「さ、ついたよ。
ここがマミの住んでいるマンションだ」
「…うん」
出てきたのは生返事だった。
今更だが、気が乗らない。
あれから、最初の俺が死んでから、もう随分とたったが、人間と話すのは始めてだ。
キュゥべえとは日本語で話していたが、どんなに感謝していても、キュゥべえを人間だとは考えられない。
人間と正面から話し合うなんて、
…正直どんなことを言ってしまうかわからない。
これから会う、巴マミさんとは一切関係がないとは分かっていても、
ふとしたキッカケで感情が爆発してまうかもしれない。
俺はやっぱり人間が嫌いなのだ。
…と、思う。
なんとも言えない複雑な気分だ。
この気持ちは、俺にしかわからないものだろう。
人間から動物にされ、何度も何度も人間に殺されてきた、…俺にしか。
「ん?どうかしたのかい?」
「……いや、なんでもない」
「それならいいけど。
とりあえず僕はマミに君のことを説明してくるよ。
いきなり君に会ったら、さすがに驚くだろうからね」
ふむ。確かにそうか。
来客に応じてドアを開けたら、そこには自分がいた。
…なんて、怪談でしかない。
「了解。
それじゃ、しばらくその辺をぶらついているよ。
説明。長くなるんだろ?」
「そうだね。
君の境遇はとても複雑だし、話せないこともあるからね。
説明が終わったら呼びに行くから」
「うん。じゃあ、また後で」
そう言って俺はその場を後にした。
魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
神様 = In QB 第1章 - 魔法少女達の出会い - 第2話
巴マミの住むマンションから、ほど近い公園に俺はいた。
ちょうど下校時間らしく、ランドセルを背負った子供や、
制服を着た少年少女が楽しそうに帰宅している様子が見える。
砂場で遊ぶ小学生。遊ぶ約束をしながら帰宅していく少年達。
晩ご飯のメニューを考えながら、買い物へ向かう主婦。
活発そうな青い髪をした少女が公園にやってきた。
その後ろを、桃色の髪をした少女が追いかけてくる。
少女達はネコに餌をあげに来たようだった。
桃色の髪の少女がカバンから取り出したネコ缶を、1匹のクロネコが頬張っている。
平和な光景だった。
昔から俺はこんな光景を見るのが好きだったんだ。
気が緩んでしまったのか、ふと、涙がこぼれてきた。
左目はソウルジェムを隠すためにずっと閉じていたが、
右目の視界も滲んでしまい、前が見えない。
だが、今くらいはいいだろう。
ようやく手に入れることができた平穏なんだから。
そう思い、俺はそっと右目の目蓋も落とした。
*
「あの、大丈夫ですか?」
誰かが俺に声を掛けてきたようだ。
先程の少女だろうか?
申し訳ないが、今は涙で顔を見ることができない。
「あぁ、ごめん。大丈夫だよ。
西日が目に差し込んできただけだから」
そう言うと、少女は少し安心したようだ。
涙も治まってきた。視界が鮮明になっていく。
やはり先程の少女。クロネコに餌をあげていた、桃色の髪の少女だった。
「心配かけてすまないね」
ほんの少し世間話でもしようかと想ったが、
公園の入り口から、青い髪の少女がこっちを見ていた。
「ほら、友達が待っているよ。
あの子、一緒に帰るんだろ?」
そう言って公園の入口で待っていたる、青い髪の少女を示してあげると、
桃色の髪の少女は、慌ててお礼を言って、駆けていった。
(お礼を言いたいのは、俺のほうなんだけどな…)
そう。
ほんの少しだけだが、あの子と話していて確信できた。
俺はやはり、人間は好きにはなれない。
…なれないが、人間を恨んでいるわけではない。
先程の様な平穏な日常を見るのも、変わらず好きだし、人と話すのも好きだ。
きっと巴マミさんとも仲良く出来るだろう。
すっと、立ち上がり、後ろを振り向くと、
「お待たせ。…行こうか?」
と、いつの間にかすぐ後ろまで来ていたキュゥべえに声を掛けた。
「いや、そんなに待ってないよ」
そう答えてくれたキュゥべえを肩にのせ、巴マミのマンションに向かう。
涙はもう流れてはこなかった。
「…あの子は」
「ん、なにか言ったか?キュゥべえ」
「いや、なんでもないよ。気にしないで。」
*
パァァーーン!!!
乾いた打音が、夕日が赤く照らす部屋の中に響いた。
思わず自分の手を見つめてしまう。
手のひらがジンジンしている。少し赤くなってしまったようだ。
どこからかカチカチとリズミカルな音が聞こえる。
状況をつかむことができない。
一体何がおこったのだろうか。
何も理解することができなかった俺は、1つずつ状況を思い出していくことしかできなかった。
少女、巴マミは、想像していたよりも更に上品な感じで、
その年代の子の中でも、とりわけて聡明な少女だった。
最初に会った時こそ、呆然としていたが、すぐに自分を取り戻した。
さすがに自分と全く同じ姿をした少女。
それも、男のような、否、男そのものの振る舞いをした存在が目の前に現れたんだ。
呆然とするのも無理はない。
正直俺だったら、そんな奴と笑って話あうなんてできないだろう。
どんなに頑張っても顔が引きつるくらいは仕方がないと思う。
それなのに、マミは笑って俺を迎え入れてくれた。
それだけで、彼女がいい子だとわかる。
それから、俺たちは、リビングでお茶を飲みながら、お互いの世間話も交え、お互いの事情を摺りあわせた。
今までのこと、これからのこと、マミの普段の生活や、先ほど公園で出会った少女達のことなど。
穏やかな時間があっという間に過ぎて行った。
マミとならやっていけるだろうと思いながら、これから共に頑張っていこうと笑いあい、
共闘を誓って、握手をしようとした。
――その時だった。
「ッッ――――――!!!!!!!!」
ヒッと、息を呑む音が聞こえ、握手をしようとしていた右手が閃く。
『マミ』の手を打ち据えて、乾いた音が静寂を破り裂いた。
そして俺は、無意識に動いた腕を、呆然と見つめていた。
そうだ。思い出した。
『俺が』、マミの手を、打ち払ったんだ…。
――――なぜ?
…違う。
本当はわかっている。
あの時、おれは、――マミの手が怖かった。
いや、今でも怖い。
その証拠に、俺は尋常ではないほどの冷や汗をかいている。
歯の根は合わず、今もガチガチと打ち鳴らしている。
震えも止まらず、目には涙すら浮かんでいる。
……怖い。恐ろしい。
だって…。
だって俺に向かって差し伸べられる手は、
――――いつだって俺を殺すから。
「ご、ごめん。マミ。
大丈夫。…大丈夫だから。
ただ、手。…手を、こっちに向けないでくれるか?」
「…………。
えぇ、わかったわ。
ごめんなさい。貴女を恐がらせてしまったのね」
「ち、ちがう!……ごめん。
マミのせいじゃないんだ。全部俺のせいだから、…だから」
震えながら、俺はマミに謝罪をした。
事実マミはなにも悪くない。
マミは大丈夫だとわかっているのに、手を打ち払ってしまった俺が悪いんだから。
「そう。わかったわ」
それでいい。俺なんかのせいで、マミを傷つけるわけにはいかない。
この子は、今まで出会ったことがないほど、いい子なんだから。
「それじゃあ、改めて」
――え?
「私は巴マミ。見滝原中の2年生。
そして、あなたと同じ、
キュゥべえと契約した、魔法少女よ」
「……………」
「これから、よろしくね」
そういって、彼女は俺に笑いかけてくれた。
聞きたいことも、言いたいこともいっぱいあるだろうに。
疑問を全て飲み込んで。気にも留めていないかのように振舞ってくれた。
これから、ここに居ていいのだと言ってくれた。
――嗚呼、ここならば大丈夫かもしれない。
今度こそ俺は、幸せになれるのかもしれない――。
そう、思うことができた。
*
「それじゃあ、まずは名前から決めましょう」
と、唐突にマミが切り出してきたのは、自己紹介のすぐ後だった。
キュゥべえの提案で、『神』のことはマミには伝えないようにすると決めていた俺は、
魔女の口付けを受けて、ネコの姿にされていた元人間という設定でマミに説明していた。
魔女の力のせいで、人間だったころの記憶を失った。
しかし、魔女の力のおかげで、キュゥべえの姿を見ることができるようになった俺は、
キュゥべえの力で人間になり、魔法少女となった。
今マミの姿をしているのは、そのためでこの身体は俺の祈りによって生み出された姿だ、と。
だから、自己紹介のときに名前を言うことができず、
それをマミは気にしてくれたのだろう。
「できたら、マミがつけてくれないか?」
そう。名前はマミにつけてほしかった。
俺が今信じられる存在は、キュゥべえとマミだけだ。
マミがつけてくれる名前だったら、好きになれる。
「私でいいの?」
「ああ。マミがいい。」
そう告げると、マミは考えだしてくれた。
色々と考えてくれているのか、ボソボソと名前らしき言葉がマミの口からこぼれてくる。
「…カッコいい名前が…、………ッフィーとか、…ピ…チュー…………天使とかどうかしら…、漆黒の…いいわね…」
……本当にマミでよかったのだろうか(汗)
ものすごい不安が頭をよぎる。
漏れ聞こえてくる名前は、どう考えてもD・Q・N。
漏れてくる名前に戦々恐々としながら、時間は過ぎていき、――ついに。
「よし、決まったわ」
「決まっちゃったの!!!!!?」
「………何かしら?その反応は」
すごい不安なんです。
とは、言えないよな……。
とりあえず聞いてみるしかないか…。ふぅ。
「ごめん。なんでもないよ。
じゃあ、教えてくれるかな」
――まともな名前でありますように。
運を天に祈るような気持ちでマミの言葉を待つ。
「なにか納得いかないのだけれども、まぁいいわ」
「…貴女の名前は、
――――マヤ。巴マヤよ」
――普通だ。
すごく普通の名前だった。
よかった。本当に、本当によかった。
って、え!?
「貴女はネコだったって言ったでしょ。
ネコは沖縄ではマヤーっていうから、それに…」
「ごめん。ちょっと待って!」
「………どうしたの?
やっぱり嫌だった?」
「いや、違うよ。そうじゃないんだ。でも、
……巴って?」
そう。気になったのは、名前ではない。
巴。巴マヤ。そして巴マミ。
これではまるで…。
「そうよ。巴マヤ。
いい名前でしょう?」
「うん。そうだけど。
でも、その、………いいのか?」
「いいのよ。
それに、こんなに似てる女の子が、2人で過ごしていくのよ。
それって姉妹以外のなにものでもないじゃない」
涙が出てくる。
この子は…、どうしてこの子はこんな…。
俺が元男だって知っているのに。
身体も魔力で、勝手にマミの姿を盗んだものなのに…。
「――ありがとう」
今俺が浮かべている笑みは、きっと、今まで生きてきた中で、最高のものだろう。
*
「そしたら、後はこれね」
「…なに、それ?」
「アイパッチよ」
そう言って、マミが持ってきたものは、海賊の船長がつけてそうな眼帯だった。
黒い革製の眼帯で、シルバーのドクロマーク。
頭蓋骨の下には2本のマスケット銃らしき銃が交差している。
「どうかしら。
貴女の左目。ずっと閉じてるくらいならこれをつければいいと思うわ」
「…ありがとう」
デザインはともかく、確かにマミの言うとおりだ。
これをつけていれば、左目のソウルジェムを見られないですむ。
…医療用の白い眼帯でいいような気がするけど。
そう、マミに言ったが、
「ごめんなさい。
目を怪我することなんてなかったから、それ(医療用の眼帯)は持っていないの」
じゃあ、なんでこんなもの(黒いアイパッチ)持ってるんだよ!?
…だが、好意は好意だ。
医療用の眼帯を買う金も持っていない俺は、おとなしく、その眼帯をつけた。
「うん。やっぱり似合うわ
私もつけてみたことあったんだけど、自分でつけても見れないじゃない。
…でも、なにか物足りないわね」
正直ウンザリしながらマミの言葉を聞いていた。
名前といい、アイパッチといい、マミってもしかして、もしかして…。
「そうだわ。
完全に私と同じ見た目だと区別がつかないでしょ。
貴女の魔法の練習も兼ねて、貴女の髪の色を白か銀にしてみましょうよ」
間違いない。厨二病だ。
香ばしい香りが漂ってくる気がするほどの厨二病。
そういえば、マミって14歳なんだっけ。
「私が金髪だから、貴女は銀髪がいいんじゃないかしら?
これならおそろいで完璧よね」
この子は、いい子なんだけど…。
いい子なんだけどなぁ。
――ま、いっか。
この子との生活は、ちょっと疲れることもありそうだけど、
そんなこと吹き飛ばすほどの希望があった。
マミとなら、楽しく生きていくことができるだろうと。
――これは、確信だ。
「明日も、――きっといい日になるな」
マミと目を合わせないようにしながらそっぽを向き、
口笛を吹くマネをしながら、言葉だけは本心から、そうつぶやいたのだった。
一方その頃…
QB「あのね…。僕もいるよ」
- To Be Continued -
■後書き
【使用テンプレ】
・トラックに轢かれそうな女の子
・助けたせいで死亡
・死後の世界で神様と遭遇 → 転生させてあげるよ
・転生後の体験のせいで、トラウマ(暗い過去)を持つオリ主
・転生 オリ主 TS → 魔法少女化フラグ
・左右の目の色が違うのは基本です
・転生先は実験体
・New!! 銀髪に眼帯。これはラウラですか?はい、チンク姉です。
と、いうわけで、第1章 第2話をお届けしました。
日常風景を書くのは、とても難しいです。
IFルートのBADエンドばっかり浮かんでくるw
日常シーンなんて書いてると蕁麻疹がでてくるぜ。
さて、ようやくオリ主の名前も決定しました。
マヤの名前の由来は、作中でも語っている通り、ネコさんでかつマミさんと似た名前だからです。
そして、マヤの姿を変更しました。
これはコメントでも頂いていましたが、テンプレの1つ。
ロング銀髪眼帯少女を満たすためです。
今は原作の1年前。
つまりマミさんは中学2年生。
厨2病最盛期のマミさんなら、これくらいは当然ですw
最初にマミさんを登場させたのも、左目をソウルジェムにしたのも、全てはこのためだったのさ!!!――嘘だけど。
本当は、コメントを頂いてから思いつき、強引にこじ付けました。
だって最初は、髪を銀色にする理由なんてなかったんですよ。
でも、これからは、オリ主は、マミさんの身体と顔で、左目にアイパッチ。
髪は銀髪でストレート。背中まで流すような感じです。
字にするとマジテンプレww
テンプレネタをご提供くださりました、
まほかに様、通りゃんせ2代目様、蓬莱NEET様、ありがとうございました。
次回からしばらくマミさんとのイチャイチャパラダイスが続きます。
お楽しみに。