長い長い坂道を必死に歩く、こんな道があるなんて知らなかった。知っていればまた別の高校にしていたのだけれど、僕の学力で何とか通れるのがこの高校だけだったから仕方ない。
あれから六年の時がたった、未来からドラえもんが来てくれて騒がしくも暖かい日々を過ごしてきて。
ずっとこの時間が続くのだと信じていた、けれど。
三年前、ドラえもんが健康診断に未来に帰って今も帰らない。お世話ロボットにも健康診断があるのには驚いたけどよく考えればロボットにもそういうのはあるんだなと何となく思った、だってママが作った料理を平然と食べていたし。後ドラ焼きが大好物、人間らしい猫型ロボットだった。狸と間違えられる事もあったが。
でもきっと大丈夫だ、ドラえもんは僕達の大切な家族。ママもパパも勿論僕だってドラえもんが帰ってくる日を待っている、一度ドラえもんが残したスペアポケットから取り出したタイムテレビで連絡を取った事がある。それによれば、どうやら未来で何か重大な問題が起こったらしい。
ある少女の力がどうとか何とか、それで時間軸が乱れているらしい。下手すれば時空震が起きる程の。
その問題を解決するまで帰れないそうだ、秘密道具の使用も制限された。
当時子供だった僕は何か大冒険の予感がしてしずかちゃん、スネ夫とジャイアンで何時もの空き地に集まって何か力になれないかと案を出しあったが良い考えは浮かばず何より未来へ行く手段もないため僕らにはどうしようもできなかった。正義の味方も形無しだ、こんな時子供の身が憎かった。しずかちゃんが慰めてくれたけど。
時間が流れ僕も少しだけ成長し、それならドラえもんが帰ってくる日まで成長した姿を見せよう。
そう決意した後、三日でだらけてママに叱られた。
そんな僕も今年で晴れて高校一年生になる、よく通れたなと自分でも思う。小学時代お世話になった先生もビックリしていた、「あの野比が……遅刻零点の野比が……おめでとう、よく頑張った」と言われた時素直に泣いた。泣き虫は変わらないなと言われたけどこれは嬉し涙だ。
まさかこの高校でドラえもんが悩ませている問題の少女に出会うとは思わなかったけど、全く人生何が起こるのか分からない。
その少女との出会いは衝撃的な自己紹介から。
窓際の席で後ろから三番目の席に座る僕の耳に入ってきた言葉。
「東中学出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者、正義の味方がいたら、あたしの所に来なさい。以上」
宇宙人、知り合いが多すぎる。キー坊は元気にしているだろうか?
未来人、ドラえもんは猫のくせにネズミが苦手だったっけ。地球破壊爆弾を取り出したときは焦った、本気で。
異世界人、地底の竜人バンホーさんは何をしているだろう? 大統領をやっているパピは元気だろうか?
超能力者、魔法使いなら知り合いはいるけど。美代子さんはどうしているのかな?
正義の味方、確かにあの頃の僕らは何度も地球の危機を救ってきた。始まりは大半僕のドジの所為だったが。
……あれ? 彼女の要望に全部当てはまるよ?
……どんな人なんだろう。振り向いた僕の目には、キュッと結んだ唇。意志の強い眼差し、まあ要するに美人がそこにいた。でも、しずかちゃんの方が数倍可愛い。断言できる。
僕の後ろの男子生徒もポカンと彼女を見ていた、何となくだけど彼とは仲良くできそうだなと思う。
こうして僕らは出会った、桜の花びらが舞う春の日に。これから始まるのは騒動の予感、だから何時もと同じ。もう子供じゃないけど心の中で叫ぶ、彼の名を呼ぶ。
(ドラえもぉぉぉーーん!)
あの頃から一歩も成長してないなぁ、僕って。はぁ。