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No.27866の一覧
[0] 【チラ裏から】 人間と汚染獣と (鋼殻のレギオス)[くろめがね](2011/09/14 00:50)
[1] 第1話 ~旅立ち~[くろめがね](2011/10/05 22:21)
[2] 第2話[くろめがね](2011/10/05 22:29)
[3] 第3話[くろめがね](2011/10/19 20:53)
[4] 第4話[くろめがね](2011/10/19 20:55)
[5] 第5話[くろめがね](2011/10/19 21:03)
[6] 第6話[くろめがね](2011/11/27 15:54)
[7] 第7話[くろめがね](2011/11/27 15:39)
[8] 第8話 ~ヨルテム~[くろめがね](2011/11/27 15:41)
[9] 第9話[くろめがね](2011/11/27 15:49)
[10] 第10話 ~ツェルニ~[くろめがね](2011/11/27 15:54)
[11] 第11話~原作1巻~[くろめがね](2011/11/27 15:59)
[12] 第12話[くろめがね](2011/11/27 16:05)
[13] 第13話[くろめがね](2011/11/27 16:10)
[14] 第14話[くろめがね](2011/11/27 16:14)
[15] 第15話[くろめがね](2011/12/27 16:06)
[16] 第16話[くろめがね](2011/12/27 16:12)
[17] 第17話ー1[くろめがね](2011/12/27 16:21)
[18] 第17話ー2[くろめがね](2011/12/27 16:21)
[19] 今は昔のガルロア君[くろめがね](2011/12/27 16:39)
[20] 第18話[くろめがね](2011/12/27 16:30)
[21] 第19話~原作二巻~[くろめがね](2011/10/02 05:08)
[22] 第20話[くろめがね](2011/12/27 16:50)
[23] 第21話[くろめがね](2011/12/27 16:46)
[24] 第22話[くろめがね](2012/03/18 21:05)
[25] 第23話[くろめがね](2012/03/25 22:16)
[26] 第24話[くろめがね](2012/04/07 10:11)
[27] 第25話[くろめがね](2012/04/07 10:10)
[28] 第26話[くろめがね](2012/04/07 11:22)
[29] 第27話[くろめがね](2012/07/13 23:08)
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[27866] 第21話
Name: くろめがね◆b1464002 ID:129a9d59 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/27 16:46
カリアンに生徒会室に呼び出され、汚染獣接近の事実を知らされてから二日。

「へぇ。そんなことがあったんだ。レイフォンが三年生の先輩を同時に相手して一蹴したねぇ・・・・・」

今日はガルロアにとって入学してからはじめての実技演習だったのだが、レイフォンの周りに全くといっていいほど人が寄り付こうとしないのを見て、ナルキに事情を聞いてみた。

どうやら少し前に三人の三年生に絡まれたレイフォンがその三人を問答無用でズタボロにしたらしい。

「いや、問答無用でもなかったし、ズタボロにした覚えも僕には無いんだけど。ナルキは少し話を誇張しすぎてる」

レイフォンが困ったように弁解する。

「しかし、なるほど。するとレイフォンは今日は組む相手がいなくなるってことか」

実技演習といっても、まだ入学したばかりの一年生は三年生を相手に組み手をするというくらいしかしない。
活剄は使うが衝剄や練金鋼は使わない。
しかし組み手である以上、組む相手は必要であり、現在完全に周囲に避けられているレイフォンは今日は組む相手を捕まえることができなさそうである。

――――――とそう考えたガルロアだったが、しかしその考えはナルキによって否定された。
しかも悪い意味で。

「残念ながらレイフォンに組む相手がいないのは今回だけじゃない。いつものことだ。だからいつも友達であるあたしがレイフォンと組んでいる」

「・・・・・レイフォン、お前・・・・・、友達少ないんだな」

「うるさいよ」

ガルロアの言葉にレイフォンが少し沈んだ表情を浮かべながら、そっけなく返す。

故郷にいた頃のガルロアも全くといっていいほど友達がいなかったため、ガルロアとしてはレイフォンに対して同情というよりも共感の念を強く抱いていたのだが、その思いはレイフォンには伝わらなかったようだった。

「うーん。まあそれなら、僕とナルキとレイフォンの三人で組もうか。交代制でやれば何とか上手くできるでしょ」

「うん。それが一番だな。ガルロアとやるのは初めてだから、お手並み拝見と言ったところだ。だが、レイフォンには気をつけろよ。コイツの強さは異常だ」

「異常って・・・・・、少しひどくない?」

ナルキの言葉にレイフォンが抗議の声をあげる。

「そんなこといってもな、大人の武芸者数人の相手にしても、あれほど簡単に片付けたレイフォンは学生としてはおかしいと思うぞ?」

「ははは・・・・・」

ナルキの言葉に何も言い返せなかったレイフォンは引きつった笑みを浮かべながら渇いた笑いを漏らした。



ところで『お互いがお互いの立ち位置を理解して、お互いに開き直ってもらった方が、外部に不信感を与えずに済む』としたカリアンの考えは今のところ上手くいっていて、ガルロアとレイフォンの関係は今のところ良好。
・・・・・傍目にはそのように見えている。

しかし、実際には内心お互いに警戒しあっていて、だから今回の組み手も、相手の大まかな実力を測るという意味で大きな意味があり、したがってガルロアもレイフォンも実技演習に向けるにしては場違いなほどの気合が入っていた。

とはいえ、二人も一応わきまえている。
無意識に気合が入ってしまうのは避けられないとしても、だからといってお互いに本気で組み手を行うのはまずいということもわかっている。

だからお互い程々にやろう、とガルロアとレイフォンは目線で確認を取り、ジャンケンの結果、最初に組むことになったガルロアとレイフォンは、気合を入れながらも気合を入れないようにする、などというよく分からないことをしながら位置についたのだった。



六歩ほどの距離で向き合ったガルロアとレイフォンはお互いに構えを取る。

お互いに隙が無く、お互いに攻め手を見つけられないが、しかしこのまま膠着していても埒が明かないと、最初に動いたのはガルロアだった。

六歩の距離を一足で越え、右手の掌底をレイフォンの胸の中心部へと繰り出した。

体の中心部へと放たれた攻撃はただでさえ避けにくい。
それが武芸者のスピードで迫ってくるのだから、普通であれば受け止めるのがセオリーだ。

しかしレイフォンはガルロアの掌底がレイフォンを捉える直前に、半歩左に移動し最低限の動きでそれをかわす。

ギリギリでようやくかわした・・・・・というわけではない。

相手に確実に攻撃を打たせ、それを紙一重でかわすことで確実に生まれる相手の隙を突くための、これ以上ないほどに洗練された動き。

レイフォンは完全に伸びきったガルロアの腕を絡めとりながら、ガルロアの懐へと飛び込み、そしてガルロアの胸倉をつかむ。

ガルロアが空いた左手ですら何もできないほどの超至近距離にもぐりこんだレイフォンはガルロアの体勢を崩そうと足払いをかける。

しかしガルロアとてそう簡単にやられるつもりは無い。

胸倉を掴まれて完全に引き寄せられた自分の身体を、ほぼ・・・・・というよりも完全な力任せの力技で足払いがかかる前に無理やり後方へと引き下げて、逆にレイフォンの体勢を崩させる。

ガルロアの力技にレイフォンは半ば呆気にとられた様子だったが、その隙をガルロアが突こうとしたときにはレイフォンは既に回避を終えていて、二人は一度距離をとる。

まさしく一瞬の攻防であったし、お互い本気は出していないが、しかしガルロアとレイフォンはその中で垣間見えたお互いの技量に心の中で舌を巻いていた。

「へぇー。最初のあの回避の技量は半端じゃないな。びっくりした」

「それを言うなら、僕だってガルロアの力任せの回避には驚いた。あまり行儀のいい武芸じゃないけど、確かにあの場合は有効だ」

「あはは。僕に武芸を教えてくれたのがあんまし行儀のいい人じゃなかったしね。特に師匠じゃない方が」

そんな風に二人で軽口を叩き合っていると、近くで観戦していたナルキが興奮したような声を上げた。

「二人とも凄いな!レイフォンはもとより、ガルロアがここまで強いとは思わなかった。レイフォンと立派に張り合えるなんてかなり凄いぞ!」

ナルキは武芸者の中では態度や雰囲気がかなり気さくな方で、だから彼女は良い意味で武芸者らしくないところがあるのだが、しかしこういう場面で興奮してしまっているところはやはり武芸者なのだろう。

武芸者らしくないといえば、その筆頭に上げられるべきはガルロアとレイフォンの二人だったりもするのだが・・・・・。

「僕はナルキやミィフィから弱いと思われてたみたいだったからね。まぁ別に気にしてたわけじゃなかったけど、これで少しはその認識に上方修正がかかってくれるかな?」

「少しなんてとんでもない。かなり上方修正がかかったよ。完全に見くびっていた。あたしも見る目がないな。レイフォンは気付いてたのか?」

「・・・・・うん。まあね。最初に会ったときには『あ、この人はきっと強いな』とは思ってた」

「へー。やはり流石だな」

レイフォンの返答にしきりに感心しながら頷いていたナルキはやがて何かを思い出したように顔を上げ、「ところで・・・・・」とガルロアのほうを向く。

ナルキの何かを探ろうとしているような視線に少し疑問を感じながら、ガルロアは「なに?」と返した。

「つかぬ事を聞くようだが、ガルロアは普段どんな武器を使ってるんだ?」

「ん?剣だけど・・・・・」

質問の意図をつかめないままに答えたガルロアに、ナルキの目がキラリと光る。

「剣といっても色々あるだろう。両手剣とか片手剣とか。片刃とか両刃とか、通常の剣とか細剣とか。そういうのを含めて、ガルロアは普段、どんな武器を使ってるんだ?」

ここまで聞かれてようやくガルロアはナルキの質問の意図を理解した。
理解して、同時に不用意に答えなくてよかったと安堵した。

現在、学園都市ツェルニにはとある噂が流れている。

曰く、先の汚染獣襲来の折、黒髪でバカみたいにでかい剣を持った、幼生体をバッタバッタとなぎ倒し、恐らく成体も三体倒したと目されている謎の男がいる・・・・・という噂だ。

この話の前半部分は情報源も確かで、噂というよりは完全に実話であるはずなのだが、しかしこの話に該当する人間が見当たらなかったために噂となってしまっており、そしてガルロアはこの噂を知っていた。

というよりモロに自分の話である。

先の汚染獣襲来が時間的に真夜中だったことや、ガルロアが人の目につかないようなところで戦っていたこと、それから一度だけ人前で戦ったときは、その直後に起こったレイフォンの技が衝撃的過ぎたこと。
これらの要因でガルロアのことをしっかりと認識した人間がいなかったらしく、あまり目立ちたくないガルロアとしてはかなり嬉しい誤算だった。

一人だけ、ガルロアのことをはっきりと認識した人間がいて、その人がこれからどうするかは不安なところであるが、しかし今のところはその噂の男の正体がガルロアであるとバレてはいない。

大剣という武器は結構珍しいが、練金鋼は復元しないと形が分からないし、黒髪というのは別段珍しくもなんとも無い。

だからこそナルキは、レイフォンと張り合えるくらいに強くて、黒髪であるという、今のところその噂話の条件をある程度満たしているガルロアに確認の意味を込めて練金鋼の形を聞いたのだろう。

そうとなればガルロアの答えは決まっている。

「ただの剣だよ。片手でも両手でも使えるくらいの両刃の剣。鋼鉄練金鋼の普遍的で普通の剣だよ。あえて言うなら、一般的なところで言うロングソードって所かな?」

ガルロアは目立つつもりなどさらさら無いのだ。
この性格の良い友人に嘘をつくのは少し心苦しいが、しかし予備・・・・というより補助(サブ)として今話した鋼鉄練金鋼の剣を使っていたことを考えれば、今の話も嘘とは言えない。

もっとも、その鋼鉄練金鋼の剣は先の戦いで紛失したままなので、『じゃあその練金鋼を見せてみろ』と言われてしまうと返す言葉が無い。

しかしツェルニでは新入生の帯剣が禁止されているので、その心配は無用だろう。

「ん・・・・・。なんだ、そうか。いや大した意味は無いんだ。気にしないでくれ」

ガルロアの返答にナルキが少し残念そうな表情をする。

そのナルキの表情に少し申し訳ない思いを感じつつも、ガルロアは上手くこの場が治まったことに安堵した。

―――――が次の瞬間。

向こうからすごい勢いでこちらに向かってきている生徒を確認して、ガルロアは目を見開いた。

その姿をレイフォンも確認して「あれ?」なんて気の抜けたような声をあげるが、ガルロアはそれどころではない。

失念していた。
自分達が一年生同士で組んでいたから忘れていたが、この授業は本来一年生と三年生の合同授業。
というより、三年生が一年生を指導するための授業だった。
なればこそ、彼女がここにいるのは当たり前だった。

周りの生徒は何事かとこちらに注目してきている。

なんで自分はこう小手先ばっかりで、毎度毎度肝心なところでは失敗を繰り返すんだろうと軽い自己嫌悪に陥りながら近づいてくる彼女を見据える。

先の汚染獣襲来の折、ガルロアのことをしっかりと認識した唯一の生徒。レイフォンの所属する第十七小隊の隊長を務める三年生。

「おい。お前!」

ニーナ・アントークがガルロアのことを半ば睨むように見据えながらこちらに近づいてきていた。






     †††






「はぁ~あ゛ぁ・・・・・」

教室に戻ってくるなりガルロアは自分の机に突っ伏した。

「どったの?」

そんなガルロアにミィフィが目を丸くした。

「いや、なんかさ、さっきの授業でガルロアがウチの隊長に詰め寄られててさ・・・・・」

「ん?レイとんの所の隊長って三年生のニーナ・アントーク先輩でしょ?なんで?」

「いや、それは僕にもよく分からなかったんだけど・・・・・。あの時はなんたらとか、あの時のなんとかとか・・・・・」

「あの時ってなにさ?」

「それが分からないんだって」

自分の頭上で交わされる会話を聞き流しながら、ガルロアは授業中のことを思い出して暗澹とした気分になる。





「おい。お前!」

と、そう言いながら、赤い布切れを前にした闘牛というか、獲物を追いかける猪というか、まあとにかくそんな勢いで近づいてきたニーナに対し、

「・・・・・どうも。こんにちは」

と、ガルロアはとりあえず挨拶をしてみた。

そんなガルロアを、ニーナはまじまじと見つめる。

「・・・・・・・・・」

ものすごく気まずい一瞬。

そしてやがてニーナが口を開く。

「やはりお前、あの時の奴だな」

周りの生徒達が『あの時』という不明瞭な単語に首を傾げるが、しかしガルロアにとってみればその話をここで詳しく話されるわけにはいかない。

すぐさま、この状況を回避するために行動を開始する。

「あー・・・、その、・・・・・確かに僕は先輩の言う『あの時の奴』だと思いますけど、その話は今はやめません?一応、ほら授業中ですし・・・・・」

「そうか。やはりそうだな。やはりお前はあの時の奴か」

ガルロアの思惑を外れてガァーと捲くし立てるニーナ。

「それなら色々聞きたいことがあるのだ・・・が・・・・・・。・・・・・」

もはや制止がきかなそうなニーナにガルロアは顔を青ざめさせるが、しかし一転。
いきなりニーナは勢いを失い、黙り込む。

どうやら、何から聞き始めればいいのか迷っている風だった。

訪れる沈黙。

周囲の生徒達が向けてくる奇異と好奇の目。

ものすごく居心地が悪い。

そしてついにガルロアは耐え切れなくなり、

「放課後っ!その話は放課後にしましょう!」

と、放課後にニーナに尋問されることと引き換えにその場を脱したのだった。

幸いにして、ニーナも了承してくれて(ニーナも自分の頭の中を整理する時間が欲しかったらしい)、なんとか特に波乱も無くガルロアは現在こうしてホームルームに戻ってきたわけだが、いまだに奇異と好奇の視線はとまらない。

本当に居心地が悪い。

「あれ?ところでユリアは?」

ふと気付いて、ガルロアは顔を上げる。

するといきなりミィフィがいやらしい笑みを浮かべた。

「ふっふっふ。それがねぇ~。大変だよ?ガルルン」

「ガルルンって呼ぶのはやめてって。それで?ユリアはどうしたの?」

「うっふっふ」

なにやら妙に楽しそうなミィフィにガルロアは嫌な予感を覚える。

「いやぁ。今までさぁ、ずっとガルルンが傍にいたからこんなことはなかったけどさ、でも今回は武芸科と普通科で授業が別々だったでしょ?」

「そうだね。それで?」

「それをここぞとばかりに狙ってきた勇者がいたわけなのっ!」

ここまででガルロアにはなんとなく予想がついてきた。

「なるほど。つまり?」

「つまり・・・・・」

「・・・・・・・・」

「ユリちゃんはクラスの男子に呼び出されましたぁ!きっと今頃告白されてるよ!!」

ピシっ。とガルロアの額に青筋が浮かんだ。

「・・・・・・・普通、告白するか?僕がいるのに。傍から見ててもわかるだろ?いや、まあ確かに僕達は付き合ってるとかそういうんじゃないけどさ、でもだからって普通告白しないだろ。おかしいだろ?なんだ?僕を挑発してるのか?」

「わお。ガルルンの機嫌が一気に悪くなった。ガルルンの機嫌悪いとこはじめてみた」

ぶつぶつと呪詛を呟き始めたガルロアを見てミィフィが若干引く。

「こっ、こっ、告っ、告白ってホント!?」

レイフォンは何故か顔を赤くしてあたふたとする。

「・・・・・・・・・」

メイシェンはレイフォンと同じく顔を赤くさせながらうつむき、

「なるほど。ユリアは美人だからな。それはそれはモテるだろう」

ナルキは当然の帰結だとばかりに、うんうんと頷いてみせる。

混沌と化す空間。

「そうか。挑発してるのか。そうか。そうなのか。全く。誰に断って告白なんかしてるんだか・・・・・」
「ガルルン、ちょっと、ほら、落ち着きなって。なんか怖いよ?」
「えっ、えっ、でも告白って、えっ!?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「うんうん。青春だな」

もはや、誰にも止められない。

と、そう思われたそのとき。

「みんな?どうかしたの?」

事態の原因であるユリアの声が響いた。

「ユリアっ!大丈夫?変なこと言われたりしなかった?全く。その男子生徒ってのは一体なに考えてるんだろうな?もっと良識を持って欲しいよ」

「ロア?一体どうしたの?」

「いや、どうもしないさ。でもとりあえず、ユリアを呼び出したって言うその男子生徒の名前を教えてくれないかな?ちょっと後で・・・・そいつに話があるからさ」

「?」

いきなり駆け寄ってきて色々とまくし立てるガルロアに若干戸惑いの表情を見せるユリア。

そんな二人を見てミィフィがうめく。

「ガルルンさ、ユリちゃんが告白にどう返事したかってことはまるで聞かないんだね・・・・・」

そんなミィフィにナルキが、

「聞くまでもないってことなんだろうさ」

と答え、そして二人そろって溜息をついた。

「つまんないの」
「相手の男子生徒は本当に気の毒だな」






     †††






放課後。

そういえば待ち合わせ場所とかは決めてなかったよなぁ、と思い出し、それじゃあ仕方ないよなぁ、と帰ってしまおうと決意を固めていたところでニーナがガルロア達の教室へと乗り込んできた。

その際、ニーナはレイフォンに、今日は訓練は休みだと告げ、レイフォンを大いに驚かせていた。

着いてきてくれと言われ、ガルロアは仕方ないなと覚悟を決めてユリア共々ニーナについていく。

しかし、言われるがままに路面電車に乗り込んだ後、ニーナは一向に電車を降りようとしない。

しかもその間、一言も言葉を発さない。

そしてとうとう電車は終点まで行き着き、そしてようやくニーナは電車を降りた。

そこは都市の外延部。
人気はまるで無く、エアフィルターをはさんだ向こう側には荒れ果てた大地が広がっている。
轟々と唸る風の音や、大地を踏みしめる都市の足音が耳をうつ。

そんな場所でようやくニーナは口を開いた。

「色々と聞きたいことはあるのだが、まずは私と手合わせをしてくれないだろうか」

その言葉とともに、ニーナは剣帯につるされていた二つの練金鋼を手に取った。

「手合わせって、つまり戦えってことですよね?」

「ああ。そうだ」

「でも僕、練金鋼持ってないですよ?」

「お前なら練金鋼無しでも私に勝つことくらい容易いだろう。認めたくは無いが、私にもそのぐらいは分かる」

「はあ」

ガルロアにしてみれば、ニーナの言っていることはまるで理解できない。

呼び出されて一体何を聞かれるかと思えば、まず戦えときた。

本当に全く理解できない。

理解はできないがしかし、ガルロアを見つめるニーナの瞳は真剣だった。

だから・・・・・。

「分かりました。お相手します。ユリア、少し離れて待っててくれ」

ガルロアはゆっくりと構えを取った。

「レストレーション」

ニーナは練金鋼を復元させる。

黒鋼練金鋼の二振りの鉄鞭。

「はぁっ」

二振りの鉄鞭を両手に持って、ニーナはガルロアへと飛び掛っていった。






     †††






完全に日が沈んだ頃になって、ようやくニーナの動きが止まった。

打ち合い始めてから数時間。

ガルロアが何度ニーナを倒しても、ニーナは『もう一度』と立ち上がり、それを何度も繰り返した。

ガルロアもできる限り怪我をさせないように戦ったが、しかしいくつか打撲や打ち身ができてしまっただろう。

「はぁ、はぁっ、はぁ」

ニーナは片膝をついて荒い息をあげる。

「・・・・・もう限界ですね。これ以上やったら確実に剄脈疲労を起こします。今日はもう帰って、明日は学校を休んで安静にしているべきでしょう」

対するガルロアは軽く汗ばむ程度。

「はぁ、はぁ、やはりっ・・・・、強いな。・・・・っ、全く、はぁ、練金鋼無しの相手にっ、はぁっ、この、様か」

ニーナがつらそうに声を出す。

「とりあえず、深呼吸してください。逃げたりしませんから、とりあえず落ち着いてください」

「む。ふぅっ、そう、だな、はぁ。少し、はぁ、待っててくれ」

そうしてニーナは深呼吸を始める。

ガルロアは手持ち無沙汰になって立ち尽くす。

と、そこに声がかけられた。

「お疲れ様」

「あぁ。ユリア。ゴメンね。退屈だったんじゃない?」

「いえ、別に。・・・・・それよりも、向こうにミィフィたちが隠れてるわ」

「は!?」

驚いてガルロアは慌てて気配を探る。

すると確かにミィフィ、とメイシェンの気配を見つけた。
もう少し集中して気配を探れば、殺剄をして気配を消しているナルキの気配もわずかに見つけられる。
この分だと、ガルロアには見つけられないが、レイフォンも殺剄をして隠れているかもしれない。

「ねぇユリア?レイフォンはいる?」

「いるわ」

「はぁ」

額に手を当て、天を仰ぐ。

考えてみれば、好奇心の塊みたいな存在であるミィフィが、『あの時の』とか、そんな思わせぶりな単語を前にして黙っていられるわけがない。

唯一救いがあるとすれば、ミィフィもちゃんと良識を持っていて、ストーカー行為が悪いことだと認識しているであろうことだ。

認識しているであろう・・・・・認識してるだろう・・・・・・・、認識してるはずだ・・・・・たぶん・・・・・。

まぁ、すぐ傍にナルキがいるのだから、大事な一線だけは守ってくれるはず・・・・・・、いや、ナルキはナルキで結構確信犯的なところがある。
ミィフィを隠れ蓑にしながら自分の好奇心を満たしたり、やりたいことをやったり、そしてその責任を全てミィフィに押し付けてたりして結構狡猾だ。

そして、レイフォンとメイシェンは押しに弱すぎる。
ミィフィの押しには逆らえないだろう。

・・・・・考えれば考えるほどドツボにはまっていく感がある。

あの四人組は、あっさりと大事な一線を越えてしまいそうだ。

天を仰いでいたガルロアの顔がガクリとうなだれる。

しかしまあ、場所が場所だ。
盗み聞きをされる心配は無いだろう。
風の音や都市の足音であふれかえっているこの場所で、盗み聞きをすることはさすがに不可能だろう。

そう安心して、そしてちょうどそのタイミングでニーナが立ち上がったため、ガルロアはミィフィたちの存在を頭の中から放棄した。

「すまない。待たせたな」

「いえ。それで?どうしていきなり戦って欲しいなんて言い出したんですか?」

「それは・・・・・・」

ニーナはしばしの間黙り込み、そしてやがて話し出した。

「・・・・・私は多分、思い知りたかったんだ」

「・・・・思い知りたかった?」

「ああ。思い知りたかった。お前や・・・・レイフォンのいる高みというものを知りたかった。私とどれほどかけ離れているのかを思い知りたかったんだ」

結局、高すぎて私には見極めることはできなかったが、とニーナは悔しそうに顔をゆがめる。

「・・・・・なぜそんなことを」

「私は、このツェルニが好きだ。この都市を守りたいんだ。だから私は小隊を作ったし、日々の修練に励んだ。都市を守るための一助になれればとそう思ったんだ。
しかし、私では都市を守ることはできない。一助になることすらできない。
それを思い知らされた」

「どういうことですか?」

「この前の汚染獣襲来のときだ。幼生体だけなら、私は自分達の力で都市を守りきることができると思っていた。結局最後はレイフォンが片付けてしまったが、だが私はあの時はまだ絶望はしていなかった。
だが成体を見たとき、私は確かにあの時絶望した。
戦意をなくすことこそ無かったが、しかし私は確かにあの時自分達の敗北を確信してしまったんだ。
幼生体と一晩戦った疲弊しきった体で、あの圧倒的な存在感を持った成体を倒す未来など想像できなかったんだ」

「・・・・・・・・」

「そしてその私の確信をあっさりと覆したのがお前だ」

黙り込むガルロアをニーナが指さす。

「お前が成体と戦っているのを見て、お前がどこかへ向かって駆け出していくのを見て、私はあの時動くことができなかった。
お前の強さを恐れ、自分の力不足を憎んだ。
そして思ったんだ。
都市を守るためにはあれほどの高みにまで登らなくてはいけないのか・・・とな」

「・・・・・・・」

ガルロアは黙り込む。

「頭では分かっているんだ。お前達のいる場所がどれほどかけ離れているのかということくらい。一生かけても追いつけないとは思っていないが、しかし一朝一夕でどうにかなるものではないということは分かっているんだ。
小隊を作って、都市を守るためにと行動した自分の過去も間違っているとは思っていない。
だが、どうしても思ってしまうんだ。
あの時確かに絶望し、そしてそれをあっさりと覆したお前を見て、私はその強さを欲しいと思ったんだ。
お前達のかけ離れた強さを渇望した」

「・・・・・・・・」

「だから思い知りたかった。
自分がどれほどバカなことを考えているか思い知って、自分をちゃんと納得させて、現実的に都市を守るためにできることを考えたかったんだ」

「・・・・・・・」

ガルロアは黙り込む。

自分の過失で呼び寄せてしまった汚染獣の成体が、目の前の少女にそんな影響を与えていたとは。

「ねぇ」

声が響く。

それはガルロアのものでもニーナのものでもない。

「ちょっと聞きたいんだけど」

ユリアのものだ。

「さっきあなた、『戦意をなくすことこそ無かったが、しかし私は確かにあの時自分達の敗北を確信してしまったんだ』っていったわよね。それって何で?敵わないと知って挑むのは、それってただの無駄死にじゃない?逃げるのが合理的だと思うのだけど」

汚染獣は基本的に合理主義者といわれている。
ユリアならではの疑問だろう。

「敵を前にして逃げることなど、武芸者としての誇りが許さん。都市を守ることは武芸者の義務だ。放棄することなどできるわけが無いだろう」

武芸者としてはこれ以上ないほどに正解である答えを、ニーナはなんの迷いも無く口にする。

しかしその答えはユリアを納得させるには至らない。

全く理解できないといった表情をするユリアにニーナは「まあ、一般人には理解できないことなのかもしれないな」と言う。

「・・・・・それで、ニーナさんは・・・・思い知ることはできたんですか?」

ポツリと問うたガルロアにニーナは儚げな表情を浮かべる。

「どうだろうな。
私は多分、頑固なんだと思う。
お前達のいる高みは理解したのに、それでもやはり私は力を渇望している。
都市を、ツェルニを守れる力が欲しい」

「・・・・・・・・・」

ニーナは今きっと焦っている。
汚染獣の成体を前にして、敗北を確信してしまったという自分自身を許せないのだろう。
だからこんなにも力を求めて焦っている。

あの時ちょうどあの場所で、汚染獣成体の襲来と、その後のガルロアとの戦闘を見てしまったニーナの不運。

それがなければニーナはきっとここまで焦ることはなかっただろう。

そして汚染獣の成体を呼び寄せたのは自分の過失。

だから・・・・・。

「なぁ・・・・・」

何を聞かれても上手いこと誤魔化して早く帰ろうと、当初そう思っていたガルロアは・・・・・。

「私はどうしたら強くなれる?」

真剣にニーナの質問に向き合うことにした。

「・・・・・・・僕の故郷は、汚染獣との戦闘が頻繁にあったんですよね。
だから、武芸者の死亡率は、他の都市と比べても圧倒的に高いと思います。
汚染獣との戦闘が多いって意味ではグレンダンが狂ってるとも揶揄されてますが、うちの都市も相当なものです。
そして多分。・・・・多分ですよ?僕はグレンダンのことはそれほど詳しいわけじゃないんではっきりとしたことはいえませんが、・・・・・・たぶん、武芸者の死亡率はグレンダンと比べてもうちの都市の方が高いと思います」

ガルロアの言葉にニーナが息を呑む。

「っていうのはですね。
グレンダンには超絶に強い武芸者が複数いるらしいんですよ。
たった三人で強力な老生体を撃退できるような、そんな人知を超えた異常者が、それもたぶん三人以上の複数いるみたいで。
ですが、うちの都市にはそんな人間はいなかった。
だからきっと、武芸者の死亡率はうちの都市のほうが高かったと思います」

「・・・・・お前はそんな過酷なところで戦っていたのか・・・・・」

呆然として呟くニーナにガルロアは曖昧な笑みを浮かべた。

「確かに過酷ですね。そして過酷だからこそ求められたものがある」

「求められたもの?」

「はい。さっきニーナさんが言った武芸者の誇りと義務です。
命を捨ててでも守りたい武芸者の誇りと、命を懸けてでも全うしなければならない武芸者の義務。
それらを強く心に据えて、都市を守ろうという強い心を持たないと、戦うことすらできないほどにあそこの環境は苛酷だった。
・・・・ですが、」

と、ガルロアはそこで一旦言葉を止めて、至極真剣な表情を浮かべた。

「僕は武芸者の誇りも、武芸者の義務も、都市を守ろうとする心も、糞喰らえだと思ってます」

「なっ!?」

ニーナが言葉を失って口をパクパクさせる。

「これは元々ある人からの受け売りなんですが、武芸者の誇りと義務を胸に、都市を守るために戦おうとする奴は、結局本当に強くなることはできないそうです」

「・・・それは一体どういうことだ」

ニーナの表情からは怒気がにじみ出ている。

確かに、あの人の話は暴論だもんな・・・・・とガルロアは心の中で苦笑した。

「ちょっといくつか質問させてもらいますけど、じゃぁまずは、武芸者の誇りって具体的になんですか?」

「むっ!?・・・・・ん、・・・それは・・・・」

「聞かれて即座に答えることのできない誇りなんかのために命を捨てる奴はくだらない。
じゃぁ次です。
武芸者の義務なんて、武芸者は義務付けられないと命を懸けられないんですか?」

「それはっ・・・・・」

「義務なんかのために命を懸ける奴は愚かしい。
じゃぁ次です。
一人の人間に都市を守るなんて大それた事ができると思いますか?」

「・・・・・・・・・っ」

「決して叶わぬ目標を心に据える奴はただの馬鹿。
っとまぁこれで少しは分かりましたか?
つまりですね、人間が真に強さを発揮するための理由にするには武芸者の誇りも義務も役不足で、そんな役不足なものにすがっている人間は都市を守るためには力不足だって、そういう話なんです」

「・・・・・・・・・」

ニーナの怒気はもう既に消失していた。

そしてしばらく黙り込んだニーナだが、やがてポツリと声を漏らす。

「・・・・・・・それなら、私たちはどうすればいいんだ。・・・・・お前は一体、なんのために戦うんだ」

「武芸者の誇りを踏みにじってでも守りたいものを見つけてください。
武芸者の義務を放棄してでも守りたいものを見つけてください。
それを守るためだけに、それを守ることだけを心に強く据えて、訓練して戦って、全力を尽くしてください。
それがきっと、都市を護ることにつながるんです」

「・・・・・・・・・」

「肉体面での強さは一朝一夕には変わらない。ですが精神面、心構え、覚悟を強くすることはできます。
守りたいものを見つけてください。
その結果として、あなたがツェルニを守りたいと言っても、僕はそれを先ほどのように馬鹿とは言いません。
だから、戦う理由を武芸者の誇りや義務なんてものに預けたりしないでください。
誇りなんて曖昧なもののためじゃなく、義務のためじゃなく己の意思で、自分の守りたいものを守るためだけに戦ってください。
そうすればきっと、強くなれます」

「・・・・・・・・・そう・・か・・・」

そしてニーナは眉間に皴をよせてなにやら考え込みはじめる。
素直な人だなとガルロアは思った。
こんな、なんとなく筋は通っているが、武芸者にしてみればかなりの暴論を真摯に受け止めてくれる人はなかなかいない。

「まぁ僕にできる助言はこんなところです。
ですが、一応もう一つだけ言わせてもらいたいことがあります」

「ん?なんだ?」

ガルロアの言葉に思考を中断してニーナが反応する。

「敗北を確信してしまって、だから強さを求めたあなたを間違っているとは言いませんが、ですが一つだけ言わせてください」

向こうに隠れているというレイフォンを思う。

彼が良識を無視してまでこんなところまで追いかけてきた理由は、ミィフィに押されたからというだけではないのかもしれない。

明らかに様子のおかしい自分達の隊長を心配したというのもあったのだと思う。

「一人で強くなる必要なんかないじゃないですか。
人は一人より二人のほうが、二人より三人の方が強くなれます。
ニーナさんに頼られたいと思っている人はきっといます。
ニーナさんを助けたいと思っている人はきっといます。
その人たちを無視しないであげてください。
例えばあなたの作った小隊の人たちは、きっと今のあなたを見て心配してるんじゃないかとは思いますよ?
少なくとも一人、あなたを心配している人を僕は知ってます」

「無視してなどはっ・・・・・、いや、そうだな。一人で勝手に焦って、結果として私は周りがまるで見えていなかったのかもしれないな・・・・・」

そう言ってニーナは小さく溜息をついた。

「付き合ってもらってすまなかった。だが、お前のおかげで少しは答えが見えた気がする。色々話してくれてありがとう」

ずっと険しかったニーナの表情がだいぶ和らいだ。

それを見てガルロアは少し安心する。

実は、自分がちゃんと話ができているかどうかかなり不安だったのだ。

「力になれたならよかったです」

「ああ。本当に助かった。・・・・っとと、そうだ。まだお前の名前を聞いていなかったな。教えてもらえないか?」

そういえばそうだった。
ガルロアは一方的にニーナの名前を知っているが、まだ自己紹介はしていなかった。

「ガルロア・エインセルです。そんでこっちの娘はユリア・ヴルキア」

「そうか。ガルロアにユリアか。もう知っているようだが私は三年のニーナ・アントークだ。よろしく頼む」

とそう言って、ニーナはユリアのほうを向く。

「ユリアも付き合わせてしまってすまなかった。
それからさっきユリアが私に聞いてきた質問だが、ガルロアの話を聞いて少し考えが変わった。
いずれもう一度答えさせてくれないか?」

「ええ。待ってる」

「そうか。よかった。ありがとう」

ユリアの答えにニーナがにこりと笑う。

「だいぶ遅くなってしまったな。そろそろ帰ろう」

「ああ、それなんですけど、僕たちちょっと用事があるんで、先に帰ってください。
あっ。さっきも言いましたけど、今日は帰ってすぐ休んで、明日は学校を休んだ方が良いと思いますよ。気をつけてくださいね」

「ああ。ありがとう。それでは、またな」

そう言ってニーナは歩き始めた。

その後姿に声をかける。

「はい、また会いましょう、」

ニーナさん・・・・と続けようとして、ちょっと迷って呼び名を変える。

「先輩」

その言葉ニーナは少し驚いたように立ち止まって振り返り、そして苦笑した。

「そういえば私はお前の先輩だったな。すっかり忘れていた」

そしてひとしきり苦笑した後に、「じゃあ、またな」と今度こそニーナは歩き去っていった。

「さて、じゃぁちょっと用事を済ませるとしようか」

そういったガルロアをユリアが「ねぇ」と引き止める。

「ん?なに?」

「さっきロア言ったじゃない?
守りたいもののために戦うんだって。
それであなたはなんのために戦うの?」

そういえばニーナにも同じこと聞かれた。
答えるのは恥ずかしかったから、あの時は答えなかったが、まぁ今なら別に良いかもしれない。

「ユリアと過ごす日常を守るため・・・・・・・かな」

その答えにユリアは嬉しそうに笑う。

「ふふ。そう答えてくれると思った」

「それなら言わせないでよ。結構はずかしいんだから」

「・・・・・出撃予定は二日後だったわよね?」

いきなり変わった話題に少し驚きながらもガルロアは答える。

「うん。僕の守りたいものを守るために戦うよ」

「そう。私もきっと、私の守りたいものを守るわ」

「うん?」

ユリアの言葉にガルロアは少し首をかしげる。

そんなガルロアの事を見て、ユリアはやんわりと微笑んだ。

「私はあなたを守るわ」

そう言われたガルロアは嬉しいやら情けないやら、なんとも微妙な気分になった。







        †††






「ユリちゃん、ガルルンの前ではあんなに可愛い顔するんだね」

「ああ。なんだかガルロアに嫉妬してしまいそうだな。私たちがこの前ユリアを着せ替え人形にしたときはほとんど表情が変わらなかったからな」

「あの・・・・・、着せ替え人形って言い方は・・・・・ひどいと思うよ?」

そんな三人の友人達の会話を聞き流しながら、レイフォンは先ほどまで交わされていたニーナとガルロアの会話を思い出す。

活剄を使って限界まで聴力を強化すれば、なんとか聞こえない距離ではなかった。

盗み聞きをすることに多大な罪悪感は感じたが、それ以上に最近様子のおかしいニーナが心配だった。

ちなみに自分が彼らの会話を聞くことができていたことを三人の友人には話していない。
盗み聞きした内容をさらに言いふらすほど良識を失ってはいない。

盗み聞きをした時点でかなり良識からは外れているが、それでも聞いてよかったとレイフォンは思った。

ニーナの抱えていた悩み。
単に前回の対抗戦で負けたことを気にしていたわけではなかったらしい。
それを知ることができてよかった。
できればレイフォンはニーナの力になりたいと思っている。
だから聞けてよかったと思う。

そしてそれと同時に感謝した。

カリアンから、決して感情移入してはいけないと言われていたが、ガルロアとユリアに感謝した。

「まぁ、可愛い服きたユリちゃんをガルルンに見せたときの、あのガルルンの反応は傑作だったよねぇ・・・・・って・・・・・・あれ!?あれっ!?」

「ん?どうしたミィ?」

「ちょっとっ!?ガルルン達こっちに近づいてきてない!?」

そのミィフィの言葉にその場にいる全員が固まる。

確かにガルロアはまっすぐにこちらに向かってきている。

「どど、どうしよう!?」

ミィフィが慌てるが、もうどうしようもない。

そしてやがてガルロアとユリアはレイフォンらの前にやってきた。

「バレてた?」

てへっと可愛らしく(?)舌をだすミィフィにガルロアは溜息をつく。

「バレバレだよ」

なにやら意味ありげにユリアのほうを見ながらガルロアはそんなことを言う。

「全くなにやってるんだか。ほら、そろそろ帰らないと風邪ひくよ」

「あれ?怒んないの?」

「どうせ怒っても無駄だと思うからさ。ほらほら、さっさと帰ろう」

そうやってみんなを急き立てるガルロアにレイフォンは小さく声を出す。

「ありがとう」

ガルロアはそれに少し驚いたような顔をしたが、やがて「聞こえてたのか」と苦笑した。










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