どうもはじめまして、凩と申します。
今回は就活の合間に浮かんだネタ話を投稿してみました。
とりあえず絶対に続かない話だとは思いますけど、なにとぞよろしくお願いします。
ジャンルは、転生トラック(笑)もの?
とりあえずどうぞー
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「……どうしてこうなったし」
どこまでも広がっている様な錯覚を覚えるほどに――いや実際にどこまでも広がっているのか……
見渡す限り漠然と荒野が広がり、遥か彼方、不本意ながら随分と”良くなってしまった”自分自身の両目を用いて、本当にギリギリで確認できるのは、きっと恐らく、誰が目にしても”山”と答えるものなのだろう。
だけど生まれも育ちも極東の島国で、その四十七都道府県の中でも珍しい海の無い県生まれ、四方八方を”それ”に囲まれ、だからこそ自分自身は見慣れている筈の”それ”なのに……
遠くに見えるあの”山”は、俺が今まで目にしてきた”それ”とは明らかに種類の違うものだった。
……というかそれ以前に、錯覚を覚えるほどに”開けた荒野”があるという時点で、今俺のいるこの場所が俺の生まれ育った場所ではないという事の、何よりの証明なのだろう。
――という事は、ついさっき俺の身に降りかかった災いや、目の前で起こった光景、体験は紛れもなく真実だったという事なのだろうか。
正直なところ夢であってほしいとは思う――願う――祈る。
心の底からそう願いながら、俺は思いっきり自分の手を用いて自分の右頬を抓ってみた。
――抓った。
――抓り続けた。
――抓りまくった!!
……うん、ちょー痛ぇ。
「……マジかー」
思わずガックリと膝をつく俺、荒野のど真ん中で。
……フフフ、傍から見たら唯の変人、もしくは唯の行き倒れな俺。
どうして……どうしてこんなことになっちゃったんだろう、そもそも俺は少しばかり”モノづくり”の好きな、ただの大学生で……いやちょっと漫画、ゲーム、アニメも好きな工業系大学生で。
毎日を適度に一生懸命頑張りながら、それでもって慎ましやかに暮らしているだけの、何の変哲もない人間である筈なのに。
朝大学に向かう途中、横断歩道で四tトラックに跳ねられて、気が付いたらこんな訳分からん場所。
いや、跳ねられて~気が付いたらの間にも、色々とあったわけだけれども……、というか此処が一番、何というか、濃かった所だけれど。
思い出すのは凄く疲れるから、とりあえず要所だけ説明。
トラックに跳ねられて即死の俺。
気が付いたら訳の分らん真っ白な空間、そんでもって目の前には立派な白髭を蓄えて、真っ白ローブのお爺さん。ちなみにお爺さんは神様らしい。
そんでもってお爺さん曰く、どうにも俺は死ぬはずじゃなかったらしいけど、お爺さんの手違いで死ぬことになっちゃったらしい。お爺さん謝罪、俺唖然。
そんなこんなで、流石にそれは可愛そうなので生き返らせてくれるらしいんだけど、どうにも”俺”としてさっきまで俺のいた場所に生き返らせるのは無理みたいで、別の世界に別の人型で生き返らせるらしい。
さらに、その世界は俺の知ってるゲームの世界で、その世界はぶっちゃけ物騒な世界らしいから、生き抜く事ができる力を特別にくれるとのこと。
何がいいか聞かれたけど、心此処にあらず状態の俺にはそんなこと考えている余裕もなく、そんな俺を見かねたお爺さんは、なんでも俺と同じ境遇の奴らに”一番人気”の力とやらを一つくれるらしい。
ちなみに俺の新しい体は、その”一番人気”の元の人の体。
そんでもってお爺さん曰く、送られる世界は”可能性の世界”だから好きにしていいらしい――というか、物語の本筋から外れる方が、見ている方も面白いからぜひ色々するようにとのこと。
そんなこんなの事があって、 だだっ広い荒野に立ち尽くす俺出来あがり。
……うん、正直泣きそう。
ちなみに俺が来たとあるゲームの世界ってのは、冒頭の背景描写から察することができる人もいるかもしれない。
……はい”恋姫†無双”らしいですよ? この世界。
今ならあのゲームの主人公の気持ちが解る気がする。
もうほんと、マジ何なん? って感じなんですけど……
それに、お爺さんから貰った力とやら、正直、どんな力をくれるかどうかというのは言っていなかったけど、お爺さんから貰い受け、今この時俺自身が認識しているこの体を見る限り、そして知りもしない筈なのに、”解ってしまう”あたり、まず間違いなくモデルはあの人なんだろう。
俺は重い腰を上げ、どうにか立ち上がると、とりあえず試しに、この人の得意な事をしてみることにした。
「――――投影、開始」
つぶやくと同時、脳裏に浮かぶは二十七の撃鉄、それを落とし、体中に廻る神秘の回路(サーキット)へと力を流す。
創造の理念を鑑定し
基本となる骨子を想定し
構成された材質を複製し
製作に及ぶ技術を模倣し
成長に至る経験に共感し
蓄積された年月を再現する
「―――投影、完了」
そうして俺の両腕、両掌には確かな重さと存在感を持って、そいつが現れた、現れてしまった。
「……出来ちゃったよおい」
ある意味この世界ならあってもいい物なのかもしれないそれ、陰陽の夫婦剣、干将・莫耶。
……まあ、出来るんだろうなぁ、この身体なら。
だって肌黒いもん、背高いもん、髪の毛白いもん、着てる服赤いし所何処ろ黒いもん……
確かに、この人は強いし、カッコイイし、そんでなにより人気者だね。
今ならあのお爺さんが、”同じ境遇の者に一番人気”だと言った理由が解る。
はい、某運命のアーチャーさんです。もうほんとアリガトウゴザイマス。
うん、確かに俺もあの人の事はかっこいいと思ったし、凄いと思った事もありましたよ。
実際、二次創作のSS読みあさったりもしたよ。
しかし、だがしかし!!
一体神様のお爺さんは、俺にこんな力を与えて何がしたかったのだろう?
もしかして、俺にエミヤの如く動けと言いたかったのだろうか?
確かに、この乱世の世界を生き抜くには都合のよい力なのだろう。否、むしろ過ぎた力で、だからこそ原作の流れを容易く変えることができるのかもしれない。
神様のお爺さんはそれを望んでいるのかもしれない。
だけど、それは……
それこそ、俺は…………正しくエミヤの如く、九を救うために一を切り捨てる様な事をしなければいけないという事。
――つまり、戦って、戦って、戦って、戦って――戦い抜くという事だ。
圧倒的な暴力をもって、人を殺して、殺して、殺して、殺して――殺しまくるという事だ。
正直、この身体ならば、可能か不可能かでいえば、恐らく可能なのだろう。
しかし、それができるかどうかと問われれば――
俺は、自分自身で生み出した白黒の夫婦剣に目を落とす。
ズシリと重いそれ、刀剣類という事で、当然の事ながら鋭い刃が付いている。
刃などせいぜい包丁くらいしか見た事がないけれど、これはみれば解る。俺は今”エミヤ”だから見ただけで、手にしただけで、容易く其れが解ってしまう。
これを使えば、容易く――”人が殺せる”。
……
…………
………………
……………………無理だ。
俺に出来るわけがない、俺には出来ない。
俺は慎ましやかに暮らしていた、何の変哲もない人間だ。平和ボケした日本人だ。
そんな俺に”エミヤ”みたいに正義の味方になる為に、ひたすらに突っ走るなんてことは出来ない。エミヤの理想に共感することは出来ない。
……何だってんだ畜生!! ホントマジで俺に何させたいだよ神様!!
ゲームでは確かに人が死んでたよ。それも沢山。モブキャラなんて立ち絵さえ無くて、数字でしか出てこなくて――それでも数十万、下手したら数百万単位で死んでるよ!!
現実そんな事が、いくら力をもらったからって”平和ボケした日本人の大学生”にできるわきゃねぇだろ、バーローが!!
うわー、マジどうしようもねぇ、ホントどうすんだよこれ!!
畜生、せめて貰う力がもっと別なもんだったらまだ何とかなったかもしれないのに、無限の剣製貰ったって、”剣作る能力”貰ったってどうしようもねぇじゃん。
……いや、よく考えろ俺、ほらエミヤさんも言ってたじゃないか、イメージしろって。
確かエミヤのクラスは”アーチャー”だ。だったら、この身体は必然弓の名手!!
つまり、戦わなくても狩人とか、そういう生き方すればいいんじゃない!?
お! これ意外と名案! 狙った獲物は必ずしとめる必中の狩人。うんいいじゃんいいじゃ――ってだめかー
そんなんやってたら結局名が広がって、戦場に駆り出されちゃうじゃない?
うん、却下、却下。
他に何かないのか? 他には、他には何か言ってなかったか? なにか――言って……
……そうだ、確かエミヤは言ってたっけ。
エミヤはそもそも戦うものじゃないって。エミヤシロウは戦うものではなく――
「――”造るものにすぎない”か」
――そうか、”造る”か……そうだ造るだ!!
これなら、俺は殺すことなく原作の流れを変えることができるかも知れない。
エミヤの魔術、剣、流れを変える。そして俺は元より造るもの。
そうだ、やってやろう、そして俺は成ってやろう。俺が憧れたとある人物に成ってやろう。
よく考えれば、エミヤの魔術ほど、あの人になるのに相応しい力は他に無いのかもしれない。
神様、あんたの望むように、もしかしたら俺は物語を変えられるかもしれない。
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「これはどういう事なの? 誰か私に説明して頂戴」
玉座に座る少女が口を開いた。口調には僅かに怒気をはらみ、同時に視線にも同種の感情を宿して、彼女は己が眼前にて膝をつく複数人の女性たちを威圧する。
「此方は千の兵を出した。しかも春蘭、秋蘭の二人がそれを連れていた。事前に得ていた情報によれば敵の、黄巾党の兵数は多く見積もっても二百たかだが、だというのに――」
玉座に座る少女に睨まれ、彼女に固有名詞で呼ばれた二人――春蘭、秋蘭は方や傍目にも分かり易いほどに萎れながら、方や静かに目を閉じただ刻々と、目の前の少女の話を聞いている。
「――どうして、貴方達が連れて行った兵が”半分以下”に成っているのかしら?」
威圧が増した。
その圧にとうとう春蘭は耐えられなくなったようで、目じりに少しばかり涙をためながら、己が主に向かっておそるおそる口を開く。
「も、申し訳ありません、華琳さま! 黄巾党の雑兵などに後れをとってしまい――その、あの、し、しかし、奴ら汚いのです!! どうにも奴らは変なのです!!」
「変? 変なのは貴方の頭の方じゃないのかしら?」
「なっ……桂花貴様、言わせておけば――」
「あら、なぁに? 実際に半分もの兵を失った事は事実、しかも貴方のその相変わらずのバカ正直で単純な筋肉頭で、まだ何か言い訳するっていうの?」
「うぬ、ぐぐ――しゅうらーん!!」
「よしよし、姉者は可愛いなぁ」
目の前で行われるなんとも気の抜けるやり取りに、先ほどまで憤慨していた華琳も流石に毒気を抜かれてしまったらしい。
二つに束ねた金糸の如き髪の毛を僅かに上下させながら、はぁと小さくため息を吐き出した。
「桂花、春蘭をからかうのもその辺になさい、話が進まないでしょう。――さて、秋蘭、何があったのか話してみなさい、この醜態の理由をね」
「はっ……先の戦闘、端的に申し上げますと、状況に関しましては事前に此方が得ていた情報に間違いはありませんでした。賊の潜伏場所、規模、それらを率いる者いずれにしてもです。唯の一つ、間違いがあったとするならば、それは――質です」
「質、ですって? たかが賊の分際で我が軍の精鋭たちよりも高い錬度を有していたとでも言うの?」
華琳は眉をひそめ、訝しげに問うた。
”我が軍の精鋭”という言葉からも解る様に、彼女は自分の保有する兵力に、未だ満足はしていないが、それでも自信は持っていた。
研鑽された練度を誇る自軍の兵、だというのにそれが雑兵の、それも軍師さえ味方に居ない様な烏合の集団に劣るというのは、華琳にとって流石に聞き捨て成らない言葉だったのだ。
だが、そんな華琳の言葉に、秋蘭は静かに首を横に振った。
「いえ、そうではありません、兵の錬度でいえば、黄巾党の連中は我が軍の兵の足元にも及ばないでしょう。この度の一件、予想外であったのは、敵の所持していた武器にありました」
「武器?」
「はい、この度の黄巾党の兵力約二百、更にその中の約五十の所持していた”剣”、どの”剣”も細身で片刃、其れほど強度があるようには見えませんでしたが、それらは我が軍の鎧を、剣を容易く切り裂きました。更に黄巾を率いていた頭が所持していた”一本”――それはその中でも別格でした。」
言って、秋蘭は膝をついたまま後に顔を向け、何やらの合図をしたかと思えば、そんな彼女の元へと一人の兵士が駆け寄った。
その兵士が抱えるは一本の”刀”、人の胴体よりも長く、それでいて細い抜き身の刃、切刃造の直刀。
とても美しい成りはしているが、どうにも剣呑な刀だった。
秋蘭はその刀を受け取り、それをそのまま両の腕の掌に載せ、華琳の前へと突き出して見せる。
そうしてどういう訳か、その隣で春蘭が、両の目に一層の涙をためて、その刀を睨みつけた。
その様はまるで親の仇でも見るかのようだった。
「それが別格?」
「はい、頭が所持していたものです。その頭は姉者が相手をしました。私は遠目に見ていただけですが、そのものは大男で技巧は無く、その代わり力を誇る者の様でありました。まあ、それでも実力は姉者の足元にも及ばないでしょう、ですが、姉者とそのものが互いの剣で切り結んだ際……数合の後――」
「? どうしたというの?」
「――……折られたんです」
「……は?」
「ですから、折られたんです。”姉者の剣がこの剣によって”」
「っ!? それは本当なの春蘭」
驚く華琳に、とうとう堪えきれなくなったのか、涙を流しながら大きく何度も首を縦に振った。
「……っ、はい、その通りです。私の”七星餓狼(しちせいがろう)”はこの剣に折られました。戦闘自体は秋蘭の援護で何とでもなりましたが、うぅ……何でもこの剣は”頑丈さ”に主観を置いて造られた剣らしく、ひくっ、”本当に折れないし、本当に曲らない、だからこそ何時までも良く切れる”剣らしいです、戦った男が自慢げに言っていました」
「そうなの……これが……」
玉座から立ち上がる華琳、そんな彼女は秋蘭の前まで歩くと、彼女から件の”剣”を受け取り興味深げに観察する。
そうして一拍の後、一体彼女は何を思ったのか、徐に其れを地面へと置く。
そしてそのまま後方へと五歩後ずさり、序でに膝をついていた秋蘭と春蘭に合図を送り、共に下がらせた。
その状態より一言。
「季衣、やりなさい」
同じく軍議に参加していた小柄な少女へと声をかけた。
「え? は、はい! ……っていうか何をですか華琳様?」
「今の二人の話、確認してみるのよ、貴方の大鉄球でね、二人が嘘を言うとは思えないけど、矢張り俄かには信じ難い、なら、その話が本当かどうか試してみるだけ」
「でも、いいんですか? 凄く綺麗な剣ですけど」
「話通りならば何も問題は無いわ、それに話が違った所でつまりその剣はその程度のものだったというだけの話」
「ん~、僕には良くわかんないですけど……わかりました。それじゃあ行きますよ!!」
季衣と呼ばれた少女は、己が主の唐突な命令に困惑しながらも、それに従う事にした。
そんな彼女は何処からともなく自分の獲物、扱う者よりはるかに重く大きい鉄の塊、大鉄球”岩打武反魔(いわだむはんま)”を振り回す。
ブンブンとあり得ない質量、運動エネルギーを兼ね備えながら宙を舞う、大鉄球。
そして……
「――やああぁぁぁ!!!」
――――轟音と共に着弾。
まるで大地を穿つ隕石の様に、季衣の操る大鉄球は”特別な刀”へとぶち当たった。
その光景を傍から見ていた者は、皆一様に想った事だろう。
床を容易く粉砕する大鉄球の一撃、その直撃を受けてしまえば、如何に頑丈であろうとも、あのような細身な直刀が耐えられる訳がない――と。
しかし、その思いは裏切られる結果に終わった――
「――これは、流石に予想外の光景だわ」
国の王が唖然と口を開く。
「ふん、興味がわいたわ――秋蘭、この剣誰が造ったか分かる?」
「いえ、流石にそれは……しかし、押収した五十本、更にそちらの特別な一本、共に同じ文字が刻んでありました。其れを辿れば、或いは――」
「そう、なら、其れを調べてみなさい」
調査を命じた覇王の眼には、床に埋もれながらも、折れず、曲らず、衝撃が加わる前の状態のまま、”大鉄球に食い込んでいる”件の直刀が映っていた。
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「で、秋蘭? 件の刀鍛冶とやらは本当にこんなところにいるというの?」
「……調べた結果では確かに」
「そう……」
ところ変わって深い深い森の中、魏の覇王達は小規模な軍を引き連れその中を進んでいた。
あの後、華琳たちの入手した五十一本の刀、その刀に刻んである文字に関係する刀鍛冶の情報を収集した。
その結果華琳たちの得られた情報はこうだ。
――曰く、孤高の刀鍛冶。人の住まわぬ地に一人とどまり、ただ只管に武器を造り続ける世捨て人。
――曰く、神出鬼没の刀鍛冶。ごく稀に人里へと現れ、いつの間にかいなくなっている。そうして一度訪れた村には二度と訪れない変人。
――曰く、無節操な刀鍛冶。自分の作った武具を売ることはせず、むしろ押し付けるようにばらまいて回る奇人。
――曰く、究極の刀鍛冶。彼の鍛える武具は珠玉にして至高、以前よりある武具を必ず上回るモノを作る才人。
そうした噂を集め、突き止めたのがこの森だった。
覇王と付き人は、深い深い森を進む、すすむ、ススム……
そうして、歩き続けること約ニ刻半、彼女たちの目の前に現れたのは、手作り感あふれる掘立小屋だった。
大きさは其れほど大きくはないが、それでも事前に得られた情報から、探している人物は一人暮らし。
一人暮らすには十分……十二分といった大きさの建物だった。
つまり、掘立小屋にしてはやや大きい。
遂に目的の場所にたどり着いたかもしれない――そんな思いが頭を過る華琳たち一行。
そんな彼女たちの歩みは知らず知らずのうちにはやくなる、が……
そうなった矢先、彼女たちは歩みを止めることになった。
たどり着く前に、彼女たちが其れをする前に、掘立小屋の戸が開いたからだ。
「――……珍しいな、こんな所にこれ程までの大所帯とは、何かの軍事演習か、それとも俺に用があるのか、前者なら俺には関係ないだろうが、もしも後者ならばちょっと待っていてくれ、新しい剣ができたからな、試し切りをしてくる。直ぐに済むからついてきてもかまわんぞ」
男が、出てきた。
上半身裸、鍛え上げられている事が一目でわかる。色黒である事も相まって、まるで何かの金属であるかの様な印象を受ける。
長く伸びた白い髪の毛を後でひと括りにしており、猛禽類を想像させる様な鋭い眼を持っていた。
まるで見るもの全てを射抜くような鉄の瞳。その眼に射抜かれ、華琳たちは思わず歩みを止めてしまったのだ。
そうして歩みをとめた彼女たちは、すぐさま悟る。
――彼だ、と。彼が目的の人物なのだと。
分かりやすかったのだ。小屋から出てきた彼は武具を持っていたし、何より武具を造る者である事を彼自身が言っているのだから。
だが、其れを踏まえてみても、矢張り彼は誰の目から見ても異常だった。
雰囲気、出で立ち、そして何より、彼が手にしているモノが――
彼が手にしているのは、岩から直接削り出された様な、巨大で武骨な剣だった。
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俺は今しがた出来あがった武器を手にしてとある場所へと向かった。
家を出て直ぐ妙な女の子たちがいたことは予想外と言えば予想外。だけど、それが誰なのかは見ただけで一発で分かった。
派手な金髪のツインドリル、うん、曹操さんですね分かります。
俺が根城にしているこの森で、三国の中では洛陽が距離的には一番近いから、まあ、彼女と接点を持ちやすいのかもしれない。うん、とりあえず納得。
まあ、とりあえず現状理解も済んだので、とりあえず俺は当初の予定道理の行動をしようと思う。
移動場所は俺専用の試剣場――とはいったものの、それほど大それた場所じゃない。ただ家の裏の木を切り倒して開けた空間を意図的に造ったというただそれだけの場所。造った剣の試し切りの為に造った場所だ。
俺がその場所に移動すると、案の定、金髪のツインドリルたちが俺の後ろからついてきた。
……うん、やっぱり彼女たちは俺に用があるらしい。果たして一体何の用なのだろう。
「……まあ、成るようには成るか」
とりあえず、それは後回し。
俺は試剣場に到着すると、今さっき出来あがったばかりの獲物を一旦地面に突き立てた。
ドスンという鈍い音――強化の魔術を用いていなければ恐らく持つ事も出来ないであろうそれ。
俺が新しく造ったのは、何を隠そう――いや隠すつもりは全くないし、むしろ今から紹介するつもりだから、この物言いは正直間違いなのかもしれないな、まあとにかく、俺が作ったのは、fateのバーサーカーさん、もといヘラクレスさんが使用している斧剣だ。
エミヤの能力――投影を使えばこれを造り出すのは簡単なのだけれど、だけどそれでは意味がない、少なくとも俺がやろうとしている事には役立たない。
だからこそ、これは投影ではなく、俺が”一から造った”斧剣だ。
エミヤの投影の工程は以下の通り。
創造理念の鑑定。
基本骨子の想定。
構成材質の複製。
製作技術の模倣。
成長経験の共感。
蓄積年月の再現。
この六工程。上の四つは武器自体の製作工程で、残る二つは宝具の能力の添付の工程。
此処から想像するに、宝具の投影で一番最後二つの工程が最も重要な事であるように、俺は考えた。
さらに、上から一つずつ、順番にこの工程を行っているとするならば、まず武器自体を製作し、其処に”後付け”で”概念”って奴を添付している事になる。
という事はつまり、実際に材料をそろえて、まったく同じ想像理念を想定し、まったく同じ基本骨子を整え、まったく同じ製作技術によって下地となる武器を用意したとすれば――
そこに本来の武器の”概念添付”を行っても、投影品と同程度の性能を持つモノが出来上がるのではないか。
俺はそんな考察を行った。
そうして、その考察を元に造り上げたのが、今手にしているヘラクレスの斧剣だったりする。
という訳で、今はそれの性能テスト。
ヘラクレスの斧剣で試してみることといえば、やっぱり”あれ”だろう。
「――……ふー」
ゆっくりと息を吐き出し、精神を集中させる俺。
「―――投影、開始」
斧剣を持ち上げ、構えを作る。目標は――とりあえずあの目の前にある大岩。
「―――投影、装填」
お決まりのセリフをのべながら、調子を確かめる。
……うん、今回は上手くいったらしい。とりあえず今のところ何の問題も無い。
――と、いう訳で……いっちょやるか!!
「全工程投影完了―――是、射殺す百頭」
放たれるはほぼ同時に繰り出される九つの斬撃。
それらは狙い通り目前の大岩へとぶち当たり、目標を綺麗に粉砕してみせた。
「――っ!!」
俺の真後ろから息を呑む気配。恐らく曹操さんたちのものだろう。
ま、いきなりこんなもん見せられたら、誰だって驚くだろうけどね。
――とにかく、剣の再現は上手くいったらしいので、とりあえず良しとしておくことにする。
後はコイツをひな型に、上手具合に”概念”を付けたまま、形を変えてゆく作業が待っている。
投影品じゃ、無理に形を変えたら壊れて無くなっちゃうからね。
まあ、何はともあれ――
「――これで”六本目”の目処が立ったな」
おれは何んともなしにそんな事を呟いておいた。
斧剣を肩に担ぎ直して、振り返る俺。
そんな俺の目には、唖然とした表情でこちらを見ている曹操さんたちの姿が映った。
「さて、待たせて悪かったな。待ってるってことは俺の客人って事なんだろうが、ただの鍛冶屋でしかない俺に、一体全体どんな御用かな?」
少々わざとらしい物言いをする俺、そんな俺の言葉に正気を戻す曹操さん。
「……今の光景を見せておきながら、ただの鍛冶屋ね……良く言うわ、まあいいでしょう、私が聞きたいことはとりあえず一つ」
言って曹操さんは、手に持ったそれを目の前に差し出してきた。
彼女の持っているモノ、俺は確かにそいつに見覚えがあった。
――なるほど、”一本目”は曹操さんの手元にいったのか。
そんな事を密かに思いながら、俺は彼女を見返した。
「この武器を鍛えたのはお前?」
「……ああ、確かにそれは俺が鍛えし完成形変体刀が一本、絶刀”鉋”だ」
素直に答える。
正確には”似非”完成形変体刀が正しい名称なのかもしれないけれど、それはまぁ、いわなくてもいいだろう。
絶刀”鉋”――それは俺が”絶世の名剣(デュランダル)”をひな型として造った刀。
決して折れないという逸話「不滅の聖剣」の”概念”を持つ刀。
かの刀鍛冶は、”未来の技術”を逆輸入して作り上げたらしいが、俺が用いるのは過去へと向かう魔術(ちから)。
だからこそ”似非”。
――あれ? ローランの伝承は十二世紀のものだったはずだから、今現在では未来の技術なのか?
まあ、使ってる力自体”科学”と”魔術”は正反対だから結局問題ないのかもしれないけれど。
「そう、それじゃあ貴方が”四季”という文字の刻まれた刀を造る刀鍛冶――」
かの刀鍛冶は刀を無節操にばらまく事で、戦国の世を実質的に支配してみせたらしい。
かの刀鍛冶は刀を造る事によって、歴史に対する破壊活動を行ったらしい。
かの刀鍛冶は歴史を変える為に刀を作った。
俺は物語を変える為に刀を造る。
俺は刀を造ることで三国の歴史の改変を狙う。
ほら、結局やっていることは同じだ。
「――俺は刀鍛冶、四季崎、記紀だ」
だからこそ、俺はかの刀鍛冶と、同じ名を名乗るのだった。
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とりあえず、恋姫の世界でエミヤの能力をもらい、四季崎記紀を名乗る青年の話をのりで書いてみました。
同じネタがあったら、書いてる人本当にごめんなさい。調査不足でした。
就活の息抜きですんで、この話は絶対続かないと思います。
というわけで、この設定で書いてみたいという人がいらっしゃったら、ぜひ書いてみてください。
その時はぜひ読んでみたいの教えてください。
それでは最後に--拙い文章でごめんなさいでした。
ではでは~(・ω・)ノシ