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No.27174の一覧
[0] 爺様たち、乱入(IS+ガンダムW)【微アンチ】[伝説の超浪人](2012/03/04 01:23)
[1] ブラッドの決意[伝説の超浪人](2011/04/30 12:50)
[2] 戦乱の予感[伝説の超浪人](2011/08/03 00:31)
[3] エレガントな交渉と交渉[伝説の超浪人](2011/04/30 12:49)
[4] デートと刺客[伝説の超浪人](2011/05/24 00:14)
[5] 逃亡と黒い影[伝説の超浪人](2011/06/05 21:52)
[6] 動く時代[伝説の超浪人](2011/08/03 00:32)
[7] 学園と砂男[伝説の超浪人](2011/08/07 15:45)
[8] VS銀の福音[伝説の超浪人](2011/08/07 15:43)
[9] 龍と重腕の力[伝説の超浪人](2011/08/28 17:45)
[10] 彼女の分岐点[伝説の超浪人](2011/09/19 23:33)
[11] ドキドキ☆学園探検![伝説の超浪人](2011/10/01 23:04)
[12] 番外のお話(本編とは全く関係ありませんよ!)[伝説の超浪人](2011/12/12 00:00)
[13] 無人機の驚異[伝説の超浪人](2012/03/04 01:22)
[14] ゼロの幻惑[伝説の超浪人](2012/03/31 15:33)
[15] 欲望と照れる黒ウサギ[伝説の超浪人](2012/09/09 13:45)
[16] 飲み込まれる男[伝説の超浪人](2012/11/08 23:53)
[17] 初の共同作戦[伝説の超浪人](2013/04/07 23:37)
[18] 進撃のガンダム[伝説の超浪人](2013/05/11 23:31)
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[27174] ブラッドの決意
Name: 伝説の超浪人◆37b417bc ID:5424a8a7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/30 12:50
前回のあらすじ→トールギスに乗れるよ、やったねブラッドちゃん!

ブラッドはトールギスの目の前に立ち、ドクターJたちの指示通りにトールギスを起動させる。

ISは本来専用スーツを着て搭乗するものだが、このトールギスはそれがない。その代わり直接肌に触れ合わないといけないので、今のブラッドはスパッツ1枚の姿だ。

一部妙にもっこりしたブラッドの体を1秒もかからずトールギスが覆う。

そしてブラッドを覆ったトールギスの頭部カメラが黄色に発光する。それは起動が成功した証だった。

その場にいた者たちは歓喜、いや雄叫びを上げた。もうISは女たちだけの兵器じゃない、男でも扱うことができるようになったのだ。ISに苦しめられた者たちがISで喜ぶとは皮肉な話ではあったが。

無論ドクターJたちは起動することは分かっていたので何の感情も示さなかった。

トールギスはISとしては珍しい全身を装甲で覆ったもので生身の部分は欠片もない。全身装甲は第1世代の一部でのみ採用されていたが、トールギスはその機体の特性上仕方ないと言えた。

ブラッドは一歩前に足を踏み出す。すると重厚な音がその場に響いた。

「さて、早速性能テストを行うとしよう。操縦は頭に叩きこんであるか?」
「はい」
「ではついてこい。言っておくがこれは気を抜くと危ないぞ、ヒッヒッヒ」

とても嫌な笑い方をするプロフェッサーGを見て、若干顔を顰めたブラッドだったが特に何も言わずついていく。

広い空間にブラッドは出ていた。他の者たちは壁の向こう側でトールギスの性能を確認する。

「まずは機動テストだ。好きに動いてみろ」
「了解」

正直好きに動いてみろはないだろう、と思うブラッドだが今の自分はテストパイロットだ。素直に従い、バーニアを軽く吹かした。そう、軽く吹かしただけのはずなのに。

「ぐうぅっ!」

ブラッドはいきなりとんでもない速度で機体が飛んでいくのを体にかかる圧力で感じ、急いで機体を上昇させるが、このときもかなりの圧力を感じた。

「(なんなんだこの機体は!まだ少ししかバーニアを吹かしていないんだぞ!?)」

戦闘機は最初に飛ぶ際、出撃時ではあまり圧力は感じない。当たり前だ、最初から早すぎる速度が出てしまっていたらGでパイロットの体がやられてしまうし、機体ももたない。

普通の人間ならここで怯えてしまい、性能テストにはならないだろう。だがブラッドはそれに当てはまらない。彼はやっと掴んだチャンスを逃す男ではないし、なによりプライドがあった。

「(どうした、トップエースの言われた私が何を怖れる?!まだ始めたばかりだ!)」

各部スラスターで急旋回、戦闘機では有り得ないジクザクな動きを見せる。しかし彼はバーニアを全開には絞れない。

「良し、次はドーパーガンのテストじゃ。それは実弾とビームの両方が使えるが、今回はビームで行う。目標を落とせ」

周りの科学者がトールギスの機動性に驚いているのを余所に、ドクターJは淡々とブラッドに命令する。

「了解!」

戦車や戦艦、戦闘機などのダミーが次々に展開されていく光景にブラッドは歯噛みした。

「女どもはこんな光景に何にも思わないんだろうなぁっ!」

自分の誇りだった物が今はただの的扱いで、それを何の躊躇もなく破壊した女たちに対しての苛立ちをぶつけるように、彼は目標を撃破していく。

砲身から放たれるビームは、砲身の口径を遥かに上回る太さで戦車を、戦艦を捉える。その間にも行われる機動の最中に、ブラッドは体が軋むのを感じていたが止まらなかった。

「次、ビームサーベルで目標を撃破じゃ」
「了解ぃ!」

さらにスピードを上げながら左腕の盾の裏にあるビームサーベルを抜き出し、その勢いのまま目標を切り裂いた。

「ぐぅ!?」

あばらに感じる鋭い痛み。いや、あばらだけじゃない。体中の関節や軋みを上げ、内臓も潰されるような感覚に襲われる。

「(このままでは……いや、無視するのだブラッド!)」

しかしそれを無視して、時折放たれる機銃の攻撃をその体が潰れるほどの機動性で避けながらブラッドは目標を全て撃破することができた。

「最後じゃ。今から出てくるビーム砲を撃破せよ」

終わったと思った矢先に、ビーム砲台が数台出現する。彼は痛みをこらえながら苦笑いを漏らす。

「随分と人が悪いな……くぅっ!」

ビーム砲台から放たれるビームはまるで激しい雨のようにトールギスに放たれる。何発かはシールドで防ぐが、これほどの数は防ぎきれないとブラッドは直ぐに判断した。

「これしきのビームが何だ、このトールギスならやれるはずなのだ!このビームを掻い潜り、砲台を撃破できる!」

トールギスのスピードを完全に開放していないのにも関わらず、ビーム以外の被弾はゼロだったのだ。このトールギスの機動力を使いこなせれば、このビームを掻い潜れることができるはずだ。そう覚悟を決めたブラッドはトールギスのスピードを今まで以上に加速させる。

「ぐおぉぉぉっ……!!」

今までとはケタ違いの圧力がブラッドの体を襲う。歯を食いしばりすぎて、頬の筋肉がつりそうだったがそんなことは気にしていられなかった。

ビームを避けるためにバレルロールを繰り返しながら、さらにトールギスのスピードを上げた……その時だった。

「うぶっ!」

唐突に口から噴き出る赤い液体、血を吐きだしたと同時にあばらに全力のハンマーで殴られた時と同じぐらいの痛みを感じ、彼は機体を急上昇させビームから退避した。

「い、一体どうしたんだ」「後も少しだったのに……」「何やってんだ!」なんて声がトールギスを見ていた科学者や整備班の口から飛び出る。

「やはりダメじゃったか」
「仕方あるまい、あれはそういう機体じゃからな。おい、トールギスに救護班を向かわせた方がよいぞ。放っておくと、あのパイロット死ぬぞ」
「は……え!?お、おい急いで救護班を向かわせろ!」

いち早くブラッドの状態を理解したのはやはりドクターJたちだった。「やっぱりか」みたいな表情で何でもないようにブラッドの命の危険性を伝えられた科学者は、慌てて部下に指示を飛ばす。

この老人たちの非常に悪いところは、彼ら自身手塩にかけて育てたガンダムのパイロットや自分自身の命が危ない時でもいつもと変わらない態度と口調でいるところだ。

酷い時は死にそうな時でも笑いながら相手に接する時もある。今回のこの性能テストにビーム砲を用意することを承諾してしまうような、人として少しおかしいユーコンの科学者でもついていけない部分があった。

性能テストは中止され、救護班によって外からの強制排除で解放されたブラッドは酷い有様だ。血で口元どころか胸のあたりまで濡らし、肋骨の一部分はへこみ、顔色は青いのではなく既に白くなっていた。

だがまだブラッドは意思があった。救護班に支えられながら、トールギスを見て呟いた。

「パイロット殺しの機体とはな……気にいった……」

そう呟いて彼は気を失う。その表情はどこか嬉しそうだったと、後に救護班の者が語った。

● ●   ●

「ここは……病院か?」

ブラッドが目覚めて最初に見たのは白い天井だった。個室を当てられたようだが、昔から体が頑丈な彼は病院に縁が無く、少し自信なさげに呟いた。

「あ、お目覚めになられたんですね?」

窓のカーテンを開けていたのか、カーテンを握りながら女性の看護師がこちらを振り向いた。

とても可愛らしい女の子だ。顔の作りは東洋系で見た目は完全に十代にしか見えないが、その胸部は服の上からでもわかるほど大きい。長い黒髪は首の下のあたりで赤いリボンで括られている。

僅かな間彼女に見惚れたブラッドだが、頭を振る。

「すまない、人がいるとは思わなかったのでな」
「いえ、仕方ないと思います。あなたは丸1日寝ていたんですから」
「丸1日?そんなに寝ていたのか?うぐっ……」
「ああ、だめですよ!酷い怪我なんですから!」

ブラッドは彼女の「丸1日」という言葉を聞いて身を起こそうとすると、肋骨に鈍い痛みが走り声を漏らす。

彼女は慌ててブラッドに駆け寄り、彼の身を支える。そのときブラッドの鼻をふわりと花の様な香りが刺激し、ふにゅりと彼女の大きな胸がブラッドの体に当たり形を変える。

それに男として反応してしまったブラッドは、彼女が真剣に心配してくれているに下種な考えを浮かべた自分を恥じた。

「す、すまない……」
「いいんですよ。気にしないでください」

二重の意味で謝罪したのだが、彼女は気づいていないのか花のような笑顔を向けた。

「ところで今の私の体はどのような感じなのか、教えて欲しいのですが」
「あ、はい。この後担当の先生から詳しく話されると思いますが、ブラッドさんは右の第2、4肋骨を骨折、肺などの内臓を損傷しているそうです。命に別状はないそうですが、先生は完治まで早くて2カ月近くかかるって言われてました。でも先生が不思議がっていました、どうしたらこんな怪我をするんだって」

それを聞いてブラッドは酷いものだな、と内心自分を罵倒していた。無論怪我のことではない、かつてトップエースに数えられていた自分が新型を乗りこなすどころか危うく死にかけたのだから。

「(しかしあのトールギスを作った者は相当だな。まるでパイロットのことを考えていない)」

乗ってみて分かったがトールギスは兵器としては致命的な欠陥を抱えていることに気づく。

以前ISの性能を自身の眼で確かめたが、トールギスはそれを遥かに上回る性能を持っていることは理解できた。確かにトールギスの性能を用いればどんな敵も倒せるだろう。そんな予感を持たせるほど高い物だが、あのバーニアによる凄まじい機動性は人間の体が耐えきれるものではないのだ。

つまりトールギスは

①凄まじく頑丈な装甲を持ち
②あらゆる方向に急加速できる機動性
③そして恐らく既存のISの攻撃力を上回る武器。
④だがパイロットは死ぬ

という代物だった。

「そうか……ありがとう」
「い、いえ、とんでもないです!」

ワタワタと手をふる彼女の姿は見ていて微笑ましいものがあり、彼は軽く笑みを浮かべた。

「(不思議と彼女に惹かれるものだ……)」

ブラッドは10年前から女性が嫌いになった。正確に言えば女尊男卑の世の中になったときの女の態度とその周りのせいだった。

ある時、街中ですれ違った女がブラッドにこう言ったのだ。

『ねえ、あんたアレ買ってきてよ。あ、もちろんあんたの金でね』

外見は確かに美人であったが、そんなことを言われて黙っているブラッドではない。しかも間の悪いことに酷く機嫌の悪い日だった。

ふざけた女の態度に頭にきたブラッドは口論となり、結果として逮捕された。その女はISの代表候補生だったらしく、加えて嘘泣きをしながら訴えたことでほぼブラッドが悪いことになった。

そんな女の言うことが罷り通ってしまう周囲の反応から、彼は女性を嫌うようになった。またその日、顔の良い男たちが女性に媚を売っている姿を見たのも原因だったのかもしれない。今の時代、ホストや顔の良い男たちは女性のペット的な立場で可愛がられていた。

ブラッドも長身ながら鍛えられた体で顔の彫りも深く、薄い金髪が背中で切りそろえられた良い男だったがそういった媚を売ることは断じてしない男だ。

そんな彼が喫茶店を始めてからは客は男性が非常に多く(彼のファンという者がかなり多かった)女性客が来たときはポーカーフェイスで誤魔化していた。

そのおかげで30歳を過ぎた今でも未婚であったが、目の前の女性は今の女性に多い優越感といったものが一切感じられないし、むしろ人を包むような温かさを感じられることがブラッドを引き付けているのかもしれない。

「あのブラッド・ゴーレン大尉に会えただけでも嬉しいのに、お礼を言われると何だが恥ずかしいです……」
「私の名前を知っているとは……君は東洋人にしか見えないのだが、こちらの生まれか?」
「あ、はい。両親とも日本人ですが、私の生まれはアメリカなんです。父は戦闘機が好きで、昔あなたの映像を見せてくれていたんです。そ、その時に、か、カッコイイなって……」

後半になると声が小さくなって聞きづらかったが、それでもブラッドは彼女の言葉をしっかりと聞き取っていた。彼はどこぞの極東の地にいる伝説の超鈍感フラグ野郎とは違うのである。


「そ、そうか……ありがとう。ところで君の名前はなんて言うのだ?」
「あ、はい……私の名前はヒヨリ・カザネです。ヒヨリ、って呼んでください」
「では私のこともブラッドと。親しい者は皆そう呼ぶ」
「はい、わかりました。……ブ、ブラッドさん」

2人して顔を赤く染めるこの様子を誰かが見たら、背中が痒くなること間違いなしだった。

「……そ、それじゃ先生を呼んできますね!失礼します!」

彼女はブラッドが返事を返す前に部屋から飛びだすように出ていった。彼女の動きを目で追っていたブラッドは数回ポリポリと頭を掻く。

「まるで思春期のようだな……私は……」

そう言った彼の表情は嬉しそうだったことは、彼自身も知らないことだった。

その後医者がやってきて、説明を受けたがヒヨリの言っていることとほぼ変わらなかった。ブラッドにとって大事だったのは、医者の次に訪れた人物である。

「元気そうじゃな。まぁあれぐらいでくたばってもらっては困るがのぅ」
「まぁ死んだら死んだで、別のパイロットになるだけじゃがな」
「随分な言い草ですね、ドクターがた」

病室に入ってきたのはドクターJとプロフェッサーG、それとユーコンの科学者だ。もちろん病室の扉の前にはSPが数人配置している。

「早速じゃがトールギスの感想を聞きたいのぅ。どうだった?」
「……あの機体は素晴らしい性能です。けれどあれはパイロットのことは全く考慮されていない、違いますか?」

そう言うとドクターJたちは笑い始めた。とても楽しい物を見たかのように。
「全くその通りじゃ。あれは元々IS用に開発されたものでは無いが、あの機体は単騎で戦局を変える戦力を持つように作られた物。じゃからあの機体の性能を100%引き出せればまず負けることはない」
「つまり問題なのはパイロットの腕ということだ。それ故ワシ等はパイロットは肉体、精神共に完成された兵士をユーコンに求めたのじゃが、この結果だったというわけだ」

そもそもあんな機体を作る方が悪い、という考えはドクターJたちは一切持ち合わせてはいない。彼らから言えば乗りこなせないパイロットの方が悪いのだ。

それにドクターJたちは普通の軍人程度ならばトールギスに乗ったら死ぬことは分かっていた。ブラッドの体が常人より遥かに頑丈がだからこそ、この程度の怪我で済んでいることもわかった上でこう言った発言をしているのだ。

そもそも彼らはゼロシステムに翻弄されたカトル・ラバーバ・ウィナーに対しても痛烈な批判を行った者たちだ。(ガンダムのパイロットであるディオ・マックスウェルはゼロシステムを乗りこなせる奴は人間を超えた存在だ、と証言している)

「じゃが普通のパイロットでは乗りこなせないのも、また事実。お主はもう一度トールギスに乗る資格がある」
「さぁどうする?もう一度乗るか、それとも降りるのか、決めろ」

それを聞いてブラッドはフッ、と笑った。

「そんなものは決まっていますよ……イエスです。一度奪われた空に戻れるチャンスを他人に譲るほど、私は優しくありません。それに私に乗りこなせない機体など存在しないことを、貴方がたに証明して見せましょう」
「こいつ、言いおるわ。フッフッフッフ……」
「お主、気に入ったぞ。なら、あのトールギスを乗りこなして見せろ」
「言われずとも」

3人の不敵な笑い声が病室に響く。それを見ていた科学者は、思った。

「(この人たち、マジ怖いわ……)」

自分もまともじゃないことは分かっていた科学者だが、その光景にどん引きだった。

●   ●   ●

あれからブラッドは1ヶ月かからずに退院した。その時担当医は「あの人、人間じゃねぇよ」と同僚に漏らしたらしい。

退院してからブラッドは何度もトールギスに搭乗した。慣熟訓練と言うにはブラッドは何度も病院のお世話になる羽目になったので、正しくはない。

トールギスに乗るたびに彼は血反吐を吐き、内臓を痛めた。だが彼はそれでも乗るたびにトールギスの性能を引き出していく。

そんな中、ついにやってきた。

「トールギスの性能テスト?以前やったはずでは……?」
「いや、今度はアメリカ中にトールギスを示すために我が国の開発した第二世代ISと戦ってもらう」

ブラッドの体は震え、俯いた。相手からは髪で表情が見えなくなる。

「……それは、いつですか」
「二週間後、VF社の専用アリーナで行……うっ」

彼はブラッドの眼を見た途端後ろに下がってしまった。ブラッドの眼から感じる凄まじい気迫によって。

ブラッドは興奮していた。ついに自分の手で女たちのISを倒せる日が来たことに。再び男たちに誇りを取り戻すために。

「ついに来たか……待っていろ……」

そして2週間後、VF社の専用アリーナの観客席は満員だった。それだけでなく、立ち見の人もいるくらいだ。

これほどの超満員である原因はちょうど2週間くらい前から、今度の新型は全く新しい概念の機体であると言う噂が流れていたせいである。

だがその新型は未だ姿を見せず、相手の第二世代IS「アラクネ」のパイロットであるサリィ・クロイツはいら立っていた。

「遅いな、いつまで待たせるんだ……」

今回の実験はユーコン側から申し出たと言うのに遅刻するとはどういうことかと、パイロットがやってきたら彼女は言うつもりだった。そのいらだちから首に下げたネックレスを右手でいじる。

このネックレスはISの待機状態の姿だ。ISは非戦闘時には装飾品となってパイロットの体につけられる機能を持つ。

彼女のIS「アラクネ」は少し曰くつきの代物で、2号機に当たる。1号機は開発直後何者かに強奪され、急遽製造された物だ。

それ故彼女のアラクネの実戦データはほとんどないが、それでも完成度の高いものである。

『皆さんお待たせしました!ユーコンのIS「トールギス」とパイロットの……あ、え?し、失礼しました、ブラッド・ゴーレン氏の入場ですッッ!!』
「何?……な、お、男だと……?」

酷く曖昧に言うアナウンサーの声と共に入ってきたのは搭乗口が開いている白い機体とかなりの美男子だった。

会場はパイロットの名前を聞いて騒然としている。当然だ、パイロットの名前に男が呼ばれたのだから。

サリィは文句を言うことも忘れ、必死に状況を整理していた。だが男のパイロット―ブラッド・ゴーレン―はそんなものを待つ男ではなかった。

颯爽と身を動かし、彼はトールギスへ乗り込む。すると瞬時にトールギスはブラッドを覆い、頭部カメラを黄色に発光させ一歩を踏み出した。

その瞬間、会場は轟音に包まれる。男性がISを動かした。それは今の世の中を破壊することと等しい……そんな観客の態度だった。

トールギスによって表情は隠れているが、ブラッドは獰猛な笑みを浮かべる。まるで周囲の反応を楽しんでいるかのように。

「う、嘘だ……男がISを動かせるはずが無い!そんなはずがないんだッッ!!」
「そうでもないさ」

その否定の声はサリィの目の前にいるトールギスから発せられる。それは深く、自信に満ち溢れた声だ。

「遅れてすまなかったな。さぁ、早く始めようか」

口では謝っているが、実際は欠片も悪いなんて思っていない態度を感じさせる言葉だ。しかもそれはサリィのことを下に見ているようで、プライドの高い彼女を怒らせるには十分だった。

「ふざけやがって……直ぐに格の違いを分からせてやる!起きろ、アラクネ!」

起動コードを口にした彼女の体を光が包み、ISが装着される。

アラクネは蜘蛛をイメージして作られたISだ。背部から伸びる紫と黄色の縞模様で彩られた8本の装甲脚は蜘蛛の足にそっくりであった。

実に不気味な外見であり、それは見る者を生理的な嫌悪感を起こさせるものだ。だがブラッドには関係ない。むしろ彼はますます笑みを深めるだけだ。

『そ、それでは両者準備はいいですね!それでは……試合、開始!!』
「くぅらえーッ!!」

8つの装甲脚は「アラクネ」の最大の特徴にして最大兵装だ。その装甲脚は格闘と射撃を両方を行うことができ、それぞれ独立したPICで複雑な動きを可能にするものだ。

また実際の蜘蛛のような機動も可能にすることができるが、その分パイロットには複雑な操縦技術を求められる機体だ。

だがサリィが初手として選んだのは8本の装甲脚の先端から放たれる実弾射撃による連射である。

8つの銃口から放たれる攻撃は単純ながら強力だ。しかし……

「フッ!」

トールギスは瞬時に上昇し、その弾丸を全て避わし切る。避けきったこともそうだが、ゼロからの凄まじい急加速にサリィは驚愕する。

「な、なんて加速だ!だが逃がすかよ!」
「ぐうぅぅーっ!!」

アラクネを上昇させ、トールギスを捉えんと銃弾をばら撒く。手元に出現させたマシンガンも用いて凄まじい弾幕を作りだす。

「当たるかぁぁー!!」

しかしトールギスは凄まじいスピードを保ちながら180度に近いターンや、各部バーニアを用いたジグザグな機動でその弾幕を避け続ける。

「あのパイロット正気か!?あんな機動、体が持つわけ……!」
「沈めぇ!!」

トールギスはドーパーガンからアラクネの上半身を丸ごと覆うほどの太いビームが時間差で数回アラクネを襲う。
その機動性のおかげで酷く読みづらくなっており、一発のビームはアラクネのシールドバリアーを突き破り右肩を大きく破損させる。

大きく吹き飛ばされたサリィだが、即座に体勢を立て直し迫りくるビームを避けながら弾幕を張る。だが機体状況を見た彼女は目を見開いた。

「な……シールドエネルギーが40%近く持ってかれた!?どんな出力してやがんだ!?」

トールギスの武装の威力に驚くサリィ。絶対防御が発動しなかったにも関わらず、この減り方は理不尽としか言いようがなかった。

「うおおぉぉ!」
「正面からだと!ふざけやがって!」

トールギスは正面からアラクネに迫る。右腕が先ほどの攻撃で上手く動かなくなったので左手のみでマシンガンを操作し弾幕を作り上げるが、トールギスは回転しながら突っ込んでくる。もちろんほとんど避けながらだ。

「何発か当っているはずなのに……!」

サリィの言う通り確かに何発かはトールギスに命中している。

しかしトールギスの装甲であるガンダニュウム合金に有効なダメージは与えられない。

ガンダニュウム合金は元の世界で量産型MSリーオーの主力武器だった105mmライフルやビームライフルでは傷一つ付かなかった代物だ。

ISで105mmほどの武器はレールカノンなどの大型兵器になり、エネルギー消費が激しく第2世代ではそうそう使えないのだ。そもそもリーオーやガンダムは16mほどでISの4倍近い大きさなのだ。同じ武装を揃えろと言うほうが無理である。

だがそれは機体の話であって、中のパイロットには彼女の弾幕は効いていた。すでにブラッドの口元は血で濡れているのだ。

だがそれを知らないサリィの心の中では、トールギスに対する恐怖心が大きくなっていく。

接近を果たしたトールギスは右手を盾の内側に入れ、ビームサーベルを取り出しアラクネに振りかぶった。

「ちぃ!」

アラクネの4本の装甲脚を咄嗟に防御に回す。だがここで彼女の選択ミスをした。

振るわれたビームサーベルは、受けに回った4本の装甲脚を何も無かったかのように切り裂いたのだ。一瞬動揺した彼女は、動きを止める。だがそれは一番戦いでやってはいけないことだ。特に接近戦では。

2撃目のサーベルはシールドバリアーとマシンガンを切り裂く。シールドエネルギーが少なくなったことと、接近戦をしてはいけないという思いに駆られた彼女は残った装甲脚で蜘蛛のような動きで後退する。

「そこだ!」

だが悪手は悪手を呼ぶものだ。ブラッドは血を吐きながら盾の裏にある特殊弾をアラクネの後退するであろう位置を予測して放つ。

突然の攻撃に驚く暇もなく、その弾はアラクネに接触する前に爆ぜた。

爆裂弾。任意に爆裂する弾はシャワーのように広がるもの。貫通力を重視したもので、広範囲に広がった細かい弾丸はアラクネを捉え、絶対防御を発動させる。

あまりの衝撃に気絶しまいと必死に機体を立て直そうとするが、それはあまりに遅かった。

「勝負あったな」

決して強く言ったわけでないのに、有無を言わさないその言葉は、目の前でアラクネに桃色に光るビームサーベルを突きつけるトールギスから発せられた。

「……まいった」
『しょ、勝負あり!勝者、男性ISトールギスとブラッド・ゴーレンッッ!!』

会場は再び轟音に包まれた。ブラッドにとってそれは祝福の歌声に聞こえ、彼は血を垂らしながら、涙も流した。

それは10年ぶりに流した、涙だった。

●   ●   ●

アメリカで生放送された映像を見ている女性がいる。彼女は飲み物を一口含んで、呟いた。

「ふーん。まさか男のISができるなんてー、束おねーさん驚いちゃったなー」

暗い場所だ。明りは女性の目の前にある巨大なコンピューターしかない。

女性は美人だった。格好が何故「不思議の国のアリスとうさ耳」なのかはわからないが、それでも町を歩けば人が振り返るであろう容姿だった。

彼女こそISを作りだした張本人、篠ノ之束博士だ。

「でも妙だね、なんであの機体のデータが入ってこないんだろう?……まさか、コアを書き換えられた?」

有り得ない、と呟こうとして止めた。彼女はニコニコと笑みを浮かべながら背後を振り返る。

「ちょうどいいや。これも完成したし、あの機体の性能テストにはもってこいだね!」

彼女の視線の先には黒い大きな機体が鎮座している。もちろん1体だけでなく、数体だ。

「それにしても、もしコアを書き換えて人がいたなら……会ってみたいなぁ。その人たちに!」

彼女は身内にしか見せない笑顔を浮かべる。しかしそれは破滅を呼ぶ笑みだった。




おまけ

ヨーロッパのある地方。緑と花が美しく彩られた風景を一望できる城の一部屋で彼は部下から送られてきた映像をその豪華な机で見ている。

つい先日アメリカで放送された新型ISの性能テストだ。その映像は機体も凄まじいがパイロットが男、と言うことでアメリカ中が大騒ぎになり、世界もそれに勘づき始めていた。

だがヨーロッパではまだ映像は手に入っていないのだが、彼はそれを見続け、そして終わると席から立ち上がる。

「いかがでしたか?閣下」

閣下と呼ばれた男は部下に振り返る。ただそれだけにも関わらず、彼の動作は気品と優雅さに溢れていた。

「素晴らしい機体だな。パイロットも中々の物だが……まだ使いこなせてはいないな。惜しいことだ」
「あ、あれで……ですか?」

部下は疑問の声を上げる。アメリカの第二世代を全く寄せ付けない性能を見せたパイロットを「未熟」と言ったことに。

「トールギスか……またこの名を聞くとは、何の縁かな?」
「は、はぁ……」

彼が目を瞑り、開いて部下の女性を見る。たったそれだけで、彼女は薄く頬を染めた。

閣下と呼ばれた男は凄まじい美男子だ。まるで人の願望を具現化したような容姿を誇っていた。

少しも混じりのない金髪をオールバックにし、鍛えられたその体を貴族が纏うような軍服に左肩から黒いマントを纏っている。鋭い目つきだが人を威圧させるものではなく包むような、それでいて人を従わせるような、そんな目つきだ。

彼の全身から発せられる空気は、カリスマと言っていいだろう。

そんな彼が口を開いた。

「アメリカの財団に連絡を取ってくれないか?話があると」
「畏まりました。日時はいかがいたします?」
「早い方がいい。あの機体を作った者があの老人たちなら、会っておきたいからな……」

花瓶に飾ってあったバラを取った男はそう、呟いた。




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