注意!今回のお話は原作ISを重視する人には嫌な話です。それでも……了解という人はご覧ください。
篠ノ之箒の人生は姉に振り回されたものであったといえるかも知れない。
幼少のころから明らかに異常な知性を持っていて、対人関係も碌に築けなかった姉は大人から畏怖を集め、子供からは異常者としか映らなかった。
そんな姉の妹……箒にはそういうレッテルが常に付き纏っていた。
箒はそんな姉と別の方向で差をつけたかったのか、祖父が教えている武術をやり始めた。その武術は箒にとって性に合っていたのか、毎日修行を積むようになっていた。
しかし同世代の子供の中でそこまで武術にのめり込む者は周りにはいなかったし、元々姉のせいで周りに人がいなかったが、抜き始めた力と生来の人付き合いの下手さが相まって、彼女はさらに孤立していった。
そんな折りに出会ったのが、姉の束の唯一の友人の弟であるという織斑一夏だった。姉に友人ができたということにはとても驚いたが、姉のことには極力触れないようにしたかったので、あまり考えないようにした。
姉の友人の弟ということで少し心配したが、接してみると彼自体は普通の人だった。が同世代の子と上手く接することが出来ない箒は、一夏とは挨拶の他には少ししか会話できない日々が続いた。
そんな日々が続いたとき、少し事件があった。箒が気にいっていたリボンが同世代の男子に馬鹿にされた際、一夏が庇ったのだ。
箒には今まで両親以外には味方いなかった。けれど同世代の男子で、しかもカッコイイ子が味方になってくれた。
幼い少女が一夏を好きになる理由は単純ではあったが、子供が好きになる切っ掛けなんてそんなものなのかもしれない。
その後色々問題になったが、一夏と箒の距離がこの1件で縮まったことは確かで。それ以降2人はよく遊ぶようになった。
しかし元々の性格と姉が作りだした環境のせいで感情が上手く表現できなかった箒は、一夏の前ではあまり楽しそうではなく、嫌々付き合っているようにも見えなくなかった。
ツンデレ、といえば聞こえはいいのだろうが相手に伝わらなければ、本当に箒は機嫌が悪いんだろうなと相手は受け取ってしまう。ましてや相手は他人の気持ちを察することが異常に下手な一夏ことだ。箒は常に不機嫌であると当時の彼は感じ取ってしまっていた。
そんな風に相手に印象付けていることを知らない箒であったが、彼との日々は楽しいものであった。
だがそんな日々もまた姉の手によって壊された。
白騎士事件。篠ノ之束が12カ国にハッキングし、彼女が開発したISにより引き起こされた事件は人的被害こそほとんどなかったものの、ミサイル2341発以上のミサイルが発射され、その約半数をIS「白騎士」が迎撃した上、それを見て「白騎士」を捕獲もしくは撃破しようと各国が送り込んだ大量の戦闘機や戦艦などの軍事兵器の大半をISによって破壊された事件である。
これにより人的被害はともかく破壊された兵器によって金銭面において途方もなく消費する結果となった。
日本にとって幸いだったのは、ISを開発したのが篠ノ之束個人であったためにその金額の返済を一手に引き受けなくてよかったことである。
しかしながらその失った金は様々なところから補充するしかなく、それに関わった者たちの束への怒りは推して測るものだった。
また決定的だったのはその事件後、篠ノ之束がISコアのみを476個作ったところで姿を消したことであった。それによって彼女の行方とISに関する技術を保有していること(だろうという予測)、白騎士事件の共犯の容疑で家族は拘束された。
この流れはある意味当然であった。まず彼女は家族以外に交流があるのは織斑千冬と一夏のみであったことから、彼女の行方を知っているとしたら家族とその2人のみだろうという判断からだ。
ISに関する技術と白騎士事件の共犯の容疑も上記に示した通りで、家族がもっとも知っている確率が高いであろうことから拘束されたのだ。
平和だった家族は父・母・箒とそれぞれ気軽に会いに行けないような場所に1人1人隔離された。このとき箒は一夏と父と母と別れ、待っていたのは毎日行われる尋問であった。
この時の尋問は催眠系はともかく、薬物や拷問などは一切行われなかった。ここは日本政府の優しさだったのだろう。
しかしそれを抜きにしても、当時小学生の箒にとって尋問は恐ろしいものであったことには変わりなかった。想像して欲しい。小学生の自分に対して強面のオジサマたちが自分の周りを囲んで、毎日まるで知らない知識に関して聞かれることを。それも大嫌いな姉が作りだした物のことで。
尋問が終わって家に帰ってもいるのは監視兼お手伝いの者しかおらず、慰めてくれるであろう父や母は遠く離れた土地で会うことも、電話することも見張られて不可能だった。
政府の意向によって各地を転々とする日々が続き、疑いが晴れようやく尋問が行われなくなり学校に行けるようになっても彼女を待っていたのは安息ではなかった。
当然のように付いている監視の上に、あの大事件を起こした者の妹ということで他の子供たちから避けられる日々。
もちろん関係なく接しようとしてくれる者もいたのだが、しばらく尋問を受けていた箒は人との会話をすることに恐怖を抱いていたため、碌に対応できなかった。
人と触れ合いたい……でも人は怖い。そんな矛盾した思いを抱きながら、彼女は日々を重ねていった。
人に接しなければ、人付き合いが上手くなるはずもない。だからIS学園に無理やり入れさせられてから再会した一夏にも上手く接することができようはずもなかった。
6年。ようやく一夏に出会えたが、彼は周りからも特別扱いされていて、彼の隣で戦える者は専用機持ちになっていた。
違う。彼の隣は私なのだ。
その思いを実現すべく、卑怯だと分かっていても大嫌いな姉を利用して自分も彼女たちと同じように専用機を持つことができた。
ようやく、ようやく一夏の隣に立って彼と共に戦えると思っていたのに、それを邪魔したトールギスが憎かった。
しかも横入りしたトールギスはいつまで経っても銀の福音を倒すことができていなかった。
だからあのような行為に出てしまったのだ。いつまでも倒せないのならば、私がやってやる……そんな思いを抱きながら。
要するに彼女は感情を爆発させてしまったタイミングが非常に悪かっただけだ。
決して彼女だけが悪いのではない。普段から彼女自身のIS操縦技術のレベルを教師たちが理解させていれば、束が紅椿を持ってこなければ、千冬が出撃メンバーに選ばなければ、彼女が普段から一夏の周りを囲っている専用機持ちに“劣等感”を感じていなかったら、こんなことにはならなかった。
様々な要素が重なり合って、こういった事態を生みだしてしまった。だが彼女の感傷は突如終わりを迎える。
緑色の球状のエネルギーによって海を割られていく光景が、そうさせた。
● ● ●
「あれは……!?」
ブラッドは突如海を球状のエネルギーが割る光景を見て、驚きの声を上げる。確かに倒したはずの銀の福音が動いたこともそうだが、それにしてもこの光景は異常だった。
だが次の瞬間球状のエネルギーが弾け、全方位にエネルギー弾として広がった。その数は先ほど比べ物にならず、まさに避ける隙間もないほどであった。
「散れ!」
ブラッドは口で2人に注意を促しながら、回避行動をしつつシールドを構えた。
が、数が多すぎたのと不意打ちだったのが不味かった。機体そのものはそれほど当たらなかったが、D・B・Gに数発当たってしまい、D・B・Gは爆散した。
「ちぃッ!」
D・B・Gを失うということはトールギスにとって大きなマイナスであった。というのも通常のISは拡張領域によって武器を予備として召喚できるようになっている。
しかしトールギス他ガンダムたちは拡張領域がないため、元から搭載している武器が破壊されると替えが効かないというデメリットが発生するのだ。ここがトールギスらが通常のISに劣っている部分といえた。
今の時点でトールギスに残っている遠距離武器は爆裂弾だけだが、これは1発限りの装備であるため、早々使うことは出来ない。
故にトールギスが選んだのはビームサーベルだった。桃色のビームサーベルを斜めに構える。
「(しかし、接近するのは難しいか……)」
銀の福音は機械であった翼がエネルギー体のものになっており、外観も多少変化している。先ほどの攻撃を見るに、攻撃力と攻撃範囲と連射能力が上がっていると考えて間違いない。ただでさえ接近しづらかったが余計に難しくなったのだ、トールギス1機だけでは難しい。
もう1機仲間がいれば十分接近は可能なのだが、今この場にいるのは学生が2人。しかも2人とも背を預けるには不安が残る。
だが悩んでいる時間は無い。今のブラッドに出来るのは接近戦しかない。
「いくぞ!」
「お、俺も!」
大型スラスターを全開にしたトールギスに遅れて、一夏が後を追う。
視界を埋め尽くすような光弾がトールギスと白式を襲う。
2機がそれぞれ別の方向から襲撃をかけることによって1機に放たれる光弾の数は減ると思ったブラッドだが、実際は変形後と大して変わらないほどの数だった。
しかしそれならば一応接近することはできる。トールギスはビームサーベルを振りかぶりながら、横をすり抜けるように斬りかかる。
「ちぃ!」
が銀の福音は後ろに下がるだけで、その攻撃を避けた。そう、銀の福音は接近用武器を持たないため、接近されたら避けるという1択しかないのだ。選択肢がないというのは不利に思えるが、行動を起こす際迷いが生まれないため、早く動くことができるという利点があるのだ。
銀の福音は回避と同時にスラスターとして使ってない部分の翼から光弾を吐き出す。それをトールギスが回避する間に、間合いを開ける。
「おおぉぉー!」
その銀の福音に雄叫びを上げながら一夏は雪片弐型を振り下ろすが、やはり同様に避けられる。同時に光弾を数発被弾する。
「くぅ、どうすれば………あ!」
「何をやっている!?」
突如一夏が銀の福音に背を向けて海面へと加速する。敵である銀の福音に背を向ける行為に、ブラッドは思わず声を上げてしまった。
ISといえど完璧に安全な兵器ではない。もし空中数千メートルでISが解除されて生身で海に落下した場合、まず間違いなく死ぬからだ。
これは「不殺」を掲げている自由なパイロットが空中の敵MSを部位破壊した後、その破壊されたMSが海に落ちて爆発しているのと同じだよ……とは決して思っちゃいけない。
銀の福音はトールギスを牽制しながらも、一夏に攻撃を集中させていく。だが肝心の一夏は避けずにその場に留まり雪片弐型で光弾を弾いていた。
明らかに効率の悪い対処方法を取っている一夏の考えを、ブラッドは直ぐに察した。
一夏の後ろに船があるのだ。しかもあまり大きくない代物だ。
ここ一帯はIS学園教師が封鎖しているはずにも関わらず、船が紛れ込んでいる。つまりそのことから導き出される答えは……。
「密漁船か……!」
しかしいくら密漁船とはいえ、ISに搭載されたレーダーならそうそう見逃すことはない。よほど相手が上手かったのかもしれないが、いくらなんでもこのタイミングで来るのは酷過ぎる。
ブラッドは即座に一夏の援護に向かうが、光弾のせいで中々進まない。
一夏の武器は接近戦用の武器1つだけで、光弾を捌き切れるわけもなく、もう既に船は沈む寸前であった。
「くそ、もうエネルギーが……!」
それどころか白式のエネルギーは切れる寸前で、ここにきてようやく自分のミスで茫然としていた箒が気づく。
「一夏ぁ!!」
その声と共に、彼方から大量のミサイルが銀の福音に振り注いだ。
銀の福音は咄嗟にミサイルを迎撃ながら回避行動をとるが、数発被弾し爆炎に包まれる。
「こちら03、援護する」
皆がその声の方向を確認すると、そこにいるのは赤白の機体と緑の機体だった。攻撃したのは赤白の機体なのだろう、肩にあるミサイルポッドのハッチを閉じるのが確認された。
「貴様ともあろうものが、手間取りすぎだな」
「すまない、少し予想外のことがあってな」
今度の声は緑色の機体から発せられた。棘がある言い方だが、ブラッドは普通に受け答えしている。彼がそういった喋り方だと承知しているからだ。
駆けつけた2体のISで赤白の方はガンダムヘビーアームズ、緑色の機体はアルトロンガンダムと言った。
「新しいISだと!?教師陣は何をしていた!」
「そ、それが今調べてみたんですが未確認機はレーダーに反応していなくて……目視以外にあの2機を確認する方法がありません……」
「バカな……ステルスモードでもないのに反応しないだと……?」
一方彼らの機体のことを一切聞いていないIS学園側は慌てていた。新たに現れた2機の未確認機はアメリカから何も情報も入っていない、正真正銘謎の機体なのだ。しかもその頭部はあの先日発表されたガンダムサンドロックにそっくりなのだ、驚くなと言う方が無理である。
彼女たちは知らぬことであったが、ガンダニュウム合金の特性として電波を吸収するというものがあり、ステルスの効果があるのだ。ステルスモードと違い、姿そのものは透明化などしておらず、条約には触れないものであった。
「あれが敵だな?」
千冬たちの思惑など知らないアルトロンガンダムのパイロット「龍 書文」はブラッドに確認を取る。
「ああ、中々面倒な武装を持っているぞ」
「関係ない。敵は倒せば済む話だッッ!!」
腰部から白い棒の様なものを取り出すと、その両端から三又のビームが形成される。ツインビームトライデントを右手で何度も激しく回転させながら、右腰の後ろで構えた。
「いくぞッッ!」
「援護する」
ヘビーアームズのビームガトリングが凄まじい勢いで銀の福音にうねりを上げる。それと同時にスラスターを全開にして、アルトロンは銀の福音に突っ込んでいく。
ビームを回避するために回避行動に入った方向を先読みし、アルトロンはツインビームトライデントで2、3回銀の福音を突く。
その全てを避けた銀の福音だが、最後の横払いを胸部に受け、吹き飛ばされる。咄嗟に体勢を立て直し、アルトロンの後ろに回り込むが、それはミスだった。
2連装ビームキャノン。アルトロンに装備されている武装は多関節アームにより背後への攻撃も可能にしており、その威力も競技用のISとは一線を画くものである。
2連装ビームキャノンから放たれた2本の緑色のビームは、銀の福音の右足の膝から下を破壊した。
「はぁ!」
体勢を崩した銀の福音は咄嗟に体を捻った。それが功を奏したのだろう、真上からやってきたトールギスの斬撃を脳天に食らうことなく、翼を切り落とされただけで済んだのだから。
だが銀の福音に息を突く暇はない。直後に突っ込んできたアルトロンに向かって、光弾を集中させる。
巻き起こる爆発。そこで一瞬銀の福音は動きが止まってしまった。
それが銀の福音と中のパイロットの運命を決定づけてしまったのかもしれない。
爆発の中から出現した、双頭の龍。龍の顎に酷似したドラゴンハングが斬られていない方の翼と胴体を捉えた。
ドラゴンハングには貫通して破壊する攻撃と、龍の顎の部分で締めつけて破壊する攻撃の2つがある。
今までのISにはドラゴンハングのような拘束し、締め付けることもできる武器は存在してなかった。なぜならば締め付けるということは相手のシールドエネルギーを消耗させ、絶対防御を発動させ、エネルギーが切れてもなお締め続けることができるからだ。
銀の福音の胴体の装甲は既に砕ける寸前で、スパークが舞い散る。
「失せろッ!」
その言葉と共に、龍の顎は完全に閉じた。爆散する銀の福音の周りに舞い散る破片も、又銀色であった。
「え……?」
一夏の茫然とした声が辺りに響く。舞い散る銀の破片の中に人の姿は確認できなかった。
「死んだ……死んだのか……?」
安全と思われていたISの戦闘。だが目の前に映っているのは、粉々になった銀の福音の破片だけであった。
「敵機の撃破確認。任務完了」
「ふん……所詮この程度か」
淡々と言うアイオリアとくだらなかったかのように呟く書文に、一夏は信じられなかった。
「あんたたちは「待て、少年」なんだよ!」
「お前たち、来るぞ……新手だ」
「え?」
激昂する一夏の言葉を遮ったブラッドの言葉を証明したのは、千冬の通信であった。
『織斑、篠ノ之!南西からお前たちに無人機15機向かっている。そちらに配置していた教員は撃墜されてしまっている!他の者を寄こすまで耐えろ!』
その言葉を証明するように、センサーで南西の方向から15もの機体が確認できる。
「少年、君はもうエネルギーがほとんどないだろう。一時撤退しろ。そこの君もだ」
「いや、俺は「私はできます!」箒……」
「いや、しかしだな……」
「その辺にしておけ、来たぞ」
アイオリアの言葉通り、敵機をハイパーセンサーで確認できる。そして先に仕掛けたのも無人機側であった。15機から放たれるビームはかなりの数だ。
「……この場合、少数に対して多数が集中砲火を浴びせるという選択も悪くなかったが……」
ビームがいったん止んだ瞬間にヘビーアームズの両肩・両脚のミサイルポッドと胸部の装甲が開き、ビームガトリング・両肩のマシンキャノンとバルカンも起動させる。
「一か所に密集するべきではなかった」
ヘビーアームズは全ての火器を一斉に発射した。その光景はもはや1機の機動兵器で行えるものではなく、敵の視界に映るのは射撃の雨であった。
第2世代型を上回る機動性を持つ無人機<ゴーレムⅠ>であるが、密集していたのもあって避け切れない機体が多かった。
爆発するゴーレムⅠの爆発の中から、生き残りのゴーレムⅠがヘビーアームズに接近する。だがその数は6機まで減っていた。
「無人機程度で……このアルトロンを舐めるなぁ!!」
飛来するビームを避けながら、2機のゴーレムⅠの間に入ってドラゴンハングを左右に伸ばし、2機の腹部を貫通させ爆発させる。
「おおおぉぉぉー!」
トールギスはすれ違いざまに1体のゴーレムⅠの腹部を切り裂いて爆散させ、もう1体も懐に飛び込んで脳天から体の中心にビームサーベルを突きたてる。ゴーレムⅠの爆発に巻き込まれる前にトールギスは離脱した。
「………」
近づくゴーレムⅠに対してヘビーアームズは火器を起動させずに右腕に装備しているアーミーナイフを起動させる。この距離では火器を起動させると隙が生まれやすく、懐に飛び込まれた場合対処出来ないからだ。
殴りつけようとするゴーレムⅠの腕を切り落とし、背後に回る。
「はぁっ!」
各部に内蔵されたアポジモーターを使い、まるでコマのように回転しながら背中を何度も斬りつける。
右手を天に掲げ、いわゆる決めポーズを取った瞬間ゴーレムⅠは爆散した。
「私だって、私だって……!」
エネルギーがほとんど残っていない一夏は囮に専念し、箒が攻撃に専念する。がまだ紅椿に慣れていないどころか、闘いの素人である彼女に効果的な動きができるはずもなく、紅椿の性能でゴリ押ししているといった戦い方であった。
が紅椿の性能は通常のISの中では間違いなくトップであり、数撃当たり頭から血を流しながらも、箒はゴーレムⅠを串刺しにし爆散させた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」
6機あったゴーレムⅠは瞬く間に消滅した。この速度は以前IS学園を襲撃した時のものと比べば、信じられないほど速かった。
「増援は……今のところないようだな」
ブラッドの呟きの通り、しばらく待機していても敵の増援はなかった。その後ようやくIS学園の教員が駆けつけてくる。彼女らが遅いというのもあったが、ブラッドたちの撃墜速度も異常であったためだ。
「これで作戦終了だな。すまないが君たちの作戦本部に行きたいのだが」
「何故です?」
ブラッドは教員の1人にそう伝えると、彼女は少し緊張しながらも強い口調で返す。IS学園は中立であるから、そう易々と国家に所属している機体を入れさせるわけにはいけないと考えたからだ。
「今回の作戦でそちらの指揮官に話がある。事と次第によっては上に報告しなければならないからな」
だがブラッドの言葉の端々にある怒りが、彼女……いやIS学園の者たちを黙らせた。
● ● ●
IS学園の生徒たちは宿泊している旅館の部屋で待機と言うことになっている。というのも現在教員と専用機持ちが行っている作戦は決して外部に漏れてはならないため、関係のない生徒を隔離するためだ。
「ねぇ、何か外うるさくない?」
「じゃあちょっと見てみよっと」
「や、やめなよ~」
部屋に待機していた少女たちは、外が何やらうるさいことに気づき戸を少し開けて覗く。
「嘘!あれって!」
「トールギスだー!」
外には着地したばかりのトールギスとアルトロン、ヘビーアームズなどの姿があった。初めて生で見たトールギスに、少女たちは興奮していた。注意するべき教員は今回の作戦で出払っているため、注意する者はいなかった。
しかし1人の少女が眉を顰め、疑問の声を上げる。
「ねぇ、トールギスの横にいる2機って見たことないよね?」
「本当だ。でもあの2機って何かガンダムサンドロックに似てない?」
「確か何かこの前頭が禿げてる専門家がTVで言ってたけど『目が二つあってアンテナが生えていれば全部ガンダム』なんだって。だからその2機もガンダムなんじゃないかなぁ?」
「そんな単純でいいの!?」
と彼女たちの会話を余所に、ブラッドたちはISから降りずに司令官である織斑千冬に会っていた。
「軍事企業ユーコン社専属パイロットのブラッド・ゴーレンだ。今回の作戦への協力感謝する」
「こちらこそ感謝します。私はIS学園教師で今回作戦の指揮を取らせてもらった織斑千冬です。こちらの方に用があると窺ったのですが」
普通機体は降りて挨拶を交わすものだが、今回ブラッドは降りる気がしなかった。それにトールギスを見知らぬ者の前で空けておくわけにはいかないからだ。
「はい。今回の作戦、彼女と少年のみ出撃していましたが他にパイロットがいなかったわけではないでしょう。何故あの2人だけだったのです?彼女に至っては私を誤射しそうになったのにだ」
ブラッドは要するに「あの程度の腕の者をわざわざ寄こすな」と言っているのだ。これほど教員の者がいて、まさか他に適任者がいなかったというわけではあるまい。
「銀の福音は超高速機だ。だから最新鋭機を持っている専用機の中でも特に高速戦を行える機体を選んだら、この2人となった」
この言い分も別におかしくはない。だがそれは機体だけの話であって、中のパイロットの能力に関しては何も言っていないのだ。
それに高速戦闘を行えないにしても、援護用の機体を出撃させてもいいはずだ。
「では聞くが、彼女の機体は未登録のものだった。通常IS学園に所属している専用機持ちの機体データは登録されているはず……どういうことか説明していただきたい」
「……それは」
「そこの女、名は篠ノ之箒だな?」
千冬が答える前にアルトロンから声が放たれた。箒は「あ、そうだが……」と面喰いながらも頷いた。アメリカ所属のはずなのに、日本人の一般生徒である箒の名前を知っていることは有り得ないと思っていたからだ。
「そこの女は国家代表候補生ではないはずだ。大方姉の篠ノ之束の力でも借りて専用機を用意させたのだろう。女がやりそうなことだ」
「な……何で……」
「それは本当か!」
書文の言葉を証明するように、反応してしまった箒を見て、ブラッドが声を荒げる。それが本当なら彼女はいつでも国際指名手配犯の篠ノ之束と連絡を取ることができ、尚且つごく最近束と会っていることになる。
「は、はい……」
「いつだ。いつ篠ノ之束に会った?」
ブラッドの剣幕に一人の教師がつい答えてしまった。それを舌打ちしたい気分で見ていた千冬であるが、そうするわけにはいかなかった。
「昨日です……」
「……ちっ。……だがそうなると貴様たちは篠ノ之束を秘匿していたということになるな。何か弁解があるなら聞こう」
口調が荒くなってきた彼への質問に恐る恐る答える教師。さすがに隠し通すわけにいかなくなったからか、千冬は1歩前に出る。
「だが報告する前に今回の作戦が伝えられた。余計な混乱を避けるために上には報告していなかったのだ。そこは分かってほしい」
「なるほど。犯罪者を匿い、その犯罪者が作った新型に未熟な妹を乗せて作戦に行い、危うく失敗しそうになったということか。素晴らしい指揮官殿だな」
「貴様!」
ブラッドの物言いに千冬を慕っているラウラが声を張り上げる。いや彼女だけでなく、教師陣も彼を鋭く睨んでいた。多かれ少なかれ、彼女たちの中で織斑千冬は特別なのだ。この反応もごく普通のことだ。
「……くだらん。俺は戻らせてもらう」
アルトロンはそう言うと背中を向ける。そしてこう言った。
「闘いに仲良しごっこを持ち込む……所詮、女ということだ」
「「「!!!」」」
その書文の言い様は、彼女たちを激怒させるには十分であった。しかし反論する前にアルトロンは空へ消えていった。
「……ブラッド。篠ノ之束が近くにいるのならお前の武装がない今、この場に続けるのは得策ではない。帰還するぞ」
「……了解だ。このことは上に報告させてもらうぞ」
本当なら色々言いたいことがあった。しかしブラッドは今ギリギリのところで怒りを抑えているのだ。これ以上この場にいたら怒りを抑え込める自信が無かった。
2機はアルトロンに続くように空に消えていく。その後その場に残ったのは、彼女たちのトールギスたちへの憤りだった。
周りの者たちが愚痴を言い合う中、織斑千冬は空を見て呟いた。
「……仲良しごっこか、言い返せんな」