暁美=ほむら。
彼女は大切な友達である鹿目=まどかを助ける為にキュウべぇと契約して時間干渉能力を手に入れた魔法少女。
その力で過去の世界へと逆行しワルプルギスの夜と言う魔女を倒し幸せな未来を手に入れようとしている。
しかし自分一人の力ではどうこう出来るような相手ではない。
まどかと共に戦い打ち勝つも代わりに親友であったまどかが魔女化し、ここでキュウべぇの奇跡の内実を知る。
そして過去へと戻りこの真実を打ち明けるも錯乱した先輩魔法少女の巴=マミによって仲間が死ぬ。
生き残ったまどかと共にまたワルプルギスの夜へと挑むもまたまどかによって救われただけ。
それどころか魔女化させない為に自分の手でまどかの息の根を止めると言う地獄を味わい自らの非力さを知る。
『キュウべぇに騙される前の……私を助けてあげて』
過去へと飛ぶ時に託された想い。
それはただ一人で戦う定めにあるほむらの心を支える唯一のものである。
仲間に真実を打ち明けられず利用しかない道・まどかを助ける為に他人を平然と犠牲にする道しかない。
あまりにも強大な敵にたった一人で立ち向かう、あるいは捨て駒としてかつての仲間達を犠牲にする。
「……今度こそ助けるから……負けないから」
小さな心は擦り切れながらもたった一つの約束と脳裏に描く幸せな未来の為にその歩みを止めさせない。
必ずキュウべぇの思惑を破り約束を果たす為に、はむらはまた戦いを始めた。
まず手始めに魔女に対抗しえる武器を集め、まどかの危険となりうる魔女を掃討する事から始まる。
魔女がいる限りどんな形でまどかが巻き込まれキュウべぇに契約をさせられるか判らない以上は一体でも少ないほうが良い。
時を止める能力と様々な武器で次々と魔女を打ち倒し、キュウべぇを殺しながらまどかへの接触を阻止しようとした。
だが接触阻止は失敗し、先輩魔法少女である巴=マミを殺すお菓子の魔女も仕留めれなかった。
ほむらにとって巴=マミは対処しがたい相手の一人である。
キュウべぇを信じ魔法少女として魔女を倒し皆を守ると言う生き様に生き、しかし孤独故に他人を求める。
高潔な英雄のような生き様は他人を否応なく引き寄せる魅力がある……それは人間の歴史から来る特有の感覚とも言えた。
傲慢で自分の事しか考えない悪代官と自分を犠牲にしながら皆の為に戦う英雄では魅力が違いすぎる。
しかもマミはかつて真実を知ってしまった為に錯乱し魔女を産まない為にと仲間を殺した人物でもあった。
されど死ねばマミの遺志を継いで新しい魔法少女が生まれる。
また別の場所から魔女を狩る事に集中し逆に小物による被害を見過ごす魔法少女も来る引き金。
まさに対処のしようがない存在としてほむらの前に立ちふさがる相手。
「このままなら……また」
そしてマミはお菓子の魔女と戦う。
新しい仲間が増えると言う未来を描き精神的にハイになってしまっているマミはお菓子の魔女を圧倒した。
マスケット銃と呼ばれる銃を呼び出し(作り出し)正確に狙い魔女を追い詰め、隙をついて銃で殴打して吹き飛ばす。
空中で姿勢の取れない魔女の身動きをリボンで封じ、大砲を呼び出し魔女を粉砕する……それは歴戦の技と強さ。
だがお菓子の魔女は死んでいない。
口から人間の顔がある芋虫のようなモノを吐き出し、それは一瞬でマミの下へとたどり着く。
大きく開いた口には鋭い歯があり、それはマミの頭を食い千切らんと大きく開かれている。
このままならマミは頭を食い千切られて死ぬ。
助けるか見捨てるか……僅かな時間の間に悩み答えを出す筈であった。
しかしそれは突然現れた妙な鎧を着た男の手によって大きく変えられる事となる。
「ここに隠れてろ」
現れた男は人間とは思えない素早さでマミを抱き上げ口から逃がすと物陰に隠れているまとがとその親友の美樹=さやかに託す。
それから僅かな距離を一瞬にして詰めると芋虫のようなソレを素手で引きちぎり、更にそのまま強引に魔女を引き寄せる。
引き寄せられた魔女が何かするよりも右腕の握り拳が魔女の小さな頭を捕らえ勢いをそのままに地面へと振りぬく。
頭が潰れる音がし芋虫のようなソレが動きを止め、その芋虫のようなモノも頭部を両腕でバラバラに解体する。
更にズボンから何かの玉を取り出すとソレを弾き飛ばし椅子の上に座っているもう一体の魔女らしきものをソレが貫く。
到底指弾とは思えない速度で飛来した玉は魔女らしきモノの頭を綺麗に吹き飛ばし、完全に止めを刺した。
流れるような戦いによってお菓子の魔女は死に結界がなくなり小さなグリフシードを男が魔法を解いてから拾い上げマミに手渡す。
「間に合って良かった、生きててなによりだ」
「えっと……アナタは?」
ほむらは物陰に隠れながら聞き耳を立てる。
今まで一度もなかった……そもそも男の魔法使いなど初めて見ただけにほむらは慎重に様子を伺った。
もしかしたらこれまでにない打開策となりうる存在だけに、真剣かつ慎重に聞き耳を立てる。
「彼はダイナック=ゲンって言って数年前に男なのに素質があって僕と契約した凄腕の魔法……使いだよ
この頃ここらの魔女が増えてきて危なくなってきたから頼れるゲンに来て貰ったんだ、腕はさっきの通りさ」
「十八で君達より少し年上か、とにかくこの激戦区を戦い抜いてる巴=マミ……さんを助けられて何よりだ
力だけが取り柄でね。契約の力で平均的な奴の数倍の力が使えるから200m一秒フラットも軽い軽い
今までもさっきみたいに身体一つで戦ってきたんだが倒せる相手で良かったしキュウべぇの期待に副えて良かった」
それからもマミ達三人を安心させるように振舞うその姿は好青年と言った感じで少なくともマミは既に頬を染めている。
無論聡明であるマミ本人もつり橋効果と言う事は理解しているとしても、その顔は確かな熱を帯びているのが見て取れる。
加えて腰が抜けてしまい立てないマミと言うをゲンは背負い家まで送り届けると言い出す。
まどかとさやかの二人も見送ると言い出すがそれをキュウべぇが遮る。
「僕がついてるから安心してよ。それにまどか達もそろそろ帰らないとマズイよ?」
「……うん」
「巴先輩に何かしたら承知しないからな!?」
まどかとさやかはキュウべぇの言葉に押されてか渋々家へと帰りだす。
ほむらはまどかを守る為に尾行しようかと考えたが、目の前の可能性を重視してそれを押し殺して三人を尾行する。
これ自体がキュウべぇが二人に契約を迫る作戦かも知れないが、それでもほむらは三人の尾行を続ける。
「あの……重くないですか?」
「魔女を素手で殺すような男なんだ、この位は軽いし……役得だからな」
ゲンの言葉にマミは自分の年頃以上に発育している胸が当たっている事に気づき更に顔を赤くしてしまう。
それでも歩けないのは事実であり恥ずかしさを押し殺しながらゲンの背中に身体を預ける。
そんな風景を見たほむらは……少しだけ足を止めて自分の胸をさすった。
少なくとももう少し大きくあって欲しいと考えているのだろう。
とにかく気づかれず怪しまれないように尾行し会話を聞きながら気づけばマンションにまで辿りついていた。
「もう大丈夫ですから。それと本当にありがとうございます」
マンションの入り口にたどり着いたマミは何とか立てるようになっており、何度もゲンにお礼を言う。
一方でゲンは『そんなの気にするな。後輩で仲間の為だからな』と口説き落とすような言葉を平然と言う。
聞いた瞬間ほむらは全身が一気に鳥肌となり悪寒で身体が冷たくなるが言われた本人のマミはまた顔を真っ赤にしてしまう。
とりあえずほむらの中でゲンは『女たらし』と言う位置づけとなった。
「今回の借りは俺がピンチになったら返してくれ、しばらくはここに居るから先輩を頼れよ?」
肩に一度手を置いて少しおどけたように笑いながらそう言うとゲンは手を振りながらマミに別れを告げた。
ゲンの姿が見えなくなるまでマミは手を振り、見えなくなると手渡されたグリフシードを大切そうに握り締める。
既にその視線はたとえつり橋効果から来るものだとしても恋する乙女そのものとなっていた。
「……今日は僕がついてるけど、マミにはゲンが傍にいた方が良かったかもね」
「そっそんなのじゃ」
「まっ少しは心を落ち着けた方が良いだろうし今日は我慢してね。何ならゲンについて教えてあげても良いよ?」
もう茹蛸のように真っ赤なマミに追い討ちを掛けるキュウべぇと恥ずかしさを隠そうとするマミ。
それはまるで親友の姿そのものであり、もし裏側に潜むどす黒いモノがなければ本当に素晴らしい風景だろう。
ほむらはその風景をとても不機嫌だが同時に言いえない複雑そうな表情で眺めてからゲンの後を全力で追いかけた。
既に夜へとなった街の裏路地に作られた結界の中、ゲンは単身魔女と戦っていた。
「……初めて見る」
ほむらにとってそれは初めて見る魔女で一言で言えば『頭がないのに鱗一つ一つに目玉のある蛇』と言う姿。
大きさも太さだけで成人男性の背丈ほどはあり、その巨体さながら蛇だからか地面を素早く滑っていく。
無数の眼がゲンを見ており不透明なガラスで出来た壁や床を滑りながらその巨体をゲンに叩きつける。
だがゲンはそれを真っ向から受け止めるとそのまま強引に投げ飛ばし不透明なガラスの壁に叩きつける。
ガラスの壁に亀裂が入りのた打ち回る蛇の魔女に止めを刺そうと近づくがそれを遮るように無数の小さな蛇がゲンに襲い掛かる。
魔女の使い魔である子蛇達はその牙をゲンの肌に突きたてようとするが当の本人はさっさと包囲から跳躍で逃げ出し距離を取った。
周囲は全てガラスでありそこから次々と子蛇達が姿を現し母である蛇の魔女を守ろうと地面を這いずっていく。
自慢の身体能力もあまりの数が現れた事で優位を保てなくなってしまい窮地に陥る。
指弾で親玉を狙うも自分の命をなんとも思わない子蛇達の壁によって遮られ、ゲンの顔から余裕の表情が消えた。
「こりゃあ……やばいな」
腹をくくったのか拳を握り締め這いずりくる子蛇達を迎え撃とうとするゲンをほむらは援護する事に決めた。
何処からともなく取り出すのは二丁のマシンガンでありその光が放たれるのに合わせて唸る射撃音と吹き飛ぶ子蛇達。
片手持ちにも関わらずそれは見当違いな方向には飛ばす群れをなしている子蛇達の群れに当たりその身体を吹き飛ばしていく。
驚愕しているゲンの傍に跳躍しながらも絶えず弾幕を展開する。
「援護するわ、アナタは魔女を」
マシンガンの弾が切れたので今度はショットガンを腕に巻いている時計のような盾から取り出して乱射。
元々広範囲にばら撒く弾が装填されているので銃口が火を噴く度に子蛇が千切れ飛んでいく。
それから子蛇達を誘導するように移動を始め弾が切れると手馴れた手つきで予備の弾を込めて射撃を再開する。
「任せておけ! 使い魔は頼んだ!」
子蛇の群れが割れた事で壁が薄くなりゲンはまた一足で蛇の魔女へと間合いを詰める。
無数の眼がゲンを見ていた筈だか200mを一秒足らずで間合いを詰めた為に反応が追いつかない。
目玉の一つを振りかぶった拳が貫き引き抜くと緑色の血が噴出し殴ったゲンの身体を染めていく。
臆する事無く身体の一部をまた掴み投げ飛ばして壁にぶつけると素早く尻尾へと回り込みそれを掴む。
それから力任せに蛇の魔女を壁に叩きつけ、ほむらを追う子蛇達へと叩きつけ一気に掃討してしまう。
もはや馬鹿げた力量であり魔女の世界を文字通り魔女本人の身体を棍棒代わりに粉砕していく。
「止めを刺すから振り回すのをやめて」
「あっすまんすまん。いつもはこうして死ぬまで振り回すかバラバラにしてやってたし仲間がいなかったからつい」
最後に思いっきり蛇の魔女を叩きつけると動かなくなり、ほむらは本当にどこから持ち出したのか判らないロケットランチャーを構える。
流石にゲンも驚き慌てて蛇の魔女から離れるとほむらは何の躊躇いもなく引き金を引いた。
ロケットランチャーの直撃によって魔女の身体は綺麗に吹き飛び、絶命した事によって結界がなくなりグリフシードが転がる。
「……とんでもないな君は、魔法少女なのにそんな現代兵器を乱発出来る子なんて初めて見たぞ」
「むしろ私はあんなのような男がいるのが驚きよ」
ほむらはグリフシードを拾うとソレをゲンに投げ渡す。
「まぁ特別なのは判るさ……周りの奴等はアイツが見えないのに俺だけ見えたりして、契約したら今の身体だ
魔女を倒すのも嫌いじゃないしアイツの頼みならやるのが契約の内容だ。ただ男が一人いたってだけさ」
ほむらは迷った。
強さに関しては申し分ない。
魔女を投げ飛ばすような馬鹿げた身体能力は来る戦いにおいてとても役立つのは間違いない。
加えて驚異的な弾速を誇る指弾も多少だが遠距離攻撃としては優秀と評価出来る。
魔女の頭を貫通して吹き飛ばすような威力があるのでそこらの魔女相手でも充分に通じる武器。
(でも……アイツ等を親友と呼ぶ相手には)
マミも同じようにキュウべぇを信頼しており、魔女の真実を知った際に錯乱して仲間を殺してしまった過去がある。
それがほむらに他人を頼らせない要因の一つになっているのだが、それでもほむらは迷った。
この人物は真実を話せば判ってくれるのではないだろうか?
自分達よりも年上で理解力もある。
ならば真実を話しても通じる筈……だからほむらは意を決してゲンに話す事を決意した。
ダメならばそれまで、もし理解してくれるなら頼れる戦力になる。
そう思ったからほむらは意を決して話す事を決意したのだ。
「話がしたいの……この街の未来を賭けたとても大切な」
ほむらは知らない。
目の前の男こそ自分達の悲劇の元凶である事に。
魔法使いなどではなく変身している宇宙人である事に。
話をしたいと切り出した時にほくそ笑んだ事に。
二人を物陰から見ている白い影がいる事に。
補足説明
十鬼島=ゲン
銀河の予言にある銀河を統一し伝承族に立ち向かう伝説の勇者……なのだが本人はまったくその気はない
それにその勇者の伝承も伝承族が自分達の計画の為に作り出したものと知った為と言うのも原因
最終決戦で活躍するも行方不明となり記録でも『偉大だが先行したあげくに行方不明したダメ勇者』と言うものになっている
ただしダメ勇者と言う姿は『銀河の勝利は勇者の奇跡ではなく皆の奇跡』として銀河の意識を少しでも良い方向に持っていく為でもあった
どんな種族に対しても偏見を持たず接する態度や真剣に向き合う姿勢は銀河の英雄でありゲンと出会って変わった者は数多くいる
宇宙船の操縦や度重なる戦闘と特訓による経験によって強化人間などを相手に白兵戦をして打ち勝つほどの実力と身体能力を持つ
なお瀕死になる事が多くもっとも酷いのでは心臓に風穴を開けられたが治療が間に合い生き残ったと言うもの
驚異的な身体能力の謎
人間は危険に備えて自分の力を常にセーブしている
これが開放されるのが『火事場の馬鹿力』であり伝承族曰く『平時の四倍』
だが種族としてその更に四倍の力が使える事になっている
これに『精神と肉体の完全な同調による16倍の力』を掛け合わせた者をゲンは使う事で驚異的な力を発揮できる
その数値は256倍となり、200m一秒フラットの高速移動や怪力を発揮出来るようになっている
ガフリオンもコレと似たようなものを使う事で驚異的な身体能力を実現させていると言う設定
蛇の魔女と子蛇達
本作オリジナルの魔女
曇った世界に生きる魔女で性質は『美貌』・使い魔は『賛辞』・鏡を使って現実を直視させればもがき苦しむ
老いと醜さを嫌い契約した少女の成れの果てで、もっとも醜い自分の頭や顔がない
自分の過剰なまでに理想化された昔の顔を思い描き、醜かった頃の顔を拒絶して鏡が曇っている
鏡が曇っている事で自分がもっとも醜い魔女となっている事も理解出来ない
周りの使い魔達は彼女をひたすら称える事でちっぽけな自己満足を維持させている
だが周りの人間の様々な美しさをその無数の眼で見つめ拒絶し殺害し、醜くなった死体を見て満足しようとする魔女
契約して美貌を手に入れるも人格や人間としての器の醜さを指摘され誰にも振り向かれない現実に絶望した
人間性と言う美しさを理解出来たならばもっと違う道があっただろう魔法少女の成れの果て