二週目と言うべきか、ガフリオンは帰ってきた。
数百億年前のその宇宙であり、そう遠くない終わりに近づきつつある時間に。
「我々の仲間だと?」
「言葉よりも映像と情報の方が早いだろう」
ガフリオンはインキュベータ達にあの数百億年の日々を鮮明に見せていく。
困惑・混乱・奔走するガフリオンから見たその日々を。
映像と宇宙崩壊について知りえたその時間と作業について。
それはどんな言葉よりも説得力のあるものとしてインキュベータ達に押し付けられた。
無論彼等は大いに混乱するしかなかった。
突然現れた異星人が自分達と共に宇宙崩壊を阻止するべく研究している姿をいきなり見せ付けられたのだから。
「信じてくれるなら……未来の君達の研究を託せるんだ! 信じてくれ」
突然現れた異星人に映像を見せられ、そして信じてくれと言われて彼等は信じれるほどお人好しではなかった。
大半の個体が不信感を示す、当然と言えば当然であり統一思考の僅かな差は論議する。
だが極僅かな個体の『信頼しよう』と言う言葉に多くの個体が賛同する事になる。
『嘘ならば奪うだけ奪ってしまえば良い』
そんな考えを持ちながら彼等はガフリオンと共に歩む道を選び取る。
「我々は君を信頼する、未来の我々が君に託した研究を教えてくれ」
「……あぁ!」
研究内容はテレパシーで代表格となっている個体を通じてインキュベータ全体に普及していった。
統一思考からなる意識の力……伝承族と同じ超能力をこの瞬間彼等は手に入れこの宇宙崩壊までのタイムリミットも理解した。
意識を過去の世界へと飛ばしてしまう事すら可能とさせるその力は、まさに宇宙延命に掛ける小さな希望となる。
「判ったのはこの力は生命体の意識・感情の力を必要とする事だ。未来の我々は君を過去に飛ばす為に我々全員の意識を集中させたようだね」
「伝承族の力は脳波などから作られるエスパー能力だからな、その気になれば銀河系の一つくらい作れる」
「装置となるこの鉱石も強い感情が必要になるね。そんじょそこらの生命体の感情じゃまったく足りない……数万はいるかな」
彼等は未来の自分達の情報を素早く解析し、過去へと飛ばした能力の正体を理解し未来の自分達のガフリオンに対する信頼も理解した。
だが現在の奇跡の力はあまりにも膨大な犠牲が必要であり、加えてその範疇もまだまだ少なく弱い。
もしこれが凄まじい力を持っていたならば未来の彼等は『宇宙の延命』を望んだだろうが、それはなかったのが答え。
未来を手に入れるにはこの奇跡の力を持って延命を成功させるか、あるいは延命への道筋を手に入れる事である。
いかなる距離を持っても時間のロスなく繋がる彼等は素早く行動を開始しだす。
「過去へ飛ぶための量を確保して、それからこの力をより強くしよう……僕等の代でもきっと宇宙延命は間に合わない」
「君は自分を”僕”と呼称する個体なんだな。そして既に飽きらめるんだな」
「そうだよ。僕は少なくとも間に合うなんて思ってない……それに過去に飛べる奇跡があるならそれを最大限に活用すれば良いんだよ
未来の僕達が君をあんなに信頼してるんだもの、だから僕はもう一度君を信じて過去へと飛ばす。僕達の希望を繋いで欲しいんだ」
僅かな差でも、それは大きな差でもある。
あの彼等は最後の一瞬まで考え抜いたのに対して、この彼等は既に自分達は間に合わないと諦めている。
代わりに出来る限りの情報を集めて次の自分達への道を作り出す。
その犠牲となるのを既に覚悟して動いていた。
近い死への恐怖を過去の自分達へ希望を託すと言う大きな使命感で無理矢理押し込めているのだ。
「君は未来の僕等に聞いたね? 逃げないかって?」
「あぁ」
「僕等はね……ここ以外に生きられる自信がないんだ。たとえ他の何を犠牲にしてでもこの故郷を守りたい、生きられる自信がないからさ
誰か一人でも生きていれば勝ちだとしても、その勝利を『外に出た』なんて不甲斐ないものにしたくないんだ……この宇宙が好きだから余計に」
それは遠くない内の滅びを知り、そして未来の自分達が逃げないと知ったからこその言葉と言える。
「未来の僕等は何もわからないから奔走して、そして過去の世界へと逃げる道を選び取った。でも自分達よりも君を選んだ、選んでしまった」
彼が星空を見上げると星空の星の一つが消えた。
「今……僕等の一つが消えた。でもそこに恐怖はない、何故なら僕等は一つで全て・全てで一つだから。倒れてもどれかがいれば勝ちだ」
ガフリオンもまた星空を見上げる。
何処か遠い星がまた消えた。
「未来の僕等はその誰かを君にしたんだ。でも今度は一緒に行くよ、この宇宙を救うんだ」
その言葉にガフリオンは小さく答えた。
それは前の彼よりも少しだけ仲間想いな個体が零した小さな信頼の証だった。
内側に利用するだけしたら殺しても良いと考えているとしても、その個体は少しだけガフリオンを信頼した。
それから数百億年の月日を費やして、インキュベータはその宇宙に存在する全ての思考を持つ生命体を試し続けた。
どうすれば奇跡の力が強くなるのか?
どうすれば宇宙延命へと繋げられるか?
どうすればよい明確な形で次の過去へと繋げる事が出来るのか?
ガフリオンと言う膨大な知識を持つ賢人と共に模索した。
「判ったよ。もっともこの装置が強く奇跡の力を発揮するのは希望と絶望だ。僕等にはどういったものなのか判らないけど」
既に宇宙の縮退が始まり、崩壊は秒読みの段階へと到達した。
彼を除いた全てのインキュベータが縮退を始める宇宙を集め続けた奇跡の力が押し留めようとするが全てが無駄。
押し留めようと軌跡の力を使った個体は瞬く間に小さくなる宇宙に飲み込まれてその命を消失させていく。
「だけどその強さにはむらつきがある、だからこの宇宙に存在するどの種族がもっとも強い力を発揮出来るのかを探さないといけない」
「他の個体は……どうやら君の言ったとおり宇宙の収縮を止める事は出来てないみたいだ」
「当たり前だよ。だけどその情報も今も僕の中に流れ込んでくる……さぁもう時間がない行こう」
あの日のように鉱石が強い光を放ちそして過去へと二人の意識を飛ばすタイムマシンへと変貌する。
この宇宙中の思考や感情を持つ生命体の無数の命を喰って生まれた装置の光はどんどん強くなっていく。
宇宙の誰からも理解されず信じられなかった宇宙崩壊を回避する為の研究は結局間に合わなかった。
数百億年のタイムのミットもこの研究の前ではあまりにも短い時間でしかない。
「行こう過去へ……僕等の未来を変えるんだ!」
「あぁ行こう。この宇宙を救うために」
光は二人を飲み込み、やがてその身体が中身を失い倒れる。
その数秒後……宇宙の一つが消し飛ぶ。
全てを飲み込んで綺麗さっぱり消えてしまう。
そしてガフリオンはまた過去へと飛ぶ。
目覚めた時……既に大きな違いが生まれていた。
目の前の生命体は白く小さな身体は地球で言う犬?みたいな身体に垂れ下がった耳や赤い眼はとても特徴的だ。
「……やっと起きたね」
「”君”なのか?」
「あぁそうだよ、ちょっと面白い実験と結果を見つけたからね。こんな姿になったんだ」
彼はそんな姿を笑いその小さな身体をガフリオンにすり寄せる。
「さぁここからまた始めよう」
ガフリオンは知らない。
それが小さな少女達の出会いをもたらして、苦悩の始まりを意味するなど。
また知りえる訳がなかった。
自分達が無二にして強大なる宇宙の敵になっているなど。
魔女の夜は始まってしまっていた。
補足説明
インキュベータ達は宇宙人でまだ綺麗です
広大な宇宙のエネルギー資源が凄まじい勢いで枯渇しているのを知っている事からおそらく生息域は宇宙全土
と言うか連中の言ってる事からしてそう遠くない内に人類が宇宙文明の一つとして名を上げるのを知っている?
それが今作のループ設定の一つにもなっています
また前回で説明したがインキュベータは卵を孵す装置の名前
ほむらがそう呼んだのは『魔法少女を生んで魔女を生み出す存在』だからだと思われる
魔女は魔法少女のソウルジェムから生まれてくる存在なので、そう呼称した可能性がある
なので正確な種族の名前とは言えない可能性がある
彼等が自分達の事をそう呼んだのもそれに合わせて地球人に理解させる為?
地球の価値や特色(宇宙から見た)
マップスの世界観における地球は文化レベルが低く宇宙から見て貴重な資源が存在していない
また特撮ヒーローの存在を『特殊部隊』と信じており彼等の報復を恐れて侵略しなかったと言う
なおジェット機は『とんでもない値で売れる超骨董品・地球はそういう意味では宝の山』らしい
更にサンタクロスが宇宙で活躍するヒーローに似ている事から『彼の拠点ではないか?』とも疑われていた
核兵器の威力レベルは『軍人に泥団子をぶつける子供レベル』だそうだ
こういった理由から地球は宇宙人の干渉を受けていなかったとされる
まどかマギカでは宇宙でも有数の感情と思考を持つから狙われると言う不運を発揮しているが……
ブゥアーの誤算と不確定な未来
『AとBが戦いAが勝った』でも『再計算したらBが勝ち、以後Bが勝ち続ける未来が答えになる』
宇宙記録中しその未来を演算する途中でブゥアーはソレを知る
『ならどちら最初の未来は何だったのか?』と言う疑問はブゥアーの中で恐怖となっていく
記録の生命を約束した自分が演算ミスなど許されるわけない、それは大切な創造主の想いに背くから
だからブゥアーは自分の中にそのミスの原因を探る一対のシステムを製造する(続編のネクストシートに現れる)
やがてそのブゥアーの演算ミスは敗北と消滅を招く
この世には言い表せない何かがある……勇者はソレを計算にも出ない誤算が起こす奇跡と表現しましたが
インキュベータ達は誤算をするのでしょうか