
 「なら……判った気がします」
 
 その顔は、ちえみだけが知っていた、真実の絶望から、ほむらの事情を知って立ち直ったときの顔。
 
 「強い希望は、絶望の中からこそ生まれる……違いますか?」
 「正解、です」
 
 ジークリンデは、にっこりと微笑んだ。
 
 
 
 「お茶、新しく入れましょうね」
 
 空気を少し入れ換えるように、ジークリンデは皆の前の冷めた茶を新しいものに変える。
 
 皆の前にそれが行き渡った後、彼女は再び言葉を紡いだ。
 
 「希望と絶望は実のところ表裏一体なのです。希望が落ちて絶望となり、絶望の中より希望は育まれる。
 表裏一体と言うより、希望は植物、絶望は大地にたとえた方がいいかもしれませんね。
 希望が潰え、腐れば絶望に還り、絶望はその中から希望を芽生えさせる。絶望無くして真の希望はない。幸福と不幸にも似ていますわ。不幸を知らねば、自分が幸福であることを自覚できないのに近いことです」
 「それであの時、あたし達のソウルジェムの濁りが燃えたのか」
 
 杏子の言葉に彼女は頷く。
 
 「その通りです。あの炎は、絶望を燃やし尽くし、希望の力に変える心を象徴する炎。魔法少女に無限の力を与える『エターナル・ブレイズ』。現実には真の無限という訳でもないのですが、杏子さんとゆまさんの時のような、『真の覚醒』をした場合だけは文字通り無限大にも届きますわ」
 「理屈は判る。でもなんでそれが『奇跡』なの?」
 
 そこにさやかが疑問を差し挟む。
 
 「私も同感ですわ。魔法少女は、長い歴史を持つのでしょう? 不屈の心を持った魔法少女なら、いくらでもいたと思うのですが」
 
 同じく仁美からも疑問が提示される。
 
 「その通りです。ですが、真の覚醒を成し遂げるのには、大きな問題が3つ、あるのです。そしてその3つは、ある意味魔法少女のあり方と反するが故に、あの時までこの奇跡は起こることがなかったのですわ」
 「その3つの条件とは?」
 
 すかさずほむらがそれを確認しにかかる。
 そしてジークリンデは、ゆっくりとそれを言葉にした。
 
 「1つは、『絶望してなお諦めぬ心』。全ての希望が潰えた状態で、具体的なものなど何も無い状態で、なお悪あがきのように諦めない、折れない心を持つこと。
 これは杏子さんだけでなく、あなたも含め、その心を持つものはそれなりに存在していました」
 「ですよね~」
 
 ちえみが同感というように言う。
 
 「実際にそこに至ってなお諦めないというのは言葉にするより遙かに難しいのですが、それでも長い歴史の中ではかなりの数存在します。ですが、それに加えて第2の条件が加わると格段にその数は減ってしまうのです。
 その第2の条件とは、『第1の条件を満たす者同士が、心の底から互いを信じ合うこと』です」
 
 それを聞いて、さやかとキリカが口を揃えて言う。
 
 「それだけ?」
 「それくらいならいそうだけど」
 
 だがジークリンデは、動揺することなくそれに答えた。
 
 「そう思うかもしれませんが、実はこんなことが想像を絶するくらい難しいことなのです。考えてみてください。何故キュゥべえが魔法少女――感情エネルギーの生成システムの対象として、私たちを選んだのか」
 「感情の振れ幅が大きい、思春期の少女が最適だった、かしら」
 
 ほむらがその理由を思い出しながら答える。
 
 「そう、思春期の少女、感情の振れ幅が大きい――それがこの条件を難しくする要因です。
 この第2の条件の要求基準はとてつもなく高いものです。
 そうですね、想像してみてください。自分の親友を助けるために、自分の命を差し出さなければならない。そう思った時に、全くためらわずに即座にそれを肯定できる人は、あなたたちの中にいますか?
 もしわずかにでもそれをためらったら、その瞬間第2の条件を満たす資格は失われます」
 
 さすがにこの事実は少女達に沈黙を強いた。
 
 「……それは、厳しいですね」
 「てかさ、あたし達の年代じゃ、まず無理じゃない?」
 「私はできるかもしれないが、相手も同じとなるとそれはいささか厳しいかもしれない」
 
 そんな反応を、ジークリンデは肯定した。
 
 「ええ、それが普通です。自我が確立しはじめて、不安定になる年頃の少女……そんな彼女たちが、第2の条件を満たすような相手を持つのはまず不可能に近いのです。それが可能になるのはもう少し成長して、恋を自覚できるようになるか、あるいはもっと幼い、純粋な心を持つ少女でなければ不可能だといっても過言ではありません」
 
 その瞬間、少女達の視線は、ゆまに釘付けになった。
 
 「そう……今回『奇跡』が可能になったのは、ゆまちゃんがまだ幼女と言ってもおかしくないくらい幼かったからなのです。
 杏子さんとゆまさんの関係は、友情と言うよりむしろ親子関係のそれに近かった。友情では不可能でも、親子関係なら、互いが絶対の信頼を結ぶことは不可能ではありません。
 ゆまさんという、幼い少女でありながら、魔法少女に至る感情と絶望を持った人物がいなければ、奇跡には至らなかったでしょう。
 実際、この奇跡を満たせる可能性があるのは、ゆまさんのような幼子か、キリカさんやほむらさんのような、心のどこかに病みを抱えたものでもない限りまず無理なのです。
 私たちの年代の少女が、相手にそこまでの信頼を与え、受け取れるとすれば、それは母性本能か、恋愛感情か、狂信しかないのですから」
 「それを可能とするほど自我の確立している人物では、むしろ魔法少女になれない、のですね」
 「その通りよ、仁美さん。絶望に迷わない人物は魔法少女になれないわ。絶望を絶望のまま処理できてしまうと、それを希望に反転できないから」
 
 そして、そこに追い打ちをかけるように、ジークリンデは最後の条件を言った。
 
 「でも、そこまでだったら、頭のいい人物はこう考えるわ。ならばそれを狙うことを。その条件を満たす人物を、環境を整えることを。私自身もそうであることを否定しませんし。
 ただ、そのための障害が、最後の条件。厳密には第1の条件に付随するものなのですが、その重要度からすれば独立に値する条件ですわ」
 「それって、なんだ? あたしに出来たって言うことは、簡単だけどむずいって言うことだと思うんだけど」
 「ええ、その通りです。条件そのものは簡単なのですわ。でも、私のような助言者や、キュゥべえのような、奇跡の発現を望むものからすれば大変に難しい条件。
 そして、何よりこの奇跡の存在が、今まで明るみに出なかった最大の要因。
 こんな奇跡が起こせるという事をキュゥべえが否定した理由。
 その理由とは……第3の条件とは、『奇跡の存在を知らないこと』なのです」
 
 
 
 その瞬間、魔法少女の頭の中に、「はあ?」という文字が浮かんでいた。
 
 
 
 「それだけ?」
 
 さやかが問う。
 
 「たった、それだけ?」
 
 キリカが聞く。
 
 「知らないこと、それだけ……」
 
 マミは呆然とし、
 
 「なんでなんですか?」
 
 まどかは聞き返す。
 
 杏子とほむらとちえみは沈黙を貫いた。ゆまは端から話がわからない。
 そしてジークリンデは、ゆっくりとその理由を告げた。
 
 「簡単なことなのです。第1の条件に付随する、と申し上げたとおりなのですから。
 この奇跡の可能性を知ってしまうと、それは『希望』になってしまうのです。そして第1の条件は、『完全な絶望』。奇跡の存在を知り、その可能性を肯定してしまうと、それを否定しない限りその人は完全な絶望に至れなくなってしまう。そしてそれを否定した心では、もう奇跡は起こせない……それだけのことなのです」
 
 
 
 この時の少女達の心の中には、『あ』の文字が浮かんでいた。
 
 
 
 「ま、まさに盲点ね」
 「確かに……」
 
 マミとほむらは、そう呟く。
 
 「あれ。それじゃあたしたちももうむり?」
 「あ、そうなっちゃう」
 
 さやかとまどかがそう疑問に思う。
 それをジークリンデは否定した。
 
 「いえ、一度その身でそれを見、その余波を体験しているあなた方は問題ありません。奇跡の存在が確信として心底から理解出来ている今のあなたたちは、今更説明を聞いても奇跡の力が失われることはありません。あくまでも必要なのは『真の覚醒』、始めの二人がそこに至るために必要なのです。そうでなければ最初から説明なぞしません。
 残念ながら最初の二人の初回の覚醒以後は、『技術としての奇跡』にランクが落ちてしまいますけど、『お互いに心を通わせたものの心を共鳴させる』程度まで難易度が下がりますから。
 但し、それはあくまでも『始まりの奇跡』を目の当たりにし、その余波を心で受け取ったあなた方の間にのみ通じることです。言い換えれば、あなた方以外の、まだ奇跡のことを知らない魔法少女に説明したりしてしまうと、その魔法少女は限定的な方の奇跡すら起こせなくなってしまいます。限定発現の奇跡を見せることもその説明に当たりますから、取り扱いには注意なさい。
 説明しても大丈夫なのは、『始まりの奇跡』をその目で見、その心で感じた人だけです。それ以外の人には、一切の説明が害となります。
 それを不完全なまま知ってしまった人物は、二度と奇跡には至れません。魔法少女の真の可能性、無限の力に行き着くことは出来なくなってしまうのです。
 現に私のオリジナルは、それを知って絶望し、魔女になってしまったのですから」
 「それって……」
 
 まどかが何となくその話を聞きたそうにしている。
 だが、ジークリンデは黙って首を横に振った。
 
 「この話はあなたには少し早いですわ。いずれお話しできるとは思いますけど」
 
 そう言うと、ジークリンデは立ち上がって魔法少女達を見渡した。
 
 「もう少し、話を聞いていただけますか?」
 
 彼女たちが頷くと、ジークリンデは語りを続けた。
 
 
 
 「この奇跡が起こる原動力は、お互いがお互いを信じる心なのです。
 人は一人では弱いもの。でも、二人いれば、それは強くも弱くもなる事なのです。
 想像してみてください。
 とある所に不倶戴天のライバルである二人の少女がいます。
 あるときそのうちの一人が、不慮の怪我でその力を大きく落としてしまいました。
 彼女はある意味当然ですが絶望します。
 リハビリなどを頑張り、力を取り戻そうとはしますが、絶望は濃くなるばかり。
 そんなとき、彼女は物陰でライバルの少女が、その取り巻きらしき人物と話しているのを聞いてしまいます。
 取り巻き達は自分を貶め、ライバルを持ち上げます。
 ですがライバルはきっぱりと言いきります。彼女はこれくらいで終わるはずがない。必ず復活して自分の前に立ちはだかると。だからこちらもその時まで、彼女以外には敗れることのない存在にならなければならないのだと。
 ベタな展開ですよね。ですがこの時、この少女はどう思うと思いますか?
 おそらくは、希望を持つでしょう。それまでの絶望を焼き尽くすほどの、強い希望を。
 杏子さんとゆまちゃんの間に起こった奇跡というのは、たとえるならこんなことなのです。
 一人では、どんなに気張っても、やせ我慢をしても、空元気を本物の元気にすることは出来ません。でも、二人いれば、他者から認められれば、案外簡単に絶望を希望に反転することが出来たりするんです。
 魔法少女はグリーフシードのことなどもあって、そこまで強い絆を生み出すペアはなかなか誕生しません。
 忘れないでください。人という字は、二人の人物が互いを支えていると言います。
 一人の魔法少女は、決して絶望による魔女化からは逃げられません。それは宿命です。
 でも、二人いれば、奇跡とは言え、そこから逃げ切ることも不可能ではないのです。
 今回杏子さんとゆまさんが証明したように。
 そして今のあなた方は、互いのことを理解し、心を通じ合えば、あの時ほどではないにせよ、絶望を焼き尽くし、無限には至らなくともそれに近い力を振るうことも可能になるはずです。
 ああ、暁美ほむらさん。ループする時はお気をつけなさい。あなた自身はともかく、他人にこの奇跡の秘密を漏らせは、それは相手の未来を断ち切ることになりますから」
 「余計なお世話よ」
 
 ほむらは、ただそう答えた。
 
 
 
 
 
 
 
 「そうそう」
 
 話が終わった後、ジークリンデは告げる。
 
 「今見滝原近辺は、魔女が極端に少なくなっているわ。けれどあなた方は最大の敵との戦いが控えている。違いまして?」
 「その通りよ」
 
 答えるほむら。
 
 「ならばその時が来るまで、我が主の助力をお貸ししましょう。我が主、霧の魔女の力は『完全な疑似体験』。ソウルジェムを現実には濁らせることなく、あらゆる戦いの場をあなた方に体験させることが出来ますわ。その過程においては、死に至ることから魔女化に至ることまで体験させることが出来ます。そしてシミュレーション中は、それが疑似体験であることが一切自覚できないため、本格的な命がけの訓練が可能です。
 さらに今回の事件を見たので、奇跡に至る道もある程度可能になるかと。
 お望みなら、いつでもご利用をどうぞ。私による解説と批評付きです」
 「最後の批評が余計よ。ためになりそうなのがもっと頭に来るわ」
 
 
 
 口ではそう答えたものの、この後彼女たちは、頻繁にジークリンデの元に通うことになる。
 ジークリンデのアドバイスもあり、7人の魔法少女は、間違いなく歴代最強の力を手にした。
 
 
 
 
 
 
 
 そして、時は至る。
 
 (今回で、決着をつける)
 
 暁美ほむらは、そう、強く心の中で決意するのであった。


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