*指摘のあった矛盾に思われることを補完してみた。矛盾はネタの元。*前話の判りにくいところは暇が出来たら見直すかも。但し基本的な設定は直しません。 そこは時と理を越えた魔女の結界。図書の魔女が、永遠の読書を楽しむ世界。 そこに、来客があった。 「いらっしゃい」 絶対静寂の理を破って、魔女は肉声で来客を迎える。 来客は少女。その姿は魔女の宿敵。 桃色の髪と無敵の弓を持つ、世界の理を覆した女神。 「ひさしぶり、なのかな。ちえみちゃん」 昇華して世界に溶けたはずの、鹿目まどかだった。 「行っちゃったんだね、ほむらちゃん」 魔女と女神は、並んで一冊の本を見ている。それは一見、漫画のように見える。 ただ、普通と違うのは、彼らが開いた時点では、その本は白紙であった。なのに彼らの目の前で、それは漫画と化していくのだ。 「私は小説の方が好きなのだがな」 「ごめんね。私、小説だと追いつかないから」 本はものすごい勢いでめくれ、漫画はあっという間にページを埋め尽くしていく。 こんなペースで本をめくっていたら、小説ではとうてい内容を理解出来ないだろう。 「でもこんな形とはいえ、またほむらちゃんと会えるなんて思わなかった」 「まあ私たちは見ているだけしかできないし、ほむらも気づくのはまだ先だろう。自分がどういう存在になっているのかをきちんと認識するのは」 図書の魔女は嗤う。 「タイム・パラドックス。いわゆる親殺しのパラドックスだ。鹿目まどかの願いは、あらゆる時間も空間も飛び越える、世界の絶対改変。だが、それが成し遂げられるためには、暁美ほむらによる時間の繰り返しが必然となる。まどかの願いが円環の理に至る蓄積を生み出したのが、ほむらが集めた因果によるものである以上、な」 「私は私の願いで全ての魔女、魔法少女の因縁を断ち切った。でも、ほむらちゃんだけがある意味例外になっちゃってた」 「ほむらもまどかも気がついていなかったからな。互いの記憶を残す奇跡。それが改変された『世界』に仕組まれたものだとは」 まどかの願いが成立する大前提にほむらがいるため、まどかの『願い』には、ほむらを真の意味で書き換えることは出来なかった。ほむらの存在を改変してしまうと、そこに親殺しのパラドックスが生じてしまう。そしてパラドックスの存在は願いの破綻をきたす。 この大前提をくぐり抜けるための改変が、自覚無き世界の複写であった。 まどかの『願い』は、世界を完全複写し、その上で理の改変を行う。改変の後、世界は切り離され、別個の存在となる。切り離された元の世界、『旧世界』は、世界の理であるまどかにすら認識することが出来ない。それはお互いに『存在しない』事になる。 これならば願いの力をもたらした世界と願いの叶った世界が共存するため、パラドックスは起きない。 例外となるのは、 『全てを知ることが出来る』、旧世界の魔女グリムマギー。 双方に所属する特異点、暁美ほむら。 女神のまどかは、旧世界の記憶こそ残るものの、改変の結果ゆえ旧世界を直接認識することは絶対に出来ない。それをすることは、すなわち世界の理の破綻を意味する。 そして改変された新世界へいわば移住していたほむらは、新世界での死と共に前の世界にはじき出されてしまった。 魔法少女の業は深い。強い願いは、まどかのように世界の理すらねじ伏せる。そしてほむらのそれは、まどかのそれに劣りはしない。まどかと並んで笑い合える可能性のためなら、女神の力さえ打ち砕く。 まどかが世界を救うために己を消してしまった。その小さな綻びが、特異点であるほむらを新世界に固定化することを妨げた。理性は納得していても、感情を納得させるのは難しい。まどかの存在をほむらがわずかでも望む限り、女神となったまどかでもほむらは止められない。その望みは、等価の思いだから。 それだけではない。 ほむらはもう一つの理によって、既に前の世界にくくられている。元々ほむらは新世界においても唯一、まどかの理が及んでいない存在。ほむら自身がそのことを認識した上で新世界への残留を望まねば、まどかを持ってしてもほむらを理に取り込むとは出来ない。 ほむらと旧世界を繋ぐ理。 それは旧世界においてただ二つ存在する、世界の理を越えた魔女。 良くも悪くも、全力を発揮すると神となってしまう鹿目まどか=クリームヒルトと、 時の流れを歪めたが故に、時を越えて存在する。 結界を持たずに、どこからともなく出現する。 暁美ほむらの絶望。幾たび繰り返しても叶わない夢。時を戻るたびに『無かったこと』になる『失敗・愚昧・無策』がもたらした結果。 彼女が未来を捨て、過去に戻るたび、切り捨てた希望(未来)は絶望(無力)となって世界に蓄積される。 そんな彼女の心が折れ、己の愚劣と無力さに呑まれた時。 無力を性質とする魔女は、うち捨てた未来の可能性、言い換えれば希望を、全て絶望に変えて切り離された時間の中にその実体を表す。 それが通称『ワルプルギスの夜』と呼ばれるもの。 舞台装置の魔女。暁美ほむら=フェウラ・アインナルである。 「私の願いの隙間がほむらちゃんを元の世界にはじき出した時、それを知ったほむらちゃんが絶望して、ほむらちゃんは魔女になる。それが本来の流れなんだよね?」 「ええ。それが『私が介入しない』時の流れ。まどかという女神を生み出すために存在する、因果の蓄積装置。ほむらの願いと絶望が生み出す、永遠の舞台装置。それがまどかの昇華と対になる、旧世界における裏面の円環の理よ。でもそれは私のあり方にぶつかる。この私、図書の魔女にして全知の魔女、そして世界最後の魔女たるグリムマギーのあり方と。だからこそ、私はその時より結界を開ける事が出来るようになる」 まどかは新世界の女神、魔女は旧世界の全知。どちらも立場は違えど、『全てを知りうるもの』 「ちえみちゃんも、ようやく次からは参戦するんだよね」 「ええ、視野を広げ、まどかにこだわる態度を捨てた時、ほむらは初めて全てを知る魔女になる前の私を見つけ出す。まどかに続き、己の因縁をほむらが昇華するために欠かせない存在となる少女、添田ちえみを」 「どのくらい掛かるのかなあ」 そう呟く女神に、魔女は語る。女神はその特性上旧世界を見ることが出来ない。いかなる世界にも属さない、孤高にして不干渉の魔女たる図書の魔女の図書館で、再構成された情報を見るのがぎりぎりである。 「成功する道があることは確定している。彼女がそれを昇華した時、私の知識が再構成されることも。だがまだそれは『確定』していない。全ては未だ事象の確率の海の中でたゆたっているに過ぎない。だがそれが確定するまでの間、私は今のように懐かしいちえみの心を取り戻せる」 「楽しみだね」 「所詮はうたたかの錯覚だがな」 ほむらの勝利は、また一つ世界の複写を呼ぶことになる。その時ほむらは、新たな存在としてこの図書館でまどか等と再会することになる。 それは確定するはずの未来。より正確には、可能性が存在していることは、必ず実現するという、善意によるマーフィーの法則。 最悪が起こりうるのと同様、成功率絶対ゼロを証明できない事象は、必ず実現するのだ。 それが奇跡。それが、人間。インキュベーターが渇望した、エントロピーを覆すものである。 少女達のお茶会は、意外と長い間続いた。