あまり長くありませんが、本日もアップさせていただきます。少しでも続きを待っててくださる方がいるようなのでがんばってみます。****************************************衛宮士郎は、目の前の光景に困惑していた。「お金は、プロデューサーさんに借りてでも必ず支払います。もう少し待ってください!」彼の目の前では年の頃13、14歳、明るい茶色の髪をした短めのツインテールの可愛らしい少女が、深々と頭を下げて彼に懇願している。彼には初対面の少女に、このようなことをさせる趣味も理由もない。というか、ぶっちゃけると、少女に頭を下げさせている大男、というこの構図は彼の体面上非常によろしくない。実際、階下の住人が通るたび、この二人の様子に何事かと好奇の目を向けてくる。『どうしてこうなった・・・・。』天を仰ぎたい気持ちをこらえながら、ここ数日の記憶を手繰り寄せる。事は、数日前に遡る。彼は遠坂凛から、とある少女 ―アイドルらしいが― の警護と事件の解決を依頼され、承諾した。「依頼の内容は、さっき話したとおり、警告というか犯罪予告に対する対処、つまり対象人物の警護、出来れば解決ということよ。細かい内容については、プロダクションの社長さんが引き受けてくれる人に直接話したいそうよ。だから詳しい事はそこで聞いてくれる?」「警護対象の事とか状況とかもか?」士郎が聞き返す。事前に何も調べられないのは、何ともやりにくい。本来なら断っても良いくらいに乏しい事前情報だが、今回に限ってはそれは出来ない。「せめてプロダクションの名前くらい分からないのか?」多分聞いても知らないだろうと思いつつ彼女に確認する。「えーっと、なな、ろく、ご?ああ、「なむこ」って読むんだ、765プロダクションですって。変わった名前ね。」士郎の脳裏に急速に記憶がよみがえる。『ええ、「アイドル」です。まだ駆け出しですが・・・。すぐそこにプロダクションがあるんです。765プロダクションて変な名前なんですけど。・・・』公園でであった少女の事が気に掛かる。「まさかな・・・。」士郎は、なんとなく感じる嫌な予感を意識に上らないようにねじ伏せる。いくらなんでも偶然だろう。「この件は、雷画さんに連絡とってから先方と調整するから、少し待って。又連絡するわ。」そして、改めて彼女から連絡のあった当日、彼は約束の時間、午後3時に合せて765プロダクションへ向かった。外は、冬晴れで12月も中盤に差し掛かった午後としては暖かであった。今日は、会社の事務所を訪れるということで、上着こそはいつも通り黒のコートを羽織っていたが、その下に身につけていたのは、いつものワークパンツや長袖Tシャツではなく、黒のスーツにダークなカラーのワイシャツに黒のネクタイという、彼らしいといえば彼らしい服装であった。地下鉄を降り、エスカレーターを使わずに階段で地上へ昇る。数日前、夜に通った大通りを今日は昼間に歩く。昼の大通りは、土曜日の夜であったあの時と違って大勢のサラリーマンが行きかっている。信号を渡り、目当ての雑居ビルを見つけ出す。「これは、また・・・。」思わず、感想がこぼれる。一階は居酒屋だろうか「たるき亭」と書いた看板が掲げられている。ただ、時間が早いせいだろう、準備中の札が、入口の扉にかかっている。二階は、カラオケスタジオの看板が掛かっている。そして三階、表通りに面したガラス面に「765」と大きくガムテープを切り張りして描かれている。これが探していたプロダクションの事務所なのだろう。確かに事務所の場所を示す方法としては、安上がりではあるが夢を売る仕事としては、いかがなものだろうか。そのような感想を抱きつつ階段を上へ昇る。先日出会った如月千早はこのような場所でアイドルを目指しているということなのか?大丈夫だろうかと、思わず要らぬ心配をしてしまう。そして三階にたどり着いた時、一人の少女が事務所の玄関ドアを丁寧に磨いている姿を見つける。士郎が声をかける。「仕事中に済まないのだが。」「はい! なんでしょう! ひっ!」「ぐりん」と少女が振り向き元気にあいさつを返す・・・が、少女は持っていた雑巾を取り落とし蛇に睨まれた蛙のようにその場に硬直する。この反応は、士郎の姿を見てのことに間違いないだろう、彼は地味に傷ついた。だが、とりあえずコミュニケーションを取らねばならない。「驚かして済まない。私は・・・」硬直していた少女が、突如直立不動し、直後に頭を深々と下げる。「お金は、プロデューサーさんに借りてでも必ず支払います。もう少し待ってください!」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「さ、察するに君は、私を別の誰かと勘違いしているようだが・・・。」よくわからないが、誤解を解こうと士郎がおずおずと話しかける。「給食費を取り立てにきたのでは無いのですか?」「は・・・・?今何と?」「で、ですから、給食費の取り立てに来たヤクザさんでは無いのですか?」「い、いや私はそういう理由できたわけではなくてだな、」「違うのですか!」「もちろんだ!給食費を取りに来るヤクザがいたら、私がぜひ会いたい!と言うかむしろ、来たらその心意気に免じて私が払ってやる!」先程の少女の反応に割と傷ついたせいだろう、普段の彼らしからぬ姿で力説する。「ヤクザさんが給食費払ってくれるのですか♪ ありがとうございます♪」「まて!都合のいいセリフだけを抜き出すんじゃない!」女性には良くあることだ、と、彼は冬木の虎、ロリブルマ、赤や金ロールの悪魔など、自らが駆け抜けた幾多の戦場の猛者を振りかえる。くっ、あいつらは都合のいいとこを抜き出して覚えていて『あの時約束したじゃない。』とか言うんだよな。こんな可愛い顔をしていても、やはりこの子も女性ということか・・・。士郎は再度、女性の恐ろしさを認識した。しかし何か大事な事を言い忘れているな、と考えをまとめようとしていると、少女が、はっとした表情になり、青い顔して事務所に駆け込んでいくのに気付く。士郎も釣られて入って行くと、少女は中で緑の服装をした事務員らしき女性に腕をブンブン振りながら何かを話している。士郎が部屋に入って来たことに気づいて、事務員らしき女性がギョッとした表情の顔を彼に向ける。***************************************************ここはネオン街のホテルの一室。私はベッドで客がシャワーから上がるのを待っていた。もうすぐ私は、娼婦として初めての客を取らなければならない・・・。なぜこんな事に・・・。これまでの幸せだった日々を思い出すと悲しさに涙がこみ上げてくる。かつて私は、アイドルとして紅白にまで出場した。引退後は、765プロダクションで事務員としてそれなりに満ち足りた生活を送っていたはずだった。それが12月のある日を境に一転した。一人のヤクザが765プロダクションを訪れたのだ。身長190センチ近い大男で白髪のそのヤクザは、社長に巨額の借金の返済を迫った。仕方無く社長は、プロダクションの女性をカタに返済の延期をヤクザに認めさせたのだった。そして、そのせいで私は今から見ず知らずの男性に、わずかばかりのお金と引き換えに抱かれ・・・・。*******************************************************「妄想中済まない、私の話も聞いてほしいのだが。」士郎は、まるで感情の籠らない目で事務員らしき女性に話しかける。「・・・・えっ?あ、あなたっ、今、初対面の私に妄想中とか言いましたねっ。ど、どうして私が妄想したとわかるんですかっ!ニュータイプですかっ!」話しかけられた女性は、大いに取り乱し士郎に突っかかる。「うー、小鳥さん、妄想が口から駄々漏れですう。」少女が、さも恥ずかしい物を見聞きしてしまったような表情で、女性に事実を告げる。「ええっ?はっ!しまった・・・。」「小鳥さん」と呼ばれた女性が、へなへなと床にへたり込むのを士郎は、ただ呆然と見ていた。*************************************765プロ編です一応ギャグパート対応で書いてみました。これからは、掲載ペースが落ちます見捨てず見に来ていただければ嬉しいです。