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No.27866の一覧
[0] 【チラ裏から】 人間と汚染獣と (鋼殻のレギオス)[くろめがね](2011/09/14 00:50)
[1] 第1話 ~旅立ち~[くろめがね](2011/10/05 22:21)
[2] 第2話[くろめがね](2011/10/05 22:29)
[3] 第3話[くろめがね](2011/10/19 20:53)
[4] 第4話[くろめがね](2011/10/19 20:55)
[5] 第5話[くろめがね](2011/10/19 21:03)
[6] 第6話[くろめがね](2011/11/27 15:54)
[7] 第7話[くろめがね](2011/11/27 15:39)
[8] 第8話 ~ヨルテム~[くろめがね](2011/11/27 15:41)
[9] 第9話[くろめがね](2011/11/27 15:49)
[10] 第10話 ~ツェルニ~[くろめがね](2011/11/27 15:54)
[11] 第11話~原作1巻~[くろめがね](2011/11/27 15:59)
[12] 第12話[くろめがね](2011/11/27 16:05)
[13] 第13話[くろめがね](2011/11/27 16:10)
[14] 第14話[くろめがね](2011/11/27 16:14)
[15] 第15話[くろめがね](2011/12/27 16:06)
[16] 第16話[くろめがね](2011/12/27 16:12)
[17] 第17話ー1[くろめがね](2011/12/27 16:21)
[18] 第17話ー2[くろめがね](2011/12/27 16:21)
[19] 今は昔のガルロア君[くろめがね](2011/12/27 16:39)
[20] 第18話[くろめがね](2011/12/27 16:30)
[21] 第19話~原作二巻~[くろめがね](2011/10/02 05:08)
[22] 第20話[くろめがね](2011/12/27 16:50)
[23] 第21話[くろめがね](2011/12/27 16:46)
[24] 第22話[くろめがね](2012/03/18 21:05)
[25] 第23話[くろめがね](2012/03/25 22:16)
[26] 第24話[くろめがね](2012/04/07 10:11)
[27] 第25話[くろめがね](2012/04/07 10:10)
[28] 第26話[くろめがね](2012/04/07 11:22)
[29] 第27話[くろめがね](2012/07/13 23:08)
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[27866] 第24話
Name: くろめがね◆b1464002 ID:129a9d59 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/07 10:11
最初は歩いていたのだが、しかし途中からユリアに抱えられる形となった。
ユリア曰く、視界のきかないガルロアに合わせて歩くんじゃ時間がかかりすぎる、らしい。
確かにガルロアとしてもそれは同意だが、しかしユリアに抱えられるというのは、かなり恥ずかしいというか屈辱的というか。
なにせ抱えられる形というのが、ユリアの正面側で、ひざの裏と背中をユリアの両腕で抱えられる形。
俗に言う、お姫様抱っこという奴なのだから。
これはもう恥ずかしすぎる。
男のプライドがズタボロである。

とはいえ、お姫様抱っこが例えばオンブの形に変わったとしても、それはそれで今とは違った恥ずかしさがあるだろうし、それならばと肩に担がれる形を想定してみても、やはり同様にキツイものがある。

結局、ユリアに運んでもらうしかない今の自分の状況を嘆くしかない。

残念ながらガルロアには諦める以外の方法はなかった。
だがまぁ、かれこれ二時間程度この状態のままなのだから、そろそろ流石に羞恥心も消えかけてきているのだが。

ところでユリアが一体何を目指しているのか、ガルロアには分かっていない。

自分の体にかかる負荷から、ユリアがガルロアを抱えた状態で走っているというのはガルロアにも分かる。
そして、ユリアが走る方向が、ツェルニの方向であることも分かっている。

しかしそこからがガルロアには分からなかった。

自分の体にかかる負荷から予想できる、ユリアの走る速度があまりにも遅いのだ。

ガルロアの着る遮断スーツの耐久力を気にしてくれているのだろうが、しかしこの速度ではツェルニに追いつくことなどできないだろうとガルロアは思っている。

何せランドローラーよりも遅い。

ガルロアの着る遮断スーツが汚染獣との戦闘を想定して作られたものである以上、もっとスピードを出しても実際には大丈夫ではあるのだが(カリアンが遮断スーツになにか細工をしている可能性を考えなければだが)、それをガルロアが伝えてもユリアは現在の速度を維持し続けた。

こうなってくると本当に分からない。
やはり目指す先くらいは聞いてみても良いかなと何度か思ったが、しかし結局ガルロアはそれを聞くことはなかった。

視覚から得ることのできる情報の量をガルロアは改めて実感し、ヘルメットの中で小さくため息をついた。

と、次の瞬間。

「ロア?少し大きく跳ぶから気を付けてね」

そんな声が聞こえて、ガルロアは舌を噛まないように歯を食いしばる。
そしてユリアが大きく跳躍したのが分かった。
その跳躍の中でガルロアは大いに驚愕することとなった。

ズバンっ――と、聞き覚えのある音がした。

これはそう。
エアフィルターを越える音だ。

「な、なんで?」

様々な疑問が次々と頭をかすめていく。
そしてその中の一つにすら答えを見つけることができないままに、ガルロアはスタンと軽い着地音を聞き、体に着地の衝撃を感じた。

そしてガルロアはごつごつの大地ではない綺麗に舗装された地面におろされ、そして首の後ろに伸びたユリアの手の気配を感じるとともに、ヘルメットの留め具を外されて視界に光が戻る。

眩い光に目を細めながら、久しぶりにさえ思えてしまうユリアの顔を見る。

「ロア、大丈夫?」

「あ、・・・・・・うん」

「よかった」

そしてガルロアのヘルメットを両手に持って、ほっとしたような表情を浮かべるユリアの後ろに、間違いようもなくツェルニの街並みが見えた。

今、自分は間違いなくツェルニにいるらしい。

しかし何故・・・・・・と、ガルロアがそう疑問を覚える前に、目の前にいるユリアの瞳に剣呑な色が宿る。

ユリアはくるりと半回転し、ツェルニの町のほうへと視線を向ける。

ユリアの視線を追ったその先に、四つの人影があった。
カリアンと、フェリを除いた十七小隊の三人である。

「やぁ。また会うことができるとは思ってはいなかったのだが、また会えて嬉しいよ」

一歩前に進み出てきたカリアンがそんなことを言ってくる。
流石にその顔にいつもの微笑は浮かべていない。微笑なんかを浮かべていたらガルロアは軽く衝剄でも放っていたかもしれない。

「・・・・・・・・・冗談のつもりですか?全く笑えませんね。」

ユリアに続きガルロアも瞳の中に敵意を込める。

「確かに今更何を言っても意味はないだろう。君たちにも既に予想できているみたいだが、私は君たちを殺そうとしたわけだからね。言い訳するつもりはないが、一応私としては不本意だったとだけはっ・・ぅぐっ・・・・・!?」

言葉の途中でカリアンがいきなり呻き声を上げる。

その理由は明白だ。
レイフォンがカリアンを弾き飛ばしたのだ。

そしてその一瞬前までカリアンのいた位置で、ユリアの手が空を切った。

「ユリアっ!?」

ガルロアの叫びが響く。

そんなガルロアの声が聞こえているのか、聞こえていないのか、ユリアは軽く舌打ちをし、再度すさまじい殺気とともにカリアンの方へと向かう。

そしてそれを許すレイフォンではない。
レイフォンは早業で青石錬金鋼を復元させてユリアへと斬りかかる。

「っ!?っくそ!」

レイフォンがユリアに斬りかかるのを見て、ガルロアは焦って動き出す。
ユリアの実力なら問題ないとは思うが、しかしレイフォンの実力だって相当なものだし、それに現在のレイフォンの錬金鋼は、予定されていた汚染獣との戦闘に備えてか安全装置が外れている。
流石に放ってはおけない。

「シッ」

短い呼気とともに振り下ろされたレイフォンの剣閃がユリアの鼻先を撫でるようにして掠める。

ユリアはカリアンへと向かう動きを止められて、トントンと数歩後ろに下がる。

「・・・・・・邪魔」

呟いて、ユリアはレイフォンの方にその剣呑な瞳を向ける。

瞳を向けられたレイフォンは無言で剣を構え、再度ユリアへと斬りかかる。
それをうけてユリアもレイフォンへと襲い掛かる。

そして両者が激突せんとしたその時――

「そこまでっ」

――ガルロアが間に割って入ったことで、レイフォンとユリアの動きが止まった。

ユリアにばかり気を取られていたレイフォンは、振ろうとした剣をガルロアの剣に止められて、ユリアは間に乱入してきたガルロアに攻撃を当てまいと急遽攻撃を取りやめ、そして動きを制するように突き出されたガルロアの左手にたたらを踏んだ。

「そこまでだ、二人とも。レイフォンは剣を収めて。そんでユリアは落ち着いて」

しばらくの膠着。
レイフォンもユリアも簡単には引き下がらない。

「もう一度言おうか。二人とも引いてくれ」

「・・・・・分かったよ」

再度放たれたガルロアの言葉に、レイフォンがゆっくりと後ろに下がり、カリアンを守れる位置についてから錬金鋼を基礎状態に戻す。

この間、ユリアは何度か動こうとしたが、その都度ガルロアに制されて、今はただひたすらにレイフォンに弾き飛ばされたまま地面に座っているカリアンを睨み付けている。

「いいかな、ユリア」

レイフォンが錬金鋼を基礎状態に戻したことを確認したガルロアは、ユリアに声をかける。

「僕のためにそこまで怒ってくれるのは嬉しいけどさ、でも今、会長のこと殺そうとしてただろ?それはやめて欲しい」

ユリアの殺気は本物だった。
あれは本気の殺意だった。

「僕としてはユリアには人を殺してほしくはないと思ってる」

それはガルロアの一方的な自己満足だ。
ユリアの想いを無視して、自分の要求を押し付けているだけだというのは分かっている。
それでもガルロアは、ユリアにはできれば人を殺してほしくはない。
綺麗ごとと思われるかもしれない。自分勝手と思われるかもしれない。
でも本当にそう思っている。

「お願いだ、ユリア。気持ちを治めてほしい」

「でも・・・・・・」

ユリアが迷ったようにガルロアとカリアンの間で視線を彷徨わせる。

そしてしばらくの後、ユリアは小さくため息をついた。

「分かったわ」

呟くようにそう言って、ユリアは垂れ流していた殺気を治める。
それと同時にガルロアの方へと視線を向けて口を開いた。

「ごめんなさい」

そんなユリアの謝罪の言葉に、しかしガルロアは渋面を浮かべそうになった。

そこで謝られても困るのだ。むしろガルロアの方が謝りたいほどなのだ。
自分の過失によって生まれた危機にユリアを巻き込んでしまい、その危機を乗り越える際にはユリアに頼りきりになり、そのくせして危機を脱した時にはユリアの感情を抑制させる。

余りにも自分勝手だ。

激しい自己嫌悪に駆られる。

「・・・・・こっちこそごめん。それから、本当にありがとう」

様々な想いを内に秘めながら、それでもガルロアは謝罪と謝礼の言葉をユリアに向ける。

しかし、そんなガルロアの言葉にユリアはただ不思議そうに首を傾げ、その様子がまたガルロアの自己嫌悪を駆り立てた。

「いきなり・・・・ひどいことをするものだね・・・・」

自己嫌悪の渦に捕らわれかけていたガルロアだったが、服を払いながら立ち上がったカリアンの言葉にガルロアはハッと我に返る。

ユリアも殺気こそ放たないが剣呑な目つきをカリアンへと向けていた。

「・・・・会長が僕たちにした仕打ちを考えれば、どうとも言えませんけどね。まぁ会長も僕たちも、どっちも未遂に終わったわけですが」

「それも、そうだがね。これが一時的なものなのか、それとも永続的なものになるのかは分からないが、しかし今君が私に殺意を向けてこないことには感謝しようと思う。実際私は君たちに殺されても文句は言えない立場なわけだからね」

「・・・・・・・一応、永続的なものになると思いますよ」

恨みはすれど、殺意を抱くことはない。
これがどうしようもなく自分の性格なんだろうとガルロアは心の中で自分自身に呆れるしかなかった。

それにこれが自分たちの正体不明さが招いた事態であるということもある。
死と隣り合わせだった都市外から、生を実感できる都市内部へと戻ったことである程度の余裕を得た今、ガルロアには分かることがあった。

ムオーデルから追放されたという事実。ガルロアとユリアが放浪バスでツェルニにやってきたときに、ツェルニが逃げようとしたという事実。ガルロアの戦力。
どれをとっても驚異的なものなのに、ガルロアはカリアンからの信頼を得ようとしなかったし、カリアンを信頼しようとしなかった。
自分たちの情報をひた隠しにした。
それならある意味、この状況は当然の報いともいえる。
カリアンは当然の対処をしただけなのだから。
少なくとも、ガルロアが一方的にカリアンを責めるのはフェアではないし、そんな権利もないだろう。

「それは、よかった」

カリアンの表情の中に、若干の安堵の色がうかがえた。

「ちなみに私を殺すつもりがないという君たちと私との関係は、一時的な停戦ということになるのかな?それとも永続的な友好ということになるのかな?」

「永続的な停戦、といったところじゃないですか?」

「そうきたか」

そういってカリアンはあからさまに顔をしかめる。

「殺されかかった身としては、すごすご引き下がるつもりもありませんしね。だから友好なんて無理でしょう。ある程度は色々要求させてもらいますよ」

フェアではないからといって何もしないほどガルロアは善人ではない。
なにせ殺されかけたのだ。
カリアンにはある程度は覚悟してもらうことになる。

「そうかい。・・・・・まぁ、そういった交渉は私の専門とするところだ。・・・・・少なくとも、人を殺す命令を下すよりはうまくやれる自信はあるね」

「・・・・・・・・・」

カリアンの言葉にガルロアは上手い言葉を返せず、むしろ苦笑しそうになるのを隠すのに必死になった。

カリアンに対して自分が悪感情を持っていることは確かだ。
今回の一件に関しては恨んでいるし憎んでいる。
簡単に許せるような相手ではない。

それなのにどこか嫌い切れていないところがある。
良い性格してやがるなぁと、賞賛したい気分になる。

「・・・・・・さて、そろそろいいか?」

ガルロアが内心の苦笑を隠すために生まれた沈黙の中、割り込むようにして新しい声が響いた。

この場にいる十七小隊員のニーナとレイフォンを除いた最後の一人がなんの前触れもなく言葉を発したのだ。
ガルロアは小隊戦でしか見たことがなかったが、名前だけは知っている。
四年生の狙撃手。シャーニッド・エリプトンだ。

「まぁここまでのやり取りを見た感じだと、今この場のパワーバランスは俺たちが完全に下なわけだから、俺たちはすごすごと隅っこで丸くなってるべきなんだろうがな、だがそうもいかねぇ。質問させてもらおうか」

ガルロアの隣でユリアが「あ、あの人・・・・・」と呟く。
もしかしたら、ガルロアの知らないところで会ったことがあるのかもしれない。

「単刀直入に言ってお前らなにもんだ?」

すでに十分以上に張り詰めていた場の空気がさらに張り詰める。

十七小隊の面々はシャーニッドの問いに対して緊張感を持ち、カリアンはそれを今この場で聞くのはあまりに得策ではないと焦燥し、そしてガルロアとユリアはシャーニッドの問いかけに対して警戒心を強める。

「いやいや、自分でも有り得ないって思ってるんだが、でも妙な確信があるんだよ。全く荒唐無稽な話でよ、口にするのも恥ずかしいくらいなんだが・・・・・・・」

そこでシャーニッドは意味ありげに言葉を止める。

「ツェルニの足を折ったのはお前らなんじゃねーのか?」

ツェルニの足を・・・・・折る?
一瞬ガルロアはシャーニッドの言葉の意味を測りかね、そして即座にある異変に気が付いた。

「・・・・・・都市の・・・・足音が聞こえない・・・・・?」

普通、外延部にいれば、力強く聞こえるはずのツェルニの足音がまるで聞こえないのだ。
つまり、常に移動を続けているはずの自律型移動都市であるツェルニが、現在は移動をしていない。

それに気が付くとともに一気に様々な疑問が氷解した。

「・・・・少し、待っててください」

一応確認のためにユリアを伴って都市の外延部の端まで近づいて、眼下を見下す。
そして見下ろした先には、折れたツェルニの足と、いくつかに砕けた巨岩があった。

「・・・・・・・なるほどね」

ガルロアの中でピースがかちりとかみ合った。
シャーニッドの言うとおり、ツェルニの足を折ったのは間違いなく自分たち――正確にはユリアだろう。

ツェルニを追いかける直前にユリアが発生させた二回の激音は、それぞれ岩山を手頃なサイズに砕く音と、砕いた岩を飛ばす音だったのだろう。

速度で追いつけないのならば、追いつこうとする相手を止めてしまえばいい。
簡単な事実だが、しかしそれを自律型移動都市相手に行うのは、あまりに常識から外れている。
しかしそれをユリアはやったということだ。
あんなにゆったりとした速度でツェルニに追いつくことができたのは、ツェルニが止まっていたからに他ならなかったわけだ。

状況を理解して、そして元の場所へと戻ってきたガルロアとユリアにシャーニッドが胡乱げな目を向ける。

「数時間前にツェルニは急激な方向転換をした。まさしく急激にだ。進路を横にずらすとかじゃなくて正反対に向けて方向転換した。まぁ珍しいこと・・・つーか前代未聞のことだった訳だが、けどそれはそれほど気にするようなもんじゃないのかもしれねぇ」

「シャーニッド君。やめたまえ」

何やら話し始めたシャーニッドにカリアンが制止の声をかける。

しかしそんなカリアンの制止にシャーニッドは引き攣った笑みを浮かべる。
間違いなく、内心を押し隠したポーカーフェイスだ。

「おいおい、旦那。そこの嬢ちゃんや、そこの野郎のさっきの動きを見れば、俺だって嫌でも分かってるさ。そいつらには楯突くべきじゃないってな。それならこれは、わざわざ今このタイミングで聞くようなことでもねーのかもしれねーよ?でもよ、いつかは絶対に聞かなきゃいけねぇことなんじゃねーのか?」

「それは・・・・」

返答に詰まったカリアンを見てシャーニッドはさらに言葉を重ねる。

「まぁ、俺は詳しい話は知らねぇからなんとも言えねぇし、だからもしかしたら、これは聞かなきゃいけねぇってほどのことでもないのかもしれないけどな。まぁそれでも聞いとくべきことであるのは変わらねぇんじゃねぇのか?だったら今聞いとくべきなんじゃねぇかと俺なんかは思うんだがよ」

「・・・・・・・それは・・・・・そうなのだが・・・・」

「だろ?せっかくあちらさんも敵対するつもりはないって言ってくれてるんだし、今のうちに聞いとこーぜ。怖いとかそういう感情は二の次にして・・・・・な」

ついに黙り込んだカリアンにシャーニッドは小さく息をつく。
そしてシャーニッドは引き攣った笑みを消し、真顔に戻ってガルロアの方へと向き直る。

「さて、話を戻すぞ?
ツェルニが急激な方向転換をした数十分後だ。これはついさっきカリアンの旦那から聞いた話になるんだが、その時点でのツェルニの進行方向の反対側から、・・・・・つまり、数十分前までのツェルニの進行方向側から、巨大な岩が飛んできてツェルニの足をへし折ったらしい。まぎれもなく異常事態だ。狙ったのかどうかは知らねぇが、脚部の中でもかなり主要な足を折られて、その時点でツェルニは行動不能。再び動き出すには、少なくとも一日弱は必要だ」

カリアンがなにか言いたげな様子を見せるが、しかしカリアンの口から具体的な言葉が出ることはなかった。

「んで、そんな中でカリアンの旦那が緊急事態だと言ってレイフォンを招集。戦う以外に何の能もないレイフォンを招集するってことは、戦いが起こるってことだ。そう思ったから俺はカリアンの旦那のところまで行って問い詰めた。だがそれについては碌な説明もしてもらえずに、俺は流されるままに引っ付いてきて今ここにいる」

そこでガルロアは一つ納得する。
レイフォンがいるのはまだ分かるが、なぜここにニーナとシャーニッドがいるのだろうと先ほどからずっと思っていたのだ。

「そんで現れたのがお前らだ。明らかに都市外から跳んできた。んで前にも会ったその嬢ちゃんがカリアンの旦那を殺そうとして、レイフォンとやりあって、そっちの野郎がそれを止めた・・・・・と」

さっきから野郎野郎とうるさいよ・・・・とガルロアは内心で少し苛立ちを感じた。
せめてもう少しマシな言い方があると思うのだが。

しかしそんなガルロアの内心を無視してシャーニッドの話は続く。

「もうここまでで一杯一杯でよ、何が起こってんのかさっぱり分からねぇんだが、それでも一つだけ分かってることがあるとすれば、お前らの異常性だ。
分かるか?バカ強ぇレイフォンがいるコッチが、無条件でパワーバランスの下位になってるんだぜ?そんな話があり得るかってんだ。だからこそ聞きてぇ」

そして半ばヤケクソのような語調で話すシャーニッドは、ついに誰に憚ることなく最後の言葉を紡ぐ。

「お前ら・・・・・一体、なんだ」

その質問にガルロアは懐かしいものを感じた。
これはまるで、ガルロアが初めてユリアと出会った時の第一声そのままではないか。
人間が、人間の形をしたものに対して、「何者だ」などではなく「なんだ」と問う。
そして今自分は問う側ではなく、問われる側にいる。
全く、なんという偶然だろう。

そんなことを心の片隅で考えて、向けられる強いまなざしを感じながら、しかしガルロアは冷静に考える。
信頼関係というものの大事さを、つい先ほど痛感したばかりだ。
しかし、すでにここまで関係が拗れてしまった以上、場合によってはツェルニを出ることも考える必要がある。
ツェルニを出たところで、他都市でもここと同じことが起こらないとも限らないので、ツェルニを出ると断じることはしないが、しかしツェルニを出ることも考える必要があるのは確か。
それならば今は信頼を得る時ではない。だからシャーニッドの質問に答える必要はない。

そう思ってガルロアが口を開こうとした時だった。

「・・・・・それを知ってどうするの?」

感情のこもらない、それなのに鈴の音のように透き通るユリアの声。

ユリアの声はもともと平淡なところがあるが、しかし今のは違ったとガルロアは思った。
本当に感情がこもっていなかった。

いつの間にか、先ほどまでの剣呑な目つきもなくなっている。

これはまずい、と。
ガルロアは直感的にそう思った。

「私に対して『お前はなんだ』って聞いてきたのはあなたが二人目。一人目の時は・・・・一回目の時は何も思わなかったけれど、でも今はなんだか苦しい感じがするわ」

胸に手を当てて俯くユリアを見て、ガルロアの心は大きく揺さぶられる。
しかし何故かガルロアは声を発することができなかった。
誰も、何も話さない。
ポツリポツリと話すユリアにこの場にいる全員が呑まれていた。

「私に対して『なんだ?』と問いかけた時点で、あなたには私の答えを聞く理由がないでしょう?本当にそれを知ってどうするつもりだったの?『なんだ?』って聞いてきた時点であなたは私を『何者か』ではなく『何か』であると断定してしまっているのに、私の答えを聞いたところでどうにもならないでしょう?」

『何者か』ではない『何か』。
『何者だ?』ではなく『何だ?』と問いかける。
そこにあるのは拒絶の意志だ。
自分とお前は別のものだと、相手を否定する意思がそこにある。

「私はこれでもロアと一緒にいるために努力しているのだけど、それでも『なんだ』って問われるのね。これが私の・・・・・偽物の限界ってことかしら。私はどうあっても本物にはなれないって、改めて言われた気分だわ」

偽物の限界。本物にはなれない。
その二つの言葉にカリアンらが大きく反応する。

しかしガルロアはそれどころではなかった。

「別に、人間になりたいなんて思っているわけでもないけれど、それでもなんだか少し空しいわね」

「違うよ」

ついに耐えきれなくなってガルロアが言葉を挟む。
ユリアにはそんなことを言ってほしくはなかった。

「・・・・・・・・ユリアはちゃんと人間だ。生態的にどうのとかじゃない。行動とか思考とか感情とか。人間ってのはそういうので判断するもんだろ?空しいって思うユリアのその感情だって、それはそのまま人間の証明だ」

「どうかしら?それを言うのなら、いつだって破壊衝動を抱えている私は人間失格なんじゃない?・・・・・まぁそもそも私は失格以前の存在なのだけど・・・・ね」

ぐっとガルロアが言葉に詰まる。

ユリアが自分の存在についていつも気にしていることは知っていた。
それでもなお、人間の社会に溶け込もうとしていたことも知っていた。
最初は興味がないと言っていたミィフィたちと仲良くなったのも、表情の変化が多彩になってきていたのも、ユリアが少しでも人間の社会に溶け込もうと思った結果なのだろう。

もしかすると、動機が不純だと言われるかもしれないが、それでもユリアがミィフィたちと仲良くなったという結果は変わらないし、その結果としてユリアの表情の変化が多彩になった。

そしてそれらは幼生体襲来の時に話し合ってからは、さらに顕著になったように思う。
ガルロアはそれを心から嬉しく思っていた。

しかし、そんな彼女だからこそ、『なんだ』という問いにここまでの反応をしてしまう。
自身の身が人間ではないということを確かに認識し、自分が本来人間とは相いれない存在であることを理解し、それでもなお人間と共に生きようとしている彼女だからこそ、ここまでの反応をする。

ガルロアが思っていた以上にユリアは自信の在り方を気にしていたのかもしれない。
思っていた以上に彼女の心は繊細だったのかもしれない。

当たり前だ。
ユリアは。ユリア・ヴルキアの心は。生まれてから一年すらも経っていない、赤子に等しいものなのだから。

例え、汚染獣の超合理主義的な考えを持っていたとしても、
長い年月を生き、老生九期にまで至った記憶があったとしても、
その中にあらゆる闘争と殺戮があったとしても、

ユリアの『心』、ユリアの『感情』は、未完成で不安定だ。
繊細なのも、揺らぎやすいのも、考えるまでもなく当然だ。

ガルロアはギリッと奥歯をかみしめる。
なぜ、ユリアの心に気づかなかったのかと後悔する。

「これが偽物の限界ね・・・・・」

呟くユリア。

「ユリア・・・・・、僕は・・・・・」

ガルロアは苦し紛れに言葉を発するが、しかしその先が続かない。

ガルロアには分からなかった。
何を言えばユリアの心に届くのか分からない。

ガルロア自身はユリアが人間ではないということにほとんど意味を感じていない。
ユリアが汚染獣であると知ったうえで、それでもユリアを好きになったのだ。
意味を感じる訳がない。

しかしそれを伝えたところで何になる。

ユリアが抱える問題。ユリアと人間との違いについて。
それに対してガルロアは何も言うことができないのだ。

なぜならガルロアは正真正銘の『人間』なのだから。

『なんだ』と問われることの意味合いが、ガルロアとユリアでは決定的なまでに違っている。

それでもガルロアは何かかけるべき言葉を探し――

「・・・・・・・ぁ・・・?」

――そしてその瞬間のユリアの表情を見て息を呑む。

「これが・・・・・私の限界よ・・・・・・」

とても儚げな表情だった
自分に言い聞かせるように言ったユリアはとても儚げで、とても不謹慎だが、ガルロアは何故かそれを美しいと思った。

本当に何故だか・・・・・、そう思ったのだった。



『緊急の報告です』

不意にカリアンのそばに念威端子があらわれる。

このタイミングから考えて、念威端子の向こう側にいるのはこの場にいない最後の十七小隊員であるフェリだろう。

それどころではないと思いつつも、緊急という言葉になにやら不穏なものを感じ、ガルロアはフェリの報告に耳を傾けることにした。

『数時間前までのツェルニの進路上にいた汚染獣が脱皮、その後、真っ直ぐにこちらに向かっています。本来ならば逃げ切れたのでしょうが、今はツェルニの足が止まっているので・・・・・。恐らく数時間後には襲撃を受けるでしょう』










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