「……ふぅ」
ととりあえず溜息をついて今の状況を見る
今の状況は至って単純。ここにいるメンバーの俺以外は全員デバイスを突き付けられて動けなくなっている。それはヴォルケンリッターや御神の剣士も同じだ。高町やフェイトならば解るがあんたらが捕まってどうする、これでは護衛の意味がないではないではないか
世の中ままならないのは知っていたが、せめて実力を持っているんだ。その実力にかけられた期待ぐらい応えてほしいもんだ。とは言ってもそんな期待をたやすく裏切る俺が言うのも何だけど。というか言う資格がない
「……君は……?」
「ん?ああ、名無しの権兵衛。どこにでもいる少年だぜ。親しい人間はいないから名無しって呼ばれているね」
「……戯言を。風雷慧。リンディ・ハラオウン提督と交渉したり、PT事件の首謀者。プレシア・テスタロッサと言葉でだがやりあった少年と言うのは君だろう?」
「……へぇ」
こっちのプロフィールはお見通しか……
俺に関してはいないことになっていたはずだがな。それによく見たら人員は丁度ここにいるメンバーを動けなくすることが出来るぐらいの人数だ。偶然にしては出来過ぎだな。ヴォルケンリッターや高町達はともかく御神の剣士が動ける前に何とかしたっていう事は綿密に作戦を練っていたか
もしくは知っていた、もしくは知らされていただ
ふぅん、結構、作戦通りだね
出来ればもう少し安全的な危機だったほうが良かったが。全くこういうのを傑作と言うのではないか?この調子では黒いの達も動けないだろう。動いた瞬間、この状況も動いてしまったら洒落にならん。それならばこのままの方がまだ読み易い
それにしても俺の人生は困難ばっかりだ。一度くらい自分より格下と相手がしたい。ま、そんな事を想っても詮無きこと。
そして別にどうでも良い事か……
「どうやってこの中に入ってきた?今、この家には結界が張っているはずだが」
「んん?それについては知らんさ。お前らの結界が張られる前に俺がこの家に入っただけじゃないのではないか?」
「……タイミングが良すぎる」
「俺の知ったことではないし、知る必要性もないし、教える必要性もないね」
周りの視線が突き刺さるのが解った。しかし、それでいて相手の注意はデバイスを突き付けている相手や周りに向いていた。やれやれ、今ので何とかなったら楽だったのだが、そうは問屋が卸さなかったか
楽は出来ないという事か。とと、それよりも確認しなければいけないことがあったな
「それで?アポイントも無しに子供の遊び時間を邪魔にしに来た暇人の大人の皆さんはこんな管理外世界とかいう所の地球に何の用でしょうかね。用件によっては聞いてあげなくてもないのかもしれないのかもしれないよ?」
「とぼけないで頂けようか。こっちの用件はただ一つ━━━闇の書への復讐とそこにいる闇の書の主と闇の書の永久封印だ」
「……ふぅん」
少女と言う部分で八神がびくっと震えていたが無視。へぇ?へぇ、へぇ、へぇ?ここまで都合よく話が進むと怖くなってくるね。これで作戦は大成功とは言えないが成功という事にはなるかな?
完璧な証拠と言うには少し弱いがそれでも足しにはなるだろう。及第点と言う奴だ。後はこの場を潜り抜けるだけか。それが一番厄介で難しいんだがな。まぁ、何とかするしかないだろうと思いながらリンゴを齧る。その行為で更に視線が強くなってきた
「それで?君は私達の復讐を止めるのかい。復讐は駄目な事だと模範的な解答を言って私達を止めるのかな?」
「━━━まさか」
俺が肯定的な意見を言ったせいか。いきなり皆が少し動きを止めた。まさか敵側から肯定的な意見が出てくるとは思っていなかったのだろう。そして味方側からそういう意見が出てくるとは思わなかったのだろう。それらを無視する
「復讐?大いに結構な事じゃないか。大体復讐を悪いって言っている奴は大抵そんな事を味わったことがない幸せ者か、もしくはそういった辛さを乗り越えることが出来る強者だ。俺はそんな幸せ者でもなければその強さを無理矢理当て嵌めさせる様な面倒な事はしないの主義でな。そういったものがご所望ならそいつらにやってもらったらどうかね?多分、無償でやってくれるだろう。粘着性だぞ」
「……では君は何をしに来たというのだ?」
「俺?そういえば何でこんな所に来たんだっけ?あーあ。高町症状群の影響かね。ま、別にどうでもいいけど」
その場にいるメンバー全員が沈黙した。はて?何でかしらん?
「……では、君はここで彼女達を殺しそうとしても止めな━━━」
「殺せば?」
空気が止まった。別にそんな意図をしたわけでもないのだが。味方側のメンバーならばともかく何で敵さんの動きも止まっているのやら。そういった訓練が足りていないのではないのだろうか
「馬鹿な……!君は友人を見捨てるというのか……!」
「友人?ははは。残念ながらその中には友人は今のところ四人しかいないし、後は俺が認めた奴とその他だけだ。友人以外がどうなろうと俺の知ったことではないし、何で俺が大人まで面倒を見なければいけないんだ。それぐらいは自分でできる年だろう。大体だ。別に君達には関係ない事だろう?むしろ好都合ではないか」
「……断言しよう。君は絶対地獄に堕ちる」
「━━━はっ。残念ながら前に地獄は体験したし、俺は何時でも地獄気分。良い悪夢地獄気分ってやつだよ」
今さらあそんな脅し文句を使うなんて。遅れている人達である。まぁ、歳は皆中盤ぐらいの年代が集まっているようなので仕方がないが。押さえつけたのか、または止めたのか。どっちでも同じか
「君は……狂っている……」
「?何を今更?俺は何時だって正気だ」
意味が解らない連中だ。そんな事を今更確認するだなんて。俺を見て真面だと思う奴は狂っている奴だけだろうに。最近の連中はいちいち確認しないといけないのか。お気楽な事で
「ふん、まぁ、いい。では、お前はそこでただ見ておくだけという事か」
「まぁ、そういうことですね。遠慮なくやってもいいですよ?」
「……では、やろう」
「ええ、どうぞ。快楽殺人犯の人達」
突然の乱入と理解できない異常さで翻弄されていたが、その異常のお蔭で何とか助かったと思った矢先だった。何を言われたのかさっぱりわからなかった。だから疑問は声に出た
「……何?今、何て━━━」
「あれ?聞こえなかったのかね。では、サーヴィスにもう一度言おう━━━どうぞ快楽殺人者の人達。遠慮なく八神達を惨殺すれば」
聞き間違いではなかった
有ろうことか。この少年は私達を復讐者としてではなく、ただの犯罪者と言う。いや、それだけならばよい。犯罪であるという事は自覚している。復讐とは言うがやっている事は犯罪であるという事も。
だが、その犯罪の理由が快楽を求めてという事はどういう事か
「っ!!訂正を願おうか!!我らは快楽を求めて罪を犯しに来たのではない!復讐と━━━闇の書の被害拡大を防ぐためだ!!」
代表として私が言うが他の者の同意見だろう。事実、周りの少年を見る視線に殺意が込められている。自分の視線でさえそういったものが混じっているのがわかってしまう。
そんな中、無表情の少年は全く気にした様子もなく、その鉄仮面の如き無表情はまったく変化がなかった。その表情はこう語っていた。この程度の事で自分には何の影響も与えはしないと。つまり、どうでもいいと
「復讐?闇の書の被害拡大を防ぐため?はははは。口でなら何とでも言えるぞ。何なら俺が実践してやろうではないか━━━わぁー。止めろー。皆に手を出すんじゃないー。復讐なんてよくないぞー(棒読み)。ほら、感謝してもいいですよ?」
余りの暴言。何人かが思わず攻撃をしようと手が震えるのを見て、念話で待てと急いで伝える。ここで集中を無表情の少年に向けるのは不味い。向けた瞬間、ヴォルケンリッターや他の魔導師の少女が動くのは自明の理だ。故に伝えた。落ち着いてくれと
「君、さっきと言っている事と違うではないか……」
「何を言う。俺は別に復讐をしてはいけないとは言ったが、お前らがそうだとは言ってないぞ。ちゃんと頭の中の記憶回路を使って思い出してみろ。俺は復讐の定義の事しか言ってないだろう?」
呆気からん。何となくだが理解した。この少年は油断ならないと。何が?━━━全てがだ。ただの少年ではない事は見た瞬間理解していたが、油断が出来ない事は理解していなかった。
「大体だ━━━それならば我々は何故闇の書なんかを狙う。今、こうして動きを捕えている我らが言うのも何だが彼らは誰しもが精鋭クラスの存在だ。正直こうして捕まえていてもひやひやしている。快楽を求めての殺人者ならばもっと楽な相手を選ぶだろう。それをどう説明するというのだ?説明できないならばこの場で首を取られても文句は言わせない」
「怖い怖い」
全く怖がった様子もなかった。どの言葉が本気なのか。どの言葉が嘘なのか。全くと言ってもいいほどに解らなかった。それともどの言葉も偽物なのか。まるでただ動いているだけの人形を相手している気分だ
「答えろ━━━でなければ」
「……闇の書っていうのはそっちの世界では結構なビックネームらしいようだな」
「?その通りだ。誰もがと言うわけではないが、闇の書の事件の関係者。そして管理局の人員の大抵は知っている。それがどうした」
「つまり大義名分には十分な知名度という事だ」
「なに?大義名分だと?それはどういう━━━」
そこまで言って口が勝手に閉じた。理由は簡単だ。頭が勝手に思考を開始したからだ。思考するために頭は過去を模索し始めた。
快楽殺人者
復讐
ビックネーム
知名度
大義名分
それぞれの一単語の意味を一つ一つ思い出し、そして何かへと繋げようと何度も試みる。何か?違う━━━答えにだ。色んな答えを考えそれを間違いと判断し、再びそれを繰り返す。そうした何回もの検証をした後に答えが━━━見つかった
余りにもふざけた答えに
馬鹿なと思う。こんなことを考えるはずがないと。
否
余りにも人権や尊厳を無視した考えだと
だが、それしか考えられなかった。だから、頭ではそれを否定したがっていたが、口は勝手に喋ってしまう。震えながらも相手に聞こえるように、問いを発してしまう
「まさか……貴様……私達が……闇の書に復讐と言う大義名分を持って殺しに来た……とでも言いたいのか?」
考えたくもない答え。放ちたくもない答え。周りのメンバーも驚愕している。囚われている大人の人間もユーノ・スクライアもそうだ。それに対して無表情の少年はにやりともせずに答えた
「自分から罪を言ってくれるなんて━━━自首ですか?」
……!!
嵌められた……!
経験を積んだ自分にさえ気づかせないようにした言論的トラップに思わず歯噛みどころか、舌打ちする。周りのメンバーは相とは知らずに無表情の少年を攻め立てる
「何を言う!!全て貴様の策なのだろう!!」
「はっはっは。何を言っているんですか?俺はただの子供ですよ?そんな恐ろしい事を考えたり、予測なんてできるはずがないじゃないですか。俺は一般人ですし、人の考えを読むことも出来ないただの子供ですよ」
無表情のまま彼は笑う。その矛盾さに敵意よりもまず嫌悪が先立つ。この反応を自分は知っている。これはそう━━━醜悪なものを見てしまった時の反応だ。嫌なものを見ると倫理よりも先に嫌悪が湧き上がる。これはそれと一緒だ。余りにも醜悪な矛盾。それの権化だ。しかし、今はそんな事を考えている場合ではなかった。このままだた私達はただの犯罪集団に成り下がってしまう
「君が何を言おうと、何を思おうと勝手だが……私達の事を調べればわかる。私達には復讐の動機があるという事を」
「調べればわかる?やだなぁ、情報なんて簡単に隠せるし、書き換えることも出来るぞ」
「……近所の人間も知っている!」
「そう言えばいいだけだろう?」
「管理局のデータベースにもある!!」
「幾らでも誤魔化すことが出来る」
「……君は私達の思い出を穢す気か……!」
淡々と自分たちの思いを否定されることに腹を立ててしまう。それではいけないとわかっているのに理性を凌駕した感情がそれを許さない。いや、許させやしない。だからこそ、我々はここにいるのだ
侮辱は許そう。何せ我らは侮辱されてもいい存在なのだから
軽蔑は受け入れよう。何せ我らは軽蔑するべき存在なのだから
屈辱は甘んじて耐えよう。何せ我らは屈辱を固めたようなものなのだから
しかし、過去に対しての穢れを許す事だけは出来ない
その思いをぶつけたが
「思い出というのは穢れも含めて思い出だと思うがね。穢れが一切ない思い出なんて━━━ただ自分の都合のいい思い出を覚えているだけ。そんなものは思い出とは言えないんじゃないのかね?」
暖簾に腕押し。柳に風。全くの無効化。全くの無意味。怒りも人情も無視される。だがそれは━━━この少年もそれを要らないと言っているのと同義ではないのか?
「君は━━━悼みをいらないというのか」
「━━━まさか!」
声には微かな笑いが含まれていた。最も顔は全く笑っていなかったが、それでも彼は愉快気に話を続ける
「俺は感情は重要だと思うよ!感情はありとあらゆる行為をするための原動力だ。何せ引き金を引くときにも感情は必要だ!それが喜悦を求めるための物でも、それが憎悪を求める者でもだ!それと同時に、ありとあらゆる行為を制止する為の閉じるための鍵でもある。でも、それらの感情は出所は同じ。魂、心、頭。どれでもいいけどそういったところが出所。それは善意はおろか悪意や敵意、嫌悪、憎悪、殺意、狂気でさえ同じ。つまるところ━━━感情と言うのは根は同じだという事だ。それは悼みでも、悦楽を求める者でも、な」
「……何が言いたいんだ……!」
「なぁに、ただの戯言さ……」
腹立たしい。何が腹立たしいかって、全く筋が立っていない事だ
情報は書き換えられるし、隠せる?その通りだ。確かに書き換えられるし、隠せる
近所の人間にそういえばいいだけ?その通りだ。しようと思えば出来る
管理局のデータベースの情報は誤魔化せられる?その通りだとも。そんなものハッキングでも何でもすれば出来ると言えば出来る。技術がなくてもその筋の者に頼めば不可能ではないだろう
不可能ではない
しかしさっきから証拠が全くないではないか
まさしくただの暴論だ。暴れた論理で我らを苛立たせる。さっきから構えているデバイスがふるふると震えている。余計な力が込められている証拠だ。制御できない感情が暴れている証拠だ。生きているという証拠だ
それだけではなく皮肉を込めたような言葉。最早地獄の業火でもこんな熱さにはならない。さっきから冷静になれと言っている自分だが逆に熱くなってしまっているのが良く解る。最悪な事に━━━それを止めようという思いがまったく出てこない。むしろ、暴れさせようとしている。
それを嘲笑うかのように少年は言葉を続ける。少年は手に持っているリンゴをくるくる回している
「知っているかね?リンゴと言うのは知恵の実。神様とかいうクソヤロウが作った木の実。それを最初の人間、アダムとイブが一匹の蛇に擬態した悪魔が唆し、そして人間は知恵を得、いらない感情を得た。そしてそれを知ったクソヤロウはアダムとイブを楽園から追放した。それを原罪と言うらしい。ま、この地球のちょっとしたロマンチックな話さ」
「それが……どうしたと言うんだ……!」
意味もない会話に意味もなく憤りを感じてしまう。いけないと解っているのに最早理性は働かない。体がかちかち震える。まるで寒さに震えているかのようだ。
「こういった話は神様とかそんな下らない存在や宗教の有難みとかいうどうでもいい事を教えるのもあるが、もう一つ、教訓を教えてくれることもあるのさ」
「教訓……だと……?」
ああ、もう止めてくれ
もう体の震えが止まらないんだ
「耳の穴をつぶすくらい開けてよ~く聞きたまえ。何せ俺が神の心情を語るなんて滅多にないからな。」
「……止めろ」
「この話で神が人間を、アダムとイブを追放する時の心情を俺なりに考えたものなんだがな。」
「……喋るな」
「何故神はアダムとイブを追放したのか。禁じていた果実を勝手に喰ったからか。なら、何で柵で触れないようにしなかったのか。知恵のみを喰った事で得た知識に恐怖を覚えたからか。じゃあ、その場で殺しておけばよかったんだ。じゃあ、俺が考える心情とは?」
「喋るなと……言っている……」
「では、遠慮なく答えよう。俺はこう推察する」
「……止めろ!」
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!!
それ以上その声を聴かせるな━━━!
「答えは簡単━━━そんな下らない感情に拘った人間なんて下らないと思ったんだろうさ」
ぷちっという音が響かなかった
代わりに響いた音は鉄の音。がちゃりというデバイスが構え直される音。照準が替えられる音。敵を狙う音。敵を殺そうという意思の音。抑えきれない激情の証拠。大切なものを穢された証拠
それらは震えながら無表情の少年……否。こんな相手を人間だなんて認めることは出来ない。これこそまさしく悪魔だ。さっきの話ではないが蛇の皮の代わりに人の皮を被った悪魔だ。誑かすための悪魔ではない。我らを脅かす悪魔だ
だからこうするのは正しい事。むしろしなければダメな事なのだ。この少年は生きているだけで醜悪で罪悪だ。死ぬべきだ。いや、死んでいて当然な存在だ
だから速く引き金を━━━
「だから言っただろう━━━そんな下らないものに拘ったら駄目だと」
呆れた悪魔の声とともに今までの枷を払うかのように自分が捉えていた若い高校生くらいの男が行動を開始した
自分の少年に向けている手を思いっきり引っ張られ、体勢を崩された。咄嗟に足で踏ん張ろうとするがそれを足で払われ、完璧に体勢を苦座され、砲弾のような勢いの肘鉄が鳩尾に決められた
ズドン!!と人体からあまり響かない音と衝撃で力をあっさり奪われた。悲鳴すら漏れない
その行動を見て、他のメンバーがこっちのフォローをしようとして振り向こうとした時、再び捕まえていたヴォルケンリッターが動いた。バリアジャケットを纏わずただデバイスを発動し、抜き打ち。いきなりの奇襲に対応できずに彼らはあっさり倒されていくのが見えてしまった。
そこから先に負の連鎖
それらの一部始終を見たメンバーは動くのは危険と判断したのか、自分が捉えている人質を使って動きを止めようと思った瞬間。翠色の縄が彼らの動きを止めた。意識を失う寸前の頭だが、それでも誰がやったのか、感覚でわかった。民族衣装みたいな服を着ている理知的な金髪の少年だ。思わず見事と言っていい行動だった
後は簡単だった
冷静になろうとするメンバーもいたが、冷静になる暇すらもなくそのまま捕まってしまったり、倒されていった。何もかもが台無しになってしまっている光景だ。何もかもが破壊されていく光景だ。こうならないために何度もシミュレートをしてきたはずなのに。何もかもが破壊されていく。
何て無様。自分の不甲斐のなさに涙でも流してしまいそうだ
最後の抵抗としてこうなった原因である無表情の少年を睨みつけようとする。無駄な事だとはわかっている。八つ当たりである事も解っている。でも、やらずにはいられなかった。あの少年さえいなければ少なくともここまで一方的な終わり方はしなかった
だから少年の方に振り返った
だから後悔した
そこにいたのは少年ではなかった
だってそうだろう?
さっきまで一度として笑っていなかった少年が笑ってこの光景を見ていたのだから
否
果たしてそれを笑いと言っていいのだろうか。少なくとも自分が知っている笑いとはこうも恐怖を出すものではない。むしろ、笑いとは人を安心にさせたり、笑わせたりするものだ
だが、少年の三日月に歪めた笑みはそんな用途は存在しない。それは嗜虐の笑みだ。そう。少年は嗤っているのだ。この光景を心底愉快に嗤っているのだ。まるで、それだけが自分の唯一の娯楽だと言いたげに。
さっきの言葉なんかよりも余程饒舌に語っていた
これは関わってはいけないモノで、存在してはいけないモノだという事を
間違えたと深く後悔した
何が間違えたとは言えない。少なくともこの少年と出会った事は完璧に間違いで。人生最大最悪の間違いと言っても過言でもない。これはそういう類の生き物だ。そう━━━怪物と言われる、そういった類の生き物だ
血を啜り、筋肉や神経を引き千切り、骨を砕き、内臓を破裂させ、それを愉悦として嘲笑い、ただ殺す為だけの殺戮機構。目的が合って殺すのではない。殺すために殺している、そういう生き物だ
だから思った
こんな生き物は存在してはいけないと
それが最後の思考
だから、これは夢なのだろう
そう、思う
そう、思いたい
あっという間の解決だった。いや、もしかしたら実は時間がかなりたってるんかもしれへんけど、私の主観ではあっという間の出来事やった。それを引き起こしたのが友達の少年なのだ
いや、それだけならばいい。良い事なのか悪い事なのかは判断が付かないが、自分の周りには凄い人ばっかり集まっている。
恭也さんや美由希さん、士郎さんは凄腕の剣士やし、桃子さんかて戦うという意味じゃなきゃ凄い大人に見えるし、それは月村家の人達にも言える事である。
大人だけではない
アリサちゃんは詳しは知らないが、凄い大きな会社の一人娘でその為に色々勉強をしていて、クラスではトップクラスの実力の女の子だし、すずかちゃんも似たようなものだろう。なのはちゃんやフェイトちゃん、ユーノ君は魔法を使えて凄いっていうのも解る。ヴォルケンリッターの皆も同じ
けど
慧君は違う
凄い武術なんて持ってない
凄い技術なんて持っていない
凄い知能を持っていない
凄い能力を持っていない
凄い才能なんて持っていない
なのに大勢で自分よりも強くて、技術を持っていて、能力を持っていて、経験を持っていて、そして命を獲られるかもしれない状況で彼は何時も通り慇懃無礼の態度で勝ち抜いた
いや、最早慇懃無礼等と言う甘い言葉では彼を表せられない
傲岸不遜。人の大切なものを踏みつけ、踏みにじり、踏み壊し、そして罪悪感無しで汚す。大切なものだから守るのではなく、大切なものだから壊すという考え
余りにも卑怯で、卑劣で、残酷で、残虐で、容赦がない。誰もが罵る行為で生き残り、誰もが忌み嫌う方法で勝ち残る。
暴虐、暴力、暴論が常套の暴論遣い
故に残るものも返ってくるものも無し
これは一種の惨劇か、虐殺やと思った。だから私はつい守ってもらった分際で言葉を漏らした。この戦いを見た感想を。つまり━━━本心を
「幾らなんでも━━━やりすぎなんじゃあ」
言葉は途中で遮られた
何故かと言うとすずかちゃんが私のほっぺを力一杯叩いたから
いきなりの事で何も理解できなかったし、反応も出来なかった。何故叩かれたのか?何故すずかちゃんが怒っているのか?何もかもが理解できなかった。理解できたのはほっぺが熱いことぐらいだった
だが、その無理解も数秒で理解できた
ようやくほっぺに手を当てて返事をすることが出来た
「い、いきなり、何をする━━━」
「はやてちゃん……今のセリフははやてちゃんだけは言っちゃ駄目だよ……」
「……え?」
意味が解らないという返事をするとすずかちゃんは黙って指を向けた
私はそこに何の疑問も抱かずに向けた指先の方角に顔を傾けさせる
そこには
憎悪と敵意と殺意を抱いた視線で慧君を見ている捕まった人たちが━━━
「━━━あ」
ありとあらゆる悪意が慧君の方に向いていた。自分が言うのも何やけどこれは当然の結果やろう。何せあれだけずくずけと人の大切な領域に入っていき、更にはそれらを壊してしまったのだから。恨むなと言うのが無茶である
視線で人を殺せればという思いを願っているような光景に見えてしまう
それに対して慧君はやっぱりいつも通りの無表情。こんな悪意を一身に受けてもその表情は全然変わっている様子はない━━━だけど。強いて言うならば。その態度はまるで『もう慣れっこだ』と言いたげな態度であった
「……今回は何時もよりも酷いな」
「何を言っているんですか?俺は何時だって手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐にが俺のポリシーでそして最大の強みですよ、恭也さん」
「でも、手心は加えるだろう?」
「……はてさて?何を根拠に」
「手加減はしない、遠慮はしない。容赦もしない。慈悲もなく意味もなく残酷に残虐する。しかし、君は一度も本気を出しているとは言っていない。思うに━━━君は相手が壊れないように自分の力をセーブしているように思える」
「おやおや。その目は節穴ですか?俺は今、敵の目的を完璧に粉砕したと思いますけど」
「━━━君の場合。敵の精神を壊さないだけましだと思うがな」
「━━━」
「何か……嫌な事でもあったのか?」
「……まさか。逆に最高の悪夢を見ましたよ。お蔭で気分は最悪。今なら空を飛ぶ事も出来そうです」
「……まったく。君は本当に━━━嘘つきだ」
「褒め言葉です」
何を言っているのかはわからないが、それでも慧君が何時もの状態とはちょっと違うというのは解った。でも、そんな不調な時でも彼は私を守ってくれたという事は事実だ。その事実を私は無視しようとしてしまった
自己嫌悪する
私は目の前だけの残虐さだけを見て、彼を嫌悪するところだった。解っていたはずだ。彼がかなりの大嘘吐きだという事を。出会った時から解っていた……とは言わないけど、それでも二回目ぐらいから知っていたはずだ
彼自身は肯定かもしくは否定のどちらかを言うだろう。私達の思っている嘘を言えば間違いなく否定するだろう。器用そうに見えるけど彼はかなりの不器用な人間なのだから
そこまで思い、少し深呼吸をして
「━━━ん」
ほっぺを軽く自分で叩いた。自傷と言う意味やない。自分を鼓舞するためのものだ。何せこれから慧君に謝罪と感謝の言葉を告げなければならないのだ。彼はかなりの確率で拒否をするだろうけどそれでも告げないわけにはいかない
ごめんなさいとありがとうを
そう思っていたら、さっきまで怒っていたすずかちゃんが何時もの笑顔で笑って私の車椅子を押してくれていた。ちなみの周りの人間も嗤ってくれている。
「一緒に━━━行こ」
「……うん」
お互いの笑いあい、そうして彼に謝罪と感謝を告げる
そして皆から、少し離れる
そんな場面だった
急に慧君が物凄いスピードでこっちに振り返り、そして走ってきた
それには言葉もあった
「逃げろ!!」
いきなりの行動に私とすずかちゃんは反応出来ず、ぼーっとするだけ。それに対して慧君は舌打ちをして、私達を思いっきり押し出した
「「きゃっ!」」
二人して短い悲鳴を出す
何でこんなことにと頭がこんがらがるがとりあえず条件反射で押してきた慧君の方を見ると
「……え?」
目の前に壁があった。別に敷居とかコンクリートとかそういうのではない。見えない壁と言うわけではなく、色が付いた壁と言うべきか。それがさっきまで私達がいた空間を覆っていた
「封鎖結界!?」
シャマルが叫んでいるがそれを理解する術がない。何故なら目の前のその空間に慧君と何故か恭也さんと━━━知らないおじいさんがいたのだから。そのおじいさんはもう白髪も交じっている人だったが、その視線は干からびてはおらず、強い視線だった。直感でわかった。まだ事件が終わっていないという事を
そう思ったら慧君が疲れた口調で一言
「……第二ラウンド開始って事かね……?」
あとがき
今回は大分遅れてしまいました
次こそがバトルです
今回は皆さんに求められているような暴論になっている事を切に思います
それとdesumiさん、にゃむさん、れいおにくすさん
要望には出来るだけ答えたいですが、無理だった場合は勘弁を……!
アサリさん
忠告ありがとうございます