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No.27174の一覧
[0] 爺様たち、乱入(IS+ガンダムW)【微アンチ】[伝説の超浪人](2012/03/04 01:23)
[1] ブラッドの決意[伝説の超浪人](2011/04/30 12:50)
[2] 戦乱の予感[伝説の超浪人](2011/08/03 00:31)
[3] エレガントな交渉と交渉[伝説の超浪人](2011/04/30 12:49)
[4] デートと刺客[伝説の超浪人](2011/05/24 00:14)
[5] 逃亡と黒い影[伝説の超浪人](2011/06/05 21:52)
[6] 動く時代[伝説の超浪人](2011/08/03 00:32)
[7] 学園と砂男[伝説の超浪人](2011/08/07 15:45)
[8] VS銀の福音[伝説の超浪人](2011/08/07 15:43)
[9] 龍と重腕の力[伝説の超浪人](2011/08/28 17:45)
[10] 彼女の分岐点[伝説の超浪人](2011/09/19 23:33)
[11] ドキドキ☆学園探検![伝説の超浪人](2011/10/01 23:04)
[12] 番外のお話(本編とは全く関係ありませんよ!)[伝説の超浪人](2011/12/12 00:00)
[13] 無人機の驚異[伝説の超浪人](2012/03/04 01:22)
[14] ゼロの幻惑[伝説の超浪人](2012/03/31 15:33)
[15] 欲望と照れる黒ウサギ[伝説の超浪人](2012/09/09 13:45)
[16] 飲み込まれる男[伝説の超浪人](2012/11/08 23:53)
[17] 初の共同作戦[伝説の超浪人](2013/04/07 23:37)
[18] 進撃のガンダム[伝説の超浪人](2013/05/11 23:31)
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[27174] エレガントな交渉と交渉
Name: 伝説の超浪人◆37b417bc ID:5424a8a7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/30 12:49
エス・チャイルド財団は国内外に大きな力を持つ。財団の代表であるスタンリー・チャイルドは民間にこそ穏やかで、人当たりの良い人物であるとされている。

しかし実際は政府を操り、彼に異を唱えた者や彼のことを嗅ぎまわる記者は自殺や不幸な事故に見舞われるなど不可解な出来事が何件か起きていると言われている。

アメリカのとある州にあるエス・チャイルド財団の本部。エス・チャイルド財団代表の自宅も兼任しているその土地はどこぞのテーマパーク並、いやそれ以上の大きさを誇っている。

普通に働いている人では滅多に見ることができないほど豪華な客間で、財団代表であるスタンリー・チャイルドは人を待っていた。彼のそばではメイドが1人立っている。ティーセットの準備のためだろう、彼女のそばにはそのための道具が台に乗っていた。

客間の扉が数回ノックされる。その後1人の黒服の男が部屋に入ってくる。執事だろう、その男はスタンリーに深く礼をし、口を開いた。

「スタンリー様、ロームフェラ財団のトレーズ・クシュリナーダ様がお見えになりました」
「通せ」
「かしこまりました」

その言葉を聞いて執事が部屋を出て行って、少し時間が経つと扉が開かれた。

「お久しぶりです、スタンリー・チャイルド代表」
「久しぶりだな、トレーズ・クシュリナーダ」

スタンリーは彼―トレーズ・クシュリナーダ―が入室すると席を立ち、握手を交わす。

そう、今回エス・チャイルド財団代表とロームフェラ財団幹部の非公式の会談が行われていようとしていた。

席についた2人はメイドが淹れた紅茶に口をつける。このときメイドは既に部屋から退出していた。メイドに会話を聞かれるわけにはいかないからだ。

「ほぉ……これは中々のものですな……」
「うむ。これは私のとっておきでな、滅多に飲まんものだ。気に行ってくれたようだな」
「ええ……とても素晴らしいと思います」
「できれば酒が飲みたいのだが、医者から晩酌以外は止められていてな。全く、年はとりたくないものだ」

自嘲気味に呟いたスタンリーの言葉に、トレーズはほんの少し口の端を上げる。

「ですが年を重ねることで得られた知識や経験は次の世代に受け継がせることができます。人のそういった点は素晴らしいと、私は感じております」
「そう言われると、年をとることも悪くないと感じてしまうな……」
「それは、幸いです」

軽い笑いが部屋に木霊する。だがスタンリーのその笑いと内心は全く異なっていた。

「(ロームフェラの奴らも馬鹿なことをしたものだ……)」

スタンリーはもう老人である。目の前の男とは祖父と子ぐらい年が離れている。トレーズのことは若造と呼んでも仕方ないほどに。

噂では数年前ある上流階級の一族に命を救ってもらったというトレーズは、その恩返しのためにロームフェラ財団に入っていったという。

トレーズの容姿はそれこそ美を具現化したかのようであり、また体から溢れ出る気品と行動の優雅さは婦女子の目を引きつけるのには十分であった。

当時財団入りして日の浅い彼の容姿と気品だけに注目したロームフェラ財団の幹部は、彼をロームフェラ財団の広告塔としてロームフェラ財団の持つ私兵団の総帥に祭り上げた。

今のロームフェラ財団の代表の男は無能ではないがあまり能力は高くなく、求心力はほとんどなかった。

今の世の中は女尊男卑である。女性の権力が上がったのはロームフェラ財団を構成している貴族でも変わりない。そこで優れた容姿、そして貴族然としているトレーズを前面に押し出すことで婦女子たちの人気をロームフェラ財団に集めようと考えたのだ。

そしてそれは成功した。いや……成功し過ぎた、といった方が正しいのだろう。

トレーズは舞踏会やパーティーなどに必ず出席し、まだ私兵団の指揮も行なった。

彼の姿は確かに美しい。だが彼に少しでも接した者は、決して容姿だけに捕らわれることはなかった。

貴族としての立ち振る舞い、非常に豊富な話術、ISの基礎設計すら行えるほどの頭脳(イギリスの第3世代の基礎設計に携わったという報告がある)、そしてあるパーティーで見せたズバ抜けた身体能力、人心掌握術や戦術眼にも優れており、まさに完璧な男であった。

だがそれらは決して他者の目からは必死に行ったようには見えず、優雅に余裕を持ってこなしてみせた。その姿は、人と隔絶した何かを感じさせるには十分なものだった。

トレーズはその類稀なる能力により支持者を急速に集め、私兵団はロームフェラの貴族たちではなく、理想の軍人を表したかのような能力を誇るトレーズに忠誠を誓うようになっていった。

良い例と言えば、あるパーティーの一件から婦女子や軍人など多くの人々の支持を集め、かつて某国の代表候補生が代表の座を蹴ってトレーズの秘書として勤めているというものがある。

今の世の中で男は女を嫌うものが多い。特にISが出現して多大な被害を被った軍事関係者やそれを支援していた出資者……つまり財団の者たちは露骨に態度に出すか、表面上は普通でも内心は毛嫌いする者が非常に多かった。

だがそういうものは上手く隠していても何となく相手に伝わるものだ。しかしトレーズはISを嫌っておらず、女性への憤りなどは持っていなかった。

周りの男たちの態度がおかしい中で、トレーズの女性に対する態度は非常に紳士的なものであり、それが余計に婦女子の人気を集めたと言われている。

結果としてロームフェラは確かに当初の予定通り多くの支持者を得て財力を拡大させることに成功した。だがそれはロームフェラ財団への支持ではなく、そのほとんどはトレーズを支持するものであり、実質彼がいなくなれば財団は危うくなる状況にまでになっていた。

だからスタンリーは彼を若造として下に見るのではなく、態度には出さないが自身と同格、いやそれ以上の人物として接していた。この男との交渉に下手をうてば両財団は非常にマズイ関係になるのだから。

「さて、今日の要件をさっそく聞きたいのだが?」
「本日はお時間があると聞いております。もう少しこの紅茶の味を楽しんでもよろしいのではないですか?」
「私はあまり回りくどいのは好きではないからな。そういう無駄なことをするのは民間相手で十分だ」

スタンリーは早めに主導権を握っておきたかった。いくらあちらの代表があまり出来の良い男でなかったとはいえ、長い歴史を誇るロームフェラ財団の中心人物にたった数年でのし上がった男だ。少しも油断はできない。

「その前に1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「スタンリー・チャイルド代表は、無人機のことをどうお考えなのでしょうか?」

トレーズの眼は、真剣そのものだ。まるで相手を射抜くかのようで、虚偽をした途端真っ二つにしそうなほどであった。

「それは答えなければいけないことか?」
「今日の会談はそのため……といっても過言ではありません」

スタンリーは息を吐いて、トレーズに背を向けるように席を立つ。それ故にトレーズからはスタンリーの表情はわからなくなった。

「……無人機はたしかに魅力的だ。もしあれが作れるようになったならば、女のISを廃止し、死なぬ兵士である無人機が戦場の主役になるだろう。人的被害を必要最低限で抑えることができ、無人機の製造で利益を増やす。財団としては最高の兵器だろう。だが……私は無人機を使いたくない」
「それはなぜです?」

彼の言葉を聞いて常人にはわからない程度であるが、トレーズの眉はほんのわずかに動いた。だが後ろを向いているスタンリーが気づくはずもなかった。

「……小さいころ、父に一番初めに買ってもらったのが戦闘機の玩具だった。それから戦闘機が大好きになってな、よく財団代表の父に強請って戦闘機のエースパイロットに会わせてもらったものだ。私の夢は戦闘機のパイロットになることだったんだが、生憎いろいろあってなれなかった。それでも戦闘機とパイロットが好きなのはずっと変わらなかった。あのトールギスのパイロットのブラッド・ゴーレンにも会ったこともあるのだ」

思い出すように、スタンリーは言葉を続ける。その言葉が陰りを帯びてきても、彼は続けた。

「だがそれは全てISに捕られてしまった。栄光も、力も、何もかも……。私はIS、特に無人機は好きになれんのだ。なぜだと思う?」
「……戦士はその命を持って戦いを挑むからこそ、彼らの魂は気高く輝いて見えるのです。そしてそれは人々に強烈な印象を与え、戦いは命が尊いことを訴えて失われる魂に哀悼の意を表することができると、そう考えております。だが人間性を不要とする無人機では、それは起こり得ない」
「……そうだ。大人になるにつれて、戦闘機に憧れる理由が変わっていった。パイロットたちの生死を懸けた戦いは、勝利の時も敗北の時も大きな感情を私に与えてくれた。私の魂を揺さぶったのだ。だが今のIS、それに無人機は全くそういったものがなくなってしまった。ISはその安全性と国家間のパワーバランスが均衡したことで、パイロットたちはいつしか戦いを忘れ、ISを兵器ではなくスポーツやブランドのファッションなどと勘違いし始めた。兵器は所詮人殺しの道具だ。だがそれを理解していない若者が国家代表と名乗り、さらにはその者達をも必要としない無人機まで出てきた……」

スタンリーは目を瞑る。瞼の裏でISの出現で立場を追われたパイロットの男たちの顔を思い出していく。その多くは軍を辞めていき、彼の憧れだった者たちは消えていった。

「戦いはゲームではない。それを認めてしまったら、消えていった者たちに申し訳が立たん。だから私は無人機を認めるわけにはいかんのだ。お前はどうなのだ、トレーズ?」

スタンリーの答えを聞いて、トレーズは薄く微笑む。一口紅茶を飲んで、トレーズは口を開いた。

「私自身IS自体は嫌っておりません。確かに思うところはありますが、ISも人が乗り戦うものですから。ですが無人機は人間にとって必要な戦う姿、その姿勢を忘れさせてしまうものです。無人機に頼った人類の作り上げる時代は、後の文化に恥ずべきものになると私は思っております。ですから私は無人機を否定します。ですが今のままでは無人機を開発した彼女に対抗する戦力がない……そのために貴方がたの宇宙開発、いやガンダニュウム合金の製造の手伝いをさせていただきたいのです」
「っ!?」

スタンリーはトレーズの言葉に振り返り、その体は椅子にぶつかり激しい物音を立てる。だがそんなことなど気にする隙間など、彼の頭の中に存在しなかった。

何故アメリカの最重要機密である宇宙開発の目的―ガンダニュウム合金―のことを既に知っているのか。いや、トレーズがこの会談を持ちだしたのはトールギスの姿が世間に晒された頃のはず。まだその時は宇宙開発の話は出ていなかったはずだ。

「……何に使うつもりだ?」

動揺を隠したいスタンリーは、極限まで感情を押し殺しながらトレーズに問いただす。

「あのトールギスのようにISの装甲に用いるつもりです。ガンダニュウム合金は非常に優れた物ですから」

だがその押し殺した感情を破るかのように、トレーズの答えは核心を突いたものだった。

完全に情報が漏れている。スタンリーはこうも簡単に国家機密を探り当てたトレーズの手腕に舌打ちしたい気分だった。

実際の所トレーズはあらかじめ答えを知っていたのだが、スタンリーがそれを知るはずもない。

「それとあのリーブラの内部にある人型機動兵器の核融合炉も1基いただきたい。そのための代金です」
「貴様、一体どこまで……」

巨大戦艦リーブラの残骸は見つかっていても仕方が無い。あれほど巨大な物だ、いつまでも隠し通せるわけはない。

だがその内部は非常に厳重な警備で固めており、情報規制も徹底している。潜入なぞ不可能で、外部に漏れるはずもない情報をこうも知っているトレーズをスタンリーは信じられない者を見るような目で見る。

実際トレーズは“かま”をかけただけだ。あれがリーブラの残骸だということは理解していたが、あまりの警備に内部までは把握できなかった。だがあれほど大きな建造物なのだ、MSの1機や2機は残っているだろうと判断した上で、あえて知っているかのように振舞ったのだ。

またアメリカがMSを製造していないことから、無傷のMSは無かったのだろうと予測していた。もしホワイトファングの戦艦にあるMSといえばMDしかない。

MDがあったのなら、あれに手を出さない人間などあまりいないことをトレーズは理解していた。

だがアメリカはMDとは真逆の意味合いを持つトールギスを開発した。あのトールギスはまさしく決闘用というべき代物。効率を第一に考えて発展してきたアメリカがトールギスを開発した以上MDはまずない、そうトレーズは考えていた。

加えてこちらの世界の科学力ではMDの残骸が残っていたとしても、修復は不可能だろう。しかしそれらは時間をかければ、いつかは解決してしまう。だからトレーズはアメリカがMDの使い方が分からないうちにその動力炉を手に入れるべきだと考えていた。

もちろんトレーズは無人機=MDなどは作らない。だがMSサイズの核融合炉は今の彼に必要なものであった。

トレーズが手を2回叩くと、数名の部下がトレーの上にアタッシュケースを乗せ、部屋に入りスタンリーの前に運ぶ。

「中身の御確認をどうぞ」
「うむ……これは……」

1つのケースを開くと金塊が敷き詰められていた。そんなケースが10個以上存在する。

「ガンダニュウム合金と核融合炉の代金にしても、少し多すぎるのではないか?」

その代金は別の世界だったら地球に落とすための小惑星を買えるほどのものだ。

「いえ、この代金はそちらの国の福祉政策を充実させる分も入っておりますから。この宇宙開発とガンダニュウム合金を用いたISの製造に資金を費やした場合、他の事業が些か厳しくなるのではと思いまして……横から割って入るのですから、これぐらいは当然かと」
「………」

トレーズの言う通りだった。宇宙開発とガンダニュウム合金製ISの製造の2つは莫大な資金を投じることになる。しかも今回の宇宙開発は月面での資源採掘と地球の傍にガンダニュウム合金を製造するための宇宙ステーションを同時に開発する予定なのだ。

普通こんな同時開発は行われない。だが男性用ISの開発を進める声と、無人機の危険性、そしてそれを開発したであろう篠ノ之束に対抗する戦力を求める声が開発を推し進めた。

だがこれを行うと、10年間大規模な戦争がなかったため以前より財力が低下しているエス・チャイルド財団の財力は非常に厳しいものになってしまい、国内外の影響力が著しく弱まる可能性が大きかった。

ISの出現以後アメリカ国内だけでなく諸外国、特に先進国では軍事関係者やその専門家たちの失業率が大幅に高まった。それの支援金も財団に必要なのだが、現在行おうとしている開発は他に資金を回らせることができなくなる可能性を生みだす。

そういったことができなくなったと諸外国に知られてしまうと、エス・チャイルド財団の力が大幅に低下したと周りに声を上げて知らせてしまうようなものだ。

エス・チャイルド財団はISが出現して10年経った今でも国内外に強烈な影響力を持つ。戦力を蓄えようとしている今、諸外国に付け込まれるような事態は避けたかった。

だがガンダニュウム合金を独占したいのもまた事実。悩んだ末に、スタンリーは絞り出すように声を出した。

「………わかった。だが事が事だけに私の一存では決められん。財団の最高幹部会議で正式な決定を決めたいと思う」
「そのお返事がもらえただけでも、今日は素晴らしい会談だったといえるでしょう……」

スタンリーは苦虫を潰したかのような表情であった。もう隠すつもりもない、今日の会談はトレーズの独壇場であったからだ。

「ところでトールギスの開発者に会いたいのですが……」
「それはダメだ。絶対に認められん」

今自分以上に国の重要人物であるドクターJたちに、この底が見えない男と会わせるわけには絶対にいかなかった。

「まぁ当然ですな……では彼らに伝言をお願いできますか?」
「伝言だと?」
「はい、『この時代にウイングゼロは必要だ』と、そうお願いします」
「ウイングゼロ?何のことだ?」
「彼らに言えば分かります。では代表、良いお返事を期待しております」

一礼して、トレーズは部屋を出る。それを見送り、しばらくしてスタンリーは椅子に腰を下ろした。

「完全に負けたな……計り知れん男だ、トレーズ・クシュリナーダ……」

この数日後、エス・チャイルド財団はロームフェラ財団の協力を得て宇宙開発を行うことを決定した。

そして同時にトレーズの元へビルゴの動力部分(核融合炉)のみが、送られることとなった。

これにより両財団の宇宙開発がスタートすることになり、続々と宇宙に資材が運ばれていった。

●  ●  ●

「ここに入ってろ。ったく、何度来れば気が済むんだ、お前は」
「うっせぇ!あのクソアマが悪いんだよ、ほっといてくれ!」
「いい加減やめればいいのによ……」
「ふん!」

アメリカのとある駐屯場の独房に、乱れた軍服の男が文句を垂れながら入れられた。茶髪でホーステールが特徴の、23歳の男がいた。その肉体は戦いの中で作られたもので引き締まっており、一見すると痩せて見えるほどだ。顔の作りは男前というよりは可愛らしいに近い感じであった。

彼は先ほど生意気な10代の女軍人を修正してやったのだが、その女はISの代表候補生であったため彼は独房入りとなった。

こうした女性優先なのは軍も変わりない。それに表立って反発している彼の様な人物は、こうして貧乏くじを引くことが多かった。

「おい、お前に面会だ」
「はぁ?俺さっきここに来たばかりだぞ?」
「知るか、とにかく面会者だ」

面会場に連れられた男を待っていたのは、普通の会社員の様な男だった。

「ディルムッド・フォーラーさんでよろしいですね?」
「誰だ、あんた?」
「申し遅れました、私はユーコンから派遣された者です」
「ユーコンだって!?あのトールギスのか!」
「簡潔に言いましょう。あなたを、新型のパイロットとしてスカウトにしに来ました」

数秒ディルムッドは呆けてしまった。頭を振って彼はスカウトの男を凝視する。

「おいおい、なんだって俺なんだ?そりゃあ嬉しいけどよ」
「あなたは幼少の頃からゲリラとして活動し、ゲリラ軍が敗北した後は傭兵として各地を転々とし、兵士としての能力は非常に高いと言われています。身体能力だけでなくあらゆる武器に精通しており、戦闘機や戦車の操縦技術もかなりのものだと聞いております」

スカウトの男は鞄からレポートを取り出し、目を通しながら読みあげていった。それに対しディルムッドは少し呆れたような表情を見せる。

「どこで調べたんだよ、そんなこと……」
「またISが使えるということで態度の非常に悪い女性とよく口論になり、何度も“修正”しては独房に入れられるそうですね?」
「あんたも大概口が悪いな……」

淡々と言っているがこのスカウトの男、実はかなり女嫌いなのだろう。実際修正というのは上官が部下にやるもので、ディルムッドの行動を指すものではない。

「あなたほどの腕をここで腐らせるのは惜しいという我々の判断なのですが、どうでしょう?来てはいただけませんか?」
「……良く言うぜ、断ったら消すつもりの癖に」
「いえ、ただこの新型のことは完成するまでバレてしまっては不味いので、然るべき処理をするだけです」

ディルムッドの殺気を真正面から受けても、スカウトの男の表情は崩れない。この男、随分戦い慣れているなとディルムッドは感じていた。

「いいぜ、その話し乗った!で、いつそっちに行けば……って今俺は独房入りだったわ」
「いえ、すぐに来てもらいます。根回しは済んでおりますから」
「おーおー、怖いねぇその会社。いや、財団直結だったけか」

頭に手を置くディルムッドの言葉に、殺気を受けても動じなかった男の眉がピクリと動いた。

「さすが、というべきでしょうか?」
「戦いは情報が命だよん、スカウト君?」

楽しみだなぁと呟いたディルムッドはスカウトの男と共に外に出る。こうして1人、ガンダムのパイロットが決定した。

●  ●  ●

「やっぱ無理だなぁー、ゴーレムⅠじゃ」

溜息をつくのは大天災こと篠ノ之束だ。その原因は先日3機の無人機―ゴーレムⅠ―はトールギスを襲ったが、瞬く間に返り討ちにされた。これは束でも少々予想外のことであったのだ。

「ゴーレムⅠでも第3世代型でもパイロットがヘボいのなら勝てるんだけどなぁ。トールギスには10機ぶつけても厳しいかなー」

束は純粋にトールギスの性能の高さを認めていた。彼女を知っている者ならば、それは異常事態とも言えよう。なぜなら彼女にとって身内と認めた3名以外は基本的に塵芥と同じなのだから。

「それになーんかナンチャラ財団だかが宇宙開発進めてるみたいだけどー」

うーん、と唸った彼女はぱぁと笑顔を浮かべて

「まぁいいや!そんなことよりも箒ちゃんの専用機作んなくちゃ!」

彼女にとって他人の動向など、どうでもいいのだ。確かに自分が気にいらないことがあれば叩き潰してもいいのだが、今回はそうではない。

「それに皆もある程度強くなってくんなきゃ、ゲームになんないしねー」

相手が弱すぎるゲームなど面白くない、ある程度歯応えがあった上でそれを潰すのが彼女の楽しみなのだ。

それは彼女の現実が自分と僅か3名にしか存在せず、他は無いものとしているからこその思考であった。





おまけ

IS学園1年1組。日本では唯一ISに乗れる織斑一夏が在籍するクラスでは、朝のガヤガヤした雰囲気が支配していた。

「ねぇねぇ織斑君、この人知ってる?」

一夏は赤髪のポニーテールの女の子に雑誌を見せられた。今だクラスメイトの名前を覚えてない一夏だがそれは億尾にも出さずに覗きこむ。

そこに映っていたのは金髪をオールバックにした美男子であった。格好からして軍人のようだが、貴族にも見える人物に一夏は見覚えがなかった。

「ん、この人?いや、俺は知らな……「こ、これはトレーズ様のお写真ーッッ!!」ってセシリア!?」

「知らない」と答えようとした一夏の机に滑り込んで、雑誌をダイビングキャッチしたのはイギリス代表候補生にして貴族出身のセシリア・オルコットであった。

「あ、あなた!これはどこで手に入れましたの!?」
「あ、えっと、これ今日発売のやつだったから……」
「私としたことが何たる失態!トレーズ様のお写真を入手し忘れるとは……っ!」

あまりの行動に一夏も周りの女の子も言葉を失っているが、セシリアは気づいていない。顔を引き攣らせながら一夏はセシリアに声をかける。

「セ、セシリアはこの人知ってるのか?」
「まさか一夏さん!あなたはトレーズ様を知らないと!?」

バァン、と激しい音をセシリアはたてた。彼女が一夏の机を叩いたのだ。

「あ、ああ。そのトレーズ?って人のことは聞いたことがないな」
「一夏さん、トレーズ様を呼び捨てにしてはいけません。あの方はロームフェラ財団私兵団の総帥にして幹部の1人で、貴族の全婦女子の憧れの的ですわ。熱狂的なファンの方の前で呼び捨てなんてことをしたら、何をされても不思議ではありませんわ」

一夏さんだから私は許しますけれども、とセシリアは付け加える。一夏は「凄い人なんだなぁ」と感じていたが、周りの女の子たちは一歩引いていた。

「でもその人って、なんでそんなに人気があるの?確かに凄くカッコイイけど、織斑君みたいにISが使えるわけじゃないんでしょ?」

アメリカではブラッドとトールギスによって女尊男卑の風潮を払拭出来始めたが、世界的にはまだまだ変わっていなかった。だからクラスメイトの、この発言も仕方が無いと言えよう。

だがそんなことでセシリアは揺らがない。

「確かにあの方がISに乗れるという話は聞いたことがありません。ですがあの方はあらゆる能力が飛び抜けてます。私のブルー・ティアーズもあの方が基礎設計に関わっていると聞いています。つまり、私のISはトレーズ様のエレガントな思想を受け継いでいるのです!」

握り拳を天井に掲げるセシリアの姿は、どこぞの拳王のようだった。

トレーズは実際ブルー・ティアーズの開発に関わっているが、あくまでおまけのような物であった。だがそれでもビット収納時にはビットの砲口がスラスターの補助代わりになる機能を搭載することができた。

本来なら高速機動パッケージ「ストライク・ガンナー」として機能するはずだったものを、通常モードで行うことができたのだ。

だが未だ扱いきれないセシリアは一夏との戦いでは僅差の勝利だったが。

「ですがあの方の凄さはそれだけではありません。そう、私や多くの方があの方を慕うようになったのは数年前のあるパーティーのことでした……」
「うわぁ~、セシリアの語りが始まったぁー」

布仏本音の言葉を余所に、セシリアは語りだした。

セシリアがトレーズに出会ったのは数年前両親が死んでから、ロームフェラ財団のパーティーに招待されたときのことだ。

セシリアは両親が死んでも、両親が財団に投資していたためパーティーに行かざるを得なかった。だが彼女は母に逆らえない父の姿を見て育ったせいで、男がいる場所に行くことを嫌がっていた。

男なんて誰も女に逆らえない。10代前半の彼女がそういった考えに固執してしまうのも仕方が無いと言えた。

だから最初トレーズの容姿を見て見惚れはしたが、直ぐにその熱も冷めた。どうせあの人も父と一緒なのだろうと。

だが彼の周りに集まっている婦女子たちはそうではなかった。

貴族はただでさえプライドが高い。だから男たちに対しては傲慢な態度になりやすいのだが、トレーズに対する態度はそうではなかった。婦女子たちは頬を染め、その姿はまるで恋する少女のようであった。

セシリアはそんな彼女たちの様子を訝しげに思いながらも、パーティーは進んでいく。

だがそこで外を一望できるガラス戸が割れる。そこから飛び込んできたのは、顔を隠した女性だった。

「スエッソン・シュルツ、覚悟!」

その女性は銃ではなく細身の剣を構え、太った紳士に襲いかかる。その女性が刺客であることは誰の目にも明らかで、しかもその走るスピードは代表候補生として鍛えられたセシリアから見てもかなりのものだった。

明らかに彼女は代表候補生並、いやそれ以上に身体能力を鍛えられた者だということがわかった。

セシリアは咄嗟のことで反応できず、周りもまた悲鳴を上げるだけだった。―ただ1人の男を除いては。

彼女の振り下ろした剣はターゲットの男を切り裂く前に、割って入った男のサーベルで止められた。

「パーティーを血で汚すのは無粋というものだ。それはエレガントではない」

その男の名は、トレーズ・クシュリナーダであった。私兵団総帥として分かりやすくするために、彼は腰にサーベルをぶら下げていたのだ。

「ち、邪魔をするな!」
「手合わせといこう」

真剣での切り合いとは、恐怖との戦いといってもいい。かつて銃がなかった頃の戦争では、切り合いをした者たちは恐怖のあまり小便や大便を洩らしながら戦ったという。

彼女の剣はセシリアから見ても凄まじいものであった。自身が対峙したら瞬く間にやられてしまうほどの腕前である。

だがトレーズはそれを紙一重で避け、サーベルで受け流していた。女性が激しい攻撃を繰り返すのに対し、トレーズのその動きは必要最小限であった。

当たれば自分を死に至らしめるであろう剣戟を、まるでワルツを踊っているかのように軽やかに受け流している。その表情は汗一つかいていない涼しいものだった。

業を煮やした彼女は上空に跳躍する。その高さは3m近くであろう、普通の人間が垂直跳びできるものではない。

あまりの跳躍にセシリアは呆けてしまった。その驚異の身体能力を見せつけることで敵の目を釘付けにし、彼女はできるであろう隙を狙ってトレーズに剣を振り下ろした。

もしトレーズで無かったのならば、彼女は倒せていただろう。

しかしトレーズは彼女の振り下ろした剣を半身で避わし、そのまま回転しながら着地して一瞬身動きの取れなくなっていた彼女の首元にサーベルを触れるか触れないかギリギリのところで止めた。

「私の勝ちだな」
「……殺しなさい」

だがトレーズは女性の絞り出した声を無視して、サーベルを鞘に納める。女性はそれを見て訝しんだ。

「先ほども言ったがパーティーを血で汚すのは無粋だ。それに君ほどの腕前を持つ者を殺すのは惜しい」

そう言ってようやく駆けつけた警備員が彼女の身柄を拘束した。だが彼女は拘束されたことは気にせず、トレーズだけを見つめていた。

「可笑しな男だ、自分を殺そうとした者に情けをかけるとは」
「それは褒め言葉として受け取っておこう」

そしてそのまま彼女は連行されていった。トレーズは殺し合いをやった後とは思えないほど、涼しい顔をしていた。

「その後、トレーズ様は自らがピアノをお引きになられました。『私のせいで場が乱れてしまったので、一曲引きましょう。拙い物ですが』と言って!そのピアノも素晴らしいものでした……なんでも自分で作曲なさったものだとか。あの立ち振る舞いの素晴らしさに、私は真の貴族というものを感じました。それから私はあの御方を心酔しているのです!」
「す、凄い人なんだな……殺しに来た人にそんな風に接することができるなんて」
「はい!ですから私はバスタイムにはあの方が使っていらっしゃるというバラのエッセンスも使っているのです!」

それからセシリアによるトレーズ自慢話は、担任の織斑千冬に頭を叩かれるまで続いたという。


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