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No.27866の一覧
[0] 【チラ裏から】 人間と汚染獣と (鋼殻のレギオス)[くろめがね](2011/09/14 00:50)
[1] 第1話 ~旅立ち~[くろめがね](2011/10/05 22:21)
[2] 第2話[くろめがね](2011/10/05 22:29)
[3] 第3話[くろめがね](2011/10/19 20:53)
[4] 第4話[くろめがね](2011/10/19 20:55)
[5] 第5話[くろめがね](2011/10/19 21:03)
[6] 第6話[くろめがね](2011/11/27 15:54)
[7] 第7話[くろめがね](2011/11/27 15:39)
[8] 第8話 ~ヨルテム~[くろめがね](2011/11/27 15:41)
[9] 第9話[くろめがね](2011/11/27 15:49)
[10] 第10話 ~ツェルニ~[くろめがね](2011/11/27 15:54)
[11] 第11話~原作1巻~[くろめがね](2011/11/27 15:59)
[12] 第12話[くろめがね](2011/11/27 16:05)
[13] 第13話[くろめがね](2011/11/27 16:10)
[14] 第14話[くろめがね](2011/11/27 16:14)
[15] 第15話[くろめがね](2011/12/27 16:06)
[16] 第16話[くろめがね](2011/12/27 16:12)
[17] 第17話ー1[くろめがね](2011/12/27 16:21)
[18] 第17話ー2[くろめがね](2011/12/27 16:21)
[19] 今は昔のガルロア君[くろめがね](2011/12/27 16:39)
[20] 第18話[くろめがね](2011/12/27 16:30)
[21] 第19話~原作二巻~[くろめがね](2011/10/02 05:08)
[22] 第20話[くろめがね](2011/12/27 16:50)
[23] 第21話[くろめがね](2011/12/27 16:46)
[24] 第22話[くろめがね](2012/03/18 21:05)
[25] 第23話[くろめがね](2012/03/25 22:16)
[26] 第24話[くろめがね](2012/04/07 10:11)
[27] 第25話[くろめがね](2012/04/07 10:10)
[28] 第26話[くろめがね](2012/04/07 11:22)
[29] 第27話[くろめがね](2012/07/13 23:08)
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[27866] 第15話
Name: くろめがね◆b1464002 ID:129a9d59 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/27 16:06
武器はある。
錬金鋼がある。
白金錬金鋼の大剣が一振り、鋼鉄錬金鋼の剣が一振り。

念威操者のサポートはないが、都市内での戦闘ならば、サポートは必要ない。

今、ツェルニを襲っているのは幼生体。
幼生体は一体一体の力は低く、それは学生武芸者でも十分対抗できうるものなのだが、しかし幼生体は群れを成す。一体一体ならば学生武芸者にも対抗できるだろうが、1千を超える幼生体の群れを相手にするのは学生武芸者にとって脅威であり、それはつまり、学生のみで運営されている学園都市ツェルニにとって脅威である。

自分がこの都市にいる以上、ツェルニを滅ぼさせるわけにはいかず、幸い自分には幼生体を苦も無く相手にできるだけの武芸の実力があるが、しかし自分は多数殲滅や広域殲滅のための技を持っていない。

さて、そんな中で自分はどう立ち回るべきか。

ガルロアは鳴り響くサイレンの音を聞きながら、思考を加速させる。

現在いる宿舎の窓から外を見れば、多くの人間が、このサイレンの音が何を意味するものなのかをとっさに理解することができずに戸惑っている。

何をしている。さっさと動け。汚染獣が来た以上、僕達は少しでも早く行動をしなくちゃいけないんだ。

ガルロアは頭の中で動けずにいる人々を叱責する。
しかしそれは同時に自分自身への叱責でもあった。

ガルロアは頭の中ではあれこれと考えているが、しかし動き出すことはできないでいた。

目の前にいる一人の少女の存在がガルロアに迷いを与える。
ユリアの存在がガルロアの中に迷いを生む。
ユリアが何かをしている訳でもないのに、

ガルロアはユリアを見たまま、動けなくなっていた。

いつか、聞いたことがある。
汚染獣に仲間意識があるのかどうか。
ユリアは「ない」と答えた。

その質問は、もしも自分達のいる都市が汚染獣に襲われたら、自分とユリアがどうするべきなのかを考えるために聞いたのだった。

「ある」と答えられたら手詰まりで、「ない」と答えてくれれば普通に汚染獣を撃破すればいい。
そしてユリアは「ない」と答えたのだ。

そして、今まさに自分達のいる都市が汚染獣に襲われている。

しかしガルロアは動けない。
仲間意識があるのかどうかという問題は解決しているのに動けない。

実際にこのような状況に陥り、その状況下でユリアを見て、そして新たな迷いが生まれてしまった。
その迷いがガルロアを捕らえて離さない。

果たして・・・・・、

人間と汚染獣は相容れないものだと、人間と同等以上の思考能力を得たことで理解し、
人間と汚染獣は相容れないものだと、ずっと一人孤独に荒れ果てた大地に立ち続け、
人間と汚染獣は相容れないものだと、人間としての感情を持ちながら、決して人間と関わろうとしなかった彼女に、

彼女が初めて関わりを持った人間である自分が、人間と汚染獣が相容れないものであるという現実を見せ付けてしまっていいのか。
そんな光景を見せてしまっていいのか。

「ユリア・・・・・、」
大きな迷いを抱えたまま、ガルロアは言葉を紡ぐ。

「もう一度、言葉に出しておこうと思うんだ。
僕は何があっても君のそばを離れない。世界がユリアを遠ざけても、僕だけは必ずそばにいる。だって・・・・・」
ガルロアはユリアの目をしっかりと見据えて口にする。

「僕はユリアのことが大好きだから。」

ユリアはその言葉に少し驚いたような顔をしたが、しかしそのまま何も言わずにガルロアに話の続きを促した。

「僕は色々あって、故郷じゃほとんど孤立してた。いや、違うかな?僕のことを思ってくれてた人は、たくさんいたかもしれないけど、僕自身の方から大切に思えるような人は、もうあの都市にはいない。」

ガルロアは過去のことを思い出す。

「両親はもう死んでる。母親は僕が殺してしまったみたいなもので、父親は僕のために死んでいった。」

母親は、自分の出産の直後に死んだらしい。
父親は、自分が武芸者として、それなりに金を得られるようになった頃に死んでしまった。

「仲の良かった友達なんていなかったし、それでも唯一、こいつは自分の親友だって思えた奴も、何年か前に都市を出て行ったっきり戻らない。」

父親が死んだのと時を同じくして、各地を放浪しているという集団がガルロアの故郷であるムオーデルを訪れていた。何を思ってそんなことをしたのかは分からないが、親友はその集団と一緒に都市の外へと出て行った。

「親友が出て行った少し後くらいにさ、都市の中で僕に勝てる人間がいなくなった。
そのせいで、大人の武芸者たちは僕のことを疎ましく思っていたみたいだった。
都市の中で一番強くなっちゃったから、戦闘にでる回数も多くなった。
そのせいで、一般の人たちは僕のことを、都市を守ってくれる存在として、感謝と尊敬と期待を寄せてきた。
僕がもうちょっと器用だったなら、武芸者たちの態度を完全に無視して、一般の人たちの賞賛に喜んでって感じにできたのかもしれないけど・・・・・、」

そこでガルロアは既に歪ませていた表情をさらに歪ませて、苦汁のにじむ声を出す。

「僕は、都市の武芸者たちの態度がたまらなく嫌だった。
一般の人たちが僕に寄せる感謝や尊敬や期待の感情も嫌だった。
僕のことを自分勝手に疎んで、僕を遠ざける武芸者たちが嫌いになった。
僕のことを『神童』とか何とか言って、僕のことを自分達とは違う一段上の存在なんだって勝手に判断して、僕に近づいてこない一般の人たちが嫌いになった。」

母親の記憶は何もなく、尊敬していた父親は、父を守るためにと必死になって修練した武芸が都市に認められた頃に死に、親友は都市を出ていって、都市の人間が嫌いになって・・・・・。

「ネガティブだなって自分でも思うけどね。」

歪ませていた顔をなんとか笑わせて、おどけるようにガルロアはそう言った。

「それでも、それが僕の本心で、だから僕にはあの都市のために命を懸ける理由なんてなかった。あの都市のために戦う理由なんてなかった。それなのにね・・・。なかったはずなのにね・・・・・。」

と今度は本当に、苦笑ではあったけれど笑顔を浮かべた。

「理由なんてなかったはずなのに、結局僕はユリアと会うまであの都市のために戦い続けたんだ。こんな都市からは絶対に出て行ってやるって、ずっと思ってたのに、僕はユリアと出会ったあの時まで、あの都市で戦い続けたんだ。都市間戦争でも・・・・・、」

ガルロアは一息入れて、今度は真剣な表情を作る。

「もちろん汚染獣戦でも・・・・・だ。」

ガルロアの故郷、ムオーデルは、少なくとも年に一回は汚染獣に襲われる。
二回の年もあったし、多いときには四回の年もあった。
その全てをガルロアは、時には都市の武芸者と共に、時には単騎で、全てを殲滅している。

「僕は、出て行きたいと思っていた都市を出て行かずに、都市を守り続けた。だってさ、人が死ぬのは嫌だった。父さんが死んだときにそう思った。人が死ぬのは悲しいってさ。全く知らない赤の他人のために己を捨てて正義を尽くそうなんて、そんな気概は持ち合わせちゃいないけどさ、少なくとも僕が戦えば、あらゆる戦闘においての死傷者がグッと減ることは確かなんだ。自分で言うのもアレだけど、僕は強いからね。」

まあ、ユリアには全く歯が立たないけどさ、と少し悔しそうにガルロアは付け加え、話を続ける。

「戦闘において、僕が一つ傷を負えば、それだけで十人の人間の命が救われる」

ガルロアは再度、表情を真剣なそれに戻して、淡々と話す。

「僕にとっては小さな傷を一つ負わされる程度の相手であっても、僕が戦わなければ十人の人間が命を散らし、二十人が負傷して、三十人の遺族が心に傷を負う」

ガルロアがユリアと出会う直前に撃破した汚染獣。
雄性三期だった。
雄性三期の汚染獣と普通の都市が戦闘を行ったら、少なからず死者や負傷者が出るはずなのに、ガルロアは単騎で、傷の一つも負うことなく、これを撃破している。
ガルロアがそうしなければ、ムオーデルは少なからぬ被害を受けたことだろう。

「僕が動いて、それで救われる人がたくさんいる。戦う理由があっても、戦わない理由はなかった。都市の人たちを嫌ってはいたけれど、死んでも良いなんて思えなかった。それに、武芸者の人たちはともかく、一般の人たちが僕に向けてた感情は好意なんだ。口では嫌いだって言えても、心で嫌いきれるわけもない。」

尊敬されるのは嫌だったが、感謝されるのは嬉しかった。

「だから、僕はあの都市で戦った。汚染獣を何体も・・・・・殺した。理由なんて言うまでも無いでしょ?汚染獣が人間を殺すから。汚染獣が・・・・・人間の敵だからだ。」

ガルロアは真剣な表情を崩さないままに、ユリアの目を見据えたままに、はっきりと口にする。
ユリアは何も言わずにガルロアの話を聞き続ける。

「僕がユリアに初めて会ったとき、君は人間と汚染獣は相容れないと言った。僕はその言葉に肯定も否定も返さなかった。肯定も否定もしないまま、君と一緒にいたいと言って、そしてユリアは僕についてきてくれた。」

あの時の記憶は今でも色あせることなくガルロアの中に残っている。

「でも、もしも『人間と汚染獣は相容れることができるか?』って改めて聞かれたら、僕は迷うことなく『できない』って答えるだろうね。」

当たり前の話ではある。汚染獣と相容れることができるわけが無い。

「人間である僕は、汚染獣は敵であると思っている。そしてユリア、君は汚染獣だ。でも、ユリアは僕の敵じゃない。人間がユリアを敵だと判断しても、僕にとっては敵じゃない。つまりさ・・・・・、」

ガルロアはユリアに優しく微笑みかける。
ユリアはやはり何も言わずにガルロアの言葉を待つ。

「僕はユリアのためなら、人間を裏切るよ。それくらい君のことが大好きだ。」

ガルロアは言い切って、それでもさ、とそのまま言葉を続ける。

「それでも。君のためなら人間を裏切れるけど、だからといって僕は人間の敵になりたいわけじゃない。人間の味方でありたい。僕はユリアの百分の一くらいには人のことが好きで、彼らが死にそうなら助けたいって思うんだ。」

ツェルニの武芸科の実力では、たとえ幼生体との戦闘とはいえ、きっと死者がでる。人が死ぬのは嫌いだ。できれば阻止したい。

「僕は彼らを助けたい。でも、僕はそれ以上にユリアの味方でありたいとも思ってる。だからこそ、聞きたいことがある。」

ガルロアは聞く。

「僕が、人を助けるために汚染獣と敵対したとして、そのとき僕はユリアの味方であることができるかな?」

しかしユリアはそれに答えなかった。

代わりに違うことを話し始めた。

「・・・・・人間と汚染獣は相容れない。私はあなたと会ったときにそう言ったし、今でもそう思ってる。私には過去の記憶がある。記憶の中で、私の本能は人間は食料であると叫んでる。実際に私には人間を食べた記憶だってあるし、都市を滅ぼした記憶だってある。」

ユリアは初めて会ったときのような、まるで感情の無い表情をし、まるで感情の無い瞳でガルロアを見て、まるで感情の無い声を発す。

「人が死ぬのは嫌いだってロアは言った。私は人を殺してる。人をたくさん食い殺してる。いくつもの都市を滅ぼしてる。そんなこと、ロアにも想像できてるでしょう?私はまぎれもなく人間の敵よ。私は、自分でそう思ってるし、あなただって分かってるでしょう?それなのに、・・・・・・それなのに・・・・・、
それなのに、なんであなたは私の味方でありたいと言ってくれるの?」

そう言ったユリアは、やはり感情を表に出さなかったが、感情を見せないその様子がガルロアにはひどく悲しげに見えた。

「ユリアは人間の敵じゃない。人間の敵『だった』んだ。少なくとも僕はそう思ってる。それに、たとえユリアが人間の敵だったとしても、僕は君の敵にはならないよ。君が過去にいくら人間を殺していたって、そんなことは気にならない。さっきも言ったでしょ?僕は赤の他人のために正義を尽くせる人間じゃない。僕は基本的に自分のことばかり考える人間なんだ。赤の他人の恨みのために、僕にとって大切な存在である君を敵とすることなんて考えられないんだよ。」

ガルロアの偽りなき本心。
しかし、それを聞いてもユリアは納得しなかった。

「なんで、ロアはそこまで私のことを大切だと思うのよ?あなたと一緒にいる間、今まで聞かなかったけど、ずっと不思議に思ってた。何であなたは私のために故郷を出たの?都市の人を嫌いきれていたわけではないんでしょう?心のそこから都市を出たいと思っていたわけではないんでしょう?何でそこまでして私と一緒にいてくれるの?私は、思考能力を得ただけで、その本質は汚染獣なのよ?闘争本能も残ってる。破壊本能も残ってる。いつ暴走するかも分からない。そんなもののために、あなたが都市を出た理由は何なの?」

「・・・・・・・今更そんなことを聞かれるとは思わなかった。」

ユリアの言葉にガルロアは苦笑した。

「今までにもう何度も言っただろ?僕はユリアのことが大好きなんだ。ユリアに会って、ユリアと話して、それで、僕はユリアが好きになった。一目ぼれみたいな奴だよ。君を見て、君の声を聞いて、気付いたら僕は君に僕のことはロアと呼んでもらいたいって思っちゃったんだ。汚染獣であるユリアには恋愛感情なんて無いかもしれないし、そんなもの理解もできないのかもしれないけど、それでも僕は君のことが大好きだ。」

そしてガルロアは恥ずかしいから何度も言わせるなといった風に、照れ笑いを浮かべた。

が、直後、その表情が引き締まる。

「もう、時間がないみたいだ。」

音が聞こえた。

「戦闘が始まったみたいだ。」

いくつもの射撃音が一斉に聞こえ、その後、硬いものがぶつかり合うような音が響く。
一般市民の避難はまだ完了しきっていないようだが、汚染獣はそんなものを待ってはくれない。

「そろそろ答えてくれないかな。僕は汚染獣と戦ってきても良いかな?」

「・・・・・。」

「汚染獣と敵対しても、僕は君の味方でいられるかな?」

「・・・・・・。」

ユリアは何も言わずに時間を置いた。
わずか数秒の沈黙が、ガルロアにはとても長く感じられた。

そしてやがて、ユリアは小さく一つため息をついて、そしてずっと続けていた無表情を解いた。

「まだ聞いてみたいことが残ってるから・・・・・。手早く終わらせて戻ってきて。」

肯定・・・・・ということなのだろうとガルロアは判断した。

「分かった。」

ガルロアは答えて、ユリアに背を向けて、部屋の扉へと向かっていく。
その彼の背に、ユリアは言葉を投げかけた。

「一応、一つだけ言っておきたいことがあるわ。」

「ん?なに?」

「私もロアのことが好きよ。・・・もっとも、これはきっとあなたの言うとおり、恋愛感情というものではないと思うけれど。」

予想外の言葉に、ガルロアの動きが止まる。

「だからね、私はむしろ積極的に今この都市に来ている奴らを殲滅するつもりだったのよ。私は都市外でも生きられるけれど、あなたは違う。だってあなたは人間だから。この都市が滅べばロアは死ぬ。それならこの都市、あんな奴らにくれてやるにはもったいないわ。」

ああ、もしかして。とガルロアは思う。

「汚染獣も人間も、私にとってはどうでもいい。汚染獣は私にとって仲間じゃないし、人間は私の敵。汚染獣が人間に殺されようと、人間が汚染獣に喰われようと、私は全く気にならない。でもあなたが死ぬのはとても嫌。」

気を遣う必要はなかったのかもしれない。

「私は汚染獣で、あなたは人間。私たちは道理的には敵同士。だけどロア?あなたが、私のことをあなたの味方でいさせてくれるなら、私はいつだってロアの味方でいるわ。」

背中越しにかけられる声。
ガルロアにはユリアがどんな表情をしているのか見えなかった。

「じゃ、行ってきて。あなた一人で十分でしょう。私も行っても良いんだけど、というより私も一緒に行きたいくらいなんだけど、私はここで待ってるわ。私はあまり目立った行動はとらないほうが良いんでしょう?」

「うん。そうだね。」

「でも、もしも何かあったら助けに行くわ。」

「うん。ありがとう。」

「あなたがしてくれた話、あなたの言った私の質問への答え、全部は理解できなかったかもしれないけど、嬉しかったわ。」

「そっか。それなら良かった。」

「じゃ、死なないでね。さっきも言ったけど、まだ聞いてみたいことがあるんだから。」

「うん。心配要らないよ。」

そう言ってガルロアは部屋を出た。
結局、ユリアがどんな表情をしていたかは見なかった。

「言葉だけで十分だ。よしっ。いくかっ。」

気合をいれて走り出す。

凄まじい速度で道を駆け、建物の屋根を駆け、空中を翔け、幼生体との戦闘の現場にほんの数分でたどり着く。

「うへ~。すごい数だ。」

レギオスの一番外側、外縁部に程近い建物の屋上に立って、戦況を確認する。

「射撃部隊が空を飛んでる幼生体を撃ち落して、落ちた汚染獣を地上で殲滅しようって感じかな。」

それがツェルニの武芸者の戦い方だった。

「僕一人じゃあの数を殲滅することはできない。ツェルニの武芸者の犠牲をできる限り減らすことを考えて。さて、どこを叩けばツェルニの武芸者の負担が一番減ることになるかな・・・・・。できれば、まず母体を潰したいんだけど・・・・・。」

汚染獣の幼生体は繁殖期を迎えた雌性体から生まれる。
普通なら、母体である雌性体は幼生体が生まれると、その身を幼生体に喰わせるのだが、今回のような場合、つまり出産後に近くに自分の代わりとなる食料、人間がいる場合、幼生体は人間を襲い、雌性体は生きたまま地下に潜む。
生きているとはいっても、幼生体は母体の腹を食い破ってでてくるため、すでに瀕死ではあるのだが、しかし雌性体は自らの子が殺されすぎると、救援を呼び、付近にいる汚染獣を呼び寄せる。

「本来なら幼生体と母体は同時進行で殲滅するものなんだけど、ツェルニの生徒は現状で一杯一杯って感じだ。今はまだ互角だけど、時間がたてば分からないな。母体殲滅に向ける戦力はありそうにない。僕が行けば何とかなるんだけど、それには都市外装備と念威操者のサポートが必要。ツェルニ生ですらない部外者の僕が今からどっちも揃えるには時間がかかりすぎる。」

戦場において、部外者が何を言ったところで聞き入れてもらえることはないだろう。

「でも、ただの部外者じゃなくて、実力のある部外者なら話は違う。戦場に飛び込んで実力を示せば、きっとツェルニの生徒の誰かが念威をとばしてきてくれる。そのときに事情を説明すればいいかな?ってそうだ。うん?あれ?」

そこまで考えたときに、ガルロアは不自然を感じた。

レイフォンがいない。
戦場のどこを見ても、レイフォンの姿はない。
昨日の対抗戦で保健室に送られていたが、たいした怪我ではなかったはずだ。
なのにどこにもいない。
何故、いない?

「ここにいないなら、きっとレイフォンが母体の撃破に向かってるんだな。」
ガルロアはそのように仮定して、
「なら、僕は心置きなく幼生体と戦える。」
自分のこれからの行動を決断した。

「そんじゃ、まずは撃ち落されて山みたいに積みあがってる、あの幼生体を切り崩そう。
レストレーション」

白金練金鋼の大剣を復元し、肩に担ぐ。
ガルロアは立っていた建物の屋上から飛び上がる。
それと同時に白金練金鋼に剄を込める。

ツェルニの生徒達の射撃部隊を超え、陸戦部隊を越え、彼らが戦っている幼生体をも飛び越えて、外縁部ギリギリのところでうごめいている幼生体の大きな塊の前まできたところで、ガルロアは何もない空中で勢いよく大剣を振るう。
すると、大剣に込められていた剄が放出され、ガルロアの着地点にいた幼生体が轟音と共に一掃される。

外力系衝剄の変化、轟爆。
超密度までに圧縮させた剄を放出と同時に爆発させる。
殺傷性は低いが、恐ろしいほどの衝撃波を生むため、牽制として使うのに最適な技である。

そして、ガルロアは轟爆によって生まれた空白地帯に着地する。

そしてガルロアは汚染獣の群れの真っ只中に飛び込んでおきながら、何も気負っていないように笑いながら、しかし、その目は幼生体を鋭く睨みつつ、気楽な感じに幼生体へと声をかける。

何の意味もない行為だが、何故だかガルロアはそんな気分になっていた。

「手早く終わらせて戻って来いって、お前らの大先輩に言われてるからさ。」

剣を構えて剄を込める。

「申し訳ないけれど、僕と、その大先輩のために、手早く死んでくれ。」

込めた剄を前へと穿つ。

「人間と、一人の汚染獣のために死んでいけ。」

正面の幼生体が息絶える。






「戦闘開始だ。ここにいる奴、全匹まとめてかかって来い!」














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