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No.26677の一覧
[0] 【ネタ】無菌のFATE[武田だるま](2011/03/26 10:43)
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[26677] 【ネタ】無菌のFATE
Name: 武田だるま◆5e0cab55 ID:b7c96053 次を表示する
Date: 2011/03/26 10:43


 8月13日、日曜日。午後3時3分。世界は正気にかえった。

 某和風屋敷。セイバーの部屋にて。

「っ! シロウ! リン!」

 和式の部屋に奇妙なほどとけ込んでいる西洋人女性が、突然、何か重大事を見落としていたかのような緊迫した顔をして、知人の名前を叫びながらその部屋を飛び出した。
 彼女はよほど慌てていたのか、西洋式の甲冑まで着こんで、さながら戦場で奇襲を受けた武士と見紛う気迫である。

 ―――セイバーの認識では、まさしく奇襲を受けている状況だった。主の心配を一心に、可能なかぎり早く傍に駆け寄ろうとしている。

 しかし、依然、屋敷の中で異変が起こった様子はない。音がした訳ではない。光が眩んだわけでもない。異常のない日常の中、彼女だけは何か攻撃的な意志を感知し、それに反応していた。

(――何かを弾いた。魔術的な何か……。私にはきかなかったが、シロウやリンには……!)

 疾走した先は、この屋敷の居間。今の時間帯なら台所にいるだろう、と思って飛び込んだ先だった。休日なのでリンやサクラだって一緒かもしれない。そして彼女は、部屋を飛び出してから10秒もしない内に居間へと続く引き戸の前にたどり着いた。

「シロウ!」

 名を呼びながら居間の中へ飛び出すと、そこには彼女の危惧していた光景があった。

「ぐぐぐぐぐ……」
「嫌……。嫌よ……。やめて……、あれは違うの」

 そこには、うずくまり、うめき声を上げるシロウとリンの姿が。セイバーは咄嗟に彼らの傍へ駆け寄る。何か出来るわけではなかったが、とにかく状態を理解することが先決だった。

「大丈夫ですか! シロウ!」

 第一優先の男の名を呼ぶ。すると男は、苦しげな顔をこちらに向けた。

「セイバーか……。セイバーには、……いや、そうか。抵抗が」
「リン! どのような被害なのですか!」

 次に、もう一人の少女へ声をかける。この中では一番冷静で、最善の指示が出来るだろうとセイバーは期待した。

「セイバー……。あの、心配はいらないの」
「え?」

 そう言って、遠坂凛は、未だ苦しげな顔をしながらも立ち上がった。セイバーにはまるで状況が掴めない。

「何か、世界を覆うほど大きな魔術が発動したような気がしたのですが」
「それ、合ってるわよ。わたしにもそんな感じの物が発動したような気がする」
「リンに被害はなかったのですか? 苦痛を与えるようなものだったと見受けられましたが……」
「……」
「リン? どのような魔術だったのです? 心配が要らないというのは?」

 遠坂凛は答えない。無言のまま、やはり苦々しげな顔だ。付き合いのある彼女なので、表情から大体のことは察せる。セイバーが読むには、その顔は何かを後悔しているような、手に拳銃があるなら、今すぐにでも頭蓋に向けてトリガーを引きたい、というようなことを考えている印象を受けた。……馬鹿な。

「……リンが原因だったんですか?」
「なんでよ。そんなわけ……」
「リン。状況を説明してもらわなければ困ります」
「状況を、説明……」
「はい」

 そこで、またもや黙ってしまう。これは、いよいよ怪しくなってきた、とセイバーは思った。

「セイバー。おれが、説明する」
「衛宮くん」
「大丈夫だ」

 セイバーからすれば、良く分からない二人のやり取りだった。説明するだけのことが憚れるのか? なぜ? 緊急性のないことは理解した。けれど、やはりおかしい。まさか、精神的な不調をきたす種類のものだったのか?

「お願いします」
「うん。……えーと、ああ、けど、どう話したら良いのか……」
「……では、私から質問します。なぜ蹲っていたのですか?」
「あれは、いや……、それこそ説明に困る」
「説明してもらわなければ私が困ります」

 悩むような素振りを見せ、しばらくしてから主は言った。

「過去の、過ちを思い出していたんだ」
「あやまち? 失敗談ですか? 後遺症は?」
「いや、ないよ。健康だ。セイバーが心配するようなことは、何もない」
「そうですか」

 そこで、やっとセイバーは胸をなで下ろす事ができた。

「まったく、世話の焼ける。昔の失敗がなんですか。それこそ、私には枚挙の暇がないほどの失敗がある。しかし、妙ですね。どういった意図があるんでしょうか? ……リン?」

 目を離していたら、いつの間にか再び俯いている。

「リン?」
「衛宮くん。どうしよう……。これから、わたしたち」
「ああ……。一度、皆が集まって考えるべきじゃないか」
「うん。そうよね。でも、わたし、続けて行く自信、ない……」
「それはおれも同じだ。とにかく、何もかも見直していかないと」
「……シロウ? リン? 本当に、あの、大丈夫なんですか?」

 暗い雰囲気の二人。後遺症がない、というのは嘘のようにしか見えなかった。

「……リンの口からも説明を要求します」
「ええっ!?」
「あなたたちの過去の過ち、というのは何ですか?」
「ちょ、直球な質問ね」
「教えて頂きたい」
「えと、その、うん。あれよ、あれ」
「リン」
「……うー」
「セイバー、よすんだ」
「シロウまで! どうしたのです、いったい! 言ってもらわなければ分かりません! リン! どういった魔術だったのですか!? 詳細を言ってください!」

 二人して、結託して、自分を退け者にしているのか? とまで邪推してしまう。

「は、恥ずかしくなったのよ!」

 そこまで詰め寄って、とうとう観念したのか、リンは顔を赤くしながら口を開いた。

「恥ずかしい? もしかしてプライベートなことですか?」
「ちょっと、違う……。普段の行い、というか、わたしの存在価値が全体的に……」
「私の目からは、今のリンは非常にネガティブに見えます。先ほどの世界規模の魔術は、良くない影響だったと思うのですが。早急に解呪しませんか?」
「と、とんでもない! どこの誰だかしらないけど、これをやった人には感謝したいぐらいよ!」
「……洗脳されている可能性があります。シロウ、ルールブレイカーの投影を」
「やめろ! 聞きたくない!」

 主に話を向けると、何故か叫び声を上げて、頭を抱え込んでしまった。

「ルールブレイカーの投影を……」
「ぎゃーーーー!!!」
「投え……」
「聞きたくない聞きたくないでござる!」
「……」

 重症だ。緊急事態だ。非常に悪質な洗脳を受けている。セイバーは再び警戒レベルを引き上げた。

「ふざけているのではないですよね」
「ふざけてなんかいないわよ! 士郎の反応も当然よ! 可哀想に!」

 洗脳されているのだから、当然、肯定的に言うだろう。

「リン。これから、私は貴方たちを直す手立てを探しに街へ行きます。どうか、それまで家にじっとしていてください」
「え? セイバー。違うのよ。これは」

 セイバーは腕を掴まれた。思いのほか強い力だった。突き飛ばしても良かったが、周囲にテーブルやドアなど、角の立つものが多すぎた。怪我をさせるのは、洗脳されているとはいえ本意ではない。

「リン。離してください」
「ダメよ。あのね、わたしたちは別に、操られているとかじゃないから」
「今のリンは信用できません」
「……分かった。もう、全部話すから」

 その嘆願を受けて、セイバーはもう一度話を聞くことにした。とんちんかんな事を言い出したら、次は武力行使も辞さない、と警告をして。

「まず、わたしは、セイバーからするとどう見える?」

 三人はテーブルに対面して座っていた。セイバーからは士郎と凛の顔が見える。テーブルの上にはシロウが淹れたお茶が三つ。あるにはあるが、誰も手を付けようとはしなかった。

「今は、少し正気ではないようですが」
「いつものわたしよ。そうじゃなくて、客観的に、どんな人間か言ってくれる?」
「リンは、魔術師です。シロウの魔術の師匠でもある」
「それよ」
「それ、とは?」

 何を指しているのか、分からなくて、セイバーは頭を傾ける。

「マが付く、その、良く分からない職業よ。冷静に考えてみて欲しいんだけど。そんな非社会的な人間が、許されると思う?」
「許されるかどうかは、分かりませんが……。あの、マが付く、というその迂遠な表現はなんですか?」
「言いたくない」
「少し、出かけることにします」

 そう言いながら腰を上げるセイバー。

「待ちなさい、セイバー! 衛宮くん! れい、三つの画に分けられた支配権利を人質に!」
「セイバー! 今、出て行ったらこの三つの画に分けられた支配権利を使う!」

 士郎はそう言って右腕をかざした。

「なっ! 卑劣な!」
「大事な話なのよ。お願いだから……」
「一体全体、どうしたのですか!? 言葉に規制がかけられているようにしか見えません!」
「いえ、不自由はしていないの」
「それなら言ってください。魔術師、と。あと、その、三つの画に分けられた支配権利ですか? 令呪と言い直して欲しい」
「ま、じゅ、つ、し」
「いつものように言ってください」
「まじゅつし」
「シロウ」
「令呪」
「よろしい」

 セイバーは再び着席した。

「今、はっきりと異常が分かったような気がします」
「冷静に考えてみなさいよ? わたしが以前名乗っていた肩書きだけれど、そんな非生産的な生業が成り立つと思う? 第一、恥ずかしいでしょ? そりゃあ、秘匿するわよ! 違う意味で!」
「そのような事が瑣末だと思うほどの願いがあったのではないですか? 根源に至る為だと言っていたではありませんか……」
「根源ってなによ?」
「私に質問されても」
「今さっき、はっきりと分かったの。そんな、あるのかも良く分からない物に人生捧げて良い訳がないって。もっと現実を見なきゃって」
「それは、その通りですが……」
「その通り、なのよ。完膚なきまでに。だから、今日からわたしは単なる学生。良いわね? それ以外の何者でもないの。ここ、肝心よ」
「シロウ。シロウはどうなんです? 魔術師を辞めるのですか?」
「……おれも、そうだ。遠坂と同じ気持ちだ」
「では、正義の味方になるという志は?」
「ぐっ。やめ……。いや、それは、違う形で目指してみようかと思ってる。今すぐには思いつかないけど、人助けの方法なんて他にもあるだろう」
「それは本心からなんですか? 本当に、今までの努力を、捨てるつもりなんですか?」
「……ああ。セイバー。以前のおれが、間違っていたんだよ。平和を望むなら、平和的な手段でそれを求めるべきだったんだ」
「……」

 セイバーは考える。致命的な洗脳は、されている様子ではない。彼らの言葉も筋が通っている。しかし、これほど急な心変わりをされると不安になってしまう。

「そうなると、私は、どうすべきなのでしょう……。もう私は、必要ではなくなってしまったんでしょうか……」
「いや! そんなことはないぞ! うん。そうだ。セイバーだっておれたちと同じになれば良いんだよ」
「同じに?」
「そうね。それも一つの答えか……。セイバー。今も影響から抵抗しているんでしょう? それを辞めれば良いのよ」
「え? しかし、それでは……」
「セイバー。一度だけでも試してくれないか? そうすれば、おれたちの言わんとすることが全部分かると思う」

 セイバーは悩んだ。ここで屈してしまえば、彼らが本当に正しい事を言っているのかが判断付かなくなるのではないか、と。ここは、しばらく客観的に彼らを監視する自分が必要なのではないか、と。

「いえ、それはできません。いざとなった時に、それでは不都合ですから」
「そうか……」
「うん。それが良いかもしれない。わたしも、今のわたしの考えに賛成しているけど、これをやった人間が何を考えているのかは分からないものね。抑止力は必要よ」

 リンが冷静な事を言う。無闇に勧誘するほど呆けてはいないようだ。

 そこで全員が、すっかり冷めてしまったお茶を申し合わせたように手に取って啜った。

 一先ず議論は収束を得た。そんな証だったのかもしれない。

 セイバーは、今日からの彼らの動向を注意深く見守ることにした。それ如何では自分が成すべき行動があるだろう。そう誓いながら、彼女はシロウにお茶菓子を要求していた。





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