引き続きアップしてみました。読んでいただければ幸いです。ご指摘いただいたので、既に投稿した分について改行いたしました。多少でも読みやすくなっていればいいのですが。千早~ タイナカサチのimitation 歌ってくれ~*************************************衛宮士郎はその朝、日本滞在時の定宿である都内のビジネスホテルで、いつものように朝5時過ぎに目を覚ました。簡単に身支度を整えるとホテルの外へ出て体を動かすため公園へ向かう。空は晴れ渡っているせいか、外へ一歩出ると刺すような冷気を感じる。「今日はかなり冷え込んだな・・・。」つい最近まで、暑さ厳しい国外で過ごしてきた彼には日本の冬は一段と厳しく感じる。もっとも、そんな事で行動が制限されるほど彼は温い鍛え方をしていない。一年で一番昼の短い12月のこの時期、この時間は未だ夜の様に暗い。10分ほど歩くとブランコと鉄棒だけの小さな公園がある。そこでいつものように柔軟体操を始める。足裏を伸ばし、肩の筋をのばす。同時に自らの体調を確かめつつ体の曲げ伸ばしを行う。「トレースオン・・・」次に彼は、自己のイメージにリアリティを与え、イメージしたそれをその手に生み出す。現れたのは二振りの木剣。彼はそれをしっかり握り直すと、ゆっくりと左右同時に上から下へと素振りを始めた。彼は自らの内にしみ込ませた型をなぞるようにゆっくりと振るっている。だが、その振り一つ一つは、まるで鉄棒を振るうかのような盤石の重みを感じさせる。30分程振るったであろうか、彼の額にはうっすらと汗が浮かぶ。「こんなものか。」次に、一転して実戦さながらに二刀を振るう。目の前に見る敵の幻は、彼とは違う生き方をし、かつて戦ったもう一人の自分、自身を亡きものにしようとした赤い英霊。二人は誰も目にすることの無い至高の剣舞を舞う。英霊の幻が士郎の左肩を狙い袈裟切りに右の黒刀を振り下ろす。彼は左刀で相手の刀身の反りをおさえつつ一撃をいなした。そして同時に前へ出つつ彼は右刀で、英霊の幻の伸びた右腕を切りつける。途端に幻は左に大きく体を翻して一回転するやいなや左の白刀を立てて士郎の首筋を狙い右から切りつけた。士郎は大きく下がりその一撃を避ける。しかし大きく開けたはずの間は、一瞬で詰められ英霊の幻が今度は右手で逆袈裟を切り上げる。彼は両剣を胸前でクロスし必死に止める。受けに回ってしまった彼に対して幻は左右の袈裟切りを切れ目無く打ちつける。対して士郎は受けにまわりつつも反撃の機会を待った。しかし英霊の幻から放たれる双剣の乱れ打ちに後退を余儀なくされる。だが彼は下がる途中で一歩の歩幅を大きく変え、幻の敵に彼との間合いを読み違わせようと試みる。はたして試みは成功し、彼と幻の間合いは再び大きく開けられた。そこに再び、幻が神速の踏み込みを持って間を詰めに入る。先程の再現になるかと思われたその踏み込みを士郎が、大きく飛び越してかわし、空中で前方に回転しつつ英霊の背中を切りつけるという捨て身の大技を見せ攻守を入れ替える。だが英霊の幻は当たり前のようにその背に剣をかざし士郎の渾身の一撃を防いだ。そこで再び互いの間は開き、今度は一転して膠着となった。「はあっ、はあっ」さっきの一撃は危なかった、と士郎は一人心の内でつぶやく。全身に冷たい汗が吹き出し、脇と額を伝ってしたたりおちる。こうして幻と対峙していると奴の人を小馬鹿にしたような笑みまで見えてくる。だが、その幻が浮かべる皮肉げな笑みは、今の自分が浮かべるそれと、どれほど違いがあるのだろうか?おそらく見た目に違いは分らないだろう。ならば今の自分と奴の違いは何処にある。かつて、士郎が赤い英霊と闘った時、英霊は彼の目指す生き方も、想いすらも偽りだと喝破した。だが逆に彼は、例え想いや理想が偽りであろうと、ひたすら信じ、目指し続けるのならば本物であると言い切った。ならば、今の自分は、あの時の自分に恥じぬ生き方をしているのだろうか?しているとは言い切れない、だが、していないとは決して言ってはならない自分。未だ彼は信念を賭けて赤い英霊と戦っている途上なのだと思い知らされる。「ならば、負けるわけには行かない。」士郎は再び、皮肉げに笑みを浮かべる赤い英霊の幻に向かい剣を振るった・・・。そろそろ6時半近くになる。人々が外で活動する時間帯だ。辺りに人払いの魔術を掛けてはいるが、もう切り上げる頃合いだろう。荒い息を落ちつけ残心をしつつ木剣を下ろし、下ろしたそれを一瞬で幻想に返す。汗が額から滴り落ちる。ふと、ブランコに目が行き、昨日助けた少女のことに記憶が届く。「如月千早だったか・・・。無事に帰っているだろうか?」多分大丈夫だろう・・・。別れ際に見せた彼女の笑顔を思い出しつつ思考を漂わせる。そして自身で彼女に言った言葉に行き着いた。「縁があればまた会えるだろう。」そこで、彼は思考を切り替えホテルへの帰途についた。