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No.26763の一覧
[0] 【ネタ】スクライア一の超天才にして、超問題児(リリカルなのは×遊戯王)[じゃっく](2012/01/27 10:11)
[1] スクライアの異端児!その名はバクラ![じゃっく](2011/04/03 10:19)
[2] 石像×盗賊=ジェットコースター[じゃっく](2011/04/08 09:46)
[3] 壮絶火炎地獄!暗黒火炎龍![じゃっく](2012/01/27 10:12)
[4] 雷の悪魔!デーモンの召喚![じゃっく](2011/04/24 14:12)
[5] スクライアの休日[じゃっく](2011/04/24 13:56)
[6] 楽しい楽しい魔法教室!……楽しいか、これ?[じゃっく](2011/05/09 10:55)
[7] 誕生日の意味 前編 [じゃっく](2011/05/02 20:43)
[8] 誕生日の意味 中編[じゃっく](2011/05/09 10:53)
[9] 誕生日の意味 後編[じゃっく](2011/05/20 17:47)
[10] ドキドキ!健康診断!![じゃっく](2011/07/16 09:43)
[11] 盗賊王VS騎士――前哨戦[じゃっく](2011/07/16 09:43)
[12] 盗賊王VS騎士――決着[じゃっく](2011/07/16 09:53)
[13] それぞれの決意[じゃっく](2011/08/05 19:30)
[14] 家庭崩壊の危機!アンナが浮気した!?[じゃっく](2011/08/25 12:31)
[15] バクラが向かう所、常にトラブルの影あり![じゃっく](2011/09/20 22:54)
[16] 大空の戦い!有翼賢者ファルコス![じゃっく](2011/09/20 23:07)
[17] 憧れの二人[じゃっく](2011/10/12 12:09)
[18] アンナが死んじゃう!?[じゃっく](2011/11/21 07:28)
[19] 受難、苦難、遭難?[じゃっく](2011/11/20 18:20)
[20] 新しい命/名前争奪戦[じゃっく](2011/11/28 01:02)
[21] 幸?不幸?烈火の剣精の運命![じゃっく](2012/01/27 10:13)
[22] 嵐の前の静けさ……[じゃっく](2012/01/27 10:15)
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[26763] スクライアの休日
Name: じゃっく◆475fb41a ID:095ee6a7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/24 13:56





スクライア一族。
古代遺産の発掘~時にはロストロギアの発掘まで、遺跡発掘を生業としている流浪の一族。
基本的に、彼らは各世界の遺跡を発掘するため旅を続けている。が、年がら年中旅を続ける訳ではない。
時には骨休みも必要なのは、何処の世界でも同じだ。
今回のお話は、そんなスクライアのある家族の休日から始まる。





ミッドチルダのとある住宅街。
特に大きくも無く、小さくも無く、一家が住むには十分な一軒家。
その二階。
子供部屋でバクラは目を覚ました。

「ふああぁ~~ん……ああぁーーくそぉー」

相当寝起きが悪いのか、かなり不機嫌だ。
大きな欠伸をしながら、ボリボリと頭を掻く。
まだ霞みがかかった目で辺りを見渡すと、時計の針は既に7時を過ぎていた。
そろそろ起きるか。
布団を跳ね除け、ベットから出ようとするバクラ。

「!!つぅ~~!!」

その時、彼の体の節々に痛みが走った。
顰めっ面になり、痛みを発した箇所を抑える。
どうやら、昨日寝た時に変な寝方をしたのか、寝違えたようだ。
ちくしょう。
自業自得ながら、怒りをぶつける矛先がない事に不機嫌さを増すバクラ。
とりあえず、顔でも洗ってスッキリするか。
タンクトップに寝巻用の薄い半ズボン。
一人暮らしの男性の様な格好のままベットから抜け出る。
階段を降り、一階へ。そんなに長くない廊下を渡り、洗面所へと向かう。
ボサボサに何時もより跳ね上がった髪の毛を鏡で見ながら、先ずは歯を磨き始めた。

「じぐじょぉー、ばのグゾジュウが」(ちくしょぉー、あのクソ竜が)

真っ白な髭を泡立てながら、バクラはこの間の遺跡発掘の事を思い出していた。
盗賊の羽衣。
能力は勿論、バクラ自身はこのロストロギアのデザインを気にいっていた。
それをダメにされただけでなく、肝心のお宝も今では価値がない下らない物だったのだ。
バクラの機嫌は、只今急降下中。
おまけに朝の寝起きも相まって、さらに倍率ドンッ!
さらにさらに、寝違えて体の節々が痛く倍率ドンッ!ドンッ!
それはもう、子供が一目見たら泣き叫びそうなほど、洗面台の周りを重苦しいオーラが包みこむほど不機嫌だった。

「あら~?バクラ君、起きたの~?」

声をかけるなオーラを放出しているバクラに、勇敢にも随分と間延びした声で名前を呼び掛ける人が居た。
鏡越しでその人物の姿を確認する。
かなり若く、下手したら10代と間違えられるほどの女性。
ぽやぽや、という表現が似合いそうなバクラと真逆の顔付。
でも、バクラよりも年上で十歳以上離れているこの家の住人。
髪はウェーブがかかった、ピンク色のロングヘアー。
全体的に暖かな空気に包まれ、優しいお姉さん、という言葉がよく似合う。
片手に持ったお玉が容姿と相まって、家庭的なほんわりとする空気が辺りを包みこんだ。
その威力はバクラの不機嫌なオーラを吹き飛ばし、一瞬でこの場を和ませるほどの威力を持っていた。

「おはよう」

「うっす」

片や優しそうな、癒し系オーラ全快のお姉さん。
片や目つきが怖い・口が悪い・粗暴な振る舞いが当たり前、な見事なまでの三連コンボが決まった、お前本当に子供、と疑いたくなるような風貌を持つ男の“子”。
そう、あくまでもバクラは男の“子”なのだ。
同年代の平均よりも遥かに身長が高くとも。
見事なまでに鍛えられた大胸筋や割れた腹筋を持っていようとも。
自分自身で盗賊王と宣言しようとも。
バクラはれっきとした男の“子”で“10歳児”なのだ。
ちゃんと住民票にも登録されているし、スクライアの皆がそれを証明するのだから間違いない。
間違いないのだが、容姿のせいかどうしても年上(老けてるともいう)に見えてしまう。
家庭的な若い女性と、そんな風貌を持つ子供が話してる様は、何処となく変な感じた。

「アルス君はまだおねむ?困ったわ~そろそろ朝ごはんなのに……」

お玉を片手に、その女性は本当に困ったように眉を曲げていた。
可愛い。
見た目や言動のせいか、大人の女性と言うよりも何処となく子供っぽい仕種だ。

「あ!そうだ!」

名案が思い付いたと言わんばかりに、ポンッと手を叩く女性。

「バクラ君、アルス君を起こしてきてくれる~?何時もはバクラ君が起こされているんだし、そのお礼に……ね?」

力が抜ける柔らかい声に眩しい太陽の様な笑顔。
最後に首を傾げたのがチュームポイントとなって見事なコンボを決めていた。
普通の男性ならその仕草にコロッといってしまうが、生憎とバクラにそんなコンボは効かない。
特に動揺もせず、歯を磨いていた。
というより、この女性は何と無駄な時間を費やしているのだろうか。
相手はスクライアの問題児、バクラ・スクライア。
傲慢・強引・自由気まま。
とてもじゃないが人の言う事を聞く人間であるはずが――

「……ばかった」(解った)

なんと、予想に反しバクラは素直に言う事を聞いた!

「お願いね~」

笑顔で間延びした声でお礼を言い、女性は台所へと戻った。

「シャカシャカシャカ……ガラガラガラッ、ぺッ!……ッ!つぅ~……いってぇな」

激痛ではない僅かな傷み。
それでも時々体に走るのは正直鬱陶しい。
コキコキッ。
軽く肩を慣らしながら、洗面台の引き出しからタオルを取り出す。
手で受け皿を作り、冷たい水で顔を洗う。
サッパリ爽快。
ぼやけていた視界が一気にクリアになった。

「ふぅ~、さぁて……さっさとアルスでも起こして、朝飯でも喰うか」

先程の女性に言われた通り、アルスを起こし二階へと向かうバクラ。
途中、女性の鼻歌に混じって良い匂いが彼の鼻孔を掠めた。
グー。
生き物とは不思議だ。
昨日、あれほどたらふく食べたというのに、もう次の日には腹が空いてしまう。
早くこの腹の虫を静めてやるとするか。
バクラの足取りが自然と速くなった。

「あ……バクラ兄さん、おはよ~う」

パジャマ姿のユーノが挨拶をしてきた。
ゴシゴシと目を擦る姿は、何処となく小動物を思わせる。
ショタ+可愛い+上目づかい。
などという、一部の人にはとてつもない破壊力を生むコンボだ。
注意点として、見た目は女の子にも見えるが、これでも立派な男の子なのであしからず。

「うっす」

言葉短しに挨拶を交わし、階段を昇っていく。
子供部屋。
先程まで自分が寝ていた部屋の扉を開ける。

「くーかーくーかー」

同居人の静かな寝息が聞こえた。
二段ベット。
上はバクラが使い、下はアルスが使っているのだ。

「起きな」

乱暴にアルスを起こそうとするバクラだが、一向に反応なし。
当の本人は幸せそうに夢の中に旅立っていた。

「おい!さっさと起きろ!」

目の前の男を起こさなくては朝ご飯にありつけない苛立ちから自然と声が大きくなっていた。
しかし、やはりアルスに起きる気配は全くない。
布団を剥ぎとる。
普通此処まですれば大抵の人間は起きるが、アルスは起きない。
どうやらかなり深い眠りについているようだ。

「めんどくせぇな」

アルスの容姿は正直かなり整っている。
鮮やかなライトブルーの髪に、白い肌。
年上に可愛がられる弟タイプと言った所だろう。
肌蹴たパジャマの間から鎖骨が何気にセクシー。
ユーノの時と同じく、その手の人から見たら生唾物の光景だ。
が、当然の如くバクラにそんな趣味があるはずも無く、拳を硬く握りしめ大きく振り上げ――

「さっさと起きやがれぇ!!」

一気にアルスの腹へと落とした。
さて、ここで魔導師について少しだけ説明しよう。
魔導師とは絵本で言うならば、魔法使いの事だ。
魔法使いとは魔法を使う事が出来る人間を指す。
勿論、アルスもその魔導師であるのだから魔法を使える。
しかし、いくら魔法を使えるとはいっても流石に寝ている間は普通の人間と同じだ。
身体強化も防御魔法もかかってはいない。
つまり、何がいいたいかと言うと――

「~~~!!あぁ~~~!!あっご…!……!!うがぁ~~!!!」

そんな所に拳を、しかも腹に撃ち込まれたら物凄く痛い。

「漸く起きたか。さっさと来な、飯が食えねぇだろうが」

目の前で悶絶する幼馴染を見ても、バクラには一切の罪悪感はない。
淡々と要求だけ告げて、俺には関係ないぜ、と言わんばかりに部屋から出て行こうとした。
しかし、当然のことながらアルスは、はいそうですか、と許せるものではない。

「ちょっっっっっっと待たんかああぁぁーーーいいいぃ!!!」

怒号と共に、アルスはベットから弾かれたように飛び出てバクラに襲い掛かった。
残念だが、その攻撃は読めている。
後ろから襲い掛かってくる飛び蹴りを避けるバクラ。
そのままアルスは部屋の外に向かい、壁を蹴って止まった。

「朝っぱらから騒がしいんだよ、てめぇは」

100人中100人が口を揃えてバクラが悪いというこの状況。
なのに、まるでお前朝からご近所の皆さんに迷惑かけるな、とアルスの方が悪いと言ってるような態度。
ブチッ!
アルスの方から何かが切れる音が聞こえたのは、決して気のせいではなかった。

「だあぁ~~れえぇ~~のおぉ~~せえぇ~~いいぃ~~だと思ってるんだ!!」

「誰のせいだ?」

「お前だ!そこに居るお前!髪の手入れも碌にしてなくて、殺戮者みたいな凶暴な目をして、名前が“バ”で始まって“ラ”で終わる人!!」

第一次朝の戦争勃発。

「たくっ、うっせーな……起きねぇお前が悪いんだよ」

「あんな起こし方があるか!何、アレ!?
寝ている無防備な相手のお腹を握り締めた拳で殴る起こし方って!!?世界中探したって、こんな起こし方する人はいないよ!」

「解らねーぞ、次元世界を隅々まで探せば実際に居るかもしれねぇじゃねぇか」

「屁理屈はいい!今の議論は、何故そんな起こし方を俺にするかって話し!?
もっとこうさ、優しく起こそうとは思わないの!!?せめて体を軽く揺らすぐらいに留めておくとか出来ないの!!?」

朝の不機嫌な所に一方的に怒鳴られたせいか、バクラの不機嫌パラメーターはさらに上昇した。(もっとも、それはほとんど自業自得だが)

「チッ!いちいちつっかかんじゃねぇよ!」

「誰のせい!誰のせいなの!?俺だってお前が大人しくしてれば、こんな風に怒ったりはしないよ!!ねぇ解ってるの!?」

「あー……解った解った、解ったからさっさと道を開けな」

100%解っていない。
早く朝ご飯を食べたい一心で道を開けるよう要求するバクラ。
アルスの頬が一目でわかるほど、ピクッピクッ、と痙攣を始めた。

「嫌だ!」

「あぁ?」

「お前が謝るまで、退いてやんない!」

バクラを通さないように、部屋の入り口で仁王立ちをする。
こんな事をしたら、自分も朝ご飯にはありつけないかもしれない。
でも、それでも男には時として譲れない物があるのだ。
アルスは今、その譲れない物のために戦う事を決意した。
まぁ、要するに相手が謝るまで絶対に許さないと言う事である。
普段は大人っぽいアルスだが、流石に怒っているのか子供らしく頑固な面を見せた。

「退け」

「嫌だ。先ずは謝れ」

バクラがどんなに退くよう言っても、アルスは一向に拒否。
頑固して道を譲ろうとはしなかった。
右に移動する。アルスも同じように右に移動した。
ならば左。しかし、またもやアルスも左に移動して出口を塞がれてしまう。
右、左、右、左、右、左……………………ブチッ!
バクラの不機嫌パラメーター遂にMAX。

「さっさと退きやがれぇ!喰いモンにありつけねぇだろうがぁ!」

「逆切れ!?逆切れなの!!?訳わかんないから!」

訳が解らない。確かにその通りだ。
確実にバクラが悪いのだが、残念ながら不機嫌MAX状態の彼にはそんな常識はない。
退かないなら、無理やり退かすまで。
足腰に力を入れ、アルスよりも鍛え抜かれた肉体をフルに利用し、無理やりにでも突破しようとする。

「そっちがその気なら……俺だってやってやる!」

体当たりを仕掛けてきたバクラを見て、アルスにも火がついた。
自慢の頭をフル回転させ、一番有効的な技を導き出す。
体格なら自分よりも相手の方が遥かに上。
まともにぶつかれば、負けるのは目に見えている。
ならば、とアルスはバクラが迫って来たと同時に屈み込んで一気に体勢を低くした。
そしてタイミングを完璧に合わせ、バクラの足払いを仕掛け体勢を崩した。

「ッ!!」

タイミングの合わせ方、そして一連の流れる動き。
全てにおいて完璧だった。
反応が遅れ、宙へと舞うバクラ。そこにさらに追撃を仕掛ける。

「はぁッ!」

丹田へと力を込め、足を踏みしめて重心を定め、一気に突き上げるように腹部へと掌底を撃ち込んだ。

「ぐふっ!」

肺から空気が漏れ、部屋の中へと押し戻されるバクラ。
ゲホッ、ゲホッ、と咳払いをしながら腹部を抑えた。

「げふ……あぁっがっふ……フフフッ……よぉ、何時の間にこんな技を身に付けたんだ?」

「族長やレオンさんに、時々稽古をつけて貰っていたんだよ。
いざという時にある程度の格闘戦も出来るようにな。体力も鍛えられるし。
もうお前に、肉弾戦で一方的に負けることはない。成長してるのは、お前だけじゃないないんだよ!」

「クックックッ……ヒョロヒョロのモヤシだったガキが……中々楽しませてくれるじゃねぇか」

「ガキっていうけどな、お前も俺と同じ年だ。体格や顔が明らかに年齢にそぐわないのは認めるけどな」

互いに言葉を交わしながらも、ジリジリと相手との距離を縮ませていく。
カチカチ。
時計の針が時を刻む音が聞こえるほど、この場は静まり返っていた。
目と目が合う。
同時に二人は悟った。
この男には言葉では通じない。拳だけが唯一通じるものだと。
ならば、その拳で語ろうではないか。
同時に駆けだすバクラとアルス。
互いに信念を込めた拳を振り上たその時――

「なぁに!朝っぱらから、物語の最後に主人公とライバルが激突する様な場面をやっとるんだ!己らはッ!!」

「がっぐ!」

「うが!」

レオンの拳骨により、強制的に止められた二人だった。




朝の食卓。
普通だったら一日の初めのエネルギーを取り入れ、家族と談話する楽しい場面。
しかし、この家族の食卓の空気は少しだけギスギスしていた。

「……………」

「……………」

無言のまま朝ご飯を食べ進めるバクラとアルス。
その頭には立派なタンコブが出来ていた。
朝の食卓に漂う不穏な空気の原因は、言わずとも知れたこの二人である。
確かにあの時の自分達は止めるには、あの方法が一番だった。
それは納得できる。
近所の迷惑も考えて、少しばかりお灸を添えるのも頷ける。
が、やはり完全に納得は出来ていないのか、二人とも仏頂面のまま朝ご飯を食べていた。
しかも、席が隣同士。
互いが放つピリピリとした空気が混ざり合い、二倍にも三倍にも空気の濃度を高めていた。

「レオンさん、ケチャップを取って下さい」

「ああ、解った。……ほれ」

「ありがとうございます」

一方、バクラ達の席の対面では実に和やかなムードが漂っていた。
レオンに取ってもらったケチャップをウィンナーにかけるユーノ。
二人とも、こんなギスギスした空気の直ぐ側に居るというのに、何処も変わった様子はない。
何事も無いように、まるで親子の様な会話を交わしながら朝食を食べていた。

「あ、このドレッシング美味しい」

「本当だ。これお前のオリジナル?」

「はい、そうですよ~。今回のは今までの中で一番の自身作なんですよ」

右にバクラ、アルス。左にユーノ、レオン。その間に挟まる形で、先程のピンク髪の女性が座っていた。
変わらずニコニコ顔で、自分が作ったドレッシングが好評だったのに素直に喜んでいる。
やはりユーノ達と同じく、バクラ達の事は特に気にしていない。
右はギスギス、左+上はほんわか。
他人から見たら、何この家族!、とツッコミを入れられそうだ。

「……………!!」

「……え~と、マーガリn!」

トーストを片手に取ったバクラとアルス。
マーガリンでもつけようかと思ったが、二人とも全く同じタイミングで手を伸ばした。
肝心のマーガリンは一つしかない。
必然的に二人は取り合う形になってしまった。

「バクラ~…手、退けてくれない?マーガリン、つけられないんだけど?」

「てめぇが退けな。俺の方が速かった」

「いーや、俺の方が一秒速かった」

「ケッ!寝言言ってんじゃねぇよ、俺の方が二秒も速かったぜ」

「間違えた、三秒だった」

「おっと、いけねぇ。二と四を間違えていた」

第二次朝の戦争勃発。

「お前、甘いの好きだっただろ~?わざわざマーガリンじゃなくてもいいじゃん。ほら、チョコレートでもつけて食べてろよ。
その真っ黒な思考で埋め尽くされた脳には、同じように黒い糖分がお似合いだぞ」

「ならぁ、てめぇみてぇな、少しでも力を入れればグチャグチャになっちまう様な軟な脳には、イチゴジャムがお似合いだ。
ほら、ちょうど色も人間の頭を潰した時と似てるぜ」

笑顔。しかし、決して目は笑ってはいない。
言葉こそは柔らかいが、とてつもなくドクドクしい真っ黒な感情を込めて、言葉のキャッチボールをする。
バチバチ、と火花が飛び散るほど互いの顔を睨みつける両者。
朝の決着がつかなかった分も合わさり、さらに険悪なムードになる。
離せ。
てめぇこそ離せ。
お互いに目で言い合ってる内に、二人の手はマーガリンから離れて自然に組み合っていた。
メキメキ、とでも聞こえそうなほどお互いの手に力を入れ、爪を喰い込ませる。
そして、二人のリミッターが一気に爆発しようとしたその時――

「はい、どうぞ~」

同時に、二人の目の前にマーガリンが塗られたトーストが差し出された。

「……あ、あぁ」

「…えっと……ありがとうございます」

トーストを差し出したのは、この中での紅一点である女性。
ニコニコ。

突然目の前に目的の物を差し出されたのと、怒るのがバカバカしくなるほどの笑顔を見せつけられ、すっかり毒気が抜けてしまう二人。
間の抜けた顔のまま受け取り、トーストを齧りだした。

「二人とも~、元気なのはお姉さんも嬉しいけど、あんまり元気すぎるのも困るな~。皆仲良く……ね♪」

「……チッ……解ったよ」

「すいません……」

バクラは舌打ちを打ちながら、アルスは肩を落としながら、二人とも納得してくれた。
朝の食卓。
険悪なムードが取り除かれ、普通の家族へと戻る。
良かった、と心底安心したように女性はその様子を笑顔で見つめていた。


スクライア一族は基本的に遺跡発掘を生業としている。
そのためか、小さい頃から影響を受けた子供達はほとんどが一族に残り遺跡の発掘を生業とする。
しかし、人の夢は千差万別。
中には一族を抜け、アルスが目指す先生の様に外へと就職する者も居る。
特にそれを止めはしない。
寧ろ今の時代だと、若い内に外へと出て様々な経験を積んだ方がいいというのが一族の方針だ。
それでも、ほとんどが一族に戻ってくるのだから、皆にもスクライアの血が流れている証拠だろう。
学校なり、就職なり、外へと向かえば当然出会いもある。
友達から恩師、さらには恋仲になり夫婦になる者まで。
実際、スクライアの中には外から嫁、または婿に来た人。若しくは、外に嫁いだ人もいる。
このピンク髪の女性もそう。
アンナ・L・スクライア。
名前から解る通り、一族以外からスクライアに嫁いできた女性である。
ちなみに、結婚相手はレオン。
この家の家族構成は、レオン、アンナ、バクラ、アルス、ユーノ、の計五人。
その中で、血が繋がっているのは誰一人としていない。
レオンとアンナは他人同士が結婚したため当然だが、他の三人には親はそれぞれ別にいる。
しかし、バクラは捨て子、ユーノもそうだ。
本当の親の手掛かりは、今まで一切攫めていない。
唯一アルスだけはちゃんとしたスクライアの親が居たが、小さい頃に事故で二人とも亡くなってしまった。
そこで引き取ったのが、レオンとアンナの二人だ。
血こそ繋がってはいないが、普通の家族の様に良好な関係を築けている。
スクライアの人が遊びに来た時は特に驚いていた。
あのバクラでさへ素直に言う事を聞いているのだ。驚くのも無理はない。


外から嫁いできた人やユーノみたいな子供もそうだが、基本的にこのような人達はあまりスクライアのキャンプ地に長く留まらない。
子供は遊びに来るまでならいいが、流石に発掘には連れていけない。
危ないし、何よりも学校だってある。
科学や魔法技術が進んだミッドチルダだが、子供の教育方針は他の世界とほとんど基本は変わらない。
スクライアのキャンプ地から直接通うよりも、次元世界のちゃんとした生活設備が整っている所で暮らした方が色々と都合がいいのだ。
ユーノ自身はまだ学校には通ってはいないが、それでもまだ4歳児。
発掘に加わるのはまだまだ早過ぎだし、長旅をしてると如何しても疲れ果ててしまう。
そんな時は、家に帰ってゆっくりと休んで貰った方がいい。
大人達も、羽を休める家庭がある方がホッとする。
羽を休める場所が一族の中にあろうとも、外にあろうとも、それは変わらないのだ。
もっとも、ユーノの場合は見た目と反して中々タフで、週4~5はスクライアのキャンプ地に泊るのだから、ほとんど一族のキャンプ地で育ってるようなものだが。
そして、アンナの様に外から嫁いできた人。
勿論、外から来たといって蔑にする人は一族の中には居ない。
居ないのだが、なにぶん小さい頃から一族で育った人と一族以外の人では基本的な体力は違う。
科学が進んである程度便利になったとはいえ、やはりミッドチルダなどで育った人には中々キツイ物がある。
一族に食事を作りに行ったり、家事全般も手伝う事はあるが、流石に長い間旅をしてると体調が崩れてしまう事も少なからずあった。
だったら、自分は帰ってくる場所を守ろうというのがアンナの考えだ。




朝食終わり。
アンナは台所で、皿洗いをしていた。

「バクラく~ん、お皿持ってきてくれる」

「……ほらよ」

「ありがとう♪」

仏頂面ながらちゃんと皿を持って来てくれたバクラに、お礼を言うアンナ。
割れないように皿を置き、バクラは部屋へと帰っていった。

「……………」

「うん?どうした、ユーノ?ボーっとして」

「いえ……なんか、バクラ兄さんが当たり前な事をやってると、凄く不思議な感じがして」

「あぁー……まぁ、そうだろうな」

その意見には100%同意だ。
バクラの事を表面上しか知らない人間が見たら、確かにあの場面は驚くだろう。
管理局で噂されている盗賊という名の侮蔑の称号。
そんな人間が、あんなか弱い女性の言う事を聞くなんて。
母は強し。
昔から言われてきた事だが、バクラとアンナの関係を見てると本当の様に思える。
実際、何故かアンナの言う事だけは昔から素直に聞いていた。
アンナはスクライアの中で、バクラの手綱を握れる数少ない人物なのだ。

「あ~あ~、せめてその半分でも、俺の言う事を聞いてくれないもんかな~」

ぶつくさと文句を言いながら、新聞を読み始めるレオン。
一応まだ若いのだが、見た目は同年代と比べるとどうしても老けて見える。
要するに、オヤジ臭い。

「おい……今、なんか変な事考えただろ?」

「あ……あははははっ」(流石バクラ兄さんの育ての親。同じくらい鋭い)

こうして、バクラ達一家の朝は過ぎていった。




午後。
昼食も終わり、各々好きな時間を過ごしていた。
レオンは仕事関係で管理局へと出向き。
アンナは掃除、 バクラとアルスは部屋に籠って何かをしていた。
そして、ユーノは一人で読書に勤しんでいた。

「古代において、旧ミッドチルダ、古代ベルカ問わず質量兵器が主に兵器として使用されていた。
しかし、その危険性故に今ではほとんど使われておらず、許可された極一部にしか使用は認められていない。
今のミッドチルダ、及び管理世界ではクリーンなエネルギーである魔法が主に使用されている……」

訂正。もはや読者ではなく、ほとんど勉強だ。

「えっと……これって?」

読み進んでいくと、自分の知識では理解しきれない文面に辿り着いた。
こういう時はアルス兄さんに頼もう。
ユーノは本を脇へと抱え、アルス達が居る二階の子供部屋に向かう。
コンコン。
扉を叩き、声をかける。

「兄さん、入っていい?」

「ユーノか?いいぞー」

アルスのお許しが出た所で、扉を開け中へと入る。
自分の兄二人は、それぞれの机に向かって何かをしていた。

「アルス兄さん、ちょっと教えてほしい所があるんだけど」

本を差し出しながら、先程の場所を指差す。
良いぞ。
アルスは弟のお願いを快く聞いてくれた。

「ちょっと待ってろ。今すぐ片付けるから」

机の上の片づけを始めるアルス。
教科書やら、専門書など、ユーノから見ても難しそうな本が並んでいた。
どうやら、アルスも何かの勉強をしていたようだ。

(バクラ兄さんは、何をしてるのかな?)

気になり、もう一人の兄の方を見つめた。

「バクラ兄さん、何をしてる……って、うわ凄!」

思わず声に出して叫んでしまった。
バクラの机の上。
そこには、黄金で造られた腕輪やネックレス、宝石が散りばらまれた装飾品の数々、その他諸々。
一目で解るほどのお宝が、所狭しと並んでいた。

「あん?……あぁ、なんだユーノか」

今初めてユーノの存在に気付いたバクラ。
手に握られている如何にも高そうなネックレスとルーペ。
察するに、お宝の鑑定に集中して、ユーノが入ってきた事に気付かなかったようだ。

「兄さん……どうしたのそれ?」

「……あいつを見な」

唖然としながら問いかけてくる弟に対し、バクラはある場所を指差した。
部屋の隅のハンガーに掛けられた一枚のボロ布。
ほとんど見る影はないが、間違いない。
あの赤いジャケットは、バクラが好んで着ていたロストロギア――盗賊の羽衣だ。

「見ての通りさ。あの炎の龍のおかげで、俺様の盗賊の羽衣があんな姿になっちまったからな。
新しく仕立て直すためには、専門の店に頼むしかねぇ」

「で、今は店に頼む前に、自分が回収したお宝を取り出して、鑑定をしていたってわけ」

バクラの言葉を、片づけが終わったアルスが引き継ぐ。

「というかお前な、そういう事はちゃんとした人に頼めよ。わざわざこんな所でやんないで」

「うるせぇな、仕方ねぇだろ。今月の収穫は足りねぇし、爺さんとベルカの奴らのおかげでクルカの金貨を全部持っていかれちまったんだから。
……チッ!今思い出しても、面白くねぇ!」

「いや、持っていかれたって……あれはお前が全面的に悪いだろ、普通に考えて」

半目でバクラの背中を見つめるアルス。
ベルカの墓荒らし事件。
下手したら犯罪者になる所を、謝罪金で済ませてくれたのだ。
感謝すべきなのはこっちなのに、この態度。
こいつ、将来管理局に捕まるんじゃね。
今さらだが、幼馴染の行く末を心配したアルスだった。

「うわ~~」

兄の心配など、なんのその。
ユーノはただ純粋に目の前の宝に目を奪われ、感嘆の声を漏らしていた。
綺麗。
細部に渡るまで丁寧に造られ、職人技を感じさせる装飾品。
キラキラと金色に輝く黄金。
七色の輝きを発する、色とりどりの宝石。
それら全ての輝きは、4歳児のユーノにとっては見た事がない、魅力的な色に見えた。
金銭的価値など無視し、純粋に綺麗と褒めるユーノ。
この千分の一でもいいから、是非とも兄にも純粋な心を取り戻して欲しい物である。
恐らく、というか絶対に無理だろうが。

「しかしもまぁ、本当によく集めたよな」

経緯はどうあれ、此処まで集められたその技能には純粋に称賛する。

「一体どれぐらいの価値があるんだ?」

何気なく質問したアルスだったが、バクラの答えは自分の遥か上を行っていた。

「別に大した程じゃねぇ。ざっと見積もっても、30億ぐらいの価値しかねぇよ」

ピキーーーーーン。
固まった、それはもう盛大に固まった。
今この男は何と言った。三十億?ははははっ、そんなバカな。
否定したい。しかし、目の前のお宝を見る限り否定できそうにもない。
実際、バクラが鑑定してるお宝の中には、本にも載っている様な古代王家の紋章が刻まれている物が幾つかあった。
本来の黄金や宝石の価値。それに文化的価値を含めれば、確かにそれぐらいの値段はするかもしれない。
30億。
つまり、3000000000。
うわ~すごーい!0が九つもある。

「「って、えええええええええええええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」

見事にハモった兄弟二人。

「ッ!!んだよ、うっせーなぁ」

あまりの大音量に顔を顰め耳を防ぐバクラ。
鼓膜が痛い。それほどの声だった。
近所迷惑と思われるかもしれないが、アルス達の驚きは当たり前である。
30億。
これがどれほどの価値があるのか、単純な算数を出来る者なら理解できる。
しかも、それを持っているのが直ぐ目の前の親しい人物だったのだ。
寧ろこれで驚かない方がどうかしてる。

「さ、さささささっ、三十億って!」

「す、凄い!凄いよバクラ兄さん!」

アルスは戦慄を覚えながら、ユーノはただ純粋に目を輝かせながら、バクラを見つめていた。

「……どうした?そんな顔して?」

「そんな顔ってな……こんな顔にもなるわ!」

自分がどんな顔をしてるのかは見えないが、簡単に想像はつく。
それだけ、バクラのカミングアウトは衝撃的だったのだ。

「お前、何時の間にそんなに貯めていたんだよ!ま、まさか!?……やったんじゃないだろうな?」

「残念だが、してねぇよ。つぅーか、したくてもできねぇんだよ。どんなに精巧に隠しても、必ずジジイやレオンにはバレやがるんだからな」

どうやら、墓荒らしや盗み、不正の所持はしてないようだ。
良かった。ホッと一息をつくアルス。

「だったら、何でそんなに貯められたんだよ」

アルスの質問に、バクラは眉を曲げた。

「あぁ?当たり前だろ。俺様は7歳のガキの頃から発掘に加わってるんだぜ。この程度、集められて当然だ。
寧ろ、これだけの時間を使って、たったこれだけしか集められなかった自分が不甲斐無いぜ。クソがッ!」

単純に計算する。
年収1000千万の人がいたとしよう。
普通に考えても、これだけ貰えれば十分にエリートと呼ばれるほどの稼ぎだ。
バクラが7歳の頃から集めたとして。
もう直ぐ11歳の誕生日を迎える事を計算に入れても、約4年間。
4年で年収1000万の人は、4000万のお金を稼いだ事になる。
それに比べ、バクラは4年間で30億。
一年間で、7億5000万を稼いでる計算になる。
これだけ稼いでも本人は自分の事を不甲斐無いという。
しかも、嫌みで言ってるのではなく、本当にまだまだ満足できていないのだ。
盗賊王。
確かにこいつなら、そう呼ばれても不思議ではないかもしれない。

(不甲斐無いって……それだけ稼げば、もう十分だろ。というか、少しだけ羨ましい)

全世界の人間の気持ちを代弁したアルスだった。

閑話休題

色々と衝撃的な事実が判明したが、とりあえず落ち着きを取り戻したアルスとユーノ。
当初の目的通り、アルスに勉強を教えて貰っていた。

「つまり、古代ベルカの戦乱を治めたのが、今の聖王教会の信仰の対象となっている聖王と呼ばれるベルカの王様。
その最大の特徴は、カイゼル・ファルベと呼ばれる虹色の魔力光。
この特殊な魔力光は、今のミッドチルダ式の魔導師にもベルカ式の騎士にもみられない現象で、聖王の血統にしかみられない現象だったそうだ」

「へぇ~、でも、何で虹色?」

「う~ん、そこら辺はまだ詳しい事は解ってないけど。一説によるとだな、虹色って一般的に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色を指すだろ?」

「うん」

「その全ての色は、他の魔導師の魔力光の元となる色。つまり、聖王はその全ての魔力光を持つという事になる。
魔力光ってのはその人の本質を現す色とも、魂の色とも言われてるからな。
その全ての魔力光を合わせ持つ、虹色の魔力光を持つ聖王こそがこの世の支配者、って要するに自分こそがこの世界の神様だと宣言したかったそうだ。
まぁ、事実は解らないけどな。実際、虹色に当てはまらない色を持つ魔導師が直ぐ近くに居るし。
多分、昔の人の宗教的概念を利用して、統治をスムーズにするためにこんな噂を流したんじゃないかな」

「へ~、そうなんだ」

弟に勉強を教える兄。一般的に極ありふれた光景だ。

「……うん?……チッ、肝心のサファイアに傷がついてやがる。そういやぁ、こいつを見つけた時に変な獣に襲われたな。
あの時は機嫌が良かったから見逃したが、やはり殺っておくべきだったか。
まぁ、今さらそんな事言ってもしゃあねぇ。
幸い、王家の紋章は無事だ。クライアントとの交渉しだいで、どうとでもなる。……さて、次は」

此方も極ありふれた(本人達にとっては)光景だ。
バクラ、アルス、ユーノ。
三人の兄弟の午後は、こうして過ぎていった。




夜。
どんなに騒がしい日でも、必ず終わりは訪れる。
バクラ達は皆で集まり、夕食を食べていた。

「はい、それじゃあ……いただきま~す」

アンナの掛け声により、一斉に食事を開始する一同。
今日のメインディッシュはステーキ。
それも、アンナが皆に力を付けて貰おうと考えたのか、かなり上等な物だ。
鉄板の上で肉汁が跳ねるジュー、という音が何とも食欲をそそる。
しかし、アルスはナイフもフォークも取らず、唖然としながら目の前の物を見つめていた。

「あら~?どうしたの、アルス君?お肉、嫌いだった?」

何時までも食べようとしないアルスが心配になり、問いかけるアンナ。

「いえ……嫌いじゃないですけど。……アンナさん、これって」

アルスは唖然としたまま、目の前で山積みされているそれを指差した。

「あ~……ふふふっ、実はね。今日、近くのお菓子屋さんで特売をやってたの。
アルス君もバクラ君もシュークリーム大好きだったでしょ。
だから、お姉さん奮発しちゃった♪」

「奮発したって……買いすぎでしょ、これは」

テーブルの中央に並べられた三枚の大皿。
その全てに、甘くて美味しそうなシュークリームが山の様に積み上げられていた。
確かにシュークリームは自分も大好きだが、流石にこれは少し引いた。
とはいっても、大好きなのには変わりないので一つ取って食べるアルス。

「ハム……うん、やっぱり美味しい」

甘く、上品な味わいが口の中一杯に広がった。
頬を緩ませながら、パクパクと食べ進めるアルス。

「アム……ハムハム」

ユーノも同じく、一つだけ手に取り食べ始めた。
まだ小さい口では一度にほうばる事は出来ず、少しづづ食べ進める。
可愛い。
小動物が食べている様で、物凄く微笑ましかった。

「あなたもどうですか~?」

「いや、俺はいい。甘い物は苦手だし」

「そうですか~、折角買ってきたのに~」

ションボリと肩を落とし、落ち込むアンナ。
そんな姿に罪悪感を感じたのか、レオンは急いで口を開いた。

「あ~、解った解った。それじゃあ、一つだけ貰うよ」

「はい、どうぞ♪」

先程の落ち込み様な何処にいったのやら。
一瞬で笑顔に戻り、レオンに手渡した後、自分も食べ始めた。
そして、バクラは――

「ガツガツ、ガツガツ」

此方は他と違い、一心不乱にシュークリームを掻き込んでいた。

「お前な……もう少しお淑やかなに喰えよ。というか、シュークリームでガツガツって」

「モグモグ…ゴックン……うるせぇな、どう喰おうが俺様の勝手だろ」

シュークリームを掻き込むのを止め、今度はフォークを持つバクラ。
ステーキの中心にフォークを突き立てる。
そのまま、ソースが付いた肉の塊を持ち上げ――

「はっぐん!」

ナイフで切る事無く、豪快に噛みつく引き千切った。

「汚なッ!!」

当然、そんな事をすれば隣に居るアルスにソースが飛び散る。
慌てて回避するアルス。
バクラに非難を送るが、完全無視。口の中の肉の塊を歯で噛み千切っていた。

「モグモグ……血が足りねぇ」

「あら~?もしかして、焼き過ぎちゃった?」

「ああ、レアよりもミディアムに近い。気をつけろ、アンナ」

「……うぅ、御免ね~。バクラ君」

(いや、アンナさん!違うでしょ、先ずは注意しなくちゃ!)

あまりにも微笑ましすぎるやり取りに、思わずツッコミを入れるアルス。
バクラの蛮行を止める神は居ないのか。
絶望し頭を抱えたその時、再びアンナの口が開いた。

「だから~、バクラ君も食べ方には気をつけようね~。お姉さんも、これから気をつけるから……ね?」

「…………チッ!解ったよ」

相変わらずアンナには弱いらしい。
素直にステーキを鉄板の上に降ろし、今度はナイフで切って食べ始めた。



「ふふふふふっ」

「うん?どうした、アンナ。そんなに嬉しそうにして」

「え?……ふふふっ、人の縁って不思議だな~と思いまして」

優しい瞳で目の前の家族の姿を見つめるアンナ。

「はっぐ」

「って、バクラ!それ、俺の!!」

「モグモグ…ゴックン。ふぅ~、別にいいだろ。たかだか、一個のシュークリームでガタガタ騒ぐんじゃねぇ」

「一個ってな、チョコレートのはそれが最後だったんだぞ!確かに朝、チョコレートを喰えって言ったけど、何もこんな時に実行しなくていいじゃんか!!
というか、それ!後の楽しみに俺の皿に乗せていた奴じゃん!盗るなよ!!」

「隙を見せた、てめぇが悪い」

「くうぅぅ……あ、朝だけじゃなく夜までえぇ。うぅ……い、今すぐ魔力弾を放ちたい自分が居る。し、静まれ。静まるんだ、俺の右腕よぉ」

「あ、あの。アルス兄さん、良かったこれ食べて。僕、もうお腹一杯になっちゃったし」

「ユ~ノ~、お前はなんて優しんだ。是非ともその心を忘れず、真っ直ぐな子に育ってくれよ」

「はっぐ!」

「「あっ」」

「モグモグ…ゴックン……ぷは~、喰った喰った」

「(ブチッ!)……おぉ~~のぉ~~れぇ~~はぁ~~そんなにまでして、俺に喧嘩を売りたいのか?だったら……望み通り、買ってやるよッ!!」

「ひぃ!アルス兄さんが、悪魔化してる!?」

「クククッ……ちょうどいい。腹ごらしに相手をしてやる」

「あうぅ~、バクラ兄さんもすっかりその気になっちゃってるし……」

「アルスッ!!」

「バクラッ!!」

「うわ~ん!二人とも~、喧嘩はダメー!」

騒がしくも、何処か暖かいやり取りを見つめるアンナ。

「バクラ君は最初、私達に心を開かなかったのに、今ではこんなにも感情を表に出してくれる。
アルス君もユーノ君もそう。
普段は大人っぽいのに、この家に居る時は普通の子供と同じ。
皆、本当の家族の様に振舞っている。
性格も、考え方も、話し方も、生まれた場所も、皆違う他人なのに、こんなにもお互いの本音をぶつけられる。
うふふふっ、あの子たちを見てると、人の縁って本当に不思議ですね」

「そうだな。でも、“あの子達”じゃないだろ」

「え?」

夫の意外な言葉にレオンの方を振り向くアンナ。

「“俺達も”だろ」

笑顔で告げるレオンの言葉にアンナは一瞬呆けた後――

「はい、そうですね♪」

眩しいほどの笑顔で答えた。




こうして、スクライアのある家族の休日は過ぎていった…………









難しい……前回までは、発掘やバトルがあったので盗賊王らしさを考えるのは苦にならなかったんですが。
今回の様に日常風景だと、盗賊王バクラの喋り方とか過ごし方とかが想像できない。
違和感はなかったでしょうか?

スクライアって、発掘がない時はどうしてるんでしょね?
まさか、一年発掘作業をしてるんですかね?
それとも、あの世界は転送魔法があるぐらいだから、専用の装置でも持っていて普段はミッドチルダの家なんかに帰ってるんですかね?
詳しい資料がないので、勝手に想像しました。
変な所があれば、教えて下さい。

オリキャラとバクラの関係ですけど……バクラって、年上の優しいほんわかお姉さんに弱いと思いません?
いえ、作者の勝手な想像ですけど、何となくそんな感じがしまして。

最後に、シュークリーム。
物凄く違和感がありますが、一応宿主である獏良了の好きな食べ物がそれですから。
なので、盗賊王が好きな食べ物はシュークリームとステーキとさせていただきます。
ステーキは、アニメのあの場面が衝撃的だったので。


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