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No.27882の一覧
[0] 【一気に逝ったよ~ッ!】永遠のほむら(魔法少女まどか☆マギカ)【本編アフター再ループ】【完結】[ゴールドアーム](2012/01/07 01:52)
[1] プロローグ[ゴールドアーム](2011/06/20 04:38)
[2] プロローグ・裏[ゴールドアーム](2011/06/20 04:28)
[3] 真・第1話 「私はなにも知らなかった」[ゴールドアーム](2011/07/13 00:05)
[4] 真・第2話 「次は、絶対助けてあげる」[ゴールドアーム](2011/07/13 00:05)
[5] 真・第3話 「先輩、よろしくおねがいします!」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:40)
[6] 裏・第3話 『契約は成立したよ』[ゴールドアーム](2011/07/13 00:06)
[7] 真・第4話 「これからよろしく」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:41)
[8] 真・第5話 「ケーキ、おいしいです」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:41)
[9] 真・第6話 「行くわよ」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:41)
[10] 真・第7話 「あなたを知りたい」[ゴールドアーム](2011/07/05 03:05)
[11] 真・第8話 「とっても恐い。だけど」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[12] 真・第9話 「魔法少女の、真実よ」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[13] 真・第10話 「私のあこがれでしたから」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[14] 真・第11話 「聞かせて。あなたの、お話を」[ゴールドアーム](2011/07/05 03:04)
[15] 裏・第11話 「それ、どういう意味なの」[ゴールドアーム](2011/06/20 04:42)
[16] 真・第12話 「なんで、ここに」[ゴールドアーム](2011/08/29 20:52)
[17] 裏・第12話 「ごめんなさい……先輩」[ゴールドアーム](2011/06/23 02:26)
[18] 真・第13話 「だから信じるわ」[ゴールドアーム](2011/06/24 15:32)
[19] 真・第14話 「どうしてこんなことに」[ゴールドアーム](2011/06/25 15:49)
[20] 真・第15話 「お姉さんになって貰います」[ゴールドアーム](2011/06/28 05:00)
[21] 真・第16話 「私が迷惑なんです」[ゴールドアーム](2011/06/28 05:00)
[22] 裏・第16話 「ただ一人彼女だけが」[ゴールドアーム](2011/06/28 05:00)
[23] 真・第17話 「全てが冗談ではないのですよ」[ゴールドアーム](2011/07/05 03:11)
[24] 真・第18話 「それが私の名前」[ゴールドアーム](2011/07/12 01:27)
[25] 真・第19話 「なんであなたが魔法少女なんですか」[ゴールドアーム](2011/07/17 16:20)
[26] 真・第20話 「もう引き返せない」[ゴールドアーム](2011/07/24 05:14)
[27] 真・第21話 「人違いですね」[ゴールドアーム](2011/10/30 14:36)
[28] 真・第22話 「私は……知りたい」[ゴールドアーム](2011/07/31 19:24)
[29] 真・第23話 「甘い事は考えない事ね」[ゴールドアーム](2011/07/31 23:33)
[30] 裏・第23話 「それじゃ、駄目なんだよ」[ゴールドアーム](2011/08/07 19:46)
[31] 真・第24話 「ここは、私の望んだ世界ではない」[ゴールドアーム](2011/08/17 19:42)
[32] 裏・第24話 「早く気がついてね」[ゴールドアーム](2011/08/17 19:42)
[33] 真・第25話 「変な夢って言うだけじゃない」[ゴールドアーム](2011/08/28 17:52)
[34] 真・第26話 「もう私は、決して……ならないわ」[ゴールドアーム](2011/09/19 10:33)
[35] 真・第27話 「とっても恐くて、悲しくて……でも」[ゴールドアーム](2011/09/14 10:02)
[36] 裏・第27話 「これで潰してあげる」[ゴールドアーム](2011/09/19 10:47)
[37] 真・第28話 「ひとりに、しないで」[ゴールドアーム](2011/09/27 12:33)
[38] 真・第29話 「絶対、これ、夢じゃないよね」[ゴールドアーム](2011/10/11 13:54)
[39] 真・第30話 「そんな他人行儀な態度だけは、とらないで」[ゴールドアーム](2011/10/23 19:09)
[40] 真・第31話 「あたし……恭介が好き」[ゴールドアーム](2011/10/30 14:37)
[41] 真・第32話 「これが、あたしの、力」[ゴールドアーム](2011/11/06 22:49)
[42] 真・第33話 「その性質は飢餓」[ゴールドアーム](2011/11/28 00:24)
[43] 真・第34話 「ゆえにその攻撃は届かない」[ゴールドアーム](2011/11/28 00:25)
[44] 真・第35話 「「あきらめてなんてやるものか!」」[ゴールドアーム](2011/12/04 21:45)
[45] 裏・第35話 「全てを知るというのも、つらいものよね」[ゴールドアーム](2011/12/04 21:45)
[46] 真・第36話 「希望は、どこから生まれると思いますか?」[ゴールドアーム](2011/12/11 20:04)
[47] 真・第37話 「それはきっと、素敵な世界なのでしょうね」[ゴールドアーム](2011/12/18 23:54)
[48] 真・第38話 「悪いけど、その願いは通せないのよ」[ゴールドアーム](2011/12/18 23:55)
[49] 裏・第38話 「わたしを見ていてくれたんでしょ」[ゴールドアーム](2011/12/18 23:55)
[50] 真・第39話 「私も考える」[ゴールドアーム](2012/01/04 20:39)
[51] 裏・第39話 「僕たちに出来るのは、信じることだけですからね」[ゴールドアーム](2012/01/04 20:39)
[52] 真・第40話 「お願い、します」[ゴールドアーム](2012/01/06 00:13)
[53] 真・第41話 (……わかんないよ、ほむらちゃん)[ゴールドアーム](2012/01/07 01:48)
[54] 真・第42話 「契約しよう、キュゥべえ。私の祈りは――  new![ゴールドアーム](2012/01/07 01:30)
[55] 真・第43話 「これが、私の答えだよっ!」 +new![ゴールドアーム](2012/01/07 01:39)
[56] 神・第0話 おまけ的なエピローグ Last![ゴールドアーム](2012/01/07 01:48)
[57] 謎予告[ゴールドアーム](2014/07/18 17:39)
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[27882] 真・第34話 「ゆえにその攻撃は届かない」
Name: ゴールドアーム◆63deb57b ID:d6be9c18 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/28 00:25
 「キュゥべえ、マミさん達は今どこにっ!」
 
 マミ達の危機を知らされ、さやかは反射的にキュゥべえに問い返す。
 一方キュゥべえは慌てたそぶり一つ見せぬまま、その問いに答える。
 
 『滝の上救急病院。そこで今マミ達は戦っている。ただ相手がものすごく強くてやっかいなんだ』
 「細かい事は後っ! 滝の上救急病院だなっ」
 
 そんなさやかの言葉を聞いて、動いたのは仁美。
 戦いの舞台であった公園から表通りに向かうと、道に向かって手を振ると同時にまどか達に大声で呼びかけた。
 
 「車を止めます! 皆さんもこちらへ!」
 
 そう言われてさやか達は慌てて変身を解くと、仁美の元へと向かった。
 ちょうど4人が集まったところに、空車のタクシーが通りかかる。
 仁美はそれを止めると後ろにまどか達3人を乗せ、自分は助手席に乗り込んだ。
 
 「どうしました? 何か慌てて」
 
 中年の運転手が、息を切らせた女子学生4人という組み合わせを見て聞いてくる。
 仁美は息を整えると、こう言った。
 
 「すみません。お友達が大変なんです。滝の上救急病院までお願いします」
 
 ついでに財布から一万円札も取り出す。
 もっとも最後のそれは余計だったかもしれない。
 人の良さそうな風貌の運転手は、お友達が大変→病院の組み合わせから、何かを思いついたのだろう。
 
 「そりゃ大変だ。出来るだけ急いで行ってやる」
 
 そして車は、警察に見つかったらヤバそうな速度で走り出した。
 
 
 
 
 
 
 
 ほむらは、一瞬自分の意識が固まるのをどうにも出来なかった。
 このメンバーの中でほむらは一番戦闘経験を積んでいる。
 だが原則、それはそのほとんどが魔女の結界の中。数少ない例外も、キュゥべえを狩っていた事くらい。
 つまり、第三者に取り返しのつかない被害が出るという事は滅多になかったのだ。
 この間のシャルロッテ戦で恭介達をかばった事と、あのイレギュラー回で見滝原中学の生徒が襲われた時くらいである。
 中学の時は、まどか以外の生徒を心情的に切り捨てた。そこをまどかに指摘されて悲しい想いをしたりもした。
 だが、今回のこれは、似ていながら全く別物であった。
 完全な『不意打ち』になった。
 
 「おいっ、しっかりしろっ!」
 
 そこに飛び込む声。それによって何とかほむらは自分を取り戻した。
 杏子の声だった。
 
 「どうした、犠牲が出るくらい、よくある事だろっ!」
 
 非情なようだが、杏子は何度も見ている。魔女によって喰われる犠牲者の姿を。
 意外な事だが、ほむらは経験を積みすぎて、手際がよくなりすぎていた。
 そう。最初の頃はマミやまどかと共に戦い、ループの中1人で戦うようになったほむらは、その手際の良さと知識により、ほとんど犠牲者が出る前に魔女を倒せてしまっていた。
 対して杏子は、マミと決別した後はほとんど独力で魔女を狩っている。そしてグリーフシード確保のために小物を見逃したりしていたため、結果的に魔女に喰われる人の姿を何度も見ている。
 そう、ゆまの母親の時のように。
 
 「……ありがとう。不意に見たものだから」
 「しっかりしろよなっ、あたし達が油断すれば、ますます被害がでかくなるぞ」
 「そうね。でも……まずいわね。魔女の結界がほころびて、いつ外から人が入ってくるか判らないわ」
 「あたしはともかく、学校行ってるあんたやマミはまずいよなあ」
 
 日常を持つものと、捨てたもの。その辺からも意識の差が出たのかもしれない。
 だが、そんな思いは、もはや意味を無くしかけていた。
 
 「せんぱいっ!」
 
 それを告げるのは、後輩の叫び。
 
 「結界が、崩壊します!」
 
 
 
 後に、『滝の上病院の怪談』と言われる事になる事変の、これが始まりだった。
 
 
 
 
 
 
 
 ほむらの脳裏に蘇るのは、あの忌まわしきイレギュラーの時。
 あの時は魔女化しかかっていたキリカの結界に見滝原中学が取り込まれ、それに伴って出現した使い魔に襲われた生徒が多数犠牲になった。
 しかし全ては魔女の結界内の出来事だったため、世に出る時には謎の失踪事件になってしまった。
 対して今回は、結界の崩壊による外部との接続である。
 この時点でほむら達は気がついていなかったが、元々胃袋の魔女の結界は町全体を覆うほどであり、それが喰われる事によって部分的に崩壊して現実と繋がっていた。
 そのため、中途半端に異界と現実が入り交じった病院付近は、それでも広義の現実からは切り離されていたのである。そのため使い魔を見た人が警察に通報しようとしても、電話は無常にも外部には繋がらなかった。
 但し、学校の時とは違い、傷ついた人の死骸は現実に残る。そこは魔女の結界内ではないからだ。
 こういった要素がなにをもたらすかは、今戦っているほむらには想像するゆとりすらない。
 それが判るのは、ずいぶん後の事になる。
 
 
 
 「ほんっとに、やっかいねっ」
 
 マミはまさに『乱舞』という言葉がふさわしい速度で銃の召喚と発射を繰り返していた。
 ばらまかれる使い魔は、結界どころか、その隙間から見える現実世界の物質まで喰らいはじめた。そのためマミは、結界の穴から出ようとする使い魔を優先せざるを得なくなってきた。
 とにかく、手数が足りない。魔法少女の中では基本的に手数が多い方であるマミですらこれなのである。
 前線を支えているほむらと杏子はさらに苦しい戦いを続ける事になった。
 
 
 
 「くそっ、本気でキリがねぇ」
 
 槍一本で戦っている杏子はなおさらだ。多数召喚してぶちまける戦法も取れなくはないが、それはこういう細かい敵に対するのには向かない。
 基本的に杏子のスタイルは大物狙いなのだ。細かくて大量の敵を相手にするのは苦手である。
 使い魔を切り払い、串刺しにし、合間を見て本体の口以外に攻撃をする。
 しかしさっぱりそれが効いている様子がない。
 完全にじり貧だった。
 
 「完全に手が足りねえ。こういうのを相手にするには、ゲーム的な意味での『魔法使い』がいないときついぜ」
 「面制圧が出来る攻撃方法がないと本気できりがないわね。私の爆弾も威力重視で作ったのがほとんどで、広範囲に攻撃するタイプは手持ちがないし」
 「ちょ、爆弾作ったのかよ」
 「私は魔法的な攻撃手段を持ってないから」
 
 愚痴をこぼしながらも、とにかく杏子とほむらは使い魔を掃除し、本体にも攻撃する。
 たまに喰らうダメージは、後に控えているゆまが即座に治してくれる。
 ゆま自身も、近寄ってくる使い魔はねこモールで粉砕している。その様子に危なげなところは全くない。
 
 「おいキュゥべえ!」
 
 その熾烈な戦いの中、杏子は問う。
 
 「昔出たっていう時は、どうやってこいつを倒したんだよ」
 『一人の少女が願ったんだ。あの子に満足できる食事を上げてくださいって。そうしたら満たされた魔女は動きが止まって簡単に倒せたよ。
 もっとも願いを掛けた魔法少女はすぐに魔女化しちゃったけどね。まあこれに比べれば弱かったから、その場にいた他の魔法少女に即退治されたけど』
 「役にたたね~っ!」
 
 
 
 戦いは完全に千日手の様相を示しだし、そして崩壊した結界の外へと向かって、使い魔達は現実を侵略し出す。
 不幸中の幸いは、現実にはみ出した使い魔がまず建物をかじっている事だった。襲われた人は皆無ではないが、この世のものとも思えないものを見た人たちは、まず逃げ出す事を選択したのだ。
 現実と異界の境目が曖昧になる、そんなところに、仁美達は到着した。
 
 
 
 
 
 
 
 「ん? なんか病院の方が騒がしいな……って、ありゃなんじゃあっ!」
 角一つ曲がれば病院というところで、運転手は思わず急ブレーキを踏んでしまった。
 病院が、崩壊し掛かっていた。
 あちこちが崩れ、しかも中から人がわらわらと出てくる。
 その様子を確認した仁美は素早くいった。
 
 「こちらでいいですわ。急ぎますから」
 「あ、ああ……」
 
 運転手は放心しながらも差し出されたお札を受け取り、きちんと釣り銭を出す。
 仲間達が駆け出していく中、きっちりおつりを受け取って、仁美もそれに続いた。
 流れる人混みの中を、4人は逆送していく。目的地を間違える心配はなかった。
 病院の敷地内に入った時点で、皆の目には、それがしっかり見えていたのだから。
 
 ――巨大なバケモノ……魔女と、その周辺で戦う少女達の姿が。
 
 「ちょっ、なんで見えてんのよ」
 「見えるものは仕方ない」
 
 驚くさやかに、ためらわないキリカ。
 
 「待機している方が危ない。ついてきて、恩人」
 
 後に控えるまどかと仁美にもそう声を掛け、キリカは迷わず魔女へと向かって突き進む。
 さやかも慌てて後を追い、一歩遅れてまどかと仁美も魔女の元へと向かう。
 やがてがらんとした中に、倒れている人の姿が目に入る。
 死んでいるのは一目瞭然だ。何しろ体が半分無い。
 以前ちえみが目の前で半分喰われた、あの時よりさらに生々しい。
 4人とも吐き気をこらえるので精一杯であった。
 
 「さ、さすがにこれはきつい」
 「キツイですむ方がすごいと思うわよ」
 
 そう言いつつ再び変身するキリカとさやか。
 皆、視界の中で建物だろうとなんであろうと、転がりながら触れるものをむさぼり喰らう、肌色の筒みたいなバケモノに気がついてしまったから。
 
 「うぉぉぉぉぉっ!」
 「なぁろろぉっ!」
 
 自分でもなにを行っているのか判らない混乱した叫びを上げ、この見ていたくもない使い魔達を二人は切り刻む。
 そのさなか、使い魔を突き刺した刀が喰われはじめ、慌てて手放して再召喚した剣で切り飛ばしたのはさやかだけの秘密だ。バレバレだが。
 
 「マミさん達、こんなのと戦ってんのかよ……」
 「大丈夫かな、みんな……」
 
 さやかのつぶやきに、まどかも乗る。
 
 「奥にいってみよう。後まどか、見るに堪えないからって、契約しようとは思わないでよ」
 「う、うん……」
 
 まどかも理性では判っている。でも、わき上がる悔しさは抑えるのが大変だ。
 自分は戦えるのに。その力があると判っているのに。
 それをする事が許されない。それはとっても悔しくて。
 まどかはぎゅっと手を握りしめる。痛みを感じないほどに、強く。
 と、その手をそっと包む人がいた。
 
 「お気持ちは判りますわ」
 
 その人物……仁美は言う。
 
 「でも、そもそも戦う事すら出来ない私が、どれほど悔しいか判りますか? 恭介君を助ける事を、さやかさんに委ねるしかなかった、私の悔しさが判りますか?」
 「仁美ちゃん……」
 
 それが仁美の本心か、それとも言いつくろっただけの言葉か、それはまどかにはわからない。でも確実なのは、そんな気持ちを押し殺して、自分を心配してくれる仁美の優しさ。
 
 「行きましょう。そして、見届けましょう。この様子からすると、たぶんここは、戦地のように悲惨な事になると思います。でも、それを見届けるのが、事情を知ってしまった私たちに出来る事ではないでしょうか」
 「うん……」
 
 人知れず戦う定めを背負う魔法少女。自分たちはそんな彼女たちを支える存在なのだ。
 仁美がそう言っているのだと、まどかには思えた。
 
 
 
 
 
 
 
 「やべっ、また結界が崩れたっ!」
 
 杏子が叫ぶ。崩壊したものの、中途半端に残っている結界が意外と厄介者であった。
 大半の人は逃げているようだったが、逃げ遅れた人、取り残された人が思ったより病院内にはいた。
 元々が救急病院である。動かせない重篤の人物も多いのだ。
 そして使い魔達は、人を人とも思わずに、ただ喰らう。
 人を狙わないだけましというものだ。
 もう杏子もほむらも、人に姿を見られるのを気にする事をやめていた。
 声を掛けるゆとりすら無い。とにかく人に向かいそうな使い魔を、片端からたたきのめすのみ。
 マミも、ゆまも同様であった。ちえみすら、書を鈍器代わりにして使い魔を叩きつぶす羽目に陥っている。
 もっともちえみは自衛で精一杯だが。
 
 そして、崩れた結界の向こうから、大穴の空いた壁と寝たきりの病人の姿が見える。
 使い魔の進路は、まずい事に病人へ一直線だ。しかも杏子が後から攻撃すると、どうしても余波が病人を直撃する。回り込んでいると間に合わない。
 
 (わりいっ)
 
 杏子はあっさりとその病人を切り捨てた。少なくとも自分には手が出せない。手を出したら悪化する。
 
 (恨んでくれてもいいからよ。ふがいないあたしを)
 
 内心そう思いつつ、周辺を警戒する。と、そこに何かが引っ掛かった。
 誰かがこちらへものすごい速度で向かってくる。
 
 「あれは……」
 「誰かがこちらへ向かっている?」
 
 少し遅れてほむらとマミも気がつく。
 そして命を落とし掛けた病人は、青い疾風によってその運命を書き換えられた。
 
 「やらせはしないよっ」
 
 そしてさらにその後から迫る黒い風。
 
 「はじめまして、先輩方。助っ人にまいりました」
 「さやか……それにキリカ、あなたまで」
 
 そう呟くほむらに、さやかが言う。
 
 「話は後。あれが敵なんでしょ?」
 「ええ、名前はトウテツ。弱点はないけど、とにかく何でも食べる上、無限に近いくらい使い魔を放ってくるわ」
 「ならば手はひとつ、削りきる!」
 
 ほむらの言を聞いて、キリカが動いた。ずん、というプレッシャーが、魔女を中心にして展開される。
 
 「ありがてえっ」
 
 相手の動きが鈍った事に気がついた杏子が叫ぶ。
 相対的に上がった速度を生かし、使い魔達を次々に殲滅していく。
 均衡が、崩れはじめた。
 
 「ほむほむっ、まどか達も来てる。そっちをちょっと見てて」
 
 前に出つつ、さやかがほむらに向かってそう言葉を投げかける。
 
 「判ったわ。あと私はほむら。ほむほむじゃないわ」
 
 ほむらも訂正しつつ、一旦下がる。少しすると、まどかと仁美が物陰から様子をうかがっていた。
 ほむらが使い魔を蹴散らしつつそちらに向かうと、ちえみも彼女たちに気がついたのか合流してきた。
 
 「まどか、仁美、ここは危ないわ」
 「まあ今更ですけど」
 
 二人の言葉に、何か言いたげなまどかと、わかっているという感じの仁美。
 もうそれだけで、避難するという頭はないとほむらは悟ってしまった。
 
 「なら、むしろある程度開けているところの方が安全よ。あの使い魔は転がるように動いて触ったものを食い尽くす。壁でもなんでも抜いてくるから、軌跡が見える場所の方が安全」
 「うん、わかった、ほむらちゃん」
 
 まどかも素直にほむらの言葉に従う。
 そしてほむらはそんなまどかを背に、再び魔女に向き直る。
 ちょうどその時だった。
 
 
 
 
 
 
 さやかとキリカの援軍を受けて、杏子とマミは均衡が崩れたのをはっきりと感じた。
 特にキリカの速度低下が大きかった。これによって殲滅速度が相手の増殖速度を上回り、手数か増えた事もあって一気に使い魔を駆逐できたのだ。
 もちろん相手も相変わらず本体への攻撃に反応して使い魔は放ってくる。だが、速度低下の恩恵もあって、使い魔を迎撃しつつ本体に一撃を与える事が可能なレベルになった。
 
 「ったく、手間取らせやがって……」
 「キリカさん。でしたね。あなたのおかげで何とかなりそうだわ」
 「礼などいい。今はあいつを何とかしないと」
 
 キリカは全力で速度低下を維持しているため攻撃に出られない。かつてと違って、今のキリカは新人、速度低下と攻撃のバランスがまだ取れないのだ。
 
 ここまで来れば、時間は掛かっても本体を削りきれる。
 そう誰もが思った瞬間魔女の動きが止まった。
 
 「……?」
 
 それまで絶え間なく何かを喰らい続けてていた魔女が、初めてその食事を止めた。
 そして次の瞬間。
 
 
 
 魔女が爆発した。
 
 
 
 その場にいた魔法少女は、誰しもそう思ってしまった。そうとしか見えなかったからだ。
 動きが止まったかと思うと、突然炸裂したように魔女がはじけたのだから。
 だが、魔女は自爆した訳でも喰らう事を止めたのでもなかった。
 いち早くそれに気がついたのは、やはりちえみであった。
 
 「みんな、気をつけて! 魔女は、『使い魔を射出しただけ』です!」
 
 そう、魔女は爆発したのではなかった。
 体表にある口、その全てが使い魔と化して、それが一斉に放出されたのだった。
 むろん本体にはまた口が出来ていて、全く変わりはない。
 だが、その周辺にいた魔法少女からすればたまったものではなかった。
 
 「また振り出しかよっ!」
 「文句はあとよっ」
 「ゴキブリよりしつこい~ッ」
 「私が抑える。今の内に少しでもっ」
 「このっ、つぶれちゃえっ」
 
 杏子が、マミが、さやかが、キリカが、ゆまが、慌てて飛び散った使い魔を殲滅に走る。
 放っておいたらまた被害が広がるばかりである。
 まどか達の側にいたほむらも、もちろんすかさず応戦した。
 異空間から取り出される手榴弾を景気よくばらまいて使い魔を蹂躙する。
 基本数が多いのと貪欲なだけで、使い魔自体はこれで倒せるレベルである。
 それでもかなりの数がほむらの方へ……言い換えればまどかと仁美の方へ向かってくる。
 位置的にここでは防ぎきれない、そう判断したほむらは、まどかと仁美の手を取って時間停止を使った。
 
 「こっちへ」
 「え……わっ、まわりが止まってる」
 「これが、ほむらさんの力なのですね」
 
 位置取りを変えたところで停止解除、すかさず追撃をして使い魔を潰す。
 だがまた使い魔が迫る。迎撃しつつ、もう一度位置を変えようとした時だった。
 
 「だめっ、ほむらちゃん、私の後っ!」
 
 何故かまどかが後ろを向いて叫んでいる。そちらを見ると、ほころびた結界に穴が空いており、その後ろには新生児室……この非常事態の中、懸命に赤子の命を守ろうとまだ居残っている医師と看護師の姿が見えた。
 避難しようにも、相手が相手だけにすぐにとは行かなかったようなのだ。
 幸いギリギリ結界も残っているし、物理的な壁もあるのでもうしばらくは平気であろう……目の前に迫る、大量の使い魔がいなければ。
 
 「……よりにもよって」
 
 ほむらは素早く判断する。壁のように腰を据えても相手の量に押しつぶされる。まどか達は守れても、取りこぼした分であの赤ん坊達は間違いなく全滅だ。
 ならば機動戦であの流れを削ぐ。
 残り少ないグリーフシードを使ってソウルジェムを浄化し、時間停止も併用して、ほむらは迫る使い魔の津波を迎え撃つ。
 援護は期待できない。周りを見渡せは他の仲間達も、あふれ出ようとする使い魔の津波を止めるのが精一杯だ。
 自分を含め、バラバラに散って本体のまわりを取り囲み、押し込めているため、とうてい援護が出来る状況ではないのた。
 ほむらは撃ち、投げ、走り、とにかく使い魔を次々と潰していく。シューティングゲームのように、群がる敵の波を捌いていく。
 だが、ほむらにしても信じられない、うかつなミスが彼女の手を止めてしまった。
 
 
 
 ほむらには魔法的な武器がない。強いて言えば、時を止める盾がその武器だ。
 そのためほむらは爆弾を調合し、武器を盗んで攻撃手段にした。
 そのストックは、かなりの量になる。
 だが、ほむらは忘れていた。
 魔獣の世界から、まどかの世界から今のこの地に帰還した際、ストックしていた多量の武器は、全て失われていた事に。
 もちろん、こまめに補充はしていた。だが、めまぐるしく展開の変わる後半戦において、それは充分とは言えなかった。
 ほむらが撃ち尽くした機関銃の弾倉を取り替えようとした時、それが出てこない事に気がついたのだ。
 
 (まさかっ)
 
 時を止め、代わりの武器を調べる。そこで気がついた。
 残っているのは、拳銃のような威力不足の武器と、爆弾のような大威力破壊武器だけ。拳銃はともかく、結界が緩んでいるこの場で大威力の方を使ったら、間違いなくとんでもない被害が出る。結界が無事なら気にせず撃てるこの手の武器だが、この状況下では使えない。下手をすればまどか達も巻き込んでしまう。
 だからこそ、今までほむらは軽火器を使っていたのだから。
 やむを得ず拳銃を取り出して攻撃するものの、やはり威力と手数が足りない。
 機動力でも追いつかなくなり、まどかと背後の赤子達を守るポジションからほとんど動けなくなる。
 一手間違えたら崩壊する、そんなギリギリの状況だった。
 そんな必死な状況が、見て取れたのだろうか。
 
 「ほむらちゃ
 「黙って」
 
 まどかの励ましの言葉すら、ほむらは差し止める。本当に余裕がないのだ。
 まどかもほむらの様子からそれを理解し、じっと耐える。
 武器を撃ち、時間を止め、補給をし、また攻撃。
 威力が足りないため、あるいは過剰なため、わずかなミスで場が崩壊する。
 ほむらは機械になりきって戦闘を『処理』し続けた。
 そしてギリギリだが何とか津波をしのぎきったその瞬間。
 
 
 
 再び魔女が爆発した。
 
 
 
 
 
 
 
 ほむらはためらうことなく過剰威力の爆弾も使用した。
 だが使い魔の津波は止まらない。
 どうあがいてもかなりの使い魔の群れがここに押し寄せる。
 ほむらがそう思ってまどかと仁美に手を伸ばした時、まどかが言った。
 
 「だめっ! ここから逃げたら、あの子達がっ!」
 
 
 
 それはあの時の言葉。
 イレギュラーの世界、まどかを襲う使い魔。
 助けられたまどかが言う。
 
 ――なんで、私だけなの
 
 ――みんなを見捨てて逃げるなら
 
 ――私助からない方がよかった
 
 その時は納得してくれた。
 自分だって万能ではない。助けられる人しか助けられない。
 今なら、まどかと仁美は助けられるだろう。時間停止で離脱すれば。
 
 でも、それでいいのか。
 あの時まどかが許してくれたのだって、それは同情。
 彼女は本当は、みんなを助ける事を望んでいた。
 ほむらに頼る言葉になったのは、自分に力がないと思っていたから。
 でも今のまどかは知っている。
 望めば自分には力が手に入る事を。
 そしてまどかは、自分のためでないなら、それをためらいはしない。
 もしここでまどかの意を枉げれば、まどかの天秤は、間違いなくそちらに傾く。
 それは駄目だ。ここであの子達を見捨てたら、まどかは決断してしまう。
 
 ならば止めないと。あの津波のような使い魔の群れを。
 自分たちが守るこの場所から、一歩たりとも先に進めてはならない。
 だが現実は非情。ほむらの目測では、後30秒で、ここは使い魔で埋まる。
 忌々しい。無数の悪態が、ほむらの脳裏をよぎる。
 
 (あいつらを消し去れたら……)
 (あいつらが反転してくれたら……)
 (あいつらが永遠にここにたどり着けなければ……!)
 
 
 
 その瞬間、何かが繋がった。
 
 あいつらがここにたどりつけなければ
 アキレスは亀に追いつけない。
 あれって、時間を細分化しているだけなんですよね。
 ああ、あと10秒であれはここにたどり着く。
 では、10秒が、経たなければ?
 
 ――あなたは自分の魔力を帯びたものを過去に戻す事が出来る。それがあなたの固有魔法――
 
 ――時を戻し、10秒目が来ないようにしたら――
 
 「アキレスは亀に追いつけない。飛んでいる矢は静止している。ゆえにその攻撃は届かない……」
 
 そして言霊は紡がれる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「時の障壁ゼノンズ・パラドクス
 
 
 
 
 
 
 
 その言葉と同時に、ほむらの揺るぎない意思を受け、左手に装着されていた武器は、その真の力を明らかにする。
 歯車がまわり、ギミックが展開され、円形の小型盾は、その姿を一回り大きな正六角形に変える。そして変形した盾は紫色をしたほむらの魔力で満たされ、それが天に掲げられると同時に、自分と同じ大きさ、同じ形の魔力を複写しながら展開していく。
 そこに出現したのは、正六角形をした魔力のタイルで組み上げられた光の壁。
 そして殺到した使い魔は、そのことごとくが光の壁に接触すると同時に静止してしまった。
 それどころか、あらゆるものを食い尽くすはずの使い魔が、その光の壁を食べる事すら出来ない。
 
 そして、光の壁は、そのまま使い魔を包み込む。
 ほむらはその壁に向かって、威力がありすぎて使えなかった爆弾を投げた。
 爆弾は何も無いかのように壁を通過する。
 そしてそれが炸裂し、使い魔達を鏖殺しても、壁の外は何一つ揺らぐ事はなかった。
 
 「ほむらちゃん、今の……」
 
 驚いていたまどかに声を掛けられ。ほむらも余裕を取り戻す。
 
 「判ったの。私の力の、そして、『武器』の使い方が。そうよね、悔しいけど、あいつの言ったとおりだった。自分の武器は何か。自分はあの時、なにを願ったのか、そう考えれば自明なのに。私って、ほんと、馬鹿だったのね」
 
 
 
 
 
 
 
 ほむらの武器は盾。ほむらの祈りはやり直す事。やり直して、まどかを『守る事』。
 それゆえに発現したほむらの力は、『速度』の概念を持つあらゆる攻撃を静止させる絶対障壁。
 精神攻撃や空間転移攻撃のような0時間で0距離を攻撃するもの以外の、あらゆる攻撃を無効化する無敵の盾。
 それがほむらの固有必殺技、『時の障壁(ゼノンズ・パラドクス)』
 今ここに、攻撃手段を持たなかった魔法少女は、自らの真の力を得た。
 
 暁美ほむら、彼女の持ちたる資質は、フォワードでもリベロでもなく、守り抜くもの、ゴールキーパーなのだから。


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