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No.26770の一覧
[0] 【ネタ】IS~漢達の空~ 第9話投稿[凡夫](2011/04/19 13:45)
[1] IS~漢達の空~その2 大幅改訂[凡夫](2011/04/19 15:17)
[2] IS~漢達の空~その3 大幅改訂[凡夫](2011/04/16 17:42)
[3] IS~漢達の空~その4 大幅改訂[凡夫](2011/04/16 22:08)
[4] IS~漢達の空~その5 改訂[凡夫](2011/04/17 11:24)
[5] IS~漢達の空~その6 改訂[凡夫](2011/04/17 22:53)
[6] IS~漢達の空~その7 大幅加筆[凡夫](2011/04/17 22:53)
[7] IS~漢達の空~その8[凡夫](2011/04/19 13:45)
[8] IS~漢達の空~その9 new[凡夫](2011/04/19 13:44)
[9] 没案[凡夫](2011/04/07 22:02)
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[26770] IS~漢達の空~その7 大幅加筆
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/17 22:53
 第7話


 アメリカの動きは早かった。



 国益に多大な貢献を果たしている自国籍の企業が襲撃を受けた事に対し、アメリカ合衆国は正式に亡国機業の存在を公表・テロ組織として国際指名手配をし……次いで篠ノ之束を超A級テロリストとして国際指名手配とする事を公表した。


 次いで、国連を通じて各国政府に情報開示と捜査の協力勧告が行われた。

 これは国際IS委員会、IS学園にすら通達され、アメリカの本気ブリが伺えた。
 



 これに対し、各国の反応は大きく3つに別れた。

 1つ目、断固とした反対
 これは主にIS推進国が多く、「同博士の功績を考えれば罪を補って余りある」「実際に博士が行ったという証拠が不足」という事を理由に米国の勧告を突っぱねた。
 これは篠ノ之束を擁護する事で彼女の協力や亡命等を期待したものだと思われるが、彼女の人格から考えれば望み薄だろう。
 
 2つ目、全面的に協力
 これは米国からのLM購入が本格化している国々で、米国の同盟国・友好国が多かった。
 米国に協力する事で何らかの優遇を狙ったものだが、それ以上に下火になりつつあるIS開発をより下火にしてIS推進国の軍事力を削る事を目的としていた。

 3つ目、様子見
 LMを購入しつつもISの開発も止めていない国々で、状況によっては上記のどちらにも傾く。
 …時勢が傾けば何処の国も似た様なものだとは思うが。
 取り敢えず消極的な協力・拒否をする国もあり、一概に判別できない所でもある。



 各国が米国の動きに揺れ動く中、米国から名指しで協力を「要請」された国があった。
 そう、日本である。
 篠ノ之束の出身地であり、彼女が人間と認識している数少ない人間が住んでいる国である。
 米国大使館からのアメリカ政府の公式要請、その内容に日本政府は大きく揺れ動いた。
 曰く、「篠ノ之束の逮捕に全面的に協力されたし。また、犯人の家族・友人に対し捜査に協力を要請する。」
 オブラートに包んではいたが、かねがねこんな内容である。

 
 これに対し、日本は大きく揺れ動いた。
 自国民を擁護すべき、しかし米国の機嫌を損ねては…、これを機にLM購入は見送るべき、否逆にIS主流から脱却すべきだ……
 
 公民双方で意見が大きく割れ、日本は未だにその方針を決定する事が出来ないでいた。
 




 IS~漢達の空~





 「で?このアホみたな状況の当人が何の用だ?」
 『ちーちゃんたらそんな怒っちゃやー。』


 IS学園

 IS運用条約、通称「アラスカ条約」で設立された此処はIS操縦者育成用の学園で、あらゆる勢力からの介入を拒む事で知られている。
 多少の圧力は存在するものの、それでも外よりは遥かに国家や企業の権力が届きにくいのがこの場所だった。

 そんな場所で、嘗てここのOBだった織斑千冬は電話で長年の友人と会話していた。


 『いやー、束さんもちょっとびっくりでね?まさか束さんに匹敵する人類がいたなんて想定外だったよー。』
 「そのおかげで私は大事な弟を危うく政府公認で連行されそうになったんだがな?」
 

 織斑千冬
この女性が篠ノ之束と唯一の親友であり、初代IS搭乗者にして現在最強のIS操縦者である事は世界的に有名だった。
 現在はある事件を機に引退しているが、それでも未だに彼女を人類最強と呼ぶ声は大きい。

 そんな彼女の唯一の身内は、たった1人の弟だけ。
 織斑一夏
 未だ中学校を卒業しない、極平凡な日本人の少年だ。
 でも、たった一人の愛する家族だ。
 
 だから、彼女は弟にかかる万難を排する覚悟を決めている。
 一度は失ったと思ったが何とか救う事ができた命、絶対に失う訳にはいかない。
 否、失いたくない。
 弟の存在は、彼女の存在理由と言い換えても良い程に、彼女の価値観のウェイトを占めていた。

 しかし、それが親友の仕出かした真似で危うくなっている。
 

 「この大馬鹿者!!何処にアメリカの大企業に正面から喧嘩を売って挙句負けて来る者がいるんだ!」
 『いやー、今回ばかりは束さんの完敗だよ、うん。』


 十人中十人が射竦められそうな怒声は、しかし、篠ノ之束には通じない。
 何故なら彼女は大天災。
 媚びず退かず顧みず、今や世界すら手玉に取る国際テロリストなのだから。
 その彼女が負けを認めるというのだからRE社というのがどれだけの魔窟なのか千冬には想像すら付かなかった。
 ……実際は変態と漢と趣味人の寄り合い所帯だが。
 

 『まぁ、ちーちゃん達は暫くIS学園で大人しくしててよ。その間に束さんは束さんで何とかするから。』
 「まぁ、精々殺されないようにな。」
 『うっふっふー♪ちーちゃんてっばやーさしー♪』
 「きるぞ?」
 『ごめんなさい。』


きっと今の「きる」はKILLか斬るかのどちらかしかないのだと思うと、束はちょっと冷や汗かいた。
 織斑千冬は有言実行どころか無言実行の人。
 やると言ったら絶対にやる。


 『じゃ、またねーん♪』
 「ああ、またな。」


 それだけ言って、千冬は携帯の電源を切った。
 たった一分にも満たない会話で、随分と疲れたものだな…。
 重く疲労が圧し掛かる肩を解きほぐすと、千冬は携帯の電源を切って、部屋のベッドに身を横たえた。
 スーツ姿だが、とても着替える気になれない。

 
 (これから、どうすべきだろうか…。)
 

 千冬の胸中を占める悩みはそれだった。
前々から問題だらけの親友であったが、それでもそれを表に出す様なヘマはしなかった。
したとしてもそれを補って余りある利益を生み出し、絶対に尻尾を掴ませなかったが故に今日まで生き永らえてきた。
だが、今度は明らかに分が悪い。
相手はあの篠ノ之束を全力ではなかったとは言え正面から彼女を破るだけの能力があるRE社、そして長年超大国として世界のトップで通してきたアメリカ合衆国だ。
 分が悪い所ではない、控えめに言っても絶望的だ。
 だが、今日まで世界を相手に勝利し続けてきたのが篠ノ之束だ。
 
結論、両者がこのまま終わる訳が無い。

 確実にまた一波乱あるだろう。
 それも、今回よりも大規模な、それこそ世界大戦並に凄まじい事が。


 (一先ず、篠ノ之家をどうにかせんとな…。)

 
 一夏は良い。
 既にIS学園付近に急いで引っ越させた。
 友人と別れさせるのは忍びなかったが、背に腹は代えられない。
自分も現役時代同様に「暮桜」を装備しているから、いざという時は駆けつける事ができる。

 篠ノ之家に関しては今年から次女の箒がIS学園に入学する予定だから、また家族ごと引越しになる事だろう。
 元々要人護衛プログラムの一環で日本各地を転々としていた一家だが、今回の事で更に立場がひどくなった事を思うと、口中に苦いものが湧いてくる様だ。


 「人生ままならんものだな……。」


 疲労に押されてか、千冬はそのまま直ぐに眠りに落ちていった。
 

 



 
 
 「ねぇ、これ何の冗談?」


 復興中のRE本社会議室で、社長のジョニー・ドライデンは呟いた。


 「社長、現実逃避しないでください。」
 『そこに記載されてるのは全て事実だよ。』
 『僕らも何度か確かめたしね。』


 重役達とオモイカネ級AI一番機にしてリーダー格であるアリエスが揃うこの場で、ジョニーが何を見ていたかと言うと……今回の襲撃事件における被害報告だった。

 戦闘用無人兵器は200近くあったその全てが大破、警戒用無人兵器はそもそも高機動中のISを攻撃できる兵装が無かったために無視されたために損害は無い。
 LM-01部隊150機は半数以上が中破で修理中、壊滅状態だ。
 地上のLM-02G部隊12機は装甲が厚いためか小破・中破が無いものの、異形ISの攻撃で2機が撃破・パイロット2名が死亡した。
 そして主力のLM-02部隊で戦闘に参加した4個小隊の内、ほぼ全ての機体が小破又は中破で、最も損害の大きかったδ小隊の機体は1機が撃破・パイロット死亡、3機が大破した。

 はっきりと言おう、大損害だった。


 「また、また赤字が……。」
 「社長!しっかりしてください!」
 「ここでテロに屈しちゃいけません!」
 『まだ何とかやりくりできるってば。』


 膝をついて絶望するジョニーに重役達が必死に励ます。
 ここで彼に戦線離脱された書類仕事が大変なのだ。


 「さて、気を取り直して……他の報告は?」
 「はい。米国政府は全面的に篠ノ之束博士と敵対する道を選びました。」


 まぁ、我々が後押しした結果ですが…。
 その呟きを皮切りに、報告が始まった。




 「気になるのは日本だね、うん。」
 「我々もそう考えております。」


 日本、あの外圧に兎角弱い政府が今更どうこうできるとは思えないが、馬鹿な分何をするか解ったものではない。
 最悪、篠ノ之束の関係者全員を保護と言う名の監禁をして篠ノ之束を敵に回して、更に米国からのLM輸出を禁止しかねない。


 「防衛省と政府は未だにIS主兵論者が多いんだっけ?」
 『うん。LMを歓迎してるのは、寧ろ民間の方だね。』


 IS学園を擁する国故か、日本政府はLM導入には積極的ではなかった。
 それでも防衛組の一部勢力と現状の行き過ぎた女尊男卑を危惧する政治勢力の渾身の努力によって一個小隊分が納入、現在は試験運用中だ。
 とは言え、その実情はお寒いばかりで、予算と人員の殆どをIS関連の部署に奪われ、まともな運用どころか日本特有の魔改造もできないのが現状だった。
 ……それでも解析が9割方終了し、反応速度や稼働時間、近接戦闘力が本家ELM-01Bよりも5%向上している辺りは流石と言えよう。


 「軍需は無いけど民需はあるみたいだね?」
 『そうだね。輸出解禁にあたって、LM-01は結構売れてるし。』
 「別売りのダミュソスシステム採用の飛行用追加ユニットも売れ行きは徐々にですが伸びています。」


 軍需に対し、民需は売れ行きがゆっくりとだが伸びていた。
 LM-01は元々作業用でもあるが、その性能故に装備を変えれば深海作業、救助、戦闘もこなせる。
 更に別売りの飛行ユニットの存在もあって、今までIS先進国特有の女尊男卑の風潮で鬱憤が溜まっていた男性には売れ行き良好だ。
 なお、LM-01購入には一定時間の講習が必要であり、飛行ユニット購入の際も別途必要となる。
 最近では一緒に買うと飛行ユニットが3割引きになるお得サービス中だ。


 「他の国ではどう?」
 「現在は……各国とも初期納入分はELM-01を一括購入しました。LM-01に関してもゆっくりとですが売れ行きは増えています。」
 「そう……今は調査中って事かな?」
 『って言っても、全然進んでないみたいだけどね。』


 米国を世界最大の軍事力保有国に再度引き上げたLMの存在は、各国も知る所だった。
 そこで輸出解禁となったELM-01を解析し、それを自国に合わせて改造又は自国版LM開発をするつもりだろう。
 「他国が持った兵器は自国も持たなければならない。そうしなければ何れその兵器で攻撃される。」
 軍拡の理論はこの時代でも有効だ。
 現在は各国とも解析に掛かりきりで、自主生産はまだ数年はかかるだろう。
 それでも既存の兵器の延長線上で重力・慣性制御を可能とし、ISクラスの戦闘力を持ったLMは各国としても絶対にものにしたいのだろう。
 現にどの国もISへの出資を行いつつも、LMの解析を止めていない。
 しかし、自国内のIS主兵論者を抑えるのに四苦八苦しているらしく、初期納入分は何とか購入できたものの、問題もあるらしい。
イギリスやフランスと言ったIS先進国は運用費用が確保できていない状況が続いている。
対し、中国・ロシアは大量購入した費用を増税で乗り切った。
ただ、中国に関しては優秀な科学者が少ないためか解析は輸出開始から数カ月経過した今も遅々として進んでいない。
 
 だが、その分ロシアは解析状況が日本並に進んでいる。
 このまま行けば来年には自国で開発が始まるだろう。
 流石はアメリカと世界を二分した超大国、喰いつき具合が半端無かった。


 「で、我らが米国も対抗策くらいあるんでしょ?」
 『みたいだねー。今、米国ではNASAを中心に極秘裏に第二次スターウォーズ計画が進んでるよ。』
 「はい?」


 第二次スターウォーズ計画
 それは現在順調に進んでいる米国の月面開発計画を利用して月面に米国の一大軍事基地を設置する計画だ。



 少し戻って月面のPRE-01を筆頭とした月面開発計画の現状について説め…ゲフン!あーあー……解説する。
 
 現在、月の裏側にて順調に開発計画は進行している。
 今はPRE-01の相転移エンジンを発電所代わりにエネルギーを供給、それを元手に持ってきた大量の機材を使って月面に簡易コロニーを設置、地下資源の探索と都市開発を同時進行している。
 資源は取り放題、エネルギーは潤沢、娯楽にしてもPRE-01は福利施設も豊富なため、従来の宇宙開発に比べて遥かに人員への負担が軽かった。
 また、無重力空間特有の人体の弱体化も、工業区画や作業区画を除いたほぼ全域で重力操作、常に1Gをかけているため、人員の交代も必要最低限で済んでいる。
 現在は初代月面都市の名をルナ1にするかムーン1にするかで揉めている位に順調だ。



 「にしたって、人手が足りんでしょ。今はまだ開発で手一杯だと思うけど?」
 『先日PRE-02が竣工したからね。資源と人員の打ち上げ量が増えたんだよ。』


 今まではPRE-01が往復させて資源と人員を行き来させていた。
 その間は月面では何度目かの往復で持ってきた小型相転移エンジンで発電したり、大容量バッテリーを使用したりで代替した。
 未だ運用年数が短い相転移エンジンに詳しい技術者は少ないため、RE社もこの事業には積極的に協力する事で技術者の育成に努めている。
 しかし、月面開発及び防衛の要であるPRE-01を早々簡単に動かす訳にはいかない。
そこでPRE-01とは別に輸送艦としてPRE-02が必要となった。

 
 PRE-02 エンタープライズ
 
超有名な宇宙船の名前を借りた、RE社製の2隻目の相転移エンジン搭載航宙艦だ。
PRE-01の運用データを参考に設計され、その信頼性や整備性はPRE-01よりも向上している。
そして、エンジンの追加とエネルギー伝達系の最適化によって強化された出力を利用したDブロックシステムを採用する事で、凄まじいタフネスを身に付けた。
とは言っても、本来が輸送艦としての性能が求められていたためか、その戦闘能力はPRE-01よりも低い。
GブラストもLM-02の運用機能も無いため、あくまで輸送船でしかない。
ただ、その分コストが低下、生産性・整備性が向上している。
全長500m、全高320m、全幅200m。
 相転移エンジン3基、核パルスエンジン6基を搭載する。
 PRE-01同様重力推進・慣性制御を採用、福利厚生施設も充実している。
 兵装は対空レーザー砲×22門、大型レールガン×2、Dフィールドのみで、あくまで自衛用・デブリ破砕用である。
 その最大の特徴は積載能力にこそある。
 PRE-01で急拵えであったDブレードを利用した大型格納庫を再設計、艦の大型化と合わせて搭載能力が大幅に上昇した。
 これによってPRE-01は改めて月面開発及び防衛の要として機能し、PRE-02は今月から月面と地球間で定期便の役割をこなしている。
 
 …ちなみに社内では「今度こそスタート○ック!」「いや次もコスモスだろ」の二派に分かれて、投票を取る事になった。
しかし、アメリカ政府とNASAからの投票もあり、結果は見事スタート○ック派の勝利となった。
 
 
 
「是非ともコスモスにして多連装Gブラストを載せたかった…。」
「まだ言ってるんですか…。」
『輸送艦にそんなもの乗せたらオーバーキルだよ。』


 重役とアリエス達が呆れた視線を向けるが、ジョニーは気にしない。

 「で、結局どう動くの?」
 『うーんとLM-02の宇宙仕様があるだろ?あれの運用母艦の開発依頼とC型への換装、そんでPLS-01の制式仕様への改修と追加生産だって。』



 PLS-01
 見た目はXG-70のアレである。
 現在は3機が米国空軍に納入されており、重要基地に配備されている。
 とは言っても、試作一号機のデータを参考にして作ったため、完成度は高い。
 ただ、あくまで試験運用の名目で納入されたため、完成型として搭載する予定の兵装が無い。
 現在はGブラスト、Dフィールド、要重力場発生器しかない。
 
 LM-02B、宇宙仕様のLM-02である。
 とは言っても、ジェットエンジンを液体燃料式ロケットエンジンと交換し、機密性を上げただけの機体だ。
 性能面では特段変化は無い。
 そのためC型への換装も容易で、十分な資材と技術者がいれば、現地でも十分に改修可能だろう。

 LMの運用母艦は、丁度PREの3番艦を当てればいい。
 PRE-01もそれに近いが、月面の要をそうそう動かす訳にはいかない。
 だからこそ、LMにとっての空母に当たる艦の存在は必要不可欠だ。


 「うちとしては儲かるから良いんだけど……大丈夫なのかな?」
 『国益は十二分以上に出してるからOK。』
 「宇宙開発を100年は進めたのですから、これ位良い思いをしても罰は当たらないでしょう。」
 「…ま、いっか。」

 
 この時は軽く流したが、後に彼らの仕事は加速度的に増える事となる。
 何せ後から後から注文が来るので、必然的に上役に来る仕事も増えていってしまうのだ。


 「所で篠ノ之束については何か掴んだ?」
 「先日の騒ぎで幾つかのアジトは掴みましたが、既にもぬけの殻でした。IS関連の情報については一通り解析は終了しました。」


 先日の襲撃事件で、オモイカネ級AI達は逆ハッキングに成功、幾つかの拠点の情報とISの開発データを入手した。
 拠点の情報を入手したアメリカは即座にCIAを動員、虎の子のLM-02Cエステバリス・カスタムの特殊部隊仕様を判明した拠点全てに対し出撃させた。
 しかし、既に誰もおらずに爆破処理されていたため、結局は無駄足となってしまった。
 
 対し、ISの方は断片的であまり参考にできなかったが、それが新開発のISの開発概念とそれに使用される新技術の情報である事が判明した。
 開発されていたISは試作第4世代、新技術は展開装甲というものだった。
 展開装甲は全状況対応型とも言うべき装備で、常に攻撃・防御・機動等の動きに最適な状態へ機体が変化するというものだ。
机上の空論と無視しても問題無いかもしれないが、これを考えたのがあの大天災となると洒落にならない。
 米国政府はこの情報をRE社から知らされた時、本当に肝を冷やしたそうな。

 ちなみにLMに展開装甲を採用してはどうか?と言う意見もあったが、それ開発して作るよりも普通に換装システム使用した方が安くない?の一言で没案となった。


 「まーたやり合うんだろうねー。」
 「負けたまま引き下がる御仁ではないでしょうから…。」
 『また来る確立97,2%って所かな?』
 

 敵が厄介すぎるという陰鬱な状況に、会議室にはちょっとブルーになった。


 







 その頃の月面


 トンテンカン、トンテンカン……というのは冗談だが、ここでは日々作業が続いている。
 作業に使われるのは主にLM-01の宇宙仕様で、杭打ち機やドリル、バーナー等の様々なアタッチメントを使用して月面都市を発展に導いている。
 月面は地球に比べ大気はほぼ存在せず、また、重力も6分の1しかないため、重量物の移動がかなり容易に行う事ができた。
 しかし、ここまで月面都市を開発するには多くの課題が存在した。

 1つ目は宇宙から飛来する宇宙線や太陽風、デブリであった。
 これはPRE-01のDフィールドなら容易に防ぐ事ができるのだが、如何せん都市全体にDフィールドを展開するのは出力的に難しい。
 そこで建設資材の中にあった小型相転移エンジンや大容量バッテリーで動力源を確保、ゆっくりと展開範囲を広げていった。
 PRE-01が月面を離れる時もこれは役に立ち、今も増産や改良を繰り返しながら使用されている。

 2つ目はレゴリス。
 隕石などによって細かく砕かれた石で非常に細かい上、月面のほぼ全ての場所を数十cmから数十mの厚さで覆っている。
 この砂は少ない衝撃で舞い上がり、重力の関係上暫くの間落ちてこない。
 また、精密機械の間に入り込み、トラブルの原因ともなる。
 これは月面開発にあたってかなり邪魔だった。
 そこで、開発者達はレゴリスを巻き上げない様に注意しつつ、作業場一帯に微弱な人工重力を働かせて作業するしかなかった。
 しかしこのレゴリス、実はその大半が酸素で構成されており、加工すれば良質な酸素を抽出する事が可能だったため、現在は積極的に回収されている。
 そのため、厚さ数十m以上のレゴリスの集積地帯はもう宝の山扱いだったりする。

 
 3つ目は水だ。
 こればかりは補給するしかないが、真水は工業製品の加工にも大量に必要となる。
 作業員や技術者の生活用水は相転移エンジンの恩恵でリサイクルして使用できるが、流石に工業用水に使える程大量にある訳ではない。
という訳で、月面極冠にある巨大な氷、そして月面中に多量に分布するヒドロキシ基を利用する事となった。
 極冠は以前から巨大な氷が存在している可能性が高かったのだが……地下に地球の南極大陸並の氷が発見された時は皆驚いたものだった。
 ヒドロキシ基は水の原料となる物質で、月面に水と並んで多く存在する。
 これらを集積・加工して工業用水を確保すれば、大量の水を手に入れる事ができる。
 結果として言えば、氷を持ってきた方が加工するよりも早かったのだが、水は幾らあっても足りないのでヒドロキシ基の加工は今後も続けられる事となった。
 

 この様に、月面に行った開発団の面々は最新の装備を生かし、順調に月面を開発していった。


 月面は、実を言えば資源の宝庫とも言える。
 水は言うに及ばず、酸素もレゴリスから抽出でき、太陽風によって運ばれてきたヘリウム3、土壌にもチタン等が多く含まれている。
 そして何より、ここには競争する者がいない。
 自分達だけで一人占めができるのだ。
 もう政府はウハウハ状態だった。









 現在、米国は女尊男卑から来る治安の悪化と雇用問題、更にはエネルギー問題を解決し好景気に突入していた。
しかも、月面の資源を文字通り一人占めした状態で。
 そのおかげか、大統領は2選に成功し、経済状況はかなり良い。
 
未だ月面開発については公表していないが、それも時間の問題だろう。
 各国だって米国が何かしているのは掴んでいるのだ。
 だが、何処で何をしているのか、具体的な事は解っていない。
 何せ月面、スパイの類を送る事は不可能だ。

 米国政府は此処最近、各国が軍事力で追い付く事がなくなるようにIS開発者である篠ノ之束をどうにかしたいと考えていた。
 拘束か、殺害か、利用か。
 何れにせよ、米国に不利益な存在を容認する訳にはいかなかった。
しかし、相手はあの大天災。
こっちから仕掛けても勝てるかどうか不明であるし、居場所も不明だ。

だが、最近彼女自身が米国にとって「金の卵の鶏」であるRE社に敵対行動を取った。

棚からぼた餅。
 思わず笑ってしまった。
 それ程に好都合だった。
 そして、早速米国は動いた。
 
 結果として、以前以上に篠ノ之束は敵が多くなった。

 だが、それでも篠ノ之束は捕まらない。
 網の目を知り尽くしているかの如く、篠ノ之束は捕まらない。

 それこそが、彼女の異常性を立証する何よりの証明だった。
 
 




 


 何処とも知れない秘密の場所


 「ふんふふーん♪」


 そんな場所でその女性は調子はずれな鼻歌を歌っていた。


 「らんららーん♪」


 だが、それだけではない。
 彼女を包む様に、周辺には用途不明の大量の機械が群れを成し、終始蠢ていた。


 何をしているのか、他人には理解不能だ。
 できるとすれば、それは彼女本人か、彼女と同等の知識を有した者だけだろう。


 「たらっりらー♪」


 彼女は手を動かす事を止めない。
 異端の技術を編み続ける事を止めない。
 思考を止める事を良しとしない。
 

 思考し続け、おり続け、その果てに何を求めているのか。
 それは、彼女だけが知っている事だろう。
 だが、間違いない事がただ一つだけある。


 「さーて、ここから私の逆襲開始だよーん♪」


 世界は、更なるカオスに向かって突き進んでいく。

 それだけが、今後の世界に言える事だった。







 
 
 「私がテストパイロットですか?」
 「そうだ。」


 唐突に上官の部屋に呼び出され、私は素っ頓狂な声を上げた。

 
 「君の能力は米軍のIS乗りの中では確実に三指に入る。加えて知識も十二分だ。任務は十分に果たせると思うが?」
 「は、はぁ…。」


 上官の言っている事は何らおかしくはない。
 おかしくはないが、如何せん時期が悪い。
 
 今米国はブラックボックスが多く軍事兵器として欠陥品と言えるISよりも安価でありながら性能は同等であり、量産も可能であるLMが主流となっている。
 RE社、彼女にとって思い入れのある人がトップであるその会社は、またたく間に時流に乗り、この国から、世界からISを駆逐しつつある。

 その事を思うと、どうしても胸の内のどこかが軋む思いがする。
 未だに当時の事を振り切れていないという事だろう。
 それがどうにも表に出る時があるせいか、仲間内では「グレーウィドウ」、「灰色の未亡人」などと呼ばれる時もある。

 

 「我が国は現在LMが主流となりつつあるが、未だにISが世界最強の兵器であるという声も各所から出ている。そこで、来年RE社製のLMと他のメーカーが作った最新鋭第3世代ISとトライアルが行われる事となった。」
 「本当ですか!?」

 
 もしこれでISが勝利すれば、現在のLM主流に大きな罅を入れる事となる。
 私個人としては望まない結果だが、しかし、IS乗りとしては日々狭められる空に鬱屈していた所でもある。
 ある程度接戦し、今よりも扱いがよくなるのなら、私としてはまぁ満足だ。


 「開発中のISは2機種で、君にはイスラエルとの共同開発を予定されている機体が任せられる。もう一機もトライアルに参加し、協力して事に当たる事となる。そいつは来週到着予定だ。任せたぞ。」
 「は!」

 
 敬礼し、必要な資料を受け取って部屋を辞退する。
 任務への意気込みと、もしかしたら彼に会えるのでは?という期待を胸に、私は上官の部屋を後にした。




 「……すまんな。君も茶番に付き合ってくれ。」



 
 その上官の声は、誰も届かなかった。






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