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No.27542の一覧
[0] 【習作】本能寺の夜[魏延](2011/05/03 07:00)
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[27542] 【習作】本能寺の夜
Name: 魏延◆702371e1 ID:4130dee3 次を表示する
Date: 2011/05/03 07:00
「若、ここにいらしたか」
「利三か・・・いや、そなたがここから離れるなと申したではないか」
「左様ですな」
 ニヤリと少しだけ愉快そうに笑う甲冑姿の男、年季の入った顔面と屈強な体つきはまさに侍そのものである。
「しかしながら、私の言葉が若に伝わっていることは少のうございますからな」
「初陣だ。私とてわが身をわきまえる」

 居並ぶ旗は水色桔梗。周囲には天幕、かがり火。
 横に並ぶ武者の名は、斉藤利三。
 そして俺の名は、―――改め、明智光慶。
 時は戦国、平成の世から移り住むことはや九年。
 歴史書に名を連ねるような豪傑達と肩を並べるまでに至ったわけである。

「に、しても」
「なんだ」
「似合いませぬなあ、その言葉遣い」
「え、マジで?」




 ~本能寺の夜~



「よくやった! はっは、此度の戦はつらいものとなったが、ともあれ、息子の初陣を勝利で飾れたのは吉兆よ」
「ありがとうございます」
 近江国坂本城。城主である明智光秀、もとい、父はわが子の成長に久方ぶりの笑顔を見せていた。
「利三もよく光慶を補佐してくれたようだな、あとで褒美をとらす」
「恐れながら、すべては若の才覚にございますれば」
「くっくっく、みなまで言うな。光慶の補佐とは、こやつを落ち着かせることも含めてよ。よくじっとしていられたな、ちびったか?」
 からかうように言われた俺は、つとめてそしらぬ顔で言う。
「いえ、武者震いこそあれ、漏らすなどと」
「ああ、よせよせ、どうせここには身内しかおらぬのだ、似合わぬ言葉など使う必要はない」
 手に持つ扇をパタパタと動かしながら、終始破顔した様子である。明智光秀の元にはこれまで女子しか産まれておらず、長男である俺、光慶の晴れ姿に我を忘れるほど喜んでいるのであろう。
「三河の徳川殿などは、負け戦で糞尿を垂れ流して逃げ出したそうな。天下の大大名でも出るものが出るのだ、貴様のような小童が何をたれようが、恥にはなるまいよ」
「う・・・実は、ちょっとだけ」
「は! そうか漏らしたか!」
 明智に生を受けての八年間でもっとも大事件といえる初陣を、俺はなんとか乗り切った。
 乗り切ったといってもまあ、利三の指示に従って本陣で構えていただけである。それでもちびってしまったのだからまったく情けない話だ。
「気にするな、気にするな。そもそも九歳で初陣などとは早すぎるのだ、まあ此度の戦は小競り合いであったし敵も弱卒、万に一つも危険などあるまいということで連れて行ったにすぎぬ。のう、利三」
「は、越後の軍神や大殿、信長様であっても初陣は十を過ぎてからであります故」

 それにしても、とつくづく思う。今でこそ明智光秀という人物を父と呼び、もはやこの時代に慣れ親しんでははいるものの、人の運命なんてものは、どこでどう曲がってしまうか分からないものだと。
 まして赤子になって再び人生をやり直すなどと誰が予想できただろうか。いっそどの時代であっても平民に生まれれば、なにも考えずに人生を謳歌できたのかもしれないが、あろうことか戦国、しかも武家に生まれてしまったのだからそれも叶わない。


「あらあら、なにやら楽しそうでございますね」
「ああ、玉か。お前もこっちにこい、光慶の初陣祝いじゃ」
 す、とふすまを開けて部屋へと入ってきたのは桜色の着物を着た妙齢の女性であった。
 明智光秀の三女、玉。現代では細川ガラシャと言ったほうがわかりやすいかもしれない。まだ結婚もしてなければ洗礼もうけていないのでまだ明智玉であるが、これが史実通りの絶世の美女である。
 この美女を姉と出来るだけでもこの世に生まれたかいがあったとでも思えるほどだ。
「光慶」
「はい、姉上」
「若くとも初陣を済ませたなら貴方はもう明智家の武士、ゆめゆめそれを忘れることの無いように、醜態を晒さぬように」
 しかもこの姉は聡明である。九歳の俺が言えたことではないが、まだ十代の前半にして気品が漂うほど凛々しく、気位が高い。まさに理想の武家の女と言える。
「くくく、それは無理じゃ、のう、光慶」
 明智光秀は上機嫌のまま俺をからかい続けた。
「い、いや父上、なんのことやら」
「ほう、先ほどまで糞をたれたといっていたではないか!」
 そりゃあない、何も姉の前でそんなことを暴露しなくたっていいじゃあないか。
 案の定姉上はまあ、などと呆れたような顔でこっちを見ている。まったく、格好悪いことこの上ない。
「実は父上、先ほどまでは糞かと思っていましたが、よく思い出してみたらあれは兵糧の味噌だったのではないかと・・・」
「はは、徳川殿の言い訳まで真似しようというのか、よいよい、まあ姉御の前で格好をつけたいというのもわかるが、玉もな、偉そうなことを言っておるが、お前が帰ってくるまではせわしなく城内をうろうろ、うろうろと・・・」
「父上、よけいなことをおっしゃらないでください」
 ははは、と笑い声が響く。



 明智の家は、居心地がよい。
 明智光秀と言う男も、それまでに俺が思っていた狡猾で、冷静という性格とはほど遠いように感じられる。
 だからこそ、というべきか、俺の中で謎は深まるばかりだ。
 史実では、明智光秀は反乱を起こし、そしてその後は滅亡への道を辿る。
 何故明智光秀は織田信長に背いた? 何故明智はああもあっさりと天下を手放すことになったのか?
 
 まあなんにせよ、本能寺の変が起こってしまえば、俺も死んでしまうのだからこれはダメだ、最悪だ。せっかくの第二の生が台無しである。
 何が悲しくて自分の死期を知らなくてはならないのか、と愚痴りもしたが、まあ前向きに頑張ろう。
 第一これはチャンスでもあるのだ。一人の歴史ファンとして、本能寺の変の真相に迫れるのだから。
 明智滅亡への道、戦国時代最大のミステリー、本能寺の変。
 これを絶対に阻止、
 ・・・できるといいなあ。



 天正五年六月二日 本能寺の夜まで、あと五年。  


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