日本にあるIS学園、そこは世界で唯一のIS関係者育成学校である。
そんなIS学園だが、今日はいつもと様子が違っていた。
「ねぇ、アンナ・マリーちゃんがいないけど何かあったの?風邪でも引いた?」
「あー、それなんだけどねぇ……」
1年1組。いろんな意味で学園の話題を集めるクラスで、クラスメイトであるアンナ・マリー(アメリカ国籍)がいないことに気づき、少女はアンナ・マリーのルームメイトに話しかけるが、ルームメイトの子も酷く答え辛そうにしていた。
そして答える前に、予令が鳴り響き女性が入室してくる。
「席につけー。SHRを始める……と言いたいところだが、今日は全校生徒に伝達しなければいけないことがある。混乱するだろうから伝達は各クラスで、1時間目を潰して行う」
そう言ったのは、このクラスの担任で長い黒髪を首の後ろで結んでいる女性、織斑千冬だ。彼女こそ世界最強のISパイロット『ブリュンヒルデ』の称号を持つ女性であり、またかなりの美人であったことが彼女の人気が現役を引退した今でも根強い原因である。
また世界で2番目に出現した男性ISパイロットである織斑一夏の姉でもある。24歳、未婚。
「まず1つ。昨日限りでアメリカ国籍のアンナ・マリーが退学になった。いや、この場合は辞めざるを得なかったというべきか……理由としてはアメリカが支援金を打ち切ったためだ」
教室がざわめく。突然クラスメイトが退学になったのだ、その反応は当然といえた。
「な、何でですか!アンナが何かしたんですか!?」
仲が良かったのだろう。1人の少女が声を張り上げる。だが千冬はそれを冷静に対処した。
「いや違う。アメリカ政府の回答は『新型開発と男性パイロットのために資金が必要なため、我々アメリカ政府はIS学園から撤退するものである』ということらしい。つまりアンナ・マリーだけでなく、アメリカ国籍を持つ学園の生徒は全員帰国となった」
「そ……そんなのありか!?アメリカは何考えてんだ!?」
「落ち着け、織斑」
パカン、と千冬は声を上げた自分の弟―織斑一夏―の頭を出席簿で叩く。とはいえそれは軽くやったもので、一夏自体はほとんど痛くなかった。彼女も今回の件には思うところがあったためであろう。
IS学園の土地や経営は日本持ちということになっているが、その全てを一国のみの資金で賄えるはずがない。
戦略兵器であるISを複数持ち、そのための維持費や整備代。またそれらと学園を守るためのセキュリティーや、万が一のときのためのシェルターやISの戦闘にも耐えきれるアリーナ、また生徒たちが快適に暮らすための各種設備など……世界中どこを探しても、これほどの設備を持つ施設はIS学園以外存在しないであろう。
正直これほどのものを全て一国で賄うのはきつすぎる。そこで生徒側に授業料を負担してもらっているのだが(代表候補生・織斑一夏は無料)、その費用は一般人が見たら目が飛び出るほどお高い。
そこで各生徒の国籍である国が授業料のほとんどを負担してくれることで、一般庶民の出の子供でも問題なく通うことができるぐらいの授業料になるのだ。
だが逆に言えば国が支援金を打ち切れば、ほとんどの生徒は帰国を余儀なくされることになる……ということだ。
「恐らくだが、トールギスの量産機か全く別の新型を開発するためにこういった判断を下したのではないかと考えられる。だが、今日の本題はそこではない」
まだあるのか……と生徒はざわつく。何人かの少女はアメリカの決定に怒りを覚えているようで、震えている者がいた。
「織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ。お前たち専用機持ちのISから待機状態を解除されることが先日アラスカ条約で決定した。いや、専用機だけでなく世界中全てのISにだ」
「なっ!?」
ガタンと席を立つ金髪をロールにした少女……セシリア・オルコットが声を上げる。いや、彼女だけではない。
「先生!それってどういうことですか!?」
「ISコアはいじれないはずです!」
「そうだよ、どうなってんだよ千冬姉!?」
次々に生徒たちが抗議や質問の嵐を千冬に投げかける。副担任で眼鏡ロリ巨乳である山田真耶が収めようとするが全く効果が無く、彼女は若干涙目である。
「黙れッッ!!」
ズドンッ、と黒板に拳を叩きこんだ千冬の一喝で、少女たちの喧騒は収まった。それどころか、千冬の一喝で震えている少女もいるくらいだ。
「……こうなることがわかっていたから、全校集会で話すことが取り止められたんだ。私だって今回の決定はまだ信じられん部分がある。……質問のある者は挙手をしろ」
そう言った途端、クラスの全員が手を上げた。はぁ、と千冬は腰に手を当てて溜息をつく。分かり切っていた光景だが、実際に見ると溜息もつきたくなるというものだ。
「え~、じゃあまず佐藤からだ」
「どうしてそのような決定が下されたんですか?何か切っ掛けがあったと思うんですけど?」
「うむ……まず今回の条約の発端となったのは、アメリカのブラッド・ゴーレンが街で女性と2人きりのときに、所属不明のISに襲撃されるという事件だった。そのISは撃退できたそうだが、そのISが使っていた武装と言うのがまだイギリスでしか開発されていない小型自律兵器<ビット>だったそうだ」
「……その機体名はBT2号機<サイレント・ゼフィルス>ですね?」
セシリアが怒りで震えるような声で答える。良く見ると、膝の上に置かれている手が強く握りすぎて白くなっている。
「そうだ。イギリスも開発直後、亡国企業に奪取されたことを認めた」
セシリアは苦虫をつぶしたような表情を見せる。自国の不始末がこのような事件を生みだしてしまったことに腹立たしくもあり、恥ずかしくもあった。
「しかしそれだけでは理由としては少し弱い。決定打はトールギスにある」
「トールギス?トールギスって、白式以外の男の機体の……」
この一夏の言葉は、全く正しくない。この言い方では白式が先に開発されたかのような言い方だ。
それにトールギスは一応“誰でも”乗れる機体であるが(もっともよほどの人間でない限りまず死ぬが)白式自体はただのISだ。
トールギスは機体が特別だが、一夏は「ISコア書き換え無し」でISに乗れる人物であり、両者は特別の方向性が全く異なるのだ。
「そのトールギスだが……あの機体は一部だがISコアの解析に成功していて、待機状態は存在していないらしい。『ISの恐ろしさは戦闘能力もそうだが、最も恐ろしいのはステルス関係だ。そしてこれは各国家に取り返しのつかない損害を与えかねない、その良い例が先の襲撃事件である。それ故に、トールギスのように待機状態を解除するための技術を各国家に伝えたいと考えております』……これが発表された理由だ」
その千冬の言葉は、少しでもISを学んでいる者にとっては衝撃的であった。ISコアの解析は不可能である……それはISを学ぶ者にとって常識である。いや、常識で“あった”という方がこれからは正しいのだ。
しかし普通なら苦労して解析して得られた技術は秘匿するのが当たり前のはずなのに、こうもあっさりと世間に公表したことが少女たち(+一夏)を二重に驚かせた。
「教官「織斑先生だ」……失礼いたしました。織斑先生、どの人物が計画を推し進めたのかご存知ですか?」
そう発言したのは無造作に腰まで伸ばされた銀髪を持ち、左眼を本格的な眼帯で覆っている冷たい雰囲気を持つ少女、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。
彼女の姿は決して厨二病ではない。彼女はドイツ軍のIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」隊長であり、階級は少佐である。
彼女はある特殊な理由により左眼にハイパーセンサーの補助になるナノマシンが埋め込まれているため、普段は眼帯で隠してある。
千冬を教官と呼ぶのは、昔千冬がドイツ軍のIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の指導を行ったためである。彼女は千冬のおかげで部隊一のISパイロットになり、それ以来千冬に親しみをこめて「教官」と呼んでいるのだ。
「知っている。実は技術を提供したのはアメリカではなく、ロームフェラ財団だそうだ。そしてそれを行ったのはトレーズ・クシュリナーダだそうだ」
「トレーズ様が……!?」
セシリアは自分が崇拝しているトレーズの名前が出たことに驚くと同時に……
「さすがですわトレーズ様……ISコアの解析もなされていたなんて……!!」
なぜかセシリアの周りにバラが咲き乱れるように見えて、周りの少女たちは目を擦った。
千冬は静めるためトリップしているセシリアにチョークを投げようとしたのだが、何故か周りのバラで防がれるような気がしたので止めた。具体的に言えば「エレガントでは無いですわ」とか言われて弾き落とされそうな、そんな感じ。
「あの男か……」
ラウラは渋い表情を浮かべる。ヨーロッパに置いて経済を始めとしたあらゆる分野で強力な影響力を持つロームフェラ財団の中で、ここ数年凄まじいカリスマ性を持った男の名前はラウラも知っていた。
彼を崇拝している者が多い中(セシリアは自室に等身大トレーズポスターをベッドの壁に貼っていたりする)、その得体の知れなさから警戒する者も少数ながら存在していた。
その得体の知れなさから、ラウラは自身の部下に彼の周りを調査させるという選択肢を消した。それに何故かは知らないが、そんなことを仕出かしたら何か恐ろしいものが出てきそうな予感がしたのだ。
「(それを日本では“触らぬ……教官に祟りなし”と言うのだったか?)」
千冬に聞かれたらとんでもないことになりそうな諺を内心思っているラウラを余所に、千冬は次の生徒を当てた。
「あの~、その解除っていつ行われるんですか?学園の人たちだけでやるんですか?」
そう発言したのは中性的な顔立ちで、金髪を首の後ろで束ねているシャルロット・デュノアだ。彼女もいろいろ訳有りの生徒だが、クラス内では中々の人気者である。
「いや、外部の人間が学園内にやってきて行うことになっている。専用機持ちはそれぞれ在籍している国の技術者たちが学園までやってくるということだ。オルコットだったらイギリス、デュノアならフランス、織斑なら日本といった具合にな。訓練機は日本が全面的に行うことになっている」
「そ、それはいつですか!?」
ガタンと席を立ちながら慌てているシャルロットを見て、千冬は「ああ」と何かに思い至ったようだ。
「専用機は今日の5日後からフランス、イギリス、中国、ドイツ、ロシア、日本の順に行うことになっている。だからデュノア、お前は今日から4日後に男子の制服を着ろ。一応対外的には“男子生徒”として通っているのだからな、解除が終わるまでは男子制服でいるように」
「は、はい!ありがとうございます!」
シャルロット・デュノアは少女であるが、最初のころは男子生徒として編入してきた。その理由は一夏と白式のデータを盗んで自分の父が社長を務めるフランスのデュノア社に送るためであった。
デュノア社は第3世代型ISの開発に遅れており、一度トールギスの襲撃に参加したのだが、あっさり返り討ちにあってしまい、それならばと織斑一夏と白式のデータを奪取する方向にチェンジしたのだ。
しかし学園内で彼に近づくには、女のままでは苦労するだろう。あ、そうだ!それなら男の子に変装させて近づけさせればいいんじゃない?……といった感じで、社長の愛人の子であるシャルロットを男に仕立て上げ、一夏に接触させたというわけだ。
接触までは成功したのだが、一夏のズボラな癖とシャルロットの迂闊な行動で変装していたことがバレてしまい、その後一夏の説得によりシャルロットは学園内では少女で過ごすことを選んだのだ。
しかしこの事は本国のデュノア社も与り知らぬことであり、もし今回バレたりしたのならば、本国に強制送還→刑務所行きは確実なので、シャルロットの焦りも当然といえた。
シャルロットのデータ奪取云々を知っているのは一夏と千冬ぐらいなので、周りの少女たちはシャルロットの焦りように不思議そうな表情を浮かべていた。
「解除の詳しい日時は追って伝える。他に質問は?」
「はい。トールギスが今回の理由というのはわかりました。けど皆の口ぶりからするとトールギスって強いみたいですけど、そんなに強いんですか?」
一夏のその質問に、教室は静まり返った。一夏は内心「え?何これ?」と思っていると、千冬のげんこつが一夏の脳天に直撃した。
「織斑……まさか一度も見たことが無いのか?」
「って~……ちょうどそのとき自分の周りがゴタゴタしてたから、見てなかったんですよ……」
トールギスが初めて人目に晒された時はちょうど受験勉強の真っ最中であったし、ユーコンが幾度も襲撃に合っていたときは、世界で二番目に現れた男性のISパイロットと判明した一夏の元に様々な人間が押し掛けてきていた。
とはいってもトールギスの闘いを見る時間はあったのだが、どこか流行に疎い一夏は自ら進んで見るという行為をしなかったというのが大きな要因であった。
「ちょうど良い……そこの馬鹿のこともあるし、トールギスの戦闘を今から見ることにする。山田先生、頼む」
「はい、分かりました」
「何人かは知っていると思うが、今から流す映像はトールギスが世界で初めて確認された無人機3体と交戦したときのものだ。織斑、ちょうどお前が前に闘ったあの無人機だ」
「あれか……」
時期的に言えば一夏が無人機と戦ったのはトールギスより後である。その時一夏は2組の鳳鈴音とアリーナで戦っている最中で、結果から言えば一夏、鈴音、セシリアの3人がかりで1体の無人機を撃破した。そのときの無人機の強さは、一夏1人で倒せと言われたらきついと思うぐらい強かった。
だが今一夏が見ているトールギスの戦闘は、無人機を圧倒していた。
無人機の強力なビーム砲をその驚異の運動性で避け切り、無人機が接近戦をすればその腕を桃色の刃で切り落としていた。
最後の方は2体の無人機に抱きつかれて動きを封じられたかと思ったら、背中の大型バーニアを全開にして2体を振り落とし、瞬く間に3体を桃色の刃で撃破し、破壊した。
衝撃だった。一夏は無人機と戦ったとき、相手は1機なのにも関わらず鈴音と2人がかりでも近接攻撃を当てることができなかった。
なのにトールギスはたった1機だけで3体の無人機を接近戦で撃破してしまった。知らず、一夏の手はきつく握られ、汗をかいていた。
「この無人機の性能は第3世代型ISを操る代表候補生に勝るとも劣らんほどだ。だがトールギスはそれを遥かに上回る性能を有している。また特殊な兵装が無い代わりに基本性能をただひたすらに高めてあるそのコンセプトは、万能機に相応しいということから、一部の専門家では第3世代型ではなく第4世代型ではないかという話も出ている」
第3世代型ISは操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装をコンセプトにしている。
それに対して第4世代型ISはパッケージ換装を必要としない万能機という現在机上の空論のものである。
この考え方で行くと確かにトールギスは第4世代型に当てはまるのであるが、爺様たちはそんなことは全く考えていなかったので、ぶっちゃけて言うとどの世代にも当てはまらないのが正解だ。
もちろんそんなことはIS学園の人間は全く知らないので、正解に辿り着くはずもない。
「だがアメリカが発表していない以上、そんな論争に意味はないがな」
フッ、と鼻で笑う千冬。彼女は気にするべきは性能であって、世代に当て嵌めることではないと考えている。こうしてサバサバ物事を考えられるのは彼女の長所である。
「だがトールギスが既存のISと最も違うものというのは……どうした、山田先生?」
山田真耶は先ほどから何かしきりに気にしているので、千冬はつい声をかける。だが彼女から聞かされたニュースは、それこそ一大事だった。
「その、トールギスを開発したユーコンが新型のISを発表したという情報が入りまして……しかもその発表のついでに自国の第3世代型IS<ファング・クエイク>と戦闘をしている映像が世界に配信されています」
「何だと?映像はこちらに回せるか?」
「はい!」
そして映し出された映像は、もう決着が着く寸前であった。
● ● ●
曲刀という武器がある。中東あたりに見られる武器で、形は平仮名の<ら>の長い方に似ているといえばわかってもらえるだろうか?
この武器は叩き潰すというよりは、斬るという使い方で用いられる。叩き潰すという印象が強いが、本来は斬るという方法のほうが正しい。よく勘違いしている者がいるから困ったものである。
だが曲刀という武器を現代で見かけることはまずない。が、今ユーコンの新型と戦っているアメリカ国家代表のイーリス・コーリングにとってそれは例外だった。
虎模様の第3世代型IS<ファング・クエイク>はイーリスがパイロットを勤める最新鋭機である。「安定性と稼働効率」を第一に目指したその機体は他国の第3世代型を上回っているとイーリスは自負していた。
ファング・クエイクは接近戦を主体にしており、拳を使って闘うのが特徴だ。だが今その自慢の拳は破壊され、様々な箇所が砕かれていた。
最初は敵がビームバルカンで正確な射撃を行ってきたが、イーリスは得意の接近戦で潰そうと接近した。もちろんイーリスも敵のバックパックに曲刀<ヒートショーテル>が2本背負っていることに気づいていたが、自分が接近戦には自信があるし、敵は6mと大型だ、懐に飛び込めばこちらが有利だと踏んだのだ。
だが敵の動きは予想を超えていた。振るわれる2刀の曲刀のスピードは凄まじく、防ぐことは愚策だと思わせるほどだ。
だがその隙をついてイーリスは右拳を振るった。が相手は曲刀を右拳に合わせるように振るう。そして結果は……右拳は砕かれ、曲刀は無事だった。
砕かれていく装甲の欠片が舞い散る。その中でイーリスは自分の機体に強い不信感を抱いてしまった。
「(どうして、こうまで差がある?)」
「安定性と稼働率」というコンセプトは兵器にとって重要だ。だがそれは最新鋭機の、それもワンオフ機で掲げるようなコンセプトではない。ワンオフ機は基本的開発されたばかりの兵装やシステムなどコスト度外視のものを搭載させ、その機体のグレートダウンと「安定性と稼働率」が一般的な量産機だ。まぁビルゴはそれに当てはまらなかったが。
つまるところ、パイロット抜きにすれば兵器は性能の勝負である。「安定性と稼働率」というコンセプトはISの特性を考えると“使用が難しい及びエネルギーを馬鹿喰いする兵器”は使えないことになる。そうなると<ファング・クエイク>は基本性能で勝負するということになってしまうのだ。
だが<フェング・クエイク>の前にいるユーコンの新型<ガンダムサンドロック>はパワーもスピードも、基本性能そのものが<ファング・クエイク>よりも遥か上をいっていた。
仕方ないのだ。<ファング・クエイク>はISコアをいじっていないため出力的には他のISと変わらないのに対して、ガンダムサンドロックは無駄な機能を省いて純粋な基本性能を大幅に高めている上で特徴を持たせているのだ。
「安定性と稼働率」のため一発逆転の兵装を搭載できず、両機とも得意とするのは接近戦。もう、結果は見えていた。
サンドロックは2刀の曲刀を肩口から背中まで大きく振りかぶる。
プッピガン!
振り下ろした曲刀はけたたましい音と共に<ファング・クエイク>の装甲を粉々に、破壊した。絶対防御を発動したイーリスは気絶し、彼女の体は地面に落ちる。それと同時に会場は沸いた。
『勝―――利!!シオン・オリバ選手、国家代表イーリス選手を圧倒しての勝利です!早速ヒーローインタビューを行いたいと思います』
その言葉と共にガンダムサンドロックのコックピットが開き、出てきた男に女性から歓声が上がった。
柔らかく美しい金髪に、まるで女性のように見える顔立ち。細身であるが締まっている体はまるで物語の中から出てきた理想の王子のようであった。そのシオンに実況はマイクを向ける。
『おめでとうございます!どうでしたか、トールギスに続く新型は?』
「ええ、とても素晴らしい性能です。これが僕の愛機になると考えると、少し恐縮してしまいますね」
にこやかに笑いながらコメントをするシオンの姿を見て、控室の方でニヤリと笑いを浮かべている人物がいた。――――ブラッド・ゴーレンである。
「ああは言ってるが、相当浮かれているな。シオンのやつ」
「元々性能差があったからな。当然じゃ」
「もうワシ等は行くぞ。少し寄る所があるんでな」
返事もそこそこに、爺様たち5人は会場を出ようとする。だがブラッドは彼らが今日行く予定の場所はここしか聞いていない。
「どちらに行かれるのです?」
「いや、ワシ等だけしか呼ばれていないのでな。お前はついてこんでいいぞ」
「それにお前はサンドロックが勝ったときのためのトールギスでのパフォーマンスがあるだろう?早く行け」
「………わかりました」
確かに今日はサンドロックが勝ったときに、トールギスとサンドロックは共に周囲を飛び回るパフォーマンスを行う予定であった。
これは新型の発表と共に、襲撃者をあぶり出すという目論見もあった。なので会場の近くではデスサイズヘルがステルスをかけて、ずっと待機していた。少しも動けず、長い間待機し続けるデスサイズヘルの中で、ディルムッドが「……不幸だ」と呟いていたのは誰も知らない。
サンドロックとトールギスを運んできたトラックに乗って爺様たち5人はそのまま会場を後にした。
「仕方ない……行くとするか」
ブラッドとて思うところは色々ある。本当ならこの事を誰かに伝えるべきなのだろうが、ブラッドの『勘』が放っておけ、と囁くのだ。そしてその『勘』をブラッドは信じることにした。
「私の勘は外れたことがあまりないからな」
そういって彼はトールギスに搭乗した。
おまけ
関係者以外は近づくことも出来ない場所がアメリカにはある。そう、巨大戦艦リーブラの残骸がある場所である。
そこへ2台のトラックが関門に近づいていった。
「止まれー!トラックから全員降りろ、1人1人チェックする!」
そして2台のトラックから降りてきたのは5人の老人であった。
警備員はその面子に眉を顰めたが、彼らがユーコンの中でもトップクラスの人物だと判断されるとすんなりと通された。
「上手くいったの。昔よりは動きやすいわぃ」
「確かにな。さて、ビルゴの部品と核融合炉を奪うとするか」
「さよう、ウイングゼロのためにな………」
そして彼らのトラックはリーブラ内部に入っていく。彼らも少しずつ動きを見せ始めていた。
後書き
遅れてすいません!テストマジやばだったんで……あの腐れ教授め。
今回の話に伴い『戦乱の予感』での無人機の撃破したシーンを絶対防御発動から→大破に変更したいと思います。申し訳ないですが了承していただきたいです。