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No.27438の一覧
[0] 【習作】迷宮ファンタジー学園冒険者[やかた](2011/04/27 14:51)
[1] 1話[やかた](2011/05/03 21:10)
[2] 2話[やかた](2011/05/15 01:38)
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[27438] 2話
Name: やかた◆16f27903 ID:965f10c6 前を表示する
Date: 2011/05/15 01:38

 《搭》の二・三階部分は森林型のフィールドである。
 慣れない学生にとって草木が生い茂るそこは、ちょっとした迷路であり、学生証のオートマッピングが無くてはならない。
 見上げると木々の間から、室内であるというのに青空が広がっていた。


   …………………………………………


 朝、一階の転送装置から入った俺は、昼前だというのにもう階段が見える所まで来ていた。
 草木生い茂る森の中に石畳の空間があり、そこから天へと伸びる階段が見える。と言うよりもう着いた。

(情報通り進めば、こんなに簡単にいくのかよ。一階での苦労っていったい……)

 昨日悩んだ結果、鎧の修理を止め手持ちの金から解毒薬を買い、部屋に残しておいた回復薬十個を全てポーチに入れて、《搭》へと入った。
 事前の情報を基に作成したマップを使い、モンスターの少ない最短ルートを進んだところ、数回戦闘をし、回復薬を一個を使っただけで階段の傍まで着ていた。

 階段脇の転送装置へ行き、学生証に階数登録をしておく。こうする事で、今後二階までの装置を使えるようになるのだ。
 そのまま取り出した学生証で時間を確認すると、昼より一時間ほど前だった。

(昼から如何するか……、時間も回復薬もあるから三階に進むか。リュックもまだまだ軽いし、大丈夫だろ)

 殆ど戦闘をしていないので、アイテムを集めておらず、背中のリュックは軽かった。これなら、探索に支障は出ないだろう。
 また、今月中のマップは既に十階まで作成しており、それに因れば、三階はどんなルートを通っても一度、巨大蜂の巣の近くを抜けなければならない事以外は二階とほぼ一緒だった。
 巨大蜂の巣とはその名の通りであるが、《搭》では巨大蜂を無限に発生させる物である。本来、《搭》内部のモンスターは一度倒すと、一定時間再発生しないが、この巣の近くでは巨大蜂が常に一定数発生し続ける。また、発生させる蜂にも二種類あり、巣を守る蜂と逃げても追ってくる蜂がいる。

 階段に腰を下ろし、リュックから水と食堂のタダパンを取り出す。
 《搭》上層部や外部などは、探索に掛かる日数が多い為保存食が持ち込まれるが、下層部においては、探索に長くても一日二日しか掛からないので、食事の内容は個人の趣味である。
 しかし、俺のような貧乏人にとっては、大抵食堂で貰えるタダパンと水だ。食堂では他にも、サラダや具の無いスープが無料ではあるが、持ち運びに不便な為これだけしか持って来てはいない。

(相変らず味はしないし、硬いし。まあ、よく噛まなくちゃいけない分、腹は膨れるわな)

 無料でこれだけの物を得られるだけで、御の字ではある。
 食べ慣れたパンを胃に押し込め、パサついた口に水を流し込んだ。

   ■□□

 食事を終え休憩していた俺は、学生証を取り出しマップを確認をする。
 二階にもっと時間が掛かると思い、三階のルートを決めてなかったのだ。
 基本モンスターは避けるとして、ルートは二つ。遠回りをするルートと、巣を抜けるルート。
 遠回りをする方にも巣はあるが、規模が小さく蜂の数も三匹しかいない。しかし問題もある。遠回りするため時間が掛かる事と、一箇所に留まっていない敵に遭遇する危険が上がる事だ。
 もう一つのルートは、巣を越えさえすれば、モンスターがいる場所を避けたとしても、比較的短い距離である。ただ、巣には八匹の蜂が居り、走り抜けたとしてもその内の五匹が追撃して来るというので、遠回りのルートより危険である。

(蜂が五匹か……、何とかなるか? しかし、遠回りすると日を跨ぐ事になるし。……ファイヤージェムでも残ってれば、楽なんだけどな》

 ファイヤージェムとは魔術石の一種で、辺りに火を撒き散らすマジックアイテムである。撒き散らすと言っても、《搭》内部の森林は破壊されてもすぐに光に変わって、消滅・再生をするので大火事になって巻き込まれる心配は無い。
 魔術石とは、込められた魔力を使い決められた効果を発動する物なので、魔力の少ない俺には必須のアイテムである。
 そんな必須アイテムを持たずに探索など、本来ならやらないが、あれは今の自分にとってそこそこ高価であり、思いのほか二階を簡単に行けた為、このまま勢いに乗って行ける所まで行っておきたかったのだ。

   ■□□

 階段を上がった先は、二階に上がった時と同様辺りに少し石畳の床が広がっており、その先に草木生い茂る森が広がっていた。
 周りを取り囲む木々は四方にその口を開けており、俺が行くのは階段を上がっった状態から見て右手の方だ。
 石畳と草の境界まで来ると、森の入口付近に巨大アゲハがヒラヒラ飛んでいるのが見えた。
 腰の後ろに下げた折り畳み式のショートボウを、取り出すと同時に慣れた手つきで素早く展開する。
 巨大アゲハは、片方の羽だけで人の顔を程もある蝶であり、その羽から出す鱗粉には相手を痺れさせる効果があり、それによって動けなくしてから獲物の体液を吸うのだ。
 普通の冒険者であるなら大量に吸わない限りは問題ないが、俺の場合、神々の加護が無く、また保有魔力が少ない為、魔法や状態異常の耐性が低く、多少吸っただけでも動きが鈍るのだ。

 未だこちらに気付いていない敵に、標準を合わせて弓を引き絞る。
 境界内に居る限り、敵に襲われる事は無いので、慎重に狙いを定める。
 相手との距離を計算し、矢が届くまでの時間を割り出し、その時の敵の動きを予測して矢を放つ。
 頭を狙って放たれた矢は、しかし羽を木に縫い止めるのにとどまった。

(安全な所から射って、この精度か。もっと練習しないかんな)

 結果に肩を落としつつ、弓を片付け剣を抜く。
 周囲を確認し、敵が居ないことを確かめてから木に縫い止められている巨大アゲハに近付いて、止めを刺した。
 切り裂かれた巨大アゲハが光になり、後には木に刺さった矢のみが残った。

(アイテムはなしっと、矢も曲がってやがる、これじゃあ使えんな)

 刺さった矢の状態を確認し、使えないと判断した俺は、回収するのを止め森の中へと入っていった。

   ■■□

 森の中を警戒しながら右へ左へと進むこと三時間、時に戦い時に身を隠してやり過ごし、道程の三分の二を過ぎた所で、漸くこのルート最難所である巨大蜂の巣の前まで来ていた。
 目の前の曲がり角を曲げれば、全長五・六十センチは有ろうかという蜂たちが飛び回っていることだろう。見なくても分かる、今もブゥーンという独特の羽音が聞こえている。

(ここを抜けたら、この階は終わったも同然。いっちょ気合入れて行くか!)

 リュックを背負い直し、回復薬を一瓶一気に飲み干す。歩き疲れた体に力が漲ってくるのを感じる。
 ここはどれだけ広場から離れられるかがポイントである。
 巣を壊さない限り無限に湧いてくる蜂は、広場の中は勿論、少し離れた所であっても寄って来ることがある。どれだけ離れれば、新たに湧いた蜂が近寄って来ないのか分からないので、兎に角離れれるだけ離れなければいかない。
 疲れが取れ、体に力が行き渡ったのを確認し、広場へと突入する。
 視線だけで辺りを見渡せば、広場の奥の方に十メートルは有ろうかという巣があり、その周りを蜂たちが飛び回っていた。

(……よし! まだ気付いてない! これなら其れなりに距離を稼――がぁ!!」

 突然の衝撃に意識が飛びそうになり、次いで肺から空気が漏れた。胸の辺りに痛みが走り、うまく呼吸出来ない。
 咄嗟に後ろに仰け反る体をそのまま倒れさせ、転がるように後ろへと下がる。すぐ後に、体があった場所を光弾が貫いた。何が起こったのか未だ分からないが、敵の追撃を躱せたらしい。
 回復薬を二瓶取り出し、いまだ咽ている為まず胸の辺りに塗りこむ。痛みが引いていくのを感じながら横へと転がると、光弾が横を過ぎていった。
 息を整わせ、二つ目の回復薬を無理矢理流し込むと、痛みは完全に引いていった。

 この頃になると、何が起こったのか理解できた。今も続く光弾は、何故か広場の出口に陣取っているマジックプラントに因るもので、俺はそれをモロに食らったのだ。
 何故奴があそこに居るのかは、分からない。情報には無かったし、奴は動きも遅いので何処かから移動して来るはずも無いのだが……?
 しかし、現に奴はあそこに居るのだ。情報収集があまかったのか、情報を鵜呑みにし、自分で確認しなかったのがいけなかったのかは分からないが、それは生きていたら後で考えればいい。
 今分かることは、奴に襲われ出鱈目に回避していた所為で、見事に広場中央まで戻っている事と、当然の如く巨大蜂どもに囲まれている事だ。要するにヤバい。

「これは、死ぬかもしれん」

 剣を握る手に力を入れ一人呟くと、蜂たちが襲い掛かってきた。

   ■■■

 あれからどれだけ戦っているのか分からない。辺りがまだ明るいことから、それ程経ってはいないだろう。いや、《搭》の中だから夜でも明るいのだろうか?

 最初は強引に突破しようとした。纏わりつく蜂どもを切り裂き、出口へと急いだが、光弾に止められた。何度か挑戦したが、蜂を相手にしながらでは、遂に突破する事は出来なかった。
 次にいったん退却しようとしたが、マジックプラントに背を見せることは出来ず、後ろ向きに下がるのでは、たいした距離を進めていない。それでも中央よりは入口に近付いただろうか。
 纏わりつく蜂どもを、切り裂き貫き殴り飛ばして、ジリジリと下がる。
 体はすでにボロボロで、飛び回る蜂の鋭い針で至る所から出血していたし、一定の間隔で飛んでくる魔法の矢を防ぎ続けた為、盾は殆ど原型を留めてないし、それを持つ左腕はとっくに動かなくなっていた。
 あえて無事なところを挙げるとすれば、リュックに守られた背中ぐらいか。リュックを背負っているお陰で、鎧含む背中部分は無事だった。その代わり、リュックはズタズタに成っているだろうが。

 そんな状態でも諦めないのは、まだチャンスが残っているからだ。
 使う暇が無かった為、ポーチの中には回復薬がまだ三・四個残っているだろう。それだけ有れば、ここを脱出した後二階の転送装置まで引き返す事が出来る。
 そして肝心の脱出する方法だが、それも考えてある。
 さっきから絶え間なく飛んでくる光弾だが、当然それを撃つマジックプラントの魔力は無限じゃない。だから魔力を使い切ると、少しの間充填の為、光弾が飛んでこなくなる。その間が狙いである。
 普通なら何時魔力切れを起こすのか分からないが、今まで戦い続けていたお陰で、俺はタイミングが分かるようになっていた。あと三発も撃てば打ち止めだろう。
 残りの体力から言って、これが最後だろう。もし失敗したら俺は……。

 残りの気力を振り絞る。
 一発目、顔を目掛けて飛んでくる光弾を、顔を傾ける事で躱す。光弾は頬を切り裂きながら、後ろへと飛んでいった。
 そこへ真正面から襲い掛かってくる二匹の蜂を、我武者羅に振るった横薙ぎの一閃でまとめて切り裂く。
 ムチャクチャに剣を振るった所為で、体勢が崩れたところに二発目が飛んできた。
 崩れる体の勢いを利用して、動かない左腕を迫り来る光弾にブチ当てる。運良く盾に当たったのか、パーン! と甲高い音を響かせると同時に、革の盾が粉々に飛び散った。
 左右から来る蜂をしゃがんで回避し、続く三発目を体を捻って躱しながら、後ろの一匹を両断する。

 ここだ! と思い、敵を両断した勢いのまま走り出そうとした時に、その異変は起こった。

(脚が! 脚が動かねえ!!)

 予測通り三発目を躱した後、今まで感じていた魔力の気配が無くなったので、すぐさま走り出そうとしたところ、脚が動かなかった。
 しゃがんだ状態から、上半身だけが前へ進もうとした為、顔面から地面へと倒れる。
 口の中に入った土を吐き出しながら、混乱した頭で必死に考える。

(何が起こった?! 如何して動かない! 敵は? 如何すればいい?)

 ぐるぐると回る思考の下、ポーチから回復薬を取り出そうとするも、激痛が走る。見れば巨大蜂がその針を、深々と腕に刺していた。
 痛みに耐えながら必死に腕を振ろうとするが、何故かまともに振るえず次々に蜂に囲まれていく。

「ぐああ! ぐああああああああ!」

 体中を刺され痛みに悶絶し、あわや首を刺し貫かれようという時に、何故か蜂たちが離れていった。

(ぐぐう! 何だ?! 助かったのか?)

 不可解な事態に困惑するも、理由は直ぐに分かった。
 背後より魔力の高まりを感じたのだ。散々苦しめられたそれに、何が起こるかすぐさま予想がついた。
 如何にかしようと体を動かそうとしても最早動かず、ヤバい! と思った時には背中に一際大きな衝撃を受けていた。

 暗くなっていく視界の隅に、ヒラヒラと舞う鮮やかな蝶を見た。



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