いや、いいんだけどさ。
まだまだ一泊しかしていない段階だし。
これから徐々に親しくなればいいんだから…………泣きたい。
緋翔メンバーはとっても仲良しさんのようで家族同然で『先輩×ネネ』『ガイア×ユミ』らしく。
朝食をともにしただけでダメージが。
アイコンタクトだけでソースをとってあげたりとか。
逆に視線を向けることなく、「そこにあるのが当たり前」っていう感じでお茶を受け取ったりとか。
新婚夫婦特有の痛さはまったくない熟年夫婦のシンパシーが要所要所にあって。
新参者のオレを気遣ってかいろいろと話してくれるのだけど、疎外感がはんぱない。
彼女欲しいなぁ、はぁ。
「君のステータスを見せてもらったけど、バラバラだね。広く浅く、かな」
オレのステータスを表示させたウィンドウを見たうえで先輩は呆れたようにそう言った。
スキルによっては、相手の数値を見破るものはあるしたぶん先輩も持っているのだろうけど、別に許可してしまえばそんな手間とらずに覗かせることができる。
ちなみにこのゲーム、非表示に設定しちゃえばレベルどころかハンドルネームすら隠すことができるのが変わっているところだ。
「なんでもやりましたからねー」
「それが貧乏の原因なんじゃない?」
「えっ? そうなまさか」
「普通は一つのジャンルに絞ってクエストを受けて行って、失敗を重ねながら関連する技能の熟練度を上げていき、あとはレベル上げと慣れで成功率を高めていくんだよ」
失敗イコールその分野での才能はないってことじゃなかったのか……
「あとは、レベルが5を超えてくると超初心者用のクエストは受けられないようになるからね。そのジャンルの一番簡単な依頼を受けたつもりでも、それは基礎が身についていることが前提のクエストだったりとかあるらしいよ」
身に覚えがありすぎる。
そういえば最初のうちは見向きもしなかったけど鉢植えを育てるクエストとかあったのになくなって、それで畑を育てるクエストを請けた記憶が。
こっちは素人なのに妙に不親切だなと思っていたんだよ。
「ところで――なんでオレはレッスンされることになってるんでしょうか?」
気になったのはそこなんだよな。
昨夜弄ってみたところ、権限さえもらっておれば店のシステムを弄ることはけっこう簡単にできた。
ありかわらず先輩に説明してからやってもらってもできなかったけど。
とにかく今日からはどういうシステムにするかっていう話し合いになると思っていたんだけど、オレは今、先輩と庭にいる。
「君があまりにサガの常識を知らないからね。そんな人間のつくるシステムなんてこわくて採用できないよ。だから、ちょっと鍛えて一人前の冒険者になってもらおうかと」
あうー。なる。無知は罪ー。
こういう仕事っていうのはプログラミングの技能を持っているだけでなくいかにお客さんのニーズに対応できるかっていうのがポイントだ。
普通は聞き取り調査とかをしていて合わせていくんだけどやっぱ実際に体験したことがあるってのは大きい。
そこを指摘されたらなんも言えないわこりゃ。
オレは先輩がステータスを見ている間、柔軟をしていたわけだけど。
「先輩、この柔軟ってなんの意味があるんですか? こっちじゃストレッチの意味はありませんよね?」
「君にしてはいい質問だね」
アバターっていうのは戦闘民族といっていいぐらい性能がいい。
足がつったりとか肉離れとかはまずすることがない。
後遺症の残るような怪我だってない。
寝起きにいきなり全力疾走したってまったく問題はないだけのスペックはあるわけだ。
なのになんで柔軟を指示されたのやら。
「エドは、戦闘に関連する能力値がどれだけあるか挙げられるかな」
「流石にそのあたりのことは合宿で覚えましたよ」
まずはレベルとレベルが上がることに上がりかつボーナスを振れられるようになるステータスら。
HP(体力ゲージ)とEP(サガでのMP)、STR(筋力)、INT(知性)、AGI(敏捷性)、DEX(器用さ)、VIT(生命力)、MEN(精神力)の八つ。
オレは最初に銃を選んでいたためにDEXが高めになっていてあとはAGIが少々、他は軒並み低かったりする。
どのステータスがどういうことに関係するか、基本的なことは知っているけど細かいところはあんま調べていなかったり……
そして、熟練度の関係する武器分類・系統・属性・スキルたち。
武器分類というのは、大分類として【剣・刀・槍・杖・斧(鎚)・弓・拳・ツール】の八種類があって、さらに剣のうちの小分類として大剣やらナイフやらレイピアやらがある。大分類と小分類ごとに熟練度が設定されていて、大剣からレイピアは持ち替えたって『大分類:剣』の熟練度は共通しているからある程度は対応できるけど、大剣から『大分類:刀』に属する斬馬刀に乗り換えようとしたらまた1から熟練度上げをしなければならなかったりする。
銃はツールに含まれている。ツールは、爆弾とかドリルとか――まぁぶっちゃけると「その他」っていうことになる武器分類だ。
けっこうギミックのある武器があってオレは気に入ってたりする。
系統は、【武芸・銃撃・魔導・法力・呪術・変化・調合・錬金】の8系統。
これは八つの異世界にある技術体系を元ネタにしているとかで、完全に仕組みの異なるスキルがそれぞれにあって、互換性はまったくなかったりする。
武芸はまぁ説明いらないな。武器分類ごとの武器を操る系統っていうだけだ。
なので、オレのやっていた銃は武芸に属していたりする。
銃撃っていうのは、練習しているところを見たところ魔法弾みたいなやつを掌から放っていた。鍛えていけば、霊能探偵の十八番からかめかめ波までできるらしく胸が熱くなる。
で……魔導・法力・呪術の違いはよくわからない。オレはひっくるめて魔法スキルと呼んでいる。
だいだい名前から受ける印象そのままの特徴があるらしいけどどうでもいいな。
変化はあれだ、狼男。メタモルフォーゼ。
女の子に獣耳が生えるやつ。……ぶ男がTSしていることもあるから油断はできないぞっ!!!!!
調合と錬金は主に生産系のスキルなんだけど二つの区別がオレにはつかない。
合宿のときのテストに出たはずだけど、あれから三カ月立っているわけでとうの昔に忘れた。
オレは武芸がちょっとだけあるけどないようなもんだな。
属性は、【物理】と【火炎・氷結・流水・電磁・地面・旋風・幻影・陽光・暗闇・精神・念力・異常・時空】の13属性+1。
とはいっても低レベルのオレにとっては、他のゲームの無属性にあたる物理属性くらいしか関係ないからなー。
物理以外の属性を持っている武器なんて高額すぎて手が届かない。
先輩はメインが<時空>でサブは<暗闇>と<幻影>といっていたっけ?
なんか悪役にいそうな属性だ……似合うな。
スキルのほうは<剣術スキル>や<騎乗スキル>とかで、特定の動きをするときにアシストを受けることができたりする。
熟練度を上げることで新しい技や技能を習得できるので上げといて損はない。
これがなかったら元々一般人だったオレたちがモンスターと戦えるわけないので大事だ。
そういったことをまとめて説明するのを、先輩はときたま補足しながらきいていってくれていた。
話し終えてからからからになった喉を飲み物で癒しておく。
ユミちゃんのハーブティーは美味しいが……舌があんまこういう味に慣れてないので馴染んた味が欲しくなる。
コーヒー牛乳が飲みたいな。
「それらは合宿やマニュアルに載っている基礎知識だけどさ――ゲームに隠しステータスはつきものだと思わない?」
「隠しステータス?」
「そっ、僕はこういうのが探しだすのが大好きでね」
コーヒー牛乳のことを考えていたらなにやら先輩が重要なことを言い出した。
ポケモンの努力値とかそういうのだろうか。
こういうのは地味に大切で、初期から考えておかないと後々に後悔することになるからとても大切だ。
「厳密にわかってるわけじゃないし、半信半疑の人だっている。けど、僕はあると思っているんだ。柔軟スキルなんてないから柔軟をしていたってステータスが上昇するわけでもなく何かの熟練度が上がるわけじゃない。もちろんEXPが加算されるわけでもない。だったら意味ないかと思えば、毎日柔軟をやっていたら日増しに体は柔らかなくなっていく。ランニングしていれば足ははやくなるし、腕立て伏せとかの腕力トレーニングをすれば腕力がつく」
そこで区切って、先輩のいつのまに取り出したのか小太刀で大上段の素振りを一回。
距離はあるのに剣風がここまで届き、髪が左右に分かれる。
そして、まるで自分が斬られたのかと錯覚するほどの無言の気迫。
「剣を振るという動作をカウントされているのかもしれない。たんにアバターを操作することに慣れていっているだけなのかもしれない。もしかしたら、筋肉繊維の一本一本に熟練度のようなものが設定されているのかもしれない。わからない、わかっていないけど――僕は日々の素振りと型稽古を怠ったことはないよ」
『剣士最強』と呼ばれている先輩の強さの秘訣はそういうとこにあるのかもしれない、と、なんとなく信じれた。
けど、そのあと「じゃ、僕が補助つくから頑張って。一ヶ月後までには股割りを完全にできるようになろう」という一言からはじまった地獄に先輩不信になった。いやさ、アバターじゃ故障することはないからって痛い痛い叫んでいる人間にあんなことできるか、普通っ!? 死ぬかと思ったわ! ちなみに聞いたことによるとリアルでの股割りは普通数年かかるらしいし。それを一カ月まで圧縮するのは並の手段じゃ無理なわけで……
オレ、この人についていっていいのかな?