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No.26770の一覧
[0] 【ネタ】IS~漢達の空~ 第9話投稿[凡夫](2011/04/19 13:45)
[1] IS~漢達の空~その2 大幅改訂[凡夫](2011/04/19 15:17)
[2] IS~漢達の空~その3 大幅改訂[凡夫](2011/04/16 17:42)
[3] IS~漢達の空~その4 大幅改訂[凡夫](2011/04/16 22:08)
[4] IS~漢達の空~その5 改訂[凡夫](2011/04/17 11:24)
[5] IS~漢達の空~その6 改訂[凡夫](2011/04/17 22:53)
[6] IS~漢達の空~その7 大幅加筆[凡夫](2011/04/17 22:53)
[7] IS~漢達の空~その8[凡夫](2011/04/19 13:45)
[8] IS~漢達の空~その9 new[凡夫](2011/04/19 13:44)
[9] 没案[凡夫](2011/04/07 22:02)
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[26770] 【ネタ】IS~漢達の空~ 第9話投稿
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9 次を表示する
Date: 2011/04/19 13:45
 「オレ達にとって、空は何よりも代え難いものだ。」





 祖国の空軍でもエースパイロットで知られる父は、何時も僕にそう言って誇らしげに勲章やアルバムを見せてくれた。

 時には友人達との笑い話や、実戦であった本当に危なかった時の話。
 滅多に家にいない父は僕にせがまれるままに、何時も話をしてくれた。
 
 お隣の幼馴染もまた父達の話が好きで、よく僕とつるんでいたものだ。
 当時色々あって友人がいなかった僕にとって、その幼馴染と僕を繋げる父達はある種の絆とも言える、とても大事なものだった。

 
 父と、父の友人達は、僕にとって何よりも誇らしいものだった。








 だが、父と父の友人達はある日、唐突に「空」を奪われた。






 

 それ以来、飲んだくれになってしまった父を母は見捨て、僕だけが家に残った。
 

 父だけじゃなく、父の友人達もほぼ同じ有様だった。
 酒に溺れ、貯蓄を切り崩していく父達を、僕は見ていられなかった。




 だから、二度目の生を受けてから、僕は初めて確固たる目標を得た。


 「空」を取り戻す。


 不当に奪われた空を、もう一度漢達の手に。

 そのためなら何でもする、と。
 そう、決めた。
 


 それが、どんなに辛くとも、逃げ出さず。
 己の心身をすり減らしてでも、実現する事を誓った。







 






 IS~漢達の空~





 

 


 ジョ二ー・ドライデンは転生者である。
 

 決して宇宙世紀出身のちょっと軽めで不憫な赤い稲妻ではない。


 
 ジョニーが転生をする事となった理由は割愛する。
 というより、詳しくは彼も覚えていない。
 何か輝かしいものに気まぐれに「特典」を与えられた事くらいだ。

 「精々楽しませてよ。」

 そんな言葉だけが耳に残っている。

 その際、彼が願ったのは彼のお気に入りの娯楽作品の幾つかから、それに関連する知識だった。
 
 願ったのは、「機動戦艦ナデシコ」とその劇場版、そして「アップルシード」、「甲殻機動隊」に関する知識だった。



 そして、彼はその知識はあまり必要でないものだと一度は判断する事となる。
 何故なら、彼が転生した世界は彼にとって完全に未知の世界だったからだ。




 IS、インフィニット・ストラトス
 

 アメリカの空軍士官の夫婦の間に生まれたジョニーにとって、その最新鋭兵器の存在は彼の人生に大きな影響を及ぼした。
 それも、恐らくは悪い方向に。

 エースパイロットだった父は空軍のISの採用によって空を奪われ、多くの同僚達と同様にその誇りを奪われた。
 管制官だった母はその職務を続ける事にしたが、次第に父を見限っていった。

 そしてある日、母は家を出ていった。

 父もジョニーもそれを止めなかった。
 止める言葉を持たなかった。
 
 そしてジョニーは恐らく一生使うつもりの無かった知識を、世に出す事を決めた。
 
 
 父に、父の友人たちに、空を取り戻すために。


 そのためなら、彼はあらゆる努力と犠牲を厭わない。

 

 SIDE JOHNNY


 僕が最初に行ったのは、先ずは自身の知識の再確認だった。

 転生からこっち、全くそういう事をせず、肉体から来る精神の後退に合わせて生活していたため、忘れていないか心配だったためだ。
 結果、どれ一つとして忘れてはいなかった。
 同時に、自身が持つ知識がどれだけ危険なものかを再認識した。
 ナノマシンや重力兵器、義体やランドメイドに関する知識を総動員すれば、十分にISに対抗できる、とも判断した。

 

 現状、ジュニアハイスクールも卒業していない身ではどうしようもない。
 だから、先ずは大学まで行って信用できる仲間を作り、しかるべき所に名を売り、スポンサーを得る事が重要だ。

 ジョニーは勉強と父親の世話を怠る事なく、勤勉に暮らす事を決意した。





 SIDE NATASHA


 私、ナターシャ・ファイルスには幼馴染がいる。

 ジョニー・ドライデン
 学校に通う前からの知り合いで、私の家のお隣さんだ。
 
 彼の両親は2人とも軍人で、共に空軍にいた。
 出会いも職場でだったと言う。
 
 空軍きってのエースパイロットの父親とオペレーターの母親。
 そんな両親をいつも誇りに思っていたジョニー。

 私も、そんな仲の良い一家が好きで、尊敬していた。




 そう、あの「白騎士」事件までは。



 あの事件の後、既存兵器は悉く旧式と化した。
 あの事件で出撃し、そしてISと言われる兵器に敗れた父親ジョージおじさんは、空軍を追い出された。
 だが、彼だけじゃない。
 多くの空軍関係者が職を追われた。
 
 
 ジョージおじさんは毎日自棄酒ばかりで、おばさんは愛想を尽かして出て行ってしまった。
 ジョニーは残って、毎日おじさんのお世話と勉強に追われる毎日を送っている。

 そして私は、そんな彼を支える様にして生活を送っている。

 もう放っておけば?とは言わない・
 ジョージおじさんはジョニーにとって尊敬する父親、絶対に見捨てる事なんで無いだろうから。


 彼は私の幼馴染。

 おっちょこちょいで、内気で、鈍いけれど
 優しくて、賢くて、意地っ張りで

 彼は私の幼馴染で…とても大事な人です。






 SIDE NO


 2年後、2人は16歳になっていた。


 ジョニーはネットを通じて同志を集めつつハイスクールをすっ飛ばしてMIT、マサチューセッツ工科大学へ行く予定だ。
 既にスポンサーも付いており、大学に入った段階で小さい会社を経営する事になる。
 必要な人材や設備、費用も目途が付いており、彼の人生設計は今の所順調と言えた。


 そして、ナターシャの進路は…





 「……IS学園に、行くんだって?」


 自宅近くの喫茶店で、2人は深刻な表情で話し合っていた。


 「…えぇ。」


 ナターシャはつい最近、親の勧めでIS適正検査を受けた。
 ナターシャもダメで元々、しつこく言う両親に背を押されて受けた。
 結果、IS適正Aの判定を受けた。
 Bでも一般の中では相当高い。
 いわんやAでは滅多にいない希少な人材と言える。
 それを知った彼女の両親はすっかり乗り気になり、ナターシャをIS学園に入学するよう強制した。
 

 「…僕がISが嫌いだって事、知ってるよね?」
 「…えぇ。」


 ナターシャの両親も、悪気があって言っているのではない。
 寧ろ真剣に彼女の将来を考えての行動だ。
 女尊男卑が当たり前となり始めて既に2年。
 IS学園とは超エリート校という認識が当たり前だ。
 勿論筆記・実技双方で厳しい試験はあるが、それを補って有り余るメリットがある。


 「おめでとう。」
 「え?」


 ジョニーの言葉に、ナターシャは俯いていた顔を上げた。
 ぽかん、という言葉が似合うその表情にジョニーはくすりと安心させる様に微笑んだ。


 「少なくとも僕が知るIS学園のレベルなら、ナターシャなら十分に合格できる。」


 なんなら手伝おうか?とまで言うジョニーに、ナターシャは二の句が告げられずに口をパクパクと開閉させた。


 「……………いいの?あなたは」
 「勿論、僕はISが大っ嫌いだ。でも、君が自分の意志でIS学園を選ぶのなら、僕としては祝福するよ。」


 結局、ナターシャはそれ以上殆ど何も言えずに帰ってしまった。
 訝しげな、不完全燃焼といった表情であったが、それでもあまりの驚きから帰ってしまった。

 

 この時、もし彼女がもっとジョニーと本音を晒して会話していれば、この先に出会うだろう悲しみは避けられたのかもしれない。
 だが、歴史にIFが無い。
 彼女は胸中に疑問を抱きながらも、直ぐに別れてしまった。

 彼女がこの日の事を後悔する時、それは実に1年後の事だった。





 SIDE JOHNNY



 ズドンッ!!!!


 
 部屋の壁を力の限り殴りつけた。
 
 右腕が痺れ、拳から血が流れるが、この胸の痛みに比べたら、こんなものは有って無いようなものだ。


 「ナターシャ……。」


 彼女がIS学園に入学する。
 既に、控えめながら乗り気である事は顔を見れば解った。
 
 二度目の生を受けて既に16年。
 その間ずっと一緒にいた彼女の表情を、僕が見間違う筈は無い。
 
 
 「何故だ…ッ…。」


 彼女の将来を考えれば、あの場で笑顔を取り繕い、祝福し、応援する事は間違っていない。
 自身の胸中はどうあれ、彼女の花道を邪魔するつもりは毛頭ない。

 だが、だがだ。


 「……幼馴染まで、ISに取られたか……。」


 自嘲する。
 
 あの決意を固めた日から、自分はちっとも変っていなかった。
 何がどんな代償を払っても、だ。
 親しい人間一人取られた位で、こうまで動揺するとはお笑い草だ。


 「だけど……。」


 だが、この身の内の妄念を捨てるつもりは微塵も無い。 
ISを打倒する兵器を、そして漢達に再び翼を。
 それ実現せんとする意志だけが、彼を前へと突き動かす。

 優しい母と誇れる父。
 それを打ち砕いたIS。
 
 空を奪われ絶望した、父を始めとする多くの漢達。

 許せるものではない。
 許してはならない。
 
 その妄念こそが、彼の原動力だ。


 「絶対に、堕としてやる……ッ!!」


 
 この日、ジョニーは涙と共に改めて決意を固めた。

 代償は幼馴染。
 16年も一緒にいた、初恋だったかもしれない少女。

 
 この日、この時から、ジョニーは益々目的のみを見つめ続ける事となる。






 SIDE JOHNNY


 ナターシャはIS学園に合格した。


 筆記はやや厳しいかと思ったが、僕が付きっきりで手伝ったおかげで何とかなった。
 実技は教官を相手に辛うじて相討ちに持ち込む事もできたそうだ。
 素人である彼女がそこまでできたのなら、大金星も良い所だろう。

 


 翌日開かれたパーティーに、僕は他の皆よりも遅れて出席した。
 苦労して張った笑顔と言う名の仮面、それが危うく外れそうになったからだ。

 合格通知が来た時のナターシャの笑顔。
 彼女の本当に心底嬉しそうな笑顔。
 それは、僕の中の妄念を刺激するには十分なものだった。

 僕は何とか仮面を取り繕い、隣のナターシャの自宅で開かれているパーティーに出席した。
 学校の友人や近所の人達も参加しており、パーティーは結構大袈裟なものとなっていた。
 彼女の門出には相応しいだろうが、今の僕にとっては針のムシロに等しい。
 だが、それももう今夜ばかりだ。
 

 僕は今夜、この町を発ち、MITに向かう。
 

 大学の研究室の準備と立ち上げた小さな会社の事務所の確認。
 とは言っても、それは入学直前で済む事だ。
 だが、僕は最早一刻たりとも彼女の傍にいれない事を自覚していた。
 彼女には残酷かもしれないが、それでも僕は、ISの事で喜びを露わにする彼女を見たくは無かった。

 だからこそ、僕は今夜にでも発つ。


 「こんばんはジョニー。来てくれたのね。」
 「まぁね。…合格祝いだってね、良かったじゃないか。」


 吐きそうになる。
 彼女の如何にも幸福だという笑顔、それを祝う場の雰囲気。
 皆には悪いが、もうここから脱出したい気分になってきた。


 「実技ではちょっと心配だったって聞いて、大丈夫かなと思ったんだけどね。」
 「えぇ、私も。でも教官相手に相討ちなら上々なんですって!試験管に褒められたわ!」
 「父さんも、『素人が本職相手に相討ちなら上等だ』だってさ。」
 「あはは!その声おじさんそっくり!」
 

 だが、今となってはもう遅い。


 「これも貴方が手伝ってくれたおかげよ!ありがとうジョニー!」


 彼女の言葉は、確かに僕の仮面に罅を入れた。




 「……そっか。それは良かった。」


 どうにかして振り絞って出したその言葉。
渾身の努力を以てしても、それ以上の言葉が出る事は無かった。


 「…どうしたの?何か顔色が悪いけど?」
 「いや…ちょっと立ち眩みかな?悪いけど、やっぱり早めに帰るよ。」


 すまないね、と罅の入った仮面を被る。
 同時に、一刻も早くここを抜けだしたいとも。


 「大丈夫?送っていく?」
 「いやいや、心配には及ばないよ。君こそパーティーの主役がいなくなる訳にはいかないだろう?これ位は少し休めば問題無いさ。今日くらいは楽しみなよ。」
 「そう?あ、後で何か食べ物を取っておくから!何が良い?」
 「あはは、お気になさらず。好きなだけ楽しみなよ。」


 そして、僕はお隣の自宅へ帰っていった。
 何時の間にか白くなる程握りしめていた右手は、不思議と何も感じなかった。


 これが、僕と彼女の最後の会話だった。







 SIDE NATASHA


 パーティー翌日、私は彼の家に訪れた。
 昨夜のパーティーで少し残った食事をお裾分けしようと思ったのだ。

 だが、そこにいるのは父のジョージおじさんだけで、他には誰もいない。
 余りに、静かだった。

 何か嫌な予感を感じる私に、おじさんは訝しげな顔をした。
 
 「おじさん、ジョニーは?彼は何処に行ったの?」
 「ん?ナターシャ嬢ちゃん、もしかして聞いてないのか?」

 確実に何かあった。
 おじさんの態度は、私が確信するだけのものがあった。

 「ジョニーの奴は昨日遅くにMITに向かったぞ。何でも急に向こうで用事が出来たからだとよ。そんでそのままそっちの寮に引っ越すんだそうだ。」
 「…………え?」

 おじさんの言っている事が解らなかった。
 だが、最近のおじさんはすっかり酒も抜けて、以前の様なタフガイに戻っている。
 今の彼が間違った情報を言うとは思えなかった。


 「どういう事ですか!?」
 「本当に聞いてないみたいだな。…あいつ、最近知り合いと立ち上げた会社で色々やっててな。今じゃもう一国一城の主だぜ?多分、その関係で引っ越すのが早くなったんだと思うが…。」
 「じゃぁ、なんで私に一言も言わないんですか!?」

 必死の形相で言い募る私に、おじさんは眉を顰めて言い辛そうに口を開いた。

 「あー、多分だが、何でもIS壊す兵器作る奴がIS学園入学生と一緒にいちゃまずいって思ったんじゃねぇか?」
 「そんな……。」

 絶句。
 おじさんから告げられた言葉に、私はただただ絶句した。
 
 そして、理解した。
 彼は、本当は私にIS学園に行って欲しくは無かったんだと、今更ながらに。

 遅かった。
 余りにも、私の理解は遅かった。

 彼はISが登場してジョージおじさんがあんな事になってから、直接言う事は少なくても、あんなにも雄弁に私に語りかけてきたのに。

 私は、彼の唯一の幼馴染なのに、そんな事にも気付かなかった。


 「で、でも!今から追いかければ!」


 せめて追いかけて詫びの言葉くらい言いたい。
 だが、現実は無情だった。


 「もう空港から出発してから暫く経つ……それに、会社の方はでかい企業も一枚噛んでる。部外者は入れねぇし、IS関係者なんざ言語道断だ。」
 「そん、な………。」


 目の前が真っ暗になった。
 
 







 そして一カ月後、私はIS学園に来ていた。


 新しい暮らし、新しい学友、新しい人生。
 周囲から見れば羨ましいであろう私の現状だが………それでも、私の中にあるのはただ空虚だけだった。


 この学園に入学するにあたって、最も私に助力してくれただろう幼馴染。
 彼と出発の挨拶を交わす事無く、私は故郷アメリカを離れ、遠い極東の地へと来てしまった。


 「………なんで……。」


 ただ、空虚だった。







 SIDE JOHNNY


 「ようこそおいでくださいました、社長。」
 「よしてください。僕はまだ20にもならない小僧ですし、航空開発にその人あり言われたエイフマン教授に敬語を使われる程偉くはありません。」
 「ふぉふぉふぉ、ではいつも通りと行こうかの?」

 僕は恩師の1人と会社の一室で愉快そうに歓談していた。



 
 僕が社長役を務めるこの会社、名を「RE」と言う。

 REはRegeneration and Evolutionの略であり、漢達の空への復活と更なるステージである宇宙への進歩を意識したものだ。

 資金源は主に義体やLM関連の技術で取った特許、他にもそれに注目している企業や個人からの出資が元となっている。
 特に人工筋肉関連は既存のものよりもかなりものが良いのでウハウハである。
 まぁ、その使用先が医療だけでなくIS関連も多いというのは社員一同にとって非常にむかつく話だが、今は雌伏の時であるので目を瞑っておく。
 それに、あくまで特許に出したのは基礎の基礎であり、本当にヤバそうな重力兵器や相転移エンジンなどの技術は秘匿しているから問題は無い。

 他にも同志達個人の資産も少々だが入っている。
 …正直、ここまで彼らがISを憎んでいるというのは驚きだった。
 まぁ、最近は女尊男卑も甚だしい世間なので、色々とあるのだろう。



 会社としては早速最新型の精密作業用機器やスパコンなどを購入し、アメリカ国内に小さいながらも本社を建築した。
 完成までの間も有効に活用すべく、僕らは半年程本社予定地の近くのアパートを3階分まるまる借りて、社員(仮)全員で集まると、今後の予定やら何やらを話していった。

 
 
 今後するべき事は、先ずはLMの実用化だった。
 それに義体の方もできれば製作して工作技術のノウハウを蓄えるべきとの声も上がった。
 なるほど、確かにその通り。
 知っていればなんだってできるという訳でもない。
 理論や設計、研究はできるだろうが、実際に作るとなると腕の良い技術者も必要となってくる事だろう。

 幸いにも集まった社員(仮)の中には元航空機関連の人材も多く、そこら辺は全員直ぐに納得できた。
 それにしても女尊男卑の影響か、集まった者の中には高名な年配の航空宇宙関連の技術者も何人かいるのだが、世界は大丈夫なのだろうかと一抹の不安を覚える。



 そして2カ月後、全員が早速LMの実用化を目指して動き出した。
 
 人工筋肉に関するノウハウに関してはこの2カ月で皆結構習熟しているので良いが、搭載するFCSやバランサー、生命維持機能などは一から作り上げなければならない。
 如何に結果が見えているとしても、それまでの過程は険しく長いものなのだ。

 ましてや、敵は世界最強の兵器たるIS。
 手を抜く事などできず、僕達RE社の社員一同は寝食も忘れて開発に耽った。

 最初に目指したのは、作業用としてのLMだった。
 戦闘用にするには圧倒的にデータとノウハウが不足しているので、先ずは作業用機としての堅牢さと信頼性、整備性などを目指す事となった。
 勿論、試作一号機は多少割高だろうと許す限りの高性能機に仕上げる予定だ。
 開発というものに節制は毒にしかならない。


 作業用の汎用人型重機という事で、サイズは2~3m程度が目安とされ、全体の大まかな構造や搭載する人工筋肉や油圧系の量を決定していくと、そこからは分担して作業する事となった。

 そして、どんどん時間が流れていった。

 最初期のLMにとってどんな材質が理想かを検討し、現行存在するありとあらゆる材質を調べていった。

 人工筋肉だけではやや最大馬力に欠ける上にコストが高くなるため、試作機一号は全身人工筋肉、二号機は一部油圧系を採用した廉価版となった。
 前者は軍用、後者は民用という具合に分ける。
 反応性という点においてはやはり人工筋肉、衝撃吸収性も高いので防御力が優れる。
 対し、油圧系は最大馬力は高いし、整備性やコストも優れるが、それ程防御力は高くないし、何より反応性が高くないからだ。

 IS程高級な代物ではなくても良いが、やはりバランサーは重要だ。
これはなるだけ重心を下にする事で安定性を高め、脚部に電磁吸着機能を付加した上でオートバランサーを設置した。
お陰で震度5クラスの震動でも転倒する事は無い。

 ISの様な絶対防御とは行かずとも、搭乗員の安全確保は最重要項目だ。
 そこで、本来のLMとは異なりマスターアームを削除、どこぞの機動警察の様に手の動きを直接伝える直接操縦形式に変更して操縦性を高めつつ、乗員を守る正面装甲と生命保護機能の搭載スペースを設ける事に成功した。

 そして、動力源に関しては大容量の小型燃料電池を採用し、連続5時間程の稼働を実現してみせた。





 そして、実に1年の月日が経過した。





 遂にLMが完成した。

 一号機はまだ本命の飛行システムであるダミュソスシステムが未完成であるため、発表は控えたが、作業用として開発した二号機は量産を前提として既に4000時間近い稼働時間を無事に終えた。
 それに量産機には必要のない機能の削除や一部設計の見直しにより、コストの方も低くなっている。
 もう販売する分には問題は無いが、何分IS全盛のこのご時世に売れるかどうか不安が残る。

 既にアメリカ政府や一部の企業には作業用LMを採掘場や災害救助用としてそこそこの注文が来ているが、軍需としてはお寒い限りである。


 LM―01A ギュゲス
 汎用型作業用LM第一号にして、後のLM全ての始祖となる機体である。
 その外見は卵型の胴体にゴリラの様な長めの腕と短い足、胴に埋まった頭部という構成となっている。
 高い汎用性と操縦性、整備性に低コストであり、作業用の他に災害現場における救助活動も可能な性能を持つ。
 五指のマニュピレーターを削岩機や杭打ち機等に換装可能であり、背面に空中飛行・浮遊を可能とするダミュソスシステムという板状の重力推進機により高所での活動も可能となっている。
 ただ、あくまで作業用、救助用であり、戦闘は不可となっている。
 
 現在、宇宙空間や深海対応モデルを開発中である。


 予想以上の良い仕上がりとなったギュゲスだが、しかし、今一つ売り上げが芳しくない。
 だが、幸か不幸か、他の企業や政府と細いながらも繋がりを確保できたのは幸いと言うべきだろう。


 そのためか、遂に我らがRE社にもISコアとIS開発への参加許可が出た。

 正直言って腸が煮えくり返りそうだが、背に腹は代えられない。
 それに、敵の情報は万金に値する。

 早速最新型のフランス製のラファール・リヴァイブのフレームと装備一式を購入、戦闘用LM試作一号機との性能比較試験を行う事となった。





 三日後、RE社開発陣にはどんよりとした暗い空気が滞留していた。


 理由は簡単で、ラファール・リヴァイブとの性能比較試験でぼろ負けしたからである。
 試作一号機は未だ未完成とは言え、コストや整備性、操縦性以外ではほぼ全負けしたのだから無理もないと言える。
 
 ちなみに、ISの操縦はたまたま警備会社の女性職員に依頼した。
 …ISには不慣れらしいが、強かった。




 社員一同ちょっと折れそうになったが、ここで諦めるつもりは全員毛頭ない。

 
 早速全員で喧々囂々の話し合いがなされ、戦闘用LMの再設計が決定された。

 先ずは機体サイズそのものを5~6mクラスにサイズアップさせ、凡そ全ての性能を向上させる事を目指した。
 
 そして、遂にナデシコ系の重力兵器関連の技術を使用する事となった。

 とはいえ、いきなり小型相転移エンジンとか出してチートとかは不可能である。
 先ずは重力操作技術のノウハウの確保である。
 ダミュソスシステムの御蔭で推進関係は十分なので、今度は兵装面の開発が始まった。

 いきなりディスト―ションフィールドやグラヴィティブラスト等の重力兵器の理論を見せる僕に驚く社員達だが、既に僕の異常性に関しては全員スルー、気にせずに早速仕事に取り掛かった。
 
 
 機体を5~6mにサイズアップしたためか、エステバリス関係の技術をそのままスライドできるため、戦闘用LMの開発は思ったよりもスムーズに進んだ。
 


 だが、ここで問題となったのが機動性である。
 全方位に視界を持ち、全方位に加速できるISを捕えるには、一体どうしたら良いのだろうか?
 
 

 無論、現在開発中の戦闘用LMは既存兵器に対し、圧倒的なものではあるのだが、どうしてもIS]と比べると機動性の面で見劣りする。
 
そこで考案されたのが、重力波推進とジェットエンジンのハイブリット化である。
これはエステバリス空戦フレームにも採用された機構で、加速はジェットエンジンに、浮遊は重力場推進に頼っているのが特徴的だ。
 今回の場合、重力操作による慣性制御を機体だけではなくジェットエンジンによって得た大推力のベクトルを変更させる事に使用する。
 そのせいで重力場推進のエネルギー消費が8%程大きくなってしまったが、これにより第二世代IS相当の機動性、運動性の確保に成功した。

 また、操縦方式をIFSではなくLM―01Aと共通のEOS(イージーオペレーションシステム)を採用した。
 パイロットはコクピット内で専用スーツを装着し、スーツに装備されたハードポイントで機体内部に半ば固定される様に搭乗する。
 なお、この専用スーツはオークと呼ばれるパワーアシストプロテクターを元にしたものであり、人工筋肉の高い衝撃吸収性による搭乗員の保護、高機動戦の際のGの軽減、生命保護機能を備え、水中や宇宙空間でも数時間は生存可能となっている。
 これにより、パイロットに掛かる負担の軽減と安全性の向上を果たした。
 
 後はバグの発見と生産ラインの調整、そしてデモンストレーションが必要だった。




 そして、僕は両親の交友関係を辿り、米国全土で冷や飯どころか空軍から叩き出された漢達に声をかけていった。

 彼らの持つ空戦のノウハウや戦闘経験、操縦技術は戦闘用LM開発にとって必要不可欠なものなのだった。
 今後、実際に戦闘用LMに搭乗するだろう彼らの声はRE社にとって多大な恩恵を与える事だろう。






 そして、雛型が完成したのは半年後。
 各所に調整を繰り返し、遂に戦闘用LMは完成したのだった。


 名称はそのままにエステバリス。
 その性能は現行最新の第二世代ISにも劣らないものとなった。

 全長は約6m、ジェネレーターはやはり非搭載型となったが、コストと整備性、機体重量で優れている。
 その分の機体のエネルギーは要重力波ビームか長期活動用のENパック頼りとされた。
 基本兵装はディスト―ションフィールドとアーミーナイフ、アサルトライフルとなっており、このお陰で機動性、攻撃力と防御力全てにおいてISに劣らないものに仕上がった。
 
 そして何より、十分な訓練さえ積めば搭乗者を選ばないというISとはかけ離れた性質を持つ。



 今日この日、漢達は新たな翼を得て、再び空へと昇ったのだ。
 






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